>>185

「その、今はまだ、私の一方的なプロポーズです。小太郎さんには何の罪もありません。
ですから今、駄目なら駄目と、お願いします。それならそれで終わりですから」
「終わりって愛衣ちゃん、それでいいの?」
「よくありません。いいんだったら最初っからこんな事言っていません。
でもその、仕方ないじゃないですか。
お二人とってもお似合いで、もう十分迷惑だと仰るなら謝るしかありません。
それならもう、自分の失恋ぐらい自分で決着つけます。

夏美が、すっ、と右腕を半ばまで上げる。
愛衣は思わず目を閉じた自分の弱さを心で叱咤する。
愛衣の頬に、温もりが伝わる。

「…あ…」
「やっぱ可愛いね、愛衣ちゃん」
「夏美、さん?」

両方の頬が、夏美の両手に挟まれていた。
愛衣は、目の前に慈母の様に微笑む夏美を見る。

「よろしく、愛衣ちゃん」
「…え…」

 ×     ×

「うわぁー…」

あれよあれよで段取りは進み、
超包子パーティールームの席上で、余所行き姿の夏目萌がぽーっと主賓を見比べていた。

「愛衣綺麗…」

既に二十代も半ばに近づき、清楚でありながら女性の成熟を過不足なく表現する。
そんな純白のウエディングドレスはやはり美しい女性に成長した愛衣によく似合っていた。
そして、その隣、精悍な中にも修羅場をくぐり抜けた落ち着きが見え始めた、
そんな男振りはタキシードに負けていない。
そんな二人が重ねる唇。慣例上ややこぢんまりとした宴ながらも、
お祭り好きの面々がほうっと見惚れ、そしてわっと沸き立つ熱い光景。

「バタバタだねー、先週は夏美さんだったのに」
「直前に境界線で大きな綻びが出来て、愛衣さん達そっちにかかり切りでしたから」

こういう席なので色々な事情を押して戻って来たのどかと夕映がテーブル席で言葉を交わす。