目が覚めると、隣の温もりが消えていた。
「……」
まだ薄暗いが、身体も清められ、ベッドサイドには大きめのワイシャツが
たたんであった。破かれた礼服の代わりに、わざわざ副長が用意してくれたのだろう。
彼を苦手に思っていた理由が、ようやくわかった。
自分は副長に、憧れと思慕を抱いていたのだ。だから『友人の娘』ではなく、
『隊長』でもなく、ただ自分個人を認めて欲しかった。
一人でもやっていけると、見せたかった。
なのに、結局は母を亡くし、襲われかけ、このザマだ。
重い身体を無理矢理起こした瞬間、安普請の扉が開き、当の副長がのっそりと入って来た。
「おはようございます、隊長。流石、お早いですねぇ」
「!」
昨日の今日なのに、いつも通り気怠そうに挨拶する男に、一瞬思考が飛んだ。
気がついてしまうと、恥ずかしくて副長の顔をまともに見られない。
「あああ、あ、お、お、おはよう」
真っ赤になって狼狽える自分を知ってか知らずか、目の前の男は顔を近付けて
のぞき込んでくる。
「どうしたんですか、隊長。耳まで真っ赤ですよ」
「ななななな何でもない」
「そうですか、で、その格好、また誘っているんですか」
「なっっやぁっっ」
さっき目が覚めたばかりで、服なんてまだ着ていない。
慌ててシーツで身体を隠す。が、腕を掴まれた。大きい、骨張った男の手だ。
そのまま押し倒され、唇を塞がれる。
「ん……何を、する……気だ」
声が弱々しい。ダメだ、もっと強くないと。なのに、副長に正面から見据えられたら、
弱い自分が、女である自分が、顔を出してしまう。
「男と女がベッドでする事なんて、一つですよ」
「も、もう、朝だ。帰らないと」
「まだ夜明け前ですし、帰りたくないんでしょう」
慣れた手つきで、再び乳房を揉みしだき、秘所に滑り込む。
「やぁ……あ、あぁん」
結局、解放された頃には日が昇っていた。


「どうしたんですか、隊長」
「……なんでもない」
「そうですか。そういや、先日の演習で隣の隊と乱闘になった奴ら、どうします?」
「いつもと同じだ。連帯責任で全員素振り500回、訓練場外しゅ……あ、いや、今回は、
 演習で疲れているだろうから、反省文だけでいい」
「そうですか? 腹筋でも、ランニングでも、なんでもしますよ」
ニヤニヤと自分を見下ろす副長に、羞恥で耳まで真っ赤になってしまう。
そうだ、知っているのだ。部下に訓練を命じた分、自分もやっていることを、
そして、昨日と明け方の激しい情事で腰が痛い今、その回数出来そうにないことも。
「いいったらいいって、言ってるだろう」
「そうですか、ならいいんですけどね」
憮然とした面持ち。
「そうだ、帰り、送っていきましょうか」
「結構だ」
「それは残念。夕べはあんなにおねだりしてくれたのに」
「っっっっっっ」
からかい混じりに笑っている。やっぱり、この男は苦手だ。