「…雨、降ってきたわね」
「そうですね…」

事後処理と着替えをすませた岩下さんが、すました顔をして言う。
「もう、帰るでしょう?」
「ええ。あまり遅いと、親に余計な心配をさせますから」
時刻は既に夕方だった。まだまだ夜は長いにしても、そろそろ帰らないとまずい。
「よかったら、これを使って」
そう言って岩下さんが差し出したのは、玄関口の傘立てにあった傘だった。
かなり大きめの青い傘。同じく傘立てにしまわれている赤い傘と対をなすような、真っ青な傘。
「いつか返してね。大事なものだから」
「ありがとうございます」
雨足は弱まりそうにない。
僕は玄関を出て傘を広げると、彼女に振り向いた。

「また、今度会いましょう」
「はい、また今度」

すべてを洗い流すような雨の中を、僕は家路を急いで歩いていった。


〜おしまい〜