山小屋からアルディ侯の治める領地へ移り住み四年。侵攻を受けてからの要請では領民に被害が増えることを理由に山を降りた。
熱望された二人は孤児たちを連れて城内へ移り住んだ。歳月が経ち、成長する孤児たちを考えれば断わる理由もなかったのだろう。
夫婦としての営みも余りなかったのかこれを機に夜毎、二人は愛を確かめ合った。
首元までに伸ばされたエレアノールの黒い髪が汗に濡れる。交わす口付けはお互いの身体、隅々まで交わされた。膨らんだ乳房を掴まれて身を跳ねる。
夜風吹く寝室に色声が響いては消え、二人の愛は燃え上がってゆく。一つとなった二人は寝具を軋ませ、棚に置かれた燭台(しょくだい)の灯りが、淫らな形容を照らしていた。
腰を打ち付けてはエレアノールの肌身が柔らかくも弾む。ウェルドが腰を振るたび二人の間からしぶきが飛び散り、その身を沈める敷布を湿らせた。
姿勢を変えて営みの音はさらに激しくなる。夫の上で大きな声を出さぬよう堪える、エレアノールの甘い息遣いはとても艶めかしかった。蜂腰を掴む手は胸元へと滑り、柔らかな膨らみを存分に揉みしだいた。
『西の賢女』――それがどうだろう? 寝具の上で踊る妖艶な姿を、彼女を慕う領民たちが見たら……。いや、エレアノールの悩ましい身体を見て想像しない輩はいないだろう。きっと、仕える兵等は憧れと背徳にまみれた頭の中で彼女を抱いているに違いない。
身体を繋ぐ隙間から流れる体液は粘着音を響かせて、色事に耽る二人の心を熱くした。恥じらうことなく腰をくねらすエレアノールの横顔は、普段の装いからは想像もつかない程に淫靡だった。
高まる熱は限界まで達して二人の身体を突き抜ける。愛で満たされたエレアノールはウェルドの胸に身体を沈め、息荒く肩を揺らした。薄明りが灯るだけの部屋で繋がる股座は泡立ち、白濁色の粘液が闇に映った。
互いの息遣いを感じながら身体に触れての後戯。愛の言葉を呟いて、重なったままの姿で二人は眠りに落ちる。
エレアノールは営みの翌日、身を清めるために湯あみに赴く。これは城に移り住んでからなのだろう。人気が少ない朝の城内を足早に歩いて行くのだ。夫のウェルドを起こさぬようにこっそりと部屋を抜けて。
ここへ来てから既に八年――三十路を越えたエレアノールだが、その身体は衰えることを知らないように見えた。寧ろ艶やかさは増しているのではなかろうか。身も心も女として熟れた彼女は、若かりし頃にない色を醸し出していた。
交合の時に見る振る舞いはさらに凄いものだった。夫の股座に顔を埋め、顔を紅潮させて頬張るのだ。火照った身体を悩ましく蠢かせて求める様は雌そのもの……果てては燃える、年を重ねる毎に女としての性が浮かび上がった。
体質か、それとも意識してなのか二人は子を作らなかった。二人にしてみれば家族のように接する孤児たちが、我が子とも思っているかも知れない。その、孤児の一人である私が親代わりとも言える二人の情事を、覗いてるとも知らずに――
性への目覚めは早かった。年を取るにつれて彼女に焦れ、背徳を覚えながらも彼女を脳内で犯し続けた。淫靡な彼女を見るたびに膨らむ妄想、高まる欲求。いつか、一線を越えてしまうのでは、関係を壊してしまうのではと考える。
頭ではそう、既に壊れている。私の股座で喘ぎ物狂いのように求める彼女が存在するのだ、私の中に。そして今夜も衣服が垂れ下げられる戸棚に隠れて自慰に耽るのだ。
叶わぬ願いを隙間から覗く情景に自分を重ね、これからも戸棚の内側を汚し続けるだろう――