【俺の】結婚&新婚萌えスレッド第5夜【嫁!】
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0001名無しさん@ピンキー2010/10/27(水) 20:39:32ID:j60ZHXJJ
「あなたの色に染めてください」という意味が秘められた
純白のドレス・・・そんな姿の花嫁さんたちにハァハァするスレです。
愛し合う2人の世界を描くもよし、
式場で花嫁を奪い去る黄金パターンを想像したり、
逆に花嫁を奪われるといった流行りの寝取られ展開を入れてもよし、
政略結婚で好きでもない男に嫁がされる薄幸の美少女に興奮するもよし、

とにかく花嫁が出ていれば何でもOKです!
もちろん2次元キャラ同士のカップリング&新婚生活なんかも大歓迎!!

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【俺の】結婚&新婚萌えスレッド【嫁!】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1149503791/

保管庫
2chエロパロ板SS保管庫
http://red.ribbon.to/~eroparo/
「オリジナル・シチュエーションの部屋その7」に収蔵されています。
04794342013/12/15(日) 23:08:46.83ID:6I6I97Bn
>>478
そうだったのか。きちんと把握していなかったです。すみません
確かに少しでもやらかしたらすごいことになりそうなネタだもんな…
大人しくノータッチにしときます。ありがとうございました!
0480名無しさん@ピンキー2013/12/16(月) 10:49:33.73ID:Hc+r513d
やるとしたら前書きに注意をしっかりして苦手な人のためにNG指定にできるようにしておくといいよ
個人としてはやってもらえるなら読みたいと思うが
04814342013/12/18(水) 22:11:55.37ID:Fuz84osE
>>480
遅ればせながらありがとうございます
それならば、もし書けちゃった場合は注意書きとNG指定を出来るように心がけます
…まぁいずれにせよ過去話が先だがな!
もう少しで出来るので、申し訳ありませんがもう少しだけお待ちください
0482名無しさん@ピンキー2013/12/19(木) 00:25:17.78ID:IcajxfI+
理不尽かもしれないけど、百合はあってもホモが歓迎されないのは
801板が隔離板として古くから存在してることを考えればわかると思う
少なくともガッツリはすすめられない

個人的には百合も苦手なんだけど、板として全体的に許容してる風潮なので
注意書きを参考に読まないことにしてる

あとはホモネタは一つ許すと歯止めがきかなくなることが多いので
板が占拠されることのことのないよう棲み分けが強調されてた面もある
今はどうなんだろうね
0483名無しさん@ピンキー2013/12/19(木) 00:33:38.15ID:IcajxfI+
あと、ごめん
この是非論もデリケートな問題で荒れる原因になりかねない
できるなら、板全体を見て傾向を掴んでほしいと思う
オリシチュ系を少し見て回れば何となくラインがわかるんじゃないかな
0484名無しさん@ピンキー2013/12/19(木) 00:39:09.34ID:GI1eo7+i
そうなんだよね。ホモネタ一つ許すと後から後から腐女子が湧いてきて、結局スレを乗っ取られる
あいつら、凄く排他的で他の住民と共存しようなんて気さらさら無いから、一度乗っ取られたら取り戻すのはほぼ不可能
だからホモネタは嫌われるんだよ
04854342013/12/19(木) 20:03:26.52ID:GmhoGpan
度々すみません。ご意見ありがとうございます
皆様の仰る通り、デリケートな話題を軽々しく扱ってしまったと反省しております
こちら側の知識不足、勉強不足でご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません
このスレを荒らそうという気は毛頭なく、単純に一つのテーマとして思いついただけでしたが、
軽率な発言でした。申し訳ありません

これ以上この話題を続けてスレが荒れるのも、スレの趣旨から話が逸れるのも避けたいので、
こちらから尋ねたのに勝手な話ですが、このネタについてはノータッチにしたいと思います
個人の勝手でお騒がせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした
きちんと調べて傾向を把握した上で出直したいと思っておりますので、その時はよろしくお願い致します

長文失礼しました
0489名無しさん@ピンキー2014/02/02(日) 01:14:49.85ID:7nDDE7Mo
結婚式でみんなに見守られながら公開種付けっていいよね
04904342014/02/02(日) 13:20:17.40ID:YDOppH67
テスト
04914342014/02/02(日) 13:21:52.49ID:YDOppH67
お、いけた

434です。昨日の投下を失敗してしまったので、もう一度投下させて頂きます
長い、エロまで遠い、エロが薄い、本番無しなので、必要に応じて「過去編」をNGでお願いします
0492過去編2014/02/02(日) 13:26:27.79ID:YDOppH67
葵にとって本がどういうものか説明するのが難しいように、私にとって、葵がどういう存在であるのかを説明するのはとても難しい。

……いえ、あの、確かに、旦那さんって言えばそうなんだけど。一言で説明出来ちゃうんだけど。
旦那さんである前に、葵は一人の人間で。私にとっては今も昔も大事な人で。昔は、戸籍上とはいえ兄妹だったわけで。
葵をお兄ちゃんだって思ったことは一度もなくても、戸籍上は。
今でこそ、大好きな旦那さんって胸を張って言えるけど、昔は…というか、数年前までは、
葵がどういう存在かを説明するのは、自分にも他の人にも、とても難しかったのだ。


中学生の頃は、変だけど優しいお兄さん、だった。お兄さんって言うのは近所のお兄さんの方で。

神社の一件があってから、葵は、私のことをとても大事にしてくれた。
何故かは分からないけれど、多分、私が彼に懐いたのと似た理由だと思う。つまり、お互いに色々な意味で慣れた、と。
今と同じように、当時の葵は家事をほとんど受け持ってくれていた。
本当に有り難いことに、いつも、部活から帰ると温かいお風呂と美味しい夕ご飯が準備されていた。
実は、新婚さんにありがちな「ご飯にする? お風呂にする? それとも…」というやり取りを、私たちは毎回繰り返していたりする。
「それとも…」は無しで。

お父さんとお母さんは、葵曰く家にいることが増えたらしいけど、それでもやっぱり帰ってくるのが遅かった。
だから、ご飯は大体二人きり。その日あったことを話しながらのご飯を終えたら、葵がお風呂に入ってる間に私はストレッチ。
お父さんとお母さんが帰ってくるのは、二人で勉強をしている時が多かった。
…あの頃の葵は、私専属の家庭教師だったなぁと今でも思う。
わりと厳しい部活に所属していた私が、テストや受験でもあまり焦らなくて済んだのは、どう考えても葵のおかげだった。本当に。

この生活は、高校に入ってからもあまり変わっていない。

私は葵と同じ高校に進学した。
真似をしたんじゃなくて、当時、陸上部が盛んで勉強もできて県立高校で、且つ自宅から通える高校はそこしかなかったから。

高校に入ってからも、葵という優秀な家庭教師に教えを乞うていた私は、そこまで大きな負担もない幸せな高校生活を送ることができた。
勿論、思春期真っ盛り故の悩みはあったし、それがくだらないものだったとか、今に比べれば楽だなんて言うつもりはない。
今も昔も、私は精一杯生きているつもりで、いつの私が良い、なんて言いきれないから。
単純に、もし、お父さんとお母さんが手を差し伸べてくれなかったら、そして葵が受け入れてくれなかったら、
もっと、色々な意味で大変なことがあった、そう思っているだけだ。

ただ、私と葵は、わりと注目を浴びることが多かった。

私自身も含め、周りは皆、多感で不安定な思春期という時期だ。
男の子と同棲なんて(戸籍上家族とはいえ)、友達が、想像力を働かせてしまっても無理はない状況だ、と思う。
しかも、葵はやっぱり、変人だけど滅茶苦茶頭が良い先輩、って有名だったから。
加えて、所属していた部活はこう…忙しくて。男の子とそういう意味で親しくなる人は、ほとんどいなかった。
つまり、遠征先とかで恋愛話が出てきた時に…うん、その、少しだけ…大変だった。質問とか、そういうのが。

私の反応はと言うと、昔から鈍いというか、どんくさいというか…とにかく鈍感だったから、最初のうちはそんなに気にしていなかったんだけれども。
あまりにも沢山言われると、否応にも、ちょびっとだけ、葵とどう接すればいいのか分からなくなって。
それに、正直なところ、そういうことに興味が無いわけではなかったから、その……。

白状しよう。私は一度、葵に迫ったことがある。今となっては思い出したくないくらい恥ずかしい、いわゆる黒歴史というヤツだ。
0493過去編2014/02/02(日) 13:30:26.13ID:YDOppH67
その時、葵は大学受験を終えて、例によって本の世界に入り浸っていた。私は春休み。
部活はほとんど毎日あったけれど、毎日夕方には帰れていたから、時間もあった。
重ねて言うなら、お父さんとお母さんは、出張で帰ってこない。なんというか…そう、計画を実行に移すのにおあつらえむきすぎた。

時刻は夜。いつものように、ご飯を食べて、お風呂を済ませて、私と葵は並んで本を読んでいた。
「……ねぇ、葵」
「…うん?」
緊張で震える声に、一拍間をおいて返事をされる。
集中して本を読んでいる彼に話しかけて、このくらいで反応が返ってくるのは結構凄いことだ。その事実が、私のいらない自信を増長させてしまった。

「あの…えっと。葵って、その…今まで、誰かとお付き合いしたこと…ある、の?」
「いや、一度もない」
「ええと…じゃあその…き、きしゅとか、したことあるっ?」
「恋人でもない相手とは、僕個人としては、したくないな」
緊張と焦りとで思いっきり噛んだ私を追いつめることはせず、柔らかい声が返ってきた。
少しまどろっこしい言葉を使うのは葵の昔からの癖で、私はそれが好きだったけれども、この時ばかりは妙に焦れてしまったことを覚えている。
とにかく、本題はここからだ。理由の分からない安堵感に励まされた私は、
「じゃ、じゃあ…し…してみない…?」
「……茜?」
本を読んでいる彼が、思わずこちらを見てしまうほど突飛なことを言ってしまった。

一つだけ断っておくと、この時の私に葵が好きだという自覚は無い。無いけれど、私は、間違いなくこの時既に葵のことが好きだった。
当時は、好奇心と緊張と理由の分からない期待で一杯一杯になってしまっていたから、分からなかったけれど。
キスとか、それ以上のことをしたいと思ったのは、葵だけだった。それは今も変わっていない。きっとこれからも変わらない。
ただ、重ねて言うけれど、当時の私に葵が好きだという自覚は無い。私は、とんでもなく、本当に、救いようがないくらい、鈍感だったのだ。

「……してみるって言うのは、キスのことか?」
言ってしまったという緊張と、恥ずかしい子だと思われたらどうしようという不安とで固まってしまった私に、葵はあくまでも優しい声で確認をしてきた。
私は何度も頷くしかできなかった。耳どころか体中が熱かった。
「…僕には、キスだけで止まれる自信が無い。それは、分かってる?」
一瞬言っていることの意味を捉え損ねて、次いで、顔が爆発するかと思うくらい熱くなった。
とても混乱した私は、物事を冷静に考える思考力を完全に失っていて、阿呆みたいに首を上下させた。
葵の目つきが少しだけ鋭くなる。初めて見る表情に、訳もなく泣きそうになってしまった。

「……目、閉じて」
この時の心情を、上手に表す言葉が見つからない。
緊張と、不安と、期待と、喜びと、羞恥とがぐちゃぐちゃになって、とにかく、私の心はぐちゃぐちゃだった。
ぎゅうっと目をつぶると、頬に手が添えられた。大事なものに触れるかのように、優しく、優しく撫でられて、胸の辺りがきゅうっと締めつけられた。

頭が真っ白になっていても、葵が近付くのは気配で分かった。緊張のあまり強く握りしめた両手に、彼の左手が乗せられる。
一瞬だけ迷ったような気配がして、

「……え……?」

柔らかい感触がしたのは、額だった。

それを認識して目を開けた時には、葵はもう、困ったような笑みを浮かべていた。どうして、と尋ねる前に、頬を撫でていた掌が頭を撫でる。
「…やっぱり、さ。こういうことは、好きで好きでしょうがない人としたほうが、いいと思うんだ」
だから、これで終わりな。
そう言って、葵は本を片手に部屋に戻っていってしまった。残された私はというと。
「………………」
何だかとてもホッとしたのに、同時に凄く寂しくなってしまって、暫くの間座り込んでいた。
初めて見た葵の表情や、優しく口付けられた感触が頭の中をぐるぐる回っていて。
色々と考えて妙に張り切って準備していたのが、馬鹿らしくなって。
でも、それ以上に、私のことを大事にしてくれているのが伝わってきて。
「……寝よう……」
色々と限界だった思考は、考えることを放棄した。

「……え? ……あ、あれ?」
たったあれだけで腰が抜けてしまっていて、結局、動けるようになるまで眠れなかったのだけれども。
0494過去編2014/02/02(日) 13:33:32.15ID:YDOppH67
こんなことがあっても、私と葵の関係をどう言えばいいのかは、本当に分からなかった。

葵が私を大事にしてくれているのは分かる。でもそれは、多分、家族愛みたいなもので。
私の方は、大学辺りでようやく(しかも人に指摘されて)好きなのだと分かったけれど、
葵との距離があまりにも近すぎて、なにをどう言えばいいのか、どう伝えればこの感情が伝わるのか、全然分からなくて。
葵が翻訳家という夢を決めてからも、私はただその背中を見つめていることしかできなくて。
私はどうすればいいのか。何をしたいのか。どうすれば、葵の力になれるのか。
そんなことばかり、ただ、ぐるぐると考えているだけだった。


思考の渦からいつ抜け出せたのか、どう抜け出せたのかは、未だによく分かっていない。
だけど、きっかけは、あった…と思う。

葵は、大学を卒業してから近くに家を借りていた。
なんでも、編集者さんとの打ち合わせは東京ですることが多いから、駅の近くに住んでいたほうが都合が良い、らしい。
それ以外にも理由はあったんだろうけど、葵は何も言わなくて、私もお父さんお母さんも何も聞かなかった。

とにかく、駅から歩いて五分程にあるアパートの1DKが葵のお城になったのだ。沢山の本と、必要最低限の家具以外は何もない、葵らしい部屋。
私はそこがとても好きで、暇さえあれば押しかけて、葵が無視しがちな食事を作ったり、家事をしたり、
挙句寝袋と着替えを置いておいて泊まったりもしていた。今思い返してみると、葵の理性の限界を更新させていたのは間違いなく私だと思う。

その日は、私が初任給をもらった日で。次の日に、おじいちゃん達とお昼ご飯をする約束をしていて。
でも、私は、例によって葵の部屋に転がり込んでいた。お父さんとお母さんに連絡をして、資料とにらめっこしている葵の隣でご飯作り。
当時の葵は、講師として働いていた塾をやめて、本格的に翻訳一本に集中するところだったから、大分無茶苦茶な食生活を送っていた。
会うたびにげっそりしていく葵が見ていられなくて、仕事帰りに買い物袋を引っ提げたまま突撃したのだ。

もう少しでご飯ができる時に葵の溜め息が聞こえてきた。私が何も言わないうちに机の上を空けてくれる。
「ご飯、もう少しでできるからね」
「ありがとう。今日の飯なに?」
「キャベツとカブと豚肉の炒め物、お揚げと豆腐とジャガイモのおみそ汁、ご飯と納豆です」
「素晴らしい」
腹減ったぁと苦笑しながら食器を並べていく葵は小さい子どもみたいで、心がほっこりと暖かくなった。
こういう何でもない会話でも、葵とだと普段以上に幸せを感じられて、私は馬鹿だなぁと内心笑みがこぼれる。

「はい、完成」
「よしきた」
ご飯を並べて手を合わせる。いつも通り、幸せな時間。その日あったことを話すのが、中学時代から変わらない習慣だ。
けれど、何故だかその日は仕事のことを話す気にならなくて。私は、今までしたことがない質問をぶつけてみた。
0495過去編2014/02/02(日) 13:38:32.23ID:YDOppH67
「…葵ってさ」
「うん?」
「なんで翻訳家になりたいと思ったの?」
がっつくあまりほっぺについていた米粒を取りつつ尋ねると、葵は不思議そうな表情になる。
「…言ったことなかったっけ?」
「ありません」
「言った気になってたよ。僕は、橋になれたらいいと思ってさ」
「ごめん、流石に抽象的すぎて分からないな」
頭の中のイメージをそのまま話すからこうなる。思わず苦笑すると、葵は恥ずかしそうに頬をかいた。

「だな。えーと…ちょいと長くなるけど」
「聞かせて?」
「ん。…翻訳家を目指す理由は、人それぞれだと思うんだ。だから、あくまで僕個人は…ってことで聞いてほしいんだけど」
「うん」
「初めて、外国の小説を原文のまま読んだとき、驚いたんだ。こんなにすごい本がある、世界には、数え切れないくらい沢山の物語があるって。
 でも、同時に、その本の日本語訳がないってことに、驚いた。こんなに面白い話なのに、って」

葵の目は、きらきらと輝いていた。本や物語の話を聞かせてくれる時に、見せる目だ。
小さい子どもが、宝物について、一生懸命話しているような、すごくきれいな目。
「もちろん、翻訳が無くっても原文を読めばいい。でも…原文が読めなかったら、どんなに面白い話でも意味が分からない。
 それはもったいないって思ったんだ。本の内容は、好みによって好き嫌いがある。それは当然だ。
 だけど、言葉が分からない、ただそれだけのことで面白い物語が読めないなんて、すごくもったいない」
だから、と葵は頬を緩める。

「一冊でも多くの素晴らしい物語を、それを読みたいと思っている人に届けられたら、素敵なことだと思って。
 …橋っていったのは、それなんだ。翻訳は、物語と人をつなぐ橋になり得る。
 その橋のレンガ一つにでもなれたら、こんなに嬉しいことはないと思った。僕の一生を掛けてもいいと思った。
 だから、翻訳家になりたいと思ったんだ」
朗々とした声を聞いていると、私の頬も自然と綻んでいた。少し気恥ずかしげにお味噌汁に口を付ける葵が、とても眩しく感じた。
もしかしたら、私は嫉妬するべきなのかもしれない。大好きな人が、これ以上ないほど幸せそうに、他のことに夢中になっているのだから。
けれど、不思議なことに、嫉妬心はこれっぽっちも湧いてこなかった。それどころか、なんだか凄く嬉しかった。
葵の意思を、少しも迷わずに、私に見せてくれたことが。

その後は、ひたすらほんわかした雰囲気が私たちを包んだ。
後片付けはやるという言葉に甘えて、私はお風呂に入っていた。湯船の中で、葵が言ったことを考える。
きらきらしたきれいな目で、人と物語をつなぐ橋になりたいと、そのためになら一生を掛けてもいいと言いきった、葵のことを思い出す。

ぼんやりしながら、私は何かを考え続けた。
ずーっと心の内にあるこの塊が、もう少しでどうにかできるような気がした。それは、後もう少しで、掴めるような気がした。

ぼんやりとしたままお風呂を出る。髪を乾かしてリビングに行くと、葵は椅子に座ったまま本を読んでいた。
何となく近付き辛くてぼうっとしたまま見つめていると、私に気付いたのか、顔が上がった。


葵は、帰る場所を見つけた子どものような柔らかい目で私を見て、優しい響きの声で私の名を呼んだ。
それだけで、十分だった。心の中の塊が、体の隅々まで溶けていく気がした。私のやりたいこと。私の、一生を掛けてもいいと、思えること。


「――あおい」
「ん、どうした?」
「私たち、結婚しない?」
0496過去編2014/02/02(日) 13:42:27.93ID:YDOppH67
ばさりと大きな音がしたと思ったら、両手がきつく握りしめられていた。
驚いて目を瞬く私を、怖いくらい真剣な葵が見つめる。
「……茜」
「は、はい」
「本気か?」
「う、うん…あのっ、私、役に立てると、思うんだ。お給料も頂けたし、自分のことは自分でするし、葵に迷惑かけな」
「そんなことはどうでもいいんだ。そうじゃなくて…僕は…本の世界から、離れられない。茜を、一番には、できない。それでも、いいのか?」
「えと、ほら、同率一位も、あるから」

我ながらトンチンカンなことを言ったと思う。
なのに、葵は痛いくらいにまっすぐな目を向けてきた。
「その気になれば、茜だけを一番にしてくれる人は、沢山、」
「あおく、葵…その、ね。わたしは…葵のことが、好きで好きで、しょうがないの」

だから、と続けることはできなかった。口が塞がれていたから。
突然のことで驚いた私に、あの時と同じ、鋭い光が向けられていた。
深い黒に、私だけが映っていることが嬉しくて、でも少し恥ずかしくて、私は目を閉じて葵に縋りついた。

どのくらいそうしていたのか、実はあまり覚えていない。
最初は触れ合うだけだったのに、葵にもっと深いものを教えられて、私はお互いの熱を交換することに夢中になっていた。
しんとした部屋の中に水音が響いて恥ずかしかったけれど、それが意識に上るよりも速く葵の熱に流された。

「ふぁっ…は…ぁぅ…」
「あかね、かわいい」
「ひぁっ…」
私は完全に腰が抜けていた。興奮でかすれた声で囁かれただけで背中がぞくぞくするくらい、くたくたにされてしまった。
「茜、ごめん、ぜんっぜん我慢できない」
「っ……」
臆面なく言われて頬が熱くなったけど、我慢できないのはこちらも同じだ。少し背伸びして口付けると、葵は嬉しそうに笑って私を抱きあげた。
……ずっと運動部に所属していたのだから軽い筈はないんだけどとか、その細腕のどこにそんな力がとかの疑問よりも、嬉しさが勝ったのは言うまでもない。

「て、あおいっ、本落ちてる!」
「えっ、…あ、ほんとだ。ついうっかり」
ついうっかりって、あなたが本を落とした上に放置するなんて姿、初めて見るんですけど。
「それだけ衝撃が大きかったんだよ。…あー、でも、女の子に言わせちゃったなぁ…」
「心を読まないでね。それに、こういうプロポーズがあってもいいと思うんだ。世界は広いんだから」
「そうかもな」
楽しそうに笑って、危なげなく私をベッドの上に寝かせた葵は、それはそれは嬉しそうに覆い被さってきた。
なんというか、その、こんな姿は想像すらできなかったから、結構新鮮。

「あ、そうだ。僕こういうことするの初めてだから、何かあったらすぐ言ってくれな?」
「え、あ、うん」
「後できれば、どうすれば気持ちいいのかも教えてほし」
「無理だよっ!?」
「じゃあ探しますか」
そう言って、再び口付けてくる葵。
ムードも何もないって言うのに、触れ合っている箇所から伝わってくる熱だけで、私の体は完全に脱力してしまう。
ていうか、正直なところ、キスされてるだけなのにあり得ないくらい気持ち良くて、どうすればいいのか分かんないんですけど葵さん。
0497過去編2014/02/02(日) 13:46:39.63ID:YDOppH67
上顎をくすぐられたり、舌を吸われたりするだけで、背中をぼんやりとした快感が走る。
その感覚がもどかしくて身をよじると、頬を優しく撫でられた。
葵に触れられている、そう思うだけで、お腹の奥がきゅうと疼いた。……ちょっと、簡単に感じすぎじゃないかな、私。
「んぅ…ふ…ぁ…」
「…茜…なんか、すごくその、あいやごめんなんでもない」
「……誰が、こうさせてるの?」
「僕です。ありがたいことに」

ちゅ、と口付けられるのと同時に、胸元に手が添えられる。いつの間にか前を肌蹴られていたようだ。
真っ赤になった私に笑顔を返して、葵はこそばゆいほど慎重に力を込める。柔らかい刺激を逃したくて小さく身をよじった。
「あれ、痛い?」
「…たく…なぃ、けどっ…」
「そうか。えーと…こういうのは?」
「ひゃんっ!?」
いきなり胸の先を押し込まれて思わず声を漏らしてしまう。自分の意志ではなく、しかも甘い響きの声が出て、思わず真っ赤になってしまった。
半ば非難も込めて葵を睨むと、意外なことに彼の顔もリンゴのようで。
「……ごめん。あの、その…こんなすぐに出るものとは思わな違うごめんなんでもないっ!」
「……大分手遅れだと思う、よ?」
「……申し訳ありません」
なんともくすぐったくて思わず笑みを零すと、葵も一瞬だけ困ったように笑って、すぐにぎゅうっと抱きしめられた。力強い腕の中がとても心地良い。
「うーん…カッコよくリードできれば、よかったんだけど」
「初めて、なんでしょ? しょうがないよ」
「でも、こう…年上の威厳が…」
「そんなの無くても葵はかっこいいってば」
「……はい」
それに、こうして一緒になって駄目駄目なのは、凄く嬉しい。
葵としては、余裕たっぷりでいたいのかもしれないけれど、私としては、情けない姿を見せてくれるのも嬉しいのだ。
だって、こんな葵、滅多に見れないんだから。

「…そういや、ちゃんと言ってなかった」
「え、なにを?」
「心から愛してるよ、茜」
……情けない姿を見せた直後にこういうこと言うとか、ずるいと思うのですが葵さん。
「へ、そうかな」
「だから心を読まないでってば!」
言葉こそ怒った風を装っているけれど、私の心はそれこそ天にも昇る心地だった。ちょっと、嬉しすぎて、なんて言えばいいのか分からない。
うぅ、と唸る私に口付けて、葵はにっこり笑顔を見せる。本当に、ずるい。そんなに嬉しそうな笑顔を見せられたら、もう、なにをされても許してしまう。

そんな内心が伝わったのかは分からないけれど、葵は額、鼻筋、唇と口付けて、そのまま首を舐めてきた。
ぞくりと背筋が震えて、再び艶の濃さがましてくる。勝手に震える身体も押さえられて、段々なにを考えているのかも分からなくなってきた、その時。
「んっ…」
鎖骨を強く吸われて、ぼんやりとしていた意識が少しだけ明確になる。満足そうな目で私を見上げた葵は、今度は胸元に唇を寄せた。
「ひゃぁっ…」
ぬるりとした感覚の直後にまたしても強い刺激。
視線を落とすと心臓の上辺りに赤い痕が残されていた。そう認識した途端、身体がかぁっと熱くなる。羞恥ではなく、喜びで。

「茜が僕のお嫁さんって、印な」
「っ……!」
思ったのと同じことを言われて、上手な返事を思いつけなかった。どうにか頷くと、葵は一層笑みを深くする。
そのまま左胸に口付けられ、乳首を口にふくまれる。
「っ、あぁっ!?」
またしても自分のものとは思えない声が零れて、慌てて両手で口を抑えた。そうしている間にも、葵は優しい動きで私の胸を愛撫している。
乳首をつぶされたり、こねまわされたり、乳房全体を甘がみされたりして、声を抑えるのが本当に大変だ。
そんな努力を知ってか知らずか、びんと張っている反対側の胸も手で愛撫されて、いよいよ声を抑えるのが辛くなってきた。
刺激を逃そうにも、葵にしっかりと押さえられているから、もどかしさが溜まって逆効果だった。
0498過去編2014/02/02(日) 13:49:44.99ID:YDOppH67
「んっ…ふ、ぅっ…んぅ…!」
「…茜、この部屋って、前住んでた人がピアニストとかで、防音加工されてるんだ」
「っふ…んん…!」
「後、演技で声を出されるのは困るけど、自然に出ちゃうとかなら大歓迎なんだ」
なにが言いたいの、と聞くよりも早く、両乳首を優しくつままれる。
「やっ、ぁんっ!」
「つまり…声、無理して我慢しなくても、平気だぞ」
軽い絶頂で身を震わせた私に、そんな言葉が投げかけられた。
色んな意味で衝撃を受けていた私は、とっさの判断ができなくて、
「ぁ、やっ…あおい…そこ、やぁ…」
「……ごめんな。どう考えても嫌とは思えない」
ぐしゃぐしゃに濡れている秘部にあっさり到達されてしまう。

ごめんとか言ってるのに嬉しそうに微笑んで、葵は私の羞恥心を増幅させるようなことを。
「脱がせたいから、腰浮かせてくれるか?」
「…っ…一々、断らなくても、いいから…!」
「そう? あ、あともうちょい足を開いてくれると助かる」
「あおいぃっ…!」
今この体勢だってすっごく恥ずかしいんだよ!? と睨んでみても、葵は素知らぬ顔で指先を動かしただけだった。
それが丁度一番敏感な所を撫でて、私は再三あられもない悲鳴を上げてしまう。
羞恥心と、指先が当たっている箇所からじわじわ広がってくる快感と、この先への期待と、悦びで、おかしくなってしまいそうだった。
「…な、茜」
「……ぅ」
「僕も、結構、理性が危ないから。協力してくれ。頼むよ」
言葉こそ穏やかだけれども、確かに、葵の目は興奮でぎらぎらしていた。
その目を見てしまうと、羞恥心とかそういうのよりも悦びや期待が勝って、私は大人しくせざるをえなかった。
熱くなる身体は無視をして、腰を上げ、葵がやりやすいように足を開く。恥ずかしすぎて自然と滲んできた涙は優しく拭われた。

目を細めた葵は、逃げられない獲物を前にした肉食獣のようだった。
ああでも葵になら食べられても嬉しいかな、なんてことを思うのと、彼の指が私の中に入るのはほとんど同時で。
「ひっ…ぁ……――っ!」
「……すごいあつい」
「ぅ、ぁ…ふぁ…」
「それに、せまいな。…大丈夫なのかな。壊れたりしないのか…?」
多分思ったことをそのまま口にしている葵に返事をする余裕はなかった。
痛みはほとんどない。けれど、体の中に何かが入って来るという体験は、とても、不思議な感覚を私に与えた。
半端じゃない異物感を感じるのに、それが葵の指だと思うだけで、どうしようもなく嬉しくなってしまう。
一歩間違えれば気持ち悪さに直結しそうな刺激も、葵が私の全部を確認しているのだと実感できて、これまた嬉しくなってしまう。

「あかね、大丈夫か?」
「ぃ…ぁあ…あおくん…」
「……うん」
「あぁあっ!? やっ…そこは、だめぇっ」
反対の手で陰核をつままれて身体が跳ねた。中の感覚が上書きされるような刺激に腰が震える。
「ここ、気持ちいいんだな」
「やっ、あぅ、ひゃ…ぁんっ」
「……皮? ええと…」
「ひゃうっ!? やっ、あおくっ、それやだぁっ!」
「…すごい締まった…」
葵は何やら感動しているけれど、より敏感な所を露にされたこちらはたまったものじゃない。
身をよじって強すぎる刺激から逃れようとしてみても、上手に圧力を掛けられて逃れられない。
「やぁぁあっ! も、やぁあ…あおくんっ…もぅ、ぅ、ぁぁああっ!?」
「……あかね、すごいかわいい」
「ひゃんっ…や、ぁ…も、だめ…あおく、だ…ぁ、はぅ…ゃ、――っ!」

瞬間、頭の中が真っ白になった。初めて感じる深い深い絶頂に、私は、葵にしがみつくことしかできなかった。
強く強く抱きしめて、この、訳の分からない感覚の中に放り出さないでほしかった。
0499過去編2014/02/02(日) 13:52:19.81ID:YDOppH67
「…かね…あかね?」
「……ぅ……?」
「茜、大丈夫か? 僕のこと、分かるか?」
「……ぁおくん……?」
ぼんやりした意識のまま返事をすると、葵は目に見えてホッとした。
その表情が、三年前、初めて肌を合わせた時の顔と重なって、なんとなく頬が綻んでしまう。
回数を重ねても、どんなに慣れても、私のことを心配してくれるのは変わらない。それが、なんだかすごく嬉しい。

「ごめんな、ちょっと無茶させちゃったか」
言いながら身を引く葵。当然、一緒に私の中を埋めているものも離れそうになる。だけど。
「……あの、茜さん? そんなにぎゅってされると離れらんないんですけど」
「…もうちょっと、このままがいいな…」
「いやあの、抜かずの五発目は流石の僕もキツイかなと。せめて休憩を」
「……もうちょっとだけでいいから」
「……はい」
諦めたような笑顔で抱きしめられたまま寝転がる。
身体は、それはもう、私だって疲れているんだけれども。昔のことを思い出したからか、このまま離れるのは嫌だった。

「……やっぱりね、葵」
「うん?」
「初めてなのに、一言目が"ゴムつけてて良かった"は、どうかと思う…」
「……ず、随分とまた昔の話を……!」
「うん、そういえばちゃんと言ってなかったなぁって思って」
あの時は、圧迫感だの幸福感だのお腹の奥で感じる不思議な感覚だの、自分のことで精一杯だったから。

思い出したことこれ幸いとばかりに見上げると、葵はそれはもう恥ずかしそうな申し訳なさそうな顔で、私をぎゅうと抱きしめる。
「いや、あの…仰る通りなんだけどさ。二言だけ弁解してもいいですか」
「どうぞー?」
「あんな可愛い顔で見上げられてた上に、物凄く気持ちよかったんだぞ。ゴムで感覚が鈍くなってなかったら入れた瞬間限界だった!」
「…力説されても…」
「…そうだよな…」
悪かった、と額の上に口付けを一つ。怒ってるわけじゃないんだけどなぁと思いつつ、嬉しいからお返しのキス。
ちゅうちゅうと吸いあって、そういえば、と葵が少しだけ表情を引き締める。
0500過去編2014/02/02(日) 13:54:46.51ID:YDOppH67
「…どうしたの?」
「あのさ、今度…できたら近いうちに、結婚式挙げないか?」
「……え」
けっこんしき、と口の中で呟いて、その単語の意味を頭の中に浮かべた瞬間、顔どころか体中が熱くなった。

「えっ、でも…ええっ?」
「その…ずっと考えてたんだけど、やっぱり、今からでも式は挙げたいなと思って」
「で、でも…お金は?」
折角の申し出にこんなことを返すのは悲しいけれど、これは大事なことだ。
だって、籍を入れるだけにしたのだって、葵の部屋でそのまま暮らしているのだって、生活が落ち着くまではとにかく貯金! って結論に至ったからで。

私の質問に、葵は穏やかな笑顔を浮かべる。
「お小遣いから貯金しました。まぁ、本当に身内だけになっちゃうけど…父さんに母さん、両方のじーちゃんばーちゃんくらいなら、大丈夫なくらいはな」
「ええ…い、いつの間に…?」
「うーん…いや、ほら…子どもはまだ無理だけど、せめて結婚式はなぁ、と思って。可愛い娘、孫娘のハレの姿、見たいだろうし。
 それに、女の子にとっちゃ、結婚式って特別なものだろ? …あと、まぁ、その…」

一度言葉を切った葵は、それはもう恥ずかしそうに笑って、
「……何よりも、僕が、茜の花嫁姿、見たいから、さ」
だから、ちょっと頑張ってみよっかなーと、なんて。少しおどけたように、私の頭を撫でた。

……もう、ほんとに、本当に、葵はずるいと思う。
別に、結婚式なんて、普通に諦められたのに。葵の傍にいられるなら、結婚式なんて、挙げなくても良かったのに。
周りの人は皆祝福してくれて。大好きな人が、大好きだよーって言ってくれて。それだけで、私はもう、十分すぎるほど、幸せなのに。


――本当はね。少し…ほんとにちょびっとだけ、残念だったんだ。きれいな花嫁さん、憧れてたから。


心の奥に隠した言葉。誰にも言わなかった。態度にも出さなかった。それなのに、こんな。

「……ええと、茜。あの…僕の、世界でひとりだけの花嫁さんに、なってくれませんか?」

こんなに優しい笑顔で、こんなに嬉しいことを、言ってくれるなんて。
ずるい、と思う。優しすぎて、ひどいと思う。こんなこと言われたら、私は――

「――はいっ!」

とびっきりの笑顔で頷くしか、できないんだから。
05014342014/02/02(日) 13:56:42.37ID:YDOppH67
ここまで!

以上、過去編でした。
もしお待ち頂いた方がおられましたら、本当に申し訳ありません。お待たせしました。
相変わらず拙いですが、暇つぶしにでもなれば幸いです。
0502名無しさん@ピンキー2014/02/03(月) 00:20:36.33ID:68DCIj94
おもしろかったよ。
暖かい文章が内容にあってていいと思う。
0504名無しさん@ピンキー2014/02/04(火) 00:01:26.31ID:cvRcheUl
裸エプロンの新妻をバックからズコズコ
05064342014/02/09(日) 10:35:49.18ID:AJiGjOQJ
昨日の雪が凄かったので投下

いつもの二人じゃない、エロまで遠い、エロが薄い、人によっては不愉快になる個所がある、
ヘタレで女々しい旦那とデレがないクーデレの嫁さん、等々いつも以上に好き勝手やっているので
ふざけんなバーローって方は「雪の日の夫婦」をNGでお願いします
0507雪の日の夫婦2014/02/09(日) 10:41:32.57ID:AJiGjOQJ
朝起きてカーテンを開けると一面白い世界が広がっていた。
「……雪か」
ぽつりと零し、なに当たり前のこと言ってんだ俺と頭をかく。
どっしりした雲から落とされる雪は衰える様子が無い。
「これは止まないね。……雪かきしとかないと」
誰に言うでもなく呟いて、彪は寝間着に手を掛けた。


和泉彪が藍沢彪になってからもう半年が経つ。

生まれてこの方浮いた話など一つもない彪に、どんな縁があったのか見合い話が転がり込んできたのが7か月前のことだ。
相手は、23歳にして実家の定食屋"あいちゃん"を継ぎ、彼女を男手一つで育て上げた父親と共に厨房を切り盛りする、藍沢偲乃。
小柄で華奢な体躯からは想像できないほど、力強く鮮やかな技を見せる料理人である。

可愛らしい顔立ちとどこか儚げな雰囲気を纏った彼女は、料理の腕とも相まって人気者だ。
冷静かつ強気な性格のためいわゆる愛嬌はあまりないが、逆に、顔と性格のギャップがイイ! 偲乃ちゃんになら踏まれたいなじられたい罵られたい!
という具合で、人気に拍車をかけていたりもする。

そんな彼女だ。わざわざお見合いなどしなくとも、引く手数多だった。
実家のことがあるので婿入り希望の制限を掛けたって、そんなの関係ねぇ! と言いきる輩が多々いるはずだった。
それなのに、偲乃は彪と見合いをし、夫婦になり、今に至る。一体どうしてこうなったのか。


一言で言ってしまうと、跡継ぎのためである。

お見合い当日。慣れないスーツを着込んでおどおどと様子を伺う彪に、偲乃はこう言い放った。

「私は仕事を辞める気は一切無い。家のことはあなたにまかせっきりになると思う。
 それに、正直に言って、あなたに愛情は求めていないの。跡継ぎさえ産めれば十分だから。それでも良かったら結婚してください」

つまり、あられもない言い方をすれば、夫という名の家政婦兼子種が欲しいということだ。
下手に好意を持った相手だとそれだけでは納得しない。彼女を想い、尽くそうとし、想われたがる。
それは人として当然の感情だと思うが、偲乃からすると面倒なことであった。

その点お見合いならば、相手はこちらに好意を持っていない。
最初から条件を提示しておけば――とても我侭で理不尽な条件だし――相当の物好き以外は呑まないはずだ。最悪、人工授精という手もあるのだし。

こういったあちらの思惑を、彪は瞬時に理解して、この人凄い正直だびっくりしたーと思いつつ、
「あ、はい。分かりました」
二つ返事で頷いた。彼も中々のイエスマンだった。
0508雪の日の夫婦2014/02/09(日) 10:45:10.66ID:AJiGjOQJ
「おはようございます…」
「おはよう」
下に降りると偲乃は既に仕込みを始めていた。

定食屋あいちゃんは、偲乃と彪の住居でもある。
一階はお店スペースで調理場兼台所とトイレが、二階が居住スペースで二人の部屋と風呂場とトイレが、それぞれ設置されていた。

偲乃の父親の亮太郎は、彪がここにやって来るまで偲乃と一緒に暮らしていたが、彼が越してからは近所に安い部屋を借りてそこから店に通っている。
部屋はまだあるのだから一緒に住めばいいとも思ったが、それを提案した途端、泣く子が更に大泣きしそうな目で睨みつけられたため、
それ以上言うことはしなかった。お義父さんは強い。

「今日は雪ね」
「うん。寒いね」
言いながら上着を着込んで外に出る。途端、身を切るような風が吹きつけてきた。
情けない悲鳴を上げながらドアを閉め、庭の方においてあるシャベルを持ってくる。
「こんなに雪が降るなんて珍しいなぁ…」
これも温暖化の影響か、と首を傾げつつ雪にシャベルを突き立てた。厚さは10cm程。
「さーむいー、さーむいー、さーむいーなーと」
即席の歌を口ずさみながら入り口周辺の雪を除けていく。
傍から見たら怪しいことこの上ない姿だが、こうやって馬鹿らしいことをしていないと、最近の彪は鬱っぽい気持ちに囚われるので仕方がない。


偲乃との夫婦生活は、大体があちらの思惑通りに進んでいた。

元々意思が弱く、ヘタレで、声を荒げる姿など想像もできないほど気の弱い彪である。
偲乃や亮太郎から言われたことを行い、必要に応じて邪魔にならない範囲のことをし、それ以外は自分の時間として大人しくしていた。

彪に割り当てられたのは、家事と、店が忙しい昼時と夕方はそちらの手伝いの二つだった。
どちらも決して楽な仕事ではないけれど、慣れればそこまで苦しいものでもなかった。
お客さんは、なんだかんだ偲乃と彪を祝福したし、亮太郎も彪を息子として可愛がった。

ただ、夫婦間の愛情という話になると、それはもう希薄なものだった。

誤解が無いよう述べておくと、偲乃は決して悪い人ではない。
人を不当に馬鹿にするような真似は決してしないし、料理やお客に対しての姿勢は生真面目そのものだ。
お見合いでの発言だって、今考えてみれば、相手が断ることを期待したものだったのだと分かる。
彪が即答した直後、とても焦った様子で何度も何度も確認してきたのだから。
今だって、あまりに情けない姿に呆れることはあっても、彪を軽んじることは一切無い。

しかし、相手に気を使うのと相手を愛することには、それこそ雲泥の差がある。
偲乃は、彪を嫌ってこそいないが、愛してはいなかった。少なくとも、彪の認識では。
どうして分かると問われれば、見ていれば分かると答えられる。彪に向ける表情は、言葉は、あくまでも親しい他者へのものだった。
恋しくて愛おしくてたまらない相手に向けるものでは、なかった。

それが悪いわけではない。そもそも、偲乃は、一番最初に宣言したのだ。
そして彪は、それを承知した上で今ここにいる。偲乃を責めるのはお門違いだ。
そう頭で分かっていても、この、ドロドロとまとわりついてくる暗い感情は払えなかった。
これだけじゃ足りないと、もっともっと、彼女の全部が欲しいと、彪の心は駄々をこねた。

強い意思に惹かれた。美しい姿勢に惹かれた。
黒曜石のような目に、艶やかな黒髪に、ほっそりとした傷だらけの手に、しなやかな身体に、きれいな心に、惹かれた。

あれだけ言われたにもかかわらず、彪は、偲乃のことが、好きで好きでしょうがなくなってしまったのだ。
0509雪の日の夫婦2014/02/09(日) 10:49:21.23ID:AJiGjOQJ
「…ゆーきーやこーんこ、あーられーやこーんこ、ふってもふってもまーだふーりやーまぬ」

またしてもどす黒い感情が心に広がって行って、彪は慌てて口を動かした。
訳もなく目の奥がじんわりと熱くなってくる。畜生めこれだから童謡は困るのだ。妙に物悲しくなってしまう。
「いーぬーはよーろこーびにーわかーけまーわり、」
「雪かきはそこまででいいから」
「ぅおわっ!?」
突然後ろから聞こえた声に跳び上がる。慌てて振り返ると、偲乃がどこか呆れたような笑みを浮かべていた。
「お疲れさま。朝ご飯できたわ」
「あ、うん。…っと、ありがとう」
「……どうしたの?」
ふと気遣わしげな声がかけられる。慌てて目元を拭い笑ってみせた。
「寒気にやられちゃっただけだよ。大丈夫。…ご飯食べたいな」
「…そうね」
偲乃は少しの間だけ探るような目を向けていたが、笑顔を保ったままでいると諦めたように溜め息をついた。
それでいい、と彪は思う。この感情のせいで偲乃から離れることには、なりたくないから。


雪もあって、その日、お客はほとんど来なかった。

「雪ですいてるかなと思って」なんて理由で来た篠原夫妻を除けば、飛び込みのお客が3人ほど。普段の賑わいからするとこんなことは珍しい。
……まぁあの二人に関しては、偲乃と話すためにわざと店がすいてる時を狙ってやって来ているので、普段通りと言えば普段通りなのだが。

そんなことを考えながら部屋の戸を開けると、偲乃がいた。
二つの枕がある一つの布団の上に腰をおろし、ゆったりした仕草でスケッチブックをめくっている。

「……ってちょっと待って!」
「ん? あ、おかえりなさい」
「え、うん、ただいま。…じゃなくて! 偲乃さんあの、それ、そのスケッチブックはっ…!」
「彪が描いたのよね? すごく上手」
「っ……!」
感心した様子で頷かれ、彪は言葉を失くした。
「……風呂行っただけなのにこんなことになるなんてっ……!」
「え、あれ、見たらいけなかった?」
「いや…あの…目の前は止めてほしいです…」
「そう、なの?」
不思議そうに言いつつスケッチブックを閉じる偲乃を見て、ようやく気が静まってくる。

何を隠そうあのスケッチブックは、彪が暇な時に色々なものを描きためているものなのだ。
さほど巧くもない、完全なる自己満足の捌け口を熱心に見られるなんて、恥ずかしすぎて埋まりたくなってくる。
「……きれいな絵なのに」
「…お願いだから…アレのことはこのくらいで…」
「ふぅん…そうだ、まえから聞きたかったんだけど」
「…え、な、なに?」
「そこの木工具ってあなたのよね」
「う、うん」
「彪って、大工仕事とかもできたりするの?」
「ええと…簡単な日曜大工の範囲内なら…」
質問の意図が掴めず頭の上に疑問符を飛ばす彪の一方で、偲乃は頷いたきり黙りこくってしまった。
0510雪の日の夫婦2014/02/09(日) 10:52:47.43ID:AJiGjOQJ
(えっこれどういうこと? ていうか偲乃さんがわざわざ俺の部屋来たってことは致すってことだよね? 今日休み前だし、そうだよね?
 あれでもいつもはこんな話しないような…来て脱いでやって終わりだよね…? え、あれ、どういうことだ?)

大混乱している彪の前で、偲乃は小さく溜め息をつくと自分の服に手をかけた。
「ちょっ、し、偲乃さんっ!?」
「なに?」
「いや何ってあの…ええと…あれ…?」
「……いつものことでしょう?」
つまり、いつもの通り今日もやりますよ、ということらしい。そこまで把握して、彪は慌てて立ち上がった。
「ちょ、ちょっと待って灯り消すから」
「ん、ありがと」
「わぁ待って待って脱ぐのはやい!」
ムードの欠片もないが、大体いつも通りの光景である。
彪が灯りを消すのと偲乃が下着を脱ぎすてるのはほとんど同時だった。月明かりが彼女の身体をぼんやりと浮かび上がらせる。
ただでさえ白い肌が月の光に照らされて一層白く見えた。

「………………」
「……彪?」
「…あっ、ご、ごめっ、見惚れてた!」
急いで毛布を羽織らせると、偲乃は何故か形容しがたい表情で笑う。
「…あなたって…」
「うん?」
「……なんでもない」
「そ、そう?」
「そう。ほら、早くして」
「はいっ」
恐る恐る手を伸ばす。別に今日が初めてというわけではないが、それでも、彼女の身体に触れる時はいつもいつも緊張した。なんというか――
「…別に、そんな怖々としなくたって、私は壊れないわよ」
「…こ、心を読まないでほしいのですが」
「顔に出てるわ」
さらりと返される。

「………………」
返事が出来なかったので目の前のことに集中することにした。
白くて柔らかい身体。ふにふにした胸。薄いとか控えめとか形容できるけれども、彪はこれが好きだった。
小さくても十分柔らかいし。可愛らしいし。可愛らしいし。

「…っ…」
偲乃が小さく息を呑む。
行為の最中ほとんど声を漏らさない彼女だが、声以外の反応はとても素直だ。よく注意して見ていると面白いくらいに反応してくれる。例えば、
「……!」
乳輪をなぞると身をよじるとか、
「……っふ、……!」
ツンと立った乳首を優しく撫でると目をぎゅうっと閉じるとか。
0511雪の日の夫婦2014/02/09(日) 10:57:32.90ID:AJiGjOQJ
右手で乳房を愛撫しながら空いている方の胸を口に含む。小さく肩が跳ねた。
毛布がずり落ちないよう手で押さえながら口を動かす。乳首を舌先でつついてやると頭が抱えられた。
乳房を舐めたり、唇で食んだり、指先に力を込めるたびにぴくりぴくりと身体が震え、少しずつ汗ばんでいく。
以前よりは上達したとはいえ、まだまだ未熟であろう己の手で偲乃が感じている。その事実は、彪に大きな喜びを与えた。

「っ…あき、ら…」
「…う、うん」
小さいおねだりに従い下側に手を伸ばす。本音を言うともう少し味わっていたいところだが、そんなことは望まれていないだろう。
しっとりと汗ばんだ身体を布団に横たえる。そろそろと手を寄せると秘部は十分潤っていた。
念のため愛液をたっぷり指に絡ませてから中に沈ませる。瞬間、
「――っ!」
偲乃の身体が弓なりにしなった。
いつもより早い、などと感動しつつ、余計な刺激を加えないよう頭を撫でる。

偲乃は少しの間荒い息をついていたが、ある程度落ち着いたのか彪に手を伸ばす。
「……ね、きて」
「平気?」
「うん…大丈夫、だから」
いつもは冷静な瞳を熱で潤ませ、上気した頬でこんなことを言われてはたまらない。

ズボンを脇に放って華奢な身体に覆いかぶさる。すらりとした足を割り、熱い秘部に剛直を押し当てると小さい深呼吸が聞こえてきた。
「…ちから、ぬいてね」
「……ん」
もう一度頭を撫でてなるべくゆっくり差し込んでいく。
最低限濡れているとはいえ、ただでさえ小柄な偲乃の中は大分狭い。熱く濡れた膣壁に締めつけられて、気を抜いたらすぐにでも達してしまいそうな刺激を受ける。

「っ…ぁ…ん…!」
「…っ…しの、さ…だいじょ、ぶ…?」
「ぅ…ぁっ…んぅ…」
「動く、よ」
宣言してから腰を軽く前後させる。
ゆっくり、ゆっくりと自分に言い聞かせているが、必死に声を我慢している偲乃を見ていると、理性を捨てて滅茶苦茶にしてやりたい衝動に駆られた。
それをどうにか堪え、なるべく優しく、緩やかに突き上げる。
「…っふ…ん…くぅっ、ぁ…」
「……かわいい」
「んんっ!」
ぎゅうと締めつけられる。

一瞬だけ咎めるような目が向けられるが、ぴんと立った乳首を弄るとすぐに顔を逸らした。両手で顔を隠し、自身の痴態を彪に見せまいと顔を背ける。
が、そんな努力もむなしく、偲乃の身体は淫らに動いて彪を喜ばせた。
身を引くと逃さないとばかりに絡みつき、突き入れるとぐちゃぐちゃにふやけて包みこんでくる。結合部は互いの愛液でびっしょりと濡れていた。

いつしか彪は気遣いを忘れ欲望のままに腰を打ちつけていた。
偲乃も、声こそ抑えているものの、がくがくと腰を震わせ、身をよじり、快楽を与えられる悦びに震えている。
「…ぁきらっ…も、ぁ…りゃ、めぇ…!」
「はっ…俺も、もすこし、だから…」
「ぅぅ、あ…も、だ…ひぁっ…ふ…ぅ…!」
「っ…偲乃さん…偲乃…!」
「ゃ、あ…ッ――!」
二つの身体が一際大きく震えた。何度も何度も吐き出される白濁液で、偲乃の身体を埋めていくのを感じる。
大きく息をつきながら、同じように息を吐いている偲乃の上に倒れ込む。互いの呼吸が重なるこの時だけは、感情のままに触れていたかった。
0512雪の日の夫婦2014/02/09(日) 11:01:03.63ID:AJiGjOQJ
「……ん……」
まだ夜明け前の暗い中で偲乃は目を覚ました。手で探り当てた時計を見ると短針は4と3の間を指している。
起きるにはまだ時間があることを確認して、暖かい腕の中に身をひそめる。ぐっすりと眠りこんでいるのだろう。彪はぴくりともしない。

「…中々うまくいかないわ…」
小さく溜め息を零す。
結婚して6カ月も経つのに、体を重ねた回数だって両手の指を軽々と越えるのに、偲乃と彪の心は遠いままだった。
その原因は間違いなく偲乃にあるのだけれども。


愛情を求めていないと言ったのは本音だった。
実際、彪と暮らすようになってからも、彼に媚びたり、必要以上に頼ることはしないよう自制していた。
とにかく気が弱くてヘタレで女々しくて情けない相手なんて、そも好みですらないのだから、まかり間違ってもほだされたりはしないだろうとも思っていた。

――それなのに、こうだ。どうやら心というものは、自分で思っていた以上にどうしようもないものらしい。

彪を好きになるはずがない。そう思っていたはずなのに、いつの間にか、気付いたら彪を探すようになっていた。
いつの間にか、あの気弱な目に見つめられることが、優しい声で名を呼ばれることが、筋張った手に怖々と触れられることが、嬉しくてたまらなくなっていた。
いつの間にか、困ったような笑顔の持ち主が、欠かせない存在になっていた。

なんて勝手な話だろう。我ながらそう思う。散々我侭を押し付けておいて、自分が言ったことを反語にするなんて。
けれど、このままでは嫌だった。もっと求めてほしいと思った。偲乃の意思なんて捩じ伏せて、彪の好きなようにしてほしいと願った。
我侭だと呆れられてもいい。勝手すぎると怒られたっていい。
ただ、嫌いにならないで、離れないでいてくれれば、どんなに酷いことをされても構わないとすら思った。

「……直接言ったら、どんな反応するのかしらね」
想像するだけで悶死するほど恥ずかしいから、言えたとしても相当先の話になるだろうけれど。偲乃は目を閉じ夢想する。

不器用で、頑固で、偏屈で人見知りの上に、あんなとんでもない条件を突き付けた自分を受け入れてくれたのだ。
きっと、優しく笑って受け入れてくれるのではないだろうか。
そう思う一方で、流石に拒まれるのではと不安にもなる。
今まで彪に拒まれたことは一度もないけれど、ないからこそ、拒まれた時の自分が想像できなくて、偲乃は自分に対する呆れの笑みを浮かべた。

けれど、このままの距離ではもう満足できない。
どうにかして、彪のことをもっと知って、偲乃のことを知ってもらって、互いが互いを理解できるようになりたいのだ。

できないことはない、と思う。そのためのヒントも、今日、こっそりと聞けたのだし。
『夫婦円満の秘訣? うーん…ちゃんと話すこと、かなぁ』
『そうだな。自分の気持ちを言葉にして相手に伝えることは大事だ』
尊敬する先輩方の言葉を思い出し、少しだけ考えて気合を一つ。

「……大好きよ、あきら」

いつか直接言えますようにと強く願い、穏やかに眠る彪にすり寄って目を閉じた。
05134342014/02/09(日) 11:04:19.69ID:AJiGjOQJ
ここまで!

夫婦なのに両片思いとか、いつも頭に花生えてるようなのしか書いてないからたまには切ないのをとか思ったんですが…
これじゃないと叫びたい。俺には頭悪い話しか書けないのがよくわかった畜生め

色々な意味でいつも以上にひどい話ですが、少しでも暇つぶしになれば幸いです
0514名無しさん@ピンキー2014/02/10(月) 12:00:32.40ID:Uj7WT2dx
>>513
GJGJ 変わらず本編で満足させた上に続きを期待させてくれる話です
素直になれた後を想像するだけでにやにやが止まりませんね
0515名無しさん@ピンキー2014/02/26(水) 10:44:35.90ID:6nK+ADOB
>>434
茜可愛いよ茜
相変わらずGJ!
結婚式編楽しみにしてます!

「雪の日の夫婦」
GJ!続き読みたいなぁ
両片思い、切ないけど何処か優しい
踏まえたうえでの気持ちと心、身体の交わる姿が見たいです!
05164342014/03/09(日) 21:22:22.82ID:e2DX1qMl
藍沢夫妻の続きができたので投下します

エロ遠い、エロ薄い、本番あってないようなもの、人によっては不快になる表現あり
等々好き勝手やっておりますので「夫婦の墓参り」をNGでお願いします
0517夫婦の墓参り2014/03/09(日) 21:26:25.89ID:e2DX1qMl
藍沢彪は慄いていた。
別に辛いことや悲しいことがあったわけではない。むしろその逆だ。最近、
「……彪、起きてる?」
「あ、うん。どうしたの?」
「ええ、と…寒くて」
「そ、そっか。…あの、アレだ、そのー…に、人間カイロとかどうでしょう」
「……お願い」
気が強くしっかりしていて甘える姿など見せなかった筈の大事なお嫁さんが、藍沢偲乃さんが、
なんでだかやたらと理由を付けてくっついてくるようになったのである。訳が分からない可愛い。

「……あたたかい」
「よ、よかった。寒いのは辛いもんね」
「うん」
ちなみに本日の最低気温は6度だ。日中はうららかな春のぽかぽか陽気だった。当然夜もそこまで冷え込まない。
「今日は、なにをしてたの?」
「昨日と同じだよ。家事やってから将棋の駒作り。もう少しで全部そろえられるかな」
「そう。…ごめんね、おじいさん達が面倒なこと頼んじゃって」
「平気平気。細かい作業は好きだし、頼みごとをしてもらえるのも嬉しいよ」
「ならいいけど。…完成したら見せてね」
「うん」
「一番にね?」
「うん、分かってます」
言いながら、抱きしめた状態のまま頭を撫でてみると、偲乃は満足げに目を細めた。
日向で寝転んでるかゴロゴロ言いながら爪を出し入れしてる猫みたいだ、と呆けた頭の端で思う。
それ以外の頭の中は「偲乃さん可愛い超かわいいなんなのコレなんなんだよこれ」という言葉で埋め尽くされていたが。


どうしてこうなったのか、正直なところ、彪にはまったくもって覚えが無い。
この感情を伝えたわけでもないし、彼女からの印象が変わるような劇的な言動をしたわけでもない。筈だ。
ただ、思い返してみれば、偲乃がこのようにくっついてくれるようになったのは、二度目の雪の日からだったような気がする。

(いやでもあの時だって別に何もしてないよなぁ。
「自宅周りの雪かきしながら"恋人といる時の雪って特別な気分に浸れて僕は好きです"って言ってみろリア充どもーっ!」とか思いながら一日中雪かきしてただけだし。
 お客さんだって茜さん待ちの葵さんしか来なかったし。……そういえば、偲乃さんと葵さん、随分話しこんでたなぁ。何話してたんだろ。……もしや葵さんが何か言っ)
「ふぁっ?! ひ、ひのひゃ、にゃに?!」

正解に辿り着くよりも早く偲乃に両ほっぺを引っ張られ、彪は情けない悲鳴を上げた。
「今何か考えてたでしょ」
「か、考えてまひひゃけど!」
「私がいるのに」
「ひのひゃんのこと考えてひゃんだよ!?」
「…………」
「……し、偲乃さん?」
不意に頬が解放されて目を瞬いた彪の一方、偲乃は何かを堪えるようにぷるぷると震えている。
どうしたのだろうと顔を覗き込むと、驚くくらい真っ赤な仏頂面が目に入ってきた。どうしよう俺何かやっちゃったのかな。
0518夫婦の墓参り2014/03/09(日) 21:29:07.24ID:e2DX1qMl
「あの…偲乃さん…?」
「……もう寝る」
「う、うん…? て、あ、そうだ! 偲乃さんごめんちょっとお願いが!」
「……なによ、もう」
彪の胸に顔を埋めたままくぐもった声だけが返ってくる。眠いのだろう。
「ごめんね。でも、大事なこと思い出して」
「……なに」
「来週の日曜、休ませてもらってもいいかな。地元に帰りたくて」

 瞬間、空気が凍った、気がした。

「……ど、ゆう、こと?」
恐る恐るこちらを見た偲乃は何故だか表情を凍りつかせていた。あれその日用事入ってたっけ、と思い返しつつ、彪は呑気に言葉を続ける。
「いや、そのまんまの意味なんだけど…まずいかな?」
「…いや…まずいとか、じゃなくて…そりゃ、彪がそうしたいのなら私に止める権利なんて無いけど…」
「そうかな? いやでも、その日何か手伝うことがあるのならその次の週でも平気だよ?」
「次の週って…あの、あなたが忍耐強いのは知ってるけど、そこまで我慢しなくったっていいのよ?
 ていうか、わざわざ宣言するものでもないんだから…」
「え、宣言は必要じゃない? お店やってる日は無理だし、休みだって仕入れが入ることもあるんだからさ」
「お店って…まぁ確かに急にいなくなられちゃうと困るけど…でもそこまで律儀にならなくても…」
「いなくなる? 誰が?」
「……うん?」

どうも話が噛み合っていない。

「…待って、彪。来週の日曜、休みたいのよね? 地元に帰りたいから」
「うん。事前に言っておかないと、って思ったんだけど」
「…そう…よね。……その、帰ってきて、くれる?」
「えっ帰ってきちゃ駄目かな!?」
夜には帰ってこないと次の日辛いんだけど、と零すと、偲乃は少しだけ硬直して、次いで深々と息を吐いた。
「……馬鹿だわ、私」
「偲乃さんが馬鹿だったら俺は大馬鹿だよ!?」
「そっちの馬鹿じゃなくて。ていうかあなた馬鹿じゃないでしょ」
「…馬鹿だよー…体育と技術家庭科以外は全滅だよー…」
「だからそっちじゃなくて」
もう一度溜め息をついた偲乃は、どこか安堵した様子で彪にすり寄る。反射的に速まった鼓動を耳にした偲乃は頬を緩ませた。

「…まぁ、それなら、いいわ。ご家族に会うの? それともお友達?」
「いや、墓参り行こうと思って」
「……ご家族はご健勝よね?」
「うん。子どもの頃お世話になった小母さんの7回忌なんだ。
結婚してから行くのは初めてだし…あ、もしよかったら偲乃さんも行く? わりと遠いんだけど」
「行くわ」

即答であった。

その後は、少しばかり話をして、おやすみのちゅーとやらをしてから眠りに落ちた。これもここひと月程で築いた習慣である。


藍沢彪は慄いていた。
お嫁さんが積極的で、毎日が幸せすぎて、どんどん我慢が効かなくなっていて、慄いていた。
もしかしたら偲乃は、自分のことが好きなんじゃないかなんて、とんでもない勘違いをしてしまいそうで、怖くて怖くて仕方がなかった。
0519夫婦の墓参り2014/03/09(日) 21:31:28.75ID:e2DX1qMl
一週間はあっという間に過ぎていった。
朝起きて、昼間は懸命に働いて、夜、偲乃とのんびりした時間を過ごしてから一緒に眠る。
一日が過ぎるのが早くて、周りが猛スピードで進んでいるのに自分だけ止まっているような、そんな気分になった。
驚くほど幸せな筈なのに、何故か、置いていかれているような――そう、世界から置いていかれているような気がして、彪は酷く心細かった。

おかしなことを感じている自覚はある。
愛しい人が笑いかけてくれて、触れてくれて、触れさせてくれて、自分のことを知ろうとしてくれて、何が怖いんだと言いたくなる。
偲乃も自分を好いてくれたのだと、いっそ勘違いしてしまえば良いだろうにとも思う。
あの葵だって「恋はある種錯覚みたいなところがあるな」と言っていたのだから。

それでも、何故か、この状況を喜んで受け入れる気持ちにはなれなかった。
どうして偲乃がこうなったのか、自分は彼女に好いてもらえる人間なのか、分からないまま、ただずるずると流されるのはどうにも嫌だった。

「……うん」
完全に自己満足だけど。彪は思う。

きちんと偲乃に告白しよう。今までは、拒否されて、離れることになるのが嫌で考えないようにしていたけれど。
好きだと言って、受け入れてもらえたら万々歳。もし駄目だったら、これまでのお礼を言って潔く離れよう。
偲乃なら、彪がいなくなったって、すぐにもっと良い人を見つけられるから。
今までは、それを認めるのが嫌で、彼女の隣を他人に譲りたくなくて、夫というこの上なく強力な立場にしがみついただけだ。
そんなことはもう、止めにしなければ。傷付くのが怖くて逃げてばかりじゃ、彼女の隣にいることに負い目を感じてしまう。それは、すごく、辛いから。
0520夫婦の墓参り2014/03/09(日) 21:34:47.01ID:e2DX1qMl
「…偲乃さん、今平気かな」
「彪?」
というわけで、彪は初めて自分から偲乃の部屋を訪れた。
「珍しいわね、あなたが来るなんて」
「う、ん。あの、なんていうか…ええと、言わなきゃいけないことが、あって」
「……どうしたの?」
疑問9割怯え1割の光を目に宿した偲乃が対面に座る。
風呂上がり故か彼女の頬はうっすらと紅色に染まっていて、ああもうきれいだなぁと現実逃避をしたくなった。

「ええと、ですね」
「うん」
「あの、最近…じゃないや。えーと、わりとまえから、なんだけど」
「…うん」
「その…なんていうか…あの…」

しまった言葉が出てこない。

自分の語彙力の乏しさに泣きたくなった彪だが、偲乃はあくまでも真摯にこちらの話を聞いてくれている。
その、人にも仕事にもまっすぐな姿勢を最初に好きになったのだ、と思いだして、彪の口は自然と動いた。

「俺、偲乃さんのことが、好きです」
「うん、知ってるわ」
「…………はい?」

今なんと申されたか。

「えっ、ちょあの、待って。偲乃さんあの、知ってるって、え?」
「いやだから、彪が私のこと好きだってこと。それで、わざわざ宣言したってことはなにかあったのよね。どうしたの?」
「ま、待ってくださいちょっと待って。知ってるって、あの、えと、いつから?」
「確信したのは10月の半ば頃だけど…ってまさか、あなた、私が気付いてないとでも思ってたの?」

思ってました。

二の句が継げなくて黙り込んだ彪を見て、偲乃は思いっきり呆れ顔になった。
「あのねぇ…そりゃ、茜さんみたいに壊滅的に鈍感な人だったら気付かないでしょうよ。でも、生憎私は人の機微には敏感なほうなの。
 お客さんが本当においしいって思ってくれてるかなんて、言葉だけじゃ分からないんだから」
「……さすがです」
「どうも。で、あんたね、自分がすっごく分かりやすいってこと自覚したほうがいいわよ。
 まず第一に顔に出すぎ。目が合っただけで真っ赤になって嬉しそうな顔されたらすぐ気付くわ。
 あと、意図的にかどうか知らないけど言葉にも出てる。可愛いだのきれいだの凄いだの。確かに好きって言われたことはないけど、さすがに気付くわよ」
「……い、言ってましたか、俺」
「思いっきり言ってたわ」

うわー恥ずかしーはははー
(10月半ばって、それ俺が自覚するよりも早いじゃないっすか。なんつーか、もう、俺は駄目だははははー)
0521夫婦の墓参り2014/03/09(日) 22:09:46.00ID:e2DX1qMl
「……思いつめた顔して来るからなにかと思ったけど。もしかして、それを言いに来たの?」
「…うん…そうです…」
「私が気付いてないと仮定して。言って、どうしたかったの?」
「迷惑じゃないようなら今までどおり置いてもらって…迷惑だったら潔く実家に帰るかーと…」
「ふぅん。で、今はどうしたいの?」
「恥ずかしいので今すぐ逃げたいです…」
「却下」
即答だった。

「…だ、だめかな」
「駄目よ。絶対駄目。…大体、漸く言葉で言ってくれたのに、逃がすわけないでしょ」
偲乃の声は嬉しそうに弾んでいた。思わず顔を上げると、ほとんど同時にぎゅうっと抱きつかれる。
石鹸の優しい香りが鼻孔をくすぐって頭がくらくらした。

「……偲乃さん」
「そろそろ呼び捨てにしてほしいんだけど」
「え゛」
「同い年でしょ。誕生日だけなら私の方が遅いし」
「…し、偲乃さ…偲乃?」
「うん。聞いてる」
「……だいすきです」
「私もよ。……もっと早くに言ってたら良かったのにね。ごめん」
「偲乃が、謝ることは、ないと思うな」
「あるの。あんなこと言ったくせに好きだなんて、都合良すぎるって思ったのよ。でも、ちゃんと、言えばよかった」

震えた声に顔を覗き込むと、想定外に気弱な視線が返ってきた。
守りたいなぁ、とぼんやり思って、自分はそれを言うことが許されているのだと思いだす。胸の内が熱くなった。
「……偲乃?」
「なぁに?」
「あの…キス、してもいい、ですか」
「うん。…うれしい」
「……それ以上のことを、しても?」
おっかなびっくり求めた言葉は面白いくらいに震えていたが、偲乃は心底嬉しそうに微笑んだ。
「うん、して。たくさん、して」
0522夫婦の墓参り2014/03/09(日) 22:13:07.47ID:e2DX1qMl
熱に浮かされてるみたいだ、と彪は思った。頭の芯がぼんやりとぼやけて、なのに身体は燃えるように熱い。自分も、偲乃も。

「んっ…あきらぁ…そこばっか、ぅ…やだぁ…」
「…もうちょっと」
「も…っふぅ…ん…!」
偲乃の文句を先送りにして右胸にしゃぶりつく。甘い声が喉の奥で殺された。
もうかれこれ10分以上も上半身ばかりを弄っているのだから、いい加減焦れてきたという偲乃の気持ちも分かる。分かるのだが。
「…おちつく…」
「こっちはおちつかな、っひゃん!」
乳房をふにふにと唇で食んだり、乳首に優しく吸いついてみたりするのが想像以上に心地よくて止められないのだ。
それに、一々びくりと反応する偲乃を感じるのも楽しい。

「ぅ…もぉ…ばかぁ…!」
「どーせ俺は脳みそまで筋肉でできてますよー」
「そっちじゃっ…なぃぅんっ…やっ、あきら…そこ」
「ん、これ?」
うなじを指先でくすぐると偲乃は逃れるように身をよじった。どうもここが弱いらしい。
「ふぁっ!? あ、あきっ…ぅ…だめ、あきら、だめっ…」
「どうして?」
反射的に尋ねると、真っ赤な顔で涙に濡れた黒曜石の瞳が向けられる。
「…まだ、もらってない、のに…きちゃう、からぁ…」

理性という名のストッパーは吹き飛んだ。

「っや、まって、あきら…や…ぁっ――!」
弓なりにしなる身体を抱きしめる。口に含んだままのぴんと張り詰めた乳首を舌先でくすぐると、偲乃はいやいやと首を振った。
とはいえ、彼女の両手は縋るように彪を抱きしめているのだから、本当に嫌がっているわけではなさそうだけれど。

「まっ…ぁ、あきらっ、も…んぅ、んんっ、ゃだぁ…!」
「偲乃、ごめんね。もうちょっと我慢して」
「やぁっ…も、ほしぃのに…!」
「うん、ごめん。でも、偲乃、すごく可愛いんだ。もっと見たい」
そう言ってキスを落とすと、偲乃は泣きだしそうな顔で身体の力を抜いた。
ありがとう、と頭を撫でる刺激だけでも感じるのか、鼻にかかる声をもらす。

(おかしいなぁ…俺、Sじゃないはずなんだけど…すごいなかしたい。二つの意味で)
完全にいかれた思考の端で思いながら、今度は後ろから抱きかかえるようにして座らせる。
あぐらの間にすっぽりと納まった偲乃の、頬、耳たぶ、首筋にと唇を寄せて細いうなじに吸いついた。
「ぁっ、やぁぁっ! あき、ゃだ、そこやだぁ…!」
「分かってる。こっちもするから」
「ちがぅ、のっ…ぁ…ぁあ…」
どうやら声を押さえることも忘れてしまっているらしい。
愛らしい声を零す偲乃に口元を緩めながら、ちゅうちゅうとわざと音を立ててうなじを吸う。
時折なめたり、強く吸いついて赤い痕を残すたびに偲乃は大きく震え、両手で胸を転がすだけで背筋を逸らす。
自身に身を委ねきっている彼女が愛おしくて仕方なかった。
0523夫婦の墓参り2014/03/09(日) 22:16:24.32ID:e2DX1qMl
「…好きだよ」
「っや…ぁぅ…あきら…」
「うん、大好き。…ほんとに、俺は幸せ者だ」
「ぇ…ぁ…〜〜っ!?」
しみじみと呟くと偲乃の身体が大きく震えた。一瞬何が起こったのかついていけなくなる。
肩で息をする彼女が振り向いて、涙と色で潤み上気した表情を見せたところでようやく達したのだと理解した。

「…ほん、とに…?」
「えっ、えと、ごめんなにが?」
「ほんとに、しあわせって…思って、くれてる…?」
「思ってる! 思ってます! 俺以上の幸せ者はいないよ!」
脊髄反射で心の底から即答すると、偲乃は潤んだ表情のままふわりと微笑んだ。
力の入らない身体を引きずって、半ばもたれかかるようにして彪に縋りつく。

「…よかったぁ…」

耳元で、普段からは想像もつかないほど蕩けた声で、言われて。彪は自分の中の何かが致命的になってしまったことを、妙に冷静な思考で認識した。
「……偲乃」
「ん…なぁに、あきら」
「俺は、どうすればいいかな」
「…なにを?」
「どうすれば、この、偲乃が好きだー! って感情を、伝えられるかな」

この上ないほど真剣に言ったつもりなのに、きょとんとした偲乃は、次の瞬間たまらないというように噴き出した。
頭の上に疑問符を飛ばす彪の前で、くすくすとおかしそうに笑っている。
「……変なこと、言った?」
「ふふっ…ううん、ぜんぜん。でも、嬉しくて、笑っちゃったのよ」
納得はいかなかったが、楽しそうに目じりを下げる彼女を見ているとなんだかどうでもよくなってきた。一緒になって笑い声を零しながら偲乃を布団に押し倒す。

ズボンと下着を取り払うと秘部はしとどに濡れそぼっていて、またしても胸がいっぱいになった。
「…俺は、すごく幸せだよ」
「それ、こんな状況で言う台詞かしら」
「言いたくなったから言っちゃった」
「……私も、幸せよ」
「よかった」
どちらからともなく口付ける。互いの唇を夢中になって味わいながら、猛る剛直を秘裂に差し込む。

熱くぬめるひだは蕩けそうな喜悦を与えたが、彪はゆっくり労るように肉壁をこすった。
激しい快楽を得ることよりも、今は、互いの温度を感じていたかった。

「っは…あき、らぁ…」
「ん…好きだよ、偲乃」

偲乃は嬉しそうに笑っていた。彼女の目に映る自身も、この上ないほど能天気に笑っていた。

(ああ、しあわせ、だな)

深い喜びと思慕を携えて、二人はほぼ同時に天辺に達した。
0524夫婦の墓参り2014/03/09(日) 22:21:20.67ID:e2DX1qMl
「……本当に遠かったわね」
「そうなんだよ。もうちょっと来やすい所にお墓作ってくれたらよかったのにね」
次の日の昼すぎ。二人は彪の地元で一番高い山の頂付近にいた。

眼下の町のみならず遠い先まで見通せるその場所は、山の頂上にあるお寺に隣接する墓地だ。
計画通り墓参りを終えた二人は、椅子に座ってここまで登ってきた足を休ませていた。
天気は快晴。遠くの地平線には海も見える。空の蒼と海の藍が混ざり合ってまさに絶景だった。

「…でも…すごくいい眺め。冴子さん、この眺めが気に入ったからこの場所に決めたのかしら」
「どうだろう? "私が死んだら誰も来れないような場所で誰にも邪魔されず眠ってやる!"って豪語してたから」
「面白い人ね」
「そうなんだよ」

冴子――小田切冴子というのが、二人が弔った墓の主である。豪胆且つ口が悪く、性根は優しいのにそれを認めようとしない捻くれ者。享年93歳。大往生であった。

「…ほとんどの人に悪い人だって誤解されて、誤解を解く努力もしなくってさ。
 旦那さんもいないし、家族と縁も切れてたとかで…お葬式も、ほとんど人が来なくって。
 …あの時は悲しかったなぁ。人一人が亡くなったっていうのに、清々したなんて言う人もいたんだ」
「言っていいことと悪いことの分別が付かない愚か者ね」
「そうだね、今はそう思う。…けど、当時は高校生だってのに分からなくて、随分悩んだんだよ。教えてもらった遊びも手に着かなくなっちゃって。
 夏休み全部使って自転車旅行したこともあるんだよ」
「……初耳なんだけど」
「そうだっけ?」

穏やかな微笑に影はない。それを確認して偲乃は心の中で安堵の息をついた。
過去を引きずっているわけではなく、今と過去の区別を付けて、大切な思い出として語っている表情だ。

「言った気になってたなぁ。…なんか、なにをすればいいか分かんなくなってさ。どうにもこうにも混乱して、嫌になって"よし、走るか!"って」
「"よし、走るか!"って…すごい勢いね」
「あの時はわりと必死だったんだ。夏休みの前までバイトしてお金貯めて、夏休み全部の時間とバイト代をつぎ込んで、北海道一周旅行。
 …まぁ、ほとんど野宿だったし色々大変だったから、他人には絶対に勧めないけどね。て言うか止める」
「無事にここにいてくれてよかったわ。で、なにかふっきることはできたの?」
「ぜーんぜん!」

あまりにもあっさりと笑われて偲乃は少しだけ絶句した。呆然とした表情が可笑しかったのか、彪は無邪気な笑顔を見せる。
0525夫婦の墓参り2014/03/09(日) 22:23:33.89ID:e2DX1qMl
「北海道一周しても、なーんにも変わらなかった。俺は落ちこぼれのままだし、冴子おばさんも嫌われ者のまま。でも、そういうもんなんだって分かったよ。
 周りが変わるのを待ってるんじゃなくて、変わらない世界の中で、どうやって生きていくかなんだなって思った。それで、少し楽になった」
「……そう」
なんとなく頭を撫でるとくすぐったいと笑われた。
それでも振り払うことはしない彪が、たまらなく好きなのだと伝えたら、どんな顔をするだろう。

「…それに、周りは変わらなかったけど、俺は変わったと思う。
 旅行から帰ってから、お父さんに"これ以上勉強でやってくのは無理だから高校出たら働く"って言えたんだ。最初は反対されたけど、結局あっちが根負け」
「あなたが、あのお義父さんに? すごいわね」
「我ながらそう思う。…色々大変だったし、散々迷ったけどさ。これでよかったんだなぁって思えるよ。…偲乃たちにも会えたし」
唐突に名を出されて偲乃は少しだけうろたえた。優しい微笑を湛えていた彪は、そういえば、と笑みを深くする。

「冴子おばさんに"お前は絶対に結婚しろ"って言われたことがあるよ」
「冴子さんに? ええと…どうして?」
「"私は一人の方が良かったし、一人でいるのを後悔したことはない。けどお前はよわっちいから、いい人を見つけて結婚しろ"って」
「……優しい人ね」
「俺はそう思う。…生きてるうちは無理だったけど、こんな素敵なお嫁さんを紹介できて、よかった。ありがとう、偲乃」

不覚にも。不覚にもその一言は、偲乃の琴線に触れた。
熱くなる目頭を押さえて俯くと、彪は仰天した様子で偲乃の肩を抱く。暖かい手の温度が優しくてますます涙が溢れてきた。

「……あきら」
「なっ、なに!? どうした!? なにか持ってくる!?」
「…ううん、いらない。…なにも、いらないから…傍にいて」
「わ、分かった!」

ぎゅうっと力強く抱きしめられてどうしようもなく嬉しくなる。大きな背中に手を回すと腕に込められる力が強くなった。

愛しい人の肩越しに見上げた空は、どこまでも深く青く澄んでいた。
05264342014/03/09(日) 22:26:55.51ID:e2DX1qMl
ここまで!
途中エラーが起こって投稿に間が空いてしまい、申し訳ありませんでした

本当はシリアスからのラブラブになるつもりで、そのつもりで書き始めたのですが
…最初っからお花畑全開でどうしてこうなったマジで。マジで

いつも閲覧・コメントまで頂きありがとうございます。嬉しく思っています
少しでも暇つぶしになりましたら幸いです
05304342014/04/17(木) 21:16:31.22ID:jN4WETeV
保守代わりに小ネタ投下
エロなしな上誰が得するんだって話なので必要に応じて「小ネタ」をNGでお願いします
0531小ネタ2014/04/17(木) 21:20:17.71ID:jN4WETeV
「助かったよ、彪」
「いえいえ。こんなことで良かったらいつでも言ってください」
偲乃の祖父藍沢弘喜に彪は笑顔を返した。
ここは、定食屋"あいちゃん"から自転車で20分程の場所にある偲乃の祖父母の自宅である。

あいちゃんにも住む場所はあるのに何故こんな所にも家があるのか。それにはちょっとした理由がある。
あいちゃんは偲乃の曾祖母が始めた店だ。初代店主である曾祖母藍沢愛(あいざわまな)から、
2代目の祖父弘喜が後を継ぎ、3代目を父亮太郎が継ぎ、その後を継いだ偲乃は4代目になる。
店を始めた当初は利便性や金銭面等々の理由で自宅兼店舗の形にしたが、
幸いなことにあいちゃんは人気が出、跡継ぎも立派に成長したので改めて自宅を買い直したのだ。
自然に囲まれているこじんまりとした平屋の一軒家。老後を過ごすには最適だとか。

こんな理由で、彪はわりと近くに住んでいる義祖父母にも可愛がられているのだ。閑話休憩。

「…うん、きれいにできているね。彪に頼んで正解だった」
彪が渡した将棋の駒をしげしげと眺め、弘喜は満足げに頷いた。たこや切り傷が残る大きな掌には飛車と歩と角が乗っている。

以前ここを訪れた時に、困ったような笑顔の弘喜が頼んできたお願いが将棋の駒作りだ。
曰く、いつものように友人と打っていたところ、一つは猫にとられ、一つはまっぷたつに砕け、一つは焼け跡が付いてしまったらしい。
百歩譲って猫にとられたのは仕方がないとしても、後半二つは一体何をやったのかと問いただしたい衝動に駆られた。
新しい駒を買うのも考えたが、駄目にしてしまった三つの為だけに全ての駒をそろえるのは少々もったいない。
そこで、自覚はないが細工や絵画系が異様にうまい彪に声をかけたのだ。
彪も、将棋の駒ぐらいなら――勿論きちんとしたものを作るには素晴らしい職人芸が必要だ――なんとかなるかな
弘喜さんのお願いだし、と引き受け、きっちり完成させた次第である。

「そう言ってもらえると嬉しいです。他に、なにかできることはありますか?」
「いいや、平気だよ。どうもありがとう」
のほほんと笑われて彪の表情も緩んだ。弘喜の、どんな時でものんびりゆったりしている雰囲気が、彪は好きだった。
この穏やかさのおかげで、緊張しいな自分でもわりとすんなり藍沢家に馴染めたと思っている。
なにを隠そう、藍沢家で一番最初に親しくなったのも弘喜だったのだ。こんなこと天地が逆さまになっても偲乃には言えないが。
「そうだ。彪、昼ごはんはまだだろう?」
「へ? あ、はい。そうです」
「一人で来たということは、偲乃もいないんだね?」
「ええ。ご友人とお出かけで」
篠原茜から誘いを受けた時の「茜さんとお出かけしたいしお話もしたいけど彪と一緒にいれないのは寂しいどうしよう」
とでも言いたげな葛藤した様子を思い出しつつ、彪は答える。きのうのしのさんはすごかったです。
「なら、一緒に食べよう。お礼がてら作るから」
「え、いいんですか?」
「もちろんさ」
わぁい。
「…とはいっても、簡単なものしかないけれどね」
「嬉しいです!」
「じゃあ、作ろう。ちゃちゃっとやっちゃうから、洋子を呼んできてくれるかい」
「分かりました」

台所へ向かった弘喜を見送って、彪は裏庭へ回る。
0532小ネタ2014/04/17(木) 21:23:02.21ID:jN4WETeV
裏庭では、白髪混じりの長い髪を一つにまとめ、紺色の作務衣をびしっと着こなした女性が小さな畑の世話をしていた。
「洋子さん」
声をかけると、女性は未だ衰えを感じさせない鋭い視線を彪に返す。しゃんと伸びた背筋や汚れを落とす機敏なしぐさは年齢を感じさせない。
「彪か。…弘喜がご飯を?」
「はい」
「では、戻りましょう」
そう言って凛とした笑顔を見せたのが偲乃の祖母の藍沢洋子である。
女性としては高い身長にすらりと長い手足、おまけに冷たい印象を受けそうなほど整った顔立ちはさながら宝塚俳優のようだ。
性格も、今は大分丸くなったらしいが強気且つ勝気。男勝りな性格で、学生時代は男性よりも女性からの方がより人気だったとのこと。
偲乃と亮太郎曰く「「私(俺)の性格はおばあさん(おふくろ)から受け継いだ」」らしい。そうかもしれない、と彪は思う。
ちなみにこの言葉は「「だからおじいさん(親父)には弱い」」と続く。確かにそうだ、と彪は思う。

「そうだ。将棋の駒のこと、ありがとうございました」
「いえいえ。あのくらいならいくらでも」
「あのくらいとは言うけれど、大変だったでしょう? なにかお礼をさせてください」
「弘喜さんのご飯が食べられますから」
「……それはお礼になるでしょうが」
困った様子の洋子を見て、彪は自然と笑顔になった。

居間に戻ると、机の上には既に美味しそうな料理が湯気を立てて並んでいた。
彪が洋子を迎えに行ってから戻ってくるまで10分もかかっていない筈なのだが、いつも通りのことなのでもう慣れてしまった。
「おかえり、二人とも。さあ、食べよう」
「ありがとうございます!」
「いつもありがとう」
各々席に座り、いただきますと合掌して早速箸を手に取る。
本日のメニューは、白米と玄米が混ざったホカホカご飯、鰹節の出汁が効いた筍の煮物、鰆の塩焼き、付け合わせに春キャベツとカブの甘辛炒め、
ジャガイモと玉ねぎと油揚げが入ったお味噌汁だ。全然簡単じゃないとか、あの短時間でどうしてこれだけのものができるのだとか、
突っ込みたいところは山ほどあるが、いつものことなので何も言わずに美味しく頂く。
「お味噌汁は今朝作ったもので筍は昨日沢山作っただけだから、そんなに手はかかっていないんだよ」
「心を読まないでください弘喜さん!」
「顔に出てたからねぇ」
「そんなに分かりやすいですか俺」
「…あなたの、素直で正直なところは美徳ですよ」
「……フォローありがとうございます」

何も言えなくなったので大人しくお味噌汁を口に含んだ。白味噌の柔らかい甘さと丁寧にとられた出汁が胃を優しく解していった。
「「……おいしい」」
煮物を食べた洋子と彪の声が被る。思わず顔を見合わせた二人を見て、弘喜は笑みを深くした。
「二人とも、喜んでくれるから作り甲斐があるよ。
 感想は強要するものではないし察することもできるけれど、言葉にしてもらえると、やっぱり嬉しいね」
にこにこ笑う弘喜を見て、洋子は恥ずかしさを誤魔化すように鰆を食べる。
しかし、どこか憮然としていた表情も、絶妙な塩具合の鰆を食べる頃には大分緩んでいて、それを見た弘喜はにこにこにこにこと笑っていた。
(お義父さんが同居をしない気持ち、ちょっとだけ分かるかもしれないなぁ)
いつだったか、あの二人は幼い頃からあんな具合なんだと遠い目をしていた亮太郎に思い馳せつつ、彪は筍を口に入れる。
一から調理するのは難しいと聞くが、流石と言うべきか、程良く柔らかくも噛み応えがある筍には出汁がよく染み込んでいて非常においしい。
こんな料理を無料で食べれるなんて得だ、と笑った彪は、ふとあることを思い出す。
0533小ネタ2014/04/17(木) 21:24:12.18ID:jN4WETeV
「…そういえば、外でご飯食べるの久しぶりだ」
「そうなんですか?」
独り言は存外大きく響いた。
「あ、はい。いつも、偲乃さんが作ってくれるので」
「ああ。……そういわれてみると、私も最近外食をしていませんね」
「やっぱり、弘喜さんが?」
「はい、毎回。妻としてのプライドは大分昔に捨て去りました」
「あはは、なるほど」
料理ができないわけではないんですよ、と弁解する洋子に彪は同意する。
勿論作れと言われれば作るが、偲乃の方がはるかに上手だし、彪が申し出る前になんでもない顔で美味しいご飯が並べられているのだ。
作る機会が減っても仕方ないだろう。

「たまには変わろうかと言ってみても、平気平気の一点張りで」
「うん。それはそうだよ」
ため息交じりの洋子の言葉に、弘喜は柔らかく微笑んだ。
「せっかく料理が得意なんだからさ。大事な人のご飯を自分が作りたいと思うのは、自然な感情だろう」
「そうかもし……」
あまりにもあっさりと、さらりと言われて普通に同意しかけた洋子だったが、時間差で効いてきたようで言葉を止めた。
じわりじわりと頬を染め、丁寧に箸を置き、大きな溜め息をついて頭を抱える。
「…せめて人前では止めてくれと何度言ったら分かるんだ…!」
「事実だからねぇ」
「年齢を考えろ年齢を…!」
「事実だからねぇ」
真っ赤になったまま文句を言う洋子と、のほほんと笑いながら文句を受け流す弘喜を見て、彪は思う。
(お義父さんが同居できない気持ち、分かるなぁ)

塩が効いているはずの鰆は、何故かとても甘かった。


その日の夜、偲乃のご飯を食べながら弘喜の言葉を思い出して、目の前のどこか満足げな偲乃を見た彪は時間差で悶える羽目になるのだが、それはまた別の話。
05344342014/04/17(木) 21:26:23.26ID:jN4WETeV
以上!

いやほんと誰が得するんだって話ですが個人的に老夫婦がとても好きで
その思いが暴走した結果こんなことになってしまってそのすみませんでした
0535名無しさん@ピンキー2014/04/18(金) 09:24:59.00ID:HdhJlalg
GJ!
年をとってもラブラブでいたいものです
見習わねば!
05384342014/07/12(土) 15:06:34.04ID:+jGiZldD
台風が熱気を連れてきたので投下します

調子にのって夫婦2組ぶっこんだら1万字軽く超えてしまったので
微妙な区切りですが前半だけ投下させてください。すみません
葵茜夫婦で、エロ薄い、本番無し、山も落ちも意味もない話なので
必要に応じて「銭湯編」をNGでお願いします
0539銭湯編2014/07/12(土) 15:09:56.88ID:+jGiZldD
昨晩の台風が嘘のような、台風一過の晴天が広がる土曜の午後。
一月ほど前に発売された、訳を担当した本の振り込みを確認して、
「……あ」
僕は小さな声をもらした。

僕の背中に寄り掛かるように座って、今朝届いた先月の結婚式のアルバムを眺めていた茜が、どうかしたのかという風にこちらを見やる。
いつもであれば即座に応えるところだが、僕は、何よりも先に残高の合計額を確認した。その金額を見て、頭の中で色々なことを計算する。
幸いにも茜の仕事は安定しているし、僕の方も、新しい文章を幾つか頼まれた。加えて、有り難いことに訳している小説の内、
とあるシリーズが大人気と言っても差支えない程人気になった。それを考えると……よし、計算終了。
「なあ、茜」
「うん。どうしたの?」
「子どもつくろうか」
「…………はい?」
僕の言葉を聞いた茜は、たっぷり間をおいて、呆然とした顔でこちらを見上げてきた。少し急すぎただろうか。
「子どもだよ、子ども。僕と君の、子ども」
「えっと……あおくんと……わたしの……こども……?」
「ああ」
「…………」
「………………」
「……………………」
「……茜?」
硬直したままの彼女を覗きこんでみると、茜は、とても混乱していた。やはり急すぎたようだ。反省。

「……ちょっ、ちょちょ、ちょ、ちょっとまってあおくん!」
あ、復活した。
「うん、どうした?」
「子どもって、あの、えっ、だって……えっと、待って待って、その、こ、こどもですか!?」
「そうです、子どもです」
「な、なんで!? いや、その、どうして急に!? せ、説明してください!!」
「承知しました。まずはこれをご覧ください」
おそらく言葉での説明は必要ないだろうと思いながら、先ほど記入してきたばかりの通帳を見せる。
最新の欄には、それなりに中々の額が記載されていた。茶色の目が何度も瞬き、確認するかのように金額を読む。
「……こういう時、なんていえばいいんだろ。目標額達成?」
「うん。それでいいんじゃないか」
「そっか……もう、こんなにたまってたんだ……」
「幸いなことにね」
感慨深げに頷く茜を軽く撫でる。
0540銭湯編2014/07/12(土) 15:12:50.68ID:+jGiZldD
子育てには、お金が必要だ。
だから僕たちは、これだけ貯めたらある程度は大丈夫だろうという目標額を定め、それを達成するまではしっかり避妊をすることにしていた。
喜ばしいことに、つい先ほど、その目標額を達成していたことに気が付いたので、お誘いをしたわけだ。ということで。
「僕の言いたいことは分かったな?」
「うん。もっと時間かかると思ってたんだけど…すごいなぁ。さすが葵だね」
「そっちでなく」
「え? って、ゎひゃあ?!」
どこかずれている茜を抱きあげた。
目を見開いて、訳が分からない様子で固まっている彼女からアルバムを受け取り
――ちょうど、白いウエディングドレスの茜とタキシードの僕が、笑顔で寄り添っている写真だった。改めて見ると恥ずかしい――通帳を挟んで机に置く。

そのまま寝室の扉を開けたところで、ようやく僕の意図が分かったのか、茜は一気に顔を赤らめた。可愛い。
「あ、葵?! 葵さん、あの、ちょっと待ってください!」
「なんでだ」
「なんでって、だって、まだ明るいんだよ!?」
「大丈夫。それはそれで燃える」
「燃えないよ! あの、あと、私、今日、まだ、お風呂入ってない…!」
「大丈夫。今日は汗かいてないし、茜の匂いは大好きだ」
「全然大丈夫じゃない!」
あわあわと叫ぶ彼女をベッドに座らせ、その隣に腰掛けてなるべく真剣な顔で茜を見る。
「なあ、茜。僕の子ども、産んでくれないか」
「えっ…え、あの…えと…。……う、産みたい、です」
「話はまとまったな」
流れるように押し倒す。
「あああ私の馬鹿!!」
「……もしかして、嫌なのか?」
「そんなわけないでしょ! 産みたいよ! 産むよ! だけどちょっと待って心の準備が!」
「なるほど。なら、40秒で準備しな」
「囚われの女の子を助けに行くんじゃないんだから! それに微妙に違う!」
ツッコミを入れるのはそこか。
我慢できず、つい苦笑した僕の下で、茜はこの現状をどうにかしようと焦っていた。
顔を赤らめ、両手を手持無沙汰気味に漂わせ、なのに本気での抵抗はしない。ああ、なんて可愛くて、夫思いのお嫁さんなんだろう。
0541銭湯編2014/07/12(土) 15:16:05.24ID:+jGiZldD
彼女の気持ちも分からないでもない。
普段、電気を薄く点けるのでさえ恥ずかしがる茜だ。こんな明るい時間からこんなことを始めるのに抵抗があるのだろう。
その気持ちは一応理解できるし、貞操観念がしっかりしているお嫁さんで大変喜ばしいのだが、
大好きな子を孕ますことをずっと我慢していた僕は、限界だった。

きっと、そんな気持ちが顔に出たのだろう。
僕を見上げた茜は、元々赤かった顔を更に赤くし、彼女を見降ろす視線から逃れようと目を逸らす。が、逃がさない。
「茜。僕はもう、わりと限界だ」
「っ……!」
「これでも、我慢していたほうなんだ。ここには僕と君しかいない。明るかろうがなんだろうが、今、抱きたい」
「だっ…!? あ、あおくん、おねが、ちょっと落ち着いて…?」
「無理」
二文字で切り捨てると、茜は言葉に詰まったが、不意に何かを思い出した様子で僕の肩を押さえる。
「そ、そうだよ、ほら、銭湯!」
「……銭湯?」
何故に今このタイミングでそんな言葉が出てくるのか。
「公園の近くに新しい銭湯ができたから、行ってみようって言ったでしょ?
折角の休みだし、早い時間から行けば空いてるだろうから、今から行ってみない?」
「…えー…」
「ほ、ほら! 最近色々あって疲れてるし、たまには温泉でリフレッシュするのも楽しそうだよ?」
「……否定はしないけどさ」

この状態でお預けなんて、中々に鬼畜なことを仰ってくれる。
だが、僕はともかく茜が疲れているのは確かだし、そもそも銭湯の話をしたのだって、彼女にリラックスしてほしいのが主な目的だ。
僕の欲求より茜の体を優先すべきなのは言うまでもない。
僕の勢いが減少したのを察したのか、茜は更に言葉を重ねる。
「その、そういうことをした後に、ちゃんと洗わないで外に出るのは嫌だし…色々、本末転倒でしょ?
だから、帰ってきてからならいいから、今は、行こう?」
茜の声は安堵の響きを持っていた。
考えるまでもなく、最後までやっちゃったら風呂に入ってからじゃないと外出できない。
銭湯に行こうって言っているのにそれじゃ、なんとも馬鹿馬鹿しい話だ。
茜がそういう目で見られる可能性を上げるのもどうかと思うし…とそこまで考えて、僕は天啓を授かった。

「なら、中にいれなければいいんだな」
「……え?」
「だって、そうだろ? 君だけなら、拭けば問題ないじゃないか」
言いながら覆いかぶさるようにして近付くと、予想だにしなかったのだろう、茜はとても慌てた。
「ま、待ってよ葵! それじゃ、意味ない…」
「子どもはあくまで結果だからね。今の僕の目的は、子どもを作ることじゃなくて、茜のやらしいとこをいっぱい見ることだ」
「ちょっ…ま、待ってくださいあおくん! だって、だって、こんな時間なのに!」
「僕は、朝昼晩関係なく24時間いつだって、茜を抱きたいと思ってる」
「少しは自重して!?」
「常に自重してるよ。…なあ、頼むから、これ以上焦らさないでくれ。本当に限界なんだ。つべこべ言わず抱かせろください」
「なんかそれちが、んんっ!」
これ以上押し問答をしても意味がない気がしたので、半ば強引に口を塞いだ。
当然、茜は非難がましい目で僕を見る。が、それには気付かないふりをして唇を割る。
舌を侵入させ、反射で強張っている彼女の舌を絡め取る。茜が僕の肩を優しく押したが、止まれなかった。
「ふ、んん…っは、あお、ぅん…!」
言葉も全部呑みこんでしまう。それだけ必死だった。茜に夢中になっていた。
そんな僕の様子が、言外の空気で伝わったのだろうか。
茜は仕方ないなぁと目元を緩めると、肩に触れていた手を首の後ろに回し、僕を抱きしめた。辛うじて残っていた理性が、吹き飛んだ。
0542銭湯編2014/07/12(土) 15:20:03.76ID:+jGiZldD
茜に触れる時、僕はいつも思う。彼女以上に、柔らかくて、暖かくて、心地よいものが、この世に存在するのだろうか。
「んっ、は…ぅ、あお、いぃ…」
甘い吐息が混じった言葉を聞きながら、柔らかくも張りがある乳房をゆっくりしゃぶる。
茜は僕の髪をくしゃくしゃとかきまぜていたが、空いている手でおへその下を撫でると身を震わせた。
下腹から腰に、腰から足の付け根にと徐々に下がりつつ、口では彼女の胸を舐めたり、吸ったり、軽く噛んだりする。
……ああ、僕は、なんて贅沢なことをしているんだろう。
「あおいっ…ぁ、それ…や…」
「嫌じゃ、ないだろ」
言って、もう片方の胸をぺろりと舐めた。細い首が軽くそる。
その反応に気をよくして、控え目ながらも硬くなっている乳首を唇で食み、舌でこね、歯を当てた。堪えきれなかったのだろう、か細い悲鳴がもれた。
滑らかできめ細かな肌は仄かに染まり、じんわりと熱を帯びている。本当なら、強く吸いついて鮮やかな痕を残したいところだが、今は我慢だ。

形の良い胸を堪能しながら、逃げないよう片手で腰を抱いて、もう片方の手を秘所に寄せた。
茜の身体で一番熱いそこは、刺激を待ちわびるかのようにしとどに濡れそぼり、軽く指を動かすだけで水音がした。
「やっ…音、やだぁ…!」
「そうなのか? こんなに喜んでるのに」
「やだ、よ…恥ずかし…ぁんっ」
「ほら。ちょっと触っただけなのにくちゅくちゅいってる」
「ふぁっ…そ、それだめぇ…」
わざと音が出るよう指を動かすと、茜は恥ずかしがって逃れようと腰を引く。
もちろん逃がすつもりは毛頭ないのでしっかり抱き寄せ、中指と人差し指をそろえて秘部を撫でた。
茜はたまりかねたように顔を逸らし、秘裂からはとろりとした愛液が溢れてくる。
「茜、目閉じないで」
「ひっ、ん…だ…って、ぅぁっ…はずか、し、よぉ…」
「恥ずかしくないって。すごくかわいくて、きれいだよ。な、顔見せてくれ」
そう言って頬に唇をよせると、涙が滲んだ茶色い瞳が僕を見た。羞恥心の奥に、情欲や期待が隠されている。
0543銭湯編2014/07/12(土) 15:25:08.58ID:+jGiZldD
いつもなら、じっくり時間をかけて羞恥心を溶かして欲しがってもらうところだが、今それをしたら僕の我慢が効かなくなるのは目に見えている。
そうなるわけにはいかないので、ついばむような口付けを落としながら、しっかり濡れている中指を一気に中へ突き入れた。
「んあっ?! ぁ、やぁぁあああっ!」
一拍置いて、茜の背中が弓なりにしなった。中指が柔らかく締め付けられる。
「…ぁ…あ…」
「…茜、すごく色っぽい」
言いながら、中指を抜き差ししてお腹側の壁を刺激する。
柔らかい襞の感触を楽しみながら探っていると、少しザラザラした一角を見つける。
軽く触れた途端、茜が小さな悲鳴を上げたが、気にせず指の腹で擦り上げた。
「ふぁああっ?! やっ、あおく、そこだめぇっ!」
「だめじゃないだめじゃない」
「だめっ…だめ、なの! んゃっ…きもち、よすぎる、からぁ…ひゃああっ」
そんなことを言われて止めるわけがない。
びくびくと震える茜の身体を撫でながら一瞬考え、今日はこっちがいいかな、と親指を陰核に寄せる。
半ば夢見心地の茜が気付くよりも早く、
「ひああっ!? あっ、やっ、ああっ、だめっ、あおくん、だめぇ…!」
充血してぷっくり膨れ、ひくひくと震える陰核を擦りあげた。

内と外を同時に責められ、強い刺激から逃れようと身をよじる彼女を押さえ込む。
半ば無意識だろう、しなやかな足を僕の腰に絡め、淫らな動きで腰をこすりつけ、上気した顔で僕を見る茜は、艶めかしい美しさに満ちていた。
「ほら、まだ終わらないぞ」
いいながら、中指を鉤型に曲げ、指の先でざらついた部分を小刻みに抉る。
再三、茜の身がしなり、甘い悲鳴が上がった。自然と零れた涙をなめて、柔らかい唇にかじりつく。
涙と色に染まった茶色の目に映る僕は、心底楽しそうな顔で笑っていた。
0544銭湯編2014/07/12(土) 15:28:01.89ID:+jGiZldD
あんな茜相手でも堪えられるようになったなんて、僕は、理性が強くなってきたのかもしれない。
そう心の中で呟いて、隣の、楽しそうな茜に目を向けた。

風が涼しくなってきた夕焼け空の下を、僕たちはのんびりと歩いている。
茜が受け入れてくれたおかげで、まぁなんとかそれなりに満足をしたので、当初の予定通り銭湯に行くことにしたのだ。
茜が疲れているのは本当だし、新しくできた銭湯はスーパー銭湯というヤツで、温泉以外にも
食事を食べたりマッサージをしてもらえたりするらしいのだから、リフレッシュのため行かない手はない。
だが、昔の、それこそ結婚したばかりの僕であれば、銭湯の予定は次の日に繰り下げて、心ゆくまで茜のことを味わっていただろう。
そうせずに我慢できたあたり、理性が強くなったか、もしくは、
「……僕もそろそろ年かなぁ」
「ううん、それはない」
きっぱり即答された。

だけど、と茜を伺うと、彼女はいたずらっ子のような笑みを浮かべて僕を見る。
「いつも、私がもう無理って言ってるのに、全然聞いてくれないでしょ。
葵がさっき我慢できたのは、年のせいじゃなくて、銭湯で私の疲れを取ることを大事なことだって思ってるからです」
「…………」
つい、言葉に詰まってしまう。
年だという発言だけで、僕が思っていることをほとんど全部把握されて、狐につままれたような気分になった。
表情に出たのだろう。茜が笑みを深くする。
「十年以上、葵がなにを思っているのかなって考えてるんだよ? 私だって、たまには当ててみせます」
少し得意げな彼女を見て、僕は別の意味で目を逸らした。茜が可愛すぎて目が合わせられない。
「……もしかして、照れちゃった?」
「いや、その、まあ、それなりに」
ちょっと違うんだけど、とは言わずに認めると、茜は嬉しそうににこにこ笑う。
くそっ、昔の、それこそ結婚しばかりの茜ならば、気付いたとしても恥ずかしがって言わなかっただろうに。
月日を経るにつれ、段々と、恥ずかしがってばかりいた茜にも余裕が出てきて、可愛いだけじゃなく大人の余裕も兼ね備えてきたのだ。
どうしよう。最強じゃないか。
「……ああ、でも、茜はどんな時も最強か」
少なくとも、僕にとっては。
「あ。葵、あったよ。あの建物じゃない?」
本当に小声で言ったから気付かなかったのだろう。輝いた目で僕を振り返る茜に笑顔を返し、つないだ手に少しだけ力をこめた。
0545銭湯編2014/07/12(土) 15:34:57.69ID:+jGiZldD
銭湯は、スーパーという形容詞が付くだけあって、広々としていた。
一階は駐車場になっていて、入口は二階にある。中に入ると、温泉特有の硫黄っぽいにおいが漂ってきた。
内装は和風で、柱が走っている天井は高く、開放感がある。お風呂は建物の奥にあって、それ以外の場所は、休憩所兼お食事処になっていた。
和風の扉の先にはマッサージ屋さんもある。
茜と二人、すごいすごいと喜んでいると、親切そうなスタッフのお姉さんがいろいろと教えてくれた。
食券を買うのと同じ要領で切符を買い、タオル等を受け取って、男湯の入り口前で茜と別れる。

時間が早いからか人の少ない更衣室で服を脱ぎ、荷物をロッカーに入れて中へ入ると、これまた凄い光景が広がっていた。
解放感のある空間には、複数のお風呂がどーんと構えている。手早く髪と体を洗い、さてどれに浸かろうかと首をひねる。
お湯は、基本的に源泉掛け流しらしい。熱いお湯と温いお湯、電気風呂にバブル風呂に…外には露天風呂と岩盤浴が出来る場所もあるらしい。
こんなに沢山のお風呂を用意してどうしろというのか。
内心ぼやきつつ、ひとまず、むわっとした熱い空気から逃れようと露天風呂の方へ向かう。
そこで、思いがけず知り合いを見つけた。
「やあ、彪じゃないか」
「…へ? あ、葵さん。こんにちはー」
定食屋あいちゃんの入り婿、藍沢彪だ。早い時間ではあるが、あいちゃんを閉めてすぐに来たのだろうか。

隣に座る了承を得てぬるめのお湯につかると、自然とため息がこぼれた。彪が力の抜けた柔らかい笑みを浮かべる。
「お風呂って、いいですよね」
「ああ」
「俺、結構のぼせやすいんで、普通のお風呂だとあまりのんびりできないんですけど、露天風呂だと長く浸かれるんです」
「それはいいな。今日は、偲乃も一緒なのか?」
「はい。ちょっと疲れることがあったんで、もう夜は怠けちゃおうかーって話になって」
「へぇ、珍しい」
思わず言うと、彪は少し困ったように笑って「偲乃、真面目ですからね。たまにはこんな日があってもいいかと思って」と言った。
僕が言ったのはそっちの意味ではないのだが、敢えて言わなくても良い気がしたので話を合わせる。
そこで、なんとなく違和感を感じた。なんだろうと考えて、つい、気持ち良さそうに目を閉じている彪を観察する。直後、気付いた。
普段は服を着ているから分からなかったが、彪は、意外と筋肉質で引き締まった体をしている。
身長は男性平均とさほど変わらず、そうでなくても気弱な性格の印象が強すぎて僕以上にひょろひょろなのではと勝手に思っていたのだが、
それは間違っていたようだ。顔立ちは柔和なままだが、しっかりした体躯と合わせると、どこか野性的な印象を受ける。これが違和感の正体か。

一人で納得し、彪と同じように目を閉じた。雨が止んだからか、どこからか鳥のさえずりが聞こえる。
「……そういえば」
「はい?」
「疲れたことって、なにがあったんだ? 君がそんなことを言うなんて、珍しいよな」
尋ねてみると、彪は穏やかな顔を苦笑させ、頬を掻く。
「実は今日、兄が来たんですけどね」
「お兄さんいたのか」
「あ、はい。兄と姉が一人ずつ。……言ってませんでしたっけ?」
「初耳だよ」
言った気になってました、と笑い、彪は続ける。
「兄さんが、9歳年下の金髪の美人連れてきて、その子と結婚するって言い出したんです」
その言葉は、彼を質問攻めし、ついうっかりのぼせさせてしまい、偲乃に睨まれる結果につながる程度には、衝撃的だった。
05464342014/07/12(土) 15:50:14.47ID:+jGiZldD
中途半端ですみません、しかも規制に引っ掛かって遅くなってすみません!
とりあえずここまでです!
投下した後で銭湯の影が薄いことに気付きました

相変わらず拙い作ですが、少しでも楽しんで頂けると幸いです
05484342014/07/20(日) 23:05:12.05ID:H5UIrV1l
予定より遅くなってしまいましたが投下します

彪偲乃夫婦、エロまで遠い、微妙なSM表現と言っていいのか分からないくらい微妙なの、
本番なるのにエロくない!不思議!なので
必要に応じて「銭湯に行った夫婦」をNGでお願いします

あと、連投規制が怖いのでゆっくり目に投下します、すみません
05494342014/07/20(日) 23:09:03.56ID:H5UIrV1l
土曜日の午後二時。

お昼時をどうにかさばききったことや、あと二時間もすればお店を閉められることもあって、私は自分でも気付かないうちに長いため息をついた。
18の頃から五年間、もうすぐ六年目になるのだから、ある程度は慣れたとはいえ、
いつもより早い時間からお父さんの助けもなく厨房に立つ土曜日は、普段よりも疲労感が増す。
最後のお客さんを彪とともに見送ると、否が応でも力が抜けた。
「偲乃、お疲れさま」
「あなたも、お疲れ様。ご飯作るから少し待ってて」
「たまには俺がやるよ?」
「いいから」
気持ちだけありがたく受け取って冷蔵庫を開ける。
料理人が私生活でも料理を作るとは限らないし、彪の料理はおいしいことも分かっているけれど、彼のご飯は、なるべく私が作りたい。
唯一、これなら、と思えることなのだから。
冷蔵庫の残りを確認したら、鶏肉とうどんが多く残っていたので頭の中で算段をつける。
外はむしているから冷やもいいが、冷房は効いているので温かくするのも良いかもしれない。さて。

「はい、お待たせ」
「大して待ってないけど…」
「お父さんなら30秒は早いし、おじいさんなら2分くらい短いと思うわ」
「それは比較対象が凄まじいんです」
そうかもしれないけれど、だからって妥協するわけにはいかないでしょう。

言葉にしなくても伝わったのか、彪は困ったような笑顔を見せた。その反応は敢えて無視をして机の上に料理を置く。
だしの効いた温かいつゆに手延べうどんを入れ、その上に刻んだ水菜とネギ、鶏肉の照り焼きを乗せた即席のまかないと、おまけに茄子の煮浸しだ。
彪は、わぁい、と嬉しそうに手を合わせる。私の頬も自然と綻んだ。
料理人として、相手が誰であれ、作ったものを美味しいと言ってもらえるのは嬉しいことだ。それが彪なら、喜びは一層深くなる。
一年前、この人と初めて会った時は、自分がこんなことになるなんて想像すらできなかったのに、人の心とは不思議なものだ。

嬉しそうに食べていた彪は、けれど、私が自分の分を用意して隣に腰掛けると眉根を寄せた。
「……またそれだけなの?」
「十分よ」
彼の目は私の昼食――朝のうちに作っておいた梅むすびに薄味のだし湯をかけ、なすの煮浸しを添えたもの――に向けられていた。
「それとも、これじゃ不服?」
彪は口をへの字に曲げる。
「中身に文句があるわけじゃないよ。お米はお腹にたまるし、梅干しは疲れをとるし、水分も取れるしお湯なら体も冷えにくい。野菜だってちゃんとある」
「ならいいじゃない」
「量が少なすぎるんです、量が」
改めて自分の食事を見る。
小盛用の小さいお椀に一杯と小鉢に少し。確かに、世間一般の女性が食べる量と比べても少ない自覚はある。けれども。
「作ってるだけでお腹いっぱいになるんだもの。本音を言うなら食べたくないくらい」
「だとしても、もう少し食べてください。倒れるんじゃないかって不安になる」
「平気よ。これまでもこれで平気だったんだし」
「……だからこんなに細くて小さいんだよー」
「貧相な体で悪かったわね」
「そんなことは言っていない」
余計な遠慮のない会話に胸が暖かくなる。今までなら、こんなこと、お互いに言えなかったはずだ。
意図せず緩んだ目元を「真面目に言ってるんだよ」ととがめられたが、そういう彪の表情も柔らかい。
激しい言動がなくたって、互いが思いあっていることが伝わってきてなんとも嬉しかった。

そんな、穏やかな時だった。
「よお、こんちは」
「こ、こんにちは…」
「あ、いらっしゃいま…兄さん!?」
彪の兄で私の義兄、和泉樹さんが、どこからどう見ても日本人離れした美人を伴って店にやって来たのは。
0550銭湯に行った夫婦2014/07/20(日) 23:14:01.13ID:H5UIrV1l
「日本人離れした美人…ってことは、外国の人?」
隣で首を傾げる茜さんに、私は肩をすくめてみせた。
「ハーフみたい。父親がドイツ人なんだって。
 でも、生まれも育ちも日本育ちで、性格も、夫の三歩後ろに控えてる古き良き日本女性、って感じだったわ」

色々と面倒になってやって来たスーパー銭湯で偶然出会った茜さんは、その説明を聞いて楽しそうに目を細めた。
私より二歳年上だけど、十年程付き合ってきた今でもそのことが信じられなくなる。それくらい、茜さんは可憐な人だった。
「じゃあ、偲乃の二人目のお姉さんだ」
「年下だけど」
「そうなの?」
「しかもまだ学生よ。将来有望な二十歳」
「二十歳!?」
これには茜さんも驚いたようだ。その気持ちはよく分かる。私だって、危うく振っていた鍋を落としかけたのだから。

いくら茜さんとはいえ、この話は言わないつもりだけれど、
私の義姉になる予定の恵実・バイルシュミット・高坂さんと、お義兄さんが交際を始めたのは五年前だと言う。
当時、お義兄さんは24歳で、彼女は…計算するまでもない。
我慢できなかったのだろう、彪は「犯罪だ!?」と悲鳴を上げ「馬鹿言うな籍を入れるまで手ぇ出す気はねえ!」と言い返された。
「大体、外見だけ見ればお前の方が犯罪だ」とおまけまで付いて。
一瞬、鍋の中のレバニラ炒めに山盛りの唐辛子と山椒と柚子胡椒をぶちこんでやろうかと思ったが、プライドがそれを許さなかった。

「二十歳かぁ…。……私が自覚した年と同じだ」
「しかも私に指摘されてね」
「……その節は多大なるご迷惑を……!」
お風呂のせいだけではないだろう。茜さんは顔を赤らめ、ぶくぶくぶくとお湯に沈んだ。
その仕草だけ見れば愛らしい子どものようだけれども、髪をお団子にしているせいでちらりとのぞくうなじには色気が浮かんでいる。
葵も大変だ、と無責任に思う。
同時に、私も結べるくらいに髪を伸ばしてみようかと考えてみて、すぐに却下した。おそらく、似合わない。

「そ、それはそれとして! 彪のお兄さんって、そんなにすごいこと言いだす人だったっけ?」
「私も、彪も、あんなお義兄さん初めて見た」
お義兄さんは、私が見る限り、三兄弟の中でお義母さんと一番似ている。
明るく快活で直情的。少々型破りなところもあるけれど、兄妹の中では一番常識的で、いざという時は頼りになる、まさにお兄さんだ。
深く付き合えば付き合うほど、九歳年下の女の子と仲良くして、挙句結婚するなんて言い出すような人ではないと分かる。
…………そう、思っていたのだが。
「なんていうか……恋愛って、良くも悪くも人を変えるじゃない」
「ああ、それをもろに体現しちゃったんだ」
「凄いのよ、近年まれにみる真剣な顔で、
 “初めて会った時にこの人だと思った。その感情は日に日に強くなった。もう結婚するしかねえ!”とか言いきっちゃうの」
「ちょっ、ええっ!?」
すごいね、樹さん、と茜さんはのんきに笑っているが、実際に目撃したこちらからしたら、笑い事なんかでは断じてない。
あのお義兄さんがあんな顔であんなこと言うなんて、ちょっとしたホラーだった。

確かに恵美さんは美人だ。すらりとした長身でスタイルも良い。
金と焦げ茶のツートンの髪は複雑な色味できれいだったし、愁いを帯びた鳶色の瞳や大人しい話し方にも後押しされてとても大人っぽい。
私だって、言われなければ、二十歳で学生だなんて気付かなかった。
それでも、だ。
あの常識的でしっかり者のお義兄さんが、きっとそうは見えなかっただろうとはいえ15歳の女の子に一目惚れして、
結婚するなんて言い出すなんて。しかも、デレデレに惚れているだなんて。
0551銭湯に行った夫婦2014/07/20(日) 23:20:36.03ID:H5UIrV1l
言葉が見つからなくて大きなため息をついた私の頭を、茜さんが優しくなでた。
気恥ずかしいような嬉しいような気分で大人しくなった私に、柔らかい声がかけられる。
「そんなことがあったのなら、いつも以上に疲れたでしょ」
「そうなのよ。だから、もう、何もやる気が起きなくて」
素直に白状すると、茜さんは何故か笑みを深くする。
「偲乃がそんなこと言うなんて、珍しいね」
「……そう?」
「そうだよ。今までは、私や葵がどんなに言ったって、弱音もはかないし、頼ってくれないし、甘えてくれないし」
「……かなり、甘えたり頼ったりしてると思うんだけど」
認めるのは恥ずかしいが、そんな風に思われていたのかと少し慌てて言う。なのに、茜さんはいじけた様子で口を尖らせた。
「分かってるけど、素直に口に出してくれなかったでしょ。さっきみたいな話だって、最近になってやっと教えてくれるようになったし」
「そ、そんな…」

なんと言うべきか困っておろおろしてしまう。しかし、茜さんはそれ以上文句を言うことはせず、むしろ目を輝かせて、
「やっぱり、彪のおかげかな?」
「……え」
 私は言葉に詰まる。茜さんは、逃してくれない。
「だって、偲乃が初めて相談してくれたのって、夫婦円満のコツでしょ?」
「…………」
「彪との関係を、ただの同居人以上にしたかったから相談してくれたんでしょ?」
「…………」
「言葉で伝えるのが恥ずかしすぎるって葵に相談したのだって、彪に、自分の気持ちを分かってほしかったからだよね?」
「…………」
「沈黙は肯定ととるよ?」
「なっ……ぅ……」
肯定ととられるのは恥ずかしかったが、否定なんてするわけにもいかないので、答えに窮してしまう。顔が、熱い。

真っ赤になっているのであろう私を見た茜さんは、それはそれは楽しそうに、少女のように無邪気な顔で微笑んだ。
「恋愛って、良くも悪くも人を変えるよね」
「……そうですね!」
半ば自棄になって叫ぶ。嬉しそうな笑顔が見ていられなくてそっぽを向いた。
全身で、いじけてますこれ以上こちらの弱い部分に触ったら逃げますオーラを出していると、茜さんが笑う。
「ごめんごめん、ちょっとからかっちゃって」
その声は、いつものように、いや、いつも以上に優しい。
「偲乃って、頑張り屋さんで一生懸命だから、自分だけで全部やっちゃうでしょ?
 凄いなぁって思ってたけど、ちょっと心配でもあったんだよ。弱い所、全然見せてくれないんだもん」
そこで言葉を区切り、優しい手で私をなでる。
「だから、彪が来てくれて安心したんだよ? 彪といる時の偲乃、リラックスしているように見えたし。
 葵風に言うと、抜き身の刀だったのが、あるべき鞘を見つけて落ち着いたんだねって」
そう言う茜さんは本当に嬉しそうで、彼女が心から私のことを考えていてくれるのが分かる。
「……茜さん」
「うん?」
私は小さく息をついて、年下のようだけど頼りになる友人に振り向いた。
0552銭湯に行った夫婦2014/07/20(日) 23:24:55.86ID:H5UIrV1l
「何を企んでるの」
「やだなぁ、協力者の権力を使って偲乃と彪の話を聞き出そうだなんて、思ってないよ?」
「白々しいにも程がある」
「だって、気になるんだもん」
「あなたは、そんな、下世話な話に興味ないでしょ」
「偲乃は特別です」
「その特別扱い、全然嬉しくない」
「まあまあ。で、どう? 最近の彪とは」
「答えなきゃいけない義務はないはず」
「もちろん義務はないけど。いいの? 偲乃がこれまでしてくれた相談や、ノロケにしか聞こえない悩み事、全部彪に伝えるよ?」
「っ……!」
さらりと言われて、私は思わず戦慄した。茜さんは笑みを深めて、
「"彪は優しすぎる"とか、"人を疑うってことを知らない。無防備すぎ"とか、
 "人当たりが良いから好かれるのは良いけど…他に好きな人できちゃったらどうしよう"とか
 "どうすれば彪が喜んでくれるかしら"とか、"なんで私、彪のことこんなにす」
「す、ストップ! ストップ!!」
慌てて静止すると、さらさらととんでもない暴露をしてくれていた茜さんは、ふふふ、と笑い声をもらす。

訂正しよう。茜さんは可憐な少女みたいだ、と言ったのは嘘ではないが、純真無垢な少女にしては強すぎる。
出会った頃の彼女はもっと素直でからかいやすかったのに、どうしてこうなってしまったのだろう。
心の中で嘆きながら、嬉しそうに笑う彼女に視線を返す。
もう、こうなったら、仕方がない。覚悟はできた。なんでも聞けば良いのだ。どんな質問にもきっちり答えてやろうじゃないか。
よし、と気合を入れて、いつも通り、強気に宣言する。
「じゃあ――お願いだから、今度何かおごるから、ほどほどに、控え目に、無難な範囲内の質問でお願いします」
「はーい」
0553銭湯に行った夫婦2014/07/20(日) 23:28:31.97ID:H5UIrV1l
「ふー…今週もお疲れさま、偲乃」
「ん。あなたも」

結局、篠原夫妻と夕食を食べ、のんびり帰って来た私たちは、帰宅早々寝る支度を整えて布団の上に寝転んでいた。
一組の布団を二人で使うのは少し窮屈だけれども、不快な狭さではない。
のんびり笑う彪にくっついてみる。
しっかりした腕に頭を預け、引き締まった身体にすり寄ると、彪は顔を赤らめた。が、嬉しそうに微笑んで私を撫でる。
こそばゆい力加減で髪を梳かれ、体全体がじんわり暖まる。快楽と言うほど強くはないけれど心地よい。
多幸感にうっとりしながら彪を伺ってみると、柔和な表情の奥に仄かな熱量が見えた。それにつられて、私の奥もふるりと疼く。

我ながら、ずいぶんとまあ色好みになってしまったものだ、と内心苦笑する。
初めての時は、痛いし緊張するし疲れるしで、絶対好きになれないと思ったのに。
私の様子に気付いたのだろう。
彪は顔を更に赤くしながらも、ゆっくりと、どころかおっかなびっくり、私に覆いかぶさってきた。
私は彪のものなんだから、遠慮なんかしなくていいのだけれど、思いが通じても彪が遠慮しいなのは変わらない。
もしかしたら、地がそういう性分なのかもしれない。
それならそれでいい、とも思う。もどかしかろうと強引だろうと、彪がくれるものなら、どんなものでも嬉しいから。

両手を彼の頬に添えると耳まで赤くなって眉を下げた。情けないはずの表情が言いようもなく可愛らしく見えて頬が緩む。
ぴんぴん跳ねている柔らかい髪をくしゃくしゃと撫でてみたら、彪は恥ずかしそうに笑って唇を寄せてくる。
「あの……いい?」
「もちろん」
両手に力を込め、嬉しそうに笑う彪に私からキスをした。
0554銭湯に行った夫婦2014/07/20(日) 23:32:31.25ID:H5UIrV1l
身体を寄せあい、足を絡め、互いの呼気を交換するかのように口付けを交わす。
彪は、最初のうちこそ遠慮がちだったけれど、段々開き直ってきたからか、次第に積極的になってきた。
舌を押し付け合うだけではなく、下唇を優しく食み、上唇をちゅうっと吸う。
初めは私の方が押していたのに、彪に求められる内に、頭の中が朦朧としてきてなされるがままになってしまう。
優しい口付けが降ってくるたびに背筋が震え、筋張った手で撫でられるだけで肌が泡立つ。
彼の頭を撫でていた私の両手は、いつの間にか、縋るようにしがみついていた。
「…ふ…はぁ…」
「っ…偲乃、かわいい」
どこか堪えるように呟かれる。
恥ずかしさと反感が混じってつい睨んでしまうと、切羽詰まった、切実な目を返された。思わず言葉に詰まる。なんで、そんな顔をするの。
「偲乃…偲乃、好きだよ。好きだ」
切なげな声で何度も名前を呼ばれ、心が震えた。好きだよ、と囁かれるだけで、お腹の奥からどろりとした熱が零れる。
ほとんど触られてもいないのに、まったく、私の身体はどうなってしまったのか。

こちらの戸惑いには気付かないようで、彪は少し苦しそうな、けれど幸せそうな笑顔で私を見つめる。
なんだか待てをしている犬のようだ、と思って、現状と合わないにも程があるその発想に苦笑してしまう。笑い声の代わりに無駄に甘い声が零れた。
「偲乃、ねえ、もっと声聞かせて」
「っ、いやよ、ばか」
「そんなぁ」
そこをなんとか、とかなんとか言いながら、彪は私の寝間着を脱がせにかかった。
以前に比べればぎこちなさの抜けた手つきでボタンを外し、前をはだける。
好意的に表現しても控え目な胸があらわになって、私は、思わず目を逸らした。

それまでは、不便さは覚えつつも自分の身体に不満はなかったのに、想い人ができた途端に自身の貧相さが気になりだす。
そんな、ドラマや小説のような感情は、一生縁がないものと思っていたのだけれど。
「……ごめんなさい」
つい、思わず、考えるよりも先に言葉が飛び出した。何の脈絡もない発言に、当然、彪はきょとんとする。
「どうして偲乃が謝るの?」
「や…あー…その…」
「うん?」
とっさに誤魔化そうとするも、優しい力加減でそっと皮膚を撫でられると、どうにもまともな思考を保っていられない。
「……あの、ね?」
「うん」
「私の身体って、さわっても楽しくないから」
「そんなことないよ?」
「だって、ん…あなた、別に、幼児趣味無いっ…でしょ?」
彪は、私の言葉を真剣な顔で聞いてくれているけれど、その手は悪戯に動いてこちらを乱す。
緩やかな乳房をてのひらで包まれ、時折指先に力を込められるだけで、私の身体は面白いくらいに反応してしまう。
「もしかして、兄さんに言われたこと気にしてる?」
「べ、つに…っっ、そ、ゆうわけじゃ、ない…けど…」
どちらかといえば、大分前から気にしていた。彪と一緒に外を歩いていても、大体は兄妹に見られてしまうし。

彪はふっと目元を緩め、柔らかく口付けてきた。
深いものを期待した私に反し、数度軽くついばむと、頬から首筋、鎖骨へと舌を這わせる。
手とは違う熱いぬめりが体に触れるたびに鼻にかかった声がもれる。
「確かに、俺はどっちかっていうと年上のお姉さんがす――いたい、いたいです偲乃さん」
「自業自得よ」
「話は最後まで聞いてくださいって」
反射的に髪を引っ張った私に情けない笑顔が返された。
ふん、と息をつくと、ご機嫌伺いのように唇が寄せられる。今度は期待通り、深いものを。
小癪なと思いつつも、舌を吸われ時々噛まれ、混じりあった唾液を飲まされると、不満よりも喜びが勝ってどうでもよくなってきた。
0555銭湯に行った夫婦2014/07/20(日) 23:40:58.53ID:H5UIrV1l
否応にも力が抜けた。
ぼんやりとした視界に彪を映すと、彼は、普段は見せない満足げな目で私を見おろしている。
「人の好みって変わるじゃない。今の俺にとって、偲乃以上に魅力的な人はいません」
「……ロリコン」
ああ、また可愛くないことを言ってしまった。
「別にちっちゃい子には興奮しないからロリコンじゃないです。…それに」
私の答えに気を悪くした様子もなく、彪は片方の手を私の下着に潜り込ませた。
とっさに寄せた足を軽々と割り、既にびしょぬれになってしまっている秘所に触れる。
軽く動かしただけだろうに派手な水音が耳に届いて、一瞬で身体が熱くなった。
「…こんなにえっちなんだ。ちっちゃい子とは思えないよ」
「っ……!」
返す言葉が見つからない。ので、精一杯睨みつけてみても、彪は眉を下げるだけで動じなかった。

今までの彪だったなら、こんな、私の羞恥心と被虐欲を煽るような真似はしなかっただろうけれど。
これも、少しずつ遠慮が抜けてきた成果…だろう。多分。きっと。おそらく。
「ぐ、ぐだぐだ言ってないで、その…わ、分かったでしょ。もう、入れてよ」
「……ごめん、もうちょっと」
「ちょ、んぁっ」
言葉と一緒に秘裂をなぞられ悲鳴を上げてしまう。
とっさに口を押さえようと手を動かしたが、それより先に両手首を掴まれ頭の上に押さえつけられた。
「偲乃、声聞かせて」
「やっ…んん…!」
「…我慢強いんだもんなぁ…」
呆れとも感嘆ともつかない言葉を零し、彪は胸に口を寄せた。挨拶代わりに数度口付け、乳房を食み、ぴんと張っている乳首を舌でこねる。
空いている手で秘裂をくすぐり、気紛れに一番敏感な部分をつまむ。
私の弱点を知り尽くした、的確な愛撫だ。
なのに、どろどろした熱を孕み、彪を欲して震える奥には触れてくれない。一番、いちばん、さわってほしいのに。
「…っ…あき、らぁ…」
「んー?」
「も…ちゃんと、さわって…!」
「ん。これはどう?」
言って、乳首を強く吸う。同時に肉の芽を強くつままれ、私は、呆気ないくらい簡単に絶頂に達した。
背中が弓なりにしなり、腰が意思に反して小刻みに跳ねる。
手を押さえられているのがもどかしい。彪を抱きしめたくて手を動かすと、意外なくらいにあっさり解放された。
必死でしがみついた私を力強い腕で抱き返してくれる。心がきゅうっと締めつけられた。
「……偲乃、すごく、かわいい」
噛みしめるように言われ、大人しくなっていた火がまた燃え上がった。内に篭もる熱をどうにかしたくて彪にすり寄る。
0556銭湯に行った夫婦2014/07/20(日) 23:44:08.90ID:H5UIrV1l
彪は何度もキスをくれた。
嬉しそうな目に物欲しげな私が映る。羞恥心で顔が熱くなるが、それよりも、とにかく彪のことが欲しかった。
「あきら…あきらぁ…」
「うん…ほしいの?」
「ほしぃ…ほしい、のぉ…おねが、いれて…?」
「そうだね。俺も入れたい」
はしたなくすり寄る私を撫でさすり、彪は器用に剛直を取り出す。雄々しく立ち上がるそれが愛おしくて、お腹の奥から雫がこぼれた。

彪の名前を呼びながら何度も口付ける。熱い身体をどうにかしたくて、早く私の中を埋めてほしくて、とにかく必死だった。
「あきら…あきら、お願い…ちょうだい、ね、これ、ほしぃ…!」
いつもの私であれば、恥ずかしすぎて言えるわけがないことも言えた。すると、彪はふと目を細めて、口元の端を持ち上げる。
「そんなに、ほしいの?」
「ん…ほしい…あきら、おねがいぃ…」
「じゃあ、自分でいれてみようか」
「……え」
言われていることの意味が分からなくて戸惑う私に、彪は、いつも通り優しく微笑んで繰り返した。
「偲乃が、自分で、入れてみよう? 俺も手伝うから」
言って、彪は私の身体を持ち上げる。
あぐらをかいた彼の上に、膝立ちのような格好の私が乗っかったところで、ようやく彪の言いたいことが分かった。
同時に、どこかへ行っていたはずの羞恥心が帰ってくる。
「なっ…そんなのっ…!」
「無理?」
私を見上げる彪はどこか寂しそうで、そんな顔をされたら無理だなんて言えるわけないと泣きたくなった。
言葉に詰まる私に微笑んだまま、彪は私の腰の位置を調節して、物欲しげに震える秘裂に鈴口で触れる。
待ち望んでいた感触と、その先への期待とで胸が締め付けられる。あきら、と呼んだ私の声は、淫らな色に染まっていた。
「ね、偲乃」
「ふっ…うぅ…」
「俺も、しんどいんだ。お願いします」
「……ぅー……」

彪に支えられながら、慎重に腰を落とす。
ぐしゃぐしゃに濡れている秘裂は呆気ないほど簡単に剛直を呑みこんだ。張り詰めた怒張に膣が押し広げられ、彼の形を覚えこまされる。
待ち望んでいた刺激を得られた充足感と、愛しい人を受け入れている喜びで胸がいっぱいだった。
「…あ…あぁ…」
「……すごいなぁ」
熱くて狭い、としみじみ呟かれる。思わずぎゅっと締めつけてしまった私に、彪は心地良さそうに目を細めた。
「あき、らぁ…」
「ん?」
「すごぃ…の…いつもより、深く、て…んぁっ」
一物がひと回り大きくなって悲鳴がもれた。勝手に大きくしないでほしい、と彪を見ると、気まずそうに口付けられた。
「ふぅ…ぁ…」
「あのね、偲乃。そういうことを言われるとこっちも我慢ができなくなるっていうか」
「…がまんなんて、しなくていいのに」
私は、彪のものなんだから。
0557銭湯に行った夫婦2014/07/20(日) 23:51:11.28ID:H5UIrV1l
「…………あーもう」
彪は何やら瞑目する。何か、変なことを言ってしまったのだろうか、と不安になった私は、
「っや、ああっ!?」
けれど、その疑問を口にすることはできなかった。彪が私の腰をしっかりつかみ、より深くまで打ちつけたからだ。
ごりっと音がしたのではと錯覚するほど深く突き上げられ、目の奥で火花が散る。
待ち望んでいたところに強い刺激を与えられ、私は早々に高みへ押し上げられた。でも、彪は止まってくれない。
「ひっ、あああっ!? やっ、あきっ…あっ、まって、あきらぁっ!」
「っふ…偲乃、ごめんね、もうちょっと」
「い、ぁぁあああっ?!」
あっさりと二度目の絶頂を迎える。膣がびくびくと震え、彪の精を受け取ろうと何度も締めつける。けれど、
彪はきつく眉根を寄せて、
「ふわぁ!? あきらっ…まって、まってぇ! 強いのっ…また、またきちゃうからぁっ」
何度も何度も突き上げてくる。

力強い刺激に目の前が真っ白になる。暴力的なまでの快感から逃れようと、身体は意思に反して彪から逃げようとした。
腰が震え、背中が反り、両手は必死で彼の背中をかき抱く。
「偲乃…好きだよ」
耳元で低い声で囁かれ、再三奥がぶるりと震えた。
耳たぶを食まれ、耳の縁を舌で丁寧になぞられて脳髄が愛撫されているような錯覚を受ける。きもちよすぎて、おかしくなる。
情けない悲鳴が口からこぼれる。
私を好き勝手蹂躙しているモノがひと回り大きくなって、彪も限界が近いのだと分かった。
あきら、と名を呼ぶと、その声すらも呑みこんでしまおうと口付けられる。息苦しくて、彪が求めてくれるのが嬉しくて、涙が滲んだ。
「――く、うっ」
「ぁ、やぁ、ぁ――っ!!」
痛いくらいに抱きしめられ、奥深くで精が放たれる。
どくりどくりと脈打ちながら、お腹の奥が温かいもので満たされていった。
0558銭湯に行った夫婦2014/07/20(日) 23:55:15.95ID:H5UIrV1l
ぼんやりと呆けつつ、びくびくと震えるそれの感触を楽しみつつ、今日は激しかった、と息をついていた私だったが、
「……ぇ? あ、れ?」
ゆっくりと押し倒され、阿呆みたいに目をしばたかせて彪を見た。
いつもなら、どんなに激しかろうとねちっこかろうと、彪が出してくれた時点で終わり、なのだけれど。
「え…と…彪?」
「ごめん。もうちょっと」
「え――」
直後、奥深くまで貫かれた。
達したばかりの敏感なところを強く突かれ、入口付近の敏感な場所をこすられ、息が詰まる。

「っあぁぁあああっ!?」
身体が反り、腰が跳ねた。頭の中が真っ白になって、現状を把握することすらできない。
強張った身体を布団に押さえつけられた。
閉じようとする足をこじ開けられ、何度も何度も打ちつけられる。ぱんぱんと肉同士がぶつかる音が、遠くなる意識の隅で聞こえた。
「……偲乃」
低い声が聞こえたと思ったら、首に硬い感触があった。
数拍遅れて、彪に噛まれたのだ、と気付く。ぼんやりしていた思考が明瞭になる。
「ひぁぁああっ! あっ、やっ、ああっ…んぅ、あぁぁあああっ!」
身体が震える。信じられない。笑ってしまうほど優しくとはいえ、急所を噛まれたのに、私は悦びに打ち震えていた。

滲んだ視界に彪が見える。
堪えるように目を細め、荒い息を吐く姿にどうしようもない悦びが込み上げてくる。私で、こんなに興奮してくれているのだ。
「偲乃…偲乃っ」
「あ、ふぁああっ! あきらっ、ああ、ぁ、や、くる、きちゃうっ…!」
「ん…大丈夫、だよ。そのまま」
「あきらぁ…っあ、もぉ…あ、あっ…ひっ――」
ごりゅ、と奥深くを突かれ、何回目かも分からない絶頂に達した。同時に、彪も目をつぶり、私の中に精を吐きだしていく。
勢いの弱まらないそれは、内を埋め尽くしただけでは飽き足らず、結合部から零れてきた。
少し、もったいないな、と思う。折角彪がくれたものなのに。

けれど、そんなことを考える余裕があったのもそこまでだった。
私の中のモノは、二回も出したにもかかわらず、硬い張りを取り戻していく。思わず頬が引きつった。
「……ちょっと」
「…はい」
「まだ、する気?」
「……できれば、もうちょっと」
言葉や言い方こそ遠慮がちだったが、彪の目は爛々と輝いていて、私の意思には関係なく食べられてしまうだろうと予想はついた。
が、それでも、黙っていられない。
「ちょ、ちょっと待って。待ちなさい。もう無理よ。絶対無理!」
「そこをなんとか。もうちょっとだから」
「何度目の"もうちょっと"よ?! 夜が明けちゃうわよ!」
精一杯強気に言うと、彪はいつものように、困ったように笑って一言。
「……ごめんね?」
「ごめんねじゃない! 可愛く言えば許されると思ってるでしょあんた!?
 って、ちょ…ま、まって、本当にまって! 無理だってば! もうむ、んっ、あっ…ば、ばかぁぁあああっ!」

結局、夜が更け、私が気をやってしまうまで、彪は解放してくれなかった。
0559銭湯に行った夫婦2014/07/21(月) 00:00:17.60ID:tqXncdh9
「だるい」
「…はい…」
「腰も痛い」
「……はい……」
「……動けないんだけど」
「誠に申し訳ございませんでしたっ……!」
翌日、朝…というよりはもう昼に近い時間なのに、私は布団に寝転んで彪に文句を言っていた。
昨夜の閨事のせいで、見事なまでに腰砕けになり、起き上がることすらできないのだ。
犯人である彪といえば、布団の脇で正座をして、ひたすらぺこぺこと頭を下げている。これが、昨晩私のことを無茶苦茶にした奴と同一人物だなんて。
「動けないから、ご飯、作れないんだけど」
「不肖ながらわたくしめが作らせていただきます…!」
「掃除や洗濯も、できないんだけど」
「誠心誠意真心込めて、務めさせていただきます…!」
「……せっかくいい天気なのに、出かけることもできないんだけど」
「たまにはお家でのんびりするのもアリではないかと…!」
思いつくままに文句を言うと、土下座をしたまま返事をされる。

「……なんで、あんなことしたの」
「ぅ……や、やっぱり嫌だった?」
「そんなことは一言も言ってないでしょ」
疲れたけど嬉しかったし、と付け加えると、彪はガバッと顔を上げた。その表情は嬉しそうに輝いている。尻尾が付いていたら物凄い勢いで振ってそうだ。
「本当に!?」
「嘘言ってどうするのよ。で、なんであんなことしたの」
「うん! あのね、たまには偲乃に休んでほし……違う嘘なんでもない! あの、俺の理性が持たなかったんです!!」
「……休んでほしい?」
ああああ、と項垂れる彪を撫でながら、考えを巡らせる。
休んでほしい、と言われても、私はいつもきちんと休ませてもらっている。
彪が家事全般を受け持ってくれているから、仕事に専念できるし、休み時間だって取れるのだ。
むしろ、普段彪に任せっきりな分、日曜くらいは家事を変わろうと…とそこまで考えて、ふと、一つの仮定を思いついた。
「……ねえ、彪」
「は、はい」
「もしかして、営業日はずっと働いているから、たまの休日くらい仕事も家事もしないで、ただゴロゴロと休んでほしいと思ったの?」
「――っ!? ちっ、ち、違うよ! 違います! そんなことはない!!」
「で、普通にお願いしても聞くわけないから、あんなに激しくして私を動けなくしたの?」
「ちっ、ちがいます! 単純に俺の理性が」
「ついでに、いつも我慢してる分を発散しちゃおうかなー、とか思ったの?」
「マサカソンナ!」
つまり、そういうことだったのか。
挙動不審極まりない彪を見つめ、口からは自然と溜め息がこぼれた。
彪は、どうにかして誤魔化そうと、ああでもないこうでもないと首をひねっているが、その態度こそが何よりの証拠だとは気付いていないらしい。

自然と緩んだ表情はそのままに、彪の手に私の手を重ねる。
「ねえ、彪」
「な、なんでございましょうかっ!」
「おなか、すいちゃった。ご飯ある?」
「! あるよ! あります! フレンチトースト作った!」
「そう、おいしそうね。じゃあ、食べさせてくれる?」
「うん! ちょっと待ってて!」

ぃやっほう! と駆けていく彪を見送って、私はもう一度溜め息をついた。
「まったくもう…仕方のない旦那さまね」
その声が、心底幸せそうに蕩けていたのは、言うまでもないことだろう。
05604342014/07/21(月) 00:05:32.76ID:tqXncdh9
ここまで!
題名ミスしてすみません!日にちまたいじゃってID変わってすみません!

あの、あれです、彪偲乃夫婦って、偲乃の心情が分かりづらい分色々唐突かと思って
彼女の心情を書きたかったんですが…どうしてこうなるのか…

あとそのですね、そろそろ自給自足には限界が…と言ってもいいだろうか…
とにかく、少しでも楽しんでいただければ何よりです!
お目汚し致しました!
05624342014/10/07(火) 23:22:20.17ID:i+CAH6gZ
保守代わりに小ネタ
前後の流れ不明且つ短い且つエロくないくせに中途半端にそういう描写あるので(15禁くらい?)
必要に応じて「ある日のお誘い」をNGでお願いします
0563ある日のお誘い2014/10/07(火) 23:23:51.99ID:i+CAH6gZ
――いったい、なにがどうしてこうなったんだっけ?

心の中で悲鳴を上げた彪は、自分の上にまたがる偲乃を見上げた。

今まで、ぬるいお風呂にのんびり浸かるというリラックスタイムを過ごしていたはずなのに、
偲乃の声が聞こえたと思ったらすっぽんぽんの彼女が入って来て、こちらが呆然としている間に馬乗りである。

……どうしてこうなった!?

「……あの……偲乃、さん?」
「なに?」
おそるおそる尋ねてみると、偲乃は、怖いくらいにこやかに頬を緩ませる。
何故だろう、大切なお嫁さんの素敵な笑顔を見ているはずなのに、妙に嫌な予感がする。
「その……あの、どうして、何故、お風呂に? もう入ったよね?」
確認のため、どうにか笑顔を作って尋ねると、偲乃は笑顔を深めた。
「折角だから、背中を流そうかと思って」
「いや、それは、嬉しいのですが」
絶対それだけじゃ終わらないよね? の言葉は口に出せなかった。嬉しそうに微笑んだ偲乃が唇を寄せてきたからだ。
「ちょ、しの、」
「ん…」
優しくついばむような口付けが落とされる。
口だけでなく顔中に唇を落とされ、ついでとばかりに耳を加えられ、彪は悲鳴を呑み込んだ。
耳全体を甘がみされたと思ったら、今度は内側を舌先で愛撫される。
彼女の手は、どこか甘えるように彪の肌を撫でていた。くすぐったいような、じれったいような刺激がたまらない。
お風呂の熱とは別の理由で頭に血が上る。お湯に浸かってから時間はそこまで経っていないのに、のぼせそうだ。

とはいえ、彪の中に、偲乃を拒否するという選択肢は基本存在しない。
戸惑いを感じつつ半ば条件反射で彼女を抱きしめ、こちらからも求めると、偲乃は嬉しそうに目元を緩めた。
唇が触れ合うだけのものから、徐々に、互いの唇を食み、舌を絡めあう深い口付けに変わっていく。
段々とお湯が冷めていくのに比例するように、二人の体温は上がっていった。
堪えきれず、反応してしまった一物が、物欲しげに偲乃の秘所に触れる。彼女の瞳が熱を帯びた。
「…ね、彪。して?」
控え目ながらもストレートな物言いに頭がくらくらした。
「……のぼせそう」
「あら。じゃあ、上がってからにする?」
「そうしてもらえると、ありがたいかな」
言って、偲乃を抱きあげた。楽しそうな悲鳴が耳に心地よい。
湯冷めしないようにタオルごと偲乃を抱きしめると、なんとも無邪気な笑顔が返される。
色々とたまらなくなって腕に力を込めた。
「……偲乃って、初心なのか、大胆なのか、分かんないよ」
「お互いさまよ。あなただって、初心なのか、大胆なのか、分からないもの」
「じゃあ…似たもの夫婦、なのかな」
「一緒に暮らすうちに、似てきたのかもしれないけれど」
どちらにしても嬉しいわね、と抱きついてくる偲乃をしっかり抱きしめる。
そうだね、と返した彪の声も、心底幸せそうに蕩けていた。
05644342014/10/07(火) 23:26:55.89ID:i+CAH6gZ
しまった1レスで終わってしまった。ここまでです。
これならわざわざ宣言しないほうがよかったですね。無駄なレス消費すみません。
本当は葵茜夫婦の方も書ければよかったのですが、まだレベルが足りませんでした
お目汚し失礼しました
0570誠一×紗奈2015/07/29(水) 02:11:24.64ID:SnMXQbuh
洗濯もする、掃除もする、家計の管理もちゃんとする。
だけど、料理には期待をしないでほしいの。
住むことになってからこんなことを言うなんて、ごめんなさい。

いつも明るくて快活な紗奈さんが悲しそうに俯いて、長い髪がその表情を隠したところを、
僕はこの日、初めて見た。



会ったその日に意気投合。
次の週からお付き合い。
三か月後にはプロポーズ。
その一か月後にはめでたく入籍。
一緒に暮らし始めたのはプロポーズから半年後。

そんなんでいいのか? って言う友人もいた。
だけど、悪い流れじゃないと思う。
紗奈さんも言っていたけれど、付き合おうって決めた時には、もうこの人は結婚相手だな、
という、根拠のない確信が自分の中にはあったから。
もちろん、家族のこととか、住む場所とか、二人の仕事のこととか、将来のこととか、
考えるべきことは沢山あった。
本当はもうしばらく付き合ってみて、浮かれた時期を過ぎても、一緒にいたいと思ってから、
結婚するべきだったのかもしれない。
食事の相性、家具の趣味、金銭感覚、好みのプレイ。
そういうことも、当然考えたりはした。
けれど、お互いにそう言うところをうまく妥協して、長い年月付き合ったって、別れるときは別れるし、
どんなに好きでも、結婚相手じゃないな、と思うことがある。
それもお互い、経験的に知っていた。
だから、相手を確かめるために時間を費やすのは無駄だろう、
合わないところはこれから合わせていけばいい。
それが僕らの考えだった。
0571誠一×紗奈2015/07/29(水) 02:12:09.61ID:SnMXQbuh
僕は僕でこれまで、コンビニ、外食、カップ麺あたりで済ませていて、料理はろくに作れない。
苦手だって言うなら無理に頑張らなくていい。
休みの日に二人で、練習してもいいんじゃないかな。
紗奈さんにはそう伝えた。
紗奈さんは、ありがとう、と笑ってくれた。

僕は無理に頑張らなくてもいいって伝えたつもりだったけれど、
紗奈さんはかなりの努力家らしいことが、この二週間でよく分かった。
それはそれで、いい発見だと思う。
そう思いはするのだけれど……。
帰るたびに部屋にほのかに異臭が残っているのはどうしたらいいんだろう。
先週は焦げた臭いがした。
一昨日はくさやの臭いがした。
そして、今日は硫黄の臭いがする。
何故……。
紗奈さんは失敗した料理を僕が帰る前に処分しているらしく、新聞紙でくるまれた何かが
コンビニ袋二枚で厳重に覆われ、口のところはガムテープで留められて、
市指定のゴミ袋の奥深くに追いやられている。
それを開封するようなことはもちろんしないけれど、どうやったらこんな臭いが部屋に満ちてしまうのかは
とても気になる。
うっすらと異臭が漂う部屋の中、おそらくコンビニかスーパーで購入してきたであろう食糧たちが、
非常に綺麗に盛り付けられて、テーブルに並んでいる。
これだけ綺麗に盛り付けをできる人が、どうして食材で科学の実験ができるのだろう?
聞いてみたいけれど、それは紗奈さんを傷つけてしまうだろう。
美味しくはあるけれど、どこか味気ないこの味はうちから徒歩五分のところにある
緑の看板のあのコンビニか……。
なんて考えてから、ふと思った。
コンビニ弁当の味なんて気にしたことがなかった。
いや、どれも美味しいとか、腹にたまるとか思って食べていた筈ではあるけれど、
味気ないという感想を持ったことがなかったんだ。
そういう風に思うのは、自分たちで作った料理を紗奈さんと一緒に食べたいと思っているからだ。
0572誠一×紗奈2015/07/29(水) 02:12:45.89ID:SnMXQbuh
「紗奈さん、今度の日曜日暇?」
「暇だよ?」
「じゃあ、一緒に料理の練習、しない?」
紗奈さんの顔が一瞬にして凍り付いた。
これもまた初めてみる表情だけれど、少し、怖い。
そして、拙いことを言った、と即座に理解できた。
「あ、でも」
紗奈さんはゆっくりと箸を皿の前に置くと、手を膝の上に下ろし、下を向いてしまった。
「やっぱり、コンビニのご飯じゃ、嫌だよね?」
「いや、そういう訳じゃないよ」
「無理しなくていいよ」
押し殺したような声でそう始めると、紗奈さんはそこから、静かではあるけれど、
一気に自分の言い分を羅列した。
「やっぱり、ちゃんと料理教室とかに通ってから一緒に暮らすべきだったよね。
 でも、私、せっかく入籍したのに、いつまでも違うところで暮らしてるのが嫌だったから、
 暮らし始めた時のことあまり考えないで、ここに住もうって、誠一君と住もうって決めちゃったの。
 誠一君が『次は住むところを決めようね』って言ってくれた時、すごく嬉しくて、
 たぶん、舞い上がってたんだと思う。
 私、ちょっと自分が冷静な女だって勘違いしてるところあるから、舞い上がってるのに
 気が付かなくて、だから自分が料理が下手なんて、十分知ってた筈なのに忘れてた。
 この何年か練習すらしないから、下手かどうかっていうそんな大事なことも忘れてた。
 しばらくは私もまだ仕事を続けるつもりだから、コンビニのご飯でも家計が切迫するようなことは
 ないと思うから、もうしばらくはこのままだけど、目を瞑ってほしいんだ。
 もう、料理教室は目星がついてるから、明日、申し込みの電話をするね」
「…………」
こんな風にしゃべる紗奈さんを始めてみた僕は、かなりびっくりして、あっけに取られていた。
そして、何故かちょっとドキドキしてきていた。
紗奈さんは、返事をしない僕を待つことなく、また箸を持った。
けれど、僕が箸を持った手をテーブルに置いたまま、放心しているのに気付くと、
悲しそうな眼をこちらに向けてきた。
0573誠一×紗奈2015/07/29(水) 02:13:22.60ID:SnMXQbuh
「ごめんね……。
 呆れたよね」
無言のまま首を横に振ると、紗奈さんは悲しそうな顔のまま笑った。
「誠一君は優しいね。
 私が男の人だったら、こんな女、ドン引きしちゃう」
「紗奈、さん」
とりあえず、僕は口を開いた。
「……僕も料理はできない」
「男の人はやらなくていいんだよ、そんなこと」
「それは女尊男卑だと、僕は思う」
「誠一君、変なことを言うんだね」
「『男は料理なんて作れないんだろう?
  料理は女性がやってやるから男は食ってりゃいいんだよ』という発想が根底にあるから」
「そうなんだ……」
「あくまで僕の意見だけれど」
紗奈さんは困った顔をしている。
「僕は紗奈さんとは出来るだけ対等でいたいし、本当にできないことであれば補ってほしいし、
 補いたいと思っている」
「うん……」
「紗奈さんも、そう言っていたでしょう?
 それに、君が料理は苦手だということを僕に教えてくれた時に、僕は一緒に練習しようと言いました」
なんだか、だんだん腹が立ってきた。
「は、はい……」
「それなのに、一緒に練習しようと言ったら、自分の不備が悪いようなことを言い出し、
 挙句、男は料理をやらなくていいとか、それはあまりにも勝手なんじゃないですか?」
「…………」
今度は紗奈さんがあっけに取られたみたいな顔をした。
0574誠一×紗奈2015/07/29(水) 02:13:53.61ID:SnMXQbuh
「これからも一緒に暮らしていくつもりなら、一方的にものを言わず、僕の意見も尊重したうえで
 議論を戦わせてもらいたい」
僕がそこまで言い切ってから、一呼吸おいて、紗奈さんが笑い出した。
「やだ、誠一君、おかしい」
「おかしいとはどういうことですか」
「だって、敬語になってる」
かあっと顔が熱くなった。
僕のポリシーの一つに、人を怒る時は理論立てて怒るべきであり、その際は年下に対しても敬語を使うべきである、
というのがある。
それが紗奈さんに対して出た。
つまり、僕は紗奈さんに対して怒ってしまったということだ。
「ご、ごめん。
 だけど」
「誠一君て、怒ると敬語になるんだね」
僕は怒ったのに、紗奈さんは何故だか嬉しそうだ。
「ごめんね。
 誠一君の言う通りだね。
 私、自分が想像していた以上に料理ができなくて、混乱してたんだと思う。
 それに、また女尊男卑って言われちゃうかもしれないけど、私も一応女の子だから、
 好きな人には、自分が作った美味しい料理を食べてほしいな、って思っちゃったんだよね。
 それなのに、予想以上に酷いから、ドツボにはまってたんだと思う」
紗奈さんは右手で何かをつまんで、それがどこかに落ちていくような仕草をして見せた。
なんだろう、紗奈さんと結婚しようと決めて、紗奈さんがオーケーをくれた時も嬉しかったけど、
その時の嬉しさとは違う嬉しさがある。
「いや、僕も紗奈さんが料理の練習を始めた時に、すぐに一緒に練習しようと言えばよかったんだよ。
 ごめん」
小さく首を横に振った紗奈さんの頬は、気のせいかピンク色に染まっている気がする。
「ありがとう。
 私、すごく素敵な旦那様、手に入れちゃったね」
本当に嬉しそうにそんなことを言ってくれるから、恥ずかしくなってしまう。
恥ずかしいのに、嬉しくて、胸の奥がくすぐったい。
0575誠一×紗奈2015/07/29(水) 02:14:26.90ID:SnMXQbuh
こんな気持ちは久しぶりだ。
いつ以来だろう、なんて考えて、中学生の時のことを思い出した。
初めて告白した女の子に、私も好きでした、って言ってもらった時の感じだ。
「僕は……、今更紗奈さんに……恋したみたいだ」
「え?」
「あ、いや、ちゃんと元々好きだったよ?
 ちゃんと、好きだという気持ちが根底にあったから、結婚しようと思ったんだし!」
慌てて自分の言葉をフォローしてから、人として好きだったけど、恋人という目では
見ていなかったのかもしれない、なんてことに気がついた。
もっとも、そういう感情はなくていい、ってどこかで思っていた気もするけれど。
そう思っていると、紗奈さんが目を細めた。
「ふふっ。
 誠一君に恋してもらえるなんて、すごく嬉しい」
うわ、この顔は可愛い。
紗奈さんはこんな風に笑ったりもするんだ。
今日は紗奈さんの初めてみる表情ばかり見ている気がする。
「誠一君は、そういうの、要らないって思ってるのかな、って思ってたから」
「確かに、ちょっとそう思っていたかもしれない……。
 だけど、紗奈さんが可愛いから……」
まっすぐ見ていられなくなって、思わず少し視線を外すと、紗奈さんは
僕をまた紗奈さんに落とすようなことを落とすようなことを言った。
「それは、私が誠一君に恋をしている気持ちが出てるんだと思うな」

この年になって、誰かにそんな気持ちを寄せたり、寄せられたりするなんて思っていなかった。
穏やかに過ぎていくだろうって思っていた新婚生活は、思っていたよりずっと浮かれたものになりそうな予感がした。

(了)
0576名無しさん@ピンキー2015/07/30(木) 22:22:11.52ID:TnktPjiw
超GJ!
結婚してから気付く新しい発見って凄く良いと思います
0577名無しさん@ピンキー2016/10/05(水) 16:39:04.72ID:pAswR41C
0578名無しさん@ピンキー2016/11/14(月) 22:46:16.47ID:BXJ0bgy/
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