簡単ですが、ホワイトデーネタ。
ちゃんとお返しは買っておいたか。買ってないなら今から買ってこい。マッハで。


「明日、ホワイトデーだねぇ」
すぐ横に座る彼女が、話を切り出すのはいつだって唐突だ。
「ああ、そうだったね」
「……明日だよ?明日」
「何度も言わなくても分かってるよ」
僕は彼女に笑いかけて見せた。
「分かってないよぉー」
いつもなら、応じて笑い返してくれるのに、彼女は口をとがらせて不満そうな表情を浮かべた。
「はて……」
彼女がこういう表情をするのは、珍しい事じゃない。対称に、僕が自分でその原因を察知できることは珍しい事だった。
「私、あげたよね?」
「……?」
「バレンタイン!あげたでしょう!」
「ああ、チョコね。うん、貰った」
貰ったのは結構大き目のチョコレートケーキだ。年々、お菓子のクォリティが上がってきている気がする。
「もう、自分で食べちゃうの我慢して君にあげたのにさー」
「それはどうも。それで、何か僕に不備が?」
「……お返し用意してないでしょ!」
「あ、そういえばそうだ」
「やっぱりぃ〜……」
彼女は虚空に向かって大きく溜息をついて、それから、諦めたような表情をした。
「ま、期待してなかったけど。毎年のことだし、ね」
寂しさを紛らわすように、彼女は僕の手を握った。
「悪いと思ってるよ」
僕は彼女の手を優しく引き、彼女の小さい体を抱き寄せた。
「ごめん」
「何」
「本当は……今年もこれで済ませる気だった」
「ずるい」
「だから謝ってるじゃないか」
「そういうところがずるいの」
「……今から二人で買いに行こうか」
「うん……でも、もうちょっとこのまま」