「わー、ここはいっぱい生えてるー」
公園に着いた途端、ベロが弾けるような声を上げて走り回っている。
梅雨が上がった後の公園の一角は、生き生きと茂る緑の草で埋め尽くされていた。人間なら面倒な
雑草がまた生えたとうんざりするところだろうが、ベムたち三人の妖怪にとってはまさに宝の山といった
ところだ。
「本当だ。今日は久し振りに空腹にならずに済むね、ベム」
嬉しそうにはしゃぎ回っているベロの姿はとても微笑ましい。腕を組みながら目を細めてベロを眺めて
いるベラの表情もとても優しい。
「そうだな、たくさん摘んでいこう」
つい見惚れそうになって慌てて帽子を深く被りながら、ベムは横を向いた。

夏は様々な自然の恵みをもたらしてくれる。
三人にとってもこの暑さは堪え難いものがあるが、食べられる草の種類が増えるだけでも有り難く
嬉しい。とはいえ、長く生きていてもどれが食用に相応しいかそうでないか、はっきりと判別しかねる
ものは幾らでもあるから厄介だ。
そういうものは一体どんな毒性があるか分からないので意図的に排除しているのだが、中には雑種
から自然交配した全くの新種である草もごく稀にあったりして、知らずにうっかり口にすることもない
ではない。
だからこそ見知らぬ草は殊更気をつけて避けているのに、この日はどうしたことかむざむざ口にする
羽目になってしまったのは運が悪かったとしか言いようがない。

まだ朝方の時刻ではあったが、日差しはぎらぎらと照りつけている。
今日も良く晴れそうだった。
「ベムー、これは食べられるの?」
いつものように摘んだ草を見せに来るベロの頭を撫で、手の中にある草を眺めてみるとそれまでに
一度も見たことのないものだった。普段であれば食用かどうかは別としてまず一番に避けていた筈
なのに、何故か今日はベラが興味を持ってしまった。
「ふーん…」
ベムが持っていた草をしげしげと眺めるなり、悪戯っぽい声を上げてふっと笑う。
「こりゃあ妙なモンだね、葉の形からしてタンポポに似てるけど」
「しかし別種だろう、これはやめておいた方がいい」
「でもさあ…何か勿体ないねえ、こんなに大きな葉っぱなのにさ」
よほどの毒性があったり明らかに食用に適さない草でない限りは大抵のものなら口にしてきた三人
ではあるが、見も知らぬものを最初に口にするのはやはり勇気がいる。しかしベラはそういう意識が
やや薄いようだった。