「…」
「ねぇ、ねこ娘…答えてよ。
 僕はもう…君を僕だけのものにしてしまいたいんだ。
 先の約束だけじゃ…不安でし方が無くて…」

「それとも、君を束縛しようとする僕は…嫌かい?」
「…そ、そんな事!!」

まさか鬼太郎が自分の事をそこまで深く想ってくれているなんて、
これっぽっちも知らなかったのだ。
むしろ不安だったのはねこ娘も同じだ。
事件の手紙で呼び出されれば、先にはいろんな異性との出会いも有る。
魅力的な大人の異性に比べれば、格段に劣る自分に、
何時か鬼太郎が愛想を尽かすのでは無いかと思っていた。

「だって…あたし、ぜんぜん美人じゃないよ?」
「そんな事無いさ、ねこ娘は誰よりも可愛いよ。」
「お転婆だし…猫化しちゃうし…普通の女の子じゃないんだよ?」
「知っているよ。僕だって、普通の男の子じゃないさ。
 それに…僕はそんなところも含めて、ねこ娘の全部が好きなんだよ。」
「皆にだって、鬼太郎のお嫁さん…って認めてもらえないかもしれないよ?」
「僕のお嫁さんを決めるのは皆じゃない。僕のお嫁さんを決めるのは僕自身だろう?
 僕は…僕がねこ娘をお嫁さんに欲しいんだから…ね。」

それが答えだということも解っている。
でもちゃんとした返事を聞きたくて、
”大丈夫、ねこ娘だ誰よりも美人になるよ。僕が保証する。”そう耳元で囁いて、額を合わせた。
地面に置かれたねこ娘の手の上に自分の手を重ね合わせて、返答逃れ出来ないようにして。

「鬼太郎―――。」
「答えてよ…ねこ娘、僕のお嫁さんになってくれるかい?」


「…―――はい。」

漸く得た返事に、鬼太郎の口元が嬉しさに歪む。
そのまま身を重ねるように唇を併せ、花畑に二人の身が沈んでいく。

「だ、駄目だよ…鬼太郎…もし誰かが来たら―――。」
「大丈夫だよ。花以外誰も見てやしないさ。
 それに…此処に咲いている花たちが、今日の証人だからね。」

そう言われてねこ娘の頬がますます赤く染まる。

「ふふふ、だってねこ娘がいけないんだよ?
 僕の事、こんなに夢中にさせて…
 だから、ねこ娘の目が他に向かないように、
 僕と同じぐらいに虜にしなくちゃね?」

これ以上鬼太郎の虜になってしまったら
一体自分はどうなってしまうのだろうか…という思考は、
再び併せられた口付けによって蕩かされる。
色とりどりの花が咲き乱れる丘で、
少女が一人の少年に娶られた―――

それは紛れも無く二人にとって現実であった筈だ。

                                糸売く