身体を突き抜けたあの衝撃が再び走る。
普段なら、決して乗る事が無かった悪魔の誘い

しかし、心を深く傷つけられていた今、
ねこ娘はやっと手に入れた念願のこの姿を失いたくは無かった。
そして、自分の意思で何時でもこの姿になれるのなら…


―――鬼太郎、あなたは振り向いてくれるの?


攻撃態勢をとっていたねこ娘の手が重力に従い、だらりと下がった。

「フフフ…物分りのいいお嬢さんだ。
 妖怪は自分の欲望には素直でなくては―――
 さあ、この能力で鬼太郎を己がものとするがいい。」

都会の夜空に羽ばたくは一羽の烏。
ねこ娘の認めた手紙を咥え、漆黒の羽を闇に染めゲゲゲの森へと飛んでいく。







カラン…コロン…人気の無い路地裏に響く下駄の音
”鬼太郎…逢いたい―――”の手紙に添えられた地図を頼りに、純喫茶にたどり着いた鬼太郎。

「わざわざこんな所に…しかも一人で来いだなんて、ねこ娘のヤツどうしたんだろ?」

カラン…
店の扉を開けると、空気で解る相応でない雰囲気に戸惑う鬼太郎に、店員が声をかける。

「いらっしゃいませ…此方へどうぞ―――」

先に名乗ったわけでもなく、店員に案内されるままに付いた席にはねこ娘が待っていた。









                               糸売く