「あーあ、退屈ねぇ……」

テーブルを拭きながら、ふわぁ、と大あくびをひとつ。
就職も決まらず、然りとて結婚など笑い話にしかならず。
実家が寂れた中華料理店だから、客寄せにチャイナ服でも着てみたら?と友人に唆されて、露出度高めのチャイナ服を着てはみたものの。
朝の十時から夜の七時までで、客はオバサンの団体二組しかいなかった。
よくこんなのでやって来れたな、と思ったりもする。
もう一度欠伸をしたところで、入口のベルが来客を知らせる。

「いらっしゃい」
「いらっしゃいませー♪」

思い切りに愛想よく。
父さんは静かに。
声を出した直後、私は目を奪われた。
来客は、たった一人の少年。
美少年とは言い難く、純粋なイケメンとも言えないような少年がそこにいた。
しかし、頬が赤くなるのを止められない――。

「いらっしゃいませ、マサキ君」
「あ、舞さん……」

マサキ君。
それがこの少年の名前である。
中学一年生だが、両親が共働きで出張とかも多いらしく、うちの出前をよく注文してくれている。
そして、私に告白してくれた初めての男の子でもあり。

「舞。席に案内しろよ」
「あ、ごめんねマサキ君。席は好きなとこにどうぞ」
「あ、は、はいっ!」

やっぱりどぎまぎしてしまう。
気恥ずかしさとマサキ君への想いがない交ぜになって、何とも言えない複雑な感情になっているのが判る。

「マサキ君、私、私ね、」

上手く口に出来ない。
「私も好きだよ」。
たったそれだけを言うのに、私は人生で一番苦心しているのだ。情けない。

「舞さん、僕は、舞さんが……」
「わ、私も、ま、マサキ君が……」

二人で一緒にもどもどおろおろ。
結局、父さんが「いつもの」を作ったあと、暖簾を出して出前で出て行くまで、私たちは上手く喋ることさえ出来なかった。