その時間は長かったのか一瞬だったのか……
鬼太郎は突然棒のように硬直して呻くと、
ネコ娘の名を呼びながら力尽きたように崩れ落ちた。
腹のあたりに熱いものが広がったのを感じる、
その熱は……どこか知っているように感じたが
胸の上に倒れこんで荒い息をしている鬼太郎の姿に
先ほどまでの痛みも恐れも超えて心配になってくる。

「鬼太郎……鬼太郎!」
頭を抱えて顔を覗きこむと目覚めたばかりのような表情で
もう恐ろしい目はしていなかった。
大事のない様子に安心すると同時に
目の縁に溜まっていた涙が一粒こぼれ落ち、
それをきっかけに今までどこか麻痺していた感情が
押し寄せてきて次から次へと涙があふれてくる、
しゃくりあげるネコ娘に気づいた鬼太郎は跳ね起きたが
手ぬぐいでネコ娘の肌を拭って開けられた着物を掻き寄せると
「ごめん」と言ったきりうつむいた。

※※※

どうやって戻ったのかはよく覚えていない、
赤い目をしてどこか空ろな幽鬼のような様で帰ってきたネコ娘を
心配して声がかけられたがネコ娘は答えなかった、
空ろなまま眠り、空ろなまま目覚めて
潮が満ちるようにゆっくりと平常に戻っていく
あれから幾日が経ったのか……
窓辺に座っていたネコ娘はあの日以来鬼太郎が来ないことに気づいたのだった。


********つづく******