みつどもえでエロパロ 8卵生
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0105ガンプラ2012/10/06(土) 19:53:27.84ID:mExyqhKu
今週はここまで。

プロットが完成して気付いたんですが、全体的に盛り上がりの無い話です。
盛り上げようが無かった。
0108名無しさん@ピンキー2012/10/13(土) 15:20:01.09ID:8cT41u6Z
アップされたものは全部見てます、感想とかは書かないけど
0110名無しさん@ピンキー2012/10/13(土) 21:21:29.48ID:WoTNr02I
読んでますぜ、矢部ひとが大好きだから、サイドストーリー的な物も全部。
0112名無しさん@ピンキー2012/10/23(火) 12:44:31.41ID:LT+MrZEC
寒くなってきたので全裸待機がつらいです><
0113ガンプラ2012/10/27(土) 18:50:00.03ID:/jCNkQO7
フルアーマーZZのミサイルがかわせません。

というのは冗談で、最近かなり忙しくてなかなか書く間がありません。
ちょいちょい進めるので、気長にお待ちを。
0114俺に彼女は〜略132012/10/27(土) 18:50:33.46ID:/jCNkQO7
――――――――――


キーンコーンカーンコーン

古文の中村が4時間目の授業を早めに切り上げてくれたおかげで、
今日は一足早く購買のパンを確保し、席で悠々とチャイムを聞く事ができた。
ラッキーラッキー。
……とは言え、次はプリントの宿題が出ている英語だ。
しかも席順からいって、オレがあてられるのは間違いない。
そして当然、オレが宿題をやっているはずがない。

この場合、昼飯を安心して食うために取るべき道はひとつだ。

「たのんます本庄さん!英語の宿題見せてください!!」

後ろの席の友達に頭を下げる!!

「も〜…またあ?
先週、『これで最後にする』って言ってなかったっけ?」
「今度こそこれが最後ですので!!」
「あのねえ……」
合掌した手のひらの向こうで、メガネの上の眉毛がへの字に曲がってしまう。
確かに我ながら調子の良いこと言ってるとは思う。
しかしだからといって、退くわけにはいかないんだ!!

「頼むって!昔なじみの情けでさ!」

外で遊ばないタイプの本庄とは小6の時はあんま一緒に遊ばなかったし、
中学なんてオレらとは違ってたんだが、
高校で同じクラスになると、お互いの中学に散った6−3のメンツの話題で盛り上がり、
そのまま結構仲良くなった。
つうかあのクラスの奴らとは学校がバラけても、
何だかんだと連絡を取り合ったり情報を交換しあったりってことが多い。
チクビの葬式には全員集まったし。
ま、当たり前っちゃ当たり前だよな。
あんなに密度の濃い…まるで何年もを圧縮したような一年だったんだ。自然、縁も太くなるって。

「そろそろその情けも底を尽きそうなんだけど」

……太い、はずなんだが……。

「ボクだって英語は得意じゃないんだ。ちゃんと頭を捻って辞書を調べて…苦労してやった宿題なんだよ」
「次回は必ずやるから!頼む!!」
「………………はぁ〜…。
お昼食べたらプリント出すよ」
本庄様は盛大なため息付ではあったが、最後にはいつもの通り優しい言葉を口にしてくださった。
0115俺に彼女は〜略142012/10/27(土) 18:51:05.58ID:/jCNkQO7
「へへぇ〜!ありがとうございます本庄大明神様!ナマンダブナマンダブ」
やはり持つべきものは友だな。おかっぱ頭の後ろに後光が見えるぜ。
感謝の意を盛大に込めて拝んでおこう。

「……そういう事されると、見せたくなくなるんだけど」
「いやぁ、これで安心して昼メシが食える!」
心配事が無くなったら、さっそく腹がとてつもなく減ってきた。
パパッと包みを破いて本日の戦利品、大人気でめったに食えないトマトパンをほおばる。
うむ、絶妙な酸味だ。さすがは人気No.1になるだけはある。
ハシケンがいたらよこせよこせとうるさかっただろうが、
『味噌ラーメンがオレを呼んでいる』とか言って学食消えてくれて助かったぜ。

「調子いいなぁ……。
何度も言うけど、提出物はちゃんと自分でやらないと痛い目を見るよ」
「わぁ〜ってるわぁ〜ってる。
……あっ、提出で思い出したけどよ、2学期後半の体育の希望、もう出しちまったか?」
「?
まだだけど……」
「おっ、間に合ったか。
アレ、@を剣道にして柔道はB番希望にしとけ」
「なんで?
先週は、剣道は防具を買わされるからB番にしとけって言ってたのに」
「こないだ職員室でヒゲ岡と駄弁ってたときに聞いたんだが、今度新任の体育教師が来るんだってよ。
んで、そいつが柔道の鬼みたいなむちゃくちゃ厳しい奴で、
前の学校で倒れるまでランニングとかさせてだんだと。
第一希望優先で決まるから、現状人気の無い剣道を@にしといて柔道を確実に回避するのがベストだろ。
防具はしゃーねーけど、3年あるんだからちょこちょこ使うことになるかもしんねーしな。
岡部とかにも言っとけ。こっそり」
「……うん、わかった。
ありがと。ほんといつも助かるよ。
…ペアとかチームとかでも色々足引っ張ってごめんね」
オレの見事な計画を聞いて、本庄ははにかんだ笑みを浮かべる。
芋づる式に口に浮かんできたのは、正直余計だけどよ。
ったく、こいつ素直すぎなんだよな。いちいちんな礼いらねっての。恥ずかしい奴だぜ。
こういうときはさっさと話題を変えるに限る。

「別になんも気にしてねーよ。
それより夏にお前に組んでもらったパソコン、調子悪いんだけど」
「えっ?おかしいな……。
BIOSにエラーは出てた?」
「難しいことはわかんね。とにかくネトゲやってたら突然ガクガクになったりする」
「う〜ん、それは多分単純にマシンの性能不足だね。
なんせあれ、8割方ボクのお古パーツで組んでるからなぁ。
どうしてもそのゲームがやりたいなら、グラボを交換するしかないと思うよ」
「ソレ、いくらくらいすんだ?」
「15K…じゃない、1万5千円くらい。
いっそ2万5千くらいのを買った方がいいかな。長く使うなら」
「げっ、結構すんなぁ」
「下を見ればいくらでもあるけど、安物買いのなんとやら、だよ。
夏休み、アルバイトしてたんでしょ?」
「む……金はまあ、あるにはあるんだが………」
0116俺に彼女は〜略152012/10/27(土) 18:52:42.50ID:/jCNkQO7
部活に入らず、塾も行ってないオレは、夏休みの時間を引越し屋のバイトに使って資金集めに汗を流した。
他人様の思い出のこもった家財道具の運搬は、筋肉以上に神経を使ってキツイなんてもんじゃなくキツかったが、
運搬のルールとかアイデアとか知れて面白かったし、苦労に見合ったかなりの額が懐に入ってきた。
……入ってきたが、すでに結構アレやコレに使ってしまった現実があったりする。
さらに2万5千円は痛い。
だがゲームはやりたいし、すでに結構知り合いもできちまったしなぁ……。

「………しゃーねえか」
「急ぎじゃなければ、来週末に秋葉原に行く予定があるから、ジャンク屋回ってきてあげるけど。
3〜4千円くらいは安く買えると思うよ」
「サンキュー。
……来週ならオレも行こっかな。昼メシ向こうにして。
どうせお前もそのつもりなんだろ?」

秋葉原は本庄にパソコン(超格安の)を作ってもらうとき初めて行ったが、
思ってたよりにぎやかで面白いところだった。
こいつの解説も、わけわかんねーけど聞いてて結構楽しいし。

何より、ウワサのメイド喫茶は想像の遥か上を行く『良さ』だったし。
東京の女の子って、なんであんなにレベル高ぇんだろ?水道水に特殊な成分でも入ってんのか?
……まあ鴨橋も、三女さんやふたばが生まれ育った町というのがあるにはあるけど、
あの辺りは色々世界が違いすぎるから別枠だ。

「……ボクの予定としては、安いところで済まそうかなって思ってたけど、
千葉くんが行きたいっていうなら行ってもいいかな」
「あっ、お前それはズルくね?男ならズバっと正直に生きようぜ」
「別に……ボクは正直だって」
「んだよぉ〜。お前がオレを連れてったんじゃん。
オムライスのときもわざわざショートの娘に代わってもらってさ。
アレだろ、実は本庄うなじフェチだろ?」
「フェチって……。
そういうの無しにあの女の子、肩が綺麗っていうか細く「お楽しみ中のところ申し訳ないんだけど」

「「どうわあっ!!?」」
突如横から割り込んできた高音程にびっくりして、オレと本庄は飛びのきながら悲鳴を上げてしまった。
あ…あぶねえ、口に何か入れてたら大惨事だったぜ……。

「まったく、真昼間の学校でいかがわしいことを堂々と……。
ほんっとサルね、あんたたちって」
あわやというところまで人様を追い込んでおきながら、その元凶は悪びれた様子も無く、
耳の両横から胸先まで延ばしてるドリルみたいな髪をサッと払いながら失礼な事をのたまった。
パッツン揃えられた前髪の下の目つきは、昔と変わらず鋭くキツい。
っていうかマジ動物を見る目だぞコレ。
0117俺に彼女は〜略162012/10/27(土) 18:53:16.17ID:/jCNkQO7
「おまっ…いきなり現れて失礼だぞ杉崎!!」
「うっさいわね。
礼儀をどうこう言いたいなら、まず自分が常識を身に着けなさい」
「お前に常識を問われたくねーよ、ドリル巻き毛。
いくらウチが頭髪自由だからって、そこまで自由の限界に挑戦してるのはおめーくらいだっての」
「なっ……!?
私はちゃんと生徒手帳で推奨されてる『胸先以上』を守ってるわよ!」
「そういう問題じゃねーだろ……」

杉崎は昔に比べれば大分マシになったとは言え、相変わらず常識が若干ズレている。
オレが言うのもなんだがセンスもちょっとズレてる気がする。
妙に少女マンガ的っていうか……親の影響なんだろうがさ。

……しかしこのドリル、現実に可能だったんだな……。

「だいたい私が限界だったら、三女は何なのよ!!」
「お前、あの芸術を切れってのか?
それこそ常識ねえな」
「………一気に何もかもどうでもよくなったわ。
あんたと話してるとどんどんアホになりそうで怖いわ……。
ったく…あんたに関わってるせいで、本庄までうなじフェチになっちゃうし……」
「え〜…。
杉崎さんまでそのネタ使うんだ……」
「つうか何しに来たんだよ。違うクラスにずけずけ入ってくるんじゃねえよ」
「用件があれば入っていいって校則にあるでしょ。
あんた達が、スカートが極端に短い異様なメイド服を思い出してキモい顔してるせいで、
その用件言うのが遅れちゃったじゃない」
「別にそういう店じゃねえっての!
むしろみつばんトコのファミレスの方が異様に短くなっただろうが!!アレ絶対お前が関わってるだろ!!」
「……いちいち脱線させないでって言ってるでしょ」
そう言う杉崎の目は、明らかに泳いでいた。
誤魔化しやがったなこいつ。

「ほら、コレ」
と、杉崎が机の端に置いたのは…大学ノート?
なんだ??

「夏休みの宿題のノートよ。今日返却されたやつ。貸したげるからありがたく思いなさい。
数Tは私の、現国と古文は松原の、英語は三女のよ」
「えっ、三女さんのノート!?」
「私と松原と三女のよ。あんたそろそろいい加減にしないと張り倒すわよ」
「う……」
確かに今のは『三女さん』にがっつきすぎだった。反省しとこう。

「……んで、なんでお前らのノートなんだ?」
「…ああ、今週末の学年テスト、基本的にここから問題出るからか。
良かったね千葉くん。Aクラの、しかも教科が得意な人のノートなら綺麗にまとめられてるだろうから、
目を通すだけでもかなり違うよ」
ワケがわからず困惑してるオレの横で、さっさと答えに辿り着いた本庄が親切に解説してくれる。
さっそく中身を確認してみると、おおっ、さすが三女さん字も綺麗…じゃなかった、内容が綺麗に纏められてる。
適当に書きなぐってるオレのノートとは段違いだ。
0118俺に彼女は〜略172012/10/27(土) 18:55:16.12ID:/jCNkQO7
「杉崎さん、いつもボクに千葉くんを甘やかすなって言ってるけど、
やっぱり1番気にしてるんだね」
「気持ち悪い事言わないでよ。千葉も勘違いしないでよね」
耳に入ってきた台詞はいわゆるテンプレだが、『萌え』とかそういう良さはまったく感じない。
なんせ杉崎の表情が心の底から嫌そうだからな。

くそっ。別に淡いもんを期待してるわけじゃねーが、それでもそこまで嫌がらなくてもいいだろうが。
いちいちむかつく女だぜ。

「正直ブタゴリラの手垢が付くなんてぞっとするけど、三女に頼まれたからしょうがなく、よ。
明後日までにコピーするなりなんなりして、返しなさい」
「ええっ、さん…じゃねえ、なんつーか……」
「別にソコは食いついていいわよ。アホね。
聞いたわよ。朝、神戸にまたズタボロにやられたって。三女が気にしてたわ。
それで、三女と松原が力を貸してあげたいって。喜びなさいな」
「そりゃサンキューだけどよ、別にズタボロって程じゃあ……」
「ふんっ」
目を逸らして言いよどむオレを見て、杉崎は無い胸の前で腕を組み、挑発的に鼻を鳴らした。
が、一拍置いて『やれやれ』といったふうにあらためて口を開いた。

「まあしっかり落ち込みなさい。あの子の言うことは99パーセント正しいわ」

「おい!!!
ここ今『落ち込むな』ってフォロー入れる流れだろ!!なんだよそれ!!」
「何で私がフォローしてあげなきゃなんないのよ。
あんたが遊びまわってるのもバカなのもブタゴリラなのも真実でしょうが。
そもそもあんたは、女生徒全般からの評価が底辺な自覚が全然足りないのよ」
「う…ぐ……」
言葉は目つき以上に鋭くて、オレはまともに心臓を切り裂かれてしまう。

そうなんだよな。基本オレって女子からの評価低い…っつうか、言いたくないが正直変質者扱いだ。
原因はわかってる。ガキの頃に散々披露しまくった数々の『秘技』のせいだ。
当時は可愛い悪戯のつもりだったんだが、今思い返すと若干…かなりアグレッシブだった事は認めざるを得ない。
いやもちろん、炸裂させる相手はしっかり選んでたさ。
女を困らせるのが男の仕事であって、泣かせるような真似をしたらお天道様に顔向けできなくなる。
その辺、オレの目に間違いはなかった。
が、手を引くべきタイミングを致命的に間違えちまったんだよな……。
みつばの目が冷めてきてた辺りで……ええい、昔の事はいいんだよ。重要なのは今だ。
つうか別に、知らねえ女子から冷たい目を向けられてるのは気にしてないんだよ、オレは。マジで!!
ただ、あの頃、そして今の三女さんの目がどんなだろうと考えると、昔の自分をはっ倒したくなる……。

「負債と周囲からの視線をしっかり意識して、真人間としてつつましく生きなさい」
「…負債があるのはお前だって…うるせーな!!」
「キャッ!つばを飛ばさないでよ!汚いわね!!」

危うく口から出かかった言葉を誤魔化すための大声だったが、うまく行ったみたいだ。
ギャーギャーわめきたてる杉崎からは、余計な事が聞こえていた様子は見られない。
……まーこいつはむかつくが、だからってこれとあれとは関係ない。
杉崎は杉崎なりにズレを直そうって頑張ってるんだしな。
0119俺に彼女は〜略182012/10/27(土) 18:55:54.36ID:/jCNkQO7
「まったく!
とにかくせっかく三女と松原が好意で貸してくれたんだから、しっかり勉強しなさいよ。
ここまでしてもらって赤点とったら、それこそ最低よ」
「わかってるよ…って待て、さっきから三女さんと松原って、お前のノートはなんだよ?」
「もちろん私はしっかりお代をいただくわ。そのために私が持ってきたんだし。
明日の放課後、活動用具室の奥に積んでるダンボール、生徒会室に運んどいて。
全部で5箱あるから」
「はあっ!?
なんだよソレ!?」
「私がやってる環境整備委員会の仕事で、先輩方の残していった部活用具を処分する予定だったんだけど、
使えそうなラケットとか竹刀とかあったから、時間見つけて仕分けたのよ。
生徒会役員に引き渡して、各部活に配分してもらうの」
「じゃあ委員会の奴に手伝わせろよ。オレを巻き込むな」
「個人でやったのよ。廃棄の予定を少し延ばしてもらって。
誰かに無駄な借りは作りたくないし、あんた引越し業者のバイトしてたんでしょ?
その要領でちゃちゃっと運んじゃってよ」
「ダンボールの持ち運びに要領もくそもあるか!」
まあ有るには有るが、アレは持ち上げるときに腰を痛めないとか、物にキズをつけないコツだ。
移送そのものは楽になるわけじゃねえ。やってられるかっての。

「じゃあ数学は赤点になってもかまわないのね。
あ〜あ、かわいそうな髪長姫。
せっかく手を差し出してあげたってのに、ブタゴリラがロクな結果を出せないせいで、
またお顔が暗くなってしまわれるわ」
「わかったよ!運んでやるよ!!」
「『運んでやる』ぅ…?」
「運ばさせてください杉崎様!」

くっそー!!腹立つ!!!

「最初からそう素直に言いなさいよね。
おかげでお昼食べる時間、ほとんどなくなっちゃったじゃない」
「なぬ!?」
杉崎に言われて左手のGショックを確認すると、表示は12:32分…げげっ、15分無い!

「やっべ、英語の宿題!
くそっ、今日はメシは抜きで写すか……。
本庄も急いで食えよ…って食い終わってるし!!」

途中から会話に参加してこないと思ったら、ちゃっかり本庄は完食してやがった。
机の上の弁当箱は、青い包みに戻されている。

「途中からボクにあんまり関係ない流れだったしね」
「だからって!!」
「これくらい割り切りよくなくちゃ、6−3じゃやってけなかったって。
プリントは貸すけど、その前にコーヒー飲みきってよ。汚されたくないし」
「はあ……。やっぱり宿題見せてもらってるのね。
まあいいわ、私はAクラに戻るから。
そうそう、三女からもうひとつ言伝。
明日のお昼はパンを買わずに待ってて、だって。良かったわね。
じゃ」
「ちょっ…お前ら一気に色々言うな!混乱する!」

ええっと、とにかく英語がでも缶コーヒーを空にする前に三女さんのノートを明日は買わないで!!?
0120俺に彼女は〜略192012/10/27(土) 18:56:40.43ID:/jCNkQO7
「たっだいまーっと。
いや〜やっぱ醤油ラーメンの方が美味かった…おっ、千葉のそれ、トマトパンじゃん。
半分くれよ」
「頼むから今は黙っててくれ!!」
「おーいC組、今日は授業の前にプリント集めるぞー」
「あっ、先生来た」

チクショウ!!
0121ガンプラ2012/10/27(土) 19:00:29.70ID:/jCNkQO7
今週はここまで。

野郎どもの会話内容は悩みます。
最近個人的に『品の無い会話』に凝ってて、ネタ帳に台詞アイデアをメモってるんですが、
千葉たちは多分、あまりヌレヌレな会話をしない気がしたので、
全体的に明るく(?)修正しました。
0123 ◆rzjiCkE13s 2012/10/30(火) 22:51:52.84ID:/NnwGEg6
「…三女さん、おはよう」

「おはよう、松岡さん。どうしたの、そのアザ」

「えっ…これはね…!屋根裏で地縛霊を探してたら、あ足がすべっちゃって!」

「…お大事に」




「おはよう、松岡さん。また、転んだの」

「!?…うん、…今度は、南公園の横に、…東公園の横にあるお墓に行った時ね、墓石にね、……ぶつけて、…ね?」

「大変だね」




「…おはよう、松岡さん。そのヤケドは…」

「………………ゆ、……………幽霊、
に…………」

「さっちゃん」

「…さ、三女、さん」
0124ガンプラ2012/11/04(日) 19:01:26.01ID:d2TCOxf4
7スレ目が唐突に落ちた悪夢があるので、ちょこちょこ入れないと不安です。
0125俺に彼女は〜略202012/11/04(日) 19:02:51.91ID:d2TCOxf4
――――――――――


キーンコーンカーンコーン

ふへぇ……。やっとガッコ終わったぁ〜……。

「あー…今日も疲れた。クタクタだぜ」
「千葉くん、最後思いっきり寝てたよね」
「睡眠学習してたんだよ」
「じゃあ、次の宿題は手助け要らないね」
「え〜っと、それはまた別問題であってだな……」
「おい千葉ぁ、ゲーセン行こうぜ。駅んとこの。
アベちゃんとうっちん呼んで2vs2のランダム戦やろっぜ」
シノケンは俺の答えの前に、すでにスマホの上で指を踊らせ召集をかけていた。
今日は三女さんたちから借りたノートをコピって勉強しなきゃならんのだが……いいか。
テストは来週なんだから、コピーだけしときゃあ時間はあるさ。

「あれ?
篠田くん、塾は?」
「休み」
パソコン部に向かおうと立ち上がった本庄が口にした素朴な疑問に、シノケンはしれっとした顔で答える。
よくもまあ。ある意味感心するぜ。

「サボりだろが」
「おっ、アベちゃ〜んからメール返って来た。
おっけだって」
「…ま、好きにしろや」

俺も中学の後半(だけ)は塾へ行っていたから、アレのめんどくささはよくわかる。
……サボった場合、家に帰ってから余計に面倒な事になるんだが、
こいつの自己責任にまで踏み込むつもりはサラサラ無い。
0126俺に彼女は〜略212012/11/04(日) 19:03:24.78ID:d2TCOxf4
「俺、一旦帰ってチャリンコ取ってくるから、先行っといてくれ。
一応言っとくが、メダル引き出しのパスワード変えといたぞ」
「え〜〜!
ケチケチすんなよ、2000枚もあるんだから」
「ざけんな。
貴重なタネ銭払って、コツコツ貯めた俺の財産だっつの。
んじゃ、後でな」
「ケチ学帽!お前には友情がないのか!そんな子に育てた覚えはありませんよ!」
シノケンはなおも意味不明の文句を唱え続けてるが、んなもん相手にしてられるか。
背中で受け流しながら、さっさと教室を出る。

「あっ、ちょうどよかった。
久しぶりだね、えっと…千葉、くん」
そしてすぐに、今度は別の野郎に呼び止められてしまった。

背は俺よりちょい下くらいに高く、物腰からも雰囲気からも真面目さがにじみ出ている、爽やか系のイケメンだ。
久しぶり、と言われても俺はこんな輩に覚えは……んん?

「夏の試合のときはお世話になったね。ありがとう」
夏の試合…ってことはやっぱそうか。

「弓矢部の奴だよな」
「うん、そう。
弓道部の野崎だよ……ごめん、考えてみたらあの日は自己紹介もしてなかったよね。
野崎智也。
よろしく、千葉君」
弓野郎はイケメンらしくはにかみながら、スッと握手を求めてきた。
無論、俺に野郎の手を握る趣味は無い。のでポケットに両手をつっこんだままスルーしておく。
この後の展開を考えると、余計に仲良くする気なんて起きねえし。

「んで、何か用かよ。
俺、帰るところなんだけど」
「……ああ、えっと、ちょっと話があるんだ。申し訳ないけど時間もらえないかな」
差し出した手を無視された弓野郎は、一瞬停まったがすぐに爽やか笑顔に戻って(その余裕もむかつくな)、
はきはした声でしっかり要求してきやがった。

さて、俺とは全く接点のなさそうなイケメンが、下手気味(?)に出向いてきた。
イケメンさえも思わず弟子入りを申し込みたくなるほど、俺から発されるオーラが漢気に満ちているからだ。

なわけはない。

「丸井の事か?」
「……まあ」

やっぱな。
ったく…またかよ。俺は三女さんのマネージャーじゃねえっての。
めんどくせえ。

が、

「りょーかい。
おーいシノケン!悪ぃけどさっきのナシで!
今日は真面目に塾行っとけ!!」

その分、あの人の『面倒』を減らせられるんだ。
やるしかないだろ。
0127俺に彼女は〜略222012/11/04(日) 19:04:35.99ID:d2TCOxf4




「うあ〜あ、いつになったら涼しくなんのかね………」

弓野郎を引き連れてやってきたのは、こういうときにいつも使う場所。
ウチの『1−C』から出てすぐ、隣の校舎と繋がる3階渡り廊下だ。
4階部が屋根になって日陰を作ってくれて、風通しもそこそこいいはずなんだが、それでもやっぱ暑いもんは暑い。
寄りかかったコンクリ壁も、日差しで熱されてやがった。
あーくそっ、パソコン部で話したいな。あそこクーラー効いてる…でも部外者立ち入り禁止なんだよなぁ。
静かだから、声も響いちまうし。
もちろんここだって、放課後とは言えチョコチョコ人が歩いてるが、外からの音でそこそこうるさいし、
野郎ふたりが話してる事なんか誰も彼も興味ないから、ただ通り過ぎていくだけだ。

「あっ、野崎くんバイバイ」
「ああ、うん。さようなら」

前言撤回。
イケメン様ってのはどいつもこいつも目をひくみたいだ。
何人かの女子が、弓野郎に『だけ』挨拶して帰っていった。
しかもさっきの女なんて、こいつが返した途端嬉しそうに顔を赤らめながら『キャー』とか走っていくし。
へーへー、人気があって結構なことですね。ケッ。

「さっきの子は同じクラスの子でさ。
…で、あー……まずは、夏の事。千葉君も弓を届けてくれてありがとう。お礼、遅くなってごめん」
「『千葉』でいいよ。でもって礼もいらねえ。
俺はただ持って行っただけだ」
「でも、その分の時間を割いてくれたじゃないか。だからありがとう」
態度悪くかったるそうに話す俺に対しても、イケメン様はあくまで爽やかだ。
丁寧な言葉遣いには嫌味とかそんなのは1%も見当たらないし、
頭まで下げて気持ちが表面のモノだけじゃないって証明してくださる。

あー…そういやこいつの家、ちょい遠い町の地主かなんかやってるって噂を聞いたような。
本当に礼儀ができてるわけか。
佐藤んちも親父さんの稼ぎがいいし、イケメンはデフォルトで金持ち設定が付いてくるのか?
ううわ、なんだよそれ。
この不条理に対する怒り、また佐藤にちょっかい出して晴らしとこう。

「あの日の試合に勝てたのは、丸井さんと千葉が俺の弓を届けてくれたおかげだよ。
いや、それ以上にあの弓は祖父からもらった大事なものだったから……。
……こっそり返してくれたのも助かった。
弓を隠したのは俺の小学校からのとも「その辺の細かいストーリーはマジ興味ねーから。悪いけど」

8月の登校日、弓道場がうるせえなぁって思いながら帰る途中だった。
三女さんが『妙なところから『視線』を感じて気になったから』と、弓を持って(音も無く)現れた。
落ちてた場所からして誰かが嫌がらせかなんかで隠したんだろうと踏んで、持って行こう……としたけど、
人が集まりすぎてて近寄れない(実際は三女さんが行けば人が割れるから、ある意味簡単に行けるが)、
って困ってたから、俺が代わりに持ち込んだんだよな。

こういう事になるのは読めたんだから、俺が見つけたって言って渡せばよかったかなぁ……。

「こっちだって忙しいんだ。さっさと要件頼むぜ」
「……そうだね」
弓野郎は俺のぶった切りに軽く鼻白んだが、一拍後には体勢を直して……だけじゃなく、
硬い意志と覚悟まで用意してから言葉を続ける。

「話っていうのは、丸井さんにもお礼を言いたくてさ。
それで彼女の携帯番号を「丸井は携帯持ってねえ」
0128俺に彼女は〜略232012/11/04(日) 19:05:16.87ID:d2TCOxf4
やっぱコレか。
なぜだか知らんが、俺が三女さんの携帯番号を知ってるって噂が学校に広まってんだよな。
おかげで1学期は地獄だったぜ。噂を広めた張本人は絶対見つけて、御礼してやる。
俺はみつばの番号すら知らねっての。

……知らないと言うか、教えてもらえなかったんだが。
あの雌豚、この4月から携帯持ち出したから軽く番号聞いてみたら、
『なんであんた如きに教えてあげなくちゃなんないのよ。思い上がらないで』とかほざきやがった。
そのくせ、あいつは好きなときに非通知でかけてきやがるし(番号の流出元は松原か杉崎だろう)…くそっ。
世の中むかつく事ばっかだぜ。
…って、とりあえずみつばの事は置いとこう。今は三女さんについてだ。

「まだあの噂を信じてる奴が居たって事実にびっくりだよ。
あの人はマジで携帯持ってねえから、当然番号なんて知らない。ついでにマル秘情報的なものも知らない。
知ってるのは鴨橋町に住んでて、3人姉妹の三女で、姉が『丸井ふたば』で、
家事が趣味で、特撮ヒーローマニアってことだけ。
そんくらいはどうせお前も知ってんだろ。
一応丸井んちの電話番号は知ってるけど、教える必要性も意味もないから教えないし、
友達でもないのにいきなり家に電話かけるとか真性の変態だから諦めろ。
なんかで調べてもいいけど、あの人の家族からイタ電と判断されたら、
『丸井ふたば』の取り巻きに即殺されるから覚悟しとけよ。
以上」
もはやテンプレとなった『三女さん情報』を機械的に並べ立てていく。
よどみなくスラスラ言えてしまう自分が果てしなく悲しい。

……しかしあのふたば親衛隊(正式名称は忘れた)の連中、何をどうやって情報集めとかしてるんだろうか?
あいつらにつっこんだら敗けだと思ってある程度スルーしてるが、やっぱ気になるぜ。

「えー、あー……」
ガーッと連射された言葉に圧されて、弓野郎が目を泳がせる。
相手がジタバタしてる隙にさっさと消えるのは簡単だけど、
そしたら今度は下駄箱に手紙コースなのは目に見えてる。だから俺は、ちゃんと釘を打っておく。

「あの日の礼は俺から伝えとくよ。
お前があの日助かったって事だけで、丸井は充分喜ぶよ」
「いや…やっぱりお礼はちゃんと自分で言いたいから………」
さっきまでの歯切れのいいしゃべり方から一転、弓野郎はモジモジもにょもにょしだした。
キメえ。そういうのをやっていいのは可愛い女子だけだ。

「じゃあ普通にAクラ行って言えや」
「そりゃそう、なんだけど………。
丸井さんいつも誰かと居るし、ひとりになるとすぐ消えちゃうっていうかさ………。
ああっ、変な事いうけど彼女本当に『消える』んだよ。ずっと見てたはずなのに、パッと居なくなるんだ。
それでさ、まあ、落ち着いて話せる機会を持ちたいっていうか……」
「落ち着いて、個人的に伝えたいって事は、礼以外の意図が有るってことだろ。
そういうの、丸井には迷惑なだけだぜ。
家と家族の事が忙しいから、今は誰かと付き合うとか考えられないって、
そう言われて学校のイケメン野郎がこぞって振られたの、知ってんだろ。
『髪長姫』は、真剣に忙しい人なんだよ。俺らと違ってな。
だからやめとけ」
「あー……知ってる、んだけど……」
「自分は違うってか?
自分がイケメンだからか?金持ちだからか?学校の人気者だからか?
少なくともこの高校では、自分と付き合えばメリットがでかいってか?」
0129俺に彼女は〜略242012/11/04(日) 19:05:52.52ID:d2TCOxf4
そうだろう。その通りだ。損得で言えば丸ごと得だ。
ぐうの音もでねえ。

目の醒めるような美少女が、三十路前のパッとしないおっさんを想って悩んでるなんて、おかしいさ。

だけどさ、

「勘違いするなよ」


三女さんは自分の『幸せ』を目指して、自分の力で一生懸命頑張ってるんだ。
横から他人がどうこう押し付けんな。


「丸井はただ、拾ったものを持ち主に返しただけだ。そんなの当たり前だろ。
お前と仲良くしたいってんなら、あの日自分で直接渡したよ。
勝手に運命感じちゃって暴走すんなよな」

ただでさえ歳の差があるってのに、相手は元担任だ。しかも小学生のときの。
常識以前の問題だらけだ。ロクな事にならねえに決まってる。
一生懸命頑張るだけ頑張って、傷ついて終わるかも知れねえ。
何も知らないガキが、勝手に夢見てバカやってるだけなのかも知れないさ。

「知ってるだろ、あの人は誰にでも優しくて、親切なんだ。そういう人なんだ。
ちょっとくらいお前が特別だとしても、お前だから特別なストーリーに発展したりなんて無いっての」

んな事は本人が1番わかってんだよ。
わかってて、わかってるから頑張ってるんだ。
恥ずかしがり屋で怖がりで、頭が良い分先の事が気になって、頭の中ぐちゃぐちゃになって、
それでも『外』に出ようって、勇気を出して頑張ってるんだよ。

あんなに小さな、すぐに壊れてしまいそうなくらい華奢な子が、歯を食いしばって頑張ってるんだよ。

「………わかってる、つもりさ。
あんな事がきっかけで上手くいくなんて、本気で思ってるわけじゃない。
だけどせめて、自分の気持ちだけでも伝えたいんだ」

だから押し付けないでくれ。
あの子が自分の足で立って頑張ってる間は、あの子の思うとおりにさせてくれ。
させてあげたいんだ。

俺らは子供だけど、だから頑張る権利は誰にも否定させない。
させるもんか、絶対に。

「お前さ、弓を拾ってきたのが普通の女子でもこんなに突っ走ったのかよ?
さっきの女子みたいに、軽く流して終わりだったろ。
ただ相手が『髪長姫』だから、過剰反応で勘違いしちゃってるんだよ。はっきり言って痛いぜ」
「いっ…いや、そんなつもりじゃないって。
俺は真剣に……」
「俺のダチにもイケメン野郎がいるからわかるんだが、お前ら基本、
女が自分を気にしてるって自惚れがあんだよ。ズバっと言って悪ぃけど。
実際、自分の告白が相手に迷惑になるかもって、真剣には思ってねーだろ。
って言われても理解できないのが変だって、わかれ」
「………………………」
ここまで言われてやっと、勘違い男は静かになる。
悔しい気持ちをぐっと噛み殺し、苦い顔で飲み込む。
0130俺に彼女は〜略252012/11/04(日) 19:06:46.78ID:d2TCOxf4
「じゃあ、キミみたいに」
わけがないよな。
いいさ、ここまで言われて黙ってたら男じゃねえって、それはわかってやる。

「じゃあ今のキミみたいに、彼女への気持ちを押し隠してずっと『いい人』で居ろっていうのかい?
それが正しい選択肢だって?」
「はあ〜〜……。
その手の勘違い、本気で迷惑なんだが。
俺は別に丸井の事をどうこう思ってねえよ」

どいつもこいつも勝手に勘違いするな。

「お前らさ、噂ででもいいよ、俺が丸井の彼氏だ的な妄言吐いたって聞いた事あるか?
丸井と付き合いたいみたいな不相応な夢を語っちゃってたって、聞いた事あるか?
お調子者のバカな男なんだから、そういうの思ってたらダチにポロっと漏らすだろ。
俺はお前らよりよっぽど現実見て生きてんだよ。
丸井とはちょっと関わりがあるだけだって、自分の立場を知ってるんだ」

俺は勘違いした事なんて1度も無い。
知ってるんだ。直接聞いたから。



―――そうだね。私らしくないよね。…でも、だから変わらなきゃって思ったんだ。
―――先生のパソコン。今の…ううん、これまでの生徒達の事がすごく細かく書かれてた。
―――先生にとって、誰かを助けるっていうのは、誰かの幸せのために頑張るっていうのは当たり前の事なんだよ。
―――先生と一緒に居るには、『私』のままじゃふさわしくないんだって、そう思ったの。
―――先生みたいになりたい。いきなりは無理だけど、できる事からやってみようって、そう決めたんだ。
―――先生へ――
―――先生を――

―――私は、先生が――



だからずっと、ちゃんと、『登場人物A』の端役を、端役らしくこなして来た。

ただ、思っただけだ。

「ま、あいつの苦労もちったあ理解してるから、
お前らみたいなのに聴かれれば、正直に答えてるんだよ」

想いを語る横顔がすごく綺麗だって。
頑張って誰かに手を差し伸べて、なのにこの娘が傷つくなんて、すごく悲しいって。

それだけなんだ。

「………………………」
やれやれ、黙ってくれたか。今度こそ話は終わりだな。
0131俺に彼女は〜略262012/11/04(日) 19:09:38.92ID:d2TCOxf4
俺はそう判断して壁から背を離し、黙りこくった野郎を置いて下駄箱へと「関わりって、小学校の時のかい?」


!!?


心臓が凍る。ギョッとしてモロに背中が震えたのが自分でもはっきりわかる。
一瞬後には、動揺しちゃまずいだろって脳が命令するけどもう遅い。今のキョドりは見られちまった。
何だコイツ何で知ってんだ偶然か偶然だろ落ち着け探りを入れろあくまでサラッと背中向きのまま!

「な…ナにいってんダお前?」
アホか俺!声が上ずってんぞ!

「噂で聞いたんだ。
丸井さんが小学生の時の担任と……その…デキてるって。
千葉は…何年生のときか知らないけど、その担任のとき丸井さんと一緒のクラスだった……んだろ?」
ちょっ…マジでか!?んな噂が流れてんの!?
8割方正解に辿り着いてんじゃねーか!!

「…………はあ?
お前頭ダイジョーブか?エロ漫画かなんかの読みすぎじゃねーの?
俺、小学生のとき丸井とは2、3回同じクラスだったけど、
んなエキセントリックなロリコン教師なんて出会ったことねーって」
必死で心臓を押さえつけ、乾いた喉を湿らせてから、なんとかばかばかしそうな声音を引き出す。
……背中向きのままってのが不自然なのはわかってるが、しょうがないだろ。
汗だくの顔を見せるわけにはいかねえっての。

「………そりゃ、まあ、確かにありえない話だけど……」
「だろっ!?」
相手が迷いを見せてくれた分、こっちに余裕が戻ってきた。
勢いのままバッと振り返り、ガンガン畳み掛けてやる。

「教師と生徒がなんて漫画だぜ?しかも出会ったのは小学生の頃だぜ?常識で考えてありえねーだろ。
いるんだよな〜。他にも『幼なじみフラグ』とか真顔で言う奴もいたし。痛ぇっての。膿んでんじゃねえか。
何であの超絶美少女があんなおっさんを好きになるんだっつーの。
アレだろ、どうせ三女さんに振られたヤツが腹いせに広めたデタラメだろ?
お前、嫌がらせの片棒担いでんのと一緒だぜそれ。最低だよ。もう忘れろってんなネタ。
………なんかしょっ…証拠、みたいなのでもあんのかよ?」
「……………………」

無いだろまさか?黙ってんじゃねーよくそっ、さっさと答えろ!心臓がめちゃ痛いんだよコッチは!!

「無い、さ。噂だけだ」

よっしゃあ!! 「でも」 なんだよ!?

「じゃあ何で千葉はそんなに髪長姫に近いんだい?」
「…そりゃどーいう意味だよ。俺みたいなバカゴリラが髪長姫と仲いいのは納得いかねーってか」
「……悪いけど、そういうの、有る」
だよなー。俺もすげーそう思うわ。
超マズイ。俺のせいで三女さんに迷惑かけるなんざ、最悪だ。

「お前、素でむかつくな。
……あのなぁ、俺は丸井と近所で小中一緒なんだ。ちっとぐらいは親しくなるっての。
あいつだって人間なんだから、誰とも関わらずに生きてくなんて、それこそありえねえだろ」
「その条件で括るなら、該当する男子はこの学校にも沢山居るじゃないか」
「そ…そりゃそう、なんだけどよ……」
だぁ〜、やっぱこれは答えになんねえか!
わかっちゃいたが厳しいぜ。
0132俺に彼女は〜略272012/11/04(日) 19:10:24.90ID:d2TCOxf4
「それにさっき千葉は言ったよな、『関わりがある』って。
やっぱり何かあるって事だろ?」
「うっ……」
俺のウルトラスーパーバカ野郎!!
なに調子乗って余計な事くっちゃべってんだ!!
ええいちくしょう、どうするどうする!?早く反論しろ黙ってちゃ余計怪しいぞほらもう5秒は経った早く!!

「……ちっ、しゃーねえ」
「?」
「まあホントの事言うと、丸井がかなり親しくしてる野郎が居てさ。
付き合ってるとか、そういうわけじゃねえけど」
「……やっぱりそうなのか」
「ああ、佐藤って言ってな」
困ったときのイケメン頼りだ。
許せ佐藤、巻き込ませてもらうぜ。お詫びに今度うまい棒奢るからな(それ以上奢るつもりはない)。

「そいつこそ丸井と超近所でさ、もちろん小中と一緒だった…っていうか、
幼稚園から11年間ずっと同じクラスだったんだ。
今はそいつ私立行ってるけど、やっぱそんだけいつも一緒に居たらそりゃあな。
しかもそいつ、イケメンで頭良くてサッカー上手くて結構金持ちなんだよ」
やべー。佐藤を殴りたくなってきた。

「何よりすげえのが、そいつの丸井への尽くしっぷりでさ。
ガキの頃からずっと、丸井が願ったら何でもやった。
ちょっと見てて引くレベルで何でも。
丸井が『空を飛んで来て』って願ったら、飛ぶレベル」

どうやってかって?知らねーよ。でも飛ぶんだよ。
ふたばが願えば、あいつは何だってできるようになるんだから。

「…じゃあ、なんで別々の高校に進んだんだい?」
「さっきも言ったが、別に付き合ってるってわけじゃないからな。
傍から見てるとなんだそりゃ、って感じだが……ま、そういう関係。
それに丸井も最近は、あいつの負担になってるって気付き始めたみたいで、
ちょっと距離おいて自分で何でもやろうってしてるんだ」
松原との事も含めて、さ。
それがわかってないのは佐藤だけだ。本当にバカな男だぜ。

「んで、俺はその佐藤とガキの時からつるんでるんだよ。
むしろコンビ組んでた。漫才でようぜってくらい。
さっきイケメンのダチが居るって言ったろ?そいつ。
だからそいつを挟んで、俺は丸井とちょい関わりがあるんだよ」

『上手い嘘は真実を何パーセントか混ぜること』。
昔そう本で読んだ気がするが、本当の事だったんだな。
スラスラと『間』を埋めるネタが出てくるぜ。
0133俺に彼女は〜略282012/11/04(日) 19:12:44.44ID:d2TCOxf4
「あんま見せたくねーけど、そいつと俺と丸井が一緒に映った写メあるぜ。
髪長姫の写メだぜ?
知ってるだろ、写真に撮られるの嫌ってて、しかも勘が良いから盗撮もできないって話。
その写メがあるって意味、わかるよな」
ここは、賭けだ。
本当は三女さんが映ってる写メなんてねえ。
見せたくない理由は用意してるし、佐藤と俺の(ふたば撮影)はあるから、リスクは小さくできてるが、
それでもかなり踏み込んでる。
口調はさっきまでと同じでダルそうな演技を続けてるけど、心臓はバクバク鳴って痛いくらいだ。
頼む、上手くいってくれよ……!

「……見せたくないって、どういう事さ?」
「見せたら、こいつなら勝てるかもとかお前が思うだろ。
ぶっちゃけお前なら、佐藤とイケメン度は互角だと思うし、あいつ背ぇあんま無いからなー。
それがめんどくさい。
別に見せたくないのはお前だけってわけじゃないぜ?
変に現実見せて基準を作ったら、学校中色々めんどくせーことになるだろ。だから佐藤の存在自体隠してる。
つか、当然丸井だってこんな完全プライベートな事に踏み込まれたくないだろうし、
正直勝手にこんだけ話した上、写真まで見せるのは俺もすげえ気まずいんだよ。お前にんな義理もねーし。
ケチくせえだろうが、でかい『貸し』にさせてもらう。
それでもどーしてもって言うなら、見せてもいい」

さあどうだ!?

「……わかった。ごめん、いいよ写真は。
それに俺のわがままで、もうかなりキミたちのプライベートに踏み込んだよね。本当にごめん」

よっしゃあ!!パート2!!

「そういうこった。
あ〜あ、貴重な放課後を30分も使っちまった。つか、お前も部活いいのかよ?」
「ああ…ごめん、そうだね。部活には遅れるって言ったけど、確かにもういかなきゃ」
「おう、お勤めごくろーさん。
んじゃあな」
長居は無用だ。
俺は右手をひらひら振って、この場からさっさと離れることにする。

あー疲れた。

「ごめん!もうひとつだけ!!」
パアン、と手のひらを合わせる音と共に、弓野郎が声を張り上げる。
こいつの声質は良く通るから、結構遠くまで響いたみたいだ。
校舎の方を通っていた女子が、びっくりしてコッチを向いたのが見えた。

まだあんのかよ……。
0134俺に彼女は〜略292012/11/04(日) 19:14:50.38ID:d2TCOxf4
まだあんのかよ……。

「あんだよ?」
「……その佐藤くんとは、付き合ってるわけじゃないんだよね?」
「ちっ…『まだ』な。そういうレベル。
未練がましいぜ、お前。
さっきも言ったが髪長姫にちょっと優しくされて勘違いして、俺にこんだけ時間使わせといてよぉ。
おまけに突っ走って丸井に迷惑までかけるようなら、流石に普通にキレるぜ。あんま関係ない俺でも。
そういうの、全部考えて行動しろよな。すでに普通人の俺から見て痛いぞ」
「………ああ、わかったよ。度々ごめん」
再三俺が釘を打ち込んでやっと弓野郎は話を打ち切り、神妙な顔で再び頭を下げてから校舎へと消えていった。

……あれだけやっておけば大丈夫、だろう。と思いたい。
にしても、反省点ばっかだったなぁ。特に最初のがまずかった。
かなりあやふやな噂だったし、キョドらなけりゃどうとでも誤魔化せたはずだ。
あらかじめの心構えもだが、なんか作戦考えるかぁ……。

「はぁ〜あ……めんどくせ」
0135ガンプラ2012/11/04(日) 19:21:05.39ID:d2TCOxf4
今週はここまで。
まだプロットの3分の1という絶望感。

続ければ続けるほど、話の整合性をあわせるのが難しくなります。
わかってたことではあるんですが。
0136名無しさん@ピンキー2012/11/07(水) 07:35:27.64ID:ZUcKsUTV
頑張ってくだされ
本編読んでると、みつばと千葉は
悪友っぽい仲の良さだけど、高校でも相変わらずなのね(´・ω・`)
0137ガンプラ2012/11/11(日) 23:35:52.15ID:OM0lZ+Ls
>>136
激励ありがとうございます。

悪友っぽさを感じていただければ、嬉しい限りです。

ぶっちゃけ、私のSSの時間軸というか世界観では、
このふたりが付き合う的な事はないです(一生スパンで)

原作でも千葉は男の子コミュニティ、みつばは女の子コミュニティで動いていて、
全く違うタイムスケジュールで行動しているので、
離れてしまえば(高校が別々、など)ほとんど接点なくなりそう。
0139名無しさん@ピンキー2012/11/18(日) 02:46:04.51ID:ub3Q3kFt
みつば「なんで寝巻きで来てんのよ!?」
ふたば「着替えをしないまま登校してしまったっス うっかりうっかり」


田渕「なんか今日のふたばはエロくないか?」
千葉「お前もそう思っていたか・・・あの格好だと胸と太ももが強調されるからか?」
三好「そういやハロウィンパーティーで狼コスプレしてた時はちょっと尻が見えてて興奮しちゃったぜ」
佐藤「お・・・お前らふたばをイヤらしい目で見るな!!」
0141名無しさん@ピンキー2012/11/18(日) 21:22:19.94ID:dx1+2DDO
いくらなんでもあれは無防備すぎる

校門飛び越えるところはヤバすぎるだろう
0142ガンプラ2012/11/23(金) 20:31:26.66ID:lUk7hRSe
風邪をひいた……。
治りかけだけど。
0143俺に彼女は〜略302012/11/23(金) 20:32:05.37ID:lUk7hRSe
――――――――――


「だ〜っ、やっぱ今日はスロットやめときゃよかった」

ゲーセンの自動ドアを潜ったところで、日の落ち始めた空に向かってひとり愚痴る。
せっかくのメダルがかなり吸い込まれちまった。
気のノらねえ日は、出が悪いんだよな。わかってはいたんだが……ちくしょ。
ムカつきをちょっとでもごまかすため愛用の『69』帽のツバを意味無くいじってから、
俺はチャリ置き場へ足を向けた。

あの後一旦家へ帰った俺は、着替えてからノートをコピーしにコンビニへ行こうかと思ったんだが、
気を勉強に向ける気力がどうしても沸かなかったんで、ちょっと気晴らしに駅前までやってきた。
が、結果は見ての通りってわけだ。チッ、順調に増やせてた最初でやめときゃよかったぜ。

「くそっ」

イライラする。
何がってわけじゃねえ、何もかもがムカつく。
チビ女も、弓野郎も、杉崎も。
シノケンまで好き勝手いいやがって。何が『髪長姫を脅してる』だ。ふざけんな。
ムカつく。ムカつく。ムカつく。じめついた重ったるい空気も鬱陶しい。
モスグリーンのタンクトップに薄手の迷彩ズボンの、これ以上ないくらい軽装なはずなのに、
汗が後から後から吹き出てくる。
太陽が居なくなったんだから、とっとと涼しくなりやがれってんだ。

「……晩メシ食ってとっとと寝るか」
今日はもう何もする気になんねえ。ノートのコピーも明日で良いや。どうせ一週間あるんだ。

この後の予定を脳内で組み上げた俺は、まとわり付いてくる鬱陶しいモノ全部を蹴り飛ばすつもりで、
足をペダルにたたきつけた。

シャー

うっし、我ながらいい加速だ。そしてハンドル捌きも華麗だぜ。
車と歩道の間に生まれた細いスペースを縫って、駅前を駆け抜ける。
前輪によって高速で回されるダイナモが、俺を喝采するかのように快音を鳴らす。
そして風が身体に当たり汗を吹き飛ばすと同時に、雨の匂いを運んできた。
くあ〜っ、涼しくて気持ちいい……雨の匂いだと?
0144俺に彼女は〜略312012/11/23(金) 20:33:53.84ID:lUk7hRSe
パラパラ...ザー

「げっ」

水滴が帽子のツバを叩いたとおもったら、すぐさまアスファルトが真っ黒に染まった。
よりにもよってゲリラ豪雨かよ。とことんついてねえ。
…かまうもんか、濡れたってすぐ乾く格好だし……?!
さらに加速するため足に力を込めたところで、視界とケツがガクガク揺れだした。
この感触……嘘だろ、パンクしやがった!!
急いで愛車の後輪に目を向けると、予感の通りタイヤが無残にひしゃげてやがった。

今日は最悪だ!!

泣きたくなる気分を押さえ込んで、とにかく避難場所を…と見回すと、
ちょうど進行方向左手に、シャッターの下りた文房具屋が軒先を突き出しているのが見つかった。
俺は残っていた勢いごと、安全地帯へとチャリごと滑り込ませる。

ザー...

「ふう……。
あぁ……最悪だ……」

…はぁ〜あ、パンクしちまったものは仕方ない。
この勢いが長く続くわけねえし、ちょい雨宿りしてから押して帰るか。
おふくろに晩メシ待ってくれって電話……ま、いいか。めんどくさい。言わなくても待ってくれるだろ。

ジャバジャバジャバ

「そこの緑色!ちょっとどきなさい!」
「あん?」
一息ついたところに突然、盛大な雨しぶきと一緒に、命令形が俺に向かってきた。
その方向へ顔を向けると、濃い目の茶髪の女が必死の形相でチャリをこいでいるのが雨のカーテン越しに見えた。
運転者の様子と裏腹に、その速度は大したことはない。
前カゴいっぱいにつまったスーパーのレジ袋のせいも有るんだろうが、それにしたって遅い。
……体力無い上、自重が重いんだよな、コイツ。

「……!!
ぼさっとしてんじゃないわよデカブツゴリラ!私が風邪ひいたら国家の一大事よ!
さっさとどきなさい!」
向こうも俺だってことに気付いたみたいだ。根拠不明の上から目線がさらに一段昇った。
いきなりこんな態度で来られたら拒否するのが普通だろうが、こんなヤツでも付き合いは長いんだ。
心の広さを見せて場所を空けてやるとしよう。

「へえへえ。
久しぶりだなみつば…って待て停まれ危ねぐわっ」
「きゃっ!」

ガシャン!

信じられないことに長女は、勢いを殺さず鉄のフレームごと突っ込んできやがった。
スペースを空けようと体を傾かせていた俺は、(雌豚の体重+自転車)×スピードを喰らって、
濡れた石畳に勢い良く吹っ飛ばされてしまう。
0145俺に彼女は〜略322012/11/23(金) 20:34:27.08ID:lUk7hRSe
「いってえっ!」
「おっとっと……ふう、上手く停まった。
あー、これでひと安心だわ」
なんとか上半身を起き上がらせると、さっきまで俺の立っていた場所では、
長女が満足そうな表情で人心地ついていやがった。
そのまま、背中まで伸ばした髪を慣れた手つきで軽く絞り、赤いカチューシャを一旦外してパパッと水滴を払う。
謝罪の言葉は一向に出てこない。

「なに考えてんだクソ女!!停まれよ常識以前の問題として!!」
「うっさいわね。
私の進行方向にボーっと突っ立てるからよ。ほら、あんたの自転車も早く退けなさい。
私のがちゃんと入らないじゃないの」
「マジぶっ殺すぞ雌豚!!」
「ぎゃんぎゃん吠えないでよ、うっとうしい。
早く自転車退けなさいってば。特別にあんた自身は端っこに入らせてあげるから」
「ここ、俺が先に入ってたろうが!お前が出て行けよ!!」
「こんな美少女が、あんたみたいなガラ悪いゴリラと一緒に雨宿りしてあげようって言ってるのよ。
ありがたく思いなさいよね」
コッチの命令を無視して、長女は自転車から降りて本格的に滞在準備を始めやがった。
デニムの短パンからハンカチを取り出し、薄ピンクのキャミソールから露出した肩を丁寧に拭いていく。
動きの振動で、アゴ先から雨粒がひと粒ポトリと落ちて、胸の谷間に消えていった。
……こいつ結構おっぱいでかくなったよな……って違う!

「おい!出て行けって言ってんだろが!!」
「こんなか弱い女の子を雨の中放り出そうなんて、どうかしてるんじゃない?
いいじゃない、あんたもあんたの自転車も、濡れようが雷にうたれようが大した被害じゃないわ。
こっちなんて明日明後日のお弁当のおかずが入ってるのよ」
言って、長女はカゴのレジ袋を指差す。

……ちっ、気に入らんが、しょうがねえ。

「……なんでお前がスーパーで買い物なんてしてんだよ」
立ち上がって軒先へと戻った俺は、渋々ながらも自分の自転車を雨の下へと移動させる。
長女がこんなもん持ってるときに出会っちまうとは、タイミング悪いぜ。

「バイトの終わりとスーパーの特売が重なるから、ひとはにいつも色々頼まれてんのよ。
私は年がら年中能天気に遊びまわってるあんたと違って色々考えてて、色々忙しいの。
そっちはどうせゲームセンター帰りでしょ?」
「うるせえ」
「あんたただでさえガラ悪いんだから、もうちょっとマトモな遊び方しなさいよ。
しかもなにそのカッコ?かっこいいつもり?暑苦しいのが余計ひどいわよ。
ワキ、毛が見えてキモいんだけど。死になさい」
「うっせえ!!」
なんでこいつは…女ってのは余計なことばっか言うんだ。ムカつくぜ。
怒鳴られたのを気にせずに、澄ました顔でケータイいじってんのが更にムカつく。

「…あっ、もしもし。ひとは?
…うん、最悪。ちょっと雨宿りして帰るわ。
…大丈夫よ。隣に千葉居るから。こいつ無駄にゴツイし。
…そうね。ま、ブタゴリラの方は、美少女を襲ってると勘違いされて通報されるかも知れないけど」

あーくそっ!さっさと止めよ雨!!
0146俺に彼女は〜略332012/11/23(金) 20:35:10.79ID:lUk7hRSe
ザー...


「……………」
「……………」
長女の自転車を挟んで、シャッター左端で俺が、右端で長女が、それぞれ背を預けて降りしきる雨を眺める。
雨の勢いは大分ましになったが、まだここから踏み出そうとは思えない。
頼むからマジでそろそろ止んでくれよ。腹減ってきた。
さっき跳ねられたときに、トランクスまでぐしょぐしょになったから気持ち悪いんだよなぁ。
いい加減左肩が冷たいのも我慢できなくなってきたし。雌豚の野郎、横幅でかいんだよ。

「ねえ」
雨音に、違う音が混じる。

綺麗な声だな。

不覚にも、感想を浮かべてしまう。
昔から思ってたが長女は……こいつら三つ子って、妙に綺麗な声してやがるんだよな。
……まあ、綺麗なのは声だけじゃなくて……三女さんとは比べもんになんねえけどさ。

「ねえって言ってるでしょ。
私が呼んであげてるんだから、1秒以内に返事なさいよ」
「うっせ。…なんだよ?」
「あんたこんな遊びまわってていいの?
バカ過ぎて進級も危ないんでしょ。ひとはが心配してたわよ」
「超大きなお世話だよ!!」
「来週テストなんでしょ。
成績のいいひとはが帰って勉強してるのに、最底辺バカのあんたがゲームセンター行ってるとか、
寝ぼけてるか脳が腐ってるとしか思いようがないんだけど」
「う・る・せ・え!
さっきから大人しく聞いてやってりゃ、誰がバカだ!誰が!!
てめえとは高校自体のレベルに差があんだよ!!
東高でギリ中間のお前が相手なら、余裕で俺のが上だっての!!」
「なっ…なんですって!!」
自転車の向こうで、赤カチューシャ女が目を吊り上げる。
はんっ、そうだよこんなヤツ相手にムキになることないんだった。立場は俺の方が遥かに上なんだ。

「おっと、俺としたことが。
東高のバカ女相手に声を荒げるなんて恥ずかしいぜ。いかんいかん」
「むっか!
なによ、あんたなんてちょっとバクチに勝っただけじゃない!
中3のとき、担任から無理だからやめとけってしきりに言われてたくせに!!
むしろあの頃、私の方が順位上だったでしょ!!」
「はぁ〜あ、負け犬の遠吠えは哀れですなぁ。
あっ、『負け犬の遠吠え』って意味わかりますかぁ?難しい言葉使ってすみませーん」
「ぜったい殺すブタゴリラ!ムサい!汗臭い!ハゲ隠しの帽子がウザい!!」
「帽子の下は普通だよ!!何回言えばわかんだバカ女!!」
「どぉ〜だかしらね。
何年も何年も、わざわざ古臭い学帽まで買って被ってるなんて、ハゲてるからとしか思いようがないわ」
「違ぇってんだろ!
帽子はトレードマークっつーか、繊細な男心があんだよ!!」
「なによ男心って!キモいわね!!さっきも文句言うふりして私の豊満なおっぱいガン見してたし!!
キモ過ぎてキモ死しなさい!!」
「うっ…なっ……見てねーよんなもん!
豊満っつーかお前はただの豚だろうが!!
土日に思い出したかのようにジョギングしてるのが見苦しいんだよ!!」
「あっ…あれは健康のためにやってるのよ!ダイエットなんか私には必要ない…あっと」
無駄な反論の途中で、長女は身体をビクッとひるませたかと思ったら、
慌てた手つきで短パンのポケットからブルブル震えるケータイを取り出した。
0147俺に彼女は〜略342012/11/23(金) 20:35:56.30ID:lUk7hRSe
「ロッカー入れた時にマナーにしたまんまだったわ……家か」

ピッ

「…なに?今忙しいんだけど。
…えっ、とっくに雨やんでる?」
「お?」
長女が向けた目線を追って外を見てみると、空には三日月がくっきり浮かんでいた。
どうやら目の前の事に注意を奪われて、無駄な時間を過ごしちまったみたいだ。

「…色々あったのよ。
…わかってるわよ、すぐ帰る。じゃね」

ピッ

「ああもうっ、あんたのせいで晩ゴハンが遅れちゃったじゃないの」
文句を垂れながら、さっそく長女は自転車のスタンドを戻して発進の準備を始める。

「こっちの台詞だっての。
…………あー、送って…俺、ゆっくり目だったら漕いで帰れるぜ」

何言ってんだ俺は。……いやしゃーねえだろ、もうかなり暗いんだから。
こんなヤツでも一応女なんだし、むしろ帰り道ほとんど一緒なんだから当たり前っつか、いいじゃん!
そういう気分のときもあるんだよ!!熱くなんな俺の顔!!

「?
……ああ」
いざ出発しようとペダルに足をかけた格好で、長女が振り返る。
ぽかんとしていたのは一瞬で、すぐ俺の意図に気付きやがったのか、目を糸にして楽しそうに笑った。
最悪だ。いつもみたいに気付かず流せよな。
しかも……ちくしょ、こういうときだけ素直な笑顔とかやめろ!!

「大丈夫よ、15分もかからないんだし、この辺明り多いし。
あんたこそ風邪引かないよう、さっさと帰ってシャワーでも浴びなさい。
ちゃんとテスト勉強もしなさいよ」
「うっせ。とっとと行け雌豚」
「じゃあね。
ひとはを心配させてるって事、ちゃんと考えなさいよ」
最後まで余計なひと言を残して、太めの身体が風に乗る。
0148俺に彼女は〜略352012/11/23(金) 20:36:37.68ID:lUk7hRSe
ジャバジャバジャバ...

さて俺も行くか、と愛車のハンドルを押したところで、

「あっ!そうだー!!」
前の方で小さくなった背中が止まって、大声を上げた。

「あんだよー!」

「肩、濡らしてくれてありがとー!一応お礼言っておいてあげるー!
本当に一応だからねー!!勘違いしないでよねー!!!」

ジャバジャバジャバジャバ

……屋根から外れたとこまで寄ってたの、バレてたか…。
あぁ、くっそっ!!
いつもいつも鈍いくせに、なんでこんなときばっか勘が冴えてんだ、あの女!

「何もかも上手くいかねぇな!!」
むしゃくしゃする気分をまぎらわすため、すぐ横にあった空き缶入れを蹴っ飛ば……そうとして、やめる。
……俺は別に不良じゃねえんだ。無意味に物壊したり汚したりしないっての。

「……ううっ…風が寒ぃ……。
ちっ……」



そして家へ帰ると、晩メシはとっくに片付けられていて、
俺はカップラーメン2つで我慢するハメになった。



なんだそりゃあ!!!

「当たり前に決まってるだろ。
遅くなるなら連絡よこしな、バカ息子」
0149俺に彼女は〜略362012/11/23(金) 20:37:25.98ID:lUk7hRSe




机の上に広げたノートには、綺麗な文字が綴られている。
うむ。持ち主のイメージ通り、コンパクトで良く整ってる。
更には赤青緑のペンで色分けされて、華やかさも備えてると来た。
唯一問題なのは、内容が全くわからん事だ。

「ジドウシにタドウシぃ?
めんどくせーなぁ……」

英文の上下に書かれた『ポイント』らしき日本語は、
けれどさっぱり意味がわからず読み手を混乱に陥れるばかりだ。
外人はマジでこんなの意識して会話してるんだろうか?アメリカ人に生まれたかった……。

「……だーヤメヤメ!
今日はシャワーあびたしメシ食ったし、もう勉強無理!早めに寝て明日の朝やろう!!」

サクッと英断を下して、教科書とノートを本棚(8割漫画で埋まってる)に戻す。

「……………………」
戻した手をずらし、本棚からB5サイズの薄い紙包みを取り出す。
大分手垢が付いてしまったが、昔からむしゃくしゃしてるときはなんとはなくこれを見てしまうんだよな。
なので、まあ、やっぱり今日も手にとってしまったというわけだ。

俺は左手で紙袋を軽く持ち、右手で慎重に、貴重なその中身を引き出す。
中身……かなり昔の『主婦の友』を。
0150俺に彼女は〜略372012/11/23(金) 20:37:56.04ID:lUk7hRSe
『私があげたせいで殴られちゃったね…』
『いいよ』

「……………三女さん……」
表紙を見ていると、色んな事を思い出す。
コレをプレゼントしてもらった日の事とか、一緒にザリガニ釣った事とか、
鉄棒でちょっとしたイタズラをしてしまった事とか。

中学の帰り道に見た、夕日に浮かぶあの笑顔とか。

明るい思い出が内側に染みこんで、心を緩ませてくれる。
無礼な雌共……松原もチビ女も杉崎もみつばも、まあ許してやろうかという気持ちになる。
まったく。ちょっとは三女さんを見習って、おしとやかにしろよなあいつら。
ふた言目にはキモいだのイタいだの。この俺のどこが………………「おいちょっと待て」

あれ?冷静になると俺、なにを何年も前にシャレで渡された本を大事してんだよ。
しかも表紙だけ見て癒されてるとかマジでキモくね?
ってか、運よく近所に住んでるってだけで何も頼まれてないのに、バクチの受験してまで同じ高校入って、
そのせいで補習で苦しみながら付きまとってるって、カンチガイ野郎もはなはだしくね?
真性にイタい気が……。

「……寝よう!」
今度こそ決めた!今日はもう寝よう!

本を紙袋へ、そして本棚へ戻す。
明りを消して、ささっと布団へ身体を横たわらせ、ぎゅっと目を閉じれば……


『突然調子付いて、かなりイタかった』
『自分ができへん方やってわかっとるなら、人の倍の努力しろや』
『底辺な自覚が全然足りないのよ』
『ちゃんとテスト勉強もしなさいよ』


「わかったよ!地道に毎日勉強すりゃいいんだろ!!!」

もっかい、今度こそ、俺は真面目に机に向う。
夢見てるだけじゃ、明日はマシにならないことくらいわかってんだよ、俺だって。
0151ガンプラ2012/11/23(金) 20:39:49.60ID:lUk7hRSe
やっと全体の半分かな……。

ちなみに、千葉のデザインテーマは『フラグなんて無い』です。

ではまた。
0154ガンプラ2012/12/16(日) 12:00:46.22ID:0n6CBDhA
なんだか風邪が長引いてるっていうか、喉がおかしいのが……。
もう何週間げほごほやっているのやら。疲れやすいし。まいったなぁ。
0155俺に彼女は〜略382012/12/16(日) 12:01:19.90ID:0n6CBDhA
真夏の4時間目の授業にサッカーとか、どう考えても狂ってる。
体育用として使っている白色無地の野球帽が、汗を吸って色を変えていく。暑い。やってられるか。

「行ったぞディフェンス!誰か止めろ!」

が、ボールがやってきたんなら働かねえとな!!

「俺が行く!
お前ら進行方向に壁作ってろ!」
オタオタしている本庄たち体育苦手組に指示を出してすぐ、脚の筋肉をフル稼働させる。
親指の付け根を意識してグランドを踏みしめ、一気にトップスピードへ持っていく。

向かってくる相手は、サッカー部の利根川だ。
流石は本職、ドリブルにブレが無い(体育の授業で部の奴が本気出すなや)。
さらに俺を翻弄するかのようにボールの前で左右の足を何度も行き来させ、進行方向にフェイントをかける。
高速シザース、のつもりだろうが遅ぇ!佐藤だったら3倍速はいくぜ!

「もらった!」
「なっ!?」
思い描いたイメージ通り、自分のつま先がボールを奪い取る。
そのまま相手の身体を押しのけ、今度は俺がドリブルで敵陣侵攻を開始する。
ひとり、ふたりとかわして「てっつん受け取れ!!」ドカッ ゴール前の味方へロングパスが…おしっ、通った!

ピピー!

「ゼッケン無し組、ゴール!」
ホイッスルと一緒に、体育教師の野太い声がコートを横切る。

サッカー部をカウンターした上、得点につながるナイスプレー。
当然のごとく自チームの野郎共から、賞賛の声と眼差しが俺へと集まる。

「んで、試合終了だ!
1−3で、ゼッケン組の勝利!」
まあ、負けてんだけどよ。

そら本職居るチームには勝てんわ。帰宅部員な俺の戦力なんてたかが知れてる。
努力した分だけ成果が帰ってくる、なんて程現実は甘くないって知ってるけどよ、
それでもやっぱ、頑張ってる奴の方が有利に出来てるのが世の中だって。実際。
0156俺に彼女は〜略392012/12/16(日) 12:01:54.37ID:0n6CBDhA




白帽を脱ぎ、頭から水道水を浴びる。髪を短く刈ってると、こういう時便利だ。

ジャババ...

くああ〜っ、冷たくて気持ちいい!!
あ〜…今日は学帽に着替え直したくねえ、っていうかもう帽子無しで過ごしてぇ。

……いや、そりゃそうだろ。学帽は特に蒸れるんだぜ。夏場はキツイなんてもんじゃねえんだぞ。
別に帽子にそれほどこだわりあるわけじゃねえし。

そもそもだ。ネタだったんだよ、中学の入学式に学帽かぶって行ったのは。
クラス分けのときに担任に帽子取れって言われたら、終わりにするつもり程度のネタだったんだ。
そして実際、おっさんの担任教師に、取れと言われた。
が、そこでもうひとネタ挟んだのがまずかった。
『帽子を取ると、ドブ川が綺麗になったり鉄骨が曲がっちゃったりするんスよ〜』と、
母ちゃんに教えられたネタ(しかしこれ、元ネタ何なんだ?)を披露したら、担任が大爆笑して、
『じゃあかぶったままで良しとしてやろう!』と、なぜか許可される事になってしまった。
……その半年後、一回試しに帽子を被らず登校した事もあったんだが、
友達からは『帽子の無い千葉は千葉じゃない』、
担任からは『あのネタを使ったからには卒業まで押し通せよ!』と、難癖に等しいいちゃもんをつけられる始末。
高校でこそはと思ってはいたんだが、これまた入学式の朝、
今度はおふくろがいらん気を回して校章入りの学帽を用意しやがってたんで、
もうヤケクソで同じ『ドブ川ネタ』を使って……現状に至る、というわけだ。
付け加えると、どうも俺は学帽がかなり似合うらしい。
主に歳の行ったおっさん・じいさん教師に『古きよき昭和を思い出す』と、やたら評判がいい。
んな年号は、俺が生まれた時点でとっくに終わってたっつーの。

長くなった。
とにかく俺は、基本的に帽子を被っておかなきゃいけない状況に追い込まれてるってわけだ。
卒業まであと二年半。

結構、辛い。
0157俺に彼女は〜略402012/12/16(日) 12:02:36.81ID:0n6CBDhA
――――――――――


「おい千葉。お前せっかくタッパも幅もあんだから、なんかやれよ。もったいないぜ?
うちのサッカー部どうよ?正直あんま強くねーし、逆に今からでもレギュラー狙えるぜ。
俺も口利きするしさ」

男子の汗に満ちた教室(窓全開なんだが)で着替えていると、さっき抜いた利根川から部へのお誘いがかかった。
なかなかいい話…に聞こえる気もするが、よくあるパターンだったりする。
自分で言うのもなんだがガキの時から身長も力も有ったし、運動神経も中々な俺は、
中学時代から色んな部活に誘いを受けてきた。
部長やエース部員が直接勧誘に来たことだって、1回や2回じゃない。

「あ〜…サンキュ、なんだが、いいわ。帰宅部の道を極めたいんでな。
悪ぃ、スマン。サンキュ」
だけど俺は、無所属を貫いてきている。練習試合の助っ人くらいはやってるけど。

どうもなぁ…真剣に『スポーツ』やる気になれねえんだよな。『遊び』なら大歓迎なんだが。
先輩後輩の上下関係とかも、できるなら避けたいし。……いや、我ながら嘗めた事言ってると思うが。

「……そっか。
でもマジもったいないぜ。何かやった方がいいって絶対」
「利根っちもそう思うよな。千葉、体格だけじゃなくてバカ力もすげーし。
こないだ柔道部の新谷と腕相撲して、引き分けたの知ってるか?」
「知ってる知ってる。あの時居たもん、俺。教卓壊したやつだろ。
新谷がビビリまくってて超笑えた。『うをー!ヤベー!』って、お前の挙動がヤバイっての」
「しかも千葉って、結構万能にやれるよな。サッカーも野球もバドミも。
どれも授業で、本職の奴とそこそこ互角だったじゃん」
「ああ、まあサンキュってか、いいじゃんそこらは。色々な」
うちの高校は部活所属自由とは言え、やっぱ帰宅部はちょっと気まずい。だからこの話題はあんま良くない。
ワイシャツのボタンを留める手も鈍る。

「千葉くん、なんだかんだで超人のふたばちゃんに着いて行ってたから、
自然と色んなスキルが上がってたんだろうね。
ふたばちゃんには何ていうか…周りの人を引き上げるところあるし。
思えばそういうところもアイドルの素養だったんだろうな」
流れに乗って、後ろで着替えていた本庄がのほほんとつぶやいた。
懐かしむような声には、悪気は全く見えない。むしろ俺への尊敬の念すら感じられる。

が、それはNGワードってやつだ。

「おま、ばっ……」
「えっ、アイドルのふたばちゃんって、あの『丸井ふたば』かよ?」
「うん、そうだよ。
ふたばちゃんは誰とでも仲良かったけど、千葉くんとは特に親しかったんだ」
だーかーらー!なんっでそんな誤解を呼ぶような言い方すんだよお前は!!
このクラスは鴨小、鴨中出身が俺らだけなんだぞ!空気読んでくれ!
0158俺に彼女は〜略412012/12/16(日) 12:03:27.35ID:0n6CBDhA
「おい千葉ぁ!」
案の定、シノケンが怒りの表情でズンズン向かってきた。
勢いのまま、俺の襟を握って首を締め上げる(ポーズなので苦しくはない)。
過剰反応しすぎな上、いらん演技入れんな。かっこつけかウケ狙いか知らんが、キモイぞ。

「髪長姫とフラグ立ててるだけでも分不相応だってのに、あの超ロリ巨乳神とまでとはどういうことだ!?」
「何だその果てしなく頭の悪そうな神は………。
ていうか襟を放せ。シャツがシワになんだろが」
「話を逸らすんじゃねえ!俺は本気で言ってるんだ!」
シノケンは正気を疑うような台詞を口にしながらヒートアップし、俺の襟を掴んだ手に更に力を込める。
ウゼぇ…って、ああっ!第一ボタン飛んだ!

「何すんだテメっ!」
調子乗りすぎな振る舞いに、優しい俺でも沸点へと達する。
普段から溜まっていた分の怒りも込めて、思いっきり膝を突き上げる。

「肝臓があああっ!」
おお、上手い具合に入った。ちょっと満足。
ついでに首と一緒に自由になった身体を屈め、落ちたボタンを拾っておく。

「ったく……あ〜あ〜、コレ、おふくろに怒られんじゃん。くそっ。
あのなぁ、確かにふたばとはダチだが、んなの別になんでもねーっての。
あいつに『友達になってくれ』っつったら、誰でも一発でなれんだよ」

大変なのは、そっからだ。

『幼なじみフラグ』なんて都合のいいモンは無い。絶対無い。はっきり言える。
もしちょっとでも存在してるなら、佐藤はあんなに苦労してないはずだ。
……『可愛くてスタイル抜群で天才で天真爛漫でアイドルな幼なじみが一途に想ってくれる』?
はっきり言える。
あれだけ苦労しといて見返りがその程度だなんて、まともだったらやってらんねえ。
だから、佐藤は世界一の大バカ野郎だっていうのが、俺らの間での共通見解なわけだ。
昔から。この先ずっと。
絶対変わらない。

……けど、あそこまでやんなきゃ誰かを『好き』になった事にならないとしたら、そりゃちょっと息苦しいよな、
とも思ってるけどさ。

「本気で可愛い彼女が欲しいってんなら、くだんねえ事のたまってないで走り回れや。
走った分だけ返って来るかは知らんがな」
というわけで俺は、大げさに木の床をのた打ち回っているアホへ、冷ややかな現実をぶっかけてやった。

「うっわ、余裕発言来ました!そんなに余裕シャクシャクなら、フラグ一本俺にくれ!」
しかし今度は別のところから文句が上がる。
厄介な事に、一旦着いてしまった火は、元を断ってもなかなか消えないみたいだ。
テメエらとっとと着替えて昼メシに移れっての。購買行く奴も居んだろが。

「だからんなモンは存在しねえ!寝ぼけた事言ってんじゃねーよボケどもがっ!」
「ふざけんな!
Aクラの杉崎さんに松原さんに丸山さん、D組の貝塚さん!!レベル高い子ばっか狙いやがって!」
「こいつ沼南さんとも微妙にいい空気なんだよな〜。
ウチのクラスの女子じゃ最上位だってのに」
「んな空気はお前らの妄想だっ!
大体なんで俺ばっかなんだよ!?本庄だって沼南とよく駄弁ってんだろが!!」

前も言ったが元6−3メンツは連帯感的なもんがあるからだし、松原とはむしろ敵対関係だ。
しかしその辺の説明がややこしいので、結局消火活動は進まない。やれやれだぜ……。
0159俺に彼女は〜略422012/12/16(日) 12:04:11.81ID:0n6CBDhA
「ていうかよぉ、千葉って見るたび違う女連れてね?」
「あっ、そうそう!
こないだ駅前でかなり可愛いデコッ娘に、親しげな飛び蹴り喰らってたぜ!」
「マジで!?」
「お前らソレうらやましいのか!?」
これは恐らく虻川の事だろうが、あいつにしてもみつばにしても挨拶代わりに打撃を見舞ってきやがって、
東高の女はどんな日常生活送ってんだ。

「絶対おかしいよな!なんでこんなゴリラがハーレム築けるんだ!?」
「ありえん!どう考えてもありえん!」
「これだけ多人数の女子の弱みを握ってんだから、やっぱ相当サイレントスキル高いんだろうな……」
「なあ千葉。
髪長姫は諦めるけど、沼南さんの脅しに使ってるデータだけでも譲ってくんね?」
「お前ら脅迫ネタ大好きだな……。
ぶち殺すぞ」
しかも脅してること前提で話を進めやがって。

「ま、ギャグは置いてやるとして真剣な話、髪長姫が普通に話してくれるのが狂ってるよなぁ」
いつの間にか復活していたシノケンが、真面目な顔で失礼を重ねてきやがった。
真剣な話で狂ってるってどういう事だ。今度こそ再起不能にするぞ。

だが哀しいことに、援護が入るのはシノケン側ばかりなのである。これこそおかしい。

「狂ってる狂ってる!超狂ってる!」、
「あの氷の美少女が、こいつと話すときは笑ってるんだよな!!」
「えっ、マジ!?丸井さんが笑ってるとこ見たの!?」
「見た!超絶可愛かった!もう後光が見えるくらい!!」
「うわやべっ、見てえ〜!」
「稀にふわって感じで笑ってるぜ、あの人。
週明けの朝とか、なんでかすごい機嫌良さそうに輝いてるときあるもん」
「え〜でも、髪長姫は表情無い方が良くね?
あの人肌ツルッツルで白くてさ、むしろ冷たい表情の時の陶器人形感が、ゾクゾク来る」
「おお!マッキーが上手い事言った!
そうそう、髪長姫って陶器でできてる感じするよな!まさに生きた芸術!
こないだ腕まくりしてたけど、日焼け線とか全然無いの!どんな生き方して来たのか、かなり謎!!」

…確かに、なんか不自然なくらい綺麗だよな。太陽に当てないよう保管されてたって言われても、信じられる。
子供の頃から普通に俺らと一緒にマラソンとかしてたし、ザリ釣りもプールも一緒に行ってたはずなんだが……?
0160俺に彼女は〜略432012/12/16(日) 12:09:20.15ID:0n6CBDhA
「そもそもあの美貌が…っていうかどこ取っても綺麗過ぎ。
爪まですごい整ってて、手タレでも行ける」
「腰、腰!あの細さがヤバい!!抱き締め一回5000円だったら普通に払う!!」
「わかるわかる!
俺さ、アイドルだったら星井美希派だけど、やっぱ丸井さんは別枠…ってか、別格だわ」
「如月千早と水瀬伊織を足しっぱって感じだよな」
「一回でいいからあのぶるっとした桜色の唇に触れたい!!指先でチョンでいいから!!」
「1番スゴいのは目だろ!あんな綺麗な目してる人間、絶対他に居ない!ありえんレベルで綺麗過ぎるって!
今更だけどあの人ほんとに人間か!?
……えっ、俺の夢?」
「ウケる!集団幻覚説!!
なんか逆に説得力あるわー、ソレ。うわ恐えー」
「夏の怪談……Aクラの出席番号34番は、実は空欄でした!」
「恐えー!!!」

ドワ〜っ!と教室の沸きあがりが最高潮に達する。

シャツのボタン留めてた奴も、ベルト締めてた奴も、のんびり座ってた本庄までもが大口を開けて笑う。
やがて爆笑の渦は収まって行き、静かになったところで場を閉める様にシノケンがひと言発した。

「ほんっと、千葉は死んで欲しいな!」
「お前が死ね」
「肝臓があああっ!」
0161俺に彼女は〜略442012/12/16(日) 12:10:23.25ID:0n6CBDhA




「あれ?千葉、パン買ってこねーのか?」

ふたつの机を向かい合わせて作ったテーブルの上には、すでにシノケンと本庄の弁当箱がL字に並んでいる。
いつもならここに、俺のパンと缶コーヒーが加わるから、この問いかけ出るのはわかる。

「いや…何か昨日、待っててくれって言われたような、言われなかったような……」


「やっほー岸崎!
調理実習で作ったのお弁当を持ってきてやったゾ!
感動でむせび泣きながら食しなさい!」
「ああ…うん。
ありがとう……」


教室の端で開催された胸焼けするような青春劇のせいで、クラスの雰囲気が一気に尖る。
どっちかっつーと気が弱い野球部の岸崎は、空気に晒されてまともに顔が青くなる。多少可哀想だがその程度はな。
しかし弁当持ってきた泣きボクロ女、どっかで見たような。……確か三女さんの取り巻きの、柳…だったか?
てことはAクラは調理実習だったのか。
……はっ!ひょっとして三女さん、俺に弁当を届けるから待ってくれって伝言を……無いか。
そんな展開、端役の俺には分不相応だ。ありえんありえん。

「岸崎むかつくなぁ……。
あっでもあの彼女って、Aクラだよな。
ああ…髪長姫が輝く笑顔で手作り弁当持ってきてくれないかなぁ……おい千葉、どうした?げっそりした顔で」
「ショックだ……。シノケンとおんなじ事考えてしまった……」
「どういう意味だテメェ。
…いいじゃん、ちったあ夢見ろよ。お前、何かとすぐ諦め気味だぜ。
俺が言うのもなんだけどさ、もうちょい熱さをだせって。
余計なお世話かも知れんが、俺から見りゃ豪華な選択肢が揃ってんのに、もったいないって思う。
思うぜ?」
「夢、なぁ……」
友達が俺を気遣ってなるべく明るい声と表情で、でもちゃんと真面目に助言をくれる。
わかる。わかってる。つもり、なんだが……どうも何もかも漠然としすぎてて、足が動かないんだよな。

「そう!お前は自分がいかに幸せな立場に居るのかわかってない!
あの誰もに平等に冷たいはずの髪長姫が、あたたかい笑顔を向けてくれるなんて、
どんなに神に感謝してもし足りないほどありがたいことなんだよ!!」

さっき真剣に考えたこと全部無し。

「ほんっきでしつこいぞ、シノケン。まじウゼぇしキメぇ。舌噛み切ってくれ」
「お前の理解度が低いから、しつこく言ってんだっつの。
本来髪長姫は、誰にでも…イケメンだろうがフツメンだろうが、平等に冷たいところがありがたいんだろうが。
2年の滝嶋先輩のモーションに、『はあ?』のひと言で返したのとか有名じゃん。
『はあ?何言ってるんですか?』の『はあ?』で。
だから『ひょっとしたら俺にもチャンスが』って、全男子が夢と希望を持てるわけじゃん!」
「ごめん篠田くん、ボクから見てもキモい」
俺同様、それこそ全く『夢も希望も無い』事を知ってる本庄が、
その事の補正無しに純粋に残念そうな視線をシノケンへ向けた。
0162俺に彼女は〜略452012/12/16(日) 12:11:35.38ID:0n6CBDhA
「なのにお前らには自然体で接して、
あまつさえこんなブタゴリラに、芸術そのものの笑顔が向けられてるわけだ!
何なの!?神は、世界はこんな不条理をなぜ許してるんだ!?」
「千葉くん、ボクのコロッケ半分要る?」
「いや、悪いって。もうちょい待っても誰も来なかったら、パン買いにいくわ」
「聞けよ!!」
「うっせーな。いい加減にしろ。周りにも迷惑だろうが」
と思って見回すと、意外すぎることにクラス中が『うんうん』とうなずいていた。
男女どっちも。反応してないのは本庄と沼南だけだ。
おいマジかよ……。自分のクラスなのに何なんだこのアウェー感。若干死にたくなったぞ。

「この上、髪長姫が手作り弁当届けてくれるとか素敵イベントが有った日には、お前を呪い殺してやるからな」
「へえへえ。んなイベントは絶対起こらないっての。
もし起こったら、お前におかず分けてやるから心穏やかに過ごしてろ」
「マジっ!?
いやぁ、持つべきものは親友だなあ!」
コロッと切り替えて、満面の笑みで箸を進めだすシノケン。
俺、なんでこいつとダチになったんだっけ……?

「けど、本当に三女さん…丸井さんは人気があるねえ」
「あん?
……千葉の無理解もおかしいが、本庄って髪長姫関係、完全に他人事っぽく言うよな。
むしろお前らの興味なさが疑問だわ、正直」
「そうかな?」
「そうだよ。
あの信じられん程の美貌はもちろんだし、毎日自分で弁当作ってくる家庭的なとこもイイし、
態度は冷たいけどすごい親切じゃん。いや噂しか知らないけど」
「親切…ね……」
そこで本庄の表情は、微妙なものに変わる。何だ?

「なんだよ、実際三女さんはすげえ優しいじゃん。
…あー、まあ、優しくなった、ってか、積極的になったよな」
「確かにね。
だけどやっぱりボクは、三女さんには油断しちゃいけないって感覚が強いなあ。悪いとは思うけど」
「そりゃ昔は色々悪だくみ……いや、イタズラには巻き込まれたけどよ、今は違うだろ」
「ごめん、怒らないでよ千葉くん。ボクもそれはわかってるって。
だけど『今』だからこそやべ…色々あるから大人しい……どうも悪口言ってるみたいになっちゃって良くないなぁ。
とにかく、そうは言ってもやっぱり『三女さん』を感じるんだ。端々に。
こないだ見かけたとき、すごい形相で鴨小の方を睨んでたし。
ボクとしては、千葉くんが松原さんと仲良い事の方がうらやましいって思うけどな。
背が高くて、すごく美人で……」
「お前眼鏡の度がずれてんじゃねえか?
それともショートのうなじフェチ補正かよ。けど、あいつ性格が最悪だぜ。
そもそもあの女は俺の敵だ」
「おいお前ら、いちいち俺を置いて話すんなよ。
とにかくルックス最高、性格最高な髪長姫と同じ高校に通ってるわけだぜ。恋人になれたら最高じゃん。
男なら誰しも夢見るじゃん。……あ、スタイルが及川雫だったら更に最高だった」

シノケンが名前を口にした、最近テレビに出てきた爆乳アイドルの身体と、三女さんの顔を、
頭の中でコラージュしてみる。……バランス悪くて微妙だ。
俺、巨乳は巨乳で好きだけど、そこまでおっぱいにこだわり無い派だし。
やっぱ三女さんは今の妖精スタイルで完成してるだろ。それが理解できんとは、バカな奴だぜ。
教室が静まり返ってるのにも全然気付いてないし。
0163俺に彼女は〜略462012/12/16(日) 12:12:29.44ID:0n6CBDhA
「あ〜…俺、今気付いたわ。スレンダーもいいけど髪長姫はやっぱおっぱいが悲しいわ。
パーフェクト賞に一歩足りなかった。
けどまあいい!おっぱいが残念でも、俺は髪長姫とフラグを立てたい!どんなのでもいいから!!」
「良かったな、立ったぞ。たった今」
「えっ、マジで!?」
「ああ。
死亡フラグが」
「へ?」
俺の指した指先に釣られて、シノケンが上半身ごと首を180度後ろへ向ける。
そこには、

「…………………………」
氷の表情と氷河期のオーラで、三女さんが立っていた。

三女さんの昔からの特徴にして必殺、無音行動と気配ゼロ。
教室中が息を呑むほどの容姿をしてたって、視界に入らなきゃ気付きようがない。
これらも『妖精』と呼ばれる所以だが……確かに本庄の言うとおり、三女さんには『三女さん』なところがあるな。

「あっ、ああっ!」ガターン!
哀れ(自業自得でもあるが)度肝を抜かれたシノケンは、座ったまま足をもつらせるという器用なマネをして、
痛そうな音と共に、椅子ごと床に倒れ落ちた。合掌。

「なんっ…ぜんぜ、気配が…っ!?
やっ、すみっ…ごめっ、ごっ…ご機嫌麗しゅう、かみな…ひめ!」
「……千葉くん、友達は選んだほうがいいよ」
「こいつは完全に赤の他人なんで、心配ご無用です。
友達とか言ってるのはこいつの虚言癖ですから、無視しといてください」
「あっ、てめっ、千葉……っ!」
「久しぶり、三女さん。
他クラスに入ってくるなんて珍しいね。どうしたの?」
「なんだかご無沙汰してたね、本庄くん。
うん。これを千葉くんに届けにね」
そう告げながら、三女さんは右手で唐草模様の四角い包みを持ち上げる。
身長差があるから、ちょうど座ってる俺の目前に来た。

この形状、このサイズは、まさか……!って、いやいや、まさかあ。

「昨日杉ちゃんが言ってたと思うけど、うちのクラス、お弁当の調理実習だったんだ。
ちょっと他の班を手伝ってて遅くなっちゃって。お待たせしてごめんね。
お口に合えばいいんだけど」

嘘だろ!!!??!?

「えっ、あの、えぅあ、おっ…俺に、ですか?弁当を?」
「………」
驚きの疑問に対して、三女さんは変わらず冷たい、だけどどことなく恥じらいを感じる表情でうなずいてくださる。

ま・じ・で!!!?

「本庄、俺の頬を「漫画みたいなことをしなくても、現実だって。早く受け取ってあげたら」 ………」
なんかいざという場面ではやたらとドライな本庄の言葉に背を押されて、俺は恐る恐る唐草包みを受け取る。
やべえ、手がふるえる……っ!
0164俺に彼女は〜略472012/12/16(日) 12:15:43.49ID:0n6CBDhA
「男の子用だと思って、パ…お父さんの大きなお弁当箱を使ったんだけど、
材料費400円以内が課題だったから、おかずがちょっと少ないんだ。
なるべくデコレーションは控えて、量重視で作ったんだけど」
「いえいえいえいえいえいえ!!全然いけます!超満足です!
むしろ全部白メシでも『登場人物A』の俺には勿体なさすぎっスから!!
自覚ありますから!!勘違いしてません!」
「とうじょうじんぶつ?」
「なんでもありません!!ありませんとも!!」


「………ふふっ」
目の前に浮かんできた微笑は、値の付けられないくらいの芸術で。
至近距離でくらった俺の心臓は、一瞬カンペキに停まった。


「ああ…ごめんごめん。
いやいや、我ながら『女子の手作りお弁当』の威力はすごいなあって。
あの千葉くんが、こんな挙動不審になるくらい喜んでくれるなんて、思ってもみなかったよ。
……あっ」
「はい何でしょう!?やっぱ何かの手違いっスか!?
今すぐお返ししましょうか!?」
「いや、そうじゃなくて。
シャツ、ちょっと脱いで」
「脱い……っ??!?!?」
どどどどどういう事だ!?ここは学校だぞ!!周りはクラスメイトだらけで真昼間だぞ!!!?

「ちょっ…なに変な想像してるの。
ボタンだよ、首の。取れてるから、ほら、私、ソーイングセット持ってるんだ」
「ぼた…ああっ、ぼた…ボタンっスね!いやあわかってますよ、瞬時にわかってましたって!
脱ぎます脱ぎます!1秒で脱ぎます!!」
「慌てなくていいよ。お昼休み、まだあるし。
おっと、ボタンあるかな?」
「ありますあります!すぐ出します!!」

この状況で慌てないわけがない。
ブルブル震える指先をなんとか押さえつけてボタンを外し、ワイシャツだけ脱いで手渡す。
あっ、やべ。体育の後だった。汗臭いって床に叩きつけられたらどうしよう。ショックで死んでしまうかも、俺。

「………………」

俺がバクバク心臓鳴らしてるのなんて無視して、三女さんは手近な椅子に座り、
スカートのポケットから小さな白いケース…ソーイングセットを取り出した。
そのまま流れるような美しい動きで針と糸を取り出し、ボタンを元の位置へと縫い付けてくださる。

美しい。

それ以外に感想が思い浮かばない。
雪みたいに白く滑らかで、小鳥の脚みたいに細い指が踊る光景から、目を離せない。
しかも踊るたびにワイシャツが直っていくんだから、まるで魔法みたいだ。
……そうだ。チビ女の言う通りだった。三女さんは魔法が使える。虹色の瞳を持った魔法使い……。

「……あんまり見ないで」
「申し訳ありません!!」
持てる最高速度で首を窓へと向ける。
あの芸術を見られないなんて、胸が締め付けられるくらいにもったいない。
だけど白い神姫の言葉に逆らうなんて、絶対ありえない。
0165俺に彼女は〜略482012/12/16(日) 12:17:07.15ID:0n6CBDhA
「………我ながらオバサン臭いなあって思うんだ。
土日とか、お弁当ストックの切り干し大根煮たりして……女子高生なのに笑っちゃうよね」
「ぜんっぜんそんな事ないっス!
家庭的で女の子っぽくて、すごく良いって思います!!」
「そうかな?」
頭の後ろから聞こえてくる声は、頼りなくか細い。まるで道に迷った小さな女の子みたいだ。

どうしよう。どうすりゃいい?
三女さんに喜んでもらうには、自信を持って納得してもらうには、どう言うのが1番だ?

この子の1番は……そう。昔から。

「そうっスよ。男なら、誰だってそう思ってます。
『先生』とか、大人でももちろん。
メシ、美味かったら幸せっスから。自分の着るもん綺麗だったら、すげえ嬉しいっスから。
いっつも笑ってるっしょ?疑う余地ゼロで嬉しそうに」


「………そうだね」


ちったあ言葉の使い方が上手くなれたよな、俺。
勉強、苦労してきた甲斐あった。


「できた。こっち向いてもいいよ。
はいコレ」
「ウッス。ありがとうございます」
「どういたしまして。
お弁当、後で感想聞かせてね」
無表情で、無音。
だけど目の前に立ってる三女さんは、確かに嬉しそうだ。
だから俺も、すげえ嬉しい。

こういうのが、『幸せ』って言うんだろ?

「じゃ」

スイー

……………………………さて、と。

髪長姫が出て行ったのを見計らい、クラスの野郎共(本庄だけはどっか行った)が俺の席へと集まってくる。
緊張の満ちる中、落ち着いた手つきでゆっくりと包みを解く。
銀色の四角が現れる。

ザワ...

「落ち着け」

ザワザワ...

ここで慌てるのは素人だ。嘗めるな、俺は長年『登場人物A』をやっている。
さっきまでの出来すぎた展開があったとしても、ちゃんと本庄との会話を覚えている。
三女さんはイタズラ好きという、アレだ。
つまりこの場合考えられるのは、
0166俺に彼女は〜略492012/12/16(日) 12:18:17.88ID:0n6CBDhA
@全部白いごはん
A空
B毒入り
C害虫入り
D妄想の具現化

ドライな本庄にも見えていたということは、Dは無い。
ということは受け取ったときに感じた重みも本当だからAも無い。
三女さんに命を狙われるほど憎まれた覚えは無いから、BとCも無い。
つまり正解は、

「全部白メシだな」

ふっ……我ながら完璧な推理だ。
三女さんのパーソナルカラーである白色を生かしつつ、さっき自分で振ったネタの回収までできる。

あまりに隙の無さ過ぎる推理に酔いながら、蓋を開く。
第一声は『やっぱりじゃん!』だな。

パカ

そこには、白いご飯なんてなかった。
面積の半分はチキンライスの綺麗な赤に染まっている。散りばめられたグリーンピースが眩しい。
メインおかずのミニハンバーグは網状の焦げ目が食欲をそそる。
プラ串にはプチトマト、うずらたまご、ウインナーが彩りよく纏められてて、
しかもウインナーは定番のタコさんだけでなく、カニさんや魚さん型の飾り切りで目を楽しませてくれる。
育ち盛りの高校生用に、全体的に肉多目のメニューにしつつも、
小松菜のおひたしとレタスでちゃんと栄養と彩りのバランスが考えられてるのが嬉しい。
そしてお弁当と言えばコレ、卵焼き。
断面を上にして敷き詰められた淡い黄色には、中心にカニカマボコ、間に味付け海苔まで巻かれていると来た。

か…完璧なチキンライス弁当だ……。

ゴクリ...

自分を含めたクラス中の男子が唾を飲み込む音(買って来たカルピスを自分の席で飲んでる本庄のも含む)が、
教室を占める。

「………………」
ゆっくりと蓋を閉じる。

待て。落ち着け。
できる男は再確認だ。

もう一度ゆっくり、さっきの軌跡を100%なぞって蓋を開ける。

パカ

「ほんじょ「美味しそうなチキンライス弁当だって。早く食べなよ」 …ありがとう」

現実なのか……っ。
0167俺に彼女は〜略502012/12/16(日) 12:21:04.77ID:0n6CBDhA
「……いただき「おい千葉」
厳かに手を合わせている中、ぐっと掴まれた肩の方へと振り向くと、かつて無いほど真剣な表情の篠田健一が居た。

「俺に分けてくれるんだよな、親友」

「はあ?なに言ってんだ?誤作動してる喉掻き毟って死ねよダボハゼが」
「てめええ!今日という今日は頭に来た!
お前を殺してその弁当を俺がいただく!!」
「シノケンに分けるなら俺にも分けろ!!」
「俺も俺も!!」
「プチトマトだけでいいからくれっ!!」
「寄るんじゃねえてめえら…うわあ!!?」



騒ぎの中、ヒジを盛大に擦り剥いても尚、弁当を型くずれさせることなく守りきった俺を褒めろ。



………なるほど、三女さんは俺をこのドタバタに巻き込む事を狙っていたわけか。
さすが三女さん、見事な計略だぜっっ!


「いい加減ウザいって」

感無量でチキンライスを掻き込む俺へと向けられた本庄の目は、どこまでも冷ややかだった。
0168ガンプラ2012/12/16(日) 12:43:44.81ID:0n6CBDhA
後2回でこの話はおしまいです。
なんだかんだで長くなったなぁ。

今回の補足

アイドルは某ゲームから引っ張ってきました。
私はゲームやったこと無いんですが。気軽に使うとファンの人とか怒りそうな気もしつつ。
このシリーズ、完結にいつまでかかるか不明なため、すたらないアイドルを考えた結果です。
キャラは一応ひととおりピクシブ辞典で調べたんですが、すごい細かいですね。設定が。

どうも私の話は何かを食べるシーンが多い。
マンネリ気味がひどいんですが、腰を落ち着けて会話する状況って他に思いつかない……。

書いてるうちに、本庄くんの台詞が増えました。

男子のふたばに対する感想は、もうちょっと入れたかった……。
ちなみにこれもピクシブ調べたんですが、ロリ巨乳って、
年齢が幼くて巨乳じゃないとロリ巨乳にならないらしいです。
ふたばを正確にカテゴライズすると、童顔巨乳になるようです。
もうジャンル細かすぎて、着いていけないよ……。
しかし『ロリ巨乳』って、これ以上ないくらい頭の悪そうな単語ですよね(褒め言葉)。
3日くらい徹夜して、やっと思いつけるようなレベルで頭悪いわー(褒めてます)。
0171ガンプラ2013/01/06(日) 00:04:30.68ID:Grpb+HDP
あけおめことよろ〜です。
0172俺に彼女は〜略512013/01/06(日) 00:05:20.01ID:Grpb+HDP
――――――――――


幸せな昼食後の、眠さマキシマムな午後の授業も終わって、本日の業務は終了…と行きたいが、
ピョンピョン女から理不尽に要求された荷物運びが残っている。
人の足元を見やがった杉崎はムカつくし、血は止まったとはいえヒジを痛めたこの状態で、
肉体労働なんてやってられるかとも思う。
だが、引き受けてしまった以上、すっぽかすわけには行かない。
俺は貴重な放課後を削って、活動用具室……旧第二視聴覚室へとやってきた。
用具室と言えば聞こえは良いが、要は卒業生が部室に残していったラケットとかグローブとかを置いてる倉庫だ。
倉庫なので、校内で1番使われない空き教室が選ばれている。すなわち、4階端部屋だ。
そして生徒会室は向こうの校舎の1階端。思いっきり対角に配置されていやがる。

「くそっ、やっぱ引き受けるんじゃなかった」

作業開始前にすでにやる気メーターはマイナスに振り切れているが、突っ立ってても荷物は自分で移動しない。
なんとか気持ちを奮い立たせてドアに手をかけ…ようとしたところで、ケツのスマホがブルブルふるえ出した。
画面を確認してみると、メール着信……当の杉崎からだ。どうせサボるなとかそういうムカつく内容だろう。
メールを開くまでも無い、と判断して、スマホをケツに戻しておく。
いちいち頭に来るやつだ。そんなに信用ならねえんだったら、監視にでも来いっての。
こみ上げてくる怒りを右手に込めて、景気良くドアを横引きに開け……られねえ。鍵がかかってやがる。

「なんだあ?」

この学校は生徒の素行が良い(俺も含めてな)から、基本的に空き教室や屋上は開きっぱなしだ。
活動用具室もそうだったはず。実際、俺は入学直後の校内見物で中を見たことがある。
しかし、再度手に力を込めても、やはり結果は同じ。年季の入ったドアはガチャガチャ鳴るだけだ。
元々視聴覚室だったここのドアは、小窓ひとつ無いから中は見えないが、人の気配は感じない。
ということは授業とかで使用中って事もないだろう。

「ちっ……」

誰だよ鍵かけやがった野郎は。ここには盗る価値のあるもんなんてねーっての。
……1階の職員室まで鍵をもらいに戻るのは、超めんどくせぇな。しゃーない。

「……………」
振り向いて廊下を確認する。
よし、人影は無い。

俺はドアに向き直り、スマホを入れてるのとは反対のケツポケットから、生徒手帳を取り出す。
適当な厚さになるようページを開き、ドアとドアが重なってるとこの隙間に差し入れる。
そして鍵のある部分を下からガンガン叩きつつ、もう一方の手で力いっぱいドアを揺すってやる。

ガタガタガタガタガタカチャリ

「おっしゃ」
音と手ごたえの双方から開錠を確信して、俺は軽くガッツポーズを取る。

ここの校舎は結構古い上、世の中の不景気にならって、使ってない教室は鍵の更新がされてない。
だからこうやって、力技でも簡単に開けられるってわけだ。
……俺は別に不良じゃねえって。この技だって、仲良い先輩から教えてもらったもんだしな。本当だって!!
0173俺に彼女は〜略522013/01/06(日) 00:06:01.82ID:Grpb+HDP
ガラッ

「………?」

なぜか教室手前半分のカーテンが閉められてる。しかも後ろ半分は窓が全開だ。蒸し暑いのがマシになっていいけど。
やっぱ誰かが使ってたのかと思って、教室を見回して見る。
通常教室の1.5倍程度の大きさを持つ室内には、机が階段状に備え付けられてる。
窓際には古臭い部活用具の数々が雑多に積まれてるが、
流石に生徒の素行の良い学校だけあって、それなりに整頓が行き届いている。
前見たときよりちょっと小奇麗なのは、杉崎が手を入れたからだろう。
後は…向こう端の机の上に、何か白い布みたいなのがチョコチョコ乗ってるが、人間の姿は見えない。

「………まいっか」

タラタラしてても時間の無駄だ。今日はノートのコピーもしなきゃならんし、とっとと終わらせよう。
ダンボールは……………………あれか?

ドアから教卓をはさんで向こう側、木製の掃除用具箱の横に、黒い布の被せられたでかい塊がある。
端からボール紙の茶色が見えるから、多分間違いないだろうとは思いながら、歩み寄って確認してみる。
予想通り、布の下はダンボールが並べられていた。
中身は…テニスボールやら剣道の面やら。そして1番上にはA4のルーズリーフが一枚入っていた。
そこには、昨日数学ノートで眺めた杉崎の字で、『再利用可能品リスト』。
他にも環境整備委員の仕事として杉崎が仕分けた事や、何かあった場合の携帯番号まで書かれていて、
アフターサービスも万全だ。俺にももっとサービスしやがれと強い憤りを感じる。
なんだってこんな隠すみたいに置いてんだ、あの女?
人に頼むんなら、運びやすいよう出入り口近くに置いとけってんだ、ボケが。
どうも今日は気が削がれる事ばっかりだぜ。
ため息ひとつついて、なんとなく周りに目をやってみる。
さっき目に付いた白い布が、近くの机にもひとつ乗っている。………たたまれたセーラー服?

キャッキャッウフフ

?!!???

ガチャガチャ...

「あれー?
ヤナギーン、ドア開いてるよー?」
「えっ、嘘っ!?制服ドロとか!?
……園っち、誰から鍵もらった?」
「神戸さん」
「じゃあ掛け忘れだよ。あの子、頭は良いんだけど雑なの。全般的に」
「どれどれ……?」

ガララ...

ドアがゆっくりと開き、そろりそろりといった足取りでブルマ姿の女子が入ってくる。
女子は3歩進んだところで立ち止まって、背伸びしながら首を回して辺りを確認し、
やがて後ろから来たもうひとりの女…昼にも見たAクラの柳へと、敬礼付きで結果を報告した。

「現場には誰も居ません、警部。
制服も、ちゃんと3着あります」
0174俺に彼女は〜略532013/01/06(日) 00:06:57.90ID:Grpb+HDP
「ね。
昔も似たようなことあったから」
「ヤナギン、神戸さんとオナチューだっけ?」
「小学校も一緒。ていうか近所。
5年生のときにあの子が引っ越してきてからだけど」
「そうなんだぁ〜。
じゃあさ、神戸さんの彼氏って見たことある?」
「あるよん。神戸の隣の家のお兄さんなんだ。私も私のお兄ちゃんもお世話になった。
4コ上で、今は北海道大学に行ってる」
「てことは遠距離恋愛?」
「そういうこと」
「超かっこいいってほんと?」
「いやぁ〜、普通のメガネさん。
頭良くて、落ち着いた雰囲気なんだけどね。正直、神戸と付き合うとは思ってなかった。
まあ神戸の方は、子供の頃からその人にめちゃくちゃ懐いてたから、熱意に押し切られたかな?
優しい人だし」
「へぇ〜」
「写メあるよ。見る?」
「見る!!」

おお…俺もちょっと見たい。などという余裕はもちろん無い。
なぜなら俺は今、掃除用具箱の中に無理矢理体を詰め込んでいる状況だからだ。

狭いっ、そして蒸し暑い……っ!

ただでさえ人が隠れるようにできていない木の箱は、身体のでかい俺の場合、腰を屈めてやっとのぎゅう詰めだ。
怪我してるヒジが、モップの柄か何かに当たってかなり痛い。
それはまだ我慢できるが、湿度の高い真夏の空気が一切動かず肌にまとわりついて熱中症一歩手前だ。
さらに緊張もあわさって、滝のように汗が吹き出てくるから、シャツだけじゃなくズボンまでもうびっしょり。
これで目の高さのところに穴が空いてなかったら、暗所も加わって流石の俺でも発狂してたかもしれん。
しかしなんなんだこいつら、なんでこんなところで着替えを?女子は更衣室あるだろ。

「園っち、一応盗られたり触られた形跡ないか見ときなさいよー」
「りょうか〜い。
それにしても、照明の業者さんが早めに来ちゃったからって、こんなところを仮更衣室にすること無いのにね。
上がってくるのめんどくさかった」
「ノゾキをシャットアウトできるとこ少ないから、しょうがないよ」

なるほど、だからカーテンが閉められていたのか。
使ってるのは1−Aみたいだから、杉崎からのメールはこれについてだったのかもしれん。
なんというドッキリ☆ハプニングイベントだ。


いらねえええええええ!!!!


アホか!!こんなもん現実的に考えて、リスクとメリットが全然釣り合ってねえんだよ!!
見つかったら残りの学校生活真っ暗になるだろうが!!それにこんなしんどい体勢で興奮できんわ!!
大体、ネットでイロイロ見放題な今時、女子の下着姿くらいで……はっ、いかん!
重大な事実に気付いた俺は、慌ててぎゅっと目を瞑る。まぶたの上を汗が流れ落ちてかゆい。

エロスは正々堂々とが千葉流だ。こんな覗きまがいは、ただの犯罪だぜ。

「姫、入ったら内側から鍵かけといて。
これ鍵。パース」

なにい!?三女さんまでいらっしゃってるのか!!?
0175俺に彼女は〜略542013/01/06(日) 00:08:22.02ID:Grpb+HDP
聞こえてきたあだ名に反応して、思わず一瞬目を開きかけてしまう。
だがしかし、俺は男だ。惚れ……じゃなくて色々あれだ、ちょっとそのとにかくの女が居るなら、
なおの事ぜったいに見るわけにはいかない。
俺はまぶたに力と決意を上乗せする。

「………?」
「どったの姫?」
「一瞬『視線』が……?
……ううん、なんでもないよ。ごめん」

カチャカチャ...カシャン

「ごめんね、私のせいで遅くまで居残りになっちゃって………」
三女さんの声は、ひたすら申し訳なさそうで、最後の方は消え入りそうだった。
ただでさえ鈴のように物悲しい響きをもつ声質は、哀しみの色が混じると、
聞いているだけで心臓が締め付けられてるみたいに痛む。

「そんな暗いオーラをださないでよ。
私もヤナギンも気にしてないんだから、姫も気にしないで欲しいな。
班なんだから、オールフォーワン・ワンフォーオールの精神は基本だって。
ね、ヤナギン?」
「そうそう。
気にするなら、せっかくの美白を長時間真夏の太陽に晒しちゃったことにしなさいな」
「……私、昔から日に焼けないんだよ。
不健康そうだよね……」
声はまた一段暗くなる。

白銀に例えられる三女さんの肌は、神秘的なまでに美しい白さで、儚く可憐な雰囲気を見事に彩ってる。
男子どころか女子すらも羨望でため息が絶えない、誰もに誇れる美しさなのに、
本人はまるで自信を持っていない。
不思議じゃない。ただ、くやしい。噛み締めた奥歯が軋むほど。
俺じゃあどんなに必死に褒め称えても、気休めの世辞だとしか受け取ってもらえない。
くそっ、何やってんだよ矢部っち。あんたが三女さんの殻になってどうすんだ。バカ野郎。
……バカは俺だ。自分の力不足を他人のせいにするなんざ、男として最低だ。

「そういう話じゃないっていうか、そういうレベルじゃない白さなんだけど……まいっか。
いちいちネガティブにならない!調理実習のときの元気を出しなさい!
それでもって、苦手なところは遠慮なく頼ってよ。せっかく友達なんだからさ」
「……うん」
「大体、これくらいじゃあ今朝もらったマーマレードのお礼にもならないよ」
「マーマレード?」
「姫手作りの、夏みかんマーマレード。
昨日、姫がデザートに持ってきてたんだけど、クラッカーにつけて食べると、んも〜〜ぅ!
あんまり美味しかったから、小瓶に分けてもらっちゃった」
「えー!いいなぁ〜!
姫、姫!私にもちょうだい!」
「あ…ごめん、柳さんに渡したので最後なんだ。食いしん坊の姉がムシャムシャ食べちゃって……。
おすそ分けでもらった夏みかんはまだあるから、また作るよ」
「でも優先順位は私が先だからね〜。
友達特権だもんね〜」
「えぇ〜っ!姫、私も友達だよね!」
「ダメです〜。『美少女の友達になる普通の女の子』枠は私がもう埋めてます〜。
園っちは、もっとキャラ付けをはっきりさせてから登録申請しなさい」
「ずるい!それ1番美味しい枠なのに!」
「美味しいの、ソレ……?」
黄色い声が飛び交うたび、鈴の音には呆れが強く出て、その分だけ悲しみの色合いは薄まってきた。
0176俺に彼女は〜略552013/01/06(日) 00:08:56.69ID:Grpb+HDP
なかなかいい仕事をする。
いつも手も足も出せない(しかも今は箱詰めな)俺より、よっぽど頼りになってやがる。
……当たり前か。『今』の三女さんには、頼れる友達をつくる力がしっかりある。
俺ってつくづく、居ても居なくても何も変わらん端役だ………。

「か〜な〜り美味しいってば。
解説は後でしてあげるから、姫も早く着替えなよ」
「そうだね。今日は私も汗、すごくかいちゃったよ」

情けなく肩を落としている俺の耳に、衣擦れの音が入ってくる。
たかが聴覚情報…とは侮れない。
両腕を上げて体育着を脱いでるのとか、スカートのチャックを上げてるのとかが、
暗闇の中にリアルに浮かんでくる。
しかも頭の中で肌を晒してくれているのは、どれもこれも見知った顔だから、
妙な肉感があって……何というか、新次元のエロスを開拓された気分だ。
って、さっきまでヘコんでたくせに我ながら節操の無いうおお制汗スプレー何処に吹きかけてる…ダメだ!
これじゃ完全に変態じゃねえか!もう耳も塞いで「姫のブラ、可愛いね」 …………。

「ほんとだ。見たこと無いデザインだね。
メーカーどこ?」
「うん…この辺では売ってないっていうか……ちょっとね。
うぁ…今日はブラまで汗でびしょびしょだよ。換えなきゃ……」
直後、俺の極限まで神経を尖らせた聴覚は、『プツッ』という小さな音を捕らえた。

こ…これは……っ、三女さんがブラを外しているのか……!
ノーブラの三女さんが、俺のすぐ近くに!!

「………まあ、私にブラなんて意味ないんだけどね……」
「いきなり虚ろな目で自虐ネタかまさないでよ……。
私も無い方だから悩みはわかるけど、姫ってちょっとおっぱいにこだわりすぎだよ?
ネコの名前といい」
「おっぱいとはすなわち女子力そのものだからだよ……。
見たこと無いデザイン?それもそのはずだよ。
私はアンダーすら無さ過ぎて、通販で特別小さいのを取り寄せてるからね。
女児用キャミで充分なくせに、背伸びしてブラを着けてる私を笑うがいいよ……」
「そんなにウエストのくびれた女児が居たら、不気味だってば。
……しょうがないなあ」
「……えっ、柳さん?
キャッ!?」
三女さんには珍しい、女子そのものな可愛い悲鳴が上がる。
純度100%の驚きで満ちた高音は、クールで物静かないつもを知ってるからこそ実に新鮮で、
むしろ俺の方が驚愕で口が半開きになってしまう。

だが、後に控えていた衝撃は、それとは比較にならないほど大なものだった。

「あっ…んぅっ……。
は…あっ……」
まるで小鳥のさえずりのように瑞々しく、それでいて頭の芯を熱くさせる艶を含んだ音色が、鼓膜を震わせる。
声を上げまいと必死で抑え付けているのに、裡から来る抗いようの無い感覚に競り負けてしまう。
そんなはしたない自分が恥ずかしくて、我慢が募り、けれどそのせいでますます声に熱が篭っていく。
初めて聞く、三女さんのあられもない心の透けた声。
あの三女さんの。
あの天上の世界の住人のように清純な三女さんの。
あのオナニーのオの字も知らないはずの三女さんの。
あのトイレには行った事が無いと言われても信じてしまえそうな三女さんの!

喘ぎ声……っ!!
0177俺に彼女は〜略562013/01/06(日) 00:09:45.28ID:Grpb+HDP
「あっ…あ、はあ……ふくぅっ」

う…あ……。すごく綺麗なのに、すごくエロい。
まぶたの裏が赤く染まる。頭に血が上りすぎてクラクラしてきた。鼻血が出そうだ。
なんだなんだなんなんだ?いったい何が起こってるんだ??
眼を開ければそこにに広がっているであろう、桃色の世界を目撃するため…ダメだ!
我慢しろ千葉雄大!目を開くな!それは絶対にやってはいけない!!

「ほれほれ〜、ここがええのんか〜」
「やっ…んぁ……。
やめっ…やな…ああっ!」

すみません普通に勃ちました。

「……いよっし!」
「あ……は…ぁ……」
突如始まった桃色空間は、また突如、達成感に満ちた女の声で強制終了される。
馬鹿野郎!もっと続けろ……じゃなかった、一体全体、どういうつもりだ!?

「な…にを……はふ…。
と、つぜん……」
「ほら、これでノーブラだと乳首が目立って困るでしょ?
ブラの意味ができたじゃん。
やったね!」
「はあ…はぁ…っ、そっ…んな、ばか…な……っ」
1度押し寄せた波はすぐには引かないんだろう、三女さんが息も絶え絶えに抗議を上げる。
羞恥と屈辱と、そして情欲のミックスされたその声も、さっきとは違う味わいで俺を熱くさせる。
鼻の下を垂れていく液体の感覚はもう、汗では無いと断言できない。

「う…わぁ〜、びっくりした……。ヤナギンが暑さでついに壊れたのかと思ったよ〜。
でも、姫の喘ぎ声って綺麗だったなぁ。ドキドキしちゃった。録音しとけばよかったぁ〜」
「はあ…ふくっ…う……。
や…めて……」
「ねえ〜。
私も姫のおっぱい、すべすべのプニプニでつい夢中になっちゃった。
大丈夫だよ、姫。これならどんな男も充分楽しめるから。自信持って!」
「む…ちゃ、くちゃ……!」
「乳首も薄ピンクですっごく綺麗だったよ。
使い込んで黒ずんでるヤナギンのとは全然違った!」
「やだもぉ〜、園っちってば!さっきから冗談ばっかり!
あんまり調子に乗ってると、肉塊にしちゃうゾ☆」

……しかしこいつら(特に柳とかいう方)、さっきから明るい声で妙な会話するな……。
それとも女子って、男の見てないとこじゃ、結構バカな会話するもんなのか?

「……ふう〜…。落ち着いてきた……。
…二度とこういうマネはしないように」
「ひっ…!ごめっ…ごめんなさい!謝るから睨まないで!!」
「わっ…私もヤナギンも、姫はうらやましいくらい綺麗だって事を伝えたかっただけだって!!
ほらほら、美少女は常に笑顔じゃなくちゃダメよ!!ねっ!?」
突然、女子どもが方向転換する。おそらくは『ギヌロ』と血走った目玉を向けられたんだろう。
アレ、普段とは180度違う向きで心臓に悪いからなぁ。
実際俺も、ちょっと思い出しただけで寒気がしてきた。ぶっ倒れそうなくらい暑いのに。
0178俺に彼女は〜略572013/01/06(日) 00:10:29.91ID:Grpb+HDP
「いよっ、髪長姫!
美しいお顔に可憐なお身体、しかもお優しくて家事万能と非の打ち所がございません!
あっしら平民の女子力では、足元にも及びませんぜ〜。
のう、園村屋よ」
「そうでございまする。この程度でお怒りになられては、姫様のご高名にキズが付きまするぞ!」
「………もうっ、調子いいんだから」
「ぐえっへっへっ、そんなに褒められたらこの柳、照れちゃいますぜ。
……でもこれだけ完璧だと、遺伝子を調べたら美容整形に飛躍的な進歩が起こりそうだよね。
お姉さんも、あのご当地アイドル『丸井ふたば』なわけだし。
美少女形成の遺伝子が見つかるよ、ぜったい」
「もうひとりのお姉さんも、すっごい可愛いんでしょ?
松原さんが『理想の少女像そのままの、天使のように愛らしい女の子』って、絶賛してたよ」
「その情報は無視していいよ。
ていうか、聞かなかったことにして………」

一体あいつの目には、長女がどう見えてるんだ……?

確かに長女は可愛い。
もちろん、三女さんやふたばみたいな桁外れの美少女とは比較にならんが、
『黙ってれば可愛い』女子揃いだった6−3でもさらに上位に位置していただけあって、
言動の残念さと腹周りに目を瞑れば、普通に高得点なのだ、ヤツは。
うちの学校にも、長女(が頻繁に見せるパンツ)目当てで駅前のファミレスに通ってる奴だって居る。
かと言って、松原だって負けてはいない。
癪だが、凛と輝く黒い瞳も、不適に笑う薄い唇も、形良く尖った顎も、
本音を言えば充分に美人の範疇に入っている。
スタイルは……まあ松原はぶっちゃけ貧乳(俺査定A)なわけだが、
流石元陸上部だけあって良く引き締まってて、
太腿の細さとか、むしろ長女の方が涙を流して悔しがっていいレベルだ。背が高いのも映える。
さらにメンタルと学力に関しては、改めて比べるまでも無く松原に軍配が上がる。
それでも何故か、ガチで理由不明に、あの女は長女を崇拝している。
……微妙に馬鹿にしているようにも見えるが。
でもはっきり言って、俺的に人生最大の謎のひとつなんだよな。たぶん、一生わからない予感がする。

「無視なんてできるわけないじゃない。
あのクールな松原さんが、うっとりした表情で語ってたんだよ。気になっちゃうってば。
…ううむ、こうやって考えてみると姫ってば、周りのキャラの布陣も豪華だよね。
私、ちょっとやそっとのキャラ付けじゃあ友達申請できないなぁ」
「申請制度なんてとってないよ」
「アイドル級に可愛いお姉さんたち、クールビューティーの松原さん、
天才の神戸さん、でもって姉御肌で頼れる杉崎さん……あっ」
杉崎の名前が出たところで、教室の空気が少しだけ張り詰める。
次いで、さっきまでのんきそうだった園村とかいう方の声が、恐る恐るといったふうで続ける。

「あ…や〜……私はもちろんヤナギンの味方なんだけどぉ〜…」
「別にいいって。あの子が仕切り上手な事、私だって認めてる。
まあ?今日みたいにグループの和を乱されると、溜まるものはあるけどさ」
「杉ちゃんは、火曜日はお稽古事があるから……」
「姫。
私、姫の事すごく好きだし、努力家なところすごく尊敬してる。
でも、その八方美人なところはどうかと思うな。
お弁当もいろんなグループを行ったり来たりして。
姫は特別だからみんな従うけどさ」
0179俺に彼女は〜略582013/01/06(日) 00:12:05.09ID:Grpb+HDP
「…………うん。みんなが良くしてくれるからって、私、好き勝手してるよね……。
ただ、それでも私は……」
「わかってる。姫がクラスの雰囲気良くしようとしてくれてるの。優しいって思うよ。
でもね、ちょっとおせっかいが過ぎるよ」
声にははっきりと棘が感じられる。
ついさっきまで、キャッキャウフフと華やかだった雰囲気は、
ただの一言を契機に、寒々しい荒野に変わってしまった。

女は怖い。なんでこんな簡単に温度が切り替えられるんだ、こいつら。

「……ごめん」
「姫に謝ってもらうことじゃないけど。
でもそっか、お稽古事か。さすがはお嬢様って感じだよねぇ」
「だよね〜、ヤナギン。
庶民とは一緒にやってられないっていうんなら、お嬢様学校とかに行けばよかったのに」
「いっそ杉崎学園とか作って、別世界に引っ込んでればいいのよ。
ショップを何件も店ごと買い取るくらいお金余ってるんだから」
「あの噂って、ホントなの?」
「冗談みたいだけど、本当。
私、子供の頃、あの子が下北沢の雑貨屋さんをまるごと買い取ってるの、この目で見たもん」

杉崎の負債。
金に物を言わせてわがままし放題だった女子の悪評は、鴨橋小の外にまで鳴り響いていた。
ぶっちゃけた話、杉崎は6年生にあがる以前から、男子の間ですら評判が悪かった。
高価な物を見せびらかしてたし、何でもかんでも金で解決しようとしてたし、
超が付くくらいの高慢高飛車だった(これは今もか)。悪くならないはずが無い。
小学生男子の間ですら悪かったんだから、女子連中の間じゃ相当だ。
4年も経った今ですら、基本サバサバしてる虻川が、苦笑いして思い出話するくらいなんだから。

杉崎の件については、良いも悪いもめちゃくちゃに掻き回して訳わかんなくする長女の性格が、
プラスに作用した唯一の事例だと、俺は思ってる。

「高校入って、ひと目でわかった。あの目つき。
あの時、成金らしいヤラシー目でこっちを見下してたの、よく覚えてる」

中学に入ってしばらくした頃、杉崎は自分のやってた事の恥かしさとかで、すっげー悩んでた。
プライドが高くて、しかも自分がズレてる自覚がある分、
一時期のふたばより深刻だったかもしれない。
……結局のところ俺は男子だから、詳しい事は何も知らん。
だが、あの杉崎が委員会の仕事に積極的で、後輩の面倒見が良くて、節約にうるさくて、
しかも全部をうまく切り盛りできるようになったんだ。
きっと相当な苦労があったんだと思う。

「そのくせ、私は普通の子と一緒の苦労してる、みんなと同じだよってポーズしちゃってさ」

女ってのはわからん。わからなさ過ぎて怖い。
杉崎の気の強さを慕うグループもあれば、未だに昔の事を掘り返すグループも居る。
しかもひとつのクラス内で、だ。
0180俺に彼女は〜略592013/01/06(日) 00:20:01.86ID:Grpb+HDP
「……実際、杉ちゃんは私たちと同じ条件で勉強して、学校生活して、
委員会のお仕事してるよ。
お稽古だってして、Aクラに居るんだから、普通の子よりすごいくらいだって思ってる。
……思ってくれない、かな?」
「姫は昔からの友達だから庇うのはわかるけど、杉崎さんのはあくまでポーズじゃない。
私、そこが嫌いなの。
少ないお小遣いでやりくりしてるって言ってたって、
あの子が豪奢なドレスですごい車に乗ってるの、何度も見かけるし。
1学期の打ち上げのときとか、軽〜くカラオケ貸し切りにしちゃってさ。
あの日は空気読んで黙っててあげたけど、根本的にズレてるよね」
はきはきとした口調での断定。
それは分厚い壁みたいに、三女さんの想いをシャットアウトする。

「…………そうだね」

ここまで、か。
だけどそれでもすげえ。
あの大人しくて無口だった三女さんが、こんなにはっきり主張するようになってたなんて、思いもしなかった。
女の子にとって、誰かを『好き』なるって、こんなに特別な事なんだ。
……やっぱ、くそっ。わかってた事だけどよ。

「だけど、柳さん」

なんて勝手に結論付けてるバカ野郎を置いてけぼりにして、
小さな鈴を思わせる声は、だけど凛々しいくらいに明確な響きで空気を震わせ続ける。
壁なんて越えて行ってみせるって、想いと一緒に。

「杉ちゃんは、お金持ちの家に生まれた責任をしっかり果たしてるよ。
私たちとは別世界の事‘も’してるんだよ。
お稽古事もパーティも、普通の高校生ならしなくてもいい事だって思わない?
ドレスを着て出かけるのは、ふさわしい格好があるからだし、
高校に入ってから、杉ちゃんが学校に高価な物を着けて来たの、一度も無いよ」
「姫……」
「ズレてるところがあるの、認める。
だからこそ、普通じゃない、おかしいって思ったなら、はっきり言って欲しい」
「……それって、甘えよ。
『悪いところは教えて』なんて、空気読めない子の言い訳じゃない。
周りを見て、合わせるよう努力するのが普通でしょ」
「でも、柳さんは私に教えてくれたよ。
流行の音楽とかテレビとか、カラオケでもデュエット一緒に歌ってくれた。
私には、素敵に笑って教えてくれたよ」
「姫の事、すごいって思えるからよ。
わがままとか自分の事とかじゃない、家の事情と向き合って、
家の事も学校の事も一生懸命頑張ってるの見せられたら、誰だって力になりたいって思うわ。
それこそ、普通に」
「杉ちゃんは私よりずっと頑張ってるよ。ポーズなんかじゃなく」
「ふうん……。
例えば?」
「例えば………」
0181俺に彼女は〜略602013/01/06(日) 00:20:41.41ID:Grpb+HDP
例えば、自主的に再利用可能な部活用具を仕分けたり。
やってる。ただでさえ稽古事とかで忙しいってのに、自分の時間を削ってだ。
よっぽど物を大切にする気持ちが無かったら、出来ない。
バカか、あのピョンピョン女。何を親友の三女さんにまで秘密でやってんだ。意味不明なプライド持ってんなよ。
こうなったら俺がズバッと出て行って……なんて出来るわけねえ……。
……わかってるさ、三女さんがこんなに勇気を見せてくれたんだ。
ここで出て行くのが男だ。
つったって、無理だって実際。こんな状況で出て行ったら100%変態野郎だぜ。
叫ばれて生徒指導室連行で、おふくろまで呼ばれて、晒し者になって……。
漫画みたいに次の週になったら何事も無く、なんてのはありえないんだ。
残り学校生活の2年半、容赦なく地獄になる。

「お稽古事こそ、杉ちゃんの家の事情で……」
「それは結局自己研鑽よ。自分の事で、自分の都合なの。
遅くまで部活や塾で頑張ってる子はいくらでも居る。
姫みたいに逃げられない事情があって、家のお手伝いやアルバイトしている子だって居るわ。
それが『頑張ってる』だって思ってるんなら、ただの友達贔屓よ」

やっぱ無理だって!!
俺は佐藤じゃないんだ。普通の男子高校生なんだ。明日からの毎日が大事なんだよ。
いいじゃん、確かに惜しいタイミングだけど、杉崎が頑張ってる事はいつか証明されるって。
ていうか、近いうちに生徒会報かなんかで、このリサイクルの件が載るって。
放っといても無問題だって!!
大体、俺は杉崎に義理も何もないっての!!
むしろムカついてる!いつもいつも人をバカにしやがって!
今日だってメールじゃなくて電話で教えてくれりゃあ、こんな目にあわずに済んだんだ!
生徒会には細かいメモ準備してたくせに……あっ。

そういえば、左手に詳細を書いたルーズリーフを持ってるんだった。

「………………」
俺はあくまで目を瞑ったまま、右手で穴の開いている箇所を確認する。

作戦。
@この穴からメモを教室へ落とす。
A物音を立てて注意を引く。
B落ちてるメモに気付く三女さんたち。
C杉崎さんすげーっスわー。っべーっスわー。カンドーっスわー。

「委員会の仕事だってしてるし、クラスを率先してまとめてくれてるよ」
「委員会なんてボーっと座ってればいいし、仕切り屋なのはあの子の性格だわ。
本当にクラスをまとめる気があるなら、仕事の多い委員長に立候補すればよかったはずよ。
そういうところが、杉崎さんのポーズなの」
0182俺に彼女は〜略612013/01/06(日) 00:21:58.16ID:Grpb+HDP
いやいやいやいやいやいや。

もしこっち向いてるヤツが居たら、穴からメモを差し出してるの丸見えじゃん。
中に人が居るのがモロバレじゃん。出て行くのと一緒じゃん。
そもそもこのメモ、かなりくしゃくしゃになってて汗で湿ってて、怪しさ爆発じゃんか。
リスクでかい。無理だな無理。
すんません、三女さん。マジすんません。後で土下座でも何でもしますから。

『先生みたいになりたい』

今電撃的にわかったぜ。矢部っちすげえ。すげえいい先生だった。
泣いて言い訳しながら土下座して、情けねえ大人だって笑ってたけど、全然そんなこと無かった。
だって俺今、出て行けねーもん。指も動かせねーもん。
わかってなかった。気付いたときにはもう遅かったとかじゃなかった。
俺じゃそもそも無理だった。進行形で無理。
それに俺、矢部っちみたいなイジられキャラじゃねえし。
プライドあるっつーか、土下座しても許してもらえないキャラっつーか、
しかもあの頃のドタバタは、所詮教師と生徒の間のことだったから…ってダメじゃん俺。
完璧言い訳モード入ってんじゃん。
覚えてるっての。矢部っちは校長先生にも、おふくろ達PTAにもボコボコにされてた。
変態教師とかシャレになんねえ場面でも、堂々と出て行ってたよ。
流石は三女さんが惚れるだけはあった……でも、美少女に好かれるんだったらやる価値あるか…ってだから!!
損得勘定する時点でダメ過ぎるだろ!!やっぱのやっぱで無理!!結論出た!!
俺は所詮『登場人物A』だし!過剰な期待かけられても困る!!

『変わらなきゃって思ったんだ』

「でもわかって。杉ちゃんは誰より頑張ってるんだよ」
「いいってば、姫。園っちにも言った通り、私だって杉崎さんを認めてる部分はあるの。
それでいいでしょ。
私は姫の事が好きだし、これからも カタン ……?」
「あれ?」
「ヤナギンも姫も聞こえたよね?
後ろの方から………」

もう上手く聞き取れない。
耳の中は、自分の心臓がバクンバクンと鳴る音が反響して、痛いくらいだ。
脱水症状になりそうなくらいカラカラだったのに、嫌な汗が後から後から滝のように噴き出てくる。

「……くしゃくしゃのノートだ……。
こんなの、落ちてたっけ……?」
「わかんない。
前に着替えた子が落として行ったのかな?
園っち、最初に見渡したときあった?」
「ん〜……。
あんまり意識してなかったけど、なにも落ちてなかったような……」

心臓が痛ぇ。
血流が激しすぎて、鼻だけじゃなく、耳からも血が噴き出そうだ…っ。
0183俺に彼女は〜略622013/01/06(日) 00:24:44.78ID:Grpb+HDP
「姫、なんか書いてある?
名前とか」
「……これって……!」









まとめると、なんだろ?
そうだな……とりあえず土下座はせずに済んだ。
後は、やっぱ頭いい人間は良いこと言えるもんなんだなって思ったわ。マジで。
0184俺に彼女は〜略632013/01/06(日) 00:26:23.64ID:Grpb+HDP




「………もう誰も居ない……よな……?」

三女さんたちが出て行ってから、ずいぶん経った(と思う)。
目のところの穴で最後の確認をしてから、用具箱のドアを内側から開く。

「ぶっ…はあああああ〜〜〜っ!!!」
肺全体を使って、深呼吸する。
シャバの空気が美味すぎる。生きてるって素晴らしいぜ。

「はぁ〜〜っ、ふう〜〜っ」

今回はかなりキッツかった。
後5分、出て来るのが遅かったら間違いなく気絶してた。
最悪そのまま汗で水分が全部出て、ミイラ化してた可能性もある。
冗談の類じゃない。
教室は窓が締め切られてかなり室温が上がってるってのに、
汗がガンガン蒸発していくせいで涼しく感じるくらいだ。
さっきまで俺が押し込められていた環境、推して知るべし。

「ふはぁ〜〜〜っ。
……ヤベ、何か飲まないとぶっ倒れるな。
購買にポカリ ガラッ っ〜〜〜!!??」

ひとりごちている俺の目線の先で、突然教室の入り口が開く。そして、

「わっすれものやねん〜♪」
訳のわからん歌(おそらく自作)を機嫌よく口ずさみながら入ってきたのは、
俺にとって最悪の相手、チビ女だった。
チビ女は当然すぐに、ギョッとして固まっている俺を発見する。

「……………」
ガキみたいにキラキラ輝く大きな瞳は、すぐさまスイと細まり、
いつものごとく、虫を見る蔑んだ眼差しへと移り変わった。


終わった……!!


「……………」スタスタスタ

俺の事を息をするようにディスりまくっているこいつの事だ、
こっちの言い分を聞かず、容赦なく『ノゾキ!』とか大声を上げるだろう。
どころか背びれ尾びれを付けまくって、
『口からよだれを撒き散らしながら下半身裸で押し倒そうとしてきた』くらいは証言するに違いない。

「…………あれ?」ガサゴソ

なんでよりにもよってこいつが来るんだよ、畜生!
つうか、お前みたいな幼児体型じゃ勃たねえっつの!なめんな!!
だが東大確実とされてるこいつは教師の間でも特別扱いだし、劣等生の俺じゃあ分が悪すぎる。
まさかとは思うが、た…退学の可能性も……っ!!

「…………やっぱあった」
0185俺に彼女は〜略642013/01/06(日) 00:26:55.63ID:Grpb+HDP
嘘だろマジかよオイッ!?
脳が破裂するほど勉強して入った高校なのに!
スマホまで買ってくれるくらい、おふくろも超喜んでたのに!
何よりせっかく三女さんとの高校ライフを満喫できてたっつーのに!!
ていうか三女さんだよ三女さん!
やべえ、三女さんの可愛さは近隣の高校でも有名なんだ。
それをノゾいたなんてレッテル貼られたら、夜逃げ確定じゃねえか……!

「……………」スタスタスタ

くそう、こんな事ならあの時ちゃんと目に焼き付けときゃ…じゃねえ、ちゃんと名乗り出ときゃよかった。
同じノゾキのレッテル貼られるなら、チビ女のレイプ疑惑より杉崎を助けといた方がマシだったし、
あいつに恩を売っときゃ働き口の紹介くらいは「…っておい!」

身動き取れなかった俺を完全に無視して、スタスタと教室から出ようとしているチビ女の背中へ慌てて声をかける。

「…………なんやねん」
逐一むかつく事に、チビ女は背中向きのまま、めんどくさそうに返事をする。

しかしとりあえず猶予時間は得られたみたいだ。
俺は何とか自分の言い分を通すため、小さな背中へと主張を続ける。

「俺は変な事なんてしてねーからな!
おかしなこと叫んだりすんなよ!!」
「…………叫ぶって、何を?」
「何をって……『ノゾキ!』とか、『チカン!』とか」
「ノゾいとったんか?」
「してねえ!一切何も見てねえ!!」
「やったら、別に何も叫ばんわ」
「そう、だから叫ぶなよ絶対……って、へ?
え、ノゾキ扱いしないのか?」

意外な回答に思わず拍子抜けする。しかし油断は出来ない。
チビ女は相変わらず背中向きで表情は見えないし、声には友好的な雰囲気は全く感じられない。

「なんやねん。ノゾキ魔にして欲しいんか?
お前はアホな上にドMなんか?」
「なわけねーだろ!」
「そしたら呼び止めんなや」
「……いや、まあ、そうなんだが………」
「……………はぁ〜〜…。
あのなぁ、私はちゃんと物を見とんねん。
お前はド低脳やけど、しょーもない事するヤツとちゃうの、わかっとるわ」
「……え?
え…え〜〜っと……?」

え?あれ?
俺、褒められてんの?けなされてんの?

「私、アホと話して時間無駄にすんの、死ぬほど嫌いやねん。
バイバイ」

ガララ ピシャン

「え……。
ええ〜〜〜………???」


だから何なんだよ女ってぇ〜……。
誰か解説してくれよぉ〜……。
0186ガンプラ2013/01/06(日) 00:38:27.34ID:Grpb+HDP
今回はここまで!
やっと終わりが見えました。次回で千葉編は終了です。

ひとはの扱いが、やっぱり難しいです。
前にも書きましたが、そして色んな人に喧嘩を売りますが、

147でバストAAじゃ、絶対もてないって!!

少なくとも寸胴幼児体型じゃ、
いかにルックスが美少女でも無理だと思ったので、
描写に色々頭を捻りました……。
0188名無しさん@ピンキー2013/01/24(木) 12:27:53.34ID:ZpBj2Kib
待機中
ひとはが原作現時点で'友達'と思ってるのはどれくらいなんだろう?
杉ちゃんは確定さっちゃんもまぁ確定と思うが
0190名無しさん@ピンキー2013/01/27(日) 21:09:00.84ID:G9SiB2/F
ひとはは基本、『友達のいない私』に酔ってるので、
意識的には誰も友達とは思ってないというイメージ。
もちろん本音は別として
0192ガンプラ2013/02/09(土) 00:36:58.39ID:DDkixPHG
続きはもう少しお待ちください。

最近スマホに乗り換えたんですが、アプリに80ページ分だけ色んな小説が読める機能があって……。
文章の勉強がてら色んなラノベを読んだり書いたり。

あと、エロい文章を書くのは時間がかかるんです、私。
0193名無しさん@ピンキー2013/02/14(木) 00:23:19.37ID:PxoFGPGZ
文才がある人が羨ましいのう・・・age
0195名無しさん@ピンキー2013/02/25(月) 20:28:01.87ID:d3r0J+7w
shu
0197ガンプラ2013/03/16(土) 20:13:06.90ID:hTgN/EB/
ちょっとずつ書いてるのでもうちょっと待ってね。
0199ガンプラ2013/03/30(土) 21:48:24.98ID:JfssFXf3
もうちょっと推敲の余地はあるような…と、思いつつ。
どうもエロ文は迷走するなぁ。
0200俺に彼女は〜略642013/03/30(土) 21:49:07.70ID:JfssFXf3
「んっ……。
入っ…た……」
小鳥が詠うように、けれど確かな艶と熱を乗せて細い喉が言葉を紡ぐ。

「あ…うあぁ……。
は、い……」

『生きた美術品』とまで囃される可憐な裸体が、俺の前に在る。
品良く尖った顎から流麗な曲線によって繋がれた、握りこめるほど細い肩。
続く薄っすらと肉付いたおっぱいは、確かにささやかではあるけれど女の子を強く意識させる曲線を描き、
その僅かな丘陵の頂点には、ピュアピンクの蕾がぷっくり勃ち上がっている。
わずかに透けた肋骨と筋が、可愛いおヘソを中心にして細長い菱形を描き、独特の艶かさを放って俺の脳髄を揺さぶる。
極上の絹を更に超えて滑らかな肌は、柔らかでありながら引き締まったくびれを形成し、
やがて瑞々しさの中に硬さを感じさせる腰骨、そしてひっそりと茂った、髪と同じ宵闇色の柔毛へと収束してゆく……。

「入って、ます……」
クラクラする。
頭に血が上りすぎて、目の中で奇妙な光まで瞬き始めた。

妖精か精霊かと幻視するほど芸術的な身体のラインが収束した終点では、
茂みに透けてシンプルな縦線がひとスジ通って終わる……本来だったら。
だけど今。
視線の先では、つつましやかな女性器が痛々しいくらいめいっぱいに広がって、
脈打つ俺のモノを半ば以上受け入れてくれている。
あまりにもサイズが違いすぎるんだろう。
粘膜が伸ばされきって、これも本来なら姿を見せないはずの、米粒のようなクリトリスまで露出してしまっている。

そう。
三女さんが俺の腰に跨り、俺とセックスをしている。

「入ってますね……」
もう一度、カラカラになった喉を必死で絞りながら、夢のような光景を口にする。

儚く清らか、過ぎるくらいに可憐で性的な事を一切想像させない麗しの髪長姫が、俺と繋がっている。信じられない。
実際、腰で受け止めている相手の体重はあまりに軽すぎて現実感が希薄だ。骨や内臓がちゃんと入っているんだろうか?
茫然と手を動かし、仄かに桜色に染まったお腹に触れてみる。
0201俺に彼女は〜略652013/03/30(土) 21:49:51.12ID:JfssFXf3
「ん…やっ…。
手、ちょっと冷たいよ」
「すっ…スンマセン!」
口では謝罪を述べながらも、手は柔らかな温塊から離せない。女の子ってなんて気持ちいい手触りなんだろう。
うっすらと脂の乗った瑞々しい絹肌は汗でしっとりと濡れて手のひらに吸い付いつくようで、
軽く触れているだけでも感動的なまでのさわり心地が俺を満たす。
手触りだけじゃない。何もかもが心地いい。
花開いたように色づいた肌身は玉の汗が浮かんで煌きを放ち、ほのかに甘い汗の匂いを醸し出している。
何よりも、剛直を包んでくれているみっしりとした肉感と温もりがたまらない。

「ん、はぁ…。
おっきぃ……」
三女さんは柳眉を軽く寄せ、スッと整った鼻梁から深く甘い息を漏らす。
俺の腰に乗っているっていうのにまだ頭頂が目にできるほど小さな身体は、見た目通り凄まじい狭さだ。
だけど締め付ける肉壁は温かくぬめっていて、複雑な絡みつきで純粋に快感だけを生成してくれる。
特に最高なのが亀頭部分。三女さんの奥は小さな粒々がびっしり敷き詰められていて、
軽く身じろぎしただけで傘の開いたカリ裏がゾリゾリと擦られて、鳥肌が立つほど気持ちいい。
ひょっとしたら三女さんのアソコは、噂に聞く『カズノコ天井』なのかも知れない。何から何まで特別製な人だ。
更には先端に押し付けられているコリっとした感触もアクセントになって、
ただ挿入しているだけだっていうのにもう達してしまいそうだ。

……でも、こうなるとやっぱり入りきってない根元部分がちょっと寂しいな……。

俺は底なしに湧き上がってくる欲望に従い、腰に力を込めて挿入を深めた。
が、肉棒は一切進まず、代わりに亀頭が歪むほどに柔硬い奥壁へ押し当たっただけだった。
ツルツルして温かい軟骨のような感触が鈴口にめり込むのは、予想とは違ったが格別の気持ちよさで、
自然と「はふぅ」と切ない鼻息がもれ出た。

「かぅっ!
くはっ……!?」
同時に、三女さんが目を見開き魚のように口をパクパクさせて大きく喘ぐ。

「えっ!?
すっ…スンマセン!大丈夫ですか!?」
「くふっ…。
ちば…くんっ、そこッ!
はっ…ふぅ……っ、はあ……」
三女さんは面積の小さい額を俺の喉下に当て、乱れた息を整えようとする。
はあはあと荒い呼吸を付くたび膣道がキュウッと締まってこちらも喘ぎそうになるが、ただ事ではない空気を読んで何とか押え付ける。

「…ぅ……ぱい…なの」
「え?」
問い直した俺へ、濡れた虹色の瞳と官能が見え隠れする切ない貌が向けられる。
白い爪が大粒の汗の浮かんだ背中にわずかに食い込んだ。

「もう、私の中は満杯なの」
「え…満杯ってどういうことっスか?」
「……千葉くんの先っちょ、当たってるでしょ……」
「あ、はい。
なんかすごいコリコリしたのが、ぎゅっと当たってます」
「それ……」
三女さんは一旦言葉を切る。
美貌は真っ赤に染まり迷うように瞳が揺れるが、やがて決心したかのように強い眼差しで答えを告げる。

「それ、私の赤ちゃん作るところ」

…………………!!?
たっぷり時間をかけてその意味するところに辿り着いた瞬間、完全に停止する。
さっきからずっと、亀頭が歪むくらい力いっぱい押し当たっている硬さ。
それは三女さんの…女の子の最も大切な場所、子宮だった。
0202俺に彼女は〜略662013/03/30(土) 21:51:21.22ID:JfssFXf3
「うっ…うわっ!?」
これまで想像もしたことのない神秘の器官にまともに触れているという衝撃で、激しくうろたえてしまう。
凄すぎるっていうか、浅すぎるっていうか、だって俺のモノはかなり余ってるっていうのにっ。
女の子のお胎ってこんな簡単に触れられるものなのか?こんなに密着した状態で射精したら……っ。
浮かんで来た想像によって雄の本能を直接刺激されて、海綿体に血液が更にどくんと送り込まれる。
根源から湧き上る満足感と充足感で鼻血も出そうだ。
ぐるぐるする頭をなんとか落ち着けたくて、縋るように視線を正面に座した相手へと向ける。

「ごめんね……」
辿り着いた先で突然、美しい顔と声に悲しみの影が差した。

「え……?
そ…そんな、どうして…」
目のあたりにした俺の胸は、押し潰されたかのように痛み、悲鳴を上げる。

いったい何を謝ってるんだろう?むしろ謝る必要があるのはこっちだ。
三女さんは小さな身体に明らかな負担をかけてまで俺を受け入れてくれてるっていうのに、
心配よりも身勝手な気持ちよさを優先させてばっかりで……。

「全部入れてあげるの無理で……。
小さくて……。何もかも小さくて、ごめん」
小鈴のような寂しい音色は、所在無く空間へと消え入る。
長いまつ毛に乗って輝く涙の珠は、不謹慎だけれど目を奪われるほど綺麗だった。
けれど今は見ほれている暇なんて無い。一刻も早くこの想いを伝えなくては。

「そんなっ。
ちがっ…俺が、俺こそマジですんませ……っ、こんな、これ、俺はありが……っ!」
自分の馬鹿さが今ほど悔しい事は無い。
こんなときにまで言葉を見つけられず上手くカタチにできないなんて、情けないにも程が有る。
せっかく大好きな女の子が精一杯、文字通り身体中で想いを伝えようと……そうだ。
後悔も苦悩も今は必要ない。今の自分ができる精一杯で伝えるんだ。
俺は決意と共に両腕で、か細い身体を抱き寄せて包み込むように抱き締める。折ってしまわないよう細心の注意を払いながら。
手の甲にかかった黒髪がサラサラと気持ちいい。

「あっ……」
右の耳元で、また鈴が鳴る。
相対して俺の口へと近づいてきた形の整った耳へ、自分の心の全てを届ける。

長い間裡に溜めてきた万感の想いを、全て。

「好きです!」
「………っ」
腕の中の温もりがピクリとふるえる。
伝えたい気持ちが逃げてしまわないよう全身で抱擁し、何度も何度も届ける。

「好きです。好きです。好きです。好きです。
大好きです。ずっと好きでした。好きです!好きです!大好きです!!」
「ち…ば、くん……」
想いへの応えとして白く細い腕が俺の背に回り、ゆっくりと力が込められる。
はじけそうなくらい瑞々しい肌が一層に密着して、身体の全部が心地いい。
『心』はもっと。

そして三女さんは軽くあごを上げて愛らしい唇を俺の耳元へ寄せ、天使の囁きのように―――
0203俺に彼女は〜略672013/03/30(土) 21:52:00.57ID:JfssFXf3
「変態」

「すきで……へぇっ!?」
すぐ耳元で、しかも透き通るような声で伝えられた言葉はあまりにも辛辣で、
状況と行為にそぐわない頓狂な悲鳴を上げてしまった。
へんた……え?あれ?俺今、『好きです』って言えたよな?
かっこ良くはできなかったけど、それでも精一杯の気持ちを込めてはっきり言えた…はずだったよな?
身に受けてる悦楽との落差で激しく混乱している俺を他所に、三女さんは確認するようにもう一度唇を動かす。

「変態」

…やはりさっきのは聞き間違いじゃなかったようだ。

「へ…変態って。
そんな、なんで、だって俺、マジで…うひゃい!」
真意を確かめるため身体を離そうとした瞬間、三女さんに一層の力で抱きつかれ、身動きが取れなくなる。
……腕の方は全然弱いんだが、アレがすげぇ。キュキュッと搾り取るように締まって、危うくイきかけた。

三女さんの中は入れているだけでも蕩けそうなくらいに気持ち良くて、ピストン運動の必要が無い程だ。
規格が違うとまで思える狭い肉道はただでさえ締め付けが強烈だというのに、
シャフトの半ば…秘裂の入り口部は特に凄まじくて、鈍痛すら感じるくらいに柔肉が食いついてくる。
亀頭はぷちぷちとした粒いっぱいの天井でぐるりと隙間なく包み込まれ、
蠕動によってカリ首が弾くように何度も何度も責め立てられる。
そして先端を圧迫する子宮のコリコリが堪らないくらい本能へ訴えかけてきて、あまりの快感で目から星が飛び散りそうだ。

「んっ……ほらぁ、変態。
本当は貧乳のチビ女になんか興味ないくせに、気持ち良いから全部どうでもよくなっちゃう。
イきたくて堪らないから、とりあえず好きって言っちゃう。
千葉くんが好きなのは私じゃなくて、キツキツ穴なんだよね。
キモチイイお肉の穴があるから、骨ばったチビでも好きって言っちゃうんだよね。
タテスジのロリマンに釣られておっぱいもお尻も捨てちゃう最低のロリコンド変態だね。
今すぐ死んだ方が地球のためだよ」
ふう〜っと熱い吐息と一緒に耳へ吹きかけられた言葉は、透明感のある音質なのに鋭い切れ味を持っていて、
硝子の剣を思わせる。
神経を削り取るような一閃を無防備に受けたせいで、背がブルッと震える。
その身じろぎだけで、亀頭がゾリゾリコリコリと眩暈がするくらい気持ちいい。

でも今ここで終わってしまうわけには行かない。

「くっ…ちがっ…うっス!三女さん、俺はほんと「ほぅら、子宮コリコリ〜」 ぐあっ!!」

三女さんが垂直に体重を掛けながら、円を描くようにねっとりと腰を振ったことで、
柔硬の子宮が鈴口を広げるほどの高圧で押し付けられる。
最も弱い尿道粘膜を卑猥な動きで擦り上げられて、甘い悦楽が背筋を駆け上り、今にも堰が瓦解しそうになる。
これじゃあ反論するどころじゃない。
俺はまぶたと奥歯をがっちり閉じ拳を握り締めて、射精を押し留めるのに集中する。

「ん…ふくっ……。
ほぅら、コリコリ、コリコリッ。
知ってるんだよ、私ってカズノコ天井で肉巾着で男の子には最高なんだよね。
ほら、ガマンしないでいいよ。早くびゅーびゅーってイって」
「ぐっ…ううぅ……!」
0204俺に彼女は〜略682013/03/30(土) 21:52:51.08ID:JfssFXf3
細い腰が揺れるたび、狭肉リングでシャフトを捻られながら無数のヒダによって締め付けシゴかれる。
奥のザラつきが裏スジを執拗なくらいに擦り立て、俺の意思を削り取っていく。
そして鈴口と口付けしてるのが確信できるくらいはっきり感じられる、極小の子宮口。
この灼けるような四重攻めの中で射精すれば、天にも昇るほど気持ちいいに違いない。
むしろこのまま我慢なんてしていたら狂ってしまうかもしれない。
それでもダメなんだ。ここで終わるわけにはいかないんだ。

「んっ、んっ、あんっ…んぅ…」
「ぐっ…く、ぐうぅ…っ!」
怒涛のように迫る快楽を、歯を食いしばって耐える。耐える。耐える。
ただ美しさだけ追求して編まれた硝子細工のような身体は、腕の中に在るからこそその細さと軽さを直接的に感じられて、
見た目以上に致命的に脆いものであるのだと突きつけられる。
こんなの、俺の野太い腕じゃあ力を込めたら簡単に壊してしまう。自信もって答えられる。
だから押え付ける事も突き放す事もできない。どんなに激しい悦楽の拷問を受けても、ひたすら耐え続けるしかない。
ギリッと食いしばった奥歯が軋む音が耳の奥で木霊する。…奥歯なんて折れてもいい。この想いを折るわけにはいかないんだ!

「なん…で、我慢…んっ。
ふうっ、はぁ〜〜…」
自身も刺激を受けていたためだろう、三女さんは裡に溜まった感覚を鎮めるように深く息をついた。
あわせて我が身を苛んでいた責めも一時停まる。今しかない。俺は両腕に少しだけ力を込める。
相手を縛り付けるためじゃなく、想いの熱を少しでも沢山伝えるために。

「やめてください……っ!」
「………女の子より先にイっちゃうの、恥ずかしい?
いいよ。ロリコンで早漏でも私は気にしないから。
こんな身体の私を好きって言ってくれるなら、私はなんだって……」
「やめてください、そんなふうに自分を傷つけるのは!」
「………何言ってるの。
千葉くんの方こそ痛い人だよ。おちんちん入れてるオナホに告白してるのと同じなんだよ?」
「嘘つかないで下さい。怖がらないで下さい」
自分の右肩に寄せられた小さな頭を抱え込むように抱き、回した左手で彼女の頬に触れる。
ふっくらと柔らかなほっぺの感触が手のひらに返ってくる。
抱き合っているから表情は見えない。見えたとしても、いつも人形のように澄ましているこの子の心はきっと目じゃわからない。
でもさ、目に映らなくったってわかるんだ。

「大丈夫ですよ、三女さん。
お願いです。怖がらないで」
「………」
小さく震える彼女を安心させるため、精一杯優しく声をかけ、流れる黒髪を梳くように頭を撫でる。
何度も何度も、温もりを塗り込むようにくり返す。この子の凍えが治まるようにと。

「綺麗です、世界中の誰よりも。『姫』も『妖精』も、冗談とかからかいじゃあないんです。
三女さんが本当に信じられないくらい綺麗で、だからみんな心から三女さんをそう呼ぶんです。
みんな三女さんの事が好きなんです。信じてください」
「……そんなの…」
「信じてください。
俺、バカだから全然上手く言えなくて、それしか言葉が見つけられないけど。
でも、だから信じてもらえるまで何度でも言います。
好きです」
くり返す。静かにゆっくりと……。
0205俺に彼女は〜略692013/03/30(土) 21:53:37.87ID:JfssFXf3
だってこんなに綺麗な微笑は、神様が美しい芸術を造り上げようって思わないと生まれない。
虹を閉じ込めた瞳は薄っすらと潤んで光を反射し、まるで千の星が瞬いているみたいだ。
瞼の上で静かに震える長い睫毛が麗しさと共に儚さを表現し、。
上気した薔薇色の頬と艶やかな美唇はきめ細やかな雪肌に鮮やかな彩を与えている。
絶世の美少女。
自分が立っている世界とは明らかに隔絶した美しさが、だけど温もりと一緒に繋がってくれている。
恵みに満ちた、咲き誇るような微笑を俺に向けてくれている。
こんなに幸せな事ってない。

「千葉くん……」
煌く唇が滑らかに動いた後、静かに差し出される。瞼がゆっくりと落とされ触れ合う瞬間を待つ。
もう言葉は要らない。
俺は首を落として自分の唇を近づけ、重ねた。

「ん………」
三女さんの唇はゼリーのように瑞々しくて柔らかい。
ただ触れているだけなのに蕩けそうなくらい気持ちいい口付け。
心が通じ合った喜びで細胞の全部が快哉を叫び震える。

「んはっ……?」
唇を割ってぬるりと舌が潜り込んできたことに驚いて、息が漏れる。
唾液にまみれた侵入者は、すぐに舌へ絡みついてきた。
その感触は信じられないほどに柔らかく、軟体動物のようにとらえどころが無い。
それでいて確かな意志でヌルヌルと巻きついてくる。

「ん…ふぅっ……」
「んぐっ…。こくっ……」
小さな口腔から唾液が送り込まれてくる。さらりとした口内分泌は、不思議と甘い味がした。
まろやかで、クリーミーで、さながら上質の蜂蜜のようだ。俺はすぐに夢中になって、口いっぱいで味わい嚥下していく。
うわあっ…なんて美味いんだ……。
想像を超えたディープキスの世界にまどろむ。お互いの粘膜が擦れあうたび、頭の中がゆるゆるとほどけて行く。
甘露は飲めば飲むほどにまた欲しくなり、飲み込むほどに熱が生まれる。
想いを伝えきった満足感と幸福感で、ひとたび追いやっていた欲望がまたムクムクと頭を持ち上げてきた。

「――んっ。
…ふふふっ……。気持いいんだ?」
悪戯っぽさを含んだ微笑は、さっきのものとは違う魅力に満ち溢れていて、また俺の心臓が跳ねる。
気恥ずかしさと申し訳なさとが合わさって、とてもじゃないけど直視できない。
目を逸らせ「ダメだよ」ようとした瞬間、膣内がうねって硬直したままだった肉棒を絞り上げた。

「うあっ」
「気持いいんだよね?」
「いやっ、それはその…………はい……。
むちゃくちゃきもちいい……です」
顔が熱い。恥ずかしすぎる。穴があったら今すぐ入りたい。いやすでに入ってるんだけど。って上手い事言ってる場合かよ!
追い詰められた思考が逃げ道を探して跳ね回り、こんがらがる。ここまで来てまだ、あたふたと情けないばかりだ。
なのにそんな俺の無様な姿を見て、三女さんはむふぅっと熱の篭った息を吐き出した。

「私もすごく気持ちいいよ。
ねえ、ちゃんとしよう。一緒に気持ちよくなろう」
三女さんは抱きついていた腕を解き、ゆっくりと華奢な上半身を後ろに倒した。
シーツよりなお白く清らかな肢体が、再び俺の目に晒される。
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