「ひとつ、ゲームをしない?」
 思いつきなのか、視線を宙に泳がせながら彼女がそう提案する。俺に不利なゲームを提案するつもりなのだろ
うか。
 それならそれでもいい。暇なのは俺も変わらないし、適当に相手をして時間を潰すのは非常に無意義で有意義
な行為のように思える。
「あ、罰ゲーム付きでね?」
「えー、頑張らないといけないの?」
「だって手を抜いたら面白くないじゃない」
 何事も本気だから楽しい、という考えは一理ある。最近発売されたばかりの大人気アクションゲームなんか
は、オンラインでプレイすると「このゲームのために仕事辞めました!」なんて楽しそうな人がゴロゴロしてい
る。こっちとしても見ているだけならすごく楽しい。真似をしたいとは思わないけど。
「で、何するのさ?」
「ちょっと考えがまとまらないな」
「……思いつきなんだろ?」
「そうだけど、何か問題ある?」
 ジロっと睨むと、キョトンとした表情が返ってきた。いつものことながら計画性という言葉が抜け落ちてい
る。
「いいえありませんとも」
「なんだよかった。……罰ゲームなら簡単に思いつくんだけどなぁ」
 あれとーこれとー、と指を折っていくのを、グーに握り込む前に止める。なんでそんなにすぐに色々思いつく
んだ。
「ねえ、貴方は何やりたい?」
「……やりたくないから罰ゲームなんじゃないか?」
 溜息を吐きつつそう返す。やりたくないような罰ゲームを決めて一生懸命遊ぼうという趣旨にいきなり反して
いる。先のことを考えろとは言わないが、せめてほんの数十秒前の自分の発言くらいは覚えておいてほしい。
「つーかそもそも、俺がやるの前提なのかよ」
「どうせ私が勝つのは目に見えてるし!」
「確かに、俺に勝負運がないのはよく知ってるけど」
 昔から、コイツ相手にジャンケンで勝ち越した記憶がない。それを分かっていて三本先取を仕掛けてくるのだ
からいやらしい。
「せっかくだから罰ゲーム、何するか選ばせてあげるよ」
 彼女の中では俺が罰ゲームをする光景しか見えていないのだろう。何をさせたいのか、と続きを促す。
「えっとね、『辛いの』と『痛いの』、どっちがいい?」
「具体的には?」
「教えたら面白くないから、負けたら教えてあげる」
「……傍若無人って言葉、知ってるか?」
「傍若無人って八方美人と何か関係あるの?」
「お前はそれ以上に自信過剰だよ。……あー、――」

06 「――『辛いの』で」
07 「――『痛いの』で」

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