エレアノールで陵辱。苦手な方はご容赦を。
ぼんやりと淡い光がところどころにあるだけの空間に、規則正しい足音が響いていた。波打った長い髪とすらりとした体の影が、
石畳の上を動いている。それは突き当たりの、斜めに亀裂の入った壁の前で止まった。
「やっぱり、隠し部屋への入り口のようですね……」
カルス・バスティードの冒険者の一人、エレアノールである。
今日は一人でカルスの遺跡に潜っていた。 いつもなら仲間の誰かと組んで行くところだが、不在の者が多く珍しくタイミングが
合わなかったのだ。
ここは黒の羨道と呼ばれる地上に近い階層の一つで、強いモンスターもいない。彼女も新人冒険者の一人として入ってきたとはいえ、
今では遺跡のかなり深い階層まで潜れるようになっている。この階層ならさほど危険は無いだろうと判断したのだ。
初めてここに来た時、壁に妙な亀裂があったのを見つけていた。別の部屋に通じていると見当をつけたが、その時は別の目的で忙しく
寄り道ができる状況ではなかった。余裕が出てきた今頃になって思い出し、これがいい機会とやってきたのだ。
強力なアイテムは期待できないが、あれば何かの足しにはなる。運良くいい物が見つかったら、必要な仲間に渡せばいいというぐらいの
気持ちだった。
亀裂を壊してそこから続く階段を下り、油断なく気を配りながら進む。地上に近いとはいえ、未踏の場所なのだ。
が、全く罠もモンスターもいない。幾つか角を曲がった先に宝箱があったが、剣先で開けたそれに入っていたのはハイ・ポーションだった。
「戦果としてはいい方ですよね」
微笑んでアイテムをしまう。
気になっていたことも片付いたし、今日ぐらいは帰ってゆっくり休もう。そう思いながら入り口に向かいかけて、
エレアノールは身体に緊張が走るのを感じた。
反射的に今いた場所から跳んで離れ剣を構える。吸い込まれるように、天井の気配に目を向けた。
「上!……」
逆さになってうごめいていたのは、絡みついた髪の毛のような触手の群体だった。なぜか生理的な嫌悪感を覚えたが、
それ以上にこのモンスターは強いと感じる。こんな、地上近くの階層にいるようなモンスターではなかった。
天井に張り付いたまま滑るように向かってくるのに合わせて、エレアノールも後ずさる。そのままきびすを返そして走り出そうとした途端、
脚を引っ張られて倒れそうになった。見ると、右脚を伸びた触手が捕らえている。
すぐに切り裂こうとした瞬間、痺れるような衝撃が全身を襲い小さく悲鳴を上げた。
「あっ……」
電撃を喰らったらしく、目に火花が散った。耐え切れずに、身体を硬直させて剣を離してしまう。
手から離れた剣が床に落ちる音を聞く前に、エレアノールの意識は闇に閉ざされていった。