「見事に肉ばっかり食べてたねレヴィは…」
「何か文句あんのかよ、野菜を食わせたきゃ焼き野菜屋へ連れてけってんだ」
「そして時々江戸っ子みたいな言い回しするよね…。それはそうとはい、キャンディ。お約束のミント味」

会計を済ませ焼肉屋の香りを否応無く吸い込んだ上着を羽織ったロックは、同じく焼肉屋の香りを吸い込んだ上着着込み済みのレヴィに、例のブツを渡した。

「どっから出てきた?」
「日本の焼肉屋の定番サービスでね、アブラっぽい焼肉を食べたあとはキャンディなりガムなりでスッキリしてもらおうっていう。ほら、レジのとこ」
「へー。焼肉食って精力つけたらミントキャンディで口直しのキスしてラブホテルってとこにしけ込むって流れか日本人は」
「いやあのレヴィさんそれ間違ってないけど間違ってるし第一そんなのどこで」
「エダがな、日本人が男女で焼肉を食いに行くってのはハリウッドあたりで言う恋人同士が牡蠣を食べに行くってのと同じ意味だからって。仕事でロックと日本に行くつったらよ」
「…あ…、えっと、レヴィ?そういうつもりで焼肉にした訳ではないからね?そんなギョーカイっぽい暗喩を唐突に出して来ないでくれるとありがたいんだけど。フライデーされる芸能人じゃないんだから…」

口に放り込んだミントキャンディを、八つ当たりとばかりにがりがり噛み砕いたロックであった。
ああ、飴といえば。

「レヴィ、ちょっとコンビニ寄ろう」

1年ぶりの日本、好物だったソレ。
あればいいなと思ったものがそこにあったのだから、もうこれは運命だとのぼせるしかなかった。
パッケージを開け、レヴィにもそれをひとつ渡す。
紅茶味のそれはまだ口に残る風味と混じりあい、ミントティーの味わいになった。



ホテルの部屋に戻るころには、2つ目の飴も香りをなんとなく残すばかりとなっていた。

「ん…んん…」
「あ…ふ、ん…」

ギョーカイっぽい暗喩がなんだって?
案の定、である。
部屋のドアを閉めた瞬間にどちらからともなく絡む指、舌、膝。
上着も脱がず、明かりも付けず、ベッドまで待てず。
否、始めてしまったものの、ベッドで濃厚に楽しむにはまだ二人とも早かった。
たらふく食べた焼肉がそんなに簡単に消化できるはずが無い。
焼肉デートに臨む恋人同士は食欲と性欲の折り合いをどこでつけるのか、誰かアンケートでもとっていないものだろうかと一瞬ロックは真面目に考えてしまった。

「もう少し…歩いてから戻れば良かったね…」
「お、おう…」
「じゃあこれ、キスのかわり」

ロックはポケットからさっき買った飴を取り出し、レヴィの口にぽんと入れた。
自分の口にも一つ入れて、ふわりとレヴィを抱きしめる。
レヴィの背中からお尻を少しだけ未練がましく撫で、壁に背中からもたれ小休止だ。

「ロック、苦しい…」
「あ、ごめん…」

ロックは壁にもたれたまま、レヴィを逆に向かせ背中から抱きしめ直す。
これはこれでついつい、彼女のウエストだの下腹部に手が行ってしまうのだが…。

「ん?」
「あ?何だよ?」
「…レヴィ」
「だから何だって」
「レヴィはやっぱり野菜も食べるべきだったよ」