【神坂一作品】スレイヤーズ他 第12話
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0001名無しさん@ピンキー2012/04/24(火) 23:17:54.46ID:uNyXBBy4
 四界の闇を統べる王 汝のかけらの縁に従い 
 汝ら全ての力もて 我にさらなる煩悩を与えよ

 闇よりもなお昏きもの
 夜よりもなお深きもの
 妄想の海よ さまよいし存在
 ピンクなりしエロの王
 我ここに 汝に願う
 我ここに 汝に誓う
 我が頭に立ち上りし
 すべてのエロなる妄想に
 我と汝が力もて
 等しく形を与えんことを!


此処は異界桃色次録
スレイヤーズ及び神坂一作品のアレやコレを語る処
我らはいつでもエロの神様の降臨をお待ちしています

※名前欄にガウリナ、ゼルアメなどのカプ名またはリナ陵辱などの作品傾向を記入すること推奨
皆様のアストラルサイド保全のため、宜しくお願い致します
0101名無しさん@ピンキー2012/06/10(日) 15:57:11.59ID:ZPAQpuiH
♪リーナリーナ11匹のリーナ
リーナリーナ11匹のリ、ナ♪
0102名無しさん@ピンキー2012/06/10(日) 16:44:11.79ID:zlZX90uM
ガウリナ前提のリナ浮気ネタ投下します
苦手な方はスルーーでお願いします
0103ガウリナ前提のリナ浮気ネタ2012/06/10(日) 16:45:31.46ID:zlZX90uM
安宿の一室、階下から微かに聞こえる喧騒
鍵を閉めるのももどかしい様子で部屋に入るなり、あたしは壁に押し付けられた
黒髪短髪、顔はなかなかのハンサム。背はあたしよりやや高いくらいか
彼の名はアラン。とある依頼で一緒になって、依頼終了を祝って酒場で飲み交わした
相手が魔法も使えるとあって話も弾み、杯も進んだ
ほろ酔いのまま、その勢い
「彼氏以外の男も試してみないか?」との誘いに好奇心から乗った
月明かりが僅かに照らす部屋の中、二人の荒い息
貪るようにお互い口付け、身体を弄り合う。脱ぐのも面倒と最小限に肌蹴た状態で行為は進んだ
あたしはいつもの魔道士スタイルではなく、依頼で着た真っ赤なタイトのワンピース
その裾をたくしあげられ、下着の片紐をほどかれて引き下ろされる
片方の足首にそれが引っかかったまま、股間を弄られて腰が揺れた
荒々しく探られたそこは既に濡れていた
這い上がってきた片手が細い肩紐をずらし、胸の膨らみを揉みしだく
「んっ、は、あ、んっ、んっ」
あたしは身悶えながら腰を彼の手に押し付け動かしていた

「ああっ!んっ・・・・・・」
片脚を抱えられ、待ち望んでいたモノを受け入れてあたしは壁に背を添わせ感じる
「んっ、あ、あっ、んっ、っは、ぁ、い、い・・・・・・」
奥まで突き入れられてすぐ始まった腰の動きに合わせてあたしは喘ぎ、自らも腰を動かしていた
「あんた、いい、カラダ、してんな・・・・・・めちゃくちゃ気持ちいい」
あたしの奥へ腰を突き入れながら荒い息の彼が呟き、その動きを速めていく
激しい動きと共に安宿の壁がミシミシと軋む
流石に壊れたりはしないだろうが、その頼りなさが壁の薄さを伝えてきた
おそらく今あたしがあげている恥ずかしい声も廊下まで聞こえてしまっているだろう
頭の隅ではそう思っても、恥ずかしさは募っても気持ちよさに声は抑えられなかった
身体の奥を打ち付ける快感に痺れ、どうでもよくなってくる
乱れる吐息と鼻にかかった声。ぐちゅぬちゅいやらしい音が満たす部屋で彼にしがみつき腰を振るだけ
時間の感覚も朧気な中、ただ気持ちよさを求めてあたしたちはお互いの身体を貪っていた
激しい行為のせいで結合部は泡立ち、掻き出されたものが脚を伝い床をも濡らしていった
「あっ、あっ、あっ、んっ・・・・・・あた、し、もう・・・・・・イッちゃ・・・・・・」
彼の首に腕を回し腰を揺らしながら、迫りくる感覚にあたしは目を瞑り待ち受ける
あたしの声に応えてか、彼の動きが一層激しくなりあたしは一気に押し上げられた
ガクガクと震える身体を反らせあたしは達した
強く締め付けるあたしの中に突き入れたまま、彼が小さく呻く
やがて弛緩したあたしの中から引き抜くと股間へと熱さをぶちまけた
裾を捲くり上げられ、露になった下腹部を白濁したものが濡らしていった
0104ガウリナ前提のリナ浮気ネタ2012/06/10(日) 16:48:42.48ID:zlZX90uM
しばらく二人壁に寄りかかり、乱れていた息を整える
やがてあたしを壁に押し付けていた彼が身体を離し、
あたしはまだあまり力の入らない身体を壁にもたれかけたまま、自らを見下ろす
外に出してくれたのはいいけれど、いまだ剥き出しになったままの下半身は白濁にまみれていてすごくいやらしい
茂みからお尻のほうまでおもらししたみたいになっていて、太ももを伝い床にも滴っている
部屋にあったのを持ってきたのか、戻ってきたアランが手にしたタオルであたしの下腹部を拭ってくれた
「・・・・・・エロイな」
「・・・・・・言わないでよ」
力の入りきらない身体を壁に預けて、されるがままに拭われながら、あたしは恥ずかしさに顔を赤らめていた
アランは屈むようにしてぬるついた所を拭っていく
「ん・・・・・・ふ・・・・・・」
拭われる感触と間近で見られている羞恥心とでイッたばかりの身体が再び熱を帯びているのをあたしは自覚していた
無駄とはわかっていても、熱くなりがちな息を唇を噛んで堪える
「やっ、ちょっとやめてよ」
タオルではなく彼の指が直接股間を弄り始めたのに気付いて、あたしは制止をかけた
「でもまた溢れてきてる」
あたしの制止など聞くつもりはないらしく、彼の手は動きを止めなかった
「そんな、ことっ、んあっ!!!」
深く指を突き入れられて、あたしは声をあげる
「まだ足りないみたいだな」
二本の指をぐちゅぐちゅ出し入れしながら楽しそうな声が聞こえてくる
「や、あ。や、め・・・・・・」
拒絶の声とは反対にあたしの腰は既に彼の指に応えていやらしく動き始めていた
「俺もまだ足りない」
アランはニヤリと笑うとあたしを抱え上げ、部屋の中央にあるベッドへと運んだ
0105ガウリナ前提のリナ浮気ネタ2012/06/10(日) 16:50:15.72ID:zlZX90uM
今度は二人とも全て脱ぎ捨て身体を重ねた
「う、あ、ああん!」
大きく脚を開かれ、いきなり入ってきた彼にあたしは枕に頬を擦り付け喘いだ
間を置かず揺すられてあたしは鳴く
自らも腰を揺すり、さっきとはまた違う動きに応えていった
立ち上がった胸の先を舌で攻められ、深く浅く揺すられてあたしはシーツを握り締める
「あっ!ああん!いいの、そこっ・・・」
「ここか?」
気持ちいい所を執拗に攻められ、あたしは声もなくこくこくと頷き身を捩じらせる
やがてまた達したあたしをアランはうつ伏せにすると、後ろから入ってきた
力は入らないあたしとシーツの間に手を入れて、胸を揉みながら腰を叩きつけてくるアラン
肌のぶつかり合う音とあたしの喘ぎ声が薄暗い部屋を満たしていった
そしてまたあたしは限界を迎え、アランはあたしから引き抜いたモノを閉じさせた太股で挟み擦ると吐精した
今度は腹部から胸にかけて白濁が飛び散った

「何度抱いても抱き足りないな。あんたは」
「ありがと。でもだめよ」
やっと行為を終え、お互い服を整えながら交わされる会話
「そうだな。俺も命が惜しいんでな」
「バレたら殺されるかもね」
苦笑交じりの声にあたしも苦笑で答える
「じゃあ俺は一足先に発つことにするよ」
「そう」
「あんたは大丈夫なのか?もしバレても」
「さあね?・・・・・・なによ、心配してくれてるの?」
「一緒に逃げるって手もあるぜ」
冗談か本気かわからない言葉にあたしは首を振って答える
「あたしの旅のパートナーはあいつだけだから」
「そうか」
夜明けにはまだもう少し。静まり返った街角であたしたちは別れた
お互い振り返ることもなく
0106ガウリナ前提のリナ浮気ネタ2012/06/10(日) 16:52:45.78ID:zlZX90uM
「ん・・・・・・」
目覚めると眩しい日の光と鳥の囀り。そして見慣れた腕とぬくもりに包まれていた
「ゆ、め?」
周りを囲う腕の中、身体を反転させると見慣れた厚い胸板と金の糸
「おはよう、リナ。どうかしたのか?」
青い瞳が姿を見せ、まだ少し眠そうな声が問いかけてくる
「変な夢みちゃった」
「夢?どんなのだ?」
「・・・・・・浮気する夢」
「・・・・・・」
しばしの沈黙の後、抱きしめる力が強くなる
「ちょっと、苦しいってば」
「・・・・・・誰とだよ」
不機嫌な声、というより拗ねてるのか?これは
「妬いてるの?」
なんだか可笑しくてからかう様に言うと真剣な声がかえってきた
「当たり前だろ。で、誰とだよ」
「あたしも知らない人よ。依頼で出会って酒場に行ってそのまま酒の勢いで」
「・・・・・・おいおい」
「だから夢だってば。かなりリアルだったけど、ってちょっとガウリイ何してんのよ?」
「そんな夢忘れさせてやる」
「もう朝っ!あんっ、やだってもう!」
「リナが悪いんだからな」
「夢の事までしらないわよ、んあっ、や、めっ」

「あっ、やっ、がう、こわれっ、ちゃ、う」
朝の日差しの中、シーツの上に押し倒されて激しい律動にあたしは喘ぐ
「お前はオレだけのものだからな。誰にもやらん」」
耳元で囁かれたいつもより低い声に背筋がざわめいた
嬉しさなのか恐れなのかもっと他の感情なのかわからなかったけれど
不思議と彼の言葉を否定する気は起こらなかった
答えの代わりに彼にしがみ付き、たまらない気持ちよさに身を任せた
「あっ、あん、がう、り、いい、の、あ、あ、すご、いっ」
やってきた波に脚も絡ませて身を震わせ、奥で解き放たれる熱をあたしは感じていた


そんな夢のことなどすっかり忘れた頃
「・・・う、そ」
あたしは驚きに思わず呟いていた
依頼を受けて訪れたある領主の屋敷の一室
容姿も名前も夢の中とそっくりそのままの彼がそこにいた

<了>
0113名無しさん@ピンキー2012/06/16(土) 06:25:07.84ID:S6WPq1Dv
オゼルっつ誰だっけとマジで一晩考えたw
エボレボのからくり人形か
ググれよ自分
0115名無しさん@ピンキー2012/06/16(土) 19:19:29.07ID:OEKHmtEG
>>108
>>110-111
>>114
レスありがたい
もっとスルーされるかと
106続き何パターンか考えて書いた一つはエロほとんどなかったので未投下にしてました

>>114
黒ガウリイ展開いいですな
その線で考えてみます
0116名無しさん@ピンキー2012/06/17(日) 00:20:45.90ID:tx0xNHzQ
うわぁあああ!! 復活している!!!今更だけど、嬉しい!!
0118小ネタ2012/06/17(日) 09:43:39.48ID:nnhcMsTR
「リナ、なに見てるんだ?」

旅の途中で実家に立ち寄り、リナの部屋で一息ついていた二人。
椅子に座り剣の手入れをしていたガウリイは、リナが本棚の前で何かを熱心に見ている事に気付いた。
自分に呼びかける声で我に返ったリナは、傍らの恋人を微笑みながら振り返る。
「ん、これ。こんな事あったんだな、懐かしいなぁってついしみじみしちゃった」
その手に持っていたものは、赤い表紙に金字で【Memorial】と書かれた本。
「メ…モリアル?日記か?」
「あったとしてもそんなもんあんたに見せるわけないでしょ!!
家族で描いてもらった肖像画とか…記念事の時に描いてもらった肖像画とか色々
小さく印刷したものを入れてあるのよ」
「へぇ〜〜そんなもんあるのか。見せてもらっていいか?」
はい、と手渡されたそれを1ページずつめくると、そこには産まれたばかりの愛らしいリナや
何かの祭り事の時だろうか、花束を持ち満面の笑みを浮かべるリナなどの絵が残されている。
「へぇ〜〜〜〜!!可愛いなぁ」
自分が見た事のない幼いリナの姿を初めて目にし、ガウリイの顔も自然と綻ぶ。
「生まれた時からあたしは可愛いのよ、当然じゃない」
姉とコスモス畑で並んで笑っているリナ
おめかししたおすまし顔で「Happy Birthday」と書かれたケーキを手にしたリナ
熱心に1枚1枚見ているガウリイの手がつと、ある絵で止まった。
「あれ、これ…俺じゃないか」
「あ!!!あああああああ!!!!!!」

 し、しまった!!そこに入れてたのついうっかり忘れてた!!!!

「もっ貰ったのよ!だいぶ前にシルフィールに!!そ、そんで持ち歩くのもなんだかなって
帰ったときにそこに適当に挟んでただけなんだからね、勘違いしないでよね!!!」
自分が失念していた事に対する焦りと、ガウリイの絵を持っていた事が本人に知られた羞恥とで
思わず顔を赤くして必死に弁解するリナ。恋人の肖像を持つ意味の何が勘違いというのか。
そんなリナを見てガウリイは先ほどのそれとは違う、明らかに意地悪な笑みを浮かべる。
「へっえぇ〜〜…シルフィールなんてもう何年も会ってないよなぁ?
そんな昔から俺の絵、持ってたんだな、リナ」
0119小ネタ22012/06/17(日) 09:44:37.11ID:nnhcMsTR

 くっ…あたしとした事がなんたる不覚っ…!!このくらげにこんな弱点を見られるなんて!!
 しかも弁解も墓穴でしかないじゃないのおおおおおおおおぉぉぉぉお!!!

更なる追撃を想像し身構えるリナ。
しかし、ガウリイはそんなリナを、ふっ…と意地悪さを消した優しげな笑みで見つめる。
「色々、あったなぁ」
「へ?え?あ、あぁ…そうね」
拍子抜けしたせいか、間抜けな声の返事が出てしまった。
「最初出会った時は…
お前がこんなに大事な存在になるなんて、全く予想もしてなかったよ」
出し抜けに殺し文句を言われ、思わず言葉に詰まる。
今度はまた、先ほどとは違う恥ずかしさで顔が赤らみ熱を持つのが分かる。

 ほんとに、このくらげは…恥ずかしげもなく良く人の実家の人の部屋でそんな事言えるわねっ!

「今度さ。二人の絵、描いてもらうか?」
「え?」
「それも小さく印刷してもらって、これに一緒に入れてくれよ
そしてまたいつか二人でそれを見て、懐かしいなぁって笑おうぜ」

全く、この男には敵わない。
言葉の意味を理解し、中々顔の熱が引かないのを悟られるのが嫌で
窓辺に向かい外を眺めながら返事をする。

「ま、それもいーかもね。どうしてもって言うなら、入れてあげてもいいわよ」

ふっと後ろに愛しい男の気配を感じ、その腕が自分を抱きしめる感触に身を委ねる。

「今までも、今も、そしてこれからも、ずっと愛してるよ」



***END***
0120名無しさん@ピンキー2012/06/17(日) 09:47:16.48ID:nnhcMsTR
大量になったブクマ整理してたらまとめサイト出てきて懐かしいなぁって思わず見に行ったら自分の書いたSS出てきて
うわあああああああああああああああああ状態になって更に思い出して検索してみたら復活してて嬉しくなったのと同時に
その時の恥ずかしい気持ちをしたためた記念小ネタ投下
昔過ぎてもうトリ忘れちゃったよ
0123名無しさん@ピンキー2012/06/17(日) 17:42:55.56ID:nnhcMsTR
>>121-122
レスありがとう、和んでいただけたのなら幸い

あとコテにガウリナって入れるの忘れててごめん
ガウリナだと昔っからベッタベタなあまあまオチしか書けないらしい
0124ガウリナ小ネタ「返すったってどうすんだ?」2012/06/18(月) 23:35:17.45ID:w93FKCmZ
宿の部屋、パジャマ姿でお酒を楽しむリナとガウリイ
ふいにガウリイがリナにキスをし、真っ赤になって固まるリナ
「なななななな何すんのよーーー!あたしのファーストキス返せーーー!」
我に返って起こり出すリナをガウリイはきょとんと見返しながら
「返すのか?」
うーんと考えた後、リナの頭を捉えて今度は深いキス
「んんん〜〜〜!」
散々じたばた暴れるリナの力が抜けきるまでキスは続いて
「っはぁ、はぁ……な、なんで」
息も絶え絶えに問えば
「返せって言うから返したぞ」
にぱっと笑顔満開で言われたリナは脱力しかないのだった


その2
なんとなく勢いに流されるままベッドイン
翌朝シーツを体に巻き付けリナが言う
「乙女の純潔を返せーーー!」
うーんと考えたガウリイは朝からリナを押し倒し再開
「あん!やっ、んっ、んっ、な、んで」
喘ぎながらリナが聞けば、ガウリイは腰の動きを止めぬまま
「娘が出来るまでやろーなー」
とにっこり
リナは気持ちいいので考えるのをやめました

くだらないままおわり
0126名無しさん@ピンキー2012/06/19(火) 00:35:53.73ID:nSFZhE2J
乙女返却方法における、ガウリイの賢さに驚愕w

にしても、(リナに)子どもを欲しがるガウリイってのは、
実になんとも良いモノですねヽ(・∀・)ノ
0128名無しさん@ピンキー2012/06/21(木) 23:20:52.82ID:POEgMyfF
……雨にびしょ濡れになったリナにムラムラくるガウリイを受信した!!
ぺったり張り付いた服とかやらしーよなっ。
0129名無しさん@ピンキー2012/06/22(金) 01:17:42.56ID:oZ8GiR11
しかも、初期はミルク色とかクリーム色を着てたんだぜw

>>124
妙に和むよなぁ。w(*^ー゚)b グッジョブ!!
0130ガウリナ「イチゴミルク」2012/06/22(金) 05:10:59.45ID:rvJUobCj
>>128-129
「あーもうびしょびしょ」
オレ達は突如降ってきた雨に大樹の下へ避難していた
「これはなかなか止みそうにないなー」
「えー?」
辺りは降りしきる雨によって枝の先から向こうは視界が遮られている。まるで雨の中二人取り残されたみたいだ
ふと横を見てドキッとする
リナの今日の上衣はミルク色の貫頭衣だ。それが濡れて肌にぴったり張りつきピンク色の乳首がばっちり透けている
ごくりと思わす喉が鳴る
「どーしたの?」
気付かない様子のリナが不思議そうに声をかけてくる
「あーいや。イチゴミルクが食べたいなーって」
…何言ってんだ?オレ
「はぁ?この寒いのに?あたしはホットミルクが飲みたいわ」
「寒いのか?」
「うーん。ちょっとだけね」
ちょっとと言いながら、自らを抱きしめて身を震わせる姿はかなり寒そうだ。しかもどこか色っぽい
「風邪ひくぞ。早く着替えたほうがいい」
もうたまらん!オレはリナの装備を外しにかかった
「何すんのよ!自分で出来るったら!」
真っ赤になって抗議するリナもかわいいなーと思いながらミルクの下に手を伸ばす
「んあっ、ちょっ、がうり、や、あんっ」
リナのかわいい声を聞きながら寒さで立ち上がった苺を指で摘まむ
しっとりと濡れた肌はより手に吸い付くようで、オレはその感触を楽しんだ
「もうっ!何始めてんのよっ」
そういや着替えさせるんだったな。思い出してびしょびしょの貫頭衣を脱がせる
脱がせたら脱がせたでミルク色の肌に色づくピンク。じっと見てたら肌もうっすら赤みを帯びてきた
うーん。益々イチゴミルクだ。ということで美味しくいただくことにする
「あんっ、ガウリイっ!こんなとこでやだって、あんっ」
「リナがあんまり美味しそうなのが悪いんだぞ。体も冷えちまってるし暖めないとなー」
雨にはあまり濡れていないリナのズボンを脱がせ、中から暖める準備をする
一向に勢いの衰えない雨音の下、オレはリナを抱き上げ胸にむしゃぶりついた
やがて潤んだ所に挿れて抱えたまま揺らすと、リナは細い脚をオレの腰に絡ませたてかわいい声で応えた
0136名無しさん@ピンキー2012/06/27(水) 10:26:04.49ID:/PD1cq+R
ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ
ランニングしながらちょっととおりますよーーーー
0137名無しさん@ピンキー2012/06/27(水) 15:42:25.88ID:vCKZKRiW
これは王子様ではありません
『おうぢさま』です
エロ無しだが、おうぢさまと美少女という危険物なので避ける人は避けてね
0138名無しさん@ピンキー2012/06/27(水) 15:43:58.45ID:vCKZKRiW


美女と『おうぢさま』



セイルーン王国の首都、セイルーン・シティ。
白魔術都市または聖王都とも呼ばれるこの町の中心部にある大通りではいつものように様々な露店が軒を連ね、地元の人間や観光客で大いに賑わっていた。
その人混みの中を薄紫色の法衣と深緑のマントを身にまとった、毛先が膝裏にかかるくらいの長い黒髪が印象的な少女が呆然と立ち尽くしていた。
出るところは出て引っ込むところは引っ込むというメリハリの付いた理想的なスタイルと整った顔立ちに、通りを歩く男がチラチラと振り返っている。
その中には彼女連れの男も居たりして「他の女を見るな」と恋人を怒らせたりもしていたが、その原因たる少女は気付くことなく一点を見て固まっている。
彼女の名はシルフィール。シルフィール=ネルス=ラーダといって元々はサイラーグという町に住んでいたのだが、ある事件によって家族諸共町が消滅してしまい現在は此処セイルーンの親類の家で暮らしていた。

シルフィールがこの通りのど真ん中に立ち尽くしているのは何故か?
その訳は彼女の視線の先にこそあった。

「おいっ、アレって殿下じゃないのか?」
「おお間違いないフィリオネル殿下だ!」

彼女の耳に響く町の人の声。皆口々に「王子」「殿下」と叫んでいる。
それは視線の先に居る人物に向けられているようだ。
その人物の周りにはあっという間に人集りができて人々は皆笑顔で話しかけたり握手を求めたりしている。
彼らの求めに“王子”は「うむ、皆も元気で何よりだ」「困ったことはないか?」と気さくに応じて微笑んでいた。
誰が見ても微笑ましい光景であり、またこの国の“王子”が民にどれほど慕われているのか理解させられる光景とも言えるだろう。
だが彼女シルフィールは違った。
正義感溢れる好人物、民のことを第一に考えて行われる政策、身分など一切考慮せず誰とでも気さくに付き合おうとする温かい人柄。
王族とは斯くあるべき。正に王と呼ばれ民を治める立場に在る者の鑑とでも言うべき人物。
それは彼女とてよく理解しているし、凄い人だと尊敬してもいた。
ただ一点を除いて……

「おやぶ〜ん、遊ぼ〜」
「こらこら、いつも言っておるだろう? わしは親分ではない」
「だっておヒゲでお父さんとおんなじくらいで、親分みたいだもん!」
「ワハハそうかそうか、わしはお父さんとおんなじくらいかぁ!」

おそらくはこの近所の子供だろう。顔見知りらしく“王子”のことを親分親分と呼んでいる。
そしてそれは二十歳前という、もう物事の分別が付いて当たり前の年齢であるシルフィールも常に抱いている物だった。

(いやーっ! あの人を王子だなんて呼ばないでぇぇぇっ!)

彼のことを“王子”と呼ぶ人々に心の中で悲鳴を上げるシルフィール。
もしも此処にいるのが知り合いだけなら声に出していただろう。
これだ。これこそ彼女が道の真ん中で固まっていた理由なのだ。
だがそれは無理もないことである。何故ならこの“王子”。子供やシルフィールが言うようにとても王子様には見えないのだから。
暑っくるしーくらいの大柄で、ドワーフをそのまま大きくしたようながっちりとした体格。
ヒゲ面で四十は越えているだろうそのおっちゃんをどうやったら王子様として見ることができるというのか?
普通に町を歩いているだけなので小ざっぱりした服を着ているが、それなりの格好をさせれば裏社会の、薄汚れた武器と防具を持たせれば野盗の親分に早変わりだ。
だが、例えどのように見えても彼がこのセイルーン王国の国王の息子であり、歴とした王子であることには違いない。
シルフィールが事あるごとに固まってしまうのはその外見と王子という事実のギャップを受け入れられないからだ。
初対面の時など理想の王子様像とかけ離れたおうぢさまの姿に、ショックで気絶してしまったほどである。
それはある種、いつもの光景いつもと同じ日常の一コマと言えた。
シルフィールにとっても、おうぢフィリオネルにとっても、近所の子供や露店のおっちゃんおばちゃんにとっても。
だがこの日は、この日この時だけは違った。
0139名無しさん@ピンキー2012/06/27(水) 15:44:51.85ID:vCKZKRiW


例えばこの場面。誰かの命を狙う者が居たらどういう具合に見えるだろうか?
人集りの中にいるターゲット。誰とでも握手をする警戒心のない相手。
近づいて斬りつける、攻撃魔法を準備しておいて至近距離で放つ。
暗殺者にとってこれほど容易に事が行える場面もない。
しかしある程度若しくは確実にターゲット自身の実力を知っていた場合はどうか?
察知されるか、あるいは自分より強いなら返り討ちにされる可能性を考慮するだろう。
プロの暗殺者なら尚のこと確実を喫して様子見に入るかもしれない。
だが、もし怨恨の場合は? 逆恨みの復讐を企てる者なら?
それでいて相手の実力を知っていて正攻法ではかなわないなら?
当然人質を取るだろう。幸いにもこの場には人質となる人間などいくらでもいる。
これら全ては狙われる命を持つ者が居ればの話だが、この場には誰の目にも明らかなほど狙うべき価値のある命を持つ者が居る。
言わずと知れた大国セイルーン王国の第一王子フィリオネル=エル=ディ=セイルーンその人だ。
彼はその人柄から他人の恨みを買うことなど皆無と言えるのだが、一方で正義感溢れる彼は野盗や犯罪者を取り締まる側でもあり、一般人なら関わり合いになりたくないそういった者から時として逆恨みされる立場に立っている。
そういった者がこの場に居た。

(笑ってられるのも今の内だフィリオネル!)

フード付きのローブで身を包んだその男は周囲の様子をうかがっていた。
この男、細身に貧相な顔立ちと見掛けこそ小役人といった風情だが、元は一大盗賊団の首領だった男だ。
その見掛けからは想像も付かないが残酷さは折り紙付きで、豪商のキャラバンを襲ったときは慰み者にしようと豪商の婦人を浚おうとして「妻は妻だけは!」と言った主人に「じゃあ全財産を寄越せ」と迫ったあげく、
馬車ごと渡した瞬間「妻は見逃してやる約束だからな。そのかわり……」と言って夫妻の幼い娘を目の前で強姦したのだ。
そして狂乱する夫妻を見て大笑いしながら「命は助けてやったぞ」と言い放ちその場を去るという外道も外道な男である。
その後事件を知ったフィリオネルがアジトに単身乗り込み、二児の親でもある彼の怒りを買って盗賊団はその場で壊滅。
如何に平和主義者の彼であっても娘を持つ親である以上盗賊の行為が許せず、自らの手で制裁を加えてしまったのである。
そんな中、一人逃げ出した男はこの世を謳歌していた自分の全てを奪ったフィリオネルが許せず、復讐しようとしていたのだ。
無論正面から襲撃しても返り討ちにされるのは目に見えていたので人質を取ることにしたのだが、如何せん人質として尤も適していそうな子供はフィリオネルの近くにいて手が出せないときている。
代わりになる誰かはいないかと周りを見渡す男の目に僧侶の正装を身にまとうお嬢様っぽい長い黒髪の美少女が入るのは、ある意味必然と言えた。
それもボーッと突っ立っている彼女の場合、人質にしてくださいとアピールしているようなものだ。

(あの女だ!)

男はコレと決めた少女シルフィールに忍び寄り、後ろから羽交い締めにした。

「キャアアッ!!」

0140名無しさん@ピンキー2012/06/27(水) 15:45:47.45ID:vCKZKRiW


突然身体を拘束されたシルフィールは首に突きつけられたナイフに悲鳴を上げるも、すぐに冷静さを取り戻す。

(ど、どうすれば…)

しかし彼女の場合如何に冷静さを取り戻そうと訓練された兵士や傭兵、自身の知り合いのリナのように戦闘に特化した技術を持ち合わせていないため、こういう状況下では何もできないでいた。
彼女自身は神官という身でありながらドラグ・スレイブ【竜破斬】という強力すぎるほど強力な呪文を始めとする幾つかの攻撃用の黒魔法や精霊魔法を扱えはするのだが、その呪文を唱える隙がなくお手上げ状態だ。
そうこうしている内に彼女に気付いたフィリオネルが叫ぶ。

「シ、シルフィール殿!」
「おっと、動くんじゃねぇぜフィリオネル殿下」
「む、むううッ」

此方に気付いたフィリオネルの動きを制しようと男はほんの少しだけシルフィールの首筋にナイフを走らせた。

「痛ッ!」

薄皮一枚切られた彼女の傷口から血が滲み、うっすらと赤い線を描く。

「や、やめいッ!」
「そうそう、その焦った顔が見てえんだよ」

事態は膠着どころか悪い方へと進んでいる。皮一枚とはいえシルフィールの首にナイフが食い込んでいる以上下手な動きはできない。

「おぬし……婦女子を人質に取り、あまつさえ傷つけたのだ。よもやこのままで済むとは思っては居るまいな?」
「おお〜怖い怖い。けどいいのかな〜?そんな怖い顔されると俺はびびって力入れちゃうかもよ〜?」

グッとナイフが食い込み更に傷口を広げていく。

「うっ!」

首筋に走る痛みに呻くシルフィールは流石に恐怖を感じて身体が硬直する。
後少しでもナイフが食い込めば動脈を傷つけるかも知れないのだ。
その様子にフィリオネルは内心の焦りを隠しながら、男が先日壊滅させた盗賊団の首領であることを聞かされたことで動かないどころか逆に動いた。
身につけていた護身用のナイフを捨て、陰から見守っていた護衛たちに大声で引くように伝えた上で。
彼の突然の行動に驚く男は、それでもシルフィールにナイフを突きつけたまま姿勢を崩さない。
そんな男に彼は歩み寄りながら両手を大きく広げ言い放った。

「おぬしの狙いはわしの命であろう? 構わぬ……くれてやろう」
「なっ!?」
「で、殿下っ!」

男が驚愕すると同時に事態を見守る民人も声を上げた。

「て、てめえ正気か!?」
「無論だ。わしの命一つでシルフィール殿が助かるのなら、寧ろ本望なくらいだ」

自身の命と引き替えにしてシルフィールを助けようとするフィリオネル。
何故彼がそこまでするのか? それは彼にとってシルフィールもまた守るべき民であるからだ。
ましてや婦女子たる彼女を見捨て、自身の命を優先するなど考えても居ない。
仮にこれがフィリオネル自身よりもずっと強く、セイルーンの民ではないリナやガウリイであっても彼は同じ選択をしていたであろう。
王族にとって何が一番大切か? それは民である。
民こそが国の宝であり命を賭して守るべき者。
そして民というのはこのセイルーンに一度でも関わりを持った全て。その全てが守るべき対象なのだ。
そこに力の優劣、国籍など関係ない。

「そのためならばわしのこの命、十でも二十でも、好きなだけくれてやるわい」

0141名無しさん@ピンキー2012/06/27(水) 15:47:34.45ID:vCKZKRiW


「フィリオネル…殿下……」

自身の民草に対する真摯な想いを口にするフィリオネルに、シルフィールは胸が熱くなった。
彼は紛うことなき王子なのだ。
このセイルーンの全てを、老若男女問わず愛する王子。
白馬に乗った若くて見目麗しい王子ではないが、その心は想像できないほどの麗しさと高潔さをたたえている。
おそらく世界中の為政者の中でも彼ほどはっきりと民こそ国の宝と言い、行動する者は居ないだろう。
その言葉に心打たれたのは何も彼女だけではない。
周りにいる町の人たちも同じだった。
同時にそれは男に対する非難の目、攻撃的な目へと変化していく。

『みんなのフィリオネル殿下に傷一つ付けてみろ……その瞬間八つ裂きにしてやる』
『死ぬよりも辛い目に遭わせてやる』

その視線に晒された男は気が気でなかった。
周りが怯える、固唾をのんで見守る、それならばやりようはあったしどうにでもできた。
だが、周り全てが自分に対して憎しみの目を向ける。
これは男が経験したことのない事象だった。

(なんだ? なんだよこいつら? 何なんだよ!?)

最早人質を取っているから有利などという状況ではなくなった。
寧ろ人質は役に立たないどころか、自分の行動次第でこの国全体を魔獣の群れに変えてしまう物でしかなかった。
本来、一国の王子を狙う以上死刑は覚悟しなければならないのだが、男の場合「舐められたまま終われるか」というちっぽけなプライドと逆恨みからの行動だったため考えてもいなかった。
それがセイルーンの全国民を敵に回そうとしているのだ。

「ち、ち、ちきしょう! 覚えてやがれ!」

こうなると男がするのはごく単純な行動だけになる。
即ち逃げである。

「キャッ…!」

男は人質にしていたシルフィールをフィリオネルの方に突き飛ばすと、直ぐさま反転して脱兎のごとく逃げていった。
男が人質を手放したのを見て素早く行動するフィリオネルの護衛たちだったが、生憎彼自身の命で下がっていたのと、腐っても大きな盗賊団の首領だった男はある程度の魔道に長けていたためレビテーション【浮遊】であっさり逃げられてしまった。
一方でフィリオネルはというと――

「危ない!」

自分の方に突き飛ばされたシルフィールを身体で受け止め守るように抱きしめていた……

0142名無しさん@ピンキー2012/06/27(水) 15:48:28.92ID:vCKZKRiW


「ああ、あの、殿…下…?」

解放されたと思えば今度は大きな身体に受け止められたシルフィールは、少々パニックになりながらも自分を受け止め守るように抱きしめる人物フィリオネルに声をかけた。

「おおっ、無事であったかシルフィール殿」
「は、はい……なんとか…」
「しかし首筋を刃物で切られておったであろう?」

先ほど男に切られた首筋には切り傷がついていた。

「だ、だだ、大丈夫ですっ、」

彼女は大丈夫と言うが少し深い傷だったため、未だ絶賛出血中である。
尤も今は別のことで頭がいっぱいになっているので、それほど痛みを感じていないのが幸いだった。

(で、殿下の匂いが、)

そう、今シルフィールとフィリオネルは密着状態なのだ。
当然彼女の嗅覚は彼の匂いをハッキリとらえている。
それは彼の汗の臭い――俗に言う『おやぢ臭』なのだが先ほど彼の民を想う心に触れ、剰え彼女のために命を投げだしてくれた、外見を除いて完璧な王子の姿を目の当たりにしたばかりの彼女には全く嫌悪感を抱かせない物だった。
嫌悪感どころかフィリオネルの匂いを嗅いでいるとドキドキして頭に血が上ってクラクラしてくる。

「いやいや、こんなに血が出ておる。わしに恨みを持つ者の犯行に巻き込んでしまったのだ、このまま帰すわけにもいかん」
「キャ!」

そんな彼女の状態を気にもとめていないフィリオネルは言いたいことだけ言うと、こともあろうに彼女の身体を抱き上げたのだ。
左手で背中を支え、右手を膝の後ろに回して抱え上げるという、所謂お姫様だっこと呼ばれる抱き方で。

「あ、あああ、あの、で、でんか……わたくし歩けますからっ、」
「何を言う、若者が遠慮する物ではない。それにシルフィール殿を抱え上げたくらいで腰を痛めるようなやわな身体はしておらん」

わっはっはと豪快に笑う見た目野盗の親分に(そうじゃないんですぅぅ!)と思いながらも嫌な気はしないシルフィール。
彼女は最近では気絶までいかなくなったものの、苦手であることに違いなかったフィリオネルに密着されているというのに、気持ちが高揚する自分が不思議でならず、また理解できなかった。

こうして王子様ならぬ“おうぢさま”にお姫様だっこされたままフィリオネルの家であるセイルーン城に連れて行かれたシルフィールは手厚い治療を施され、
夕暮れ時になって王宮の近くにある一軒の家、彼女がお世話になっている親類の家に送られ帰ってきた。無論送ったのはフィリオネルだ。
彼は自分の事情にシルフィールを巻き込んでしまったことを彼女の親類に説明し、謝罪するというのもあって共に来たのである。

0143名無しさん@ピンキー2012/06/27(水) 15:50:44.75ID:vCKZKRiW


「殿下、聞き及んでおります。昼に大通りでお命を狙われたと」
「うむ、それについてだが……」

帰るなり出迎えてくれたシルフィールの叔父グレイは既に何があったか知っていたようなので、話は早いとフィリオネルは深々と頭を下げて言った。

「すまんグレイ! シルフィール殿を傷つけてしまったのだ!」
「や、やめてください殿下っ、」
「そ、そうです、シルフィールもこうして無事なのですから顔をお上げになってください、」

突然の謝罪に慌てて止めるシルフィールとグレイ。
だが彼はそれでも顔を上げない。

「いや、それではわしの気が済まん! 気の済むようにしてくれい!」

人一倍責任感の強い彼は己にも厳しい。
自分への怨恨にシルフィールを巻き込んだことが許せないのだ。
いつまでも顔を上げない彼にそれではと口を開いたのはシルフィールだった。

「一つだけ、お願いを聞いていただけませんか?」
「ふむ、願いとな?」
「はい、それを持ってこのお話は終わりということにしませんか?」
「う〜む、おぬしがそれでよいというのなら何でも言ってくれ」

若干納得がいかない雰囲気のフィリオネルではあったが、本人がそれでいいというならばと願いを聞くことにした。

「で、願いというのは?」
「はい、それでは遠慮なく。わたくしの願い……それは」

0144名無しさん@ピンキー2012/06/27(水) 15:51:19.33ID:vCKZKRiW

***


数日後、セイルーンの大通りを歩く一組の男女の姿があった。
一人は薄紫色の法衣と深緑のマントを身にまとった、膝裏くらいまで届く長い黒髪が印象的な少女。
もう一方は暑っくるしーくらいの大柄で、ドワーフをそのまま大きくしたようながっちりとした体格。ヒゲ面で四十は越えているだろうおっちゃんだ。

「しかしこのような願いというか、手伝いで本当によいのか?」

おっちゃんは荷物を持っている。そんなに大きくもなければ重くもない荷物だ。
その荷物はおっちゃんの物ではなく少女の物。

「はい、これでいいんです」

少し嬉しそうにも聞こえる声で返事をした美少女は、むさいおっちゃんの荷物を持っていない左手に腕を絡めた。
気のせいか彼女の顔は紅く染まっているようにも見える。

「う〜む」

唸り続けるおっちゃんことフィリオネルと、美少女シルフィールという妙な組み合わせの男女がこうして歩いているのは彼女のお願いによるものだ。
「買い物に付き合ってください」それが彼女のお願いだった。要するに一日荷物持ちをしてほしいというものだったのだ。
無論こんなことでケガをさせた埋め合わせになるとは到底思えない訳で、フィリオネルはこの後も「また何かあったら言ってくれ」と伝え、この通りでは度々二人の姿が目撃されるようになるのだった。


余談だが叔父のグレイはここ最近シルフィールがボーッとなっているのをよく見掛けるようになった。
それは決まってフィリオネルと出かけた日や、彼が家に訪れた日だったりする。
これについてグレイはそれとなしにフィリオネルに訊ねているのだが「シルフィール殿? いつも明るく嬉しそうにしておるが……何かあったのか?」と要領を得ない返答をもらっており、
明らかに何かに気付いたという様子ではなく、彼女個人の何からしいとの答えに至ったのだが、それが何かは分からないでいた。

0145名無しさん@ピンキー2012/06/27(水) 15:54:59.91ID:vCKZKRiW
アニメのEやRのアイキャッチ、最終回等でフィルさんとシルフィールが一緒にいるところから思いついた
0148フィルシル 美女と『おうぢさま』22012/06/29(金) 19:34:10.94ID:8x1peYLQ


美女と『おうぢさま』2


セイルーン・シティの中心部。
王宮近くにあるそれほど大きな邸ではないがつくりのしっかりとした一軒の家の中で、中年の男が二人テーブルを挟んで向かい合っていた。
一人は髪に白いものこそ混じってはいるが、年はそれほどいっているようではなく精々四十半ばから後半くらい。
年齢に比例した風格の持ち主で、なかなか整った容姿を持つナイスミドルな中年男性である。
名はグレイ。此処セイルーンで神官と魔法医を掛け持ちでやっている人物だ。
片やもう一人の男は暑っくるしーくらいの大柄で、ドワーフをそのまま大きくしたようながっちりとした体格。
年は同じく四十代ではあるものの、繋がった濃い眉毛に剛毛としか呼べないヒゲを蓄えたその迫力ある顔から、見方によっては更に年がいっているようにも感じられる。
アイパッチなど着けたら非常に似合いそうな、誰から見ても野盗の親分にしか見えないだろう男性である。
しかしこの男性、断じて野盗などではない。此処セイルーン王国国王の息子であり長男にして第一王位継承権を持つ歴とした王子様なのだ。
名をフィリオネル=エル=ディ=セイルーンといって、事実上次期国王になられるやんごとなき御方なのである。
実はフィリオネル。グレイに相談事があって公務の合間を縫って王宮を抜け出してきたのだ。
突然の訪問に驚いたグレイは最近フィリオネルとよく出かけている、自身の姪に当たるシルフィールを呼ぼうとした。
シルフィールは先日の一件以来フィリオネルの話をよくするようになり、また休日などに彼が訪れた際は自分から話しかけ接するようになったのだ。
少し前までなら彼が王子と呼ばれるたび露骨に顔を引きつらせていた彼女がだ。
つまり相当な苦手意識を持っていたはずなのに、それが綺麗さっぱりなくなっている。
このことは不思議に思いながらも良い変化だと考えていたグレイは、てっきり姪に用事があって来られたのかと思い口に出したのだが――

「いやいや、今日はおぬしに用があってな」

と止められ、態々呼んでもらってシルフィール自身の時間を邪魔したくないとやんわり断られた。

「そうですか。して、私に御用とは?」
「うむ。実はちと困っておるのだ」
「お困りですか?」
「うむ、実はな……見合いを申し込まれてしまったのだ」
0149フィルシル 美女と『おうぢさま』22012/06/29(金) 19:34:59.32ID:8x1peYLQ

先日侍従長がセイルーンの隣国にあたる沿岸諸国連合構成国の一国から、外交官を通じて見合い話を持ってきたというのだ。
しかしフィリオネル自身に見合いを受けるつもりはなく断ろうとしたところ、事もあろうに既に先方へと返事を出した後だったらしく、断れなくなってしまったという。
今更断るなどとなれば理由を聞かれるのは目に見えている。場合によっては外交関係を危うくしかねない。

「それに政治の臭いがな」

フィリオネルの言葉に“政略結婚”という文字が頭に浮かんだグレイ。
ヘルマスター(冥王)という大魔族が滅び、この地域を封鎖していた魔族の結界が事実上消滅したことで、結界の外に広がる世界とも行き来できるようになり、
数々の新しい国が発見された現在でも、このセイルーンが大国と呼ばれる国々の中でも上位に位置する国であることにかわりはない。
つまり、そこと縁戚関係を結ぶことができれば、例え小国であってもかなりの影響力を行使できるようになる。

「会ったこともないわしと『結婚を前提としたお見合い』などと言われてはそれしか考えられん。かといって一度受けてしまったものを理由もなく断れば我が国の信用にも関わる」
「それでは、殿下はどのような手を打たれようと?」
「うむ。明確な理由を作ってやればよいと思ってな。仮にわしには心に決めた人がいて内緒にしておいたから誰も知らなかった、とでも言えば断る口実にもなるであろう」

そうすれば全てはフィリオネルの交際を知らなかったが故の手違いとなり、伝えてなかったフィリオネル個人の責任となる。

「し、しかしそれでは殿下が、」
「よいのだ。こうすれば誰にも迷惑はかからん。いや、おぬしと最低でも後一人に直接迷惑をかけることになってしまうかな」
「と、申されますと?」
「そのな、グレイよ。申し訳ないがわしと年が近い、言うなれば我らと同年代の女性を一人、紹介してほしいのだ」

つまりその女性に自分の婚約者ないし恋人という芝居に付き合ってもらえないか?ということだ。

「無論このようなやっかいごとに巻き込む以上、おぬしにも、相手役の女性にも、それなりの礼はさせてもらう」

そう言ってフィリオネルは頭を下げた。

「も、勿体ない…、顔を上げてください殿下、」
「そ、それでは」
「はい、承りました」
「おお! 引き受けてくれるのか!?」
「ただ、ご期待に添えない可能性もありますので、そのときは御容赦ください」
「わかっておる。元々上手くいってもいかなくても、誠心誠意、真心込めて相手を説得し理解してもらうつもりではあった。言葉を尽くせば必ずやわかってもらえるはずだ」

がっはっはと笑うフィリオネルの真心込めて説得という言葉を聞いたとき、グレイの顔は引きつっていたのだが、平和とはなんぞやと語り出した彼が気付くことはなかった……。
0150フィルシル 美女と『おうぢさま』22012/06/29(金) 19:35:52.24ID:8x1peYLQ

一通り平和について語り終えたフィリオネルが「公務が残っている故これ以上長居するわけにもいかん」と言って帰った後しばらくして部屋にいたシルフィールが顔をのぞかせた。

「あの、騒がしかったようですけど誰か来られていたんですか?」
「ん? ああ、先ほどまで殿下がお越しになられててね」
「えっ、殿下がっ!」 

ついさっきまでフィリオネルが来ていたというのを知った彼女は強い口調で非難する。

「どうしてわたくしを呼んでくれなかったんですか!?」
「い、いや呼ぼうとしたのだが、殿下がシルフィールの個人的な時間を邪魔したくない仰られたのだ。それに用事は私にあってね」

グレイはむくれるシルフィールにフィリオネルの相談内容を話した。
本来第三者に話すような内容ではないのだが、少しでもなだめようと話しても問題ない部分を掻い摘んでだ。

「殿下が……お見合い…?」
「ああ、殿下自身は断ろうと思っているらしいのだが」

フィリオネルが見合いをすると聞いた瞬間、シルフィールの表情が曇る。
だが続いて断るつもりだと聞くと今度はホッと安堵の息をつく。
表情に出ていたように彼女の心はここ最近目まぐるしく変化していた。
切っ掛けは間違いなくあのフィリオネルが襲われた事件のあった日だ。

『わしの命一つでシルフィール殿が助かるのなら、寧ろ本望なくらいだ』

あのときの言葉と守るように抱き締めてくれた彼の大きな身体と匂い。そしてお姫様だっこ。
それらが頭から離れない。
まるでフィリオネルという存在が自分の心に住み着き、刻み込まれたかのように……。
ここしばらくの間ずっと悩んでいたが、未だその理由がわからないでいた。
ただフィリオネルの側にいると嬉しくなり、心が温かくなるのだ。
故に時間さえ合えば会いたくなる。一緒に連れ立って歩いていると心が弾む。
家に訪れて食事を共にするときなど自然と彼の隣に座ってしまい、叔父のグレイや叔母のマリアを驚かせていた。

「それで実は婚約者が居るから見合いは無理だとすることにしたのだよ」
「そう、だったんですか……」
「ただ相手役がね。私や殿下の同年代となると大体は所帯持ちだ。それが問題か」

グレイは神官そして魔法医をしているだけあって交友関係が広く顔も利くのだが、それでも同年代の女性で独身というのは心当たりがない。
いくらなんでも結婚している女性を連れて行くわけにもいかないだろう。

「患者さんの知り合いにいないか聞いてみようと思うが、どこまで力になれるか……」

無論平和主義者たる彼のことだから最悪『真心込めて誠心誠意説得』することで諦めてもらうように持って行くかも知れないが。
今回のことはセイルーン側に非があるため、いつもと同じようにいくとは思えない。
そう悩む叔父に対し、ただ聞くだけだったシルフィールが口を開いた。

「あの、グレイおじさん」
「なんだね?」
「その、殿下の婚約者というのはどうしても同年代の女性でなければいけないのですか?」
「殿下御自身が仰られたことだからな。それに、その方が無理ないと思わないか?」
「……」

同年代の方が無理がない。
そう言いきる叔父に彼女は小さく呟いた。

……そんなこと……ない……

それは自分でも何を言ったか聞き取れず、何を言ったか覚えてもいない無意識下で出た言葉だった……
0151フィルシル 美女と『おうぢさま』22012/06/29(金) 19:37:10.36ID:8x1peYLQ



「殿下、沿岸諸国連合○○国からの使者が目通りを願っておりますが」
「わかっておる」

見合いの正式な日取りを決めるために使者が来訪したのはフィリオネルがグレイに相談した日から僅か三日後。
グレイの家は王宮のすぐ近くにあるので、相手側に気取られることなく素早く連絡を取ることができたのだが、さすがに三日で協力者を見つけることはできなかったらしく、
「力になれず申し訳ありません」との返事が返ってきただけであった。

「やむを得んか」

この急場では他に打つ手はなく、彼は正面から向かい合うことにした。
しかしこれで良かったのかも知れないとも思う。
下手な小細工をするよりも寧ろ誠心誠意話し合うことこそ彼の真骨頂なのだから。

「しかし、相手のメンツも考えると難しいかもしれんな」

珍しく勢いのないフィリオネルは椅子から立ち上がると、執務室を出て急ぎ足で面会室に向かった。





「フィリオネル王子はまだですかな?」
「は、はい、もう間もなくかと……」

面会室のソファでは沿岸諸国連合○○国の大使が侍従長に愚痴をこぼしながら苛立たしげにふんぞり返っていた。
その理由は今回の見合い話をなかったことにしてくれと伝えられていたからだ。

(冗談ではない! この見合いの後縁談へと持って行き、セイルーンの力を利用して国内を掌握する手筈だったというのに!)

実はこの大使。外交官と大臣職を兼ねているのをいいことに、この見合いを計画して国の乗っ取りを画策していたのだ。
乗っ取ると言っても表向きは一大臣として振る舞い、現国王や次期国王を自分の意のままに操るという傀儡政治を考えていた。
もし意に沿わないことをされたり、事がばれたりしたら「自分はセイルーンとの関係を取り持った。自分のバックにはセイルーンがいる」とでも言って黙らせ、逆らえないようにして好き勝手しようとしていたのだ。
それなのになかったことにと言われて、ハイそうですかと引き下がるなどあり得ない。
だから「納得のいく説明を」「セイルーンは理由もなしに約束を破るような汚い国だと考えざるを得ませんな」と迫って国家間の問題にしようとしている。
そこには義に熱いセイルーンという部分も計算に入れている。
尤も彼自身は「国と国の間にあるのは利用するかされるかだ」という、ある意味政治家らしい考えを持っているため、セイルーンのことを「力持ちのバカ」としか考えていないのだが……

「お待たせして申し訳ない。ちと所用が重なっておったのだ」

これからどうしようかと考えていた大使の元にフィリオネルがやってきて対面する形でソファに座ると開口一番そう言った。

「いいえ、フィリオネル殿下。お忙しいところを失礼したのは此方の方ですので……早速ですが」

おきまりの社交辞令を述べた大使は愛想笑いを消すと早速詰問の姿勢に入った。
0152フィルシル 美女と『おうぢさま』22012/06/29(金) 19:37:53.45ID:8x1peYLQ

「先達てお受けいただきました我が国の姫とのお見合いの件でございますが、お断りなされるとはどういうことですかな?」
「うむ。それなのだがな、わし自身元より見合いなど考えてもおらなんだのだ」
「ほーう。では、見合いする気もおなりになられないというのに、このお話をお受けになられたと?」
「それについては返す言葉もない。明らかに我が方のミスだ」

フィリオネルは説明する。見合いを断るのは自分にその意志がないこと。話が出たとき手違いで返事を出してしまったことなど、隠すことなく話した――が「それでは理由になりませんな」と一蹴されてしまった。

「殿下、これは外交の話。国と国の話でございます。殿下も一国の王子ならばそこはおわかりかと」
「当然わかっておる。だがな、その気もないというのに見合いをする方が不適切であるとは思わんのか? わしにとってというより其方の姫に対して」
「ぐっ! しかしことはセイルーンの信義に関わってきますぞ!」

そう、一般的な庶民であればその気がなかった聞いてなかったごめんなさいで済む場合もあるのだが、二国間の王族となればそれでは済まない。
相手がフィリオネルと同じような人間であれば「という訳なのだ。申し訳ない」「うむ。誰にでも間違いはある」で終わっていたかも知れないが、彼のような人間は間違いなく少数派。

「むうう」

双方に非はない若しくは相手に非があるというなら彼がいつもしている話し合いが通じる。
そして自身の己が信念をぶつけわかり合うことができる。
だが、此方に非がある以上誠心誠意謝罪したところで相手が受け入れないとなればどうすることもできないだろう。
まさか信念を押し通すために『平和主義者クラッシュ』を放つわけにはいかない。
それでは自身の嫌いなただの暴力だ。

「さあどうなのですフィリオネル殿下! 納得のいくご説明を! これでは外交の場でセイルーンは信義を軽んじている国だと言わざるおえませんぞ!」

どうするんだと身を乗り出して迫る華奢な大使に、どう返答すべきか悩むごつい身体のフィリオネル。
それを見守る侍従長はただオロオロするだけで入り込むことはできない。

(むう、絶体絶命というのはこういうことなのかもしれんな〜)

と、落ち着いているのかいないのか、よくわからない感じでどうしようかと考えていたフィリオネルの耳に、この場に相応しくないソプラノボイスが聞こえたのは正にそのときだった。

「待ってください!」

その澄んだ声に部屋の中の三人が同時に入り口を見ると、そこには薄紫色の法衣と深緑のマントを身にまとった、膝裏にかかるくらいの長い黒髪が印象的な美少女が息を切らせて立っていた。
0153フィルシル 美女と『おうぢさま』22012/06/29(金) 19:38:56.80ID:8x1peYLQ

「シルフィール殿……!」
「殿下……」

その美少女シルフィールは、大使や侍従長には目もくれずフィリオネルに歩み寄ると、ソファに座る彼の身体に有無を言わさず抱き着いた。

「シ、シルフィール殿!?」

これには大抵のことには動じないフィリオネルもさすがに驚きを隠せない。
こんな場面で出会すことなどないはずの彼女がいきなり現れたと思えば、自分目掛けて抱き着いてきたのだから。
大使も侍従長も目を丸くして固まっている。

「酷いです殿下! わたくしという者がありながらお見合いをなされるなどと!」
「「はあッ!?」」

大使と侍従長、二人の声がハモる。何が何だか訳が分からないといった風情だ。
それはそうだろう。誰が四十がらみでヒゲ面のむさいおっさんと、若くて清楚な美人巫女さんがそのような関係にあるなどと考えるだろうか?
かくいうフィリオネルも同じで目を丸くしていたのだが、顔を上げた彼女がウインクをしたことで理解した。
その目が語っている。話を合わせろと。

「う、うむ、すまん……シルフィール殿に迷惑がかかってしまうかもしれんと思い黙って居ったのだ。無論断るつもりだ」

辻褄を合わせるためにそう言ったフィリオネルは、抱き着く彼女の長い黒髪に指を絡めて撫で梳いていく。
みだりに女人の髪を触るものではないのだが、これくらいはしておかないと大使の目を誤魔化すことはできないだろうと考えたからだ。
一方でシルフィールは髪を撫でられながら頬を赤らめ、彼の胸に顔を埋めている。
叔父のグレイに連絡が来たとき偶然にも聞いていた彼女は脇目もふらずに飛び出して、王宮に入れてもらうとフィリオネルが居るであろう面会室に飛び込んできたのだ。
城に簡単に入ることができたのは、最近フィリオネルと連れ立っているのを方々で目撃されていたことで門番が「殿下の親しい御友人なら大丈夫だろう」と判断して通したためである。
来たはいいがどうすればいいのか考えてなかった彼女は、とにかく自分がフィリオネルの婚約者だと勢いのままに抱き着いたという訳である。
後は彼に目配せをして合わせてもらえばいけると。
フィリオネルは説明する。この人はシルフィール=ネルス=ラーダ殿といって自分の婚約者なのだと。
彼女は一般家庭の方なので、あまり騒ぎを大きくしたくないが故に誰にも伝えていなかった。頃合いを見て発表しようと思っていた。
そんなときにこの話が来てしまい、不幸な行き違いが重なってしまったのだと。

「と、いうわけなのだ大使殿。わしはシルフィール殿を愛しておる」

『愛している』と言ったとき、彼女の顔が熟れたトマトのように真っ赤になっていたのだが、幸か不幸かフィリオネルは気付かない。

「彼女を裏切るわけにはいかんのだ」

だからこの見合いを受けるわけにはいかない。お引き取りを。
そう告げる彼に対し、今まであんぐりと口を開けて呆けていた大使は唇を引きつらせて返答を始めた。
但し、それはフィリオネルが望むものとは違い、彼の返事次第で余計に話を拗らせてしまうものだった。
0154フィルシル 美女と『おうぢさま』22012/06/29(金) 19:39:40.22ID:8x1peYLQ

「な、なるほど、そういうことでしたか、それならば致し方在りますまい。しかし、本当に婚約者なので?」

そう言う大使は口にこそ出さないが
(ウソつくんじゃねーッ! お前みたいなヒゲ面のおっさんとこんな美人が婚約者であってたまるか!!)
もしこれを口にしていたところで誰も非難しないであろう。
それこそ散々嫌みを言っていた相手である侍従長と「意見が一致しましたな」と握手していたかもしれない。

「無論だ」
「そうですか。ならばその証拠を見せていただけますかな?」
「なに!?」
「婚約者同士であるという証拠です。外交の場ではたまにあるのですよこういった小芝居が。ああ、何も大国セイルーンの第一王子ともあろう御方がそのようなことをなされるはずはないと確信しておりますが、念のためにです」

そうすれば国への言い訳もできますからなあと言う大使に「む、むう」と唸るフィリオネル。
もし偽りであるとバレれば本当に立場が悪くなる。かといってシルフィールを責める訳にもいかないのだ。
彼女は彼の力になれればとこうして駆けつけてくれたのだから。
フィリオネルがふとシルフィールを見ると、先ほどまでとは違って不安げな表情を浮かべていた。
このままではせっかくの彼女の思いまで無駄にしてしまう。そう考えた彼は申し訳ないと思いつつも意を決して言葉を紡ぐ。

「証拠を見せればよいのだな?」
「はい」
「わかった。ならばお見せしよう……」

フィリオネルは小さな声で呟いた。
『すまんシルフィール殿』

「へ?」

シルフィールが間の抜けた声を上げた瞬間髪を撫でていた彼の手にグッと力が入り、彼女を身体ごと引き寄せると――

「んうッ!?」

その瑞々しい唇を豪快なヒゲを蓄えた唇によってふさいだのだ。

「んンンン――ッッ!?」

突然行われたフィリオネルからの口付けに、シルフィールの瞳が大きく見開かれる。
何が起こったかわからないといった感じだ。
だが、確かに自分の唇はふさがれている。何に? 感じるのは湿り気を帯びたぬめった感触……これはなにか?
自分の目の前にいる人物のなにかだ。
アップになった厳ついヒゲ面の男の顔、ともすれば精悍な顔つきにも見える顔は目と目が僅か数センチの距離。
鼻は僅かに触れ蓄えられたヒゲに至っては彼女の鼻や頬、口周りにちくちくした感触を与えていた。

(くち…びる…ッ、で、殿下の……わた…くしの……唇…が…ッ)

思考が混乱する中、自身とフィリオネルの唇が重なり合っていることを認識させられたシルフィールは、突然の事態にその身を硬直させながらも彼の口付けをただ受け入れるだけで抵抗しない。
0155フィルシル 美女と『おうぢさま』22012/06/29(金) 19:40:27.52ID:8x1peYLQ

そしてフィリオネルの方もこうしてキスをしているからこそ間近にある彼女の目が驚愕に見開かれているのがよくわかったが、彼は心を鬼にして触れ合わされたままの唇を啄んでいく。
仕方がないとはいえこのようなことをしてしまい非常に心苦しかった。
止めてしまえば彼女に望まぬ接吻を強要し続けることもなくなるし、直ぐさま謝ることもできる。
謝ったくらいで許されることではないが、この“悪いこと”を続けるのは彼の正義の道に反している。
これ以上娘のように可愛いシルフィールを、信頼できる友人である彼女を傷つけたくない。
だが現実は非常だ。中途半端に止めてしまえば大使の疑念を晴らすことができないため彼は止めるに止められないのだ。

「ふっ…んうっ……っ」

そうやってフィリオネルの心に罪悪感が蓄積していく一方で、シルフィールは全く違う反応を見せていた。
唇を啄みながら粘膜同士の触れ合いを楽しむかのように行われる口付けに、驚愕に固まっていたシルフィールの身体から力が抜けていく。
暖かな彼の唇が自分の唇を貪る感触が酷く心地いいものに感じ、拒否しようとか逃げようとかいう気にならない。
彼の想いと彼女の想いが逆方向に向かいながらもキスは続く。
そんな口付けが一分と少しに渡って行われた後、フィリオネルはシルフィールの唇を舌でこじ開けた。

「ンンっ!?」

そして彼女の口内へ舌を差し入れるとまずは下の歯茎をなぞり、続けて上の歯茎、口の中全体、最後に彼女の舌に絡ませて慈しむように味わう。
フィリオネルの舌に自らの舌を絡め取られているシルフィールは力の入らない手を動かして、彼が彼女の身体を抱き締めるのと同じように彼の広い背中に腕を回して抱き着いた。

「んっ…あむっ……んちゅ…ちゅっ……ちゅる」

そして彼女自身も自ら唇を押しつけ粘膜の暖かさを求める。

「ンンっ、はむっ、ちゅっ、ちゅぱっ……」

絡み合う舌を伝ってフィリオネルの唾液がシルフィールの口の中へ、シルフィールの唾液がフィリオネルの口の中へ次々と流れ込み、混ざり合っていく。
混ざり合った唾液はそのまま喉の奥へと入っていき、食堂を通って胃の中へ。
互いの身体を優しく抱き締め合い続く、深くそして熱い口付けは始まってから三分……いや五分は続いていただろう。
顔と唇の角度を変えながら幾度も幾度も繰り返される四十がらみのヒゲ面のおっちゃんと、長い黒髪の美人巫女さんの口付けはある種背徳的な光景にも見えた。
当初は呆気にとられてそれを見ていた侍従長(男)がエッチなものさえ感じさせる二人の口付けにゴクンと生唾を飲み込んで見入り始めた頃、一人状況に取り残されていた大使の肩がぷるぷると震えだした。
それを横目でちらりと見たフィリオネルは大使の様子に気付き、シルフィールの唇からゆっくりと離れ解放した。

「んふぅ……」

ゆっくり離れる彼と彼女の唇の間を混ざり合った二人の唾液が伸び、架け橋となって繋いでいる。
粘り気があるため中々切れずに糸を引いて伸び続ける。
シルフィールはその糸の先にある精悍さを持つ顔をジッと見つめていた。
彼女の頬は上気して紅く染まり、目は熱に浮かされ潤みきっている。
名残惜しげに伸びていた唾液は切れてしまったが、二人は互いの背に腕を回して未だ抱き合ったままだ。

(殿下……)

ドキドキと早鐘を打つ心音が耳に聞こえてきそうであった。
0156フィルシル 美女と『おうぢさま』22012/06/29(金) 19:41:18.32ID:8x1peYLQ



「わっはっは、見せつけてしまったかのうシルフィール殿」
「は…はい……」

小芝居を再開させるフィリオネル。
彼の様子だけを見れば茶番に感じただろう小芝居も、彼の胸に寄りかかったまま抱き着くシルフィールの熱に浮かされた表情を見れば『婚約者同士』というのが本当なのだという十二分の説得力を持たせるものになっていた。

「さて大使殿、今ごらんになられた通りなのだが……これでもまだ納得いきませんかな?」
「い、いえ、た、大変仲がお宜しいようで、言葉もございません……」
「それでは見合いの件、なかったということで宜しいか?」
「は、はい、わかりました……」
(く、くそ、ふざけるな! こ、この私をコケにしやがって!)

だが『婚約者』というのが本当だとわかったところで、納得いかないのが大使だ。
なにせこれで国の乗っ取りが全ておじゃんになってしまったのだから。

(こ、こんな、こんな品位の欠片もないような強烈なヤツに私の計画が……!)

それ故、原因を作った(と勝手に決めつけているだけ)フィリオネルを逆恨みしてしまった大使は、即興で思い付いたことを実行しようと考えた。

「フィリオネル殿下」
「なにかな?」
「実はこの話とは別に内密の御相談がありまして、この後お時間があれば付いてきていただくわけにはいかないでしょうか?」
「ふむ。まあ此度のことは此方に非がある故、都合は付けさせてもらうが」
「では後ほど……くれぐれもお一人で願います」
「うむわかった」

そう言い残して大使が出て行くと同時にフィリオネルはシルフィールの身体を離すととても綺麗な、これぞ完璧なお辞儀というくらいに頭を下げて謝罪した。

「申し訳ないシルフィール殿!事もあろうにおぬしの唇を承諾もなく奪うなどと許されぬ、卑劣な行為をしてしまった!」

とんでもないことをしてしまった。如何様な罰も受けようと捲し立てるように言うフィリオネルにシルフィールは慌てて彼の肩を掴むと、グッと力を入れて押し上げた。

「シルフィール殿…?」
「あ、あの、わたくし本当に気にしていません……お、お役に立てて光栄なくらいですッ、」

にっこりと優しげな笑顔を浮かべるシルフィールの頬は未だ紅くキスされたことを気にしていたが、それは嫌だったからではない。
寧ろとても嬉しかった。未だわからないのだが、フィリオネルになにかをされて嫌な気になることはないのだ。
特に今の口付けは……。
それを彼にわかってもらいたいと必死に言い含める。

「ふ〜む、そうか。しかし詫びを」
「いりません! そんなこと言う殿下はキライです!」

何かある度に詫びだ謝罪だ、そんのものはいらないのだ。
ただ今まで通り側にいてほしいだけなのにわかってくれないフィリオネル。

あーでもないこーでもないと続けるむさいおっさんと美人巫女さんの遣り取りを見ていた侍従長はため息を付きながら――

「痴話げんかはお部屋で願います」

一言呟き応接室で何をやっているんだと二人共叩き出した。


その後、話は平行線をたどったもののフィリオネルの「それでは今度温泉にでも招待しよう」というところで決着した。
その際顔を真っ赤にして「お、温泉… 殿下と温泉…」と恥ずかしそうにしていたのだが、そうかと思えば一転目を細めて
「またお詫びですか?」と迫ったシルフィールが異様に怖く感じたフィリオネルはただ行きたいだけと言って、実際は詫びの部分もあったが誤魔化すのだった。
0157フィルシル 美女と『おうぢさま』22012/06/29(金) 19:46:50.01ID:8x1peYLQ




シルフィールを家まで送り届けたフィリオネルは、大使との約束通り指定された場所に来ていた。
そこはセイルーン郊外にある人気のない森の中だ。

「お待ちしておりましたよフィリオネル殿下」

鬱蒼と茂る木々の奥から件の大使は姿を見せた。

「そこに居られたか。いや〜このような森の中だと聞いたので場所を間違えたかと思ってしまったわい」

脳天気に笑うフィリオネルに大使は表の顔を捨て、邪悪な笑みを浮かべるとなにやら呪文を唱え始める。
周りの木々がざわめき、地面に魔方陣が描かれていく。

「こ、これはッ!」
「殿下、いやさフィリオネル! 貴様には我が野望の生贄となってもらおう! いでよ我が友レッサーデーモンベルロッグ!!」

大使が叫ぶと魔方陣が一層の輝きを放ち、その中心から頭部に大きな角を二本持った三メートルを超える巨体を誇る悪魔のような獣が姿を現した。
大使にベルロッグと呼ばれたこの巨大な魔物はレッサーデーモンといって、最下級とはいえ本来人間には太刀打ちできない魔族である。
そこそこの実力を持つ魔道士でも苦戦することがあるというのに、碌に魔法も使えない者では話にならない。

「ふはははッ、驚きましたかな?」
「ぬううう〜ッ、このような化け物を呼び出すとは、おぬしなにを考えておる!」
「簡単です。殿下にはここで死んでいただく、それだけですよ」

大使は語る。
曰く今回の見合いはセイルーンと関係を持つためのもの。
「縁談をとりまとめた自分にはセイルーンがバックについている」と言って、自国を裏から支配するつもりであったこと。
それをフィリオネルに邪魔され(思い込んでるだけ)破綻したこと。
ならばと彼を郊外に誘い出し、復讐も兼ねて殺害したのちレッサーデーモンには帰ってもらって「襲われていた王子を助けようと化け物を倒したが手遅れだった」と宣伝することにしたというのだ。

「王子を助けようと果敢に戦った私は英雄となり、地位も名誉も約束される! という寸法です。そういうわけで我が野望の礎となってください」

彼が手を動かすと今まで立っているだけだったレッサーデーモンが動き始めた。
ゆるりゆるりと、フィリオネルの方に歩いてくる。

「恐怖で声も出ませんか?」

わはははと勝ち誇り、微動だにしない彼を嘲笑する大使――だったが。
0158フィルシル 美女と『おうぢさま』22012/06/29(金) 19:48:06.79ID:8x1peYLQ

「おのれッ! もはや勘弁ならーん!!」

突如声を張り上げるフィリオネル。

「己が贅をつくすという、ただそれだけのために自国の民や王、姫君まで利用し、更には我がセイルーンすらも利用しようとしたあげくに失敗したとなればこのような化け物の力を借りようなどとはッ!
 如何にわしが平和主義者で暴力が嫌いとはいえもはや許せぬッ! 成敗してくれるからそこに直れいッ!」

一気に捲し立て、怒りを露わにした平和主義者フィリオネルは、恐ろしいデーモンに向かって駆け出すと――

「平和主義者クラァァァーッッシュ!!」

と叫んでデーモンの懐に飛び込み、その太くたくましい腕を力の限り振りかぶって強力なパンチを繰り出した。

『ガァァアアッッ!』

そのパンチは少々の打撃など物ともしないはずのレッサーデーモンの骨をまるで陶器のようにたやすく打ち砕いた。

「んなアホなァァァ!」

自分が思い描いた結果とはまるで違う光景に悲鳴を上げる大使。
当たり前だ。どこの世界に武器も装備していない素手でレッサーデーモンの肋骨を砕いたりできる人間がいるというのか?
それは既に人間ではない。
混乱をよそにフィリオネルは助走を付けて跳び蹴りを放つ。

「人畜無害キィィィーック!!」

強烈な蹴りが突き刺さったデーモンの身体が勢いよく後ろに吹っ飛び、斜線上に居た大使の身体に激突。
大使を巻き込みながら背後の大木に激突したデーモンは事切れ、押しつぶされた大使の身体はトマトをつぶしたように赤い物やピンク色の物などをまき散らしてぺしゃんこになっていた。
その様子を目にしたフィリオネルは

「愚かな、悔い改めずに自決するとは……」

などと言い実に残念だと呟くのだった……
0159フィルシル 美女と『おうぢさま』22012/06/29(金) 19:49:41.06ID:8x1peYLQ





その日の夜。
シルフィールは久しぶりに子供の頃の夢を見ていた。
その夢は彼女が父エルクに怒られ、泣きながら家を飛び出して帰れなくなったときのものだった。

「お父さま〜、お父さま〜、」

ひっくひっくとしゃくり上げながらこの場に居ない父を呼ぶシルフィール。
もう町は夕暮れ時で、あと30分もすれば日が落ち真っ暗になるだろう。
一人取り残される寂しさに涙をこぼして泣き続ける彼女の滲む視界に、大きな手が差し伸べられたのはそのときだった。

「お父さま〜ッ」

父の身体に泣いて抱き着いたシルフィールは、頭を撫でる父の手の温もりに次第に涙が引いていく。
そして父におんぶされて共に家路についた。

オレンジ色の西日の中、ふと気がつけば今まで子供だった自分の身体が大人になっていた。
服も当然子供の頃着ていた可愛らしい物ではなく、薄紫色の法衣と深緑のマント。
そして気付く。父の背中はこんなに大きかっただろうか?

「お父さま…?」

呼びかけるシルフィールの声に振り向いた顔は父ではなかった。
ヒゲを蓄えているところは父と同じなのだが綺麗に整えられた父のヒゲに対して、振り向いた男性のは豪快な伸びっぱなしのヒゲだったのだ。
風貌も優しげな父とは違い、一言で言えば厳つく怖い。
だが、そんな外見にもかかわらずとても暖かな目をしている。

「もうすぐつくからな」

声も酷いだみ声だ。だけどその声がとても優しい。
この人は誰なのだろう?
知らないおじさんだというのに、自分はこの人を好ましく思っている。
さっきまで自分と居た父はどこへ?
シルフィールが西日の差す方向、オレンジ色の光を振り返ると――――そこに父は立っていた。
父は此方を見て微笑みながら手を振っている。
彼女が手を振り替えすと父は一層笑みを深めて自分たちを見送っている。
自分と、自分をおぶっているおじさんを。
0160フィルシル 美女と『おうぢさま』22012/06/29(金) 19:57:03.94ID:8x1peYLQ

「おじさま」
「んっ?」
「おじさまはお父さまですか?」

変なことを聞いている。自分でもそう思う。
だが父のようでいて、それでいて父とは違う暖かさを持ったこのおじさんのことをどうしても知りたかった。

「わはは、わしにはもう二人の娘がおる。だが、お嬢ちゃんが望むのなら父になってもかまわんぞ?」

そう言って笑うおじさんの言葉はとても嬉しく思えたし、魅力的にも感じた。
だが――
その魅力的な言葉に返事をすることはなかった。
自分の父は、あのオレンジ色の暖かな光の中にいる父だけ。
その代わりは誰にもできないし、求めてはいけない。
その代わりに別の質問をしてみた。

「おじさんにはお嫁さん……いますか?」
「居る……というよりも居った。今はもうゆっくり眠っておるよ……」

おじさんはそう言って少し寂しげに微笑んだけど、やはり優しく温かい。
昔は居たけど今はもう居ないというおじさんに、彼女は思い切って聞いてみた。

「それじゃ……わたしがお嫁さんになってもいいですか?」

するとおじさんは先ほどとは違って明るく豪快に笑う。
彼女はこの笑い方のほうが好きだ。

「おぬしがか? わはは、これはよい! ずいぶん小さくかわいらしいお嫁さんじゃわい!」

小さいと言われてムッとする。自分は大人になったはずなのにと。
だが、この人の前では小さいのかも知れない。
ドワーフをそのまま大きくしたようながっしりした体格に、倍以上も年が離れているこの人にとっては。

「すまんすまん、おぬしは立派な“れでぃ”だ」
「なんだかバカにされてるような気がします」
「そうかの?ならばお詫びに」
「お詫びなんかいりません!」

したことなんてないはずなのに、つい最近したかのような話を変だな?と思ったシルフィールがもう一度後ろを振り返ったとき、そこに父の姿はなかった。
0161フィルシル 美女と『おうぢさま』22012/06/29(金) 20:00:03.05ID:8x1peYLQ

翌日、なにか大切な夢を見たはずだというのにすっかり忘れてしまったシルフィールが町を歩いていると、最近仲良くなったヒゲ面で大柄のおっちゃんが酒場の前で女性に話しかけられているのを目にした。

「寄ってってくださいよ〜」
「いかんいかん。昼間から酒を飲むのはわしの正義に反する」
「そんなこと仰らずに〜」

客引きの女性は彼の腕に自分の腕を絡めて引っ張っていこうとしている。
相手が女性であるというのもあって無理に引きはがせないでいる彼の姿は、シルフィールの目から、いや離れた位置にいる者の目からは「入ろうか? どうしようか?」と迷っているようにも見えた。
それも女性に手を引かれてデレッとしながら。尤もこれは彼女の思い込みなのだが。

「……」

それを見ていたシルフィールは意識してなのかどうか、早歩きでおっちゃんに近づくと――

「なにしてるんですか!?」

と客引きの女性から強引に引っぺがして彼の手を取って引きずっていった。

「シルフィール殿、今日は別に用はないのでは……」
「なんですかッ!?」
「い、いや、なんでもないぞ……」

約束はしていないというのに強制的に引っ張っていく彼女の妙な迫力に押されて黙って従うおっちゃんだったが、何故自分に対し怒っているのかわからないため、
宥めようとしてまた怒らせるという悪循環に陥った散々な一日だった。
0166名無しさん@ピンキー2012/07/02(月) 00:26:02.82ID:uMi0YD/L
夏。
暑い。
即ち、タンクトップ。

タンクトップで相棒を悩殺しあう、ガウリイ&リナを受信した。


>>162
GJ!
0167ガウリナ タンクトップ2012/07/02(月) 13:00:51.30ID:sksUM3Eo
>>166
「おーい、リナ入るぞー」
うだる暑さの日、隣の部屋のドアを叩いた
「開いてるわよー」
「お?涼しいなこの部屋」
「弱冷気の呪文かけてるから。でもあっついわよ」
こちらに足を向けてベッドに寝転がったまま、読んでいる魔道書から目を離さずんいリナは答えた
ってオイ。その格好は反則だろーーーーー!
オレは心の内で叫んだ。口に出したら間違いなく炎天下の中へ吹っ飛ばされる
リナの服装はいつもの魔道士姿ではなく、上はノースリーブ、下はホットパンツ
いつもは隠されている細い手足が無防備に曝け出されている
そんな格好で鍵もかけずに。自覚あるのか?こいつは
あー脚をパタパタするな。押え付けたくなるじゃないか
「ガウリイ?」
不思議そうに振り返ったリナの声にはっとして平静を装う。あぶねー、あぶねー
「あーでもオレの部屋よりは全然涼しいぞ」
「そーお?」
また視線が本に戻ってしまった。ちょっと面白くないので腹いせに珍しいリナの姿を堪能しようと決めた
リナの足元、ベッドサイドに腰掛けると間近にホットパンツから伸びる細く白い脚
ノースリーブの脇からは、胸元がのぞいている
いや、胸元どころか胸の先までチラチラと見えている
「これはヤバイだろーー」
「ん?」
きょとんと見上げるリナ。やっぱりわかってないな。盗賊いぢめといい、ったく……
「あのな」
「なによ?」
「お前無防備過ぎるぞ。この辺とか、この辺とか」
言って脇の隙間から胸を、もう片方の手で太ももを撫でてやった
「あんっ!ちょっ、ガウリイ!このすけべくらげ!」
リナは顔を赤くしてバタバタ暴れるが、たいしたことではない
あー胸も脚も触り心地最高だ
柔らかい胸とすべすべの脚を堪能してるうちにリナが大人しくなっていた
大人しいというよりこれは
「……がうりぃ」
潤んだ目で乞われてホットパンツの隙間から指を潜り込ませるとそこはかなり濡れていた
「んあっ」
指を動かしてやると気持ち良さそうに身体を捩る
オレは指を引き抜くとホットパンツを引き下ろし、後ろから一気に突っ込んだ
涼しかった部屋の中、二人汗を滴らせ激しく肌をぶつけ合う
着たままのノースリーブも汗で肌に張り付いていた
その内側で触っている胸や肌にも汗が常に這い伝っていき、その跡を指でなぞると小さい身体が撥ねた
リナの中に捻じ込む度に声が煽り立てる
「あっ、あっ、がう、り、イッちゃう、イッちゃうよぅ、あ、ああっ」
その声に応えて一層腰の動きを激しくし胸とクリを責めると腕の中で身体が震え強く締め付けてきた中へと吐精した

「もうっ……せっかく涼しかったのに」
呪文をかけ直し、再び涼しくなった部屋でリナが怒った口調で言う
顔はかなり赤いからホントに怒ってるのではなさそうだ
「でも汗をかくのも気持ちいいもんだろ?」
オレはそう言ってリナの機嫌を直すため、階下に冷たいジュースをもらいに行った

おしまい
0168名無しさん@ピンキー2012/07/02(月) 13:03:33.54ID:sksUM3Eo
>>166
すまん!「悩殺しあう」のは受信できなかったーーー

汗をかいたあとは水分をしっかりとりませう
0170名無しさん@ピンキー2012/07/03(火) 22:20:00.52ID:RjHWbg9G
GJ!GJ!
うおぉー!たくさんの投稿嬉しすぎるww

ゼルアメ、ゼロフィリも読みたいわぁ
0171名無しさん@ピンキー2012/07/04(水) 01:32:42.85ID:rdED33ej
ゼルアメいいね!
スレイヤーズで一番好きなCPだわ

夏は海水浴や、ホタル観察会、花火に祭り、突然の通り雨などネタになりそうなイベントが盛りだくさんだね!
0172ゼルアメ(ギャグ小話)2012/07/05(木) 00:08:13.54ID:QamY2JFA
「アメリア」
「ゼルガディスさんっ!?セイルーンに来てたんですか?」
「ああ、ついさっきな。聞いてくれ。岩肌問題が解決したんだ」
「ええっ!?本当ですか!!おめでとうございますっ!
……言われてみればどことなく質感が違うような」
「実はシメサバと合成したんだ」
「し、シメサバ、ですか?」
「ああ。引いてダメなら足してみろっていうわけでな。試してみるか?」
「…はい!」
◇◇◇◇◇◇
「あっ、あんっ、あんっ、ゼルガディスさんっ、い、い…すごくきゅんきゅんしますぅ」
「アメリアっ…」
「ああああっ!旨味が広がりますぅぅぅ」


という夢を見たのは視察で海沿いの街を訪れた時のこと
「またもうすぐ会えますよね?」
予感めいた想いを胸にわたしはきらめく海に向かって呟いた
0174名無しさん@ピンキー2012/07/05(木) 23:37:15.72ID:ocJGNJNz
シメサバはドラマCDの夢オチネタですな。
ついでにオットセイとか種馬とか触手とかも足しちゃえ。
0176海の美女と『おうぢさま』2012/07/06(金) 18:39:58.27ID:jcO4s05o
息抜きの小ネタ
ただし! 危険物指定なのでよろしく。

子ネタ 海の美女と『おうぢさま』

0177海の美女と『おうぢさま』2012/07/06(金) 18:40:43.33ID:jcO4s05o

どこまでも広がる大海原。その蒼い世界を見渡せる砂浜に一人の女性がたたずんでいた。
流れるような漆黒の長い髪をした華奢な女性は、ひと目で高級素材とわかる蒼いドレスと、装飾品の数々をその身に纏っている。
見た目淑やかさとか静謐さを感じさせる美しい容貌と佇まいは、何処かの国の姫、または貴族の令嬢といったところか? 
本格的な夏が訪れる前であるせいか浜辺には人っ子一人いないが、もし海水浴客で埋め尽くされる時期ならば、ナンパな男たちが取り合いを始めていることだろう。

「いい風ですわぁ〜」

のんびりと、そして丁寧な口調でそう呟いた女性の髪が海から吹き付けてくる風に煽られ宙を流れるように靡く。

「永い時の中、たまにはこうして何も考えずに海を眺めるというのもいいですわね」

どう見ても二十歳ほどにしかみえない女性が口にする台詞ではないが、連れ合いが居るわけではないため突っ込まれることもない。
本来ならばこの女性、こんなところでのんびりしていられるような立場ではないのだが、ここ最近色々とありすぎて暫くはすることがないのだ。
故に散歩だの行楽だの、普段しないことをしているのである。
ただ、こんな王侯貴族が着るような豪華なドレスを纏って、砂浜に立つ姿は異常なくらいに目立つ。
本人はいつもの服装であるせいか気にしていないようだが、ある職業に就いている者にとっては極上のカモ。
今の時代、そんな輩はどこにでも現れる。
そして此処にも三人、その職業に就いている者達が――

「姉ちゃん」

後ろから聞こえた声に思わず振り向く女性。
その目に薄汚れた皮製の胸当てや、所々やぶれた服を着た巨漢の男とひょろっとした男、背の低い男の三人組が映る。

「?」

彼女はキョロキョロと周りを見渡した後、首をかしげて彼らに背を向け、再び海から来る風と雄大な蒼い景色を楽しみだした。

「コラ姉ちゃんッ!無視すんじゃねぇ!!」

当然そんなことをされたら誰でも怒る。
それがこういう職業の人達なら尚のこと。
尤も、彼女は態と無視したわけではない。
0178海の美女と『おうぢさま』2012/07/06(金) 18:41:26.02ID:jcO4s05o

「あら? わたくしに声を掛けておられましたの?」
「他に誰が居るんだよ!?」
「いえ、独り言かと思いましたので」

そう、別に無視したわけではない。自分に声を掛けられたと思わなかっただけなのだ。
こういった輩に知り合いなど居ないし、関わり合いになること自体ないのだから。
つまり一切悪気はないのである。
しかし、彼女に悪気はなくても男達がどう受け取るかは別。

「ふざけんじゃねえぞッ! 何所の国の王女様かお貴族様か知らねえが、見下しやがってッ!」
「見下す? わたくし、見下してなどおりませんわ」

見下すもなにも、足下に石ころが落ちていてそれを気にする者などいないだろう?
彼女からすればこの男達などその程度の存在でしかない。

「んなことどうでもいいんだよ! 有り金全部出せ……で済ませてやろうと思ったがその態度が気にいらねえ。幸い姉ちゃんは美人だし、俺様の慰み物にしてやらあ」

確かに彼女は美人だ。それも極上の美人。
慰み物にしたあとに人買いにでも売ればさぞや高く買い取ってくれることだろう。
貴族だろうが王女だろうが金になればそれでいいと考える彼らは、その場から動かない彼女ににじり寄っていく。
ここまでくれば自分がどうなるか? どういう目に遭い、どのような運命が待っているかわかるもの。
それなのに彼女の表情は変わらない。
にこにこと温かい微笑みを崩さない。
しかし最悪の結果へ突き進むだけだというのに変わりなく、間もなく陵辱の限りを尽くされることになる。
彼女はそれをよくわかっている。
わかっているからこそ笑うのだ。
絶望に落ちるその過程。それを楽しもうとしているのだ。
無論、気が触れたわけではない……

そして男達に取り囲まれ、彼女の微笑みが一層深まったとき――――救世主は訪れた。
0179海の美女と『おうぢさま』2012/07/06(金) 18:42:06.96ID:jcO4s05o

「待て待て待てぇぇぇいッッ!!」

突如響き渡る雷のような大声。
彼女を取り囲む男達の凄む声とは比べものにならない大きさだ。

「一人のか弱き女性を男三人で取り囲み、非道な行いと共に汚そうとする傍若無人なその振る舞い、断じて見過ごすわけにはゆかぬ!!」 

女性を含むその場の四人が声のする方へと振り向くと、大きな岩の上にたくましい肉体を持った大柄の男が一人腕を組んで立っていた。
蒼いマントに全身黒タイツ。胸には赤いXの文字と、どこぞのヒーローオタクのような格好をした男が。

「な、なんだテメエはッ!?」
「仮に謎のヒーローXとでも名乗っておこう……。即刻ご婦人を解放するならばよし。そうでなければ天に変わって成敗してくれる!!」

謎のヒーローXと名乗った男は一人。此方は三人。

「フザケンナやっちまえぇぇぇッ!」

負けるわけがないと判断した男達は、いいところを邪魔された怒りもあって力任せに飛びかかっていった。

「正義の光あるところ、悪が栄えることはなぁぁぁいッッ!!」

男達が飛びかかるのと同時に自身も岩から飛び降りると、身体ごとぶつかっていくヒーローX。

「明日の平和のために受けよ、平和主義者クラッシュロイヤルスペシャルサンダーッッ!!」

訳の分からない必殺技の名前を叫びながら巨漢の男に繰り出されたXの強烈なラリアット。
まともに食らった相手は軽々と吹っ飛んで頭から岩に激突。動かなくなった。
Xは残る二人の間を素早くすり抜けると、口を開けてポカンと立ち尽くす女性を横抱きにして抱え上げる。

「へ!? な、なんですのッ!?」
「暫し御容赦願いたい」

抱き上げられて混乱する女性に一言断りを入れたXは、脚に力を入れて天高く飛び上がる。

「とうッ!」
「きゃあああッッ」

訳が分からないままお姫様だっこされた女性は空中で悲鳴を上げる。
別に高いから怖いとかではない。これが何百何千メートルの高さであっても恐怖など感じないのだから。
ただ、経験したことのない状況に、ある意味酔わされていたのだ。
そしてXの身体が跳躍の頂点にたどり着き、自由落下を始めたところで次なる必殺技を繰り出すべく両足を突き出し叫んだ。

「受けよ! みんな友達キック&キィィィィッック!!」

両足を交互に突き出し、起用としか言えない蹴りを残った二人に叩き込んだ彼はそのまま着地。
そして立ち上がると同時に一言――

「これぞ平和の真髄!!」

すると蹴りを叩き込まれて微動だにせず立っていた男二人がその場に崩れ落ちた……。
0180海の美女と『おうぢさま』2012/07/06(金) 18:44:27.50ID:jcO4s05o

悪を成敗したXは抱いていた女性を下ろすと何も言わずに背を向け、歩み始めた。
ヒーローは多くを語らない。その背中が物語っている。

「お待ちください…」

そんな彼を呼び止める女性。
彼女の胸は今、経験したことがないこの出来事にときめいていた。

「せめて、せめてお名前を」

彼はXとしか名乗っていない。
もちろん彼女が“本気”で調べればすぐにも正体が判明するであろう。
が、それでは意味がないし、そんなことはしたくなかった。

「故あって本名は名乗れぬがフィル……親しき者はそう呼んでいる」

言いながら彼は口元を隠していたマスクを下げ、素顔を露わにした。

「フィル…さま……」

彼の名を聞いた彼女は数度その名を呟く。

「また、お会いできるでしょうか?」
「わからぬ。わからぬが……また、此処を訪れることもあるであろう」
「では、そのとき……わたくしと…その……」

恥ずかしいのか指の先を合わせてもじもじする彼女にフッと笑いかけた彼は

「うむ。では次にお会いするとき、貴殿をエスコートさせていただこう」

それだけ言って今度こそ振り返ることなく歩み始めた。
彼の微笑みにときめく胸を押さえて返事ができないでいた彼女は、未だ自らの名を告げていなかったことを思い出して去り行く背中に想いを込めて叫んだ。

「フィルさま! わたくしはッ、わたくしの名はダルフィンッ!! 忘れないでくださいましねッッ!!」

彼女、ダルフィンの目にはもはやフィルの姿しか映っていない。
周りで気絶している職業野盗の男達など石ころどころか、存在すら見失われているほどだ。
それがどれほど幸運なことか気付かないだろう男達は、目を覚ましていたらこれ幸いにと再び襲いかかっていただろう。
無論彼女、ダルフィンに……
おそらく一生分の運を使い果たしただろう彼らを余所に、胸の前で手を組み合わせたダルフィンは去り行くフィルの背中を見送っていた……。

「フィルさま……」
0181海の美女と『おうぢさま』2012/07/06(金) 18:48:54.13ID:jcO4s05o

世界の何処かにある某所。


「恋ですわ! わたくし恋をしてしまいましたの!!」

白いドレスを着た金髪の女性は訪れていた同僚の話にうんざりしていた。
何せ来るなり「一目惚れをした」だの「素敵な殿方に出会いましたの」などと、聞きたくもない話をされるのだから。
誰かに助けられる必要など微塵もない強大な力を持つ同僚は、生まれて初めて助けられたことで恋をしてしまったらしいのだ。

「昔から変わったところがあるのは知っていたが、本当に変わっていたのだな。大丈夫なのか?」
「心配無用、痛くもかゆくもありませんわ。わたくし悟りましたの。愛は存在を越えてしまうものなのだと!」

愛というのは自分たちと相容れぬ感情。
といいつつ、過去に例がないとは言えないため「そういうこともある」と認識していたが、まさか自分と同格の存在が誰かに恋をするなど考えてもみなかった。
だが、それ以上に変わっていると思ったのは美的センス。
素敵だ格好いいだと騒ぐ同僚にどういう人物か聞いてみて呆れた。

大柄で、ドワーフをそのまま大きくしたようながっちりとした体格。
ヒゲ面で四十は越えているだろうヒーローオタクの男だというのだから。

「ま、まさか、いえ……そんなはずは……」

真っ赤になった両頬を押さえて「やんやん」と言いながら頭を左右に振る同僚を気持ち悪いと思っていた彼女は、同僚の話を聞いていつもの張り付いたような笑顔を引きつらせている直属の部下に目を向けた。

「知っているのか?」
「い、いえ、この目で見たわけではないのでなんとも、」
「そうか」
「フィルさまとデート……」

煮え切らない返事をする部下に、彼女はとりあえず鬱陶しい色惚けの同僚を叩き出すよう命令するのだった。

「僕がディープシー様を? 無理ですよォォォォーーッッ!!!」
0182海の美女と『おうぢさま』2012/07/06(金) 19:00:35.37ID:jcO4s05o
感想ありがと!
一応フィルシルとフィルダルは繋がってないということで
繋がってたらこんな感じ

「ひ、ひるふぃーるほの、頬がいひゃいのらが、なぜに…」
「なんだかイライラします…」

シルフィールは帰ってきたフィリオネルの頬を引っ張ってしまう
何故かイライラするのだ。
げに恐ろしきは女の感であった……
0183名無しさん@ピンキー2012/07/06(金) 20:47:26.06ID:0IAnQn4o
なんという危険物…www
今まで想像もしたことないわwwもっとやれw
0184名無しさん@ピンキー2012/07/07(土) 18:36:29.41ID:pNddKUM3
まさかエロパロスレでフィルさんのロマンスをこんなに拝めるとはwww
楽しすぎるわ
0185名無しさん@ピンキー2012/07/09(月) 03:49:15.42ID:g2Q/JCtw
それもロマンスの相手がシルフィールに海王様ってww
この先どうなるのか想像できん
とくに海王様はwww
0186名無しさん@ピンキー2012/07/11(水) 08:08:02.48ID:cuqvOfus
ランツと誰かの話がひとつくらいあってもよさそうだと思ったがないなw
女好きだから誰とでもいけそう
リナ、エリス、シルフィール
0188名無しさん@ピンキー2012/07/13(金) 08:54:05.61ID:8BEKD7/y
>>187
ナーガあるならルナもいけるな
ふらりと立ち寄ったリアランサーで一目ぼれ。つきまとうランツ
リナが帰ってくるとスポットと仲良く犬小屋に
・・あれ?
0190フィルシル 美女と『おうぢさま』32012/07/14(土) 17:52:18.97ID:tDT05pZU
美女と『おうぢさま』3と4話投下

これは王子様ではありません『おうぢさま』です
おうぢさまことフィリオネル×シルフィール、フィルシルという危険物なので避ける人は避けてね。
0191フィルシル 美女と『おうぢさま』32012/07/14(土) 17:52:53.17ID:tDT05pZU


美女と『おうぢさま』3


「ええっとだな……これと、これをもらえるか?」
「まいどあり〜!」

此処セイルーン・シティの大通りは、いつものように大勢の人で溢れかえり、大いに賑わいを見せていた。
流石は世界でも指折りの大都市、たまに事件が起こったりする物の治安は非常に良く、観光客も安心して過ごせる街である。
その人混みの中、とある雑貨店にて一人の男性がせっせと買い物をしていた。
この人物、暑っくるしーくらいの大柄で、ドワーフをそのまま大きくしたようながっちりとした体格と蓄えられた口髭が相まって、一見するとその筋の者にしか見えないが、何を隠そうこのセイルーンの王子様なのだ。
といっても、素性を知る者=セイルーンの国民や友人などを除けば、誰もが皆信じないであろう。それくらい世間一般の『王子様』像からかけ離れた外見をしている。
そんな王子ことフィリオネルが平日の昼間に買い物をしているのは、昨日と今日、二日掛けてやる書類仕事を今日の午前中に終わらせてしまったからだ。
他の仕事はないかと聞いても「とくにありませんのでお休みください」と言われ、手持ち無沙汰になった彼は街を散策しようと護衛も付けずに出てきたのである。
尤も彼の場合護衛を付ける必要性など皆無なのだが……。

「おっと忘れてた。殿下殿下、これサービスです」
「ん? これは……福引き券か?」
「ええ、そこの角でやってます。良ければやってみてくださいよ」
「これはかたじけない。しかし、わしはこの手の物はあまり当たったことがないからなぁ〜」

もらった福引き券は一回分。
元より簡単には当たらないのが福引きである。
一発勝負では絶望的だ。

「そうそう当てられたら商売上がったりですからね〜」
「それもそうか」

暫しの談笑を終えたフィリオネルは福引き券片手に露店立ち並ぶ通りの角まで行くと、それを係の者に手渡した。

「これはこれはフィリオネル殿下。ようこそお越しくださいました」
「お越しくださったので、是非とも当たらせてほしいんじゃがなぁ〜」
「それをやったらイカサマですよ」
「むむっ、それはイカンな。自ら悪の道に進んでしまうところであったわ」

冗談とも半分本気ともとれる台詞を吐いたフィリオネルは、早速回転式抽選器の取っ手を握るとまずは逆方向に回して内部の玉を混ぜ、次いで反対に回して玉を吐き出させようとしたが、
あまりに勢いよく回転させたため出る寸前で玉が内部に戻ってしまうというアクシデントが起きた。

「ち、ちょっと殿下、壊れちゃいますよ、」
「おお、すまんすまん。つい力が入ってしまってな」

ただ、係の者からは見えなかったようだが、一瞬出かけた玉の色は白――ハズレの色だったのだ。
フィリオネルには持ち前の動体視力で見えていたため、内心ホッとしているのだが、これは明らかにズルと言えるだろう。
本来一回分だというのに、二回回すのと同じなのだから。
しかし彼は(出かけて引っ込むとはまた変わった作りをしておるのだな)などと、自分に都合のいいように受け取った。
いつものことながらイイ性格をしている。

「よし今度こそっ!」

今度は先ほどと違ってゆっくり回す。
ガラガラと玉の混ざる音が聞こえ、穴から顔を覘かせトレイに落ちたのは――銀色に光り輝く玉。
明らかに当たりを示す色である。派手さがないぶん一等でないのはわかったが、上位等級であるのは間違いない。

「銀色……おめでとうございます殿下! 二等賞――ミプロス島ペア温泉優待券ですっ!!」

ちなみに一等は数々の勇者や大魔道士を輩出することで有名な、ゼフィーリア王国一周の旅という物だった。

0192フィルシル 美女と『おうぢさま』32012/07/14(土) 17:54:07.78ID:tDT05pZU

「ミプロス島といえば、世界温泉ガイドブックで紹介されている温泉の中でも五指に入るほど有名な温泉地ですぞ」
「ほう、名前は知っておったがそれほどに有名なのかぁ」

王宮に戻ったフィリオネルが福引きで当てた優待券のことを話したところ、世界各地の温泉に詳しいという侍従長が事細かに教えてくれた。
なんでも世界温泉ガイドブック五つ星の中の五つ星 全温泉ファンあこがれの的らしく、マニアの間ではチケットが高値で取引されているほどなのだという。

「それにペアならば丁度宜しいではないですか。確かシルフィール殿でしたかな? 殿下の御婚約者の……あの方をお誘いしては?」

ペアチケットならばシルフィールを誘ってみてはどうかと提案する侍従長。
真相は知っているというのに、ご丁寧にも婚約者などと付け足して。
これにはさしものフィリオネルも慌てて否定した。

「違う違うシルフィール殿は親しい友人だっ! というよりもおぬしあの場に居ったのだから知っておるだろうに……」
「無論冗談でございますよ」
「あまりたちの悪い冗談を言わんでくれい……。事情を知らぬ者が聞いて居ったらまたシルフィール殿に迷惑がかかってしまうではないか」

これ以上彼女に迷惑を掛けてしまったら顔を合わせられなくなると言うフィリオネルだが、侍従長は「大丈夫でしょう」と他人事のように返答している。
だが彼は大丈夫とは考えない。若く見目麗しい嫁入り前の娘と、自分のようなさえない(本気でさえないと思ってる)中年男が妙な噂を立てられれば、彼女にとって迷惑以外の何物でもないだろう。
まあこれはフィリオネルがそう思い込んでいるだけで、当のシルフィールが迷惑だと思うかはまた別である。
侍従長は第三者の視点から二人の関係を見た上でこう述べたのだが、どうやら伝わらない様子だった。

「まあ、いずれにせよこの間の見合い騒ぎで世話になっておるから、礼も兼ねて温泉にでもと誘ってはいたが……」
「決定ですな。では有休の手配をしなければならないのでクリストファ殿下にもお伝えしておきましょう」

クリストファというのはセイルーン王国第二王位継承者であり、スマートな美形中年とフィル王子とは似ても似つかない容姿を持っているが、正真正銘血の繋がった弟である。
フィリオネルがお忍びの旅などで不在の際に、彼に代わってセイルーンの政治行政を動かしているのがそのクリストファ王子なのだ。

「頼む。わしの方もシルフィール殿に伝えてくるとしよう」
0193フィルシル 美女と『おうぢさま』32012/07/14(土) 17:55:24.33ID:tDT05pZU




フィリオネルは早速王宮のすぐ近くにあるシルフィールの家――正確には彼女の叔父グレイの家を訪ねた。
城壁を隔ててすぐの場所に立っているため、ある意味彼とシルフィールはお隣さんでもある。
彼は家の門をくぐり玄関前までくると、狼の頭をかたどったドア・ノッカーを数度打ち鳴らした。

「は〜い」

中から聞こえたソプラノボイスと共に開かれた扉から顔を覗かせたのは、薄紫色の法衣と深緑のマントを身にまとった、膝裏にかかるくらいのストレートの長い黒髪が印象的な少女。
言わずと知れたシルフィールだ。

「あっ、で、殿下!」

シルフィールは訊ねてきた客がフィリオネルだとわかると、一瞬上擦った声になる。
といってもそれはセイルーンの王子というやんごとない身分の方が訪れたからという物ではなく、親しい友人、または想い人に会えて嬉しいという感じの物だが。
どちらかと言えば前者よりも後者的な感じがする声の響きだ。

「ど、どうぞお上がりください」
「うむ。では失礼する」

「来た以上上がっていくよね?」とでも聞こえてきそうな弾んだ声で招き入れるシルフィールに、フィリオネルも「当然」とばかりにお邪魔した。


「さあどうぞ。座ってください」
「おお、これはすまぬ」

客間に通されたフィリオネルにお茶を差し出したシルフィールは、もはや定位置と言ってもいい彼の隣に座った。

「ところでシルフィール殿、グレイは?」
「おじさんは今往診に行っています。多分すぐに帰ってくるとは思いますけど……おじさんに御用ですか?」

シルフィールの叔父グレイは神官と魔法医の兼業をしているため、時折患者さんの家に往診に出かけることがある。
グレイとフィリオネルは昔からの友人であるため、彼女は叔父に用事があるのかと思ったのだ。
無論、今日用事があるのはシルフィールにだが。

「ん? いや、用事はシルフィール殿にだが」

なんですか?という彼女にフィリオネルはミプロス島の温泉優待券を差し出した。
0194フィルシル 美女と『おうぢさま』32012/07/14(土) 17:55:56.17ID:tDT05pZU

「ど、どうされたのですかこのチケット!?」

それを見たシルフィールが驚きの声を上げる。どうやら彼女もミプロス島の温泉チケットがレア中のレアだというのを知っていたようだ。
ならば話は早いと経緯を説明する。

「実はな、今日大通りで買い物をしておったら福引き券をもらって挑戦してみたのだが……結果これが当たったというわけなのだ。いや〜運がよかったわい」
「そ、そうだったんですか」
「この間シルフィール殿と温泉に行こうと話しておっただろう? それで誘いに来たという訳だがどうかと思「行きますっ!」おおうっ!?」

話を遮る形で返事をしたシルフィールは、目を輝かせて彼の方に身を乗り出す。
滅多に手に入らないミプロス島の温泉チケット。それが目の前にあって、それも彼女にとって気になる人からの誘いなのだから興奮するのもムリはない。
それにより隣り合って座っているため、ただでさえ近かった二人の身体が更に近くなったのもまた当然と言えた。

「あっ……」
「むう……」

温泉に誘われたことが嬉しかったからか、勢いのまま彼に迫るような感じになってしまったシルフィールはふと我に返ったが、時既に遅し。
目と鼻の先、唇が触れそうなほどに二人の距離は近くなっていた。
片やフィリオネルも物理的距離が限りなくゼロになってしまったため、思わず身体を硬直させてしまい、言葉も出せなくなってしまう。
これが今まで何もなければ「わっはっは、ここまで喜んでもらえるとは誘ったかいがあったというものだわい」などと笑い飛ばせていただろう。
だが、この距離感で思い出したのは、あの芝居の時の熱い口付け。
シルフィールも同じく舌を絡ませ合い行われた、深く熱いキスの味を思い出し、固まってしまった。

「……」
「……」

見つめ合う二人の顔がゆっくりと近づいていく。
フィリオネルも、またシルフィールも、共に意識した物ではない。
それが証拠に口付けを交わしたことを思い出した後は何も考えていなかった。ダメだとか、こんなことをしてはいけないとか、恥ずかしいとか。
ただ身体が勝手に引き合っていくのだ。
まるで引力があるかのように。
分かたれた物が元の形に戻ろうとするかのように。
10センチほどあった唇の距離が徐々に徐々に狭まっていく。
9センチ、8センチ、7センチ……
シルフィールの紅色に染まった頬と潤んだ瞳が。
豪快なヒゲを蓄えたフィリオネルの顔が。
瞳の中に映る互いの顔がゆっくりと近づいていく。
やがてそれが1センチとなり、あと一秒もしない間に重なろうかというそのとき――

「ただいま〜」

シルフィールの叔父グレイが往診を終えて帰ってきた……
0195フィルシル 美女と『おうぢさま』32012/07/14(土) 17:56:49.59ID:tDT05pZU

「おお、これは殿下。お見えになられていたのですか」
「う、うむ、まあ…な……」

歯切れの悪いフィリオネル。
グレイの帰宅の声と同時に我に返ったフィリオネルとシルフィールは、電光石火の勢いで身体を離して居住まいを整えていたため、結果的に気付かれることはなかった物の、気まずくなってしまった。
何故自分たちはあのようなことをしてしまったのか?
グレイが帰ってこなければ、あのまま唇を重ねてしまっていたのだろうか?
そんなことばかり思い浮かんで、互いの顔をチラチラ見ては視線を逸らすという行為を繰り返していた。
ただそこはそれ。持ち前の明るさと勢いに任せて再び話し始めたフィリオネルは、グレイも交えてシルフィールを誘いに来たことを伝える。

「というわけなのだ」
「殿下は働き過ぎですからね。丁度いい機会です、ゆっくりと英気を養ってきてください。それとシルフィールのこと宜しくお願いします。シルフィール、くれぐれも失礼のないようにな」
「も、もうっ! 子供ではないのですからわかっています!」
「そうじゃそうじゃ、シルフィール殿は立派な“れでぃ”であるからなぁ」
「殿下も何か発音がおかしくて不愉快ですっ!」

フィリオネルのおかげで話を上手く進めることが出来たため、気まずくなっていたシルフィールも次第に笑顔を取り戻し、終始穏やかに談笑を続けることが出来た。
ただ、今度は子供扱いされて別の意味でもやもやしてしまったのだが……。





「むっ? いかん、すっかり話し込んでしまったわい」

楽しければ話は続き、楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。
外はすっかり日が落ちて、空には月が昇っていた。

「さて、わしはそろそろお暇させてもらうとしよう」
「もう帰るんですか?」

少し寂しげに言うシルフィールだったが、さすがにこれ以上長居するわけにもいかないだろう。
それに帰って旅の準備もしなくてはいけないし、クリストファにも挨拶をしておかなければならない。

「シルフィール殿も準備があるだろう?」
「はい……」

わかってはいてももう少し一緒にいたいと思うシルフィール。
そんな彼女の頭にぽんっと大きな手が乗せられた。
大きくて温かいフィリオネルの手がシルフィールの頭を撫でる。

「んっ……」

頭や髪を撫でられる感触が酷く心地いい。
もう少しこの感触を楽しみたいと思うシルフィール。
しかし、これでは我が儘を言う子供を言い聞かせる父と娘の構図だ。
0196フィルシル 美女と『おうぢさま』32012/07/14(土) 17:57:27.16ID:tDT05pZU

「や、やめてくださいっ、わたくしは子供じゃないんですからっ!」
「わははは、すまぬ、つい…な」

あの感触をただ受け入れるだけでは本当に子供扱いされ続けそうで嫌だった。
彼女は思う。子供ではなく大人として接してほしいと。
そもそも、もうすぐ二十歳になる彼女はもう立派な大人なのだから。
倍以上も年が離れているせいか、どこか子供のような扱いをされているようで気になってしまうのだ。
実際のところフィリオネルにそんなつもりはないのだが、ここしばらくの交流においてシルフィールの中に芽生えた小さな灯火。
自分自身でも気付かない淡い想いがそれを許さなかった。

「殿下――」

呼びかけられたフィリオネルの一瞬の隙を突いたシルフィールはつま先立ちになると――

「んうっ!?」

蓄えられたヒゲの下にある彼の唇を強引に塞いだ……。
温かく濡れた唇の感触を共有したのは僅か一秒にも満たない瞬きほどの一瞬であったが、それをした側された側、双方に無限の時間を思わせた。
しかし一瞬は一瞬。
すぐに離れ唇を押さえたシルフィールはいたずらが成功したように微笑むと。

「わたくしを子供扱いした罰ですっ」

そう言い放って自分の部屋へと逃げていった……


一部始終を見ていたグレイとその妻マリアは目を丸く見開いて互いを見た後、もう一人の当事者たるフィリオネルに向き直る。
だが「むう、これはシルフィール殿に一杯食わされてしまったな」と言い、がっはっはと豪快に笑う彼を見て、「そ、そのようですね、」と答えるのが精一杯。
そして「これはシルフィールと殿下、二人の間のことだ」として口を挟むことはせずに、生温かい目で見守るのだった。

一方、何食わぬ顔で平然としていたフィリオネルはというと――(う、う〜む、年甲斐もなくドキッとしてしまった……)などと、意外に動揺していたのだが気丈に振る舞い、帰宅の途についた。
0198フィルシル 美女と『おうぢさま』42012/07/14(土) 17:59:28.15ID:tDT05pZU


美女と『おうぢさま』4


「ミプロス島行きの船が出るぞォ〜っ!」

とある国の港町。
此処からはあらゆる国、街、地域へと渡る船が数多く出ている。
同時にそれらの地域から入ってくる船も。
そうなると必然的に人の出入りが激しくなる物で、ただの港町であるというのにもかかわらず、大きな国の首都と変わらないくらい活気があった。

「早く早く、ミプロス島行きの船が出ちゃいます!」

そんな中を薄紫色の法衣と深緑のマントを身にまとった、神官、巫女さんといった出で立ちの長い黒髪の美少女が、ヒゲ面で四十は越えているだろう暑苦しい大柄のおっちゃんの手を引っ張っていた。
美少女の名はシルフィール=ネルス=ラーダ。見掛けの通り巫女さんである。

「シ、シルフィール殿、そんな急がんでも間に合うじゃろう、」

彼女に腕を引っ張られているおっちゃんは、その体格が災いして進みにくそうに人混みをかき分けている。
この、男なら思わず振り返る美人巫女さんシルフィールと比較すると、全くの正反対に位置した人相の悪い、野盗の親分みたいな風貌のおっちゃん、名をフィリオネル。
とてもそうには見えないが、これでも聖王国セイルーンの王子様なのだ。
尤も、四十がらみのヒゲ面で、ドワーフをそのまま大きく引き延ばしたようながっちりした体格と、人相の悪さから『親分』と呼んだ方がしっくりくるくらいだが。
彼はこう見えて大の暴力嫌いで自他共に認める平和主義者でもあったりする。
まあ平和主義と言いつつ悪党には鉄拳制裁も侍さない辺り、口の悪い友人たちは『最凶の平和主義者』などと呼んでもいるが……

とにかく、絶対にあり得ないだろうこの超アンバランスな組み合わせの二人が急いでいるのは、ミプロス島行きの船に乗るためだ。
何のために?それは簡単。ミプロス島に行くということは当然温泉に行くため。
世界温泉ガイドブック五つ星の中の五つ星。世界中の温泉ファンあこがれの的。
そんな有名温泉地のペアチケットを商店街の福引きで当てたフィリオネルが、最近仲良くなった、また世話を掛けているシルフィールを誘って計画した温泉旅行がここにいる理由である。

「乗ります、乗りま〜すっ!」
0199フィルシル 美女と『おうぢさま』42012/07/14(土) 18:00:00.23ID:tDT05pZU





無事船に乗れた二人は出港してすぐ食堂に来ていた。
なにせ船の出港時間に遅れそうだったから昼食を食べていないのだ。
夕食にはまだ早い時間のため、人の少ない食堂は広々としていて、好きな席に座れるような状態である。
指定席など特にあるわけではないため、二人は窓側の席に着くと早速注文して運ばれてきた食事に手を付けていく。

「ふむっ、旨いっ! さすがと言ったところじゃな!」

かなりいい食材を使っているらしい豪勢な料理に、フィリオネルは満面の笑みを浮かべた。
ただ、彼はセイルーンの王子。そこで出される料理というのはここより豪勢な物のはずなのだが、「贅沢じゃなぁ」などと口にしている。
無論、現在彼と尤も親しい間柄にあるシルフィールはその理由を知っている。

「普段質素倹約に励んでいるのですから、こういうときくらいハメを外してもいいんじゃないですか?」

そう、質素倹約。これが理由である。
フィリオネルは普段贅沢をしない。別に金がないわけではない。
ハッキリ言えばセイルーンは豊かな国であり、その頂点に立つ王族は皆お金持ちだ。
だが、彼自身は「王族たる者、常に民と共にあるべきだ」と言って、世間一般の標準的な暮らしをするよう心がけている。
彼のその姿勢を見習う形で結構な数の貴族たちも贅を尽くすような生活は控えているのだ。
その分、不要な財政支出は抑えられるし、全くないとは言えないが不正が横行したりすることも極めて少ない。
まあ、不正役人の元には夜な夜な謎のヒーローが現れて、懲らしめているという、ホントかウソか真偽のほどは定かではない噂が立っているのだが……
これもまた彼が国民に慕われる理由の一つであるだろう。

「そうじゃなぁ、せっかくの旅行であるし……シルフィール殿の言うようにここはハメを外してみるか」

そう言った彼は、いま注文していた料理の三倍はあろうかという追加オーダーを頼んだ。
運ばれてきた料理の数々、主に量を見たシルフィールはさすがに言葉を失う。

「ん? 食べぬのか?」
「い、いえ、わたくしはこれで…」
「そうか。わしも大概少食ではあるが、シルフィール殿は輪を掛けて少食じゃな」
「し、少食……ですか…?」

そこそこ広いテーブルを埋め尽くす皿の数にシルフィールは(どの辺りが少食なのですか?)と思ったが、「ほれ、リナ殿やガウリイ殿なら、この倍は食べておるだろう?」という彼の言葉に何も言い返せない。
確かにリナやガウリイならこれの倍、下手をすると三倍は食べるだろう。それは彼女もよ〜く知っていた。
目の前で上品さの欠片もない食べ方をしている彼よりも、更に豪快に口の中に料理を突っ込む姿を何度も見ているのだから。
加えて「思えばグレイシアもリナ殿と同じぐらい食べておったな」という話に、もはや基準が違うということを思い知らされた。

「ほれ」

そんなことを考えていたシルフィールの前に、良く焼けて芳ばしい香りを漂わせている柔らかそうな肉が差し出された。

「えっ?」
「この船一押しの肉らしい。一口ぐらいいけるであろう?」
「は、はい、いただきます、」

本当はフィリオネルの豪快な食べっぷりを見てお腹いっぱいなのだが、差し出されて断るのも失礼だと思った彼女は、彼が持つフォークに刺さる一口サイズの肉にかぶりついた。

「おいしい…」

口の中に入った肉を噛むと柔らかい感触と共に肉汁があふれ出して彼女の舌を刺激する。
ほどよく脂の乗った肉は旨味成分たっぷりで、料理が得意であるからこそ味に敏感でもある彼女を納得させるに十分たる物だ。
0200フィルシル 美女と『おうぢさま』42012/07/14(土) 18:00:41.12ID:tDT05pZU

「シルフィール殿の舌を唸らせるとは大したものだ。どれ、わしも……」
「あっ、」

彼女の反応に流石は一押しの品だと褒めたフィリオネルが、自分も食べようと新しい肉をフォークに突き刺し、口元に運ぼうとしたところ、肉を指したフォークをシルフィールに奪い取られてしまったのだ。
「まだ肉はあるのだから、わしから取らんでもよいではないか」と言う彼に対する彼女の返答は――

「あ…、あ〜ん」

母親が子供に食べさせるようにやる「あ〜ん」だった。

「シ、シルフィール……殿……?」

戸惑うフィリオネル。しかし彼は気付いていない、先ほど彼がシルフィールにフォークを刺しだし、手ずから食べさせたのと同じ行為なのだということを。
彼女はただ、フィリオネルがしたのと同じ事をしているだけなのだ。
尤も、こんなことをしている彼女も羞恥心で顔を赤く染めているが。

「あ〜ん」

どうやら引き下がりそうにない彼女にフィリオネルも「あ、あ〜ん」と言って、差し出された肉にかぶりつき、口の中に放り込んだ。
この微笑ましい、見方を変えれば犯罪チックな二人の遣り取りを見ていた食堂にいる数少ない独り身の男たちは、声をそろえて叫んでいた――「ふざけんなぁっっ!!」
まぁ、四十がらみのむさいおっさんと、黒髪の美人巫女さんが互いに「あ〜ん」などとやっていれば、そうなるだろう。
そんなモテない君たちの呪詛を一身に浴びたフィリオネルは、彼らの心の叫びに全く気付いていない。
無論、シルフィールについては言うまでもなく、完全に二人だけの世界に入ってしまっていた。

「う、うむ……旨い…な……」

口の中に入った軟らかい肉を租借し、飲み下したフィリオネルは戸惑い一変、いつもの笑みを見せた。
彼が食べてくれたことでシルフィールも微笑み返したくなるような満面の笑みを浮かべる。

「まさかこの歳になって『あ〜ん』などとされるとは思わなかったぞ」
「お、お嫌でしたか?」
「い、いや、子供の頃、同じ事を母上にされたのを思い出してな」
「お母様ですか?」
「うむ。思えばシルフィール殿は母上のように優しく美しい。わしがもっと若ければとっくに求婚しておるところだ」

「まあわしなど歯牙にも掛けられぬであろうが、それとわしはマザコンではないぞ」と冗談混じりに笑うフィリオネル。
彼がかつて求婚し求め、また求められたのは亡き妻ただ一人であったため、暗に自分は女性と縁がないよと言っているのだが、実際のところ彼の人柄に惹かれていた女性は結構いたのだ。
ただ彼が鈍くて察知できなかっただけである。
その魅力に気付き、いま尤も近い存在であるシルフィールは――

「そ、そんなことありません! で、殿下はその、とても、素敵な方だと……思います……」
「う、うむ……そうか…」

勢いのまま、次いで消え入りそうに彼の自虐的な言葉を否定する。
ご自分のことをそのように仰るのはやめてください。殿下は素敵な人なんです。そういう彼女に、フィリオネルは言葉が詰まってしまった。
同じく、自分で言っておきながらこちらも恥ずかしさのあまり俯くシルフィール。

「さ、さっさと食事を終わらせて、今日は早めに寝るとするかっ、」
「そ、そうですね、」

気恥ずかしい空気を吹き飛ばすように残りの皿を平らげたフィリオネルは、シルフィールと二人食堂を後にすると、明日に備えて早めの眠りに就くのだった。

翌日。
無事ミプロス島に到着した二人は、早速宿泊予定のホテルにチェックインしたのだが、一つ問題があった。それは寝泊まりする部屋が同じ部屋ということ。
ペアチケットだから当然なのだが、フィリオネルとしては如何に親しいとはいっても男女で同じ部屋には泊まれないと支配人に交渉するつもりであった。
無論、別途で料金を払い、別の部屋を借りれないかと。
しかし当のシルフィールが「わたくしは大丈夫です」と言って彼を引きとどめ、結局「おぬしがよいのならば」と同じ部屋に泊まるという形になったのだ。
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