>>292

 さくやがむせている。
 冷静に事実を確認したペルシャは、強烈な悪臭を放つ一本の異物に目を向けて一言漏らした。
「……あれ? さくやちゃん、全部飲みほしてないよ?」
 さくやは続けざまに飛び出してくる粘着質の白濁液を茫然とした顔で受けている。
 ペルシャは目をさくやの肩を揺すった。さくやの目がペルシャに焦点を合わせる。
「なぁ、ぺルちゃん。こんなんおかしいで、やっぱ……」
「何もおかしなことなんてないよ。マイス君の性癖だよ。それとも、男の人のこういう部分をさくやちゃんは受け入れられないの?」
 さくやは頑なに首を振った。
「違う、そうやない。こういうのは夫婦の営みとしてやるもんや。こんな、むさぼるように、するものじゃぁ」
「泣きそうなのはわかるよ。わたしも初めはそうだったから。でもね、慣れるから大丈夫っ!」
 さくやは呆けた顔をして華やいだ笑みを浮かべたペルシャを見つめる。
「お手本見せてあげるねっ!」
 嬉しそうに縛られたマイスの下腹部にペルシャが顔を近づける。
 立ち上るような異臭を前に、ペルシャの愛嬌ある顔は歪まない。
 徹底して笑顔だった。
「どうする? 舐める? それとも、いじってほしい?」
 マイスの猿ぐつわを取り除いて、ペルシャは微笑む。
「な、舐めていじって! くださいっ!」
 マイスはあらん限りの声を張り上げた。
 声が外に漏れていることにはお構いなしに、マイスは立て続けに叫ぶ。
「さくやさん、良ければ君も、ペルシャさんと一緒にお願いします……ッ!」
 言い終えてマイスはせき込む。
 愛おしそうにマイスを見つめるペルシャの視線が、隣に向いた。
「さくやちゃん、一緒にだって。どうする?」
 さくやは固まって動かない。
「信じられないって感じだね。マイス君がこんなこと言うなんて思ってなかったの?」
 さくやの顔に付着した粘液をペルシャは舌で舐めとった。
「ん、不味いねっ♪」
 マイスのしぼみかけていた一物が再び膨張を始める。
「マイス君、今の良いの? なら何度でも言ってあげる。不味い、不味い、とっても不味い!」
 マイスの腰が浮く。キツく巻かれていたはずの縄が緩んでいる。さくやは青ざめた顔をして後ずさった。
「な、なぁペルちゃん。念のために聞くんやけど……まさか、結婚もしてないのに、夜の営みとか、しとらへんよね?」
「やだなー。そんなことしたらただのいきづりの女になっちゃうって、しののめさんが教えてくれたでしょ?」
 さくやは床に倒れ込んだ。
「せ、せやな。驚かさんといてや。良かった、ホンマ良かった……」
「でもね、油断してると狼さんになったマイス君にやられる可能性があるから、気をつけて」
 真面目くさった顔で忠告するペルシャの顔を見て、さくやは噴いた。
「な、なんやねん。こんな状況なのに……っ、くくっ!」
「わたしが冷凍マグロを持っている理由だよ〜♪」
 ペルシャはマイスの方を見た。
「さくやさん……僕に、してくれないんですか……?」
「だって。さくやちゃん、どうする?」
「無理やな。残念やけど、マイスはんはホンにええ男やけど、諦めるとするわ」
「じゃあ、マイス君はわたしのものだね♪」
「凄いなぁ、ぺルちゃん。よくこの悪臭と付き合えるなぁ……ウチはまだ子供やな」
 ペルシャはさくやに身支度を整えさせると、何も言わずに玄関扉を開けた。
「……さくやちゃん、あのね」
「わかっとる。このことは口裂けても言わへんよ。おかんにはバレそうな気ぃするけどな」
 笑顔で別れた。
 後ろ手に玄関扉を閉め、ペルシャは目の前の想い人と対峙する。