いい返事が思い付かず、ただ惚けて困った表情で男を見返す。
男は「さっきより可愛い顔してる」と笑い、胸に引き寄せた。
指先は冷たいのに、押し付けられた胸はとても温かかった。

「良い匂いがする…」と、男の胸に顔を埋めて呟いた。
「ここのバスルーム凄かったよ、さすがVIPルーム」と笑って話す。
男の首元からは、清潔な香りがする。
首筋をなぞる指先の感触で、爪も短く滑らかに整えてあるのにも気付いた。

低く柔らかい声が、耳に。胸の鼓動が、脳に。心地良く響く。
よくわかんないけど、この人、全然嫌な感じしない。なんか、いい。
仕事中に個人的な感情を抱くのは初めてだった。
いつの間にか、小雪はすっかり気を緩めていた。

「ね、ここ座って。後ろ向きに…そう」
促されて、ソファに座り直した男の膝の間に立ち、素直にくるりと背を向けストンと座る。
すると背後から腕が伸びて、ボルドーのニットワンピースの胸元に覗く白い肌を撫で回す。
それから喉元をすぅっと撫で上げられ、小雪は思わず瞼を閉じ、頭を仰け反らせた。
手はそのまま顎へ、滑らかに動く。
後ろから抱きすくめられ、小雪は男の身体に背を預けた。

「小雪ちゃんも良い匂い…肌も綺麗で触り心地良いし…」
耳の後ろの髪に鼻を埋めて、唇を指でなぞりながら男は呟いた。
ガーターストッキングがずり上がったワンピースの裾から覗いていた。
出勤前の入浴の際、念入りにお手入れした小雪の肌は、白くしっとりとしている。
「あ、これ、ここまでなんだ?やらしいなぁ…太腿の触り心地も…」
と言いながら、もう片方の手で太腿を大きくさすり、撫で回す。
「ぁあ…やらしいのは…そっち。焦らし上手…ん…っ」
小雪は唇を開き、なぞる指先に少し歯を立て、小さく喘ぐように洩らした。

密着した背中から、服越しにも男の体温が伝わってくる。
まだ何もされていないのに、小雪はすでに疼きを感じていた。
シャワーや仕事なんて、もはやどうでも良かった。
この人に、もっと、触られたい…そう思っている自分に気付いてしまっていた。