「風が気持ちいいね」
「そうだな」
答えたものの、相手の声はほとんど眠っている。とろとろと眠りかけているのだろう。
と、くるりと振り向いた。対面する。オーフェンの裸の胸に手を置いて、クリーオウは少し笑った。
キエサルヒマにいた頃と変わらない笑いかただった。彼女はいかにも幸せそうに笑っている。

自分から孤児なんて名付けたくせに。
ふと思い付いて自嘲気味に口の端を歪めた。
孤独だった自分に、最初にクリーオウが、娘ができて…

またクリーオウが眠たげに呟いた。
「もう一人子供ができたら嬉しい?」
喉が熱くなる。
叫び出したい。なにを。
わからないが、言うべき単語はいくらでもあるのだろう。
震えを最大限の自制心でこらえて、呟いた。
「嬉しいよ
「うん」
やはりクリーオウは眠りに落ちる寸前で、目をうっすら閉じたまま笑った。

魔王は寝息をたてはじめた妻の真っ白い肩口に唇を寄せて、口づける。
そして足元にまるまっていたタオルケットを互いの上にうまくかかるよう直し、
自らも目を閉じた。


終り