みつどもえでエロパロ 8卵生
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0053名無しさん@ピンキー2012/07/29(日) 15:31:17.21ID:BqHVvVwf
読んでくださった皆様ありがとうございます。
>>50
誰が発言者か書かなくてもセリフで何となく分かるようにすることを狙ってたので、そう言って頂けるとありがたいです。
>>51
本当は吉岡さんに言わせようとも思ったんですが、「三女さん矢部っちのこと好きなの!?」
みたいなややこしい方向に行きそうだったので「誰も言わなかったことをあえて言う」ことに定評のある
宮内さんにバトンタッチしました。

現在次なる矢部ひとSS(※非エロ)を執筆中です、期待せずにお待ちください。。。
0055名無しさん@ピンキー2012/08/07(火) 19:42:07.77ID:AjGNB/6w
変わると思う
……だとすると2話入れてくるか、もしくは1話が長くなるのかもしれない
後者だと今のテンポが好きな人にとっては問題だよね

まぁ、考えても仕方がないし移籍してからのお楽しみだ
0056 ◆rzjiCkE13s 2012/08/11(土) 02:12:53.54ID:jo5ALY+s

「…お風呂、湧いたよ」

「あっ、…ひと!」
小生は事故にあって、腰から下が動かなくなってしまったっス。
足の代わりに、車椅子を使ってるっス。ひとやみっちゃんが色々と小生のお世話をしてくれて、とても助かるッス。

「大丈夫ッス!服はほら、自分でぬげるから……」
「……ちょ…何もここで全部脱がなくても…」
「ほら、ひと!一緒に入ろ!わあ!」
「………………また洗濯機にぶつけた…………昨日直したのに…………」
「ごめんね!ひと…小生、車椅子でどこでも行けるのが嬉しいから、つい車輪をブンブン回してしまうッス……」
「……また直すから……今度は気をつけてね……ほら、あの手すり持って…」
「んしょ!」
「持ち上げるよ!?せえの!」
「へいやっ!」
「えっ、…ええ……身体…流してから湯船入ってよ……」
「大丈夫、大丈夫!ほら?ひともお風呂入ろ!」
0057 ◆rzjiCkE13s 2012/08/14(火) 16:48:54.34ID:v0IeRm2k

「ひとー、小生の足さわって!ほら、ペシペシって!」

「……………」

「うーん…感じるような感じないような…」

「…じゃあ、ふたばが目をつぶって…私が叩いたら、手を上げて…」

「わかったッス!はい、いつでもバッチリッス!あ!ひと今触った!」

「……わかるんだね」

「本当だ!…でも、自分ではまだ動かないなあ…!」

「…多分、骨を通して振動が身体の上まで伝わってるんだと思う」

「ふうん、さすがひと!えへへ…ひと!大好きだよ!」

「わあ…っ…!もう…よくそんなに機敏に動けるね…」

「こんなの余裕ッス!小生パラリンピックに出て、金メダル取るッスよ!」
0058 ◆rzjiCkE13s 2012/08/14(火) 16:51:22.84ID:v0IeRm2k

基本思いつきで書いてるので、続きはないです
0059名無しさん@ピンキー2012/08/14(火) 18:35:58.62ID:Ul5Rqjfj
いやいやここからキマシタイムがはじまるんじゃないんですの?
0061 ◆rzjiCkE13s 2012/08/15(水) 00:58:24.63ID:KW1ixM8z

「えと、……え?何やってるの…?」

「こうやって、…んしょ!バスタオル敷いて、ほら!ゴロゴロ〜〜…
ね!からだ拭けるでしょ!」

「…そんなことしなくても…私が拭いてあげるのに…」

「大丈夫!ひとに、迷惑かけたくないから…!…ほら、服も着れた!」

「………じゃあ、髪乾かしてあげる」

「お願いするッス!」

「…終わったよ。手を上げて…よい…しょ…う………」

「ひと、大丈夫?小生、重いから…あ!ひと、あれ取って!あれ持ったら1人で車椅子に戻れるッス!」

「ちょ!何してんのよあんたたち…!ち、ちょっと、足、の、踏み、場、が…」

「ちょっと!みっちゃん、手伝ってよ!ふたばを車椅子に乗せるの、1人じゃ大変なんだから…!」

「大丈夫ッス!あの、箱があったら……みっちゃんは早くお風呂入らないと、虫が寄ってくるッスよ!」

「失礼ね!」

「ええ……結局、手伝ってくれなかった……」

「ひと、ドライヤー貸して!小生が髪乾かしてあげるッス!」

「いや、もうこっちはいいから……」



最後は普通に、パパが運んでくれたのでした。
0062名無しさん@ピンキー2012/08/24(金) 23:52:11.99ID:tjPtNlld
週間連載終了記念あげ
0063 ◆rzjiCkE13s 2012/08/27(月) 21:02:56.58ID:d7haWCoV

「…ちょっと、みんな、もうすぐ家出る時間だってばあ…!!ちょっ、ほら、みっちゃん、ドーナツ…、よし起きた、もう行く時間だからね!」

「ひとー!おはよう!」

「あー…おはよう…ふたばは、ちょっと待って!」

「ひと!小生もう着替え終わったッス!朝ごはん食べとくねー!」

「ええっ、…なんで匍匐前進であんなに…」

「ちょっと!私のドーナツ何であんたが食べんのよ!私のドーナツ!!」

「…うるさいなあ…早く起きて、顔洗って、ご飯食べて、学校に行く準備してよ…」

「ちょっとあんた、私を引っ張って起こしてくれる?このワンアクションが、一日で一番エネルギーを使うのよ!」

「………………もう…………ほんの少しくらい、ふたばを見習ってよ………
ふたばは足が全然動かないのに………自分で起きて、自分で着替えて、自分で動いてるじゃない………
………五体満足なみっちゃんは………布団から起きることさえできないの…………?手も足も、全部ちゃんと動けるのに……!ふたばと違って、自由に身体が動けるのに……………!!」
0067あふたー184卵生:杉崎家からの帰り道/小ネタ2012/08/28(火) 22:22:49.72ID:xVcOcB2c
「そっか、ひとはちゃんは胸が小さいことを気にしてたんだね」「まだ小6だし、気にしなくていいと思うけどなぁ」
「先生に何が分かるんですか、…気にしますよ…」

巨乳好きの先生にとって、少しでも魅力的な女の子になりたい。
…なんて、言えるわけ無い…

「どうして?まだこれから大きくなるかもしれないのに」
「……教え子の胸の話をするなんて、先生は変態です」
「ひどいなぁ、もう…」

『これから』って、中学、高校と上がっていくうちに、ですよね。それじゃ遅いんです。
私が小学校を卒業したら、先生と会う機会は確実に減ってしまう。
それまでに……先生に振り向いて欲しいから……

「ひとはちゃんは、そのままでもじゅうぶん魅力的じゃないかな?」
「…!?」

「いつも家で頑張ってるから家事はお手の物だし、小動物の面倒をしっかり見られる世話好きだし、ついでに頭もいいし」
「だから、胸の大きさなんて気にしなくても、ありのままのひとはちゃんを好きになってくれる男の子が、きっと見つかると思うよ」

「……」

先生……

「先生は…」
「…ん?」
「…先生は、胸の小さな女性に告白されたらどうしますか!?」

…何聞いてるの、私…

「えっ…そ、そうだなぁ」「やっぱり、胸の大きさよりも」
「その女の人が本当に僕のことを思ってくれてて、僕もその人を幸せにしてあげたい、って心から思える相手なら、誰でもいいよ」

「……」

「なんてね…僕そんな事いえる立場じゃないんだけど…はぁ……」

「…先生にも、先生のアレが小学4年生(※)でも気にしない、って言ってくれる女性が見つかるといいですね」(※2卵生)

「大きなお世話だよ!」

「何言ってるんですか、先生のは小さいでしょう」

「ひとはちゃんひどい!!」

アレが小学4年生でも気にしない女性なら、…ありのままの先生を好きになった女性なら、ここにいるんですけどね。

おわり
0068492012/08/28(火) 22:24:25.06ID:xVcOcB2c
ネタ被りとかしてたらごめんなさい
これとは別のやつを今書いてるので、仕上がったらまた来るかもしれません
0069名無しさん@ピンキー2012/08/28(火) 23:46:47.39ID:1o6SYmN/
待ってるッス
それまで車椅子もっとうまく乗れるように特訓しておくッス
0072 ◆rzjiCkE13s 2012/08/31(金) 00:39:18.41ID:CByEFCcv

「あー!しんちゃん、おはよう!」

「あー、…ふたば。おはよう。ちょっと止まれよ。押してやるから」

「大丈夫ッス!しんちゃんに迷惑かけなくても、小生は一人で動けるッス!」

「うわっ、おい…お前、そんなに動いて、昼休みのドッジボールまで体力もつのかよ…」

「あ!そうだった!ドッジボールのこと忘れてた!えへ、じゃあ、しんちゃんに車椅子押してもらうッス!」

「おう…そういえばふたば、ふたばは今、身体どこまで動くんだ?」

「腰から上は全部動くッス!ほら!全然普通に動くッスよ!」

「足は全く動かないのか?」

「…、…全然動かないなあ…」

「お前、学校でトイレ行きたくなったらどうするんだよ。そんなんじゃしゃがめないだろ」

「職員室の横に車椅子用のトイレがあるよ!小生ひとりで入れるッス!こうやって、こう、車椅子から降りてね!」

「ふたば…大変だな…こんな身体になってしまってな…」

「ごめんね…しんちゃんに心配かけちゃって…しんちゃんは優しいね!小生はしんちゃんのこと、大好きだよ!」

「お、お…………………」
0073名無しさん@ピンキー2012/09/07(金) 22:44:52.09ID:XLpEfm4e
最近忙しすぎて全然SS書く間がないですあげ
0074 ◆rzjiCkE13s 2012/09/08(土) 20:15:21.36ID:Kouqmzkj

「ただいまー」

「ちょっと、右の車輪どうしたのよ!?ぐにゃぐにゃじゃない!」

「…堤防の階段を降りようと思ったら、転がり落ちてしまったッス…!」

「…怪我はすぐ治ったんだろうけど……どうすんの車椅子……」

「なんでもう少し奥のスロープを使わなかったのよ!階段を車椅子で降りられるわけないでしょ」

「しんちゃんのチーム、フォワードが押されてたから…早く小生が援護に回ろうと思ったッス」

「…とりあえず、ホイールなんとかしないと、動かないよこれ…そもそもどうやって帰ってきたの…」
0075ガンプラ2012/09/09(日) 09:42:43.37ID:N9tPN5E3
横から失礼いたします。

小学生話はもう書かないつもりだったのですが、コミックスを読んでいたら小ネタを書きたくなりました。

これでも5〜6時間くらい消費するんですよねぇ。

スピッツの『マフラーマン』より。
0076マフラーガール12012/09/09(日) 09:43:43.19ID:N9tPN5E3
恋する乙女は女子力100倍だよ!

「三女さん、今度はマフラー編んでるの?」
「…………」
私の問いかけに、大人しい友達はただコクンと首を縦に動かしただけで、また手元の作業に没頭し始めた。

いつの間にか恒例になった三女さん達の家での勉強会。
今日も大きなコタツの上で私と宮ちゃん、杉ちゃん、みっちゃんがカリカリとシャーペンを走らせている中で、
一抜けした三女さんはいそいそと水色の毛糸を取り出し作業に取り掛かり始めた。
……まあ、本当の一抜けは最初の1分でグーグー寝息を立て始めたふたばちゃんなんだけど。
でもコタツの魔力の前では、仕方ない事かなぁ。
窓の外は木枯しさんがひっきりなしに駆け抜けているのに、腰から下はポカポカ別世界で私も幸せすぎて蕩けちゃいそうだよ。
やっぱりコタツはいいなぁ。うちはママがリビングのコーデと合わないからって、置いてくれないんだよね。
う〜ん……ママの言う事もわかるけど、生活は生活として……でも似合わないのも確かだし、悩むなぁ。

「その毛糸、初めて見る色だよな。
三女たちは普段使わない色っていうか……矢部っちあたりは好きそうだけど」
「……………………先生用のマフラーだからね」
「えええええええ!??
それってどういう事!?やっぱり三女さんは矢部っちと!?
あっ…クリスマスプレゼントだね!!凄い!ステキ!
輝くツリーの前で頬を染めながら手渡す三女さん!
そしてさっそく首に巻く矢部っち!
『うわあ、凄く暖かいよ!』
『大げさですよ』
『ほんとだって。ほら、ひとはちゃんも一緒に巻こうよ』
『えっ……』
そして近づき、重なるふたりのシルエット!
きゃーーーーーーーーー!!」

 「え〜っと、横が6cm、縦が2cm、高さが5cmだから……」
 「みつばって相変わらず算数苦手よねぇ。ほらっ、まずは縦と横で面積を出すのよ」
 「うっさいわね、わかってるわよ。これからやろうとしてたところなんだから」
 「杉崎、こっちの変な形のブロックはどうやって体積を出すんだ?」

「……………はぁ〜……。やっぱりこうなっちゃったか。時間が無いから仕方なかったとは言え……。
はぁ〜〜」
と、三女さんは眉を寄せて重いため息をつく。
歳の差がある上、教師と生徒の禁断の恋なわけだからいろいろ辛いのはわかるけど、
三女さんはもうちょっと柔らかい表情を意識した方がいいと思うんだよね。
せっかく髪も肌も綺麗で、目も鼻も口も耳も整ってるんだから、
もっとこう……自然な感じの表情になったらすっごく可愛いと思うんだけどなぁ。
0077マフラーガール22012/09/09(日) 09:44:17.48ID:N9tPN5E3
「これは、あのガチレッドフィギュアとの交換のためにしょうがなく、嫌々編んでるものだよ」
三女さんがその細いアゴで示した先――古い型のテレビの上には、マトリョーシカ(誰がどこで買ってきたの?)と一緒に、
5色のスーツが勢ぞろいしてポーズを決めていた。

「矢部っち、先にクリスマスプレゼントを渡しちゃったんだ。
んも〜、ムードわかってないなぁ。ツリーの前で渡さなきゃ!
それに女の子にヒーローフィギュアなんて……あっ、でも恋人が喜ぶものなわけだから、これはこれで正解なのかな」
「あくまでその設定で行くんだね。予想はしてたけど」
「交換って、別にそんなのしなくていいじゃん。
どうせ矢部っちのことだから、ガチャの人形なんて全種余るくらい買ってたんだろ?」
「宮代さんにしては見事な推理だね。ご名答だよ。
……先生はくれるって言ったけど、あの先生に借りをつくったりなんかしたらそれこそ丸井家末代までの恥だから、
マフラーと交換にすることにしたんだよ」
「またまたぁ〜!照れ隠しなんてしなくていいから!
それにしても彼に手編みのマフラーなんて、王道中の王道だよね〜!」
「……確かに三女は女子力高いわよね、実際。
宮下、あんたちょっとは見習いなさい」
「そう言うお前は編めんのかよ。
だいたいさ、あたしがマフラーって、キャラ違うだろ。
想像してみろよ。教室の隅でピンクのマフラーをいそいそと編んでるあたしを。どう思う?」

「「キモい」」
即答を返したのは杉ちゃんだけでなく、さっきまで算数のプリントにうんうん唸っていたみっちゃんまで加わっていた。

「おい!そこまで酷くないだろ!」
「うわ寒気した。みつば、コタツの温度上げて」
「MAXにするわ」
「コラァ!
吉岡からも言ってやってくれよ!」
「えっ、えっ、えっ……」

頬を染めながら編み棒を動かす宮ちゃん………。

「うん、一生のうちで1回くらいは見てみたいって思うかな。怖いもの見たさっていうか……」
「「ぶふっ」」
急いで返した回答に、即答してくれたのはまたも杉ちゃんとみっちゃんだった。
肝心の宮ちゃんは目にうっすら涙を溜めて、窓の外を向いちゃってる。

「え?あれ?私変な事言っちゃった?」
「…………宮城さんはどうでもいいとして、とにかく私はしょうがなく編んでるんだよ。
先生の手に渡るものに手間をかけるのなんて悔しいから、編み方も可能な限り適当だよ」
ほら、と差し出された水色のマフラーは編み目がばらばらだった。
三女さんの作品はいつもきっちり目が揃って飾り編みまで取り入れられていて、
売り物と大差ないくらいのクオリティなのに、これは明らかに手作り感が丸出しで、
作者の言葉通りの気持ちがそのまま現れてるみたいだ。

「それやたら編むの早いと思ってたら、手ぇ抜いてたのね」
「本来ならこんな不出来な作品は私のプライドが許さないんだけど、
今回は先生にマトモな物を渡してなるものかっていうプライドの方が勝ったよ」
「そ…そうなんだ………」

ある意味すごいこだわりだなぁ。




0078マフラーガール32012/09/09(日) 09:45:08.27ID:N9tPN5E3
「はい先生。約束のブツです」

おはようの挨拶が飛び交う朝の教室で、
三女さんが矢部っち用の机に近づいて行き、ポイッと無造作にマフラーを放り投げた。
表情からも声からも動作からも、恋のオーラはまるで見えない。
どころか一切の感情が見えない。
もうずいぶん慣れてきたけど、その姿はやっぱりちょっと怖い。
無表情が作り物みたいな顔立ちをさらに加速させて、周りの景色とそぐわないギクシャクした画になっちゃうんだよね。

「わあっ!ありがとうひとはちゃん!
嬉しいなぁ〜〜!」
目の前にある静かな画とはまるで正反対に、矢部っちが明るい声と全身を使った身振りで喜びを表現する。
これもいつもの事だけど、まるっきり空回りしていて痛々しい。
こういう空気の読めなさが、いつまで経っても春が来ない最大の理由なんだろうな。

「すごく良くできてるね。それに暖かそうだ。
さすがひとはちゃんの作ったマフラーだなぁ」
「良くできてますか?」
「うん!お店で売ってるのよりも綺麗だよ!」
「はっ……」
会話によって、今日初めて人形の顔に『表情』が浮かぶ。
まるっきり目の前の相手を小ばかにした、嘲笑の表情が……。

「な…何……?」
「ああいえ、先生の目の節穴ぶりが見事すぎて思わず笑いが漏れてしまいました」
「え…あ……え〜っと……?」
何のことだか全然わかんないって顔で、矢部っちが目が泳ぐ。
情けないことこの上ないけど、とりあえず目を向けた天井で次の言葉が見つかったみたいだ。
矢部っちは明るさを取り戻し、三女さんへ向き直った。

「な…なんにせよ、手作りマフラーなんて人生初だよ。本当にありがとう、ひとはちゃん」
「はっ……」
そして嘲笑、リテイク。

「……今度はなに?」
「いえいえ。
人生初の手編みの贈り物が小学生の教え子からなんて、実に先生らしくて哀れで笑えました。
そもそも生徒からこんなふうにあっさり物を受け取るなんて、教師としての自覚ゼロですね。
教育委員会に知れたら怒られるだけじゃ済まないかもしれないのに」
「えっ、あそっか。しまっ……。
ひ…ひとはちゃんこのマフラーすごく嬉しいんだけどやっぱ「返却は不可ですから」

今日もまた、慌てた言葉は金属音のような冷たい声でばっさり切り捨てられてしまう。
0079ガンプラ2012/09/09(日) 09:46:14.50ID:N9tPN5E3
「ガチレッドを返す気はありませんし、先生に借りをつくるなんてまっぴらごめんです。
まあそのマフラーはもう先生の物なんです。
誰にも見つからないよう教室のゴミ箱に捨てても、埃だらけのクローゼットに一生仕舞ってくれてても、
私は一切気にしませんよ」
「そっ…そんなことしないよ!
確かに生徒からこうやってもらったっていうのは、あんまり良くないのかもしれないけど、
そんなの誰にもわからないことなんだし、こんなにステキなマフラーを仕舞っておくなんてもったいないよ。
今日から毎日してくるからね!
ほらほら、こんなふうに!」
水色のマフラーは、大急ぎの手つきで持ち主の首元に巻かれる。
……あれ?単体で見たときはそうでもなかったけど、こうしてみるとかなり目立つ色合いだ。
矢部っちは服のセンスがダメダメで暗い色ばかり使うから、鮮やかな色だと浮き立っちゃうのか。

「好きにしてください」
「うん!大好きになったから、毎日使うね!」
「………………………………………………………………」
また、正反対の表情が向かいあう。
何も考えてないみたいな底抜けに明るい笑顔と、
眉をぎゅっと寄せたしかめ顔が…三女さん、何かを我慢してるみたい……?

「いやぁ〜あったかくて幸せだなぁ〜」
「矢部先生〜、今週の保険だよりの件でちょっと〜」
「栗山先生!何でしょう!なんでもお手伝いいたします!」
正直、矢部っちは栗山っちと向き合うときはもうちょっと目の位置に気をつけた方がいいと思う。
表情がだらしなさ丸出しになるのはもう諦めてあげるけど。

「インフルエンザ予防の……あら、可愛いなマフラー。手編みですね」
うん、やっぱり普通はひと目でわかるよね。
三女さんには悪いけれど、売り物としてはお粗末だから。

「えっ?あ…はい、ちょっと……」
「矢部先生ったら、隅に置けないんだから。
こんなステキな贈り物をしてくれるお相手が居るなんて」
「へっ?いえいえいえいえいえ!違うんですよ!
これはこのひと……じゃなくって、まあ、女の子から贈ってもらったものではあるんですが、
いろいろ事情がありましてですね」
「ふふふっ、惚気話を聞かされないうちに退散しておきます。
保険便りの件は海江田先生にお願いしますから。
じゃあ!」
「栗山先生ぇ〜〜〜〜!」

いつものように、表情は正反対。
情けない泣き顔と、愉快そうな笑顔。
まるで、何もかもが計算どおりに進んだ目の前の画が愉快で堪らないっていう、歪んだ笑顔。
……ほんと、表情で損してるよ。
もったいない。


「むふう」



<おわり>
0080ガンプラ2012/09/09(日) 09:50:36.55ID:N9tPN5E3
千葉の高校生編は、オチが決まらないのであんまり進んでないです。
私はオチをはっきり決めておいて、逆算で物語を作るタイプなので、オチが決まらないと全然進まない……。
しょうがないんです。
決してハチワンダイバーにはまって全巻を何度も読み直しているから時間が無いわけではないです。
0082ガンプラ2012/09/11(火) 00:05:24.01ID:JJAy5fCq
そういえば埼玉の人って、ガチャポンの事なんて呼ぶんですかね?
今回の話を書いていて凄く迷いました。
ので、「ガチャの人形」とか中途半端な言い回しになりました……。

埼玉の人おられたら教えてプリーズ。
今後の参考にします。
0083492012/09/13(木) 13:06:26.32ID:rusol8K2
あ、ガンプラさん!
自分、ガンプラさんの丸井ひとはの憂鬱に影響されて、ド素人ではありますがSS書きたいなと思い始めたんです。
次回作も楽しみにしております。
0084ガンプラ2012/09/16(日) 21:06:05.29ID:VuVmdLSj
>>83
ありがとうございます。
自分の創作で誰かに影響を与えられたというのは、嬉しい限りです。

私も趣味で書いてるだけのド素人で、
他の誰かの作品を楽しみにしてる読者の一人でもあるので、>>49様の次回作も楽しみにしています。
(>>50は私の書き込みです)

楽しみにしてくださってる方が居てくれる事を励みにして、
私も次回作をそろそろ本腰入れて取り掛かります。

とりあえずカプセルファイターオンラインは封印します。
0086名無しさん@ピンキー2012/09/29(土) 07:21:14.80ID:us/5Gu7b
人がいない
0087ガンプラ2012/09/30(日) 23:26:17.68ID:w5wwEvlG
今月のどうでもいい話。」

主に量産機を使ってます。
いや…私みたいなアクションゲーム下手がワンオフ機使ったら、なんか恐れ多いじゃないですか。
なのでVガンを重宝してます。


そいうわけで、『青空に誓って』シリーズとして。
『俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』より、
『俺に彼女はいなくて幼なじみとは何でも無さすぎる』

タイトル長すぎて、名前欄に入らないよっ!!
0088俺に彼女は〜略12012/09/30(日) 23:27:03.98ID:w5wwEvlG
さぁ〜って、今日は何して遊ぶかな?


「あ〜…だりぃ……」

まだ朝の7時半だってのに、9月の日差しは刺すような強さで俺の身体をジリジリと焼く。
暑い。を通り越して熱い。学帽脱ぎてえ。
しかもだ。月曜の朝っぱらからこの灼熱地獄の中登校してるってだけでも表彰ものなのに、
俺を待ち受けてるのは朝の数学ミニテストと来てる。

「やってらんねえ。心の底からやってらんねえ。」

この学校マジで頭おかしいんじゃねえか?1年の夏休み明け早々、なに激しいスタートダッシュきめてんだよ。
いくらこの辺の公立で偏差値1番高いからって、やりすぎだろどう考えても。俺が心臓麻痺ったらどうすんだよ?
せめてやる気のある奴にだけやらせとけっての。俺は就職(予定)組なんだよ。受験とかしらねーんだよ。
ああ学校行きたくねえ。死ぬほど行きたくねえ。
なんかフケる理由が沸いて出てこねえかなぁ。あの目の前を歩いてるサラリーマンのおっさんが突然血を吐いて倒れるとか……。


「おはよう、千葉くん」


突然背中に冷水を浴びせかけられた。錯覚に陥る。
そのくらいその声は澄み切り過ぎて寒々としていた。
前にテレビで見た、塩分の濃度が高すぎて一切の生物が住めない、だからこそ世界一綺麗な湖を思わせる声。

「あれ?
……おはよう、千葉くん」

俺からの返事が無かった(実際は心臓が痛くてできなかったんだが)せいで、
確かめるような二度目の挨拶には、戸惑いの色が混じってしまった。
いけね。せっかく声をかけてくれたってのに。

「あぅっ…おっ…おは……っ!おはよっ……ござ、んぐっ……おはよぅ……っ!」
短い挨拶を返すだけなのに、根性無しな喉は引きつり震えてろくに仕事をしやがらねぇ。
……まあそれもしょうがないっちゃ、しょうがない。

振り向いたらすぐ後ろで、白く輝く妖精が微笑んでいたんだから。

常識からすると俺は今、猛烈にキモい事を考えた。『妖精』って何なんだよ『妖精』って。頭大丈夫か?ってレベルだ。
だけど現実に目の前に居るんだからしょうがない。

「……突然背中から声をかけられたからって、驚きすぎじゃない?」
背丈は150あるかないかってくらいだけど、顔も腕も腰も脚も、パーツの全部が小さく華奢でバランスが整ってるから、
『子供っぽい』なんて印象は全然ない。
いやむしろ静かで落ち着いた…波紋の無い水面を思わせるその雰囲気は、近づくだけで身が引き締まる思いだ。
とにかく存在感がすごい。
身体の線は今にも消えてしまいそうなくらい細いっていうのに、周囲の風景からはっきりと浮かび上がってる。
だってこの娘は周囲と『色』が違いすぎる。
0089俺に彼女は〜略22012/09/30(日) 23:27:47.17ID:w5wwEvlG
「意外と小心なんだね」
まず目に飛び込んでくるのは白。
夏用のセーラー服から延びる手足はホクロひとつすらなく、
誰も足を踏み入れたことの無い雪原みたいにひたすら白く滑らかで、動作に沿って光の軌跡を空間に残してゆく。

「昔はもっと……かなり怖いもの知らずだった気がするけど。
身体が大きくなった分、心臓が縮んじゃった?」
一瞬遅れて目を奪われるのは黒。
腰の上まで伸ばされた長い髪は、寒気がするほど真っ暗なだけじゃなく、今にも水が滴りそうなくらいに艶が満ちていて、
まるでそこだけ夜が取り残されてるみたいだ。

「あと、ちょっと猫背になってたよ。
せっかく背が高いんだからしゃんとしてた方がいいよ。せっかく背が高いんだから。
ていうかまた高くなった?見上げてると首が痛いくらいなんだけど」
そして最後に、虹から目を離せなくなる。
遠目には『黒』として映るこの娘の瞳は、だけど近づいて見ると、
色とりどりの複雑な形をしたレンズが何枚も重なって造り上げられている事に気が付く。
揺れるたび、万華鏡みたいに移り変わっていく虹彩を前にしたら、
どんな男も心臓を鷲づかみにされて、ただただ棒立ちになることしかできなくなる。

心の全てを奪われてしまう。

「これはもう、今日から私と話するときは常時膝立ちになってもらおうか…………なんてね」
薄桜色の唇が下してくれるなら、どんな無茶な命令だって俺はためらいなく従って見せる。
誰だってそうなるに決まってる。

『美少女』なんて言葉じゃまるで足りない。
そもそも俺たちと同じ生き物とは思えない。ありえないくらいに可愛いすぎる。
だからみんな、ありえないあだ名で呼ぶんだ。

『白銀の妖精』、『虹の魔法使い』、『生きた芸術』、『白い神姫』、『髪長姫』……『姫』。

今はもう、昔の呼び方をするやつは少ない。
この娘の事を昔から知っていたとしても、『今』は恐れ多すぎてとてもじゃないけど呼べない。男子は特にそうだ。

「おはざーっす!」

『今』この名で呼べるのは、この娘にそう呼んで欲しいと願われた人間だけだ。
幸いにも、マジで超ラッキーな事に、俺はその数少ない人間の中に入ってる。
だから俺は、深々と頭を下げながらその名を呼ぶ。



「三女さん!!」



「……おはよ。
…………黙ってたと思った急に大声で……。今度はこっちが驚いたよ……」
「ああっ、す…スンマセンシタっ!」
「だから声が大きいってば。
それにそんないつまでも深々と頭を下げられてたら、目立っちゃうよ。……んもう」
「す…スンマセン、マジで……っ」
後頭部に降りかかってきた弱った声に慌てて直立に戻ると、目線の下では細い眉が下がってしまっていた。

「ほら、はやく学校行こ」
せかすように俺を促す三女さんは、相変わらず目立つのが苦手だ。
0090俺に彼女は〜略32012/09/30(日) 23:28:22.07ID:w5wwEvlG
とびっきり可愛いのに目立つのが苦手だなんて、三女さんを知らないやつが聞くといぶかしむ。
気持ちはわかる。
女ってのはちょっとでも自分の外見に自信があると、見せびらかすようにして練り歩くのが普通だからだ。
実際、近所(っていうか三女さんの姉)にもその典型的なタイプが居る。
…けど、三女さんを見るとみんなひと目で納得するんだよな。
『妖精だから、人目に触れてると消えちゃうんだ』ってさ。

「ウッス」
スイーっと音も無く歩みだした三女さんを追いかけ……るまでもなくすぐに追いつき、右隣をキープして通学路を進む。
三女さんと俺では歩幅がまるで違うから、逆に追い越さないようにするのが難しい。
つうかぶっちゃけ三女さんは身体の縮尺が若干おかしい。
背が低いけど頭身が高くバランスが整ってるってことは、つまり全てのパーツがむちゃくちゃ細くて小さい。
腕や脚どころかスカートの巻かれたウエストすら、
ちょっとこけただけでポキっと折れちゃうんじゃないかって心配になるくらいだ。
この辺の現実離れした儚さも、『妖精』扱いされる要因だよなぁ。
と、俺は頭の中に記憶させた三女さんの姿を眺めながら思う。
……隣は下手に見られない。三女さんはやたらに勘が鋭いから、じろじろ見たりなんてしたら気味悪がられてしまう。
それが俺の立ち位置なんだ。

「朝から元気なのは良い事だけど、次からはちょっと気をつけて欲しいかな」
「スンマセン……。
尊敬する師匠にはしっかり挨拶を返さなきゃいけねえって、はりきりすぎちまいました」
「師匠?」
左腕から昇って来た小さな疑問符へ目を向けたくなる衝動を必死で押さえつけ、首を前に固定したまま会話を続ける。
あどけなく首をかしげる三女さんの可愛さは、冗談じゃなくて殺人級の威力を誇るんだ。
下手に見たりしたら心臓が止まっちまうかも知れない。少なくともせっかくの会話が続けられなくなる。

「エロスの師匠っスよ!つまりは人生の師匠と言っても過言じゃないっス!
最大級の敬意を払うことはむしろ義務っスから!!」
女子との会話に何言ってんだこの学帽は!?と、これまた知らないやつは思うだろう。
しかも相手はただの女子じゃない。手で触れようとしたらすり抜けちまいそうなくらい儚くて可憐なんだ。
性的な話題を出すなんて、正気を疑うレベルかもな。

ところがどっこい、この方は三女さんだぜ。

「ふふっ……」
ほら、小さいけれど満足そうな笑い声だろ?

「その設定まだ生きてたんだ。
うん、エロスに敬意を払うのはいい事だよ。まあでもエロ本のために土下座までされたのは驚いたけど」
「うわちょっ…いつの話ですか、いつの!?それこそもう無かったことにしてくださいよ!
ちょっとした若気の至りっつーか、抑えられない衝動があったっていうか、ぐわもうマジ最悪だ!
朝からすげーテンション下がった!」
「『お願いだからみせてくださーーい!!』」
「やめてくれー!」
「…………」
大げさに頭を抱えるポーズをとった俺に返ってきたのは、無言の静寂。
けどきっと、頬を薄く染めて『むふー』と超可愛い微笑みを見せてくれてるんだろう。
もちろん今度も心臓に悪いから、目は向けられない。それでもはっきりわかる。
前を行く男子……だけでなく、サラリーマンのおっさんまで、
どいつもこいつもがこっちを見た途端胸を押さえてフリーズしてるんだからよ。
そして、三女と何気なく会話しながら通り過ぎる度増えていく、羨望の視線、視線、視線。

ふははっ、超優越感!!
どんなに成績が良くったって、この立ち位置は手に入んねえだろ!!
0091俺に彼女は〜略42012/09/30(日) 23:29:19.77ID:w5wwEvlG
……なんて浸ってる場合じゃねえか。注目が集まるのは、三女さんにとっちゃ良くないんだから。
俺は1歩斜め前に進み、自分の身体を使って周囲の視線を遮断する。
ま、さっきも言ったとおりの白と黒が目立ちすぎるから、この程度じゃ焼け石に水なんだろうけどよ。

「あーそれにしてもあっついっスね。いつになったら涼しくなるんスかねえ?」
ちょっと不自然かもだが、短い登校時間は無駄にできない。
俺は背後に向かって会話を続ける。話題は無難であり鉄板でもある天気についてだ。

「あからさまな話題変更だね」
「あーそれにしてもあっついっスね。いつになったら涼しくなるんスかねえ?」
「……あんまりいじめるのも可哀想だから、今日は許してあげようか。
そうだね。家の床に落ちた雌豚の汗がべたべたするから、はやく涼しい季節になって欲しいよ。
私も髪を伸ばしてるから暑いのは厳しいし」
意識を集中させてる背中が、長い髪がかきあげられた気配を感じとる。
いつの頃からか三女さんのお決まりになったその画は、額に入れれば美術館に飾れそうなほどに美しくて、
周囲の注目を特に集める(三女さんは気付いて無いっぽいが)。
なんかもう神秘的って感じで、宙を舞う黒髪から光の粒子が飛び散って見えるんだよなぁ……。

「暑いし、手入れが大変でお金も掛かるし、抜け毛の掃除が面倒だし、まったくもって参っちゃうよ。
うち、みっちゃんも髪を伸ばし始めたでしょ?排水溝とかすごいことになって大変なんだよ」
……さすが三女さんだぜ。話の中身に夢がねえ。

「大変なんですねぇ」
「大変なんだよ。
……ま、苦労の甲斐はあるんだけどね。昨日も……ふふふっ」
ここで今日初めて、声に温もりが灯る。
近寄りがたい、近づくと痛みを感じる芸術に生きた柔らかさが加わって、その美しさがさらに完璧になる。
……違うか。完璧になるのはきっと隣に………って、んなことはどうでもいいんだよ。
せっかく三女さんが明るいんだ、このまま楽しかった昨日の想い出を話させてあげるのが、俺の役目だろ。
そもそもさっき自分でも思ったじゃねえか。俺みたいな劣等性が、上機嫌の『姫』を連れて歩けるなんて超ラッキーなんだぞ。
オラッ、テンション上げてけ!

「やあ千葉くん」
ぐわぁ……マジでテンション下がる声が後ろから……。

「やあ千葉くん、おはよう。今日は早いじゃあないか。
いつも遅刻ギリギリに登校する千葉くんにしては珍しい」
決意をカンペキ白紙にしてくれた耳通り良い声の発信源は、きびきびした動作で三女さんを通り過ぎて俺の左に並び、
ついでにこっちが肩を落としてるのも無視して上機嫌に挨拶をリピートしやがった。

「さくらちゃんおはよう」
「おはよう、三女。
千葉くんもおはよう。と、さっきも挨拶したのだけれど。
ちゃんと返して欲しいものだな。友達に無視などされると傷ついてしまうよ」
「うるっせーな。てめえこそ何でこんなに早いんだよ」
「おや、三女から聞いていないのかい?
Aクラは毎朝小テストをやっているから朝が早いんだよ。
なので毎朝、千葉くんが猛ダッシュで校庭を横切っている姿を楽しませてもらっているよ。クククッ」
などと性格の悪さ丸出しに、猫みてーな眼を細めて笑ってるこの女、『松原さくら』は、
俺の…というか俺と佐藤と三つ子の中学からの知り合いだ。

『知り合い』だ。少なくとも俺は『友達』になったつもりは一切無い。今はふたばと佐藤とはちょいアレだし。
…まあそれはさておきとして、特徴は見ての通りとにかく性格が悪い。マジで悪い。殴りたい。俺は女は殴らんが。
0092俺に彼女は〜略52012/09/30(日) 23:30:21.27ID:w5wwEvlG
「というわけで私達にとってはこの時間はいつもの時間なのだが、クククッ。
千葉くんにとっては早起きなわけだから、三文どころじゃないくらい良い事があったようだな。なあ千葉くんや。
今日の幸せをしっかり噛み締めて、明日からの生活態度を見直すと良い。クックックッ」
「うるせえ。それに『千葉くん』とか呼ぶな、気持ち悪い」
「などと挨拶を返されないまま言われてしまったよ。ひどいと思わないかい、三女?」
女子にしては高い170近いその背をわざわざ屈み気味にしながら、松原は背後へと必要の無い援軍を求めやがった。
こいつは〜〜!
三女さんは勘が鋭いってのに、おかしな話題の振り方すんな!

「さくらちゃんの態度が………まあ、確かにそうだね。
私が言うのもなんだけど、挨拶はちゃんと返さなきゃだめだよ、千葉くん」
「ぅ……はよーさん」
「声が小さいなぁ千葉くんや」
俺は男だ。女は殴らん。
だから持ち上がりそうになった右手を、左手で必死に抑える。
顔が引きつるのを抑えられなかったくらいは、許容範囲だろ。

「おはよう松原」
「まー表情が硬いのが気になるが、よしとしてあげよう」
男じゃなくなっていいから、こいつの顔面に拳をめり込ませたい。

「そんなにクワッと糸目を見開くなよ。怖い怖い。
助けてくれ三女」
「さくらちゃん。事情はわからないけどさすがに「姫!おっはよーさんやで!」 くえっ」
「!?」
底抜けに明るい大声が、俺の援護へ入ろうとしてくださった言葉を途切れさせる。
なんだなんだと慌てて振り向くと、前のめりになった三女さんの背中の上に、小柄な女が圧し掛かっていた。

うあ……1番嫌な女が来てしまった。
もう校門も見えてるんだから、最後まで幸せに浸らせといてくれよなぁ。
思わず天を仰いだ俺をさておいて、寄り集まった女子3人は…………なんだっけ?
なんかうるさくなる的な…かしま……かさま……?まあそんな感じで、高い声を響かせ始めた。

「ちょっ…神戸さん重いって」
「え〜〜、傷つくわぁ。そんな変わらへんやん」
「よくもまぁそこまで図々しくなれるな寸胴娘。あきれを通り越して関心するよ。
お前と三女じゃ縦が似てても体積が大違いだろうが」
「寸胴呼ぶな松原さくら!
そらちょいくらいは負けるけど、めちゃは違わへんわ!」
「お前、眼球の水晶体が濁ってないか?」
「むかっ!
そこまで言うなら確かめたろやんか!
姫っ、体重ナンボよ?」
「私の意志は無視なの!?
ていうかはやくどいて〜〜!重……じゃなくて暑いって!」
「フォローがむしろ傷ついた!
教えてくれるまで絶対どかへんし!」
腰をまげたままじたばたしている三女さんを助けるため、
今すぐにでもこのチビ女を引っ剥がしたいところだが……触れたりしようもんならどうなることか……くそっ。

「なんでそうなるの!?」
「親友に隠し事は無用やで!」
「いつ親友にまで上り詰めたんだお前は……」
「とにかく私に退いて欲しかったら、真実を述べるんやー!」
「えー、朝から何なのこの理不尽………。
しょうがないなぁ……………だよ」
と、不満の色を滲ませながらではあるけれど、三女さんはチビ女だけに聞こえる声で要求に従った。
……なぁ〜んか納得いかないんだよなぁ。どうもこいつを特別視してるっていうか、なんか尊敬してるっていうか……。
そりゃ定期テストで全教科満点取るような奴だけど、だからって三女さんがこんな『上』に置くか?
いったい何があるんだろう……?
0093俺に彼女は〜略62012/09/30(日) 23:31:12.66ID:w5wwEvlG
「……ホンマごめんなさい。調子乗ってました。
以後、気をつけます」
答えを聞いた途端、チビ女は身体を下ろして神妙な顔で一歩さがり、三女さんの背中に頭を下げた。
アホめ。
……けど、くそ。
ちゃんと三女さんの背を隠すように後ろから着いてくるってことは、
こいつもちゃんと『友達』やってんだよな。あーくそう。

「ほれ見ろ寸胴」
「ちょっと待って。いくらなんでも軽すぎるやろ。
姫、若年性骨粗しょう症とちゃう?むしろ内臓どっかに落としてきてへん?
あっ、一部発泡スチロール製か!!ならしゃーない!!」
腕を組んで真剣な顔で悩んでいたチビ女は、なんか意味不明な結論に勝手に辿り着いて、
イイ笑顔の前でポンと手のひらを合わせた。

「私は普通の人間だよ………」
「またまたぁ〜」
「いやいやいや、その返しはおかしいからね」
「またまたぁ〜。
まあそれはそれとして、私徹夜したから超調子悪いねん」
「お願いだから私と会話のキャッチボールを心がけて。
それに全く調子悪そうには見えないよ」
「というわけで姫、ベホイミかけて」
「……………??
べほ……何?」
ある意味有名な名詞ではあるが、ゲームに疎い三女さんは単語に全く追いつけないみたいで、
ただその細く整った眉を下げただけだった。うむ。困った顔も可愛い。

「ベホイミはベホイミやけど……姫はケアル系か。じゃあケアルラで」
「いや、だから何なのそれ?」
「えっ、ケアル系でもない?
ああなるほど、ディア系やねんな。確かに姫はコンゴトモヨロシクって感じやわ〜〜。
ディアラマをお願いします…って、スキルスロットに残ってへんか。メディアラハンはもったいないなぁ」
「だから何なのそれ?さっぱりなんだけど」
「何って、回復魔法に決まってるやん」
さも当然といったふうに、チビ女はアホな事をのたまう。
当然、三女さんの困惑は深まるばかりだ。
ったく…ふたばもそうだがこいつにしても、脳内回路がどうなってんだ?
なんとかと天才は紙一重って言うが、こういうタイプは昔から揃いも揃って独自路線貫いてたんだろうか。

「……………………もう一回言ってくれるかな?」
「回復魔法」
「私15年間生きてきて、ここまで突っ込みに困ったのは初めてだよ」
「またまたぁ〜。隠さんでええって」
「だから返しがおかしいよ!?」
「だって姫ほどの美少女が、回復魔法を使えへんはずがないやん」


「意味が全くわからない!!!」


深まりすぎて底を突き破ったんだろう、むしろ驚きの表情で三女さんしては珍しい大声を上げる。
珍しいからそれこそ当然、校庭を横切っていた生徒達がいっせいにコッチを向く。

ザワ...

「あ……っと、ごめんなさい。何でもあ…ませ……」モニョモニョ
自分へ向かってきた視線から身を隠すように、三女さんは俺の背中へ身を寄せる。
しかもこの引っ張られる感は…カッターシャツをギュッと握られてるのか……!
0094俺に彼女は〜略72012/09/30(日) 23:32:00.91ID:w5wwEvlG
おおおっ!

うわもうすげえ…なんていうか、なんて言うんだコレ!!
輝くくらいの美少女が、俺を頼ってくれてるこの状況!!男に生まれてよかった的な!!
更には俺以外の男共の悔しそうな表情までついてくるし!!

  「やれやれ……キミも所詮男だねえ、千葉くんや」

ここまで頼られてるのに黙ってたら、それこそ男じゃねえぜ。
まかせて下さい三女さん。俺がこの空気を読まないチビにビシっと言ってやりますから!

「おい、いい加減にしとけよチビ…神戸」
「気安く私の名前を呼ぶな糸目ゴリラ。死ね」
予想してたがやはり、返された声と表情には『嫌悪』がはっきり載せられていた。
さらにきっついのはこの目。マジで完全にゴミ虫を見る目だ。
別にこいつを好きとかどうとかは全くないとは言え、やっぱ女子にここまでやられると凹む……が、負けるか!

「三女さんの迷惑になるようなことはやめろ!」
「姫ぇ〜、あんまこいつに近づいたらあかんって。孕まされてまうで」
「ぶうっ!
おいおまっ……」
嫌そうな顔のまま、だけど恥ずかしげもなく出された単語によって、俺は頭の中身ごとフリーズしてしまう。
こ…の女、朝っぱらから何つーことを!?

「え…あっ、ごめん千葉くん、シャツ伸びちゃうね。
神戸さん、そんな言い方酷いよ。千葉くんは見た目よりずっと真面目で優しいよ」

『見た目より』って!!三女さんからもそう見えるって事っスか!!?
あんまりな事実をぐっさりと叩き込まれて、目の前が真っ暗になる。吐きそうだ。血を。

「あかんって。美少女やねんからもっと真剣に自分の身を守らんと。
『エグい顔で私を視姦すんなこのゴリラ』くらい言わな」
「おい!マジでいい加減にしろよ!!」
「ウホウホうるさいなあ。私は人間の言葉しかわからへんねん。
ちゃんと日本語マスターしてから学校こいや」
「しっかりマスターしてるっての!」
「はあ?」
俺を見る目がさらに『低く』なる。しかも完全に馬鹿にしたせせら笑いまで付いて来た。

「現国で補修受けるような低脳が、よくもまあ言えたもんやな。
それともギャグのつもりか?
言うとくけど、自虐ネタは実際のところそこそこできとる人間が言うから面白いんであって、
お前みたいな類人猿が使っても痛々しいだけやで」
「ぐ、くくっ……」
ぐああっ、やっぱダメだ。何を言っても10倍になって跳ね返ってくる。
だが三女さんの前で引き下がるようなマネは……ってこのまま会話をくり返す方が恥の上塗りになりそうな……。
0095俺に彼女は〜略82012/09/30(日) 23:32:36.09ID:w5wwEvlG
「神戸さん、成績の事はまあ……アレなんだけど、でも千葉くんはそんな目で私を見ることなんてないよ。
そもそも千葉くんは、あんまり私を『見て』ないよ」
「三女さん……っ!」
ああ…さすが優しいぜ。この際『成績の〜』は聞かなかったことにしとこう。

「なんども言うけど、姫はこいつに甘すぎるで。
さっきもこいつ、『学校のアイドルに頼られる俺超カッコEー!』って頭の中でオナっとったんやから。
キモいわ〜」
「げっ!」
なっ……!?
え、なんでわかったんだ!?

「ショックを受けてるところ悪いが、顔に出てたぞキミは」
「うちの学校にアイドルなんて居ないでしょ。
ふたりとも、おかしないちゃもんつけて千葉くんを困らせないで」
「ぐはあっ」
ただでさえ痛い一撃だったってのに、松原に容赦ない追い討ちをかけられ、
おまけに三女さんの純粋な善意によって良心を抉られてしまった俺は、
今度こそ深い暗闇に落ち切って、校庭に膝を突いた。

「わっ、千葉くん!?」
「やめときなって姫。姫がそうやって甘やかすからこいつが勘違いするねん。
ゴリラはゴリラの身分があるって、わからせとかな」
「ぐっ…くそっ、さっきからゴリラだの類人猿だの!」
10倍返しが待っていたって、言われてばっかじゃいられねえ。
せめて勢いだけでもって、俺はびしっと立ち上がって、

「じゃあお前は姫の何やねん」
0096中書き12012/09/30(日) 23:35:17.20ID:w5wwEvlG
ちょい中途半端なんですが、今日はここまで。
多分4分割くらいになりそうです。

短くしたいんだけどなぁ……。


っていうか、今更ですが三女の容姿設定を明らかに失敗しました。
なんか自分でもどの位置狙ってるのかわからなくなってきました。
少年漫画(ラノベ)路線狙ってるのか、少女漫画(恋愛小説)路線狙ってるのか……。
0099ガンプラ2012/10/06(土) 19:48:26.50ID:mExyqhKu
ノーダッシュ格闘ってどうすれば上手くできるんですか?

またグダグダ長くなりそうな予感。
オリキャラが多すぎて、すでにみつどもえじゃないという現実から目を逸らし、続きます。
っていうか、キャラクタを高校生に成長させてる時点でみつどもえじゃないから、
もうどうでもいいや。開き直った。
0100俺に彼女は〜略92012/10/06(土) 19:48:59.06ID:mExyqhKu
びしっと細い指をアゴ先に突きつけられて、動けなくなる。
背は俺より30cm近く低い、身体のでかさなら1.5倍以上の差がある、しかも女に、
指一本で勢いごと押しとどめられてしまう。

「お…俺、は………」

何だろう?
エロ師弟、なんてこのタイミングで言えるほど俺は非常識じゃねえっての。
幼なじみ……は佐藤やふたばの方で、インドア派の三女さんとはそれほどつるんでたわけじゃない。
つか、冷静になるとあんまり接点無かった。今なんてもっとそうだ。
大人しくて成績がよくて学校1…どころか、テレビに出てくるアイドルよりも明らかに可愛い『髪長姫』と、
補習の常連で汗臭い俺の間には、高い壁か深い溝くらいしか見あたらないような……。
いやいやいやいやいや。なんだかんだで俺ら付き合い長いじゃん。
難しく考えること無いんだって。近所の同い年だから、結構仲良く「一応言っとくけど」

甲高い関西弁に、今度は現実へと引き戻される。
だめだ。さっきからあっちへ投げ飛ばされたりこっちへ引き回されたり、やられっぱなしだ。
こいつが相手だといつもこうなっちまう。

「幼なじみとか近所の子とか、そんなん答えにならへんで。
それは単にお前の運がよかっただけやねんから。お前自身が何か努力して手に入れたもんとちゃうやろ。
お前は姫に何ができる?お前と一緒やと姫に何の得がある?
やのに勘違いしてええ気になって、勉強も部活もせずにダラダラダラダラ毎日遊び呆けやがって。
底辺にも程があるわ」
「あ…いや、部活はやってねー…けど、っていうか、補習とかで忙しくて……悪かったな、ほっとけ。
くそ」
「悪い。
所詮高校の勉強なんて、やったらやっただけ上がるもんやねん」
「で…できる奴はそうなのかもしれないけどよ……」
「自分ができへん方やってわかっとるなら、人の倍の努力しろや。
それともその暇も無いくらい『忙しい』んか?ほほう、面白いやんか。
じゃあ先週は何が忙しかった?言ってみい。聞いたるわ。
遊ぶのに忙しかったとか言うなよ」
「う、ぐ………」

口を開く度、容赦なく足場を切り取られていく。もう一歩も動けない。
俺は俺なりに頑張ってるつもりなんだ。けど……やっぱこの学校の勉強は難しくて……。
でもそれは俺にやる気が無いから、なのか?
確かに先週はゲーセン行ったし漫喫行ったし、ダチとカラオケも行ったし日曜はラーメン屋めぐりに行った……。
頑張ってるつもり、なだけだったかも……あれ?俺ってマジで底辺なのか……?
0101俺に彼女は〜略102012/10/06(土) 19:49:31.53ID:mExyqhKu
「おい神戸、いい加減にしろ」
言い返す言葉も見つからなくなって喉を引きつらせてる俺に代わるように、松原が乗り込んできた。
いつもクールなその声に熱が篭っているように感じたのは、気のせいじゃない。
でも多分、その熱さは俺のためってわけでもないんだろう。

「たまたま持って生まれた才能に甘えきって、毎日遊び回ってるお前に言えた台詞じゃあないだろうが」
「持ってるもんを最大限活用して何が悪い?
それになんぼ要領良かったって、やるべき勉強はしっかりやっとるから成績ええねん。
そも、私はちゃんと目標持って勉強しとるで。こいつと一緒にすんな」
「目標じゃなくて目的だろう。
男と一緒に居るためだけに、わざわざハードルを低く設定してるのは悪じゃないとでも?」
「旧帝大目指しとっても『低い』言ってくれる松原さくらは、
さぞ崇高な目標を持って日々生きとるんやろなぁ?」
「そうやって持ってるモノをひけらかして、あまつさえ傲慢に人を見下すような姿、
優しい『兄ちゃん』が見たら何て言うかね」
「兄ちゃんはちゃんと物事を見て判断する人やねん。
どやされるのは努力してへんこのブタゴリラ。
私の兄ちゃんをそこらの『優しいだけが取り柄です』みたいなつまらん男と一緒にせんといて」
「ほう、特殊な価値観をお持ちの御仁のようだ。
さすが寸胴幼児体型のキミと恋仲になるだけの事はある」
「そういう言い方こそ悪やろが!」
「やめろってお前ら!」
不穏な空気をちょっとでも追い出すため、今度は俺がふたりの間に身体をねじ込む。
10倍返し、100倍返しだなんてかまってられねえ。
三女さんが今にも泣き出しそうなんだから。

「朝っぱらからやめろって。周りに見られてんぞ。
おい松原、よく知んねーけどここにいねえ奴をガリガリ言うのって………」
結局また、勢いは言葉と一緒にすぐにどっかへ行っちまう。松原の、後悔に揺れる目を見た瞬間に。

ぐああっ、なんて言えばいいんだよ?最悪なのはこいつが1番わかってんだよ。
何かに熱くなるなんてバカバカしい、才能のあるなしなんてどうでもいいってポーズを取ってて、
でもポーズが上手くできてないのを1番気にしてるんだよこいつは。知ってんだよ俺は。
だからかける言葉が出てこない。これも結局俺がバカだからなのか。
真面目に勉強してねえから、言いたいときに言いたい言葉が見つからないっていうのか?
三女さんの不安を追い払えないっていうのか……っ!!
0102俺に彼女は〜略112012/10/06(土) 19:50:16.21ID:mExyqhKu
「い…いや、お前が助けに入ってくれたのはありが「おいっす千葉ぁ!」 ぐはっ!!」
ぐわっつ〜!背中にマトモに膝が入った……!息が詰まる……っ。
こんな礼儀もクソもない、人間に最低限必要な常識の足りてない事をしやがるアホはひとりしか居ねえ。

「いきなり何しやがんだ!クソ痛かったぞシノケン!」
背中を押さえつつ振り向けば、目線のチョイ下にはやっぱり同じクラスの男子、
篠田健一が妙に上機嫌で立っていた。

「人に膝入れといて笑ってんじゃねえよ!ぶっ殺すぞ!」
「いやいや、朝の挨拶だって」
「こんな挨拶使ってる国は、世界中探しても存在しねえよ!」
「俺とお前の仲だからこそ通じる挨拶なのさ」
と、何かを成し遂げた男の顔で親指を立てるシノケン。

「じゃあ俺も挨拶してやらあ。後ろ向け」
「とか言いながら強制的に背中向かせようとすんな!痛てて!肩いてえ!
やめろ馬鹿力!!」
……何か、こんなマジ顔で必死に抵抗されると逆に気ぃ削がれるな。
急激にどうでも良くなった俺は、痛がるアホを解放してやる。

「次は無いからな」
「肝に銘じておきまする。
でもって、チワーッス!!」
シノケンはいきなり方向転換して、敬礼のようなポーズで俺の後ろの女子三人……ていうか、
明らかに三女さんに向かって挨拶する。
大声を受けた三女さんは、背筋の凍るような冷たい無表情で軽く頭を下げた。

近所に住んでる女の子はいつも無表情で無口ですぐに姿を消して、
わけのわかんねえ不思議な奴だとずっと思ってた。
でもさ、違うんだ。
姉妹想いで友達想いで、本と特撮と家事が好きで、小さな子供や小動物に優しい女の子なんだ。
誰も見てないところでこつこつと勉強に料理に裁縫に……色んな事を頑張ってる凄い子なんだ。
ちょっと恥ずかしがり屋で怖がりで、頭が良い分先の事が気になって、頭の中ぐちゃぐちゃになって、
どうしたらいいのかわからないから無表情なんだ。
とりあえず相手と周りを観察することから始める子なんだ。

優しくゆっくりと、一緒に遊ぼうって手を差しだしてあげれば良かったんだ。

………気付いたときには、もう遅かったんだけどよ。
0103俺に彼女は〜略122012/10/06(土) 19:51:18.11ID:mExyqhKu
「あ、えっと、俺……友達で…そうだ、千葉の友達で篠田健一って言います。
さっきみたいに千葉とすげーフレンドリーにやってて……。
シノケンって呼んでくだ……みんなに呼ばれてます。
シノダケンイチで略してシノケン…って解説なくても丸わかりだっつーの!超そのまんまだっつーの!
あはは………」
幼さが薄まってますます精巧になった顔は、表情がなくなると綺麗すぎて逆に恐い。
おまけに深い虹色の瞳で見つめられると、ただ前に立ってるだけでもガンガン追い詰められてしまう。
男なら特にそうだ。
そして大抵の男が今のシマケンみたいに、キョドりながら思いついた言葉を早口で並べ立てるしかできなくなる。

「………………………」
気まずい空気を敏感に感じ取ってても、それでも速さに追いつけない女の子は、ますます表情と口を硬くしてしまう。
高くて硬い壁が築かれる。

「え〜〜っとですね………そんなわけで、まあ、できればこれからよろしくお願いします……」
明らかに空気が気まずいのに、ある意味ど根性で、一応ラインを確保しておこうとシノケンが右手を差し出す。
のにあわせて、松原が三女さんの前に立つ。

「おおっと、ゆっくりしたいのは山々なんだがAクラはそろそろ小テストの時間だ。
髪長姫、遅れちゃまずいですよ。行きましょう。
神戸、さっきの最後は私が悪かった。すまん……ごめん」
「ん。
ほらほら姫、はよ行こ」
言うだけ言って松原が先頭に立ち、チビ女が背中を押して行ってしまう。
俺達もさっきの空気も置いてきぼりにして、見事な連携だ。

女ってわかんねえ…っていうか、松原が男らしすぎんだろコレ。
俺こそシノケンを止めなきゃなんなかったのに、ボーっと見送るしかできなかった………あっ。

「………」
見送る先で三女さんが軽く俺に振り向いて、無表情なままだけど右手を振ってくれてる。
あわせて動く唇はたしかに『またね』と言ってる。
嬉しい…んだが、情けないトコばっかだった今はの俺は、
目を逸らしてちょっと右手を上げる仕草しか返せなかった。

「……………おい、千葉」
そして女子三人が校舎の影に消えるとすぐ、マヌケに手を差し出したままだったシノケンが口を開いた。

「んだよ。俺らもさっさと行くぞ。竹セン、テスト遅れるとうるっせーだろ」
「一体どんなネタで髪長姫を脅してんだ?」
「なんでそうなるんだよ!!!」
「いや、あの美しい髪長姫とむさいゴリラのお前が仲良くできるなんて、それ以外ありえねーだろ。
しかも取り巻きの小さい方、神戸ゆみだろ?天才の。
馬鹿のお前じゃ、ますますいい空気になれるはずがねえじゃん」
こ…こいつ、真顔で言いやがって……。前歯へしおってやろうか。
0104俺に彼女は〜略122012/10/06(土) 19:52:04.69ID:mExyqhKu
「あのチビ女はいつか泣かす予定だよ。
三女さ…丸井の方は、家が近所……的な、まああれだよ」
こんなに答えになってない。今まで気付かなかったけど確かに思う。
悔しいがそれくらい俺達の間には距離がある。
一緒にいたって三女さんには何のメリットも無い。ステータスにならない。
一緒に居る意味が無い。
ちくしょう。

「近所ってさ、お前らうちの高校から近いんだから、他にも髪長姫と家の近い奴沢山居るじゃん。
でもあんなふうに気軽に会話して、去り際に手まで振ってくれるくらい仲良いのは……はっ!
『幼なじみフラグ』かっ!?頼む、売ってくれ!!」
「……致命傷で頭の悪い事言ってんじゃねーよ」
ったく…漫画の読みすぎだっての。んな都合のいいもん現実にあったら、誰も苦労しねーんだよ。

「本庄とかD組の岡部とかともよく話してんだろうが。
単に………」

あ、そっか。
俺は三女さんにとって、そうなんだ。

唐突に見つかった答え。
するっと内側に入り込み、まるで長年使い込んできた帽子みたいに身体に馴染む。
どんなに認めたくなくてもこれが現実なんだって、突きつけられる。

「?
何だよ、どうした?脅迫用のテープレコーダーを家に忘れてきたのか?」
「そのネタもうやめろ!!」
「ネタじゃねえって!
髪長姫を絶望的な現状から救い出し、晴れてゴールインするという、
俺の壮大なサクセスストーリーに繋がってんだよ!」
「もうお前しゃべんな」
はぁ〜…っと思わず重いため息が出る。
こんなアホ言うやつにすら成績がまるで負けてる自分の現実に、更に頭が痛くなる。

はあぁ〜〜〜〜…。

「元気出せって」
「今結構マジで殺意わいたんだが」
「んで?『単に』なんなんだよ、関係はごふっ」
「話をとっちらかすな。いい加減殴るぞ。ったく…」
「殴ってから言う…ぐはっ、肝臓に入っ……っ」
「単に キーンコーンカーンコーン やべっ、とっとと行くぞ!!」
「てめっ……!」


単に、『登場人物A』だからだよ。
三女さんにとって何より大切な、あの1年間の。

0105ガンプラ2012/10/06(土) 19:53:27.84ID:mExyqhKu
今週はここまで。

プロットが完成して気付いたんですが、全体的に盛り上がりの無い話です。
盛り上げようが無かった。
0108名無しさん@ピンキー2012/10/13(土) 15:20:01.09ID:8cT41u6Z
アップされたものは全部見てます、感想とかは書かないけど
0110名無しさん@ピンキー2012/10/13(土) 21:21:29.48ID:WoTNr02I
読んでますぜ、矢部ひとが大好きだから、サイドストーリー的な物も全部。
0112名無しさん@ピンキー2012/10/23(火) 12:44:31.41ID:LT+MrZEC
寒くなってきたので全裸待機がつらいです><
0113ガンプラ2012/10/27(土) 18:50:00.03ID:/jCNkQO7
フルアーマーZZのミサイルがかわせません。

というのは冗談で、最近かなり忙しくてなかなか書く間がありません。
ちょいちょい進めるので、気長にお待ちを。
0114俺に彼女は〜略132012/10/27(土) 18:50:33.46ID:/jCNkQO7
――――――――――


キーンコーンカーンコーン

古文の中村が4時間目の授業を早めに切り上げてくれたおかげで、
今日は一足早く購買のパンを確保し、席で悠々とチャイムを聞く事ができた。
ラッキーラッキー。
……とは言え、次はプリントの宿題が出ている英語だ。
しかも席順からいって、オレがあてられるのは間違いない。
そして当然、オレが宿題をやっているはずがない。

この場合、昼飯を安心して食うために取るべき道はひとつだ。

「たのんます本庄さん!英語の宿題見せてください!!」

後ろの席の友達に頭を下げる!!

「も〜…またあ?
先週、『これで最後にする』って言ってなかったっけ?」
「今度こそこれが最後ですので!!」
「あのねえ……」
合掌した手のひらの向こうで、メガネの上の眉毛がへの字に曲がってしまう。
確かに我ながら調子の良いこと言ってるとは思う。
しかしだからといって、退くわけにはいかないんだ!!

「頼むって!昔なじみの情けでさ!」

外で遊ばないタイプの本庄とは小6の時はあんま一緒に遊ばなかったし、
中学なんてオレらとは違ってたんだが、
高校で同じクラスになると、お互いの中学に散った6−3のメンツの話題で盛り上がり、
そのまま結構仲良くなった。
つうかあのクラスの奴らとは学校がバラけても、
何だかんだと連絡を取り合ったり情報を交換しあったりってことが多い。
チクビの葬式には全員集まったし。
ま、当たり前っちゃ当たり前だよな。
あんなに密度の濃い…まるで何年もを圧縮したような一年だったんだ。自然、縁も太くなるって。

「そろそろその情けも底を尽きそうなんだけど」

……太い、はずなんだが……。

「ボクだって英語は得意じゃないんだ。ちゃんと頭を捻って辞書を調べて…苦労してやった宿題なんだよ」
「次回は必ずやるから!頼む!!」
「………………はぁ〜…。
お昼食べたらプリント出すよ」
本庄様は盛大なため息付ではあったが、最後にはいつもの通り優しい言葉を口にしてくださった。
0115俺に彼女は〜略142012/10/27(土) 18:51:05.58ID:/jCNkQO7
「へへぇ〜!ありがとうございます本庄大明神様!ナマンダブナマンダブ」
やはり持つべきものは友だな。おかっぱ頭の後ろに後光が見えるぜ。
感謝の意を盛大に込めて拝んでおこう。

「……そういう事されると、見せたくなくなるんだけど」
「いやぁ、これで安心して昼メシが食える!」
心配事が無くなったら、さっそく腹がとてつもなく減ってきた。
パパッと包みを破いて本日の戦利品、大人気でめったに食えないトマトパンをほおばる。
うむ、絶妙な酸味だ。さすがは人気No.1になるだけはある。
ハシケンがいたらよこせよこせとうるさかっただろうが、
『味噌ラーメンがオレを呼んでいる』とか言って学食消えてくれて助かったぜ。

「調子いいなぁ……。
何度も言うけど、提出物はちゃんと自分でやらないと痛い目を見るよ」
「わぁ〜ってるわぁ〜ってる。
……あっ、提出で思い出したけどよ、2学期後半の体育の希望、もう出しちまったか?」
「?
まだだけど……」
「おっ、間に合ったか。
アレ、@を剣道にして柔道はB番希望にしとけ」
「なんで?
先週は、剣道は防具を買わされるからB番にしとけって言ってたのに」
「こないだ職員室でヒゲ岡と駄弁ってたときに聞いたんだが、今度新任の体育教師が来るんだってよ。
んで、そいつが柔道の鬼みたいなむちゃくちゃ厳しい奴で、
前の学校で倒れるまでランニングとかさせてだんだと。
第一希望優先で決まるから、現状人気の無い剣道を@にしといて柔道を確実に回避するのがベストだろ。
防具はしゃーねーけど、3年あるんだからちょこちょこ使うことになるかもしんねーしな。
岡部とかにも言っとけ。こっそり」
「……うん、わかった。
ありがと。ほんといつも助かるよ。
…ペアとかチームとかでも色々足引っ張ってごめんね」
オレの見事な計画を聞いて、本庄ははにかんだ笑みを浮かべる。
芋づる式に口に浮かんできたのは、正直余計だけどよ。
ったく、こいつ素直すぎなんだよな。いちいちんな礼いらねっての。恥ずかしい奴だぜ。
こういうときはさっさと話題を変えるに限る。

「別になんも気にしてねーよ。
それより夏にお前に組んでもらったパソコン、調子悪いんだけど」
「えっ?おかしいな……。
BIOSにエラーは出てた?」
「難しいことはわかんね。とにかくネトゲやってたら突然ガクガクになったりする」
「う〜ん、それは多分単純にマシンの性能不足だね。
なんせあれ、8割方ボクのお古パーツで組んでるからなぁ。
どうしてもそのゲームがやりたいなら、グラボを交換するしかないと思うよ」
「ソレ、いくらくらいすんだ?」
「15K…じゃない、1万5千円くらい。
いっそ2万5千くらいのを買った方がいいかな。長く使うなら」
「げっ、結構すんなぁ」
「下を見ればいくらでもあるけど、安物買いのなんとやら、だよ。
夏休み、アルバイトしてたんでしょ?」
「む……金はまあ、あるにはあるんだが………」
0116俺に彼女は〜略152012/10/27(土) 18:52:42.50ID:/jCNkQO7
部活に入らず、塾も行ってないオレは、夏休みの時間を引越し屋のバイトに使って資金集めに汗を流した。
他人様の思い出のこもった家財道具の運搬は、筋肉以上に神経を使ってキツイなんてもんじゃなくキツかったが、
運搬のルールとかアイデアとか知れて面白かったし、苦労に見合ったかなりの額が懐に入ってきた。
……入ってきたが、すでに結構アレやコレに使ってしまった現実があったりする。
さらに2万5千円は痛い。
だがゲームはやりたいし、すでに結構知り合いもできちまったしなぁ……。

「………しゃーねえか」
「急ぎじゃなければ、来週末に秋葉原に行く予定があるから、ジャンク屋回ってきてあげるけど。
3〜4千円くらいは安く買えると思うよ」
「サンキュー。
……来週ならオレも行こっかな。昼メシ向こうにして。
どうせお前もそのつもりなんだろ?」

秋葉原は本庄にパソコン(超格安の)を作ってもらうとき初めて行ったが、
思ってたよりにぎやかで面白いところだった。
こいつの解説も、わけわかんねーけど聞いてて結構楽しいし。

何より、ウワサのメイド喫茶は想像の遥か上を行く『良さ』だったし。
東京の女の子って、なんであんなにレベル高ぇんだろ?水道水に特殊な成分でも入ってんのか?
……まあ鴨橋も、三女さんやふたばが生まれ育った町というのがあるにはあるけど、
あの辺りは色々世界が違いすぎるから別枠だ。

「……ボクの予定としては、安いところで済まそうかなって思ってたけど、
千葉くんが行きたいっていうなら行ってもいいかな」
「あっ、お前それはズルくね?男ならズバっと正直に生きようぜ」
「別に……ボクは正直だって」
「んだよぉ〜。お前がオレを連れてったんじゃん。
オムライスのときもわざわざショートの娘に代わってもらってさ。
アレだろ、実は本庄うなじフェチだろ?」
「フェチって……。
そういうの無しにあの女の子、肩が綺麗っていうか細く「お楽しみ中のところ申し訳ないんだけど」

「「どうわあっ!!?」」
突如横から割り込んできた高音程にびっくりして、オレと本庄は飛びのきながら悲鳴を上げてしまった。
あ…あぶねえ、口に何か入れてたら大惨事だったぜ……。

「まったく、真昼間の学校でいかがわしいことを堂々と……。
ほんっとサルね、あんたたちって」
あわやというところまで人様を追い込んでおきながら、その元凶は悪びれた様子も無く、
耳の両横から胸先まで延ばしてるドリルみたいな髪をサッと払いながら失礼な事をのたまった。
パッツン揃えられた前髪の下の目つきは、昔と変わらず鋭くキツい。
っていうかマジ動物を見る目だぞコレ。
0117俺に彼女は〜略162012/10/27(土) 18:53:16.17ID:/jCNkQO7
「おまっ…いきなり現れて失礼だぞ杉崎!!」
「うっさいわね。
礼儀をどうこう言いたいなら、まず自分が常識を身に着けなさい」
「お前に常識を問われたくねーよ、ドリル巻き毛。
いくらウチが頭髪自由だからって、そこまで自由の限界に挑戦してるのはおめーくらいだっての」
「なっ……!?
私はちゃんと生徒手帳で推奨されてる『胸先以上』を守ってるわよ!」
「そういう問題じゃねーだろ……」

杉崎は昔に比べれば大分マシになったとは言え、相変わらず常識が若干ズレている。
オレが言うのもなんだがセンスもちょっとズレてる気がする。
妙に少女マンガ的っていうか……親の影響なんだろうがさ。

……しかしこのドリル、現実に可能だったんだな……。

「だいたい私が限界だったら、三女は何なのよ!!」
「お前、あの芸術を切れってのか?
それこそ常識ねえな」
「………一気に何もかもどうでもよくなったわ。
あんたと話してるとどんどんアホになりそうで怖いわ……。
ったく…あんたに関わってるせいで、本庄までうなじフェチになっちゃうし……」
「え〜…。
杉崎さんまでそのネタ使うんだ……」
「つうか何しに来たんだよ。違うクラスにずけずけ入ってくるんじゃねえよ」
「用件があれば入っていいって校則にあるでしょ。
あんた達が、スカートが極端に短い異様なメイド服を思い出してキモい顔してるせいで、
その用件言うのが遅れちゃったじゃない」
「別にそういう店じゃねえっての!
むしろみつばんトコのファミレスの方が異様に短くなっただろうが!!アレ絶対お前が関わってるだろ!!」
「……いちいち脱線させないでって言ってるでしょ」
そう言う杉崎の目は、明らかに泳いでいた。
誤魔化しやがったなこいつ。

「ほら、コレ」
と、杉崎が机の端に置いたのは…大学ノート?
なんだ??

「夏休みの宿題のノートよ。今日返却されたやつ。貸したげるからありがたく思いなさい。
数Tは私の、現国と古文は松原の、英語は三女のよ」
「えっ、三女さんのノート!?」
「私と松原と三女のよ。あんたそろそろいい加減にしないと張り倒すわよ」
「う……」
確かに今のは『三女さん』にがっつきすぎだった。反省しとこう。

「……んで、なんでお前らのノートなんだ?」
「…ああ、今週末の学年テスト、基本的にここから問題出るからか。
良かったね千葉くん。Aクラの、しかも教科が得意な人のノートなら綺麗にまとめられてるだろうから、
目を通すだけでもかなり違うよ」
ワケがわからず困惑してるオレの横で、さっさと答えに辿り着いた本庄が親切に解説してくれる。
さっそく中身を確認してみると、おおっ、さすが三女さん字も綺麗…じゃなかった、内容が綺麗に纏められてる。
適当に書きなぐってるオレのノートとは段違いだ。
0118俺に彼女は〜略172012/10/27(土) 18:55:16.12ID:/jCNkQO7
「杉崎さん、いつもボクに千葉くんを甘やかすなって言ってるけど、
やっぱり1番気にしてるんだね」
「気持ち悪い事言わないでよ。千葉も勘違いしないでよね」
耳に入ってきた台詞はいわゆるテンプレだが、『萌え』とかそういう良さはまったく感じない。
なんせ杉崎の表情が心の底から嫌そうだからな。

くそっ。別に淡いもんを期待してるわけじゃねーが、それでもそこまで嫌がらなくてもいいだろうが。
いちいちむかつく女だぜ。

「正直ブタゴリラの手垢が付くなんてぞっとするけど、三女に頼まれたからしょうがなく、よ。
明後日までにコピーするなりなんなりして、返しなさい」
「ええっ、さん…じゃねえ、なんつーか……」
「別にソコは食いついていいわよ。アホね。
聞いたわよ。朝、神戸にまたズタボロにやられたって。三女が気にしてたわ。
それで、三女と松原が力を貸してあげたいって。喜びなさいな」
「そりゃサンキューだけどよ、別にズタボロって程じゃあ……」
「ふんっ」
目を逸らして言いよどむオレを見て、杉崎は無い胸の前で腕を組み、挑発的に鼻を鳴らした。
が、一拍置いて『やれやれ』といったふうにあらためて口を開いた。

「まあしっかり落ち込みなさい。あの子の言うことは99パーセント正しいわ」

「おい!!!
ここ今『落ち込むな』ってフォロー入れる流れだろ!!なんだよそれ!!」
「何で私がフォローしてあげなきゃなんないのよ。
あんたが遊びまわってるのもバカなのもブタゴリラなのも真実でしょうが。
そもそもあんたは、女生徒全般からの評価が底辺な自覚が全然足りないのよ」
「う…ぐ……」
言葉は目つき以上に鋭くて、オレはまともに心臓を切り裂かれてしまう。

そうなんだよな。基本オレって女子からの評価低い…っつうか、言いたくないが正直変質者扱いだ。
原因はわかってる。ガキの頃に散々披露しまくった数々の『秘技』のせいだ。
当時は可愛い悪戯のつもりだったんだが、今思い返すと若干…かなりアグレッシブだった事は認めざるを得ない。
いやもちろん、炸裂させる相手はしっかり選んでたさ。
女を困らせるのが男の仕事であって、泣かせるような真似をしたらお天道様に顔向けできなくなる。
その辺、オレの目に間違いはなかった。
が、手を引くべきタイミングを致命的に間違えちまったんだよな……。
みつばの目が冷めてきてた辺りで……ええい、昔の事はいいんだよ。重要なのは今だ。
つうか別に、知らねえ女子から冷たい目を向けられてるのは気にしてないんだよ、オレは。マジで!!
ただ、あの頃、そして今の三女さんの目がどんなだろうと考えると、昔の自分をはっ倒したくなる……。

「負債と周囲からの視線をしっかり意識して、真人間としてつつましく生きなさい」
「…負債があるのはお前だって…うるせーな!!」
「キャッ!つばを飛ばさないでよ!汚いわね!!」

危うく口から出かかった言葉を誤魔化すための大声だったが、うまく行ったみたいだ。
ギャーギャーわめきたてる杉崎からは、余計な事が聞こえていた様子は見られない。
……まーこいつはむかつくが、だからってこれとあれとは関係ない。
杉崎は杉崎なりにズレを直そうって頑張ってるんだしな。
0119俺に彼女は〜略182012/10/27(土) 18:55:54.36ID:/jCNkQO7
「まったく!
とにかくせっかく三女と松原が好意で貸してくれたんだから、しっかり勉強しなさいよ。
ここまでしてもらって赤点とったら、それこそ最低よ」
「わかってるよ…って待て、さっきから三女さんと松原って、お前のノートはなんだよ?」
「もちろん私はしっかりお代をいただくわ。そのために私が持ってきたんだし。
明日の放課後、活動用具室の奥に積んでるダンボール、生徒会室に運んどいて。
全部で5箱あるから」
「はあっ!?
なんだよソレ!?」
「私がやってる環境整備委員会の仕事で、先輩方の残していった部活用具を処分する予定だったんだけど、
使えそうなラケットとか竹刀とかあったから、時間見つけて仕分けたのよ。
生徒会役員に引き渡して、各部活に配分してもらうの」
「じゃあ委員会の奴に手伝わせろよ。オレを巻き込むな」
「個人でやったのよ。廃棄の予定を少し延ばしてもらって。
誰かに無駄な借りは作りたくないし、あんた引越し業者のバイトしてたんでしょ?
その要領でちゃちゃっと運んじゃってよ」
「ダンボールの持ち運びに要領もくそもあるか!」
まあ有るには有るが、アレは持ち上げるときに腰を痛めないとか、物にキズをつけないコツだ。
移送そのものは楽になるわけじゃねえ。やってられるかっての。

「じゃあ数学は赤点になってもかまわないのね。
あ〜あ、かわいそうな髪長姫。
せっかく手を差し出してあげたってのに、ブタゴリラがロクな結果を出せないせいで、
またお顔が暗くなってしまわれるわ」
「わかったよ!運んでやるよ!!」
「『運んでやる』ぅ…?」
「運ばさせてください杉崎様!」

くっそー!!腹立つ!!!

「最初からそう素直に言いなさいよね。
おかげでお昼食べる時間、ほとんどなくなっちゃったじゃない」
「なぬ!?」
杉崎に言われて左手のGショックを確認すると、表示は12:32分…げげっ、15分無い!

「やっべ、英語の宿題!
くそっ、今日はメシは抜きで写すか……。
本庄も急いで食えよ…って食い終わってるし!!」

途中から会話に参加してこないと思ったら、ちゃっかり本庄は完食してやがった。
机の上の弁当箱は、青い包みに戻されている。

「途中からボクにあんまり関係ない流れだったしね」
「だからって!!」
「これくらい割り切りよくなくちゃ、6−3じゃやってけなかったって。
プリントは貸すけど、その前にコーヒー飲みきってよ。汚されたくないし」
「はあ……。やっぱり宿題見せてもらってるのね。
まあいいわ、私はAクラに戻るから。
そうそう、三女からもうひとつ言伝。
明日のお昼はパンを買わずに待ってて、だって。良かったわね。
じゃ」
「ちょっ…お前ら一気に色々言うな!混乱する!」

ええっと、とにかく英語がでも缶コーヒーを空にする前に三女さんのノートを明日は買わないで!!?
0120俺に彼女は〜略192012/10/27(土) 18:56:40.43ID:/jCNkQO7
「たっだいまーっと。
いや〜やっぱ醤油ラーメンの方が美味かった…おっ、千葉のそれ、トマトパンじゃん。
半分くれよ」
「頼むから今は黙っててくれ!!」
「おーいC組、今日は授業の前にプリント集めるぞー」
「あっ、先生来た」

チクショウ!!
0121ガンプラ2012/10/27(土) 19:00:29.70ID:/jCNkQO7
今週はここまで。

野郎どもの会話内容は悩みます。
最近個人的に『品の無い会話』に凝ってて、ネタ帳に台詞アイデアをメモってるんですが、
千葉たちは多分、あまりヌレヌレな会話をしない気がしたので、
全体的に明るく(?)修正しました。
0123 ◆rzjiCkE13s 2012/10/30(火) 22:51:52.84ID:/NnwGEg6
「…三女さん、おはよう」

「おはよう、松岡さん。どうしたの、そのアザ」

「えっ…これはね…!屋根裏で地縛霊を探してたら、あ足がすべっちゃって!」

「…お大事に」




「おはよう、松岡さん。また、転んだの」

「!?…うん、…今度は、南公園の横に、…東公園の横にあるお墓に行った時ね、墓石にね、……ぶつけて、…ね?」

「大変だね」




「…おはよう、松岡さん。そのヤケドは…」

「………………ゆ、……………幽霊、
に…………」

「さっちゃん」

「…さ、三女、さん」
0124ガンプラ2012/11/04(日) 19:01:26.01ID:d2TCOxf4
7スレ目が唐突に落ちた悪夢があるので、ちょこちょこ入れないと不安です。
0125俺に彼女は〜略202012/11/04(日) 19:02:51.91ID:d2TCOxf4
――――――――――


キーンコーンカーンコーン

ふへぇ……。やっとガッコ終わったぁ〜……。

「あー…今日も疲れた。クタクタだぜ」
「千葉くん、最後思いっきり寝てたよね」
「睡眠学習してたんだよ」
「じゃあ、次の宿題は手助け要らないね」
「え〜っと、それはまた別問題であってだな……」
「おい千葉ぁ、ゲーセン行こうぜ。駅んとこの。
アベちゃんとうっちん呼んで2vs2のランダム戦やろっぜ」
シノケンは俺の答えの前に、すでにスマホの上で指を踊らせ召集をかけていた。
今日は三女さんたちから借りたノートをコピって勉強しなきゃならんのだが……いいか。
テストは来週なんだから、コピーだけしときゃあ時間はあるさ。

「あれ?
篠田くん、塾は?」
「休み」
パソコン部に向かおうと立ち上がった本庄が口にした素朴な疑問に、シノケンはしれっとした顔で答える。
よくもまあ。ある意味感心するぜ。

「サボりだろが」
「おっ、アベちゃ〜んからメール返って来た。
おっけだって」
「…ま、好きにしろや」

俺も中学の後半(だけ)は塾へ行っていたから、アレのめんどくささはよくわかる。
……サボった場合、家に帰ってから余計に面倒な事になるんだが、
こいつの自己責任にまで踏み込むつもりはサラサラ無い。
0126俺に彼女は〜略212012/11/04(日) 19:03:24.78ID:d2TCOxf4
「俺、一旦帰ってチャリンコ取ってくるから、先行っといてくれ。
一応言っとくが、メダル引き出しのパスワード変えといたぞ」
「え〜〜!
ケチケチすんなよ、2000枚もあるんだから」
「ざけんな。
貴重なタネ銭払って、コツコツ貯めた俺の財産だっつの。
んじゃ、後でな」
「ケチ学帽!お前には友情がないのか!そんな子に育てた覚えはありませんよ!」
シノケンはなおも意味不明の文句を唱え続けてるが、んなもん相手にしてられるか。
背中で受け流しながら、さっさと教室を出る。

「あっ、ちょうどよかった。
久しぶりだね、えっと…千葉、くん」
そしてすぐに、今度は別の野郎に呼び止められてしまった。

背は俺よりちょい下くらいに高く、物腰からも雰囲気からも真面目さがにじみ出ている、爽やか系のイケメンだ。
久しぶり、と言われても俺はこんな輩に覚えは……んん?

「夏の試合のときはお世話になったね。ありがとう」
夏の試合…ってことはやっぱそうか。

「弓矢部の奴だよな」
「うん、そう。
弓道部の野崎だよ……ごめん、考えてみたらあの日は自己紹介もしてなかったよね。
野崎智也。
よろしく、千葉君」
弓野郎はイケメンらしくはにかみながら、スッと握手を求めてきた。
無論、俺に野郎の手を握る趣味は無い。のでポケットに両手をつっこんだままスルーしておく。
この後の展開を考えると、余計に仲良くする気なんて起きねえし。

「んで、何か用かよ。
俺、帰るところなんだけど」
「……ああ、えっと、ちょっと話があるんだ。申し訳ないけど時間もらえないかな」
差し出した手を無視された弓野郎は、一瞬停まったがすぐに爽やか笑顔に戻って(その余裕もむかつくな)、
はきはした声でしっかり要求してきやがった。

さて、俺とは全く接点のなさそうなイケメンが、下手気味(?)に出向いてきた。
イケメンさえも思わず弟子入りを申し込みたくなるほど、俺から発されるオーラが漢気に満ちているからだ。

なわけはない。

「丸井の事か?」
「……まあ」

やっぱな。
ったく…またかよ。俺は三女さんのマネージャーじゃねえっての。
めんどくせえ。

が、

「りょーかい。
おーいシノケン!悪ぃけどさっきのナシで!
今日は真面目に塾行っとけ!!」

その分、あの人の『面倒』を減らせられるんだ。
やるしかないだろ。
0127俺に彼女は〜略222012/11/04(日) 19:04:35.99ID:d2TCOxf4




「うあ〜あ、いつになったら涼しくなんのかね………」

弓野郎を引き連れてやってきたのは、こういうときにいつも使う場所。
ウチの『1−C』から出てすぐ、隣の校舎と繋がる3階渡り廊下だ。
4階部が屋根になって日陰を作ってくれて、風通しもそこそこいいはずなんだが、それでもやっぱ暑いもんは暑い。
寄りかかったコンクリ壁も、日差しで熱されてやがった。
あーくそっ、パソコン部で話したいな。あそこクーラー効いてる…でも部外者立ち入り禁止なんだよなぁ。
静かだから、声も響いちまうし。
もちろんここだって、放課後とは言えチョコチョコ人が歩いてるが、外からの音でそこそこうるさいし、
野郎ふたりが話してる事なんか誰も彼も興味ないから、ただ通り過ぎていくだけだ。

「あっ、野崎くんバイバイ」
「ああ、うん。さようなら」

前言撤回。
イケメン様ってのはどいつもこいつも目をひくみたいだ。
何人かの女子が、弓野郎に『だけ』挨拶して帰っていった。
しかもさっきの女なんて、こいつが返した途端嬉しそうに顔を赤らめながら『キャー』とか走っていくし。
へーへー、人気があって結構なことですね。ケッ。

「さっきの子は同じクラスの子でさ。
…で、あー……まずは、夏の事。千葉君も弓を届けてくれてありがとう。お礼、遅くなってごめん」
「『千葉』でいいよ。でもって礼もいらねえ。
俺はただ持って行っただけだ」
「でも、その分の時間を割いてくれたじゃないか。だからありがとう」
態度悪くかったるそうに話す俺に対しても、イケメン様はあくまで爽やかだ。
丁寧な言葉遣いには嫌味とかそんなのは1%も見当たらないし、
頭まで下げて気持ちが表面のモノだけじゃないって証明してくださる。

あー…そういやこいつの家、ちょい遠い町の地主かなんかやってるって噂を聞いたような。
本当に礼儀ができてるわけか。
佐藤んちも親父さんの稼ぎがいいし、イケメンはデフォルトで金持ち設定が付いてくるのか?
ううわ、なんだよそれ。
この不条理に対する怒り、また佐藤にちょっかい出して晴らしとこう。

「あの日の試合に勝てたのは、丸井さんと千葉が俺の弓を届けてくれたおかげだよ。
いや、それ以上にあの弓は祖父からもらった大事なものだったから……。
……こっそり返してくれたのも助かった。
弓を隠したのは俺の小学校からのとも「その辺の細かいストーリーはマジ興味ねーから。悪いけど」

8月の登校日、弓道場がうるせえなぁって思いながら帰る途中だった。
三女さんが『妙なところから『視線』を感じて気になったから』と、弓を持って(音も無く)現れた。
落ちてた場所からして誰かが嫌がらせかなんかで隠したんだろうと踏んで、持って行こう……としたけど、
人が集まりすぎてて近寄れない(実際は三女さんが行けば人が割れるから、ある意味簡単に行けるが)、
って困ってたから、俺が代わりに持ち込んだんだよな。

こういう事になるのは読めたんだから、俺が見つけたって言って渡せばよかったかなぁ……。

「こっちだって忙しいんだ。さっさと要件頼むぜ」
「……そうだね」
弓野郎は俺のぶった切りに軽く鼻白んだが、一拍後には体勢を直して……だけじゃなく、
硬い意志と覚悟まで用意してから言葉を続ける。

「話っていうのは、丸井さんにもお礼を言いたくてさ。
それで彼女の携帯番号を「丸井は携帯持ってねえ」
0128俺に彼女は〜略232012/11/04(日) 19:05:16.87ID:d2TCOxf4
やっぱコレか。
なぜだか知らんが、俺が三女さんの携帯番号を知ってるって噂が学校に広まってんだよな。
おかげで1学期は地獄だったぜ。噂を広めた張本人は絶対見つけて、御礼してやる。
俺はみつばの番号すら知らねっての。

……知らないと言うか、教えてもらえなかったんだが。
あの雌豚、この4月から携帯持ち出したから軽く番号聞いてみたら、
『なんであんた如きに教えてあげなくちゃなんないのよ。思い上がらないで』とかほざきやがった。
そのくせ、あいつは好きなときに非通知でかけてきやがるし(番号の流出元は松原か杉崎だろう)…くそっ。
世の中むかつく事ばっかだぜ。
…って、とりあえずみつばの事は置いとこう。今は三女さんについてだ。

「まだあの噂を信じてる奴が居たって事実にびっくりだよ。
あの人はマジで携帯持ってねえから、当然番号なんて知らない。ついでにマル秘情報的なものも知らない。
知ってるのは鴨橋町に住んでて、3人姉妹の三女で、姉が『丸井ふたば』で、
家事が趣味で、特撮ヒーローマニアってことだけ。
そんくらいはどうせお前も知ってんだろ。
一応丸井んちの電話番号は知ってるけど、教える必要性も意味もないから教えないし、
友達でもないのにいきなり家に電話かけるとか真性の変態だから諦めろ。
なんかで調べてもいいけど、あの人の家族からイタ電と判断されたら、
『丸井ふたば』の取り巻きに即殺されるから覚悟しとけよ。
以上」
もはやテンプレとなった『三女さん情報』を機械的に並べ立てていく。
よどみなくスラスラ言えてしまう自分が果てしなく悲しい。

……しかしあのふたば親衛隊(正式名称は忘れた)の連中、何をどうやって情報集めとかしてるんだろうか?
あいつらにつっこんだら敗けだと思ってある程度スルーしてるが、やっぱ気になるぜ。

「えー、あー……」
ガーッと連射された言葉に圧されて、弓野郎が目を泳がせる。
相手がジタバタしてる隙にさっさと消えるのは簡単だけど、
そしたら今度は下駄箱に手紙コースなのは目に見えてる。だから俺は、ちゃんと釘を打っておく。

「あの日の礼は俺から伝えとくよ。
お前があの日助かったって事だけで、丸井は充分喜ぶよ」
「いや…やっぱりお礼はちゃんと自分で言いたいから………」
さっきまでの歯切れのいいしゃべり方から一転、弓野郎はモジモジもにょもにょしだした。
キメえ。そういうのをやっていいのは可愛い女子だけだ。

「じゃあ普通にAクラ行って言えや」
「そりゃそう、なんだけど………。
丸井さんいつも誰かと居るし、ひとりになるとすぐ消えちゃうっていうかさ………。
ああっ、変な事いうけど彼女本当に『消える』んだよ。ずっと見てたはずなのに、パッと居なくなるんだ。
それでさ、まあ、落ち着いて話せる機会を持ちたいっていうか……」
「落ち着いて、個人的に伝えたいって事は、礼以外の意図が有るってことだろ。
そういうの、丸井には迷惑なだけだぜ。
家と家族の事が忙しいから、今は誰かと付き合うとか考えられないって、
そう言われて学校のイケメン野郎がこぞって振られたの、知ってんだろ。
『髪長姫』は、真剣に忙しい人なんだよ。俺らと違ってな。
だからやめとけ」
「あー……知ってる、んだけど……」
「自分は違うってか?
自分がイケメンだからか?金持ちだからか?学校の人気者だからか?
少なくともこの高校では、自分と付き合えばメリットがでかいってか?」
0129俺に彼女は〜略242012/11/04(日) 19:05:52.52ID:d2TCOxf4
そうだろう。その通りだ。損得で言えば丸ごと得だ。
ぐうの音もでねえ。

目の醒めるような美少女が、三十路前のパッとしないおっさんを想って悩んでるなんて、おかしいさ。

だけどさ、

「勘違いするなよ」


三女さんは自分の『幸せ』を目指して、自分の力で一生懸命頑張ってるんだ。
横から他人がどうこう押し付けんな。


「丸井はただ、拾ったものを持ち主に返しただけだ。そんなの当たり前だろ。
お前と仲良くしたいってんなら、あの日自分で直接渡したよ。
勝手に運命感じちゃって暴走すんなよな」

ただでさえ歳の差があるってのに、相手は元担任だ。しかも小学生のときの。
常識以前の問題だらけだ。ロクな事にならねえに決まってる。
一生懸命頑張るだけ頑張って、傷ついて終わるかも知れねえ。
何も知らないガキが、勝手に夢見てバカやってるだけなのかも知れないさ。

「知ってるだろ、あの人は誰にでも優しくて、親切なんだ。そういう人なんだ。
ちょっとくらいお前が特別だとしても、お前だから特別なストーリーに発展したりなんて無いっての」

んな事は本人が1番わかってんだよ。
わかってて、わかってるから頑張ってるんだ。
恥ずかしがり屋で怖がりで、頭が良い分先の事が気になって、頭の中ぐちゃぐちゃになって、
それでも『外』に出ようって、勇気を出して頑張ってるんだよ。

あんなに小さな、すぐに壊れてしまいそうなくらい華奢な子が、歯を食いしばって頑張ってるんだよ。

「………わかってる、つもりさ。
あんな事がきっかけで上手くいくなんて、本気で思ってるわけじゃない。
だけどせめて、自分の気持ちだけでも伝えたいんだ」

だから押し付けないでくれ。
あの子が自分の足で立って頑張ってる間は、あの子の思うとおりにさせてくれ。
させてあげたいんだ。

俺らは子供だけど、だから頑張る権利は誰にも否定させない。
させるもんか、絶対に。

「お前さ、弓を拾ってきたのが普通の女子でもこんなに突っ走ったのかよ?
さっきの女子みたいに、軽く流して終わりだったろ。
ただ相手が『髪長姫』だから、過剰反応で勘違いしちゃってるんだよ。はっきり言って痛いぜ」
「いっ…いや、そんなつもりじゃないって。
俺は真剣に……」
「俺のダチにもイケメン野郎がいるからわかるんだが、お前ら基本、
女が自分を気にしてるって自惚れがあんだよ。ズバっと言って悪ぃけど。
実際、自分の告白が相手に迷惑になるかもって、真剣には思ってねーだろ。
って言われても理解できないのが変だって、わかれ」
「………………………」
ここまで言われてやっと、勘違い男は静かになる。
悔しい気持ちをぐっと噛み殺し、苦い顔で飲み込む。
0130俺に彼女は〜略252012/11/04(日) 19:06:46.78ID:d2TCOxf4
「じゃあ、キミみたいに」
わけがないよな。
いいさ、ここまで言われて黙ってたら男じゃねえって、それはわかってやる。

「じゃあ今のキミみたいに、彼女への気持ちを押し隠してずっと『いい人』で居ろっていうのかい?
それが正しい選択肢だって?」
「はあ〜〜……。
その手の勘違い、本気で迷惑なんだが。
俺は別に丸井の事をどうこう思ってねえよ」

どいつもこいつも勝手に勘違いするな。

「お前らさ、噂ででもいいよ、俺が丸井の彼氏だ的な妄言吐いたって聞いた事あるか?
丸井と付き合いたいみたいな不相応な夢を語っちゃってたって、聞いた事あるか?
お調子者のバカな男なんだから、そういうの思ってたらダチにポロっと漏らすだろ。
俺はお前らよりよっぽど現実見て生きてんだよ。
丸井とはちょっと関わりがあるだけだって、自分の立場を知ってるんだ」

俺は勘違いした事なんて1度も無い。
知ってるんだ。直接聞いたから。



―――そうだね。私らしくないよね。…でも、だから変わらなきゃって思ったんだ。
―――先生のパソコン。今の…ううん、これまでの生徒達の事がすごく細かく書かれてた。
―――先生にとって、誰かを助けるっていうのは、誰かの幸せのために頑張るっていうのは当たり前の事なんだよ。
―――先生と一緒に居るには、『私』のままじゃふさわしくないんだって、そう思ったの。
―――先生みたいになりたい。いきなりは無理だけど、できる事からやってみようって、そう決めたんだ。
―――先生へ――
―――先生を――

―――私は、先生が――



だからずっと、ちゃんと、『登場人物A』の端役を、端役らしくこなして来た。

ただ、思っただけだ。

「ま、あいつの苦労もちったあ理解してるから、
お前らみたいなのに聴かれれば、正直に答えてるんだよ」

想いを語る横顔がすごく綺麗だって。
頑張って誰かに手を差し伸べて、なのにこの娘が傷つくなんて、すごく悲しいって。

それだけなんだ。

「………………………」
やれやれ、黙ってくれたか。今度こそ話は終わりだな。
0131俺に彼女は〜略262012/11/04(日) 19:09:38.92ID:d2TCOxf4
俺はそう判断して壁から背を離し、黙りこくった野郎を置いて下駄箱へと「関わりって、小学校の時のかい?」


!!?


心臓が凍る。ギョッとしてモロに背中が震えたのが自分でもはっきりわかる。
一瞬後には、動揺しちゃまずいだろって脳が命令するけどもう遅い。今のキョドりは見られちまった。
何だコイツ何で知ってんだ偶然か偶然だろ落ち着け探りを入れろあくまでサラッと背中向きのまま!

「な…ナにいってんダお前?」
アホか俺!声が上ずってんぞ!

「噂で聞いたんだ。
丸井さんが小学生の時の担任と……その…デキてるって。
千葉は…何年生のときか知らないけど、その担任のとき丸井さんと一緒のクラスだった……んだろ?」
ちょっ…マジでか!?んな噂が流れてんの!?
8割方正解に辿り着いてんじゃねーか!!

「…………はあ?
お前頭ダイジョーブか?エロ漫画かなんかの読みすぎじゃねーの?
俺、小学生のとき丸井とは2、3回同じクラスだったけど、
んなエキセントリックなロリコン教師なんて出会ったことねーって」
必死で心臓を押さえつけ、乾いた喉を湿らせてから、なんとかばかばかしそうな声音を引き出す。
……背中向きのままってのが不自然なのはわかってるが、しょうがないだろ。
汗だくの顔を見せるわけにはいかねえっての。

「………そりゃ、まあ、確かにありえない話だけど……」
「だろっ!?」
相手が迷いを見せてくれた分、こっちに余裕が戻ってきた。
勢いのままバッと振り返り、ガンガン畳み掛けてやる。

「教師と生徒がなんて漫画だぜ?しかも出会ったのは小学生の頃だぜ?常識で考えてありえねーだろ。
いるんだよな〜。他にも『幼なじみフラグ』とか真顔で言う奴もいたし。痛ぇっての。膿んでんじゃねえか。
何であの超絶美少女があんなおっさんを好きになるんだっつーの。
アレだろ、どうせ三女さんに振られたヤツが腹いせに広めたデタラメだろ?
お前、嫌がらせの片棒担いでんのと一緒だぜそれ。最低だよ。もう忘れろってんなネタ。
………なんかしょっ…証拠、みたいなのでもあんのかよ?」
「……………………」

無いだろまさか?黙ってんじゃねーよくそっ、さっさと答えろ!心臓がめちゃ痛いんだよコッチは!!

「無い、さ。噂だけだ」

よっしゃあ!! 「でも」 なんだよ!?

「じゃあ何で千葉はそんなに髪長姫に近いんだい?」
「…そりゃどーいう意味だよ。俺みたいなバカゴリラが髪長姫と仲いいのは納得いかねーってか」
「……悪いけど、そういうの、有る」
だよなー。俺もすげーそう思うわ。
超マズイ。俺のせいで三女さんに迷惑かけるなんざ、最悪だ。

「お前、素でむかつくな。
……あのなぁ、俺は丸井と近所で小中一緒なんだ。ちっとぐらいは親しくなるっての。
あいつだって人間なんだから、誰とも関わらずに生きてくなんて、それこそありえねえだろ」
「その条件で括るなら、該当する男子はこの学校にも沢山居るじゃないか」
「そ…そりゃそう、なんだけどよ……」
だぁ〜、やっぱこれは答えになんねえか!
わかっちゃいたが厳しいぜ。
0132俺に彼女は〜略272012/11/04(日) 19:10:24.90ID:d2TCOxf4
「それにさっき千葉は言ったよな、『関わりがある』って。
やっぱり何かあるって事だろ?」
「うっ……」
俺のウルトラスーパーバカ野郎!!
なに調子乗って余計な事くっちゃべってんだ!!
ええいちくしょう、どうするどうする!?早く反論しろ黙ってちゃ余計怪しいぞほらもう5秒は経った早く!!

「……ちっ、しゃーねえ」
「?」
「まあホントの事言うと、丸井がかなり親しくしてる野郎が居てさ。
付き合ってるとか、そういうわけじゃねえけど」
「……やっぱりそうなのか」
「ああ、佐藤って言ってな」
困ったときのイケメン頼りだ。
許せ佐藤、巻き込ませてもらうぜ。お詫びに今度うまい棒奢るからな(それ以上奢るつもりはない)。

「そいつこそ丸井と超近所でさ、もちろん小中と一緒だった…っていうか、
幼稚園から11年間ずっと同じクラスだったんだ。
今はそいつ私立行ってるけど、やっぱそんだけいつも一緒に居たらそりゃあな。
しかもそいつ、イケメンで頭良くてサッカー上手くて結構金持ちなんだよ」
やべー。佐藤を殴りたくなってきた。

「何よりすげえのが、そいつの丸井への尽くしっぷりでさ。
ガキの頃からずっと、丸井が願ったら何でもやった。
ちょっと見てて引くレベルで何でも。
丸井が『空を飛んで来て』って願ったら、飛ぶレベル」

どうやってかって?知らねーよ。でも飛ぶんだよ。
ふたばが願えば、あいつは何だってできるようになるんだから。

「…じゃあ、なんで別々の高校に進んだんだい?」
「さっきも言ったが、別に付き合ってるってわけじゃないからな。
傍から見てるとなんだそりゃ、って感じだが……ま、そういう関係。
それに丸井も最近は、あいつの負担になってるって気付き始めたみたいで、
ちょっと距離おいて自分で何でもやろうってしてるんだ」
松原との事も含めて、さ。
それがわかってないのは佐藤だけだ。本当にバカな男だぜ。

「んで、俺はその佐藤とガキの時からつるんでるんだよ。
むしろコンビ組んでた。漫才でようぜってくらい。
さっきイケメンのダチが居るって言ったろ?そいつ。
だからそいつを挟んで、俺は丸井とちょい関わりがあるんだよ」

『上手い嘘は真実を何パーセントか混ぜること』。
昔そう本で読んだ気がするが、本当の事だったんだな。
スラスラと『間』を埋めるネタが出てくるぜ。
0133俺に彼女は〜略282012/11/04(日) 19:12:44.44ID:d2TCOxf4
「あんま見せたくねーけど、そいつと俺と丸井が一緒に映った写メあるぜ。
髪長姫の写メだぜ?
知ってるだろ、写真に撮られるの嫌ってて、しかも勘が良いから盗撮もできないって話。
その写メがあるって意味、わかるよな」
ここは、賭けだ。
本当は三女さんが映ってる写メなんてねえ。
見せたくない理由は用意してるし、佐藤と俺の(ふたば撮影)はあるから、リスクは小さくできてるが、
それでもかなり踏み込んでる。
口調はさっきまでと同じでダルそうな演技を続けてるけど、心臓はバクバク鳴って痛いくらいだ。
頼む、上手くいってくれよ……!

「……見せたくないって、どういう事さ?」
「見せたら、こいつなら勝てるかもとかお前が思うだろ。
ぶっちゃけお前なら、佐藤とイケメン度は互角だと思うし、あいつ背ぇあんま無いからなー。
それがめんどくさい。
別に見せたくないのはお前だけってわけじゃないぜ?
変に現実見せて基準を作ったら、学校中色々めんどくせーことになるだろ。だから佐藤の存在自体隠してる。
つか、当然丸井だってこんな完全プライベートな事に踏み込まれたくないだろうし、
正直勝手にこんだけ話した上、写真まで見せるのは俺もすげえ気まずいんだよ。お前にんな義理もねーし。
ケチくせえだろうが、でかい『貸し』にさせてもらう。
それでもどーしてもって言うなら、見せてもいい」

さあどうだ!?

「……わかった。ごめん、いいよ写真は。
それに俺のわがままで、もうかなりキミたちのプライベートに踏み込んだよね。本当にごめん」

よっしゃあ!!パート2!!

「そういうこった。
あ〜あ、貴重な放課後を30分も使っちまった。つか、お前も部活いいのかよ?」
「ああ…ごめん、そうだね。部活には遅れるって言ったけど、確かにもういかなきゃ」
「おう、お勤めごくろーさん。
んじゃあな」
長居は無用だ。
俺は右手をひらひら振って、この場からさっさと離れることにする。

あー疲れた。

「ごめん!もうひとつだけ!!」
パアン、と手のひらを合わせる音と共に、弓野郎が声を張り上げる。
こいつの声質は良く通るから、結構遠くまで響いたみたいだ。
校舎の方を通っていた女子が、びっくりしてコッチを向いたのが見えた。

まだあんのかよ……。
0134俺に彼女は〜略292012/11/04(日) 19:14:50.38ID:d2TCOxf4
まだあんのかよ……。

「あんだよ?」
「……その佐藤くんとは、付き合ってるわけじゃないんだよね?」
「ちっ…『まだ』な。そういうレベル。
未練がましいぜ、お前。
さっきも言ったが髪長姫にちょっと優しくされて勘違いして、俺にこんだけ時間使わせといてよぉ。
おまけに突っ走って丸井に迷惑までかけるようなら、流石に普通にキレるぜ。あんま関係ない俺でも。
そういうの、全部考えて行動しろよな。すでに普通人の俺から見て痛いぞ」
「………ああ、わかったよ。度々ごめん」
再三俺が釘を打ち込んでやっと弓野郎は話を打ち切り、神妙な顔で再び頭を下げてから校舎へと消えていった。

……あれだけやっておけば大丈夫、だろう。と思いたい。
にしても、反省点ばっかだったなぁ。特に最初のがまずかった。
かなりあやふやな噂だったし、キョドらなけりゃどうとでも誤魔化せたはずだ。
あらかじめの心構えもだが、なんか作戦考えるかぁ……。

「はぁ〜あ……めんどくせ」
0135ガンプラ2012/11/04(日) 19:21:05.39ID:d2TCOxf4
今週はここまで。
まだプロットの3分の1という絶望感。

続ければ続けるほど、話の整合性をあわせるのが難しくなります。
わかってたことではあるんですが。
0136名無しさん@ピンキー2012/11/07(水) 07:35:27.64ID:ZUcKsUTV
頑張ってくだされ
本編読んでると、みつばと千葉は
悪友っぽい仲の良さだけど、高校でも相変わらずなのね(´・ω・`)
0137ガンプラ2012/11/11(日) 23:35:52.15ID:OM0lZ+Ls
>>136
激励ありがとうございます。

悪友っぽさを感じていただければ、嬉しい限りです。

ぶっちゃけ、私のSSの時間軸というか世界観では、
このふたりが付き合う的な事はないです(一生スパンで)

原作でも千葉は男の子コミュニティ、みつばは女の子コミュニティで動いていて、
全く違うタイムスケジュールで行動しているので、
離れてしまえば(高校が別々、など)ほとんど接点なくなりそう。
0139名無しさん@ピンキー2012/11/18(日) 02:46:04.51ID:ub3Q3kFt
みつば「なんで寝巻きで来てんのよ!?」
ふたば「着替えをしないまま登校してしまったっス うっかりうっかり」


田渕「なんか今日のふたばはエロくないか?」
千葉「お前もそう思っていたか・・・あの格好だと胸と太ももが強調されるからか?」
三好「そういやハロウィンパーティーで狼コスプレしてた時はちょっと尻が見えてて興奮しちゃったぜ」
佐藤「お・・・お前らふたばをイヤらしい目で見るな!!」
0141名無しさん@ピンキー2012/11/18(日) 21:22:19.94ID:dx1+2DDO
いくらなんでもあれは無防備すぎる

校門飛び越えるところはヤバすぎるだろう
0142ガンプラ2012/11/23(金) 20:31:26.66ID:lUk7hRSe
風邪をひいた……。
治りかけだけど。
0143俺に彼女は〜略302012/11/23(金) 20:32:05.37ID:lUk7hRSe
――――――――――


「だ〜っ、やっぱ今日はスロットやめときゃよかった」

ゲーセンの自動ドアを潜ったところで、日の落ち始めた空に向かってひとり愚痴る。
せっかくのメダルがかなり吸い込まれちまった。
気のノらねえ日は、出が悪いんだよな。わかってはいたんだが……ちくしょ。
ムカつきをちょっとでもごまかすため愛用の『69』帽のツバを意味無くいじってから、
俺はチャリ置き場へ足を向けた。

あの後一旦家へ帰った俺は、着替えてからノートをコピーしにコンビニへ行こうかと思ったんだが、
気を勉強に向ける気力がどうしても沸かなかったんで、ちょっと気晴らしに駅前までやってきた。
が、結果は見ての通りってわけだ。チッ、順調に増やせてた最初でやめときゃよかったぜ。

「くそっ」

イライラする。
何がってわけじゃねえ、何もかもがムカつく。
チビ女も、弓野郎も、杉崎も。
シノケンまで好き勝手いいやがって。何が『髪長姫を脅してる』だ。ふざけんな。
ムカつく。ムカつく。ムカつく。じめついた重ったるい空気も鬱陶しい。
モスグリーンのタンクトップに薄手の迷彩ズボンの、これ以上ないくらい軽装なはずなのに、
汗が後から後から吹き出てくる。
太陽が居なくなったんだから、とっとと涼しくなりやがれってんだ。

「……晩メシ食ってとっとと寝るか」
今日はもう何もする気になんねえ。ノートのコピーも明日で良いや。どうせ一週間あるんだ。

この後の予定を脳内で組み上げた俺は、まとわり付いてくる鬱陶しいモノ全部を蹴り飛ばすつもりで、
足をペダルにたたきつけた。

シャー

うっし、我ながらいい加速だ。そしてハンドル捌きも華麗だぜ。
車と歩道の間に生まれた細いスペースを縫って、駅前を駆け抜ける。
前輪によって高速で回されるダイナモが、俺を喝采するかのように快音を鳴らす。
そして風が身体に当たり汗を吹き飛ばすと同時に、雨の匂いを運んできた。
くあ〜っ、涼しくて気持ちいい……雨の匂いだと?
0144俺に彼女は〜略312012/11/23(金) 20:33:53.84ID:lUk7hRSe
パラパラ...ザー

「げっ」

水滴が帽子のツバを叩いたとおもったら、すぐさまアスファルトが真っ黒に染まった。
よりにもよってゲリラ豪雨かよ。とことんついてねえ。
…かまうもんか、濡れたってすぐ乾く格好だし……?!
さらに加速するため足に力を込めたところで、視界とケツがガクガク揺れだした。
この感触……嘘だろ、パンクしやがった!!
急いで愛車の後輪に目を向けると、予感の通りタイヤが無残にひしゃげてやがった。

今日は最悪だ!!

泣きたくなる気分を押さえ込んで、とにかく避難場所を…と見回すと、
ちょうど進行方向左手に、シャッターの下りた文房具屋が軒先を突き出しているのが見つかった。
俺は残っていた勢いごと、安全地帯へとチャリごと滑り込ませる。

ザー...

「ふう……。
あぁ……最悪だ……」

…はぁ〜あ、パンクしちまったものは仕方ない。
この勢いが長く続くわけねえし、ちょい雨宿りしてから押して帰るか。
おふくろに晩メシ待ってくれって電話……ま、いいか。めんどくさい。言わなくても待ってくれるだろ。

ジャバジャバジャバ

「そこの緑色!ちょっとどきなさい!」
「あん?」
一息ついたところに突然、盛大な雨しぶきと一緒に、命令形が俺に向かってきた。
その方向へ顔を向けると、濃い目の茶髪の女が必死の形相でチャリをこいでいるのが雨のカーテン越しに見えた。
運転者の様子と裏腹に、その速度は大したことはない。
前カゴいっぱいにつまったスーパーのレジ袋のせいも有るんだろうが、それにしたって遅い。
……体力無い上、自重が重いんだよな、コイツ。

「……!!
ぼさっとしてんじゃないわよデカブツゴリラ!私が風邪ひいたら国家の一大事よ!
さっさとどきなさい!」
向こうも俺だってことに気付いたみたいだ。根拠不明の上から目線がさらに一段昇った。
いきなりこんな態度で来られたら拒否するのが普通だろうが、こんなヤツでも付き合いは長いんだ。
心の広さを見せて場所を空けてやるとしよう。

「へえへえ。
久しぶりだなみつば…って待て停まれ危ねぐわっ」
「きゃっ!」

ガシャン!

信じられないことに長女は、勢いを殺さず鉄のフレームごと突っ込んできやがった。
スペースを空けようと体を傾かせていた俺は、(雌豚の体重+自転車)×スピードを喰らって、
濡れた石畳に勢い良く吹っ飛ばされてしまう。
0145俺に彼女は〜略322012/11/23(金) 20:34:27.08ID:lUk7hRSe
「いってえっ!」
「おっとっと……ふう、上手く停まった。
あー、これでひと安心だわ」
なんとか上半身を起き上がらせると、さっきまで俺の立っていた場所では、
長女が満足そうな表情で人心地ついていやがった。
そのまま、背中まで伸ばした髪を慣れた手つきで軽く絞り、赤いカチューシャを一旦外してパパッと水滴を払う。
謝罪の言葉は一向に出てこない。

「なに考えてんだクソ女!!停まれよ常識以前の問題として!!」
「うっさいわね。
私の進行方向にボーっと突っ立てるからよ。ほら、あんたの自転車も早く退けなさい。
私のがちゃんと入らないじゃないの」
「マジぶっ殺すぞ雌豚!!」
「ぎゃんぎゃん吠えないでよ、うっとうしい。
早く自転車退けなさいってば。特別にあんた自身は端っこに入らせてあげるから」
「ここ、俺が先に入ってたろうが!お前が出て行けよ!!」
「こんな美少女が、あんたみたいなガラ悪いゴリラと一緒に雨宿りしてあげようって言ってるのよ。
ありがたく思いなさいよね」
コッチの命令を無視して、長女は自転車から降りて本格的に滞在準備を始めやがった。
デニムの短パンからハンカチを取り出し、薄ピンクのキャミソールから露出した肩を丁寧に拭いていく。
動きの振動で、アゴ先から雨粒がひと粒ポトリと落ちて、胸の谷間に消えていった。
……こいつ結構おっぱいでかくなったよな……って違う!

「おい!出て行けって言ってんだろが!!」
「こんなか弱い女の子を雨の中放り出そうなんて、どうかしてるんじゃない?
いいじゃない、あんたもあんたの自転車も、濡れようが雷にうたれようが大した被害じゃないわ。
こっちなんて明日明後日のお弁当のおかずが入ってるのよ」
言って、長女はカゴのレジ袋を指差す。

……ちっ、気に入らんが、しょうがねえ。

「……なんでお前がスーパーで買い物なんてしてんだよ」
立ち上がって軒先へと戻った俺は、渋々ながらも自分の自転車を雨の下へと移動させる。
長女がこんなもん持ってるときに出会っちまうとは、タイミング悪いぜ。

「バイトの終わりとスーパーの特売が重なるから、ひとはにいつも色々頼まれてんのよ。
私は年がら年中能天気に遊びまわってるあんたと違って色々考えてて、色々忙しいの。
そっちはどうせゲームセンター帰りでしょ?」
「うるせえ」
「あんたただでさえガラ悪いんだから、もうちょっとマトモな遊び方しなさいよ。
しかもなにそのカッコ?かっこいいつもり?暑苦しいのが余計ひどいわよ。
ワキ、毛が見えてキモいんだけど。死になさい」
「うっせえ!!」
なんでこいつは…女ってのは余計なことばっか言うんだ。ムカつくぜ。
怒鳴られたのを気にせずに、澄ました顔でケータイいじってんのが更にムカつく。

「…あっ、もしもし。ひとは?
…うん、最悪。ちょっと雨宿りして帰るわ。
…大丈夫よ。隣に千葉居るから。こいつ無駄にゴツイし。
…そうね。ま、ブタゴリラの方は、美少女を襲ってると勘違いされて通報されるかも知れないけど」

あーくそっ!さっさと止めよ雨!!
0146俺に彼女は〜略332012/11/23(金) 20:35:10.79ID:lUk7hRSe
ザー...


「……………」
「……………」
長女の自転車を挟んで、シャッター左端で俺が、右端で長女が、それぞれ背を預けて降りしきる雨を眺める。
雨の勢いは大分ましになったが、まだここから踏み出そうとは思えない。
頼むからマジでそろそろ止んでくれよ。腹減ってきた。
さっき跳ねられたときに、トランクスまでぐしょぐしょになったから気持ち悪いんだよなぁ。
いい加減左肩が冷たいのも我慢できなくなってきたし。雌豚の野郎、横幅でかいんだよ。

「ねえ」
雨音に、違う音が混じる。

綺麗な声だな。

不覚にも、感想を浮かべてしまう。
昔から思ってたが長女は……こいつら三つ子って、妙に綺麗な声してやがるんだよな。
……まあ、綺麗なのは声だけじゃなくて……三女さんとは比べもんになんねえけどさ。

「ねえって言ってるでしょ。
私が呼んであげてるんだから、1秒以内に返事なさいよ」
「うっせ。…なんだよ?」
「あんたこんな遊びまわってていいの?
バカ過ぎて進級も危ないんでしょ。ひとはが心配してたわよ」
「超大きなお世話だよ!!」
「来週テストなんでしょ。
成績のいいひとはが帰って勉強してるのに、最底辺バカのあんたがゲームセンター行ってるとか、
寝ぼけてるか脳が腐ってるとしか思いようがないんだけど」
「う・る・せ・え!
さっきから大人しく聞いてやってりゃ、誰がバカだ!誰が!!
てめえとは高校自体のレベルに差があんだよ!!
東高でギリ中間のお前が相手なら、余裕で俺のが上だっての!!」
「なっ…なんですって!!」
自転車の向こうで、赤カチューシャ女が目を吊り上げる。
はんっ、そうだよこんなヤツ相手にムキになることないんだった。立場は俺の方が遥かに上なんだ。

「おっと、俺としたことが。
東高のバカ女相手に声を荒げるなんて恥ずかしいぜ。いかんいかん」
「むっか!
なによ、あんたなんてちょっとバクチに勝っただけじゃない!
中3のとき、担任から無理だからやめとけってしきりに言われてたくせに!!
むしろあの頃、私の方が順位上だったでしょ!!」
「はぁ〜あ、負け犬の遠吠えは哀れですなぁ。
あっ、『負け犬の遠吠え』って意味わかりますかぁ?難しい言葉使ってすみませーん」
「ぜったい殺すブタゴリラ!ムサい!汗臭い!ハゲ隠しの帽子がウザい!!」
「帽子の下は普通だよ!!何回言えばわかんだバカ女!!」
「どぉ〜だかしらね。
何年も何年も、わざわざ古臭い学帽まで買って被ってるなんて、ハゲてるからとしか思いようがないわ」
「違ぇってんだろ!
帽子はトレードマークっつーか、繊細な男心があんだよ!!」
「なによ男心って!キモいわね!!さっきも文句言うふりして私の豊満なおっぱいガン見してたし!!
キモ過ぎてキモ死しなさい!!」
「うっ…なっ……見てねーよんなもん!
豊満っつーかお前はただの豚だろうが!!
土日に思い出したかのようにジョギングしてるのが見苦しいんだよ!!」
「あっ…あれは健康のためにやってるのよ!ダイエットなんか私には必要ない…あっと」
無駄な反論の途中で、長女は身体をビクッとひるませたかと思ったら、
慌てた手つきで短パンのポケットからブルブル震えるケータイを取り出した。
0147俺に彼女は〜略342012/11/23(金) 20:35:56.30ID:lUk7hRSe
「ロッカー入れた時にマナーにしたまんまだったわ……家か」

ピッ

「…なに?今忙しいんだけど。
…えっ、とっくに雨やんでる?」
「お?」
長女が向けた目線を追って外を見てみると、空には三日月がくっきり浮かんでいた。
どうやら目の前の事に注意を奪われて、無駄な時間を過ごしちまったみたいだ。

「…色々あったのよ。
…わかってるわよ、すぐ帰る。じゃね」

ピッ

「ああもうっ、あんたのせいで晩ゴハンが遅れちゃったじゃないの」
文句を垂れながら、さっそく長女は自転車のスタンドを戻して発進の準備を始める。

「こっちの台詞だっての。
…………あー、送って…俺、ゆっくり目だったら漕いで帰れるぜ」

何言ってんだ俺は。……いやしゃーねえだろ、もうかなり暗いんだから。
こんなヤツでも一応女なんだし、むしろ帰り道ほとんど一緒なんだから当たり前っつか、いいじゃん!
そういう気分のときもあるんだよ!!熱くなんな俺の顔!!

「?
……ああ」
いざ出発しようとペダルに足をかけた格好で、長女が振り返る。
ぽかんとしていたのは一瞬で、すぐ俺の意図に気付きやがったのか、目を糸にして楽しそうに笑った。
最悪だ。いつもみたいに気付かず流せよな。
しかも……ちくしょ、こういうときだけ素直な笑顔とかやめろ!!

「大丈夫よ、15分もかからないんだし、この辺明り多いし。
あんたこそ風邪引かないよう、さっさと帰ってシャワーでも浴びなさい。
ちゃんとテスト勉強もしなさいよ」
「うっせ。とっとと行け雌豚」
「じゃあね。
ひとはを心配させてるって事、ちゃんと考えなさいよ」
最後まで余計なひと言を残して、太めの身体が風に乗る。
0148俺に彼女は〜略352012/11/23(金) 20:36:37.68ID:lUk7hRSe
ジャバジャバジャバ...

さて俺も行くか、と愛車のハンドルを押したところで、

「あっ!そうだー!!」
前の方で小さくなった背中が止まって、大声を上げた。

「あんだよー!」

「肩、濡らしてくれてありがとー!一応お礼言っておいてあげるー!
本当に一応だからねー!!勘違いしないでよねー!!!」

ジャバジャバジャバジャバ

……屋根から外れたとこまで寄ってたの、バレてたか…。
あぁ、くっそっ!!
いつもいつも鈍いくせに、なんでこんなときばっか勘が冴えてんだ、あの女!

「何もかも上手くいかねぇな!!」
むしゃくしゃする気分をまぎらわすため、すぐ横にあった空き缶入れを蹴っ飛ば……そうとして、やめる。
……俺は別に不良じゃねえんだ。無意味に物壊したり汚したりしないっての。

「……ううっ…風が寒ぃ……。
ちっ……」



そして家へ帰ると、晩メシはとっくに片付けられていて、
俺はカップラーメン2つで我慢するハメになった。



なんだそりゃあ!!!

「当たり前に決まってるだろ。
遅くなるなら連絡よこしな、バカ息子」
0149俺に彼女は〜略362012/11/23(金) 20:37:25.98ID:lUk7hRSe




机の上に広げたノートには、綺麗な文字が綴られている。
うむ。持ち主のイメージ通り、コンパクトで良く整ってる。
更には赤青緑のペンで色分けされて、華やかさも備えてると来た。
唯一問題なのは、内容が全くわからん事だ。

「ジドウシにタドウシぃ?
めんどくせーなぁ……」

英文の上下に書かれた『ポイント』らしき日本語は、
けれどさっぱり意味がわからず読み手を混乱に陥れるばかりだ。
外人はマジでこんなの意識して会話してるんだろうか?アメリカ人に生まれたかった……。

「……だーヤメヤメ!
今日はシャワーあびたしメシ食ったし、もう勉強無理!早めに寝て明日の朝やろう!!」

サクッと英断を下して、教科書とノートを本棚(8割漫画で埋まってる)に戻す。

「……………………」
戻した手をずらし、本棚からB5サイズの薄い紙包みを取り出す。
大分手垢が付いてしまったが、昔からむしゃくしゃしてるときはなんとはなくこれを見てしまうんだよな。
なので、まあ、やっぱり今日も手にとってしまったというわけだ。

俺は左手で紙袋を軽く持ち、右手で慎重に、貴重なその中身を引き出す。
中身……かなり昔の『主婦の友』を。
0150俺に彼女は〜略372012/11/23(金) 20:37:56.04ID:lUk7hRSe
『私があげたせいで殴られちゃったね…』
『いいよ』

「……………三女さん……」
表紙を見ていると、色んな事を思い出す。
コレをプレゼントしてもらった日の事とか、一緒にザリガニ釣った事とか、
鉄棒でちょっとしたイタズラをしてしまった事とか。

中学の帰り道に見た、夕日に浮かぶあの笑顔とか。

明るい思い出が内側に染みこんで、心を緩ませてくれる。
無礼な雌共……松原もチビ女も杉崎もみつばも、まあ許してやろうかという気持ちになる。
まったく。ちょっとは三女さんを見習って、おしとやかにしろよなあいつら。
ふた言目にはキモいだのイタいだの。この俺のどこが………………「おいちょっと待て」

あれ?冷静になると俺、なにを何年も前にシャレで渡された本を大事してんだよ。
しかも表紙だけ見て癒されてるとかマジでキモくね?
ってか、運よく近所に住んでるってだけで何も頼まれてないのに、バクチの受験してまで同じ高校入って、
そのせいで補習で苦しみながら付きまとってるって、カンチガイ野郎もはなはだしくね?
真性にイタい気が……。

「……寝よう!」
今度こそ決めた!今日はもう寝よう!

本を紙袋へ、そして本棚へ戻す。
明りを消して、ささっと布団へ身体を横たわらせ、ぎゅっと目を閉じれば……


『突然調子付いて、かなりイタかった』
『自分ができへん方やってわかっとるなら、人の倍の努力しろや』
『底辺な自覚が全然足りないのよ』
『ちゃんとテスト勉強もしなさいよ』


「わかったよ!地道に毎日勉強すりゃいいんだろ!!!」

もっかい、今度こそ、俺は真面目に机に向う。
夢見てるだけじゃ、明日はマシにならないことくらいわかってんだよ、俺だって。
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