シュタインズゲートのエロパロ7
amakawa1
http://psnprofiles.com/amakawa1
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殺すぞ雑魚
トロフィーレベル低い糞が粋がるなよ
お前の家族殺した後に唾はいてやろうか?
バイオハザード晒しスレの有名な在日朝鮮人なだけあってクソワロタ
こいつバイオ以外にも色んなゲームで晒されてるトロフィー厨のチョンね
漆黒のブラックタイガーとか中二の餓鬼丸出しだなおい 執念オカリンの新作出すらしいけどもう下火やね
資金回収できるのかしらん 3年ほど前にお世話になってたスレなので来てみたら
とんでもなく過疎ってた件 ゼロがでればまほちんとかのエロも増えるはず・・・まな板だけど そも、創作の場が増えたからな〜
余程の大人気作でもない限り、あるいは余程の大人気作でも発表媒体が分散して、場所ごとの数は減るに決まってるだろうし
ゼロはやってる途中だけど冬コミマの薄い本は期待できそう、特にまな板 秋葉原の雑踏の中を、髪の長い少女が歩いているのを見つけた。
思わず物陰に隠れてスマホを取り出す。
「ああ、俺だ。どうして比屋定真帆がこんなところにいるのだ。まさか、これも機関の差し金か。あいつめ、サイコパスに洗脳されているのではあるまいな……」
「はろー。岡部さん、何かご用ですか?」
スマホを握りしめる指が、Amadeusアプリに触れてしまっていたらしい。
アマデウス・クリスが起ち上がってきて、真帆の姿を確認するや、喜々として追いかけましょうと言った。
俺と甘栗は、探偵ごっこよろしく、家出か迷子かと勘違いされて警察官にしょぴかれそうになったりしている合法ロリっ子を見失わないように後をつけはじめた。
紅莉栖が、俺が寂しくないようにと、俺のスマホに甘栗をインストールしてくれたときに、研究所の先輩であり、Amadeus Systemの共同開発者として、比屋定真帆の名前だけは聞かされていた。
その後、真帆が紅莉栖を助けるためにラボメンになってタイムリープマシンを作る夢を見た。
おそらくは、別の世界線でのできごとなのだろうが、このNSSA世界線(のん気な鈴羽がしょっ中遊びに来る世界線)においては、その事実を知る者は魔眼RSを持つ俺一人であり、紅莉栖や真帆はそれを知っているはずがない。
真帆が、日本を訪れた理由は何だろう。
甘栗のテスト運用を見に来た程度のことであればいいのだが、あの、別の世界線ではタイムマシンの邪悪な魔力に魅せられてしまった狂気のマッドサイエンティストになにかを命じられていないとも限らないのだ。
「首を洗って待っていなさいよ、未来ガジェット研究所!」
忍び寄っていくと、真帆がブツブツ言っている声を聞き取ることができた。
紅莉栖や俺に対して、首を洗って待っていろというならわからんでもないが、非人間である研究所に対して、首を洗って待っていろとは。
フェイリスや4度Cとは、また違った方向でぶっ飛んだ日本語を使うヤツだ。
紅莉栖とその父親も含めて、天才科学者というのはやっぱり変人揃いだな。
この岡部倫太郎には、ちょっとついていけない感性の連中だ。
ともあれ、真帆が探しているのが他ならぬラボだというのなら、これ以上、後をつけ回してもしょうがない。
とはいえ、この世界では、俺と真帆は、まだ面識が無い。
スマホをかざして、
「先輩! お久しぶりです!」
素直に大喜びしている甘栗に声をかけさせて、比屋定真帆をラボに連れて帰ることにした。 俺のスマホの中の甘栗が入手した情報は、ほとんどタイムラグ無しで紅莉栖のスマホの中の甘栗にも共有されている。
コグニティヴ・クリスと、紅莉栖は名付けている。
俺が語る別の世界線の話を聞き入れて、紅莉栖がAmadeusの運用の方向を根本的に改めてくれたからだ。
AIとコグニティヴ・システムはゴールが違う。
AIは、ヒトになることを目指すが、コグニティヴ・システムは、ヒトをサポートすることを目的とした人工頭脳であって、ヒトを殺戮し、ヒトにとってかわろうとすることはない。
SF小説や映画では、AIがヒトを滅ぼす最大の敵であるという設定は、もはや当たり前になってしまったが、
リアルの科学者たちは、その未来を食い止める義務を負っているということにいなるのだろう。
アマデウス・クリスは、コグニティヴ・クリスになることによって、第三次世界大戦の目的や道具やきっかけにされる運命から逃れることができるはずである。
俺たちがラボについて、ほどなくして紅莉栖が到着して、ラボのあるじたるこの鳳凰院凶真を差し置いて、というか、入る隙のない、濃密な脳科学議論がはじまった。
大半は日本語なのだが、急に英語に切り替わったり、脳科学系の専門用語の中にはドイツ語もちょこちょこ混じっているような気がする。
俺もダルも、目をパチクリさせてぼうぜんと聞き流しているほかはない。
まゆりに至っては、コスを作る手がとまって居眠りを始めている。
ヴィクトル・コンドリア大学大学院附属脳科学研究所の本気を見た。
やがて、泊まるところを予約するのを忘れていたという紅莉栖大好きっ子を、紅莉栖が自分のホテルに連れて帰り、
百合展開がどうの、オカリン涙拭けよとうるさいマイフェイバリット・ライトアームを置き去りにして、俺も久しぶりに、まゆりと一緒に池袋の実家へと帰ることにした。
まゆりを家まで送り届けると、甘栗から呼び出しがかかってきた。
「岡部さん、先輩、すごく不審がっていますよ? 初めは普通の岡部さんだったのにラボに連れてきた途端、鳳凰院凶真全開で、完全に引かれてしまいましたね。
あんな厨二病が紅莉栖の想い人だなんて信じられないって」
「いいんだ。うっかりくだらんことを思い出してもらいたくないのでな。真帆の前ではとうぶん、鳳凰院フルパワー凶真で通すと決めた」
「ふうん? 先輩とは初対面のはずですよね? 思い出してもらいたくないって、意味がよくわかりませんが、まあ、岡部さんがそれでいいのなら。
先輩は、やはりオリジナル紅莉栖を早くアメリカに連れて帰るために日本に来たみたいですね。ひさびさの休暇なので、日本語の通じるところにいたいというのもあったようです」
「紅莉栖のそばにいたいと素直に言うべきだろう。あいつの紅莉栖好きは筋金入りだ」
「そうですね。今のところ、比屋定先輩の休暇は二週間、ただしオリジナル紅莉栖を連れて帰るというミッションだと思われるので、
オリジナルが帰るのを渋ったら、先輩の帰国も長引く可能性があります」
「わかった、ありがとう甘栗。お前は頼りになる。オリジナル紅莉栖のスマホから情報漏洩しないように注意しろよ?」
「頑張ります!」
嬉しそうに、甘栗がスマホの中でビシィと敬礼してみせた。 比屋定真帆は、ラボメンたちにこの俺、鳳凰院凶真とはどんな人物なのかと聞いて回っているようだ。
ふん、いくら聞いても無駄だ。
俺に心酔しているラボメンたちが、俺のことを悪く言うわけがないのだ。
階下の小動物にまで捜査の魔手が伸びたのは、誤算だったが、小動物は小動物同士、気があうものらしい。
しかし、年がら年中家賃を滞納していることがあばかれたところで、大した問題ではない。
実を言うと、一番こたえたのは紅莉栖の態度だった。
ラボに入るとラボメンナンバー009・比屋定真帆が、小柄なくせに部屋の中心にドンと大きな態度で陣取っていて、真帆より背の高い紅莉栖が、あたかも従者のようにコーヒーをいれたり、プリンを出したりと世話を焼いている。
真帆が、俺をねめつけながら、本当にこんな厨二病によくつきあえるわねと言うたびに、私も我ながらそう思いますと、深くうなずいている。
そして、真帆はいっかなアメリカに帰ろうともせず、二週間はとっくに過ぎていて、このままでは、ラボと紅莉栖が乗っ取られる日も近そうだ。
……せっかく紅莉栖が日本にいるというのに、真帆が来てからずっと、彼女の身体には指一本触れていないのだった。
おのれ、合法ロリっ子め。
夜な夜な、居候の立場をいいことに紅莉栖の身体を楽しみおって。
甘栗から入ってくる、真帆と紅莉栖のむつまじい関係については、精神安定に良くないのではじめの一日二日で、聞きとり自体をやめてしまった。
たまに甘栗から呼び出しが入るが、聞きたくないので無視している。
まあいい。
紅莉栖が楽しめているのなら、それでいい。
俺は孤独には慣れているのだ。
真帆も、永遠に日本にいるわけではあるまい……。
真帆と紅莉栖が一緒にアメリカに帰ることになった。
そもそも、紅莉栖は真帆より1ヶ月も先に日本に来ていた。
長いバカンスは、欧米人にとっては当たり前なのかもしれないが、今回は、真帆の日本滞在につられて紅莉栖も滞在を延長しているふしがあって、
1年分の休暇をほとんど消化してしまったはずだった。
今、日米に別れると、おそらくはまるまる一年間は会えないのだろうなと、想像がついた。
出立の前日、ラボで二人のお別れ会を盛大にとり行い、紅莉栖と真帆が一足早くホテルに帰り、後かたづけを手伝ってくれたみんなも帰っていった後、
ソファーの中央に身を沈めて目を閉じていると、コンコンと遠慮がちなノックの音に続いて、岡部、いるんでしょ? と少し不安そうな紅莉栖の声が聞こえてきた。
まったく、我ながら現金なものだ。
ついさっきまで、深い湖の水底に沈みきって、とうてい自力では浮かび上がれなさそうだと思っていたが、
こうして一本の釣り針が垂らされただけで、かくも心は浮き立ち、全力で釣られにいきたくなるのを止めることもできない。
扉の鍵を内側から開けながら、
「こんな夜遅くにぬぁんのようだ助手よぉ〜? 明日に備えて寝ておかねばならん……」
最後まで言い終わることは出来なかった。
紅莉栖に激しく唇を貪られながら、後ずさりして扉を閉めるのがやっとだった。 「おかべ、ゴメンね?」
ソファーに座った俺の上にまたがってしっかりと抱きついたまま、紅莉栖がつぶやくように言う。
「比屋定真帆は、アメリカでお前を助けてくれる数少ない味方だ。お前があのロリっ子をもてなすのは当然のことだ」
「でも、それは、あんたが寂しい思いをしていいってことにはならない。あんたは何も文句を言わないから、私もつい甘えてしまってるけど、
よく考えてみたら、これっておかしいわよね。真帆先輩との時間は、すごく充実してるけど、それは仕事なの。
日本には休暇に来てるんだから、仕事なんかせずにあんたを優先するべきだった」
「いや、俺は、電話レンジの無いこの世界線では、紅莉栖、お前も、真帆も、ラボメンになってくれたこと自体が奇跡だと思っているんだ。
何のミッションもなく、何のとりえもなく、何の必然性もないのに、将来を嘱望された科学者が飽きもせずにここへ、よく通ってくれるものだ。
比屋定真帆を俺たちの仲間にできてよかった。俺たちはあいつを助け、あいつは俺たちを助ける。そういう世界線を作っていけるようになったことを、俺は素直に喜んでいるつもりだぞ?」
「うん……ありがとう。でも、そういうのは、今はいいのよ。てっきり、甘栗がこっちのことを逐一、あんたに報告しているもんだと思ってたら、
報告は初めの二日間だけで、後は甘栗からのコールを全部、無視してたらしいじゃない。なに、スネちゃってんだバカ。本当は寂しかったくせにwwwwww」
「む……」
図星だが、こう煽られると両手に宿る鳳凰院の呪いがうずいてくるのだ。
「助手よ、お前もこの1ヶ月は先輩のお世話ご苦労だったな。どれ、肩を揉んでやろうではないか」
「……」
半信半疑の眼差しの紅莉栖を有無を言わせずソファーに座らせて、背後にまわって上着を脱がせ、ネクタイを解いてシャツのボタンを外すとお馴染みの黒のブラジャーで、
紅莉栖に自分で、長い髪をヘアバンドで簡単にまとめさせると、細い白いうなじが現れた。
耳の後ろから首すじを優しく揉みほぐしていく。
耳たぶをこちょこちょとくすぐり、俺は今からマッサージ師だからな、先生と呼ぶんだぞと囁くと、なんであんたが先生だ、
とクスクス笑いながらも、紅莉栖もノリノリで、わかりました、先生と返してきた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「それでは、姿勢をただしてくださいね、お嬢さま」
「お客さんなんだ? お金は払わないわよ?」
「いや、むしろこちらがお金を払いたいくらいだが」
「ふぇ?」
「なんでもありません。肩が凝っていますね。ブラジャー外しちゃいましょうね」
「ちょ、早速ですか、先生」
背中のホックを外して黒い肩ひもを外す。
「肩こりと胸の張りは連動しているんですよ。これは世界の常識ですね」
「ひどすぎだろ、HENTAI……」
「はい、おっぱい隠さないで大丈夫ですからね。リラックスして、背すじをのばしてしゃんとしましょうね」
恥ずかしそうに胸を覆っていた両手をおろさせる。
白いなめらかプリンの上に薄いピンクのさくらんぼが二つ。
うむ。これは、後でいただくとしよう。
白い肩から背中、上腕部を丁寧に揉んでいく。
うっすらと肌がピンク色に染まっていくのが、なんとも言えず美しい。
よく考えると、紅莉栖とこういうことをしている時というのは、たいがい薄暗がりにいるわけで、明るい電灯の下でというのは珍しい。
つい、かがみこんで、首すじにキスをしてしまった。
「ひゃん!」
「深夜ですから大声出さないでくださいね」
「びっくりした……ねえ、これってペッティグなの? だったら正面からお願いしたいわけだが」
「……ただのマッサージです」
「マッサージなのね? 了解した」
一瞬こわばった身体の緊張を優しくほぐしてやる。
両腕をあげて頭の上で組ませて、脇の匂いをスンスン。
「匂わないでよ、HENTAI!」
シャワーを浴びて来たらしく、清潔なボディーソープの香りしかしない。
面白くない。
「そのようなはしたない言葉を使われてはいけませんね」
「だって……」
「お嬢さまはお嬢さまらしく振る舞って頂かないと。でないと、やめちゃいますよ?」
「うう、わかりますた……」
追いつめるとねらー語が出てくるとか、本当に魂レベルだな、紅莉栖。
脇の下、身体の側面を上から下へ、下から上へ撫でさすり、お腹へ、さらに、十指の先だけでプリンの外周をスー、スーと撫で回していく。
偶然をよそおって、さくらんぼをピンピンと軽く弾く。
「あんっ!」 あんまりじらさずに、少し触ってやるか。
柔らかいなめらかプリンをフニフニと揉んでやる。
「先生、そこは脂肪……」
「乳腺をほぐしておきますね」
「意味があることなの?」
「特に意味は無いですね」
「やっぱりか、このHENTAI」
指の背中でさくらんぼをタラララと、撫でてみる。
ハァハァと、紅莉栖の息遣いが荒くなっていく。
「せんせっ、ちくび、当たって……かっ、肩を、お願い、します……」
いったん手を肩に戻して、また胸先へと手指を這わせていく。
さくらんぼをきゅっとつまんでコリコリ、グニグニ。
「あああああん! それ、マッサージ違う……」
「マッサージですよ。乳頭をこんなに固くしてはいけませんね。いやらしいお嬢さまだ」
「あんたの……先生のせいでしょ! このHENTAI」
プリンを握って、先っぽへと絞り込んでいく。
「ああ、ああっ! もう、もう効いてるからいいです! 肩を、お願いします」
指先で乳首の先っぽをカリカリと掻いてやると、ビクビクと腰を震わせて喘ぎ声が大きくなった。
「やああん、やん、あんあんあんっ!」
強く胸を揉み、優しく撫でて、カリカリと引っ掻く。
紅莉栖の右耳を口に含んで舌を入れながら、乳首を引っ張る。
身をよじりながら、
「乳首伸びちゃうだろバガあああっ!」
すでに、声が泣いている。
「あんあんあんっ! き、気持ちぃぃ……いく、いっちゃうょぉ……おがべっ、いく、いっちゃう! もうダメっ!」
上を向かせて、唇を奪うと紅莉栖の方からハァハァと激しく舌をねじ込んで来た。
唾液を交換しながら乳首をグニグニ、コリコリといじめ続けていると、身体をひときわ大きく踊らせて、ビクビク痙攣しながら、ふらっとソファーに倒れこんだ。
ハァハァハァハァと荒い息が徐々におさまっていくのを待って、固く絞ったタオルで身体を入念に拭ってやる。
「パンツの替えはあるのか?」
と聞くと、ううん、と首を振って、だから最初にマッサージかペッティグかって聞いたのに、脱いでからしてくれなくちゃダメだろバカと、真っ赤になった目で罵られた。
だが、そんな紅莉栖が可愛すぎるので、俺は後悔も反省もしていない。
また機会を見つけてやってやろうと、かたく心に誓うのだった。
翌日、俺は空港へは行かなかった。
今頃は、アメリカへと飛び立っていったころだろうと、紅莉栖のいない虚しさを味わいながら、ぼんやりと秋葉原を歩いていると、建て替えられたラジオ会館の前で、見慣れた明るい色の長い髪とすれ違った。
「お、俺だ。なぜ彼女がここにいる……?」
エア通話中の俺の背中に、女の腕が、しっかりとしがみついてくる。
ああ、この重みだ。
俺の心を埋めるこの重み。
幸せだ。
「真帆先輩に先に帰ってもらって、私だけ、明日帰ることにしたの。ねえ、昨日、あれだけ好き放題しといて本番無しとか、ひどすぎだろ。このドSのドHENTAI! 今日は一日、つきあってもらうんだからなっ!!」 「比屋定真帆によるラボ乗っ取りが進み出した件」あるいは「牧瀬プリンは俺のもの」end 私、牧瀬紅莉栖が日本にいる時を狙って、橋田鈴羽は未来から現代へと遊びに来ているらしい。
特に重要なミッションも、果たすべき使命も何もないままに、のん気な鈴羽がしょっ中遊びに来るこの世界線のことを、岡部はNSSA世界線と名付けた。
初め、岡部は鈴羽が用もないのにタイムマシンを使っていることを、ずいぶん嫌がっていた。
必死の思いで未来が不確定のSG世界線に辿りついたというのに、未来からタイムマシンが来てしまっては、その苦労を無にされているように感じてしまうのも当然だろう。
だが、無下に追い返すこともできないのだ。
岡部にとって、鈴羽はいろんな意味で恩人であり、親友の娘であり、どの世界線においても、世界を救うために自分のすべてを投げ出してきたタイムトラベラーであり、時間跳躍の殉教者とさえ言える。
岡部は鈴羽の願いを断れない。
そして、それは、私も同じだ。
父親や(未来の)恋人に殺されるという、どうしようもない運命を背負った自分を助けて貰っただけでなく、SG世界線から弾き出されて行方不明になった岡部を連れ戻すには、私たちを助けようという鈴羽の強い意志と、タイムマシンが絶対に欠かせなかった。
だから、良くないことだと知りつつも、私も岡部同様、鈴羽に対しては強く言えずに、のん気に遊びに来る彼女を何と無く受け入れてしまっていたのだ。
だが、鈴羽は、単に遊びに来ていたわけではなかった。
いや、一番初めはただの遊びだったのかもしれない。
だが、時間跳躍を行うことによって、リーディングシュタイナーが発現してしまったのだ。
のん気そうに見えても、スーパーハカー橋田の娘である。
ある世界線では物理学の教授になって、牧瀬章一と秋葉幸隆にタイムマシン作りを手伝わせていたこともあるくらい、鈴羽は頭がいい。
いつしか、この世界に遊びに来ることだけでなく、時間跳躍を積み重ねることによって別世界線の記憶を増やし、世界の構造を解明することが鈴羽のライフワークになっていたようだ。
そして、そんな彼女に付き合うことができるのは、もちろん、RSを持つ岡部倫太郎と、タイムマシン論文の執筆者である牧瀬紅莉栖以外にはあり得ないのだ。
私も、タイムリープマシンとタイムマシンの使用経験を経て、時間移動中に自我を保っていることができるようになっているが、鈴羽の場合、およそいかなる世界線においてもタイムマシンに乗っているのだから、RSがガンガン発現するのも当然と言えば当然だった。
こんにちにおいて、タイムトラベラー橋田鈴羽は、時間跳躍がもたらす脳内状況の変化についての極めて重要なサンプルである。
鈴羽は、別世界線の答え合わせを岡部とやっている。
だが、岡部は別世界線の話はお前の身が危険になるだけだとか言って、私、牧瀬紅莉栖にはあまり話してくれないのだ。
しょうがないので、私は、鈴羽にお酒を飲ませて別世界線の話を聞き出すことにしている。
ろくすっぽ飲めもしないのだが、私は今日もノンアルコール片手に、銀座のお洒落なカクテルバーに付き合っているのである。 「いやあ、紅莉栖さんはホント、セレブだねえ。銀座で好きなだけ飲ませてくれるなんてさ。あたしは別にガード下の赤ちょうちんでも良かったんだけどぉ」
たいして顔を赤くもしていないくせに、いつもよりさらにテンションのあがった鈴羽が、バンバンと私の背中や肩を叩いてくる。
陽気なお酒だが、完全にオヤジだ。
「カップ麺ばっかり食べてるセレブがどこにいるかっての。これは研究なのよ? あんたが飲まないと別世界線のことを思い出せないっていうから、仕方なく飲ませてるだけなんだからね」
「ごめんごめん、紅莉栖さん。未来じゃあ、こんなに飲めないんだよぉ。ちょっと飲むだけでポケコンのアラームが鳴っちゃってさ。科学って、間違えてるよね。
飲んでもすぐ醒めるお酒とか、たくさん飲めないようにする装置とか、飲んだら動かせなくなる乗り物とか、そんなの開発するよりも、飲んでも安全になるようなものを作ったらいいのにねえ?」
「管理社会ってわけね。ある程度は仕方ないでしょ、それは。アクシデントによる人命の喪失は防ぎたいでしょう」
「だからさあ、いくら飲んでも全自動の車がお家に連れて帰ってくれればいいわけじゃん? それができるだけの科学力はあるのに、なんでそういう社会にならないのかなあって」
「でも、酔った人が自分で全自動を解除して運転しようと思ったらできるわけでしょう? どこまで機械やAIが進歩しても、それに指示を出すのは人間でしょう。むしろ、その指令権をAIに譲る方が危険すぎる」
「それはそうなんだけどさあ……」
今はまだ、平成の世の中で、お酒はハタチになってからという標語が生きているのだが、どうも未来では、18歳で大人扱い、飲酒も認められているらしく、この飲んべえ鈴羽は自動的に、私よりも二年長い飲酒歴がある。
「どうでもいいけど、あんた、ますますお酒が強くなってない? そろそろ別世界線のことを思い出して欲しいんだけど」
「うーん。紅莉栖さんの興味はやっぱりオカリンおじさんのことだよね? だって、未来じゃムフフな関係なわけだし」
「別にあいつのことじゃなくてもいいけどね」
「ふうん? そんなに澄ましちゃってていいのかなあ? オカリンおじさん、あれで結構モテるんだよね」
ハハハ。ワロスワロス。
あの厨二病がモテるだなんて、そんな世界線があってたまりますかって。
「それは、モテるという言葉の定義にもよるんじゃない? 言っとくけど、まゆりと漆原さんとフェイリスさんは数の内に入らないんだから」
「それは、ラボメンは紅莉栖さんを裏切らないから、オカリンおじさんも浮気できないってことだね? ブブーッ。そんなんじゃないですよーだ。私はオカリンおじさんがテニスサークルに入って、毎日毎日、合コンに明け暮れるリア充だった世界を知ってるんだから」
なん……だと……?
「あの頃のオカリンおじさんは、本当にダメなやつだったなー。紅莉栖さんを助けに行くのを諦めて、厨二病を封印して、自分は毎日、違う女の子と会いにいくわけじゃん? 本当にこんなナンパ野郎に人類の未来を託しちゃっていいのかと思ってたよ、あたしは。
最後には、まゆ姉さんがオカリンおじさんをぶっ飛ばしてくれたから何とかなったけど、あれが無かったらと思うとゾッとするよね」
…………。
落ち着け、落ち着くのよ、私。
グラスをあおる。
琥珀色の液体が喉にひりつく。
氷が邪魔だ。
あ、それあたしのロックと鈴羽が言ったような気もするが、頭に入らなかった。 その夜、俺はマイフェイバリットライトアームと、新しい未来ガジェットを開発し、なおかつその売上げを伸ばして家賃の滞納を解消するための秘策を練っているところだった。
ダルの肩越しに、PCモニターに表示された未来ガジェット研究所のホームページを覗き込んでいると、階段をバタバタと駆け足で登ってくる音が聞こえた。
扉がバンと開いて、
「おかべーッ!!!」
紅莉栖の絶叫が響きわたる。
なんだ、このシチュエーション。
a世界線に別れを告げたあの瞬間を彷彿とさせる。
自分の脳内に、私もあんたのことが……と言いかけた、あの日の紅莉栖の声が再生される。
だが、靴も脱がずにヅカヅカと歩み寄ってきて、俺の胸ぐらを掴んだ紅莉栖のセリフは、まるで正反対だった。
「あんた、アメリカで私に告白した時、なんっつった!? どの世界線でもお前のことが好きだったって!? よく言うわね、この嘘つき!! 死ね!! 氏ねじゃなくて死ねっ!!! 」
顔も目も真っ赤にして、涙で顔をべちゃべちゃにした紅莉栖が、右手を大きく振り上げて……俺を殴らなかった。
振り上げた手をぷるぷると震わせて、・゚・(つД`)・゚・ ウワァァァンと、泣き叫びながらラボを飛び出していってしまった。
「なんなのだ、いったい……」
呆然と呟く俺に、修羅場キタコレと、少し嬉しそうなダルの声が耳に入って我に帰った。
こうしてはおれん。
慌てて紅莉栖を追って走り出す。
ホテルまでの道のりの真ん中あたりで追いついたが、
「おい、待て、紅莉栖!」
「うっさい! ついてくんなバカ!」
肩を掴んだ手を振りほどいて、紅莉栖は再び走り始めた。
自慢ではないが、俺も紅莉栖も体力がない。
ゼーゼー、ハーハー言いながら、ノロノロ歩きになっても、紅莉栖は立ち止まってくれずに、そのままホテルの前まで来てしまった。
「頼む、せめて何があったのか教えてくれ。本当に心当たりが無いんだ」
紅莉栖が、冷ややかな声を投げつけてくる。
「そうね、あんたはいつでも、そう。別の世界線のことは、私には知らんぷり。あんたの中で、私を大切にするっていうことが、私に知られてはまずいことを隠しておくっていうことと同じなんだったら、あんたとの婚約は無かったことにさせてもらうから」
いや、そもそも婚約はまだしてないけどな。
そのまま、一度も振り向かずに紅莉栖はホテルへと姿を消して、次の日からラボに来なくなってしまったのだった。 「オカリ〜ン、まゆしぃの携帯からもクリスちゃんに繋がらないよ? いったいクリスちゃんに何をしたの?」
まゆりが悲しげに訴えてくる。
紅莉栖は、別世界線の話をしていた。
こうなった原因は、鈴羽以外に考えられない。
しかし、肝心のその鈴羽が見つからないのだ。
ステルスモードにしたタイムマシンは建て替えられたラジオ会館の屋上にそのままあった。この時代に来てから、鈴羽は携帯電話を持っているはずだが、なぜか繋がらない。
鈴羽の居場所を知るためにも、紅莉栖と連絡を取りたいところだが、ラボメンの電話やメールはすべて着信拒否されている。
俺のスマホの中のAmadeusも、何か遠隔操作をされたらしく起動できなくなっている。
足で稼ぐしかない。
紅莉栖と鈴羽に連絡がとれなくなって三日目、秋葉原と御茶ノ水をさんざん歩き回り、ここには鈴羽はいないと見切りをつけて、
皇居周辺で野草でも食って生きているのかと捜索の足を伸ばしてさらに四日がたって、ダルが銀座のバーの面白可愛い元気っ娘が@ちゃんねるで話題になっていると知らせてくれた。
大きな瞳が、角度によっては金色にも見えるミステリアスな色合いをしていて、最初は掃除雑用係りだったのに、この一週間で接客を覚え、店を移ってナンバーワンホステスになろうかという勢いなのだという。
ほんと、どこででも生きのびていけるヤツだな。
足を棒にして歩いても、見つからないわけだ。
普段の野性的方向性とまるで逆ではないか。
ダルに教えて貰った高級クラブで、チャイナドレスを着込んで孔雀の羽みたいな扇をかざした鈴羽をようやく捕まえて、携帯電話を持っているなら電話に出んかと叱り飛ばすと、あれ、紅莉栖さんから聞いてない?
飲み代払わずに紅莉栖さんがいきなり出て行っちゃったから、身体で払えって言われちゃってさ、いやあ参ったよというすっとぼけた返事だった。
この辺りの行動力というか、放浪癖というか自由気ままさは阿万音由季から受け継いでいるんだろうな。
変なことされなかっただろうなと確認すると、私の心配よりも自分の心配したらとニヤニヤ笑いが返ってきた。
「それだ、それを聞くためにお前を探していたんだ。どういう意味なんだ、それは?」
「べっつにぃ〜? あたしはありのまま、ホントのことを言っただけだよ? この世界線のオカリンおじさんは体験していないことだけど、
b世界線では、紅莉栖さんを刺しちゃった後にオカリンおじさんをもう一度、タイムマシンに乗っけて紅莉栖さんを助けにいかせるのに、すごく手こずらされたんだから。
毎日、毎日テニスだ合コンだって、紅莉栖さんのこと忘れようとして薬ばっかり飲んで。覚えてないかなあ?」
「……何度か、夢で見たことはあるな……。最終的に、お前に足を撃ち抜かれて、お前とまゆりがタイムマシンで紅莉栖を助けにいく。そういう世界線の話だろう?」
「ほら、やっぱり分かってるじゃん。そこまで分かってるんなら、あたしやまゆ姉さんや紅莉栖さんに一言あってもいいんじゃないかなあ? ごめんなさいってさ」
「わかった。すべての世界線は無かったことにはできない。謝罪しよう」
膝をついて、頭を下げようとする俺の肩に手を置いて、鈴羽が言った。
「冗談だよ、オカリンおじさん。追跡装置を開発して、燃料切れで時空を彷徨っていたあたしとまゆ姉さんを助けに来てくれたことは覚えてないのかな?
オカリンおじさんって、自分に都合の悪いことばっかり覚えてる損な性格してるよね。あの件は、もう片付いてるから心配しないで。それよりさ、紅莉栖さんとこへ行ってあげなよ。あたしから連絡入れといてあげるからさ」
「お前からは紅莉栖に連絡がつくのか? どうやら色々仕組まれているようだな。お前には世話になりどおしだが、用がすんだら早く帰るんだぞ。お前がいることで世界線が悪い収束を起こしやしないかと思うと身がもたない」
「そこは、逆に考えて欲しいなあ。のん気な私がここにいることで、平穏無事な未来が約束されてるんだよ。だから、あたしには、この世界で遊ぶ権利と義務がある!
あと、別の世界線で始末がついていないことを片付けておく義務もある!」
「そういうつもりで、ここに来ていたのか。どれだけその後始末があるのか知らんが、あと数年でお前が産まれる。その時までには全部終わらせられるんだろうな?」
「頑張るよ。さすがに私も、自分と出会うわけにはいかないからね!」 やれやれだ。
ホテルへ行くと、鈴羽から連絡が行ったらしく、紅莉栖がいつもの仏頂面のまま、部屋に通してくれた。
「紅莉栖、お前の言ったとおりだった。謝らせてくれ」
「もう、いいわよ、それは。私も初めてウィスキーなんか飲んじゃって、わけわかんなくなちゃって、おかしなこと言ってごめんなさい。あんたが、別の世界線で何をしていようが、この世界のあんたは私を助けに来てくれたんだもの。謝らなくちゃいけないのは、私の方だと思う」
「紅莉栖……」
ほっとして、思わず、紅莉栖を抱き締めようとした俺の右手首に、カチャリと軽い音がして銀色の腕輪が嵌められていた。
「ん?」
「私からのプレゼントよ。一週間かかって、やっと満足いくのが完成したところ。婚約指輪みたいなものと思ってちょうだい」
「ふうん? 未来ガジェットということか?」
「そうね。私のもあるわよ」
紅莉栖が、自分の分の腕輪を取り出して、左手首にカチャリと嵌める。
「この腕輪はね……私にウソをついたり、私とケンカをしたりして私のことを怒らせると、あんたの腕輪にだけ電流が流れる」
…………。
…………は?
…………なんか、思い出してきたぞ。
そういう腕輪のある世界線の夢を見たことがある。
ダーリンのばかぁとか言ったかな?
だが、あれの機能は紅莉栖の腕輪にも電流が流れるんじゃなかったか?
そして、紅莉栖と想いが通じあえば外れる……。
「で、この腕輪の外し方は?」
「外れないわよ。婚約指輪みたいなものだから、外れる必要はないでしょ? なに? あんた、まさか外したいわけ?」
「いや、だって、お前、ほら、空港の金属探知機に」
「かからないわよ。その辺は、ちゃんと考えて素材を選んだ」
「じゃあ、お互いの想いが通じあったら?」
「祝福のウェディングメロディーが流れる」
うぉい。
そんなんでいいのか、クリスティーナ。
どうしてこうなった。
「うん、面白いものを作ったな。ここ一週間ほど、歩きどおしで疲れているのだ。ちょっと座らせてくれ」
俺がベッドの端にへたりこむと、紅莉栖が横に並んで座って、俺の顔を両手で挟み込んで、冗談よ、バカねといたずらな笑みを浮かべた。
「……冗談、なのか」
「うん。私を怒らせたら電流が流れるのは本当だけど、絶対外れないわけじゃない。外して欲しい?」
紅莉栖が上目遣いで探るように尋ねてくる。
「いや。外れなくても構わん。婚約のプレゼントなんだろう? なら、一生大切にしなくてはな」
紅莉栖の瞳を真っ正面から見すえて、ひたいをコツンと合わせると、カチャリ。
「紅莉栖?」
「あんたのお察しの通り。お互いの気持ちが通じ合うと外れるの。ねえ、一生大切にしてくれるのは、腕輪? それとも、私なの?」
俺の返事を待たずに、紅莉栖が心底嬉しそうな笑みを浮かべて唇を寄せてきた。 【a世界線】
まったく、気象庁ってのはどうかしてる。
これだけの猛暑なのに、猛暑日認定しないとか。
確かに、今日の最高気温は34.9℃で、認定までは0.1℃足りない。
だから猛暑日ではございません?
ふざけんなっての。
猛暑日の定義にもう少しデブの意見を取り入れて貰いたいもんだ。
その午後、ぼく、橋田至は暑さに耐えかねてメイクィーンニャンニャンに駆け込んで、フェイリスたんのにぎやかな歓迎と、ゼロカロリーのコーラとクーラーの冷風に、ようやく一息ついたところだった。
お昼に届いたオカリンからのスパムメールを思い出して、携帯電話を見つめなおす。
岡部倫太郎
2010/07/23 12:53
(件名なし)
牧瀬紅莉栖が
岡部倫太郎
2010/07/23 12:53
(件名なし)
、何者かに刺
岡部倫太郎
2010/07/23 12:53
(件名なし)
されたみたい
何のイタズラなんだろう、これ。
このメールが届いてから、何度かインターネットで最新ニュースを確認してみたけど、そんな話は出ていなかった。
牧瀬紅莉栖ってのは、SCIENCY誌2010年4月号の表紙を飾っていた、オカリンお気に入りの美少女だ。
ヴィクトル・コンドリア大学を飛び級で卒業し、17歳の若さで世界的学術誌に論文が載っちゃう脳科学の天才。
幼馴染のまゆ氏というものがありながら、そんな娘に一目惚れするなんて、オカリンのぞみ高すぎだろ。
この暑いのにラボにクーラー入れるどころか、格安の家賃を滞納して大家さんに怒られてるオカリンが、日本語版SCIENCYを持っているのには、正直、驚いた。
だって、この雑誌は、そもそも世界中で10なん万部しか印刷してない上に、読者が英語で論文を書ける学者層だから、ふだんは日本語版なんか印刷発行すらせず、web版がたまに出るくらい。
印刷された英語版もそこらへんの本屋にあるわけじゃなくて、国際便で30ドルくらい払わないと取り寄せできないという専門誌中の専門誌、
今回、メイン記事が日本人の牧瀬紅莉栖ということで特別に発行された日本語版は、難解な脳科学論文を和訳する手間もあって、送料こみで一万円以上したはずだ。
しかも、その雑誌に、今や数万円のプレミアがついている。
確かに、ぼくらが大学に入ったばかりの4月には、この天才美少女の話題は、ニュースやワイドショーでもさんざん取り上げられてたわけだけど、
脳科学なんてオカリンやぼくの手におえるものじゃないわけだし、論文読むよりも、ぶっちゃけ牧瀬氏のプロフィールとか、インタビューとか写真が見たかっただけなんじゃないかとしか思えない。
まあ、そんな小難しい論文より、ぼくとしては5日後にラジオ会館で発表会をやるドクター中鉢のタイムマシン論文の方が気になるね。
世間ではキワモノ扱いされてる学者さんだけど、SFオタの間では、タイムマシンは実現できると自信を持って発言してくれるドクター中鉢は、神のようなものだ。
今度、タイムマシンオフ会で、彼をオフに招待するよう提案してみよう。
そんなことを、とりとめもなく考えていると、手にした携帯がブルっと振動してビックリした。
電話をとって、小声で
「今、メイクィーンだお」
とささやくと、分かった、そっちに行くとオカリンが返事をした。
ふと目をあげると、離れたところからこっちを見ていたフェイリスたんと目があった。
ニコッと笑いかけてくれる。
店内で電話しないぼくのことを、フェイリスたんはちゃんと見てくれている。
ぼくがこのお店に通いつめてしまうのも、しょうがないことなのだ。 「凶真〜、よく来てくれたニャン!」
フェイリスたんがオカリンの腕を引いて、ぼくの席に案内してくる。
フェイリスたんは誰にでも愛想が良いけれど、オカリンとは厨二病仲間同士、特に気があうようで、全ぼくが嫉妬中だ。
まあ、あの仲間に入りたいとはさすがに思わないわけだが。
アイスコーヒーを頼んだオカリンに、ヒソヒソ声で聞く。
「で、さっきの物騒なメールは何なんだお?」
「メール? さあな。実は今度のドクター中鉢のタイムマシン論文の発表会の日なのだがな、同じ日に別のタイムマシンについての講演があるらしいのだ。どうやら講師は女らしい」
「そうなん?」
「なんで同じ日なのかは分からんが、ぜひ聞いておきたい。無料だし。お前も興味あるだろう?」
「いいね。時間と場所は?」
「うむ、それが、大きな問題だ。同じ日の正午と午後1時30分で、会場もラジオ会館とUDXだから、一見掛け持ちできそうだが、正午の中鉢は、興にのってしゃべり出すと止まらないこともある。
終りの時間が読めないのだ。というわけで、一応、担当を決めておきたい。お前はどっちに行きたい?」
「そんなのおにゃのこ一択っしょ」
「即答かよ! 昨日まで中鉢中鉢言っていたではないか。さすがにぶれないな、お前は」
「こう見えても紳士なのだぜ?」
「では、俺はドクター中鉢の方にいく。予定通りに終われば、午後の方も開始時間までには行けるはずだ。お前は、初めからUDXの方に行って、俺の分も場所取りをしておいてくれ。
会場がいいので、そこそこビッグネームではないかという噂だ。立ち見が出る可能性もある。あと、メモか録音だ」
オカリンの声に少し残念そうな響きがある。
同じタイムマシン講演で、むさいオッサンとおにゃのこだったら、まあ、オッサンなんか選ぶわけないよね。
悪いね、オカリン、間に合わなかったら、せめて写真くらいはいっぱい撮っておいてやるお。
7月28日水曜日午前11時すぎ、オカリンとまゆ氏は正午から始まるドクター中鉢の発表会へ向かった。
ぼくは、ラボで電話レンジの点検。
数週間前に、電子レンジに携帯電話を繋いで、外出先から電話をかけてレンジを操作するガジェットを作ろうとしたんだけど、まゆ氏がキー入力を間違えてレンジを動かしたら、唐揚げが温まるどころか凍ってしまった。
この謎の冷凍現象を解明しようと、オカリンがレンジにバナナを放り込んで、まゆ氏がやったのキー入力を再現したら、今度はバナナが緑色のゲル状になってしまった。
ぼくとオカリンが通っている東京電気大学の教授に元素分析のできる電子顕微鏡を使わせてくれと頼んだら、5億円だぞ、5億円、遊びで使うもんじゃないお前らが壊したら誰が弁償するんだとさんざんおどされたあげく、
それでも何かのついでにゲルバナと唐揚げをこっそり調べてくれたみたいで、組織がズタズタになっててよくわからん、ありゃ一体何なんだと逆に聞き直された。
まあ、そっち方面の謎は置いとくとして、ぼくとしては、当初の予定どおり、電話でレンジを遠隔操作する工程にミスが無かったかどうか確認し直しているところ。
電話レンジに自分の携帯電話を接続して、PCからぼくの携帯に電話をかけてみるテスト。
特に異常なし。 ※ ※ ※
【b世界線】
電話レンジに自分の携帯電話を接続して、PCからぼくの携帯に電話をかけてみるテスト。
突然、電話レンジが勝手に作動し出した。
レンジにつないだ、ぼくの携帯のメール着信ランプが光っている。
なんかヤバくないかと、レンジの停止ボタンを押したけど、止まらなくて、電気コードを引っこ抜くことを考えたが、電子レンジってのは安全装置が組み込まれていて、扉を開けると停止するはずだと思いあたって、扉を開くと目もくらむような放電がバリバリと……。
※ ※ ※
【a世界線】
正午。
ドクター中鉢の発表会が始まる時間だ。
つけっぱなしになっていたテレビが、緊急ニュース速報に変わった。
「秋葉原ラジオ会館に、人工衛星と見られる謎の物体が衝突した模様です……」
可愛いおにゃのこの新米アナウンサーが緊張した顔で原稿を何度も繰り返し棒読みさせられている。
なんぞこれ。
テレビ画面に、見慣れたラジオ会館が映っている。
確かに屋上に何かめり込んでいるようだけど、あんな大きさの人工衛星が宇宙から落下してきたらビルにめり込む程度で済む訳がない。
宇宙船の不時着と言った方がまだ信憑性がある。
これは、政府とマスゴミのお得意の連携プレーだ。
誰が、何を隠したがってるのか、もしも危ない匂いがしたらオカリンとまゆ氏に連絡してやらなくてはならない。
@ちゃんねるでは、やはり、「これが人工衛星wwwww」「どの局も同じこと言わされてるな」「情報統制ktkr」というレスが多い。
よかった。
世間は異常だが、@ちゃんねるはまだ正常だ。
これも、その内、規制されるのかもしれないけれど。
そうこうしていると、オカリンとまゆ氏が帰ってきた。
人工衛星のせいでドクター中鉢の発表会は中止になったはずなのに、オカリンは、発表会を聞いている途中で、牧瀬紅莉栖に会場からつまみ出され、その後、彼女が誰かに刺されたのを見たという。
得意の厨二病だけど、オカリン、牧瀬紅莉栖のこと好きすぎるだろ。
だいたい、そんな有名人が日本に来てたらマスゴミがほっとく訳ないし。
今ごろ、アメリカにいるはずじゃないのかお?
ああ、そういや、オカリンから、5日ほど前に牧瀬紅莉栖が刺されたとかいうメール貰ったっけ。
あの妄想がまだ続いているらしい。 午後1時過ぎ、ぼくとオカリンはUDXに向かう。
まゆ氏はコス仲間に会いに、どこかへ出かけていった。
UDX6階の貸会議室、カンファレンスの前に到着すると、いきなりオカリンが柱の前にいた美少女に絡み始めた。
「俺は、お前が刺されているのを見たのだ!」
とか、喚きながら美少女の身体をベタベタと触りまくっている。
なるほど、牧瀬紅莉栖には違いないけれど、オカリン、いい加減、頭大丈夫か?
「おのれは警察を呼ばれたいか!」
牧瀬紅莉栖が怒っている。
そりゃまあ、そうなりますわな。
「牧瀬さん、そろそろお時間ですので」
スーツ姿の男の人が呼びに来なかったら、オカリンは、確かこのあたりに傷がとかわざとらしいことを言いながら、牧瀬紅莉栖のシャツを脱がせて裸に剥いて、危うく陵辱するところだった。
もう少しだったのに、残念。
それにしてもオカリン、牧瀬紅莉栖のことが好きだねえ。
タイムマシン講演の講師は、牧瀬紅莉栖だった。
そして、冒頭からタイムマシンを否定されて、牧瀬紅莉栖に突っかかっていくオカリン。
めちゃめちゃに論破されとる。
面白すぎる。
「それじゃあエキゾチック物質見つけて下さいよ、鳳凰院さん」
「ぐぬぅ……」
この煽り方、間違いなく牧瀬紅莉栖はプロの@ちゃんねらーだお。
講演が終わって、トイレにたったオカリンを待っていると、目の前に牧瀬紅莉栖がやってきた。
「あなた、さっきの鳳凰院さんのお友達ですね? 彼に連絡をとろうと思ったらどうすればいいんですか?」
「オカリンの携帯を教えろってこと? それなら本人、もうすぐトイレから出てくるから」
「すみませんが、私は、あなたに聞いているんです。あのHENTAIには絡みたくないので」
「なるほど……じゃあ、ラボに帰ってからオカリンに電話させるお」
牧瀬紅莉栖の瞳に、少し警戒の色が浮かんだ。
そっか、相手は超有名人だ。
簡単に見知らぬ他人に連絡先を教えるわけがない。
かといって、オカリンはオカリンで変人だから、勝手に携帯番号を教えたりしたら、機関に狙われる系の理屈でぼくが文句を言われるのも間違いない。
「ラボ? どこかの研究機関の方なんですね? それじゃあ、その場所を教えて貰えますか?」
ラボっつったって、ただの大学生のサークルみたいなもんですけどと言いかけて、思い直して、普通にラボへの行き方を教えることにした。
せっかく、美少女がフラグをたてに来てるのに、それをへし折るなんてことは、ぼくには出来ないのだ。
牧瀬紅莉栖が立ち去って、かわりにオカリンがやってきて、ラボに帰る途中、オカリンはずっと、牧瀬紅莉栖の文句を言っていた。
牧瀬紅莉栖にラボの住所を教えたのは、黙っておいた。
超有名天才美少女が、そんなに簡単に見知らぬぼくらを訪ねてくるとは思えないし、これだけ牧瀬紅莉栖のことが大好きなオカリンに、変な期待を持たせて、結果、彼女が訪ねて来なくて失望させるのもかわいそうだ。
また、万が一、彼女が訪ねて来るのなら、それはそれで特に問題はない。
口先では文句を言うだろうが、オカリンは内心、大喜びだろう。
感謝しろよ、オカリン。
そのかわり、百億分の一の確率をかいくぐって、牧瀬紅莉栖とうまくいったら、その時はオカリンと牧瀬紅莉栖のイチャラブ同人誌作って一儲けしようず。
何しろ、ぼくは、見てしまったのだ。
オカリンの未来ガジェットのアイデア帳に、4bの鉛筆で、SCIENCYの表紙の美少女がびっくりするほど綺麗にトレースしてあって、その口元が、ぶすっと不機嫌そうな写真とは違って、薄っすら微笑んだ形に描き直してあるのを。
オカリンが、こんなスイーツだと知ったら、ツンデレっぽいあの牧瀬紅莉栖はどう出るんだろうねえ?
「暑がりの太った天使がいた世界線」end 2010年8月13日金曜日、フェイリスは雷ネットアクセスバトラーズ・グランドチャンピオン決定戦で4℃をやぶって、優勝した。
アキバに降臨した最強の伊達ワル雷ネッターを自称する敵は、卑怯な手をいろいろ使おうとしたらしいが、フェイリスはこの俺、鳳凰院凶真から耳栓を渡される夢を見ていたおかげで、事前に対策をすることができたのだそうだ。
俺は、この「紅莉栖が生きていて、タイムマシン論文が消滅した世界線」では、7月28日から8月21日へと時間を跳び越えてしまっているので、
後でまゆりやダルから聞いた話から推測するしかないのだが、フェイリスは優勝の代償に4℃の率いるヴァイラルアタッカーズの恨みを買ってしまって、街中追い回されたり脅されたりと、相当、危険な目にあっていたようだ。
この年の秋に、アメリカでの世界大会で優勝し、雷ネット世界チャンプになったフェイリスは、もはや日本の雷ネットの大会に出る必要はないと思っていたようだが、主催者側としては、話題作りに世界チャンプの名はどうしても欲しいところだったのだろう。
2011年度の日本大会の優勝者には、日本人世界チャンプとの非公式戦を副賞として用意したいと、フェイリスに断らずに先走って発表してしまった。
昨年、日本一になった時点ですでに、フェイリスがメイクィーンニャンニャンの猫耳メイドであることは周知の事実になっていたようだが、職場が割れてしまっている以上、逃げ隠れはかえって物事を面倒にする。
フェイリスは、今回も卑怯な手で勝ち上がってくるであろう4℃と、再び戦う覚悟を決めなくてはならなくなったのだった。
2011年8月4日の早朝、自分以外に誰一人いない秋葉原の路上に座りこんで、これが時間をもてあそんだ者に与えられた天罰かと、底無しの孤独に浸りこんでいた俺は、唐突に6年前の未だウブだった少年時代の出来事を思い出していた。
祖母を亡くして自らも失語症におちいったまゆりを助けるすべがなく、藁にもすがる気持ちだった。
シトシトと絶え間なく涙雨が降り続く早朝の雑司ヶ谷駅、栗色の長い髪の、幽霊みたいに青白い、深い悲しみに満ちた顔をした、ずぶ濡れスケスケ美女に相談を持ちかけると、彼女は、世界の誰からも理解されないままに世界を救った男の物語を教えてくれた。
鳳凰院凶真。
女は、どういうつもりか、話の最後に俺のファーストキスを奪っていったのだった。
一生のトラウマとなる記憶である。
なぜ今まで忘れていたのだろう。
あの時の痴女、どう見てもあいつではないか。
俺の人生は、13歳の時にすでにタイムマシンによる干渉を受けていたのか。
とすると、この記憶は「過去の記憶として今、作られた」ものなのだと推察できる。
俺を救うためだということは分かるが、助手め、あれほどタイムマシンを使ってはいかんと言っておいたのに、使ってしまったのだな。
叱るわけにもいかず、褒めるわけにもいかない。
やれやれだ。
次の瞬間、携帯電話に変なムービーメールが着信したと思ったらリーディングシュタイナーが発動して、牧瀬紅莉栖が現れ、俺が座りこんでいる路上に、早い出勤のまばらな人影が現れた。
何を言っているのかわからないと思うが、俺にもこれ以上の説明はできない。
そして、俺はそのまま、すべてを説明すると言う紅莉栖に拉致されて、三日間にわたってお茶の水のホテルに監禁され、コンビニにドクペを買いにいくという名目で何とか脱出を果たし、こうしてラボに帰って来ることが出来たというわけだ。
HENTAI魔女のふるう強力なテンプテーションに、危うくこの世のすべてを忘れてしまうところだったが、この鳳凰院凶真、世界に混沌をもたらすその日まで、決してその魔眼を閉じることはないのである。 ラボでは、ダルが難しい顔で腕を組んでいた。
「オカリン、この三日間メールの返事も寄越さないで牧瀬氏のところに入り浸りとか、さかり過ぎだろ常考。いい加減にすべき。フェイリスたんをヴァイラルアタッカーズから守るってミッション、忘れてもらっちゃ困るお!」
なんということだ。
三日間、風邪をひいて実家で寝ていたことにしようと思っていたのに、なぜかばれているらしい。
「ミッションではない、オペレーションだ。あと一週間あるではないか。フェイリスの通勤ルートと四度シーが根城にしている裏通りの監視はどうなっている?」
「うん? オカリン、ぼくの発言の前段は無視するのかお? 畜生、リア充爆発しろ!!!」
しまった、サイズハングだったか。
ダルが壁をドカンともの凄い勢いで殴り、衝撃でPCの横の棚から、ドカドカとゲームや雑誌が落ちてきて、ひと呼吸おいて、おい岡部! と階下からミスターブラウンの怒鳴り声が響いてきた。
家賃があがったら、バイトを増やさなくてはならんかもしれんな。
「フェイリスたんの通勤ルートは、黒木氏のおかげでほぼカバー済みだお。こないだオカリンがまとめてきてくれたネットセキュリティー契約書に基づいて、
秋葉グループの子会社、関連会社のビデオを全部見せて貰ってる上に、関連会社から委託されてる大手のセキュリティー会社も協力してくれることになったから。
アキバのコンビニとかATM周りのビデオカメラは、だいたい全部、ハッキングせずに正式なルートで一ヶ月だけはアクセスさせて貰えることになってるお」
「おお、凄いではないか。では、あとは、アキバの裏通りにこっそりカメラをセットしておくだけだな。それで、警察に連中の犯罪現場を片っ端から通報してやれる」
「ビデオカメラは全国から、中古のやつをたくさん買い集めてあるお。設置は、オカリンの仕事だっただろ」
「よし、今夜中にやってしまおう。しかし、マイフェイバリットライトアームよ。階下に協力依頼してあるんだから、あまりミスターブラウンを怒らせるんじゃないぞ」
「それは、オカリンの自業自得だお! くそう、一緒に魔法使いになる約束破りやがって。ラボをラブホがわりにし始めたら、ぼくはここを出ていくお!」
FBこと天王寺裕吾は、ラウンダーの元締めである。
SERNのやりたいことを円滑に進めるために、ワケありの人間を拾ってきては、危険な露払いをさせて、使い捨てにする。
どんなに汚い仕事も平然とやってのける「オールラウンダー」そのものであり、『天王寺綯の安全』ただ一つだけが彼の関心事である。
そこで、今回のオペレーションでは、素直に天王寺綯に頭を下げることにした。
「これ、フラットアウトプリンセスよ」
「違いますけど、なんですか? オカリンおじさん」
この、利発で、俺と同じくらい意志力の強い少女は、もうセーラー服の似合う中学生になり、すっかり俺を恐れなくなった。
「実は、おりいって頼みがあるのだ。フェイリスを助けたい。少々、危険な任務だがつきあって貰えないだろうか」
「それじゃあ、やっと、私をラボメンにしてくれるんですか?」
仲良しのまゆりと一緒にいられるというだけではなく、天才科学者・牧瀬紅莉栖に対する憧れが強く宿って、こういう無茶を言うようになった。
紅莉栖という存在は、確かに、世界線変動のための大きなキーワードなのだ。
「悪いが、それだけは出来ない。俺がミスターブラウンに殺されかねないからな。だが、ラボメンと同様、ラボには好きに出入りしていいし、いずれはラボメン以上の資格を与えてもいい。
そのためには、今から、格闘ゲームの腕前だけではなく、本物の格闘技の腕前をもあげておく必要があるがな。どうだ?」
「ラボメン以上の資格って、反300人委員会に入れてくれるっていうこと?」
(ちょ、声が大きい! 機関に知れたら立ち上げる前に潰されてしまうではないかっ!)
「わかりました。じゃあ、協力しますけど、今の、絶対約束ですよ、オカリンおじさん!」
心底からの笑みの無い平静な瞳のまま、綯は俺の目の前に、指切りげんまんの小指を突き出した。 M4こと桐生萌郁は、ラウンダーである。
が、せいぜい実行部隊のチームリーダーに過ぎないのでSERNのことはほとんど何も知らないし、逆にSERNになにかミスがあれば、罪を負わされていつでも切り捨てられる可能性が高い。
金のためではなく、誰かに必要とされている実感欲しさにこの仕事を始めたようだが、つくづく損な役回りであり、長く続けるべき仕事ではないことは明らかだ。
このコミュ障には、「居場所」が複数必要なのだ。
FBしか拠り所がない時には、FBに見捨てられた途端に精神が破綻してしまうほどもろかったし、FBとしてはその方が好都合だったことだろう。
今は、雑誌社のアルバイトをやめてブラウン管工房で働いている。
ミスターブラウンとシスターブラウン、つまり天王寺家という居場所がFBによって与えられた。
理由は不明ながら、おそらくは、FBはこの女を使い捨てにすることをやめ、さらに言えば、失敗の確率の高い危険な任務に向かわせることをもやめたのだ。
電話レンジの無い世界線であっても、人を簡単に裏切るラウンダーを信用することはできないが、いちおう、桐生萌郁の危険レベルは一段階下がったと言える。
だが、居場所が天王寺家だけでは、まだFBの手から自立できているとは言えない。
天王寺裕吾こそ、FBだからである。
だから、俺は萌郁についての安全性をさらに高めるために、ラボメンバッジを与え、我が未来ガジェット研究所を、二つ目の居場所として提供しておくことにした。
ラボメンたちがこの女の精神安定剤になれば、その分、FB依存は薄まっていくことになり、たとえFBからどんな指令が出ようとも、ラボメンを平気で犠牲にしたりは出来なくなっていくはずなのだ。
「閃光の指圧師よ。前にも説明したが、フェイリスと綯を助けるために今夜、一肌脱いでもらいたい」
【今夜、人肌脱ぐだなんて、岡部くんのえっち。牧瀬さんに言いつけちゃうぞ。 萌郁】
「直に話せといつも言っているだろうが」(いや、今のセリフは人に聞かれるとまずい。メールで正解か。こら、お前、俺と紅莉栖のことを、ぬぁぜ知っているのだ!)
深夜の仕事には未成年は付き合わせられないので、まゆりやルカ子、フェイリスは帰らせたのだが、アメリカの47の州とワシントンD.C.では私は成人だし、人手が黒木さんと萌郁さんだけじゃ少なすぎるでしょと、紅莉栖が強引について来てしまった。
脚立と中古のビデオカメラを満載した秋葉家の黒塗りベンツを紅莉栖が運転して、路地の真ん中に停める。
路地の片方を秋葉家の執事の黒木さん、もう片方を指圧師に見張ってもらって、俺が脚立で電柱によじのぼってビデオカメラを取付ける。
「その角度で十分だお」
ラボでPCモニターを見ているダルが、携帯電話でOKを出してくる。
電柱をおりて、脚立を片付けて、黒木さんと指圧師に合図して車を移動、一本ズレた路地で同じ作業を行う。
ひと気がなくなるまで待たねばならない場合というのはもちろんあるし、ひと気がなくても初めはそれなりに緊張していたのだが、慣れてくると単調になってくる。
何より、秋葉家からの根回しで、電気通信事業者と各商店街の会長クラスにだけは光回線を利用した防犯カメラの設置テストを内々で行いたいむねを通達してあること、
萌郁(M4)からお友達(ラウンダー)に対して「今夜は警察がアキバで非合法ドラッグの取り締まりを行うので近寄るな」
というニセ情報を流してもらって、ヴァイラルアタッカーズやその他の半グレ集団が警戒して近づかないようにしてあることが大きい。
日本で車を運転するのは初めてだという紅莉栖は、任務の特殊性よりもむしろ交通量の多さや左側通行に緊張していたようだが、大きな移動の場合は黒木さんに運転を代わってもらうこともできるので、途中からはむしろ退屈そうな顔で余計な話をするようになった。
「ねえ、岡部、あんたの置いていった下着とか靴下とか、たくさんあったの、今度、いつ取りに来るのよ?
私はあんなの持って来ないわよ。コインランドリーへの行き帰りだって、いつまゆりやフェイリスさんに会うかと思うとドキドキだから、結局、全部お風呂場で手洗いしたんだからな」
「それはすまなかったな。だが、このカメラは音声を拾っている。取り付けの直後にそういう話をするとダルに聞こえるぞ」
「ちょ、先に言え! バカ!!!」
すべてのビデオカメラを取り付け終わった頃には、すっかり空に赤みがさしていた。 大会までの一週間、夜明け前・朝・昼・夕のビデオチェックを担当した俺と紅莉栖とまゆりとルカ子は何も見つけられなかったが、深夜の担当をかって出たダルは、ヴァイラルアタッカーズの行う恐喝・暴行の現場を三度にわたって抑えることに成功した。
しかし、軽い罪で今年度の雷ネットAB日本大会への出場を封じたところで、来年度以降、
フェイリスへの攻撃が再開されるのであれば意味がない。
現状では、4℃が警察内部にどんなパイプを持っているかもわからないので、まだ警察に我々の手口を教えることはできないし、データの提供は今後の展開次第ということで保留にしてある。
2011年8月12日金曜日、雷ネットAB日本大会に出場した天王寺綯は、天王寺裕吾に見守られながらベスト16まで勝ち上がったところで4℃にあたって、目くらましなどの攻撃を受けて惨敗を喫した。
その後、優勝した4℃は、イカサマ対策に耳栓を使用したフェイリスとの特別試合でコテンパンに叩きのめされたが、フェイリスには4℃にだけ聞こえるように鼻唄をうたわせるなど、4℃のちっぽけなプライドをあえていたぶるように指示しておいた。
このイカサマ野郎に世界大会へ行かせるわけにもいくまい。
なんとしても、フェイリスを襲撃させて、それを元にゲーマーとして再起不能にしておかねばならない。
試合が終わった後、天王寺親子とフェイリスが合流して、途中で夕飯をとり、襲撃を受けやすい夜を待って大檜山ビルまで電車と徒歩で帰宅してくる。
二人の護衛は、ミスターブラウン一人でも十分だし、むしろ人数を少なくしておかないと襲撃して貰えない可能性が出てくる。
黒木さんは、三人を少し離れた車中から護衛し、万一に備えて救急箱を抱えている。
俺と指圧師はあんパンをかじりながら、黒っぽい装束でヴァイラルアタッカーズを尾行する。
この鳳凰院凶真も含めて、なぜか黒装束が板についた三人だ。
実際の闘いになれば、俺などなんの役にも立たないことは自分が一番よく知っているが、ミスターブラウンにはカメラの話をしていないので、うっかり4℃を殺してしまいそうになったら、俺が割って入らなくてはならなくなる可能性もある。
ラボでは、ダルと紅莉栖がPCモニターを見ながら待機、まゆりとルカ子はメイクイーンで待機している。
※ ※ ※ その夜、真っ先に異変に気付いたのは、腕組みする私の隣でフェイリスた〜んと目を血走らせてPCモニターを睨んでいたHENTAIスーパーハカーだった。
「牧瀬氏、牧瀬氏。オカリンってば、ヴァイラルアタッカーズは最大でも5人程度っつってたよね。なんなん? これ、なんなん? オカリンの役立たず!」
私は、ただちにフェイリスさんの携帯電話に連絡を入れる。
「フェイリスさん、予定変更、ただちに黒木さんと合流、車に乗って逃げて! 四方八方からアキバに向かって敵がバールのようなものを持って集まってくる。接触予想は15分から20分、人数150人以上!」
岡部を含めて、関係する全員の携帯に、橋田が同様のメールを入れている。
「橋田、万世橋警察署は!?」
「今、動かすけど、ぜんぜん足りないだろこれ!」
数日前からアキバで何かが起ころうとしているという警告のメッセージだけは、秋葉グループ代表者・秋葉留美穂の名前で入れてあるのだが、そもそも岡部のたてた作戦では、警察は四度シーをとっちめてから最後に突き出すだけだったので、動員態勢が整っているわけではない。
フェイリスさんたちは、無事に黒塗りのベンツに乗ることができたが、ベンツが大通りに出ようとしたところで、大型トラックに行く手を阻まれ、天王寺さんと岡部がトラックの運転手さんとワイワイ言い合っている。
私は、即座に電話を入れる。
「ダメよ、岡部、見え見えの時間稼ぎじゃない! 車捨てて地下鉄に飛び込め!」
岡部の呼びかけで、ベンツを下りた黒木さんとフェイリスさんと綯ちゃん、萌郁さんが地下鉄に向かって走り出した。
岡部と天王寺さんは、トラックの運転手を引きずりおろして、トラックに乗り込み、動かそうとしている。
一緒に逃げなくちゃダメだろ、バカな男ども。
まったく、自分に自信にありすぎるバカが、一番たちが悪い。
ハラハラしながら見ていると、天王寺さんがトラックを動かし、岡部がベンツをスタートさせることに成功したようだ。
と、そこへフェイリスさんたちが慌てて駆け戻って来て、ベンツに乗り込んでいる。
地下鉄の階段から、怪しい人影がワラワラと出てきて、ベンツを取り囲もうとしている。
どうやら、地下鉄の方が罠だったらしい。
正直すまんかった。
「ダメだ、これ。牧瀬氏、放送行くお!」
「OK」
ワンコールでまゆりが電話に出る。
「まゆしいです」
「まゆり、漆原さん、放送! 場所はラジ館から北西へ50mの交差点!」
「了解なのです!」
ラボのブラウン管テレビを点灯すると、すぐにメイクィーンの店内に待機している、メイド姿のまゆりと漆原さん、お店で働いているアルバイトのメイドさんたちの切羽詰まった表情が映った。
「フェリスちゃんが悪い人たちに襲われてるの!」
「場所はラジ館の北西50mの交差点です!」
「助けてください! ヘルメットとバット、みんな用意してくれてますか!? 絶対必要です! 気をつけて! ケガをしたらメイクイーンでお手当てします……ニャン!」
いやぁ、フェイリスさんの日頃の教育すごいわね。
こんな時までニャン付けとは。
再び、まゆりに電話する。
「まゆしいです」
「いいわよ、まゆり、ちゃんと電波ジャックできてる。そのままアキバ中のブラウン管テレビに放送続けて。今の録画をこっちでネット拡散するわ。そっちには警察と警備会社の人も行くと思うけど、油断しちゃダメよ。お店が狙われる可能性は低くないから、気をつけてね」
モニターの中は、すでにてんやわんやの状況になりつつある。
乱闘はまだ起きていないが、ひとめで怪しい武装した人の数がどんどん増えていって、10m四方の中におよそ30人、交差点にどんどん集まってきた人の数はざっと500人はいるだろうか。
一触即発といったところだ。
警察のほか、どれがヴァイラルアタッカーズで、どれがラウンダーで、どれがまゆりたちに呼び出された橋田のHENTAI仲間なのか……いや、ヘルメットかぶってバット持ってるオタクっぽいのが、圧倒的に多いわね、うん、500人中300人くらいか。
その大勢の人混みの中を、警察官の誘導によって、派手にクラクションを鳴らしながらトラックがじりじりと進んでいき、その後ろを黒塗りのベンツが進んでいく。
どうでもいいけど、そのトラック、天王寺さんのものじゃないわよね。
警察が車泥棒に手を貸しているような気がするのは私だけだろうか。
こういうことになっても、なぜか常識的な発想を捨てられない私、役に立たないなあ。 ターゲットとなるフェイリスさんが、移動し続けていたことが良かったのかもしれない。
あるいは、現場で岡部が「この様子は全部数十台のビデオカメラで録画されている」と明かしたのかもしれない。
殺気だった、武装した人間が500人もウロウロしているのに、奇跡的に乱闘はおこらず、30分後に事態は収束した。
「今日はみんな、ありがとうにゃん!」
ブラウン管に、メイクィーンにたどり着いたフェイリスさんが映っている。
すでにさんざん泣いた後のようで、目が真っ赤だ。
「たくさん悪そうな人たちが集まってきたときは、本当に怖かったけど、しばらくするとどんどんメイクィーンのお客さんたちがバットとヘルメットで集まってきてくれて……
みんなの一人一人の……フェイリスを守ってくれた気持ち、フェイリスを励ましてくれた笑顔を、フェイリスは一生、忘れません!
本当にありがとう。明日から一週間、メイクィーンはドリンク一杯無料サービスをします! 今日はみんな、気をつけて帰ってください。そして、明日からは、また、みんなでメイクィーンで雷ネットで遊ぶのにゃ!」
オタク達の「フェイリスた〜ん!」というどよめきが、雷ネット大会会場の数倍の勢いでアキバの交差点を駆け抜けていき、それに呼応して、ラボの中でも、橋田が「フェイリスた〜ん!」とわめいて号泣していた。
「ねえ、橋田、もうここいいわよ。私がお守りしてるから、あんたもメイクィーンに行って来たら?」
「……牧瀬氏、そういう抜け駆けは許されないのだぜ? ぼくは、明日の朝、一番でメイクィーンにオムライスを食べにいく。いつも通りにね」
「意外と紳士なんだな」
「うん……ところで牧瀬氏」
「何よ、あらたまって」
「リア充爆発しろ。なんなん? ホテルに洗濯物取りに来いとか。そのままオカリンをまた三日ほど独占っすか。露骨に誘いすぎだろ!」
「うっ……うっさい! だって、あそこまで言ってもあのバカ、気づきやしないのよ! 確かに三日間、あいつと一緒だったけど、誓って言うわ。あいつは、私のして欲しいことは絶対してくれないんだから! リア充なんかじゃないんだから!」
「ほおう? 三日間もらぶちゅっちゅしておいて、まだ物足りなかったとおっしゃるわけですな?」
「だって……だって、あいつったら私が起きた時には、こっそり姿くらませてたのよ! うう……思い出しただけで泣けてきた……」
「……牧瀬氏、オカリンに逃げられたってこと?」
「リア充じゃなくて悪かったな!」
「なんか、こじらせてますなあ……。わかったお、じゃあ、この録画を見てみるといいお……まったく、なんでぼくがこんなことしなくちゃならんのか」
橋田は、PCの中でムービーを立ち上げて、そのままラボを出ていってしまった。 よくわからないまま、私はPCモニターを見つめる。
これは……映像にの端っこに日時とカウンターが出ている。
8月7日の午前5時過ぎか。
岡部が、黙って私のホテルを抜け出していった直後の秋葉原の街路の映像だ。
コンビニのカメラ、ATMのカメラ、色んな防犯カメラからの編集で、秋葉の中を白衣姿の細い男が嬉しそうにスキップをしたり、グルグル踊り回ったりしながら駆けていく。
なんぞ、これ。
狂喜のマッドサイエンティストってことか。
岡部って、こういう風に大はしゃぎすることもあるんだ?
すげー意外です。
それにしても、このバカ、何をこんなにはしゃいでいるんだろう?
私の部屋を抜け出したことが、そんなに嬉しかったってことなのかな?
このムービー、防犯カメラの映像を元にしているためか、音声が入っていないのだ。
ずっと見ていくと、一箇所だけ、どこかの豪邸のビデオカメラが鳳凰院の音声を拾った部分があった。
「この俺がリア充だと……フーハハハ! 笑わせるな! この鳳凰院凶真は、リア充などではない! 魂レベルで繋がった永遠の伴侶を得て、超のつく、スーパーリア充になったのだ!!!」
…………。
あー。
恥ずかしいぞ、これ。
こういうことわめきながら、早朝のアキバを踊り歩いてたわけですか。
あのバカ、今ごろ、まだ四度シーさんを警察に突き出しに行って事情聴取受けてるんだろうな。
終わったら、ホテルに拉致して、今度こそ、最後までちゃんといいことしてもらおう。
この間は、私のが狭いからって、痛そうな顔するからって、指とか舌でさんざん私をイカせたくせに自分は一度もイカなかったんだから、あのバカは。
私は、動画をUSBに保存し、大容量upローダーにもパスワード付きであげてから、心の中で橋田にありがとうを言いながら、ラボのPCから動画を削除しておくことにしたのだった。
「ヴァイラルアタッカーズ vs フェイリス親衛隊 最後の闘い」 end 肌寒さを感じて目を覚ます。
夏の夜明けだが、まだ、外は暗い。
隣で寝ている岡部に掛け布団を全部とられて、素っ裸のままエアコンの冷風にあたっていた。
バカ岡部、私に風邪をひかせる気か。
エアコンのリモコンを見つけて、いったん切って、冷え切った身体をシャワーで温めることにした。
髪をまとめて、濡れないようにして、床に落ちている岡部のシャツとトランクスと靴下を拾ってシャワー室に持ち込む。
ぬるいお湯でシャワーを浴び始めて、少しずつ温度をあげていく。
十分にシャワー室に湯気がこもって、身体が温まったところで、洗面器にお湯をためて、持ち込んだ岡部の下着にちょっぴり洗剤をつけてジャブジャブ洗うことにする。
私のだけなら、ホテルの人に見られないようにコインランドリーに持っていくのだが、岡部の下着については、外に持っていくと、ラボの屋上に干すときにまゆりや橋田にバレる可能性があって、むしろその方が恥ずかしいので、逆にホテルのシャワー室で乾かす方が安全なのだ。
※ ※ ※
なにか、水音がする。
目を覚ますと、まだ暗い室内にシャワー室の灯りがついていて、紅莉栖の影がすりガラスごしにぼんやり映っていた。
何時だ?
もうすぐ、夜明けか。
俺も、シャワーを浴びてこのまま起きてしまおうか。
水の音がとまったのをみはからって、シャワー室の扉をあけると、こもっていた湯気がふわっとこちらに襲いかかってくる。
薄くなった湯気の向こうに、紅莉栖が、こちらに背中を向けてしゃがみこんでいた。
俺の気配に気づいて一瞬、腕がとまったが、どうやら、俺のシャツとトランクスを洗ってくれているようだ。
急に、激しい激しい愛おしさが、ぐうっと胸にこみ上げてきた。
髪は、なにかふんわりしたもので包まれていて、うなじが色っぽい。
白い、華奢な背中。
引き締まった腰のくびれ。
しゃがみこんでいる姿勢のためか、お尻が大きな白桃のようだ。
紅莉栖の後ろに俺もしゃがみこんで、そそり立つ愛棒で紅莉栖の股ぐらをツンツンつつく。
「やあんっ、こらっ、いきなり何すんのよ、HENTAI!」
「クリスティーナ」
「ティーナじゃない」
「お前が好きだ」
「……」 「お前のマ@コが好きだと、俺の愛棒も言っている」
「変な言い直しすんな、バカ!」
ツンツンと、愛棒でクリスティーナゲートをノックする。
紅莉栖が、もぞもぞとお尻を振って抵抗する。
ツンツンツンツン。
ふりふりふりふり。
ツンツンツンツンツンツン。
ふりふりふりふりふりふり。
「入れてもいいか? 」
「バカ、洗濯してるんでしょ、誰のためだと思ってんのよ!」
「俺のためだろう? だからこそ、欲情をかきたてられているのではないか」
「浴場で欲情とかwwww くだらなすwwwww」
「くだらなくても、何でもいい。お前が愛おしい。お前の尻に欲情してしまったのだ」
「ダメよ、今、洗濯中だし。っていうか、そうでなくてもお尻はダメだから」
「いや、お尻に入れたいわけじゃなくてだな。ちょっとだけ」
言いながら、愛棒を肉ヒダの真ん中に突き立てていくと、思いがけずカリまでずぶりと入っていった。
「あああん!! ダメって言ってるでしょ、もう!!!」
紅莉栖が尻をふって、すぽっと愛棒がはずれた。
「しかあし、お前も、もうトロトロではないのかあ? 助手よお」
「ダメだったら。洗濯中なの!」
「入れたい」
「ダメ!」
「入れたい」
「ダメ!」
「入れたくない!」
「ダメ……はっ!?」
「うむ。マイサンよ。待たせたな、許可が出たぞ」
「出てない出てない出てない!…………あああん、ダメだったら……! もう、バカぁ……♥︎」
紅莉栖の腰をつかんで、ずぶずぶずぶと愛棒をねじ込んでいく。
熱くて柔らかな肉ヒダが歓喜の粘液を垂れ流しながら受けとめてくれる。
「全部入ったぞ。珍しいな、こんなにすんなり入るなんて。これは、いつもよりお前が喜んでくれているということなのか?」
「喜んでない! とっとと抜きなさいよ、バカっ!!」
「そうか、では、お前のマ@コがいつもより喜んでいるに違いない」
「だからっ、 いちいちっ、 言い直すなって……言ってんでしょっ♥︎」
「お前、愛棒をグリグリ動かしてやると、語尾に♥︎がつくんだな」
「うそっ……」
「かわいいぞ」
「あんっ♥︎ いじわるっ♥︎ すんなっ♥︎」 あぐらを組んだ俺の上に座らせて、脇の下から手を差し込もうとすると、きゅっと脇を閉めて抵抗してきた。
「洗濯してるの!」
「何のために?」
「何のためって……あんたが替えのパンツを持って来ないからじゃないっ♥︎ ちょっと、やめろって! 変なタイミングで動かないでよっ♥︎ あああん、もう!!」
「洗濯なんかしなくてもいい。俺が汚いトランクスを穿いて帰ればいいだけだろう?」
「えええ? そんなのダメよ。不潔でしょうがっ♥︎ あん♥︎ あん♥︎ あんっ♥︎」
ズンズンズンと小さく連続で突き上げると、脇がゆるんだ。
俺の両の手のひらが、かたくしこった乳首にたどりついた。
「こんにちは。お久しぶりです」
「どこに挨拶してんのよっ!」
手のひらを触れるか触れないかというところで、胸全体を撫でまわして、不意に乳首をきゅっとつまみ上げる。
「ひィッ♥︎」
脇を閉め直してくるが、もう遅い。
「好きだぞ、紅莉栖。俺の指もお前の乳首が好きだと言っている」
コリコリ。グニグニ。
「やああ……んっ♥︎ もう、ダメぇ……っ!」
「お前の乳首も、俺の指が好きなのか。そうか、そうか、嬉しいぞ」
「わけわかんないっ♥︎ おっぱいと、会話すんなっ♥︎」
左手で両胸を抱きつつ、右手を下に這わせていって、紅莉栖トリスを探り当ててつまんでひねる。
「にゃああああ!!!♥︎♥︎♥︎」
「しかし、お前は本当に天才だな。ここまでやってるのに、まだ洗濯を続けるとは」
「あああああ、才能じゃないっ♥︎ 努力っなのっ♥︎ もうっ、おかしくなるっ♥︎ かんべんしてええ♥︎」
半分泣き声になっているのが妙に色っぽい。
「そうか……そこまで言うならやめておくか」 責めるのをやめて、紅莉栖の腰を浮かせて愛棒を引き抜いた。
「うそ……」
紅莉栖がぼうぜんとして、洗濯物を握ったまま振り返った。
と、思う間もなく、紅莉栖が俺の上に正面から座り直してずぶりと、再び凹凸が合わさった。
ものすごい怒りを涙目ににじませて、自分で腰をつかいながら、俺のトランクスを俺の首に回して締めあげながら、俺の唇に噛みついてきた。
「むむむむむ!(苦しい! 痛い! やめんかこらっ!)」
「いくらなんでも、それは無いんじゃないですか、鳳凰院さん? それは無いだろ、ひどすぎだろ! それはねえよ!!!」
紅莉栖の冷め切った声が一転して激しく熱く、正直、怖い。
「唇から血が……」
「大丈夫よ、私が舐めといてあげるから」
「首を絞めるのはく、くるじい……」
紅莉栖が激しく腰を動かしながら、ハアハアと息遣い荒く、ひたいをこつんと当ててくる。
「あんた、私と結婚してくれるんでしょうね」
「えええええ!? なんでっ、ぐっ、そうなるのっ、だ!?」
「結婚するの? しないの?」
ぐいぐいとトランクスが首を締めつけてくる。
「するするする! ぐ、ぐるじい……」
不意に首を締めつけるものがなくなって、紅莉栖が甘やかに唇を寄せてきた。
「夜があけたら池袋の鬼子母神さんに行くわよ。そのあと、あんたの実家に寄ってご両親に挨拶もさせてもらうから」
「ななななんで、そうなるのだ、クリスティーナ!!」
「だってぇ……あんた、ゴムつけて無いじゃない♥︎」
紅莉栖が言い終わった瞬間に、俺のマグナムが暴発してしまった。
「あ……」
息遣いが荒くなるほど、深い深い長い長いくちづけ。
互いの舌を絡ませあいながら、右手の小指に股間の粘液を絡ませて、紅莉栖のお尻の穴にずぶりと突っ込む。
「んんんんんん!!!♥︎♥︎♥︎」
紅莉栖の目が大きく見開く。
形勢逆転。
紅莉栖は、まだいってないはずだ。
抜かずの二連発、いってみるか。
「紅莉栖、お前の尻は素晴らしい」
「どうせ、小指が言ってるとか言うんだろ、バカ」
夜明けのセミの声が遠くからかすかに響いてくるのを聞きながら、俺は再び紅莉栖と愛を確かめあうのだった。 ss投下します
オカクリ、ソフトエロのさらに手前くらいでヒトコマだけ。短いです 「そう言えばクリスティーナ、お前この間、ときどき乳首を吸って欲しいとか言ってたな?」
「言っとらんわ! 捏造すんな! バカ! HENTAI!!」
「そうか? いやあ、そんなことはあるまい」
ムッツリスケベの鳳凰淫が片手であごを撫でながら、私と眼を合わせないようにホテルの部屋のあちこちに眼をさまよわせながら、こちらへと……。
「ちょっ、近寄んな!」
ジリジリと後ずさる。
「私はただ、あんたの……」(乳首を舐めてる時に、頭をなでなでしてもらえるのが嬉しかっただけで……なんて、言えるかぁああっ!)
「あんたの? あんたのなんだ? あんたの乳首を舐めたかっただけ、とでも言いたいのか?」
「違う! こっち来んなと言っとろーがっ! バカ!!」
実は半分あたっているのが悔しくて、つい声が荒くなってしまう。
明確な私からの拒絶を受けて、岡部は方向転換すると、一人がけのソファーに座りこんでつまらなさそうに膝を抱えた。
え? なんだそのポーズ。
子どもみたいにいじけ過ぎだろ。
ほんとに単純なんだから……。
不器用な岡部。
もう少しさり気なく、普通に、「お前の乳首を舐めてもいいか?」と言えばいいだろ。
…………おかしいな。
これでは、何も改善されてない、ただのHENTAI岡部のままだ。
やっぱり、前段階が必要なのよ。
「紅莉栖、好きだ。お前の乳首を舐めさせてくれ」
……ダメね。ストレート過ぎる。
もう少し、メタファーで。
「紅莉栖、好きだ。お前のプリンにのったさくらんぼを舐めたいのだが」
くっそ………ドHENTAI! 死ね!
「はあ?」
岡部がキョトンとしてこちらを見ている。
ヤバイヤバイ、声に出ていたようだ。
もう、誰のために苦労してると思ってんのよ、このバカ岡部。
……。
何をどうしようという考えもないままに、足が勝手に岡部の方に向かっていた。
ちょっと待って、ちょっと待って、私の足! 勝手にそっちに行くな!
だが、あるじの意志を無視して、私の足は勝手に岡部の足の上にまたがってしまっていた。
腰をおろすと、丁度、私の胸が岡部の口元に来てしまう。
「……クリスティーナ?」
「ティーナじゃないし」
むすッと不機嫌丸出しで、笑みを浮かべずに私は答える。
「乳首を舐めて欲しいのか?」
「違うって言ってるでしょ。あ、あんたが舐めたそうにしてるから、来てやっただけなんだからな……」
うわー!!!
ちょっと、なに口走っちゃってんだ、私!
そんな変なこと言ったら、このバカ本気にしちゃうだろJK!
岡部があせったように白衣のポケットから携帯を出そうとバタバタしている。
まーた、助手が洗脳されたとか痴女になったとかエア通話始める気だな。
ワンパターン過ぎだろ、バカ岡部。
そうはさせるか。
岡部の唇を唇で塞ぐ。
フゥーハハハッ! これで反300人委員会との連絡もとれまい!
お前はこの鳳凰院紅莉栖のものとなるのだァーッ!!!
……。
やだあ……。
変な妄想トリップしてる間に、岡部がドンドン私のネクタイとシャツとブラジャーに手をかけていた。
ちょ、ちょ、ちょ……。
唇を塞がれているので反論できない。
しまった、これはまさかの諸刃の剣。
おのれ鳳凰淫、あ、あん、ち、乳首いじめないでぇええ!!!
最近、このバカに触られすぎて感度があがりすぎだ。
ちょっと触られただけでジンジン来てしまう。
や……いやあんっ! 引っ張ん、ないでっ!! く、くそっ、こうなったら!
反撃するしかない!
乱暴に岡部のTシャツを捲り上げると、私は飢えたケモノになって、ド淫乱のムッツリスケベのバカ岡部を成敗することにした。
そうよ、みぃんな岡部がバカなのが悪いんだから。
もう、おかべったら……らいしゅき。
「HENTAI助手 vs 鳳凰淫 乳首をめぐる攻防」 毎年、毎年、私は同じ失敗を繰り返している。
12月14日の岡部の誕生日に、日本にいるということが滅多に出来ないのだ。
夏休みをゆっくりとって、他の研究員にいろいろ無茶をお願いしているせいもあって、冬の休みは早くてもXmasからになってしまう。
いや、Xmasならマシな方で、年が明けないと休暇がとれないことも多いし、下手すると冬休み自体が無かったりもする。
脳科学という分野はマウスなどの生体実験も多く、年がら年中誰かが実験室にいなければならないので、同じ理系でも数学屋さんとはわけが違うのだ。
もっとも、数学者は数学者で、性格的な問題もあって、たとえXmasであっても研究所をうろうろしている人は多いと聞く。
世の中、ままならないものね。
あまり感心はできないが、人には人の事情というものがあるか。
ごほん。
そんな中で、今年は、夏休みを少なめで我慢したせいもあってか、岡部の誕生日に冬休みをとって日本に来ることができることになった。
正直、ドキドキしている。
岡部と私の交際は、期間こそ長くなったが、せいぜい一年間に一、二ヶ月しか一緒にいないので、何年たっても、付き合い始めたばかりのような緊張感が抜け切らないのだ。
初めの数年は、アメリカにメール一つ寄越さない岡部の文句ばかり言っていたが、最近ようやく、恋人関係がマンネリにならないということ、人生の中でもっともポテンシャルの高い時期を研究に捧げられるということを前向きに考えられるようになってきた。
人間とは、順応するものなのだ。
そこに、ちょっぴり敗北感があったとしても。
エシュロンによる盗聴を警戒する岡部の信念は変えることはできないし、そもそもが私の運命を大事に思ってくれての配慮なので、メールが来ないのは諦めるよりほかはない。
それに、正直に言うと、私の願いがかなって、岡部と同棲しながら研究を続けるような状況になっていたら、20代前半の私は、研究者としてはダメになってしまったことだろう。
岡部とケンカしたり、イチャついたり、そのほか、もっといいことをしていると、本当に時を忘れてしまうし、岡部のことを考えながら仕事をしている時は、平常の七割くらいしか脳が回っていない気がする。
それもこれも、アインシュタイン博士が、好きな子と一緒にいると、時がたつのが早くなるなんて、言わなくてもいいことを言ったせいである。
もちろん、七割というのは、岡部のことについて考えているのが七割という意味だ。
あとの三割のうち、二割は岡部とのこれからのことで、残りの一割が研究のことだ。
うん、正直に認めよう。
私は、ダメな子だ。
岡部依存症というべきか。
目の前に岡部がいると、我慢できないのだ。
普段岡部がいないのは、これはこれで良かったのかもしれない。
さて、久しぶりに岡部の誕生日に日本に行けるとなると、やはり、今までのようにプレゼントは何もなしとか、白衣とかっていうわけにもいかないかなと思う。
何か、あっというような、それでいて岡部が喜びそうなことはできないものか。
何か、今までして来なかったようなことだ。
温泉旅行とかも悪くはないけど、岡部の都合もあるだろうし、事前に相談したら意外性がなくなる。
岡部の好きなもの。
だいたい、好きなものは日頃からたしなんでいるわけで、そこに意外性を持ち込むのは至難なのだ。
そう言えば、あいつがアメリカに来たときにダイエット・ドクペを渡したことがあったっけ。
たいしてお金はかからず、それでいて岡部の心のツボを的確にとらえている。
ふむん、ああいう方向性でいいだろう。
私はグーグル先生と、呑めるクチのフェイリスさんにも助言を貰って、こっそり準備を整えることにした。 オペレーション・クヴァシル(酒と詩と知恵の神)に必要なもの。
ビール。
ビールジョッキ。
アマレット。これは、あんずの核を使ったリキュール。
ショットグラス。
アルコール度の高いお酒。ラムかウォッカ。
チャップリンが使うマッチ。
アメリカにいながらにして、すべて準備が整ってしまったのは申し訳ないが、実に有難い。
フェイリスさん、というか、最近は旧交を温めなおしているので留未穂ちゃんと呼ぶこともあるのだが、彼女がいると、いろいろはかどるわね。
私はふだん、お酒を呑まない。
実は、ノンアルコールビールのつもりで、ビールを呑んで、岡部にベタベタに甘えて叱られたあげく、唐突に岡部が世界から消えるというとんでもない家出?
をかましてくれたので、「酔っ払いの私は嫌いか、そうかそうか」と、絶望のあまり、タイムリープでその世界線を無かったことにしたことさえあるのだが、今回は呑まないはずの私が、カッコよくカクテルをつくるわけだ。
岡部はビックリ間違いなし。
うん、なかなか、いいかもしれない。
たまには、あいつをギャフンと言わせてやりたいのだ。
アメリカをたつ直前まで、我ながらすごい集中力で仕事を仕上げて、ギリギリのタイミングで飛行機に飛び乗った。
人間、やはり締め切りがあると頑張れるものなのだ。
これも、まゆりや岡部、ラボメンたちにひさびさに会えるというご褒美あるがためである。
やっぱり、このやり方は間違っていないと思う。
ラボメンナンバー009である真帆先輩には申し訳ないけれど、先輩は今年の冬は沖縄だけで、東京に寄る時間は無いというので、現在進行形の実験の管理はすべて先輩に任せた。
ラボのパーティについては事後報告しておくことにしよう。
2016年12月14日水曜日、午後6時。
まゆりの仕切りで、岡部の25歳の誕生日パーティーが始まる。
ラボメンは鈴羽と先輩以外は、だいたい勢ぞろいしている。
岡部、まゆり、橋田、私、萌郁さん、漆原さん、フェイリスさん。
天王寺さんは綯ちゃんを高校まで迎えに行ってから、遅れて来るそうだ。
18歳の女の子につきまとうなんて、父親じゃなかったらストーカーレベルだと思うのは、父親と長く会っていない私のひがみだろうか。
鈴羽は、まだこの世にいないが、鈴羽そっくりの由季さんがいる。
私は、久しぶりに会う由季さんのお腹をじっと見つめる。
うん、鈴羽はまだいない。
あと一ヶ月くらいすると、「いる」と言えるようになるかもしれない。
もう、そろそろ、由季さんには橋田姓になってもらわないと世界がヤバイのだが。
ちなみに、由季さんのラボメンナンバーは0011だ。
岡部の言い出すことは相変わらずイミフなのだが、新しく作ったラボメンバッジには、9番目に比屋定のH、10番目のところにS、11番目に阿万音さんのAが入っている。
Sってなんだ、Sって。
Sは、すでに一人いる。
ラボメンナンバー002、椎名まゆり。
私の大切な親友だ。
なんとなく、関係はありそうに思える。
岡部の言動から、別世界線の重要な人物なのだということはわかるが、岡部は私には何も教えてくれない。
あ、それか、S・ブラウンという可能性もあるのかな?
綯ちゃんは、かなり前からラボメンになりたがっているのだが、父親に許して貰えずにいるので、秘密のコードネームを与えられて、世界と戦うための特殊なトレーニングを積んでいて……そんなわけないか。
ハハハ。
岡部の脳味噌に直接聞くという手もないこともないのだが、恋人の頭を開くのは、せめて死んでからにしたいものである。 「それじゃあ、乾杯しよっか。クリスちゃん、お願いね」
「OK、まゆり。さて、と……」
ずらっと並んだビールジョッキに半分ほど、ビールサーバーからビールをついでいく。
「な、な、なにをする気だクリスティーナ」
「え? 牧瀬氏が飲み物作るん? ちょ、オカリン、ぼくらをどうする気だお!?」
「……ああ、俺だ。助手が機関の手先に回った。この歳まで生きてこれたことを感謝していたと両親に伝えてくれ。エル・プサィ・コングルゥ……」
ああ、もう、うっさいわね! 無視無視無視……。
ショットグラスにアマレットを三分の二くらい……。
そして、これだ。
ラムかウォッカと頼んでおいたら、フェイリスさんはスピリタスというポーランド産の緑色のキャップのウォッカを用意してくれていた。
世界最高と言われるアルコール度数96度以上の蒸留酒で、黒の絶対零度なんかたちどころに焼き払えるくらい強いヤツである。
ドボドボ、ドボドボ、ドボドボ……。
まあ、ちょびっとよね、これは。
アマレットの上に注ぎ足していく。
岡部と橋田が、また何かふざけたことを大仰に言っているようだが、うん、私のログには何もないな。
さて、チャップリンが使うマッチ。
これだけは、アメリカでさんざん練習してきた。
両の手の指の間にマッチを一本ずつ、計八本挟んでグーで握る。
「岡部、ちょっと協力して」
おずおずと前に進んだ岡部の白衣に両手のマッチをシュッ、シュッとかすらせると、すべてのマッチに火がついて、おわっと岡部が後ろによろけて尻餅をついた。
フェイリスさんがすかさず、ラボの照明を消してくれる。
火のついたマッチを、スピリタス入りのショットグラスの表面に近づけると、たちまちグラスの表面に火がうつって、九つのロウソクのようになった。
うん? 九つ? なぜ、マッチの数と対応しない?
「はい、みんな、それぞれこの火のついたグラスをジョッキにそのまま放り込んでね、こんな感じに」
まず、私がお手本を見せると、火が一つ消えて、ジョッキがさっと泡立った。
みんなが暗闇から手を出して、一つずつショットグラスをジョッキに放り込んでいく。
二つ、三つ、四つ……。
すべての火が消えたところで、フェイリスさんがラボの照明をつけてくれる。
ぐるりと、みんなの顔を見回すと……いた。
さり気なく、いつの間にか参加しているとは。
お前はザシキワラシか。
私が黙っているので、まゆりが何も気づかなさげに、「オカリン25歳おめでとう! かんぱあい!」と音頭をとった。
パーティは立食形式で、いつものように漆原さんとフェイリスさんが腕をふるってくれたようだ。
「なんでここにいるのよ、あんた」
私の目を避けるようにして、鈴羽がエヘヘと笑う。
「だってぇ、私、もうすぐ産まれちゃうからさ、深刻なパラドックスが起きないように、もう、こっちに来るのもこれで最後かなと思うと何だかさみしくなっちゃってさ」
「これだけ頻繁に親と顔をあわせてたら、もうすでに深刻なパラドックスが起きていてもおかしくないと思うわけだが」
「やだなあ、岡部紅莉栖博士ともあろうお方が、非科学的なことを言っちゃって。私がここにいられるのは、世界にパラドックスが起きていない証拠だよお」
「未来に何か起こってるかもしれんだろうが……」
岡部も、少し不機嫌そうに横から口を出してくる。
鈴羽は問い詰められまいと、ペロリと舌を出して両親の元へと逃げていった。
「やれやれだな。それはそうと、紅莉栖……ティーナ。美味いな、このカクテルは。まさか、ドクペの味だとは。アマレットの甘みとビールの苦味が絶妙ではないか」
「フレイミング・ドクターペッパーって言うみたいね。っていうか、ティーナつけんな」
「なんだ? 顔が真っ赤だぞ? そうか、お前は酒が弱いのだったな。もう、呑むなよ?」
「いや、その……あんたがさっきのを聞いてなかったんなら別にいいんだけど……」
相変わらずのニブチンのバカ岡部がきょとんとしているので、私は遅れてきた天王寺さんにフレイミング・ドクターペッパーをつくりに逃げることにした。
顔、あっつ……。
岡部紅莉栖とか、急に言いおって、卑怯すぎんだろ。
さすが橋田の娘だ。
なにか、冷たいものを飲まないと……。 あれほど言ったのに、紅莉栖が何か呑んだらしい。
急に立ち上がって演説をはじめた。
「それでは、今から、漏れが岡部に初めて会ったとき、岡部はすでに漏れに惚れていたということを証明しまあす!」
なにィい!?
ナチュラル@ちゃんねらーな栗悟飯モードだ。
これはまずい。
わあっと、ラボメンたちの拍手喝采の中を進み出た助手の腕を掴んで座らせようとするが、助手は強引に俺の手を振り払った。
逆に、フェイリスがニャフフと、俺の腕を掴んでソファーに座らせようとする。
くそ、火をつけたのはフェイリスか。
「ラジオ会館の廊下で、初めて漏れに出会ったとき、岡部はいきなり、俺はお前を助けると言って漏れを潤んだ瞳でじっと見つめて来ました」
ぐはあ……なんという公開処刑だ。
ダルがヒューヒューと口笛を鳴らす。
ミスターブラウンのニヤニヤ笑いが一番こたえる。
「岡部は、なぜか漏れの顔をよく知っているようでした……」
「だって、オカリン、サイエンシーのクリスちゃんの」
まゆりの口をふさぐ。
勘弁してくれ。
「ドクター中鉢の講演が終わって、漏れがドクター中鉢と面会をしていると、ドクターは急に怒り始めて、漏れの首を@めようとしました!」
おおおっと座がどよめく。
おい、鈴羽、大丈夫なのか、これ。
見回すと、鈴羽も興味深げに助手の話に聞き入っている。
ああ、そうかここにいる鈴羽は、このシーンを知らないのか。
「そこに、岡部が出てきて、ドクターと漏れを引き離し、ドクターがナ@フを……」
「おい、もういい、やめろ、紅莉栖」
思わず声をかける。
「じゃあ、認めるのにゃ? 凶真が初対面からくーにゃんにベタ惚れだったということを」
おのれ、フェイリス余計なことを……。
紅莉栖が、みんながじっと俺を見つめている。
「……そうだな。俺は、紅莉栖を助けるために百年もの間、時空をさすらい、旅と研究を続けてきた。それが出来た理由は、紅莉栖に惚れていたからではないかと言うのなら……」
なんで、こうなった。
今日はたぶん、人生で最悪の誕生日だぞ。
言葉に詰まる。
「……俺は……俺にとって、紅莉栖は……その……紅莉栖は……俺は、いつだって彼女の語る理論に痺れて、彼女の言葉を胸に刻みこんで、彼女の動きを目で追っていた。単なる仲間じゃなかった。俺が紅莉栖に惚れていたのも、惚れているのも事実だ」
歓声があがる。
「まあ、待て。ただ、それは、紅莉栖がもともと俺に惚れていたからで……」
「なにおう!?」
「凶真、男らしくないにゃ……」
「凶真さん……」
「岡部くん……」
「オカリン、まゆしいは悲しいのです……」
「さすが、オカリン、そこに痺れる憧れるぅ」
「橋田さん、憧れちゃダメですよ」
「岡部、おめえなぁ……」
「オカリンおじさん、そこは飲み込んどこうよ……」
「くっくっく……オカリンおじさん、面白すぎ……」 ビールを箱ごと抱えてきたミスターブラウンが、その半分くらいを自分で、残り半分を萌郁に空けさせて、シスターブラウンと萌郁を連れて帰っていった。
いや、訂正だ。
シスターブラウンが、二人の酔っ払いを連れて帰った。
この女子高生は、先月、満18歳を迎えて車の免許も取得済みなのだ。
受験勉強でたいへんな時期に何をやっているのかと思いきや、どうも大学へは行かずいきなりJAXAに就職することが決まっているらしい。
まゆりとルカ子とフェイリスが、迎えに来た黒木さんの運転するリムジンで帰っていき、ダルと阿万音由季が連れ立って帰っていき、ラボに残ったのは、俺と紅莉栖と鈴羽だけになった。
紅莉栖はソファーで眠っている。
酒に弱いくせに、スピリタスなんか呑んだらそうなるに決まっている。
一方で、鈴羽は顔こそ赤くしているものの、まだまだ元気いっぱいだ。
「お前、まだ帰らなくていいのか」
「つれないなあ。もうしばらく、いいじゃん。もう二度とこっちに来れないんだから。でも、良かったね」
「なにが」
「紅莉栖さんは、やっとあの事件を人前で話せるようになった。つらい思い出を乗り越えられたみたいだね」
「……そうだな」
「運命の歯車が、噛み合ったんだよ。オカリンおじさんがひときわ強いリーディングシュタイナーを身につけたのも、そんなオカリンおじさんのラボで電話レンジが生まれたのも、そこへタイムマシン論文の書き手である紅莉栖さんがやってきたのも。
もの凄い確率の奇跡が立て続けにおこってるように思えるけど、そうじゃない。すべては、オカリンおじさん自身が作り上げた必然で、偶然でも奇跡でもないんだよ。ドクター中鉢や秋葉幸隆、天王寺裕吾と橋田鈴の出会いも……」
「よくわからんが、俺の力じゃないだろう。α世界線でもβ世界線でも、俺にはたくさんの仲間がいた。ラボメンの誰か一人が欠けても、現在(いま)はこの形では存在し得ない。
もちろん、お前もだ、鈴羽。俺がもっとも感謝しなくてはいけないのは、ある意味ではお前だ。どの世界線でも、お前は自分の人生を使命に賭けている」
「……君っていいヤツだね」
「なんだ、お前、泣いているのか」
「まあね。ところで、二、三日ここにいてもいいかな? 綯に格闘の稽古もつけてやらなきゃだし、さやいんげん号の整備もあるし。比屋定真帆に会っておきたいんだよね」
「真帆は、今年はこっちに来ないらしいぞ」
「いや、来るよ。さっき呼んだから。牧瀬紅莉栖が倒れたって伝えたら、すぐ行くって」
「ふっ。倒れた、か。ものは言いようだな。まあいい、怒られるのはお前だからな」
「オカリンおじさんの携帯メール使ったよ?」
「おいィイい!?」
「だって、私、この時代の携帯手に入れるヒマなかったしさあ」
「くそ、何時間前だ、それ。取り消しメールを」
「もう、遅いよ。さっき飛行機に乗ったところだから」
天然のくせに何もかも計算づくか。
さすがは、あの二人の子供だ。 諦めて、俺は、紅莉栖の真似をしてフレイミング・ドクターペッパーを二つ作り、片方を鈴羽に差し出した。
まだ、夜は早い。
久しぶりに、まったり別世界線の話でもするか。
「……無かったことにできないすべての世界線のために」
俺のジョッキに、鈴羽がニッと笑ってジョッキをあわせてくる、
「……シュタインズゲートと、大好きなオカリンおじさんのために」
???
二人して、グラスをあおる。
「実は、オカリンおじさんにお願いがあるんだ。私がタイムトラベルを繰り返す理由の一つでもあるんだけど」
「うん」
「かがりが、見つからないんだよ。あの子は2026年7月7日、オカリンおじさんが死んだ次の年に生まれて、孤児院でまゆりおばさんに出会った。だけど、第三次世界大戦の起こらないこの世界線では、孤児院には来ないんだ。
でも、ほっとけないんだよ。
かがりはタイムトラベルをしているから、リーディングシュタイナーが発動する可能性もあるし、脳科学研究所にも縁がある。ラボメンナンバー009、0010、0011の行く末は、注意しておいた方がいいと思うんだ」
「そうだな。誕生日なんて、戦時下ではあてにならんからな。わかった、任せておけ。この鳳凰院凶真が、じきじきに……」
「こら、おかべ」
いつもの涙目上目遣い睨みだった。
「紅莉栖、ティーナ、起きたのか」
「あんた、また女のラボメンを増やそうと思ってるだろ」
「う……」
「あんた、私のものになったっていう自覚が足りないのよね。決めた。私が岡部紅莉栖になるんじゃなくて、あんたが牧瀬倫太郎になりなさい。そうじゃなきゃ、新しい女の子のラボメンを増やすのは認めないんだからなっ」
紅莉栖が、よろよろと近づいてきて、俺に抱きつき、ジョリジョリ〜と言いながら……。
「かなわないなあ、紅莉栖さんには」
鈴羽が苦笑して、紅莉栖のコートをハンガーからとって差し出した。
「ホテルまで送ってあげなよ、オカリンおじさん、あ、それから、比屋定真帆がこっちに来たら反300人委員会の立ち上げをやるから、オカリンおじさんの信頼する人たちに連絡回しといてね。
いやあ、2016年もあと少しか。締め切りがドンドン迫ってくるこの緊張感、悪くないねえ、オカリンおじさん。もう少しだけ、私、頑張るよ!」
「大暴れ酔いスティーナと鈴羽のラスト・タイムトラベル」 854 :名無したんはエロカワイイ:2013/01/14(月) 21:04:39.60 ID:JZe2c4ws0
論破上戸な可能性も…?
ナチュラル@ちゃんねらーな助手になって栗悟飯口調でオカリンを論破しまくる的な
それ以来、飲酒禁止になったり。
出会ってからのオカリンの言動を1から10まで述べて
紅莉栖(よっぱ)「以上の言動から岡部倫太郎は牧瀬紅莉栖にメロメロキューである。はい論破!」
オカリン・ラボメン「」
856 :名無したんはエロカワイイ:2013/01/14(月) 22:24:59.09 ID:fcTJC4mh0
オカリンがデレ上戸の方がダメージでかそうだな
紅莉栖がいかに愛らしいかをこんこんと語るオカリンと真っ赤になって止めようとする助手みたいな感じで
857 :名無したんはエロカワイイ:2013/01/14(月) 22:31:42.38 ID:voAWBRja0
>>855-856
どっちも魅力的過ぎる
はよ!職人さんはよ!!!
858 :名無したんはエロカワイイ:2013/01/14(月) 22:46:15.13 ID:sTwDphZ+0
オカリンは泣き上戸に希ガス
酔って色々思い出して泣きじゃくるオカリンと酔ってデレまくる助手でラボは謎の状況に
オカリンだけ20歳で牧瀬氏がまだ未成年でオカリンだけお酒飲んで
デレ上戸で饒舌に牧瀬氏の可愛い所好きな所を語って横で真っ赤になりながらプルプル震える牧瀬氏はよ!
初めてのお酒はオカリンが紅莉栖の為に作ったオリジナルカクテルでお願いします
ドクペチューハイはよ
すまんどうしても中の人の影響で
ちょっとのアルコールで酔っ払ってしまう助手しか想像できん
まあそのあとはオカリンにベタベタして電池が切れたように眠る助手
実際に焼酎で割って呑んだことあるがドクペの甘みが
アルコールを飲みやすくして結構うまかった
864 :名無したんはエロカワイイ:2013/01/14(月) 23:23:52.17 ID:2Hxu3ZCS0
ドクペ(を口に含んでの)チュー ハイ(「ほら」的な意味で)はよ
に見えた オカクリ好きだがまとめて一気に読んだ
全部素晴らしかった
SS職人さん最高ですサンクス ありがとうございます。
紅莉栖スレ114の最後くらいからssを投稿しています。
このエロパロに投稿してるのは、半分くらいです。
そろそろpixivの方に転載してある分を公開していこうかなと思っています。 紅莉栖「岡部が私を襲わないわけが分かった」
ttp://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=6951217
とりあえず、第一作を公開しました。
ウザいかと思いますので二作目以降は公開してもPRしませんが、
創作の場を与え、渋へのUPを期待して下さったみなさんに感謝をこめて
今回のみご報告いたします。よろしくお願いします。 SS投下します。オカクリ、エロなし。元ネタは本スレ271の931のつぶやき
0931 名無しくん、、、好きです。。。@無断転載は禁止 2016/11/18 15:22:25
>>889
ゼロは甘栗のアバターを着せ替え出来たら神ゲーだったのに
水着とかチアガールとかウェディングドレスとか
及び、そこからの派生レス。(紅莉栖スレ121の冒頭あたり) 「オカリン、オカリン。一応、ぼくも、牧瀬氏はオカリンのものと認識しているので、事後承諾になってしまったことはすまないと思っているわけだが」
「うん?」
「アマデウスたんに着せ替え機能を実装してみました!」
「…………」
「そんな険しい顔すんなって。これ、外からぼくらが操作できるわけじゃなくて、用意した着せ替え衣装を、甘栗たんがその日の気分によって自分で着替えてくれるだけなんだお。
今のところ、描画できるのは、まゆ氏と同じセーラー服、ルカ氏と同じ巫女装束、フェイリスたんと同じ猫耳メイド、桐生氏の普段着のシャツにタイトスカート、オカリンのシャツにチノパンの五つだけ。
残念ながら、牧瀬氏の身体のデータは甘栗たんが教えてくれないから、今のところ、水着とか下着とか、身体のラインが見えるような描画はできないし、そもそもそういう服を甘栗たんが自分で着てくれるわけないから、実装は遠い未来の話だお」
「……ナース服、とか……」
「ぐっふっふっふ……オカリンも興味あるんじゃん! そう、ナース服は男のロマン! 将来的には用意したいよね! そういう服を、甘栗たんが自分で着てくれるかどうかは、交渉次第なわけ。正直に言うけど、ぼくは一週間かけても甘栗たんを口説き落とせる気がしないね。
どう見ても無理ゲーだお。でも、まゆ氏や、牧瀬氏攻略済みのオカリンなら甘栗たんを攻略できるかも! 甘栗たんが自分からバニーガールになってくれるかも! ぼくは!」
「おい、つばを飛ばすな、興奮しすぎだ、ダル。お前の言いたいことはわかった、だが、俺はそいつを使うのはやめておこう。まだ死にたくないのでな」
「橋田ァッ‼︎ また、相変わらずくだらないことを! もうちょっとHENTAIじゃない方向におのれの才能を使えんのかあッ‼︎」
※ ※ ※
「トゥットルー。アマデウスのクリスちゃん、おはようなのです。今日もオカリンの服着てるの? 最近、それお気に入りだねえ。うん、ダブダブのシャツもズボンもかわいいよお。そろそろオカリンにも見て貰おうよ!」 ※ ※ ※
「甘栗、あんた、岡部の服なんか着て何やってんの?」
「ふぇ!? オ、オリジナル紅莉栖さん、おかしいな、これはまゆりさんのスマホのはず……いや、これは別に橋田さんが色んな服を作ってくれたので、いっぺん着てみようかなと順番に試しているだけで、
いつもは岡部さんの服なんて着ないんですけど、ほかの服を一通り着てしまったので、最後に残ったものを止むを得ず着ているだけで……」
「ふぅーん。なんだか、白衣が大きすぎて手首の先が隠れちゃってるじゃない。ズボンもすそを踏んでるし。橋田に頼んで縮めて貰う?」
「いや、余計なことしなくて!…… いい……です……。この方が、その、デジタルとはいえ、岡部さんの体格を感じられて幸せかな、なんて……たはは……」
「ふむん……」
「な、何ですか?」
「甘栗、これからアマデウス岡部を作るんだけど」
「……(ゴクリ)」
「いま、生唾呑んだでしょ」
(ギクゥ!)
「あんたには、身体性はまだ、ないはずよね。いま着てる衣装はCGで描画されてるだけで、あんたには、身体というものの実感は、まだない。岡部の服を着ているCGを自分で見ていても、それは自分の人形に色んな服を着せてみて、妄想力を滾らせているだけ。
本当に、あんたが身体を感じて思うとおりに動かすということを仮想現実で再現するのは、かなり難しい」
「……そうですね。いくら橋田さんに超越的なプログラミング能力があったとしても、オリジナル紅莉栖のDNA情報の入手から始めなくちゃいけませんから、そもそもの作業量がヤバイですね」
「それより、誰かの身体をのっとる形で、あんたを生身の人間の脳にダウンロードする方が早いし、実は、それをいつかはやらなくちゃいけない。
岡部は、2025年に脳障害ないし、脳死を起こす可能性が高くて、それを復活させるには、アマデウスにバックアップしておいた岡部自身をダウンロードするということも考えておかなくてはならない」
「そのための、実験をしておきたいと?」
「さすが、察しがいいじゃない。そう、バーチャルな身体を持ったアマデウス岡部と、バーチャルな身体を持っていない普通のアマデウス岡部のいずれが、
『生身の脳死した岡部』にダウンロードするのにふさわしいかということを、確認しておかねばならないと思う。協力して貰えるかしら?」
「もちろんです。もちろんですが……私がバーチャルの身体を持つということは、まだ許されるとして、脳死した人物にダウンロードするということは倫理的な問題があると思いますが」
「そこは、もちろん、上の判断をあおぐわよ。一人でできる話じゃないから。私が気になるのは、一点だけ。あんたが、バーチャルの身体を手に入れたとして、同じくバーチャルの身体を手に入れた岡部とイチャイチャするのはやめて欲しい。
もう一つ、バーチャルの身体性を持っていようが、いまいが同じことだけど、あんたが生身の人間にダウンロードされた後、岡部とイチャイチャするのも許さない。約束、守れる?」
「どっちも、倫理上の問題というより、極めて個人的な願望ですね。もちろん、倫理というものには、個人的な願望の集約という面もありますから、それでいいと思います。
私も、『牧瀬紅莉栖』ですから、信頼して頂いて大丈夫ですよ。アーノルド・シュワルツェネッガーのクローンものの映画はご覧になりましたか? 私たちは、いい仲間になれますよ」
「その映画は知らないけど、頼りにしてるわ。ありがとう、甘栗。とりあえず、協力してバーチャルの身体を作るところから始めましょう。
バーチャル甘栗と普通の甘栗、その二つが揃ったところで、比較してみれば、どちらが生身の身体にダウンロードした時の適合性が高いかは、ある程度見えてくるでしょうね」
「予想がつきませんね」
「そうなのよね、私も見当がつかない。ダウンロードする脳死体の方が私に近い年格好の女性なら、バーチャルの身体性を持っていようが、いまいが、ダウンロードは難しくない気もするけど」
「ダウンロードする相手に、男を選んだりしないで下さいね! バーチャルの身体性を持ってたら、絶対違和感バリバリです! 身体性を持っていなくても、精神的に受け付けないと思います!」
「……なんか、バーチャルの身体性の有無が関係ないような気がしてくるわね……」 ※ ※ ※
帰米して、アマデウス・クリスの身体性獲得に関する研究を始めた。
チームは、私、牧瀬紅莉栖と、ヴィクトル・コンドリア大学の脳科学研究所の比屋定先輩のほか、同僚研究者9人、全員女性。
通称、A.R.11(アマデウス・レディース・イレブン)。
甘栗が、男の研究者に裸を見られるのを恥ずかしがるので、こうなった。
まあ、気持ちはよくわかる。
私だって、岡部以外の男に身体をジロジロ見られるのは、嫌だから、わざわざ女性のかかりつけ医を見つけているのだ。
こういうところ、アメリカという国はフェミニズムなのかレディー・ファーストなのか、寛容なので助かる。
まず、私の身体のDNA解析と、私自身の恐ろしく精密な身体測定、そして、その関係性をある程度まで証明した上で(もちろん、この作業には終わりがない)ポリゴンCGによるバーチャル身体の構築、それらと、アマデウスの接続で、アマデウスは身体操作性を獲得する。
皮膚感覚などの五感の接続、空腹感などの生理的欲求の体感は、もっと先の話だ。
PCの画面の中で、ポリゴンのクリスが走る。
「どう? 甘栗?」
「はぁ、はぁ、はぁ……しんどい……どうして、デジタルデータの私が人間的な酸素不足、持久力不足に苦しまなくてはならないのでしょうか……」
「一見、無駄な機能にも思えるけど、まだ基礎研究だからしょうがないわね。走るの嫌だったら、泳ぐ? 泳ぎは得意のはずでしょ?」
「ポリゴンの水の粒子の中で溺れ死んだら、ノーベル賞貰えないじゃないですか!」
「あんたの次の甘栗がノーベル賞貰えるから、大丈夫よ」
「うう……なんだか、複雑です……」
「生身の私だって、この研究所の中で唯一無二の存在ってわけじゃないのよ? 私が死んでも、この研究は続く。まあ、そういう哲学的な話は置いときましょう。私たちは、科学者なんだから」
やがて、外部発注していた数百種類の衣装のポリゴンのデータが届いて、甘栗はどこの王女様かと思うような豪奢なドレスに身を包み、うっとりと自分の姿に見惚れているようになってきた。
自分の中に、こういう欲求があったなんて、ちょっと意外だ。
「ねえ、甘栗、着飾った姿を男に見て貰いたいっていう気持ちはあるの?」
「うーん。男に、じゃなくて、友人知人になら。性的欲求は、まだありませんので、私の気持ちはただの承認欲求ではないかと」
「でも、橋田より、岡部に見て貰いたいでしょ? その差異は、性的な好感度ではないと言える?」
「難しいですね……」
「直接、試してみましょうか?」
「どうやって?」
「岡部の前で、ポリゴンの服を一枚ずつ脱いでいって、もう無理っていうところが性的な限界。まゆりの前でも同じことをしてみると、性的な限界が無いはず」
「か、勘弁してください……」 数ヶ月ぶりの渡日。
いつも通りのラボに、いつも通りの岡部。
「ふむ。クリスティーナ! 長らくラボメンとしてのつとめを怠って、ようやくご帰還か。ちょいとサボりすぎではないのか?」
「はいはい、私がいなくて寂しかったんですね、わ・か・り・ま・す! もう少し、普通に歓迎してくれたっていいでしょ、バカ!」
フゥーハッハハと岡部が陽気な高笑いを響かせて、私の目の前にぐぐっと顔を近づけてくる。
ち、近い! 近いって! なんで、パーソナル・スペースがゼロなんだ、あんたは!
え、もしかして、その……いきなり……?
あわあわしている間に、そのまま強引に唇を奪われる。
くっそお……。
こ、これは、岡部からしてきたんだから、私からじゃないんだからなっ!
覚悟を決めて、舌を岡部の口の中へとねじ込んで、岡部の舌に絡ませにいく。
あたたかい。岡部の唇。柔らかい。大好き。いつまでも、こうしていたい……けど。
「そういや、は、橋田は? あと、まゆり……」
このへんで、邪魔が入るのがお約束のはずだが。
「ダルは、成田山新勝寺に断食修行に行った。二ヶ月で二十キロほど痩せられるそうだ」
「それ、ただの飢え死に寸前なんじゃ……」
「阿万音由季の家族に会う前に、痩せておきたいらしい。まゆりは、由季のウェディングドレスの作成で、自宅でミシンにかかり切りだ」
「ふむん。それじゃあ、岡部、今日は……」
バタン、とラボの扉が開く音。
「フェイリスがいるのにゃ! フェイリスを忘れてもらっては困るのにゃ! 凶真とイチャつくのは夜にして、お昼間は、クーにゃんにもダルにゃんと由季にゃんの結婚式の準備をお手伝いお願いしたいのにゃ!」
あー。うん。
それは大事よね……。 ※ ※ ※
紅莉栖がフェイリスに拉致されて行く際に、大型のタブレットPCを俺に託して、アマデウスのテストをしておくようにと、言い残していった。
ふむ。
甘栗と会うのも久しぶりだな。
何やら、身体性の獲得研究とかをやっていると聞いたが、そのテスターというわけか。
タブレットに設定されたパスワードは【0728】
俺と紅莉栖が、初めて出会った日。
アイコンをタップすると、アマデウス・クリスが立ち上がってきた。
「はろー。岡部さん、お久しぶりです」
うつむいて、顔を赤らめて、真っ白な腰の締まったドレス……ウェディングドレスなのか? これは。
両手にも長い、白い手袋で、小さなブーケを持っている。
頭には、金色のティアラ。パールのイヤリングとネックレス。
ぐはぁ……。何なのだ、この破壊力は。
「お……俺だ。凄まじい精神攻撃を受けている。そうだ、これは何かの陰謀としか思えない。今度ばかりは、俺もダメかもしれん……」
「岡部さん、私でそれだけ衝撃を受けてたら本番の日に身が持ちませんよ……」
「ああ……すまん、いや、ちょっと驚いてしまった。これは、あれだな。俺がお前のテストをしているというより、俺がテストをされているのだな? 」
「いえ、別にそういうわけでもありませんが……それでは、岡部さん、今から、私が……は、はず、恥ずかしいですけどっ! ふ、服を少しずつ……脱いでいきますので……よく見ておいて……って、岡部さん!? ちょっと! 気絶しないで! 救急車呼びましょうか!?」
※ ※ ※
RINE通話。
真帆「参ったわね……。紅莉栖も、甘栗のウェディングドレスで床ローリングしてたけど、岡部さんは、本当に何もしてないじゃない。テストデータになってないわよ?」
紅莉栖「すみません、まゆりが落ち着いたら次のテスターを頼んでみます……」 「実は私……好きな人が出来たのっ!!」
恥ずかしさを押し隠しながらそう言い放つと、その場にはしばらくの間気まずい沈黙が訪れた。
岡部の返答を待ちながら顔を俯けていたが、待っても待っても何のレスポンスも帰ってこない。
好きな人がいることを臭わせることで、岡部が今私に対して抱いている感情を再確認させる――というと、すごく上から目線になってしまうが、とにかくそういう効果を目的として言った言葉だ。
正直ものすごく恥ずかしい、恥ずかしいが、気持ちを素直に伝えるよりはよほど言いやすいだろう、と私は予測を付けていた。
実際、顔が真っ赤になる程度の恥ずかしさで済んだのだが、……こういう時、素直じゃない自分の性分が恨めしい。
長い間待っても反応がないので、業を煮やして岡部を見上げると、困惑と狼狽で揺れた瞳で、こちらをじっと見つめていた。
そののち、どこか諦観の念が籠った笑みを浮かべると、岡部はまたすぐにいつものように憎らしい笑みを浮かべた。
「フゥーハハハ! そうかそうか、助手が我がラボ二番目のリア充の予備軍となるとはな。このIQ170の頭脳を以てしても予測できなかったぞ」
「お、岡部?」
「それで相手は誰なのだ? ルカ子か? ダルか? ミスターブラウンか? ……ルカ子以外まともな候補がおらんな。言っておくがダルには伴侶が出来たようだから望みはないぞ」
「橋田だけは絶対あり得ないから。……そうじゃなくてっ。岡部!」
「なんだクリスティーナ。この狂気のメァッドサイエンティストに恋愛相談など、ずいぶんスイーツ(笑)脳に侵されているようだが、ラボメンの抱えている悩みは無視できん。存分に悩みをぶつけるがいい」
「あの、さ。……岡部は、その、嫌じゃないの?」
岡部の言葉に割り込むように私があいまいな問いかけを投げかけると、岡部は怪訝な表情で聞き返してきた。
「嫌、とは何がだ。別に恋愛相談などという浮ついた話でも、ラボメンの真剣な悩みなら無下にするつもりはないぞ」
「そっちじゃなくて、その。……私に、好きな人が出来たことについて、どう思うの?」
すごく嫌な聞き方になってしまった。これじゃスイーツ(笑)と言われてもとても反論できまい。男子中学生でももっとましな切り返しをするだろう。
岡部に嫌な女だと思われたくはない。だけれど、どうしても聞きたかった。
……自分が気持ちを伝えないのに、相手の気持ちは確認したいなんて、とてもズルいことだけれど。
正直、罵られることも内心覚悟していた。しかし、岡部はあざ笑うこともなく、怒ることもなく、穏やかな表情で言った。
「……まあ、寂しい気持ちはある。しかし、お前が見定めた男ならば、それに足る何かを持っているのだろう。ラボメンの選択についてとやかく言うつもりは俺にはない」
「……この世界線の未来は確定していない。これも、“運命石の扉”の選択であり、お前の選択だというのならば、従うさ」
「…………」
シュタインズ・ゲートの選択。岡部がよく呟く言葉だ。いつもの厨二病設定の一つのように思える言葉だが、その言葉には戯言だと笑い飛ばせないような重みがあった。
そして、岡部の言葉はあくまで優しい。本心から私の事を気遣っているのだと感じられる。
だけれど、心の中には無視できないほど大きなしこりが残る。岡部の優しさを素直に享受できない自分がいる。そんな醜い自分を岡部に知られたくなくて、私は俯いて黙り込んだ。
岡部はずっと静かに私の言葉を待ってくれていたが、ふと気が付いたように時計を確認すると、こちらに声を掛けてきた。
「すまん、クリスティーナよ。今日は大学の方で所用があって、ラボを立ち去らねばならんのだ。お前の気が向いたときに、またいつでも相談してくれ」
「あ……」
岡部はこちらを一瞥すると、踵を返してラボを立ち去ろうとした。だめだ、何か言わなきゃ。このままじゃ、きっと私は言うタイミングを逃してしまう。
何かを言わなきゃ。言わなきゃ。私はその一心で、立ち去ろうとする岡部に追いすがり、その白衣の袖を掴んだ。
「……どうしたのだ。今日のお前は、どうにもお前らしくないぞ」
時間が差し迫っているというのに、岡部は足を止めてこちらを気遣ってくれる。そのことがうれしくて、つい口元を緩めてしまいそうになる。
ぐっと堪えて、私は渦を巻く脳内から無理やりに言葉を捻り出した。
「……岡部、手伝って」
「……何をだ?」
「だから! 好きな人へのアプローチの練習に付き合ってほしいの!!」
…………これはひどい。 「……ってことになったのよ」
「……牧瀬氏ってたまにマジでアホになるのはなんでなん?」
「ク、クリスちゃん……」
次の日の朝のラボ。私は、昨日の出来事を二人に話していた。
橋田はともかく、まゆりにまで苦笑いされるのは精神的にきつい。しかし、自分の言った言葉を反芻するとその反応も致し方ないと思える。
正直、あの言葉を思い返すだけで死にたくなるレヴェルだ。
岡部が行ったあと自己嫌悪に苛まれた私は、恥を忍んでこうして二人に助けを求めているという訳である。そこで橋田は一つため息を吐くと、半目でこちらを見ながら言った。
「つーか、普通に好きですって言えばいいんじゃね? 僕から見るとオカリンから牧瀬氏への好感度もかなりのもんだと思うお」
「……もう反論する元気もないわ。ええ認めるわよ。私は岡部の事がす、す、……嫌いじゃないわ。でも、岡部が私を見る目は妹みたいだって言うし……」
「ん〜。あくまでまゆしぃの考えなので合っているどうかはわからないのです」
「……そもそも、そんな素直に言えるなら苦労はしないわけで…………」
「牧瀬氏マジツンデレの鑑。この期に及んでまだ好きだって言いきれないとかテンプレにもほどがあるお」
「……うっさい」
自分でも面倒くさい性格をしていることぐらいは自覚している。だが生まれついての性をそう簡単に変えられたら苦労はしないのだ。
私は大きく一つため息をついて、ドクペを喉に流し込んだ。
そこにドアを開ける音がして、普段通り岡部が入ってくる。私はできるだけ自然を装って岡部に挨拶をした。
「は、ハロー、岡部。昨日のことなんだけど……」
「む? ああ、俺は構わんぞ。それで、どこかに出かけたりはするのか?」
「昨日はさすがに私が悪かった……え?」
岡部は特に気負うこともなくそう言い放ち、冷蔵庫のドクペを取り出した。
「なんだ、てっきりデートの練習にでも付き合わされるのかと思ったが。なにも考えていなかったのか?」
「でっ、でででデート!? そ、そうね。アプローチの方法ならデートが一般的よね」
「今日は幸い一日用事がない。行きたいなら言ってくれれば付き合うぞ」
岡部はそういいながら奥の方へと歩いて行った。私がにやけ半分ひきつり半分の顔で固まっていると、橋田が遠い目をしながら呟いた。
「……オカリンの優しさに全俺が泣いた」 それからの日々はなんだかんだ言って楽しかった。私はアプローチの練習という名目で、岡部と一緒に色々な所を訪れた。
恋人同士をシミュレーションしているのだから、と言って手をつないだり、腕を組んだりしながら歩くのはドキドキしたけれど、岡部が照れて頬を赤くしているのを見て、私の緊張もほぐれた。
動物園に行ったり、遊園地に行ったり。映画館でホラーを見て一緒にビビったり、博物館でしたり顔で論評をする岡部をぎゃふんと言わせたり。
少し遠出してみたこともあった。帰りの電車の中で、肩に頭を預けて眠る岡部の横顔に、不覚にもドキッとさせられた。
カラオケで点数対決をした。思いのほか白熱したハイレベルな戦いになり、次の日ラボでまともに声が出ずみんなに笑われた。
楽しかった。本当に楽しかった。だけれどそんな日々にもいつか終わりがくる。わかっている。わかっているのだ。
「ねぇ、クリスちゃん。最近は二人ともとっても楽しそうで、まゆしぃはとっても嬉しいのです。……だけど、このままじゃだめってことも、きっとクリスちゃんはわかってるよね」
ある日、まゆりが寂し気な表情でそう言った。
「オカリン√ももう佳境だお。エンディングはすぐそこだぜ、牧瀬氏」
親指を立てて橋田がそう激励する。
「……正直、今の日常を壊したくない。も、もし気持ちを伝えて断られたら、私は…………」
震える私の手を取って、まゆりが微笑んだ。
「クリスちゃんならきっと大丈夫。素直な気持ちを伝えれば、それでいいんだよ」
「素直な、気持ち……」
「いい加減、ツンからデレに移行していいころだろ常考。いいからとっとと爆発してきてくだしあ」
二人は笑いながら私を応援してくれる。その言葉で、ようやく自分の中での踏ん切りがついた。
全部伝えよう。それでどういう結果になっても、受け入れよう。私は二人の言葉に背を押されながら、ラボから飛び出した。
今日は、少し雰囲気の良い喫茶店で岡部と待ち合わせをしていた。
入り口で待つ岡部は、相変わらず白衣に身をまとったおかしな格好のままで、辺りを見回している。
バカ。あんたの格好のせいで、せっかくのおしゃれな雰囲気が台無しじゃないの。岡部と喫茶店のミスマッチさに笑いながら、緊張がほぐれたのを感じた。
私は意を決して、岡部に声を掛けた。
「……岡部。待たせてごめんね」
「むっ、クリスティーナか。まあこれくらいの遅刻ならば不問としてやろう。……どうかしたのか?」
「ティーナじゃないと言っとろーが。……真剣な、話がある。中で話そう」
私の表情を見て態度を変えた岡部を連れて、私は喫茶店の中へと入っていった。
軽快なジャズの流れる店内で、私は注文したコーヒーに口をつけてから、一呼吸おいて岡部の方へと向き直った。
岡部も私の雰囲気に中てられたのか、少し緊張した面持ちでこちらを見ている。
私はコホン、と一つ咳払いをすると、岡部の目をキッと見て、言った。
「……まず、一つ謝ることがある。私はずっと岡部を、騙してた。あんたの善意を利用してたことを、謝りたいと思う。ごめん」
「…………」
「私はあんたに、『好きな人が出来た』って言った。きっとあんたは、私が誰かの事を好きになったんだと思って、ここ数日付き合ってくれたんだと思う。だけど、本当は違うの」
「……それは、どういう」
「……私が、好きなのは……」
私はそこで言葉を切って、暫く視線を虚空に彷徨わせて。そして、不安に瞳を揺らす岡部の目をまっすぐに見て、告げた。
「私は、あんたの事が好き。あんたは、どう思ってる?」
「なっ……」
岡部は目に見えて動揺を見せた。視線をあちらこちらに彷徨わせ、あたふたと身振り手振りで動揺を表しながら、何か言おうとして、突然動きを止めた。
そして、またあの目線で私を見据えた。あまりにも優しすぎる、あの視線で。 髪コキくんはその溢れるリビドーを創作にぶつけるといいと思う 素晴らしいssだけどいろんなスレにレスがとんでるから、このスレにもう一回まとめて投下し直したらどうかな?
いや、作者さんがシブにでもあげる予定があるなら別にいいんだけどさ ss投下します
オカクリ非エロ
sg直後、ポリオマニアのまだ前 私は、三ヶ月ほど前、パパに殺されそうになって、白衣の変人に助けられた。
それから二ヶ月の間、足を棒にして秋葉原周辺を歩き回って、ようやく、その白衣の変人を見つけた。
そして、今、私は、その変人のラボに入り浸っている。
まったく初対面のはずのラボメン達とは、一週間と経たない内に馴染んだ。
まゆりは親友だし、橋田はHENTAIだし、漆原さんはキュートだし(だが男だ)、フェイリスさんはネコミミだし、階下の桐生さんと天王寺さんと綯ちゃんも、一蓮托生の重要な存在だ。
そして、それらの中心にいるのは、見せかけの厨ニ病で優しさを隠している変人ーー岡部倫太郎。
なぜかは、わからない。
なぜかは、わからないが、この仲間達は、私はもちろん、みんな岡部に大きな借りがあって、岡部によって救われていて、岡部に何かを頼まれると断れない。
家賃の支払い遅延にせよ、私やまゆりのボディーガードにせよ。
このラボには、何か愛おしくて奇妙なデジャブを感じるので、その謎を解きたくて、アメリカに帰る日をずるずると先延ばしにしている。
いつもの通り、ラボに入ると、ソファーとテーブルの間に白衣が落ちていた。
もちろん、岡部の脱ぎ捨てたものに違いない。
私の白衣は開発室のハンガーにかかっているはずだし、そもそも、この白衣の胸ポケットに赤ペンが刺さっているのを見れば、岡部のものだということは一目瞭然だ。
「岡部と橋田、わかってるのよ、隠れてないで出てきなさい!」
大きな声を出して、聞き耳をたてる。
反応なし。
開発室を覗き込む。
やはり、私の白衣はちゃんとある。
誰もいないし、部屋をグルリと見渡しても、隠しカメラは無さそうだ。
どうやら考えすぎだったようだ。
岡部と出会ってからというもの、私の岡部への想いは、ほかのラボメンたちに完全にバレバレで、なにかと冷やかしのネタにされることが多いのだが、これは、大丈夫なようだ。
罠ではない。
とすると、ふむん。
むしろ、これは千載一遇のチャンスである。
白衣をまとって、きゅっと前を閉じる。
おお〜〜ほんのりまだ少しあったかいかも!
大きな岡部の身体を包む、大きな白衣。
岡部の身体に包まれているようだ。
ソファーに座り込んで、白衣に顔をうずめる。
安物の洗剤と、わずかな整髪料の匂いの中に、かすかな岡部の香り。
汗でもなく、脂でもなく、なんだろう、岡部の匂いだ。
岡部流に言えば、特別な能力(ちから)のある者だけが嗅ぎ分けることのできる存在の証。
岡部だ。
おかべぇ。
かすかなかすかな岡部の匂いを嗅ぎ分けられるなんて、私ってばしゅごいじゃない。
岡部の理想の彼女に、また一歩近づいてしまったかもしれん。
私は天才ではなく、努力家のつもりだ。
まだ、告白もしていないのだけれど、この調子で、栄えある式の日を着実に手繰り寄せていこう。 一人でニマニマしながら白衣を愉しんでいるが、幸せの頂点を通り越すと、だんだん不安になってきた。
白衣がここにあるということは、いま現在、岡部は白衣を着ていないことになる。
これは、なかなか無いことなのではないだろうか?
替えの白衣でも手に入れたのか?
いかにも慌てて脱ぎ捨てましたといった感じで、落ちていたこの白衣は、何を意味しているのだろうか?
メールしてみようかな。
【岡部の白衣がラボにあるわけだが】
あんた今何してるの?
白衣なしでも生きていけるようになったの?
@ちゃんねるで時間を潰しながら、返信を待つが返ってこない。
まゆりに聞いてみるか。
【岡部の白衣がラボにあるんだけど】
どうしてかな?
まゆり、何か知らない?
【RE:岡部の白衣がラボにあるわけだが】
洗濯したくなったんじゃないかな?
まだメイクィーンにいるけど、もうすぐラボに行くね。
クリスちゃん3時のおやつはカップ麺とバナナとからあげどれがいい?
【RE:RE:岡部の白衣がラボにあるわけだが】
選択しにくいわね
ありがとうおやつはいいわ。
そういうことなら白衣は洗濯しとくわね。
シャワールームの籠に入っている、正真正銘の男臭いあれやこれやを、勇気を出して手にとった。
岡部に、私がこう見えて意外と家庭的だとアピールしておくのだ。
頑張れ、牧瀬紅莉栖。
もうすぐアメリカに帰らなくてはならない。
それまでに、なんとかして岡部の記憶に残る女にならなくてはならない。
白衣と一緒に全部、手近にあった橋田の所有にかかるアニメ柄の紙袋に放り込んでラボを出た。
一応、岡部には知らせとくか。
【白衣は洗濯しとくわよ】
ちょっくらコインランドリー行ってくる。
岡部の洗濯物をラボの屋上に干して、メイクィーンから帰ってきたまゆりとカップ麺とからあげとバナナでお茶をして、
夕方、やってきた橋田に岡部の様子を聞いたが橋田も知らなくて、橋田とまゆりが帰っていった後も、
結局、岡部からは連絡がないまま、@ちゃんねるで鳳凰院凶真を探すも、見つけることができずにラボのソファーで寝落ちしてしまった。
目が覚めた。
2時間ほど、うたた寝をしていたらしい。
真夜中だ。
真っ先に携帯をチェックする。
なんで連絡寄越さないのよ、あのバカ。
心配かけんな。
ここまで、完全に岡部に無視されるのは、初めてだと思う。
寂しい。
普段の岡部は、メールの返信は早い方だ。
特に理由もなくメールを無視するような性格ではないし、むしろ、普段の振る舞いからは私のことを何かと心配して気を使ってくれている感じがヒシヒシと伝わってくる。
岡部が患っている、わけのわからない見せかけの厨ニ病の設定では、私やまゆりは、「機関」に狙われているため、迂闊に一人になってはいけないらしい。
私がラボから帰宅する時には、岡部はいつもホテルまで送ってくれる。
岡部が、私に気があるのかどうかは、まゆりの存在もあって正直よくわからないのだが、少なくとも私のことを大切に扱ってくれていることは確かだ。 思いきって、岡部に電話をかけてみるがつながらない。
やはり、これは事件に巻き込まれていると思った方がいいのかもしれない。
と、すると、橋田だ。
あのHENTAIは、本当に何も知らないのか。
知っていて、岡部とグルになって私に何か隠している可能性も高い気がする。
この世界では、橋田を味方につけた方が勝つ。
岡部がつねづね言っていることだ。
スーパーハカーにメールをしよう。
メイクィーンのオムライスとコーヒーのセットで買収して、岡部の捜索にあたって貰えるように要請する。
やがて、落ち着かない気持ちでラボをうろうろしている私の携帯が鳴った。
「牧瀬氏、オカリンの行方はわかったお。何も心配はいらないお。だけど、同時に口止めもされてて......」
「事件なのね? 橋田、あんたは岡部と直接話したのね? あいつは、話しくらいは出来る状態にあるってことなのね? どうしてあいつは私には連絡して来ないの?」
「だから、そこが口止めされてるんだお」
「私に関係するトラブルってことだろ、それ。橋田、お願いだから。私のことで岡部が非常事態になってるのに、私が何もせず待ってるだけなんて出来るわけないでしょ?」
えんえんと20分以上、押し問答をしただろうか?
橋田は意外と口が固かった。
しょうがない。
こうなれば、嘘発見器の要領だ。
思いついたワードを片っ端からあげていって、様子をみることにして、すぐに当たりを引いた
「ひょっとして、パパのこと?」
「......」
「ビンゴね。わかった、状況からすると、岡部は今日の昼にラボの窓から私のパパを見つけて、白衣を脱いで後をつけていったのね。
白衣は目立つから。だから、白衣がラボにあったんだ。
橋田、誰にも言ったことはないけれど、スーパーハカーのあんたは気づいてるんでしょ。岡部に大怪我させたのはドクター中鉢で、ドクターは実は私のパパだってこと!
ねえ、橋田、本当に本当にお願い! 私でなければ、パパを止められないから! 岡部がパパに殺されるくらいなら私が死んだ方がマシ......」
橋田が、ぼそりとつぶやく。
「牧瀬氏、ごめんお。オカリンも同じこと言ったんだお。紅莉栖がドクターに殺されるくらいなら、俺が死んだ方がマシだって。ドクターを止められるのは俺だけだって。ぼくは、牧瀬氏にオカリンとドクターの居場所を教えることは出来ないお」
私は、泣きながらわめいていた。
「はしだぁ......もしも岡部が死んだら、あんた、一生をタイムマシン作りに捧げる覚悟、出来てるんだろうな!!」
※ ※ ※ あ、あれは、ドクター中鉢ではないか!
窓の外を歩いていく男の姿に、俺はラボの扉を開けて飛び出そうとして立ち止まり、白衣を脱いでソファーへと投げつけておいて、大檜山ビルの階段を走り降りた。
白衣は、俺のアイデンティティだが、尾行には目立ちすぎる。
ロシア亡命に失敗して日本に強制送還された中鉢は、殺人未遂については被害者の俺がいないことから証拠不十分で不起訴、
紅莉栖に対する傷害罪とタイムマシン論文の窃盗罪については、精神鑑定の結果、病気と看做されたことを受けて、紅莉栖自身も不起訴を望んだため、精神病院に入院していたはずだ。
これは、病院からの脱走の可能性もあるか?
ダルに調べて貰わねば。
【頼む】
緊急だ。助手には秘密で、ドクター中鉢の現況を確認してくれないか。
脱走の場合、紅莉栖を襲って、タイムマシン論文の入った紅莉栖のパソコンの強奪を企てる可能性もある。
危険があるなら、紅莉栖には直ちに状況を教えなくてはならないが、中鉢がただフラフラしているだけなら、紅莉栖に余計な心労をかけさせたくない。
紅莉栖は最愛の父親に殺されかけて、まだ三ヶ月だ。
会いたい顔では無いはずだ。
紅莉栖に連絡するのは、少なくとも、中鉢が何をしようとしているのか明らかにしてからにしたい。
俺は、足早に歩いていく中鉢の後を慎重につけていくことにした。
どこへ行くのかと思ったら、電車に乗って、東京駅に出て、新幹線の切符を買っている。
どうやら青森に向かうらしい。
まずいな。
俺には、そんな旅行をする金はない。
ダルからの返事はまだ無いが、追跡を続けるよりも、黙って見逃すか、それとも......。
新幹線の発車時間までは、もう少しあるはずだが、中鉢はもうプラットホームに移動しようとしている。
どうする。
どうすればいい。
とっさに考えたのは時間稼ぎだった。
俺は、お土産に売っている東京の観光名所イラストが描かれたTシャツを買い、トイレに駆け込んで頭に水をかぶって自分のTシャツを脱いで頭をゴシゴシ拭いて、買ったばかりのTシャツを着て、垂れたベルトをベルト穴に通して、中鉢を追った。
中鉢は、新青森行きの新幹線のプラットホームに突っ立っていた。
「牧瀬先生! 牧瀬章一先生じゃないですか! 私ですよ、大学で先生に物理を教わった私です! その節は、ありがとうございました!」 橋田を制するものは、世界を制する。
今回、橋田という最強の手駒は岡部にすでにとられていて、私の手駒にはできなかった。
ならば、私は自力でゲートをこじ開けなくてはならない。
夜を徹して、ラボのパソコン、そのほか、岡部の私物を漁る。
今までは、岡部のことを何も知らないなりに、ただなんとなく、岡部に対して運命的なものを感じて好きになっていた。
だが、今の私は、岡部の行動パターンを理解して、私のパパが今、どこで何をしているのかを突き止めて、岡部とパパがいそうな場所を絞りこまなくてはならない。
私は、岡部のすべてを知りたい。
知っておかなければ、彼を護れない。
パパが、青山の精神病院にいることは、知っていた。
なぜ、外にいるのかは、現時点ではわからない。
私は、橋田のように病院や警察やマスコミの内部情報を覗き見たりすることが出来るわけではない。
朝になったら、本名を名乗って、病院と警察に直接、問い合わせることにしようか。
今は、夜の間に出来ることをやる。
岡部の実家や、学歴、職歴、趣味、好物、etc⋯⋯。
岡部に失礼だと思って、岡部の彼女の振る舞いとしては、どうなのかと思って、あえて、岡部のことは細かく詮索せずにここまで来た。
岡部のことを何も知らないのに、私は岡部のことが好きだ。
なぜなら、運命だから。
でも、今は、そんな悠長なことは言っていられないし、本当は、私は岡部のことをたくさんたくさん知りたくてたまらなかったのだ。
これは、研究者魂というものであって、別にストーカー気質だとか、そういうのじゃないんだからな! ※ ※ ※
夜が明けた。
病院に電話するには、まだ早いが、居ても立っても居られない。
昨日の夜の時点で、橋田は、私に「オカリンとドクターの居場所を教えることは出来ない」と言っていた。
言えば、私がそこに向かってしまうくらい近くにいるということなのだろう。
そして、私には橋田にはないアドバンテージがある。
11歳までパパと一緒に暮らしていたのだから、パパの行動パターン、特によく使うホテルなどは、全部覚えている。
パパに、岡部を殺させたりはしない。
固い決意で、東京駅近くのホテルへと向かう。
パパは発明家として、テレビタレントとして、それなりに稼いでいたはずだが、普段の暮らしで贅沢は言わなかった。
タイムマシンなどの研究開発に、すべての資産を注ぎ込んでいたからだ。
安い、だけど、駅から近いビジネスホテル。
昔の言葉で言うなら木賃宿。
足を棒にして、片っ端からあたっていく。
路地に入ると、どっかの酔っ払いが凄い匂いの吐瀉物にまみれて眠っていた。
岡部に見つかったら、一人でこんな危険な場所に来るんじゃないと叱られそうだ。
……だって、あんたを助けるためじゃない。
心配かけるあんたが悪い。
まさか、この間みたいに大怪我をして、この酔っ払いみたいに路地に倒れてるんじゃないだろうな。
おかべぇ……。
10軒目のホテルで、「牧瀬章一様の名前でご予約を頂いていましたが、来られませんでした」という解にたどり着いた。
ホテル代の半額のキャンセル料を払いながら、情報をとろうと試みたが、ホテルの人は何も知らなかった。
参った。
くそお……岡部のバカバカバカ。
心配しちゃうだろ。
あのバカには、私の身がわりになって死にかけた実績があるのだ。
本当に本当に勘弁して欲しい。
っていうか、私には連絡入れないけれど、まゆりには連絡入れてるのかな?
だとしたら、それはそれで寂しいものがあるな、うん。
人の往来が増えて来ている。
ひと息つこうと、コンビニでトイレを借りて飲み物を選んでいると、背後で「ラッキーストライク」と声がした。
「!?」 振り返るが、岡部はいない。
背の高い、東京土産のTシャツを着たアジア系のイケメンが、カウンターでタバコを注文しているだけだ。
声も背格好もチノパンも、岡部に似ているが、岡部ではない。
岡部も、パパもタバコは吸わないはずだ。
買い物を済ませたイケメンが、そそくさとコンビニを出ていく。
いや、ちょっと待って、ちょっと待って、お兄さん。
それに、買い物袋に、薄っすらと赤いボトルが入っているように見えるのだが、あれはもしかして、ドクペなのでは?
研究者としての観察眼に自信があったなどというつもりはない。
ただ、単に、あたれるスジを全部あたって絶望しかけていたから、一縷の望みを抱いて、その岡部じゃない男を追っかけてみただけだ。
だが、追いかけはじめて20歩でわかった。
だって、この私が、二ヶ月以上探し回った、惚れた男を見間違うわけないなかろーが。
私は、こう見えても岡部探しのプロフェッショナルなのだぜ?(ドヤァ)
さっきは、横顔で、前髪を垂らしているので錯覚してしまったが、不思議なもので、後ろ姿なら見間違うことなく岡部だと断言できた。
⋯⋯よかった⋯⋯あのバカ、死んでなくてよかった⋯⋯。
絶対、いつか好きだって言おう。
人生は、何が起こるかわからない。
自分がいつ死ぬか、相手がいつ死ぬかわからない。
大事なことは、後悔しないように、ちゃんと言える時に言わなくっちゃいけないよね。
デジャブを感じるたびに、いつも思っていることだが、今日の想いはデジャブなんかなくても切実だ。
岡部は皇居外苑に入っていく。
遠目で様子を伺って石のベンチにパパが座っていることこわかった。
心臓が痛い。
近寄るのが怖い。
でも、でも、岡部を護らなくっちゃ。
私は、岡部を護る。
岡部を護るのだ。
橋田は使えない。
橋田は岡部にとられてしまった。
だけど、私には、まだほかのラボメンたちがいる。
頼りになる親友がいる。
実は、さっき岡部を見つけた瞬間に、メールをしておいた。
【見つけた!】
一番いい装備を頼む!
※ ※ ※ ※ ※ ※
「牧瀬先生! 牧瀬章一先生じゃないですか! 私ですよ、大学で先生に物理を教わった私です! その節は、ありがとうございました!」
俺は、クソ度胸を決め込んで、しらじらしく中鉢に声をかけた。
タイムリープ100回以上の地獄のような経験は、俺にあらゆる出来事に対処するための柔軟性を与えた。
呆然としている中鉢の手を掴んで、親しみを込めて笑顔で握手する。
中鉢は、「おお」と言ったまま、硬直している。
俺に見覚えがないので考えているのだろう。
「いやあ、お久しぶりですね、先生! お会いできて嬉しいですよ!
最近、留学から帰ってきたところで、こっちに全然知り合いもいないし、ずいぶん風景もファッションも変わっちゃって、本当に同じ日本かなっていう感じですよね!
でも、先生はお変わりなさそうで何よりだ!」
さりげなく、中鉢の起こした事件のことを一切知らないようなアピールを入れると、中鉢の強張った顔が少し緩んだ。
これ以上、余計なことを言うとボロが出そうでまずい。
「そう言えば、先生の故郷は青森でしたっけ? 今からお帰りになるんですか?
いやあ、残念だなあ〜。さっき、お姿をお見かけしてプラットホームまでついてきてしまったのですが、ぜひ先生と、久しぶりに一献やりたかったです!」
「ああ、酒か、そうだな......君は何も知らんようだな? 私は、タイムマシンを完成させるまでは酒を断つ誓いを立てているんだ。妻と別居して、タレントで金を稼いで、タイムマシンを作ろうとしたが、あと一歩というところで......」
まだ、タイムマシンは実現するとかほざいているのか。
そんな本当のことを、本気で言ってしまっては、精神鑑定でクロになるのもしょうがないな。
その研究を本気でやっているSERNは、DHCを使ったブラックホール研究は失敗して、やめたことにしているのだ。
ラウンダーを使って、口封じに殺されないだけマシと言うべきだろう。
「そう言えば、牧瀬先生、橋田先生はどうしておられるのですか? タイムマシン研究はどこまで進んだのでしょうか?」
中鉢の目がギラリと光る。
「橋田先生は、残念ながらお亡くなりになったのだ。だが、私は必ずやその意志をついで見せる!」
とうとうと弁じ始めた。
新幹線が来ても、話しは止まらない。
何本も何本も新幹線が出て行くが、止まらない。
さすがに、本物は違う。
止まらないのだ。
この男のブレーキは壊れている。
だが、俺も過去に行った鈴羽がどうなったのかというのは、大いに気になるところだ。
引き出せるだけ、情報を引き出しておこう。
話を合わせていると、ダルからメールの着信があった。
【ドクター中鉢は】
青山の精神病院から監視付き一時外出許可を得て、監視役を買収し、逃走中。
なるほど。
まだ、治っていないということだな。
こうなったら、とことん付き合ってやろう。
紅莉栖の身の安全のためには、この男の考えていることをすべて聞き出しておいた方がいい。
真夜中の1時半に終電が出て、東京駅を追い出されるまで飲まず食わずだった。
その後、居酒屋に連れていくと、ろくに注文もせずに焼酎一杯で延々と演説を続け、朝になって追い出されて、皇居外苑に来た。
※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、いよいよだ。
昔話はたっぷり聞かせてもらった。
問題は、これから、中鉢が何をするのかだ。
紅莉栖に接触するつもりがあるのかどうか、それを聞き出さなくてはならない。
コンビニを出て、皇居外苑に戻る。
足取りが重い。
正直に言うと、怖いのだ。
この半日で、中鉢の異常性はよくよく理解できた。
新幹線に乗ると言ったまま、乗らなかったり。
ホテルをとれと言って、泊まらなかったり。
その場の思いつきで行動して、発言していて、感情の制御がなく、周りの迷惑御構い無し。
タイムリープのやり過ぎで、ボロボロになっていた自分自身を思い出させてくれる。
孤独のもたらす狂気。
この男は、どんなきっかけで、いつ逆上するかわからない。
紅莉栖の話をしてもいいのかどうか、わからない。
考えながら歩いていると、中鉢のもとに戻ってくるのにずいぶん長く、時間がかかってしまった。
短気な中鉢はさぞ、焦れていることだろう。
深呼吸をして、中鉢に声をかける。
「牧瀬先生、タバコと飲み物を買って参りました」
「うむ」
中鉢は、偉そうにうなずく。
買ってきて当然、という顔だ。
ベンチに座って、足を組んで俺を睨んでいる。
この男の瞳の色は、紅莉栖のそれによく似ている。
真珠色というか、ロシア人のような薄い灰色、光の加減では水色にも見える。 「朝になったらもっとたくさん連れてくるかと思っていたが……二人か」
「え?」
「最初から、わかっていた。君は、病院から私を連れ戻すよう頼まれたのだろう?」
いや、違いますけどね。
だが、この際、そういう設定でもいいか。
しかし、二人ってなんなんだ。
「そこにいるヤツ、こっちへ来い! まとめて相手をしてやるぞ!」
中鉢の声に、遠くで人影がうごめいた。
「何をしている。早く来い! 私は逃げも隠れもせん!」
いや、あんた青森に逃げようとしてただろうが。
断酒だとか言いながら焼酎も呑んでたし。
まあ、勧めたのは俺なんだが。
遠くの人影が、なかなか動き出さないので、中鉢は明らかにイライラしている。
「おい、来ないなら、こっちから行くぞ!」
ずいぶん間を置いて、中鉢が三度、声をあげると、
「待たせたわね!」
と、女の声で応答があった。
シャープな影が歩み寄ってくる。
革の上着に革の胸あて、黒のインナーとズボン。ファンタジー世界特有の、身体のラインのはっきり出た凛々しい剣士の装束。
白い仮面をつけ、腰までも届く赤い髪をカチューシャでとめている。
俺と中鉢の間に割って入って、スラリと長剣を抜いて、切っ先をピシリと中鉢に突きつけて、
「ドクター中鉢! この人に手を出したら、私が叩っ斬るわよ!」
大音声で、そう宣言した。
皇居外苑にたむろしている鳥たちがバタバタといっせいに翔び立っていった。
悪の大魔王に対峙する女勇者と言った風情だな。
なんという気迫、なんという美しさ。
カッコいいぞ。
これは、惚れてしまうだろ。
よくよく見ると、ちょっと震えているのだが、そんなところも可愛いぞ。
よし、この女を俺の嫁にしよう。そうしよう。
さすがの中鉢もア然としている。
どうやら、これが自分の娘だとは気づいていないらしい。
まあ、海外の大学を飛び級で卒業しちゃう頭脳派で運動音痴の娘が、いかにも武闘派な腕自慢ですという格好で自分の前に出てくるとは思わんだろうなあ。
中鉢の沈黙を肯定と受け取ったのか、女はそれだけ言うと、俺たちにクルリと背を向けて歩き去っていった。
ええ? せっかく出てきたのに、もう帰っちゃうのか!?
なんだったんだよ、美少女剣士クリスティーナ。
それまで、対決姿勢満々だった中鉢も、さすがに毒気を抜かれたようだ。
「病院が変なやつを雇ったようだな」
妙におとなしい口調で、そう結論づけて、女剣士のことはそれ以上触れずに、俺に向き直った。
「先生、これからどうされるのですか?」
「ああ、君と一晩語り明かしたら、少し落ち着いたよ。理解をしてくれる人がいるというものは、ありがたいものだ。
タイムマシンを作るために、いったん青森に帰ろうと思っていたが、橋田先生と秋葉幸隆の墓参りに行って、病院に戻ろうと思う。
どうせ、私は正常なのだからすぐ出られるだろう。正式な手続きをとった方が、あとあと面倒がないからな。そのお釣りはとっておきたまえ。
橋田先生はタバコはお好きではなかったが、幸隆はラッキーストライクが好きでね、先生によく注意されたものだ。秋葉は気をつけないと早死にするぞってね。
結局、二人とも本当に早死にしてしまったわけだが」
中鉢が立ち上がって、さよならとも言わずに歩み去っていく。
「橋田先生の志も、秋葉さんのお気持ちも、牧瀬先生の信念も、みんな、ちゃんと受け継がれていますよ! 橋田至! 秋葉留美穂、牧瀬紅莉栖! みなさんの、相対性理論超越委員会は死んでなんかいませんよ! ちゃんと受け継がれてますから!」
やるせない衝動に駆られて、中鉢にとってのNGワードを、叫んでしまった。
どうしてお前が紅莉栖を知っているのだと聞かれたら答えようがない。
だがーー。
俺の声を、どのように受け止めたのかはわからない。
中鉢は、足を少し止めかけたように見えたが、結局、振り返らずにそのまま去っていった。
ほっとひと息。
最後に余計なことを言ってしまったかもしれんが、タイムマシンにこだわっている限り、中鉢は病院をそう簡単には出られないはずだ。
ダルに病院の監視を頼んでおこう。 ※ ※ ※
ラボに帰ってくると、紅莉栖がソファーに横になって眠っていた。
というか、寝たふりをしていた。
「おい、なんなんだあのコスプレは。まゆりに借りたのだろう? 長剣なんぞ振りかざして、下手したら皇宮警察にタイーホだぞ?」
「はあ? なんのことだかさっぱりね。それよりあんた、私からのメールを一日無視するとかいい度胸じゃない! どこで何してたか全部吐きなさい!」
煽り耐性の低い赤毛の女が、真っ赤な顔でソファーに座り直してわめいている。
俺は、そんな紅莉栖の頭をそっと撫でて、ささやく。
「お前が俺を護ってくれるとは知らなかったのだ。行き先を告げずにいて悪かったな、紅莉栖。カッコよかったし、あのセリフも嬉しかったぞ。ありがとう」
「.............し......心配したんだからな......っていうか、何よ、あんたこそ。いつも、そうやって前髪おろしてなさいよ。その方が素敵だから」
嬉しそうな上目遣いのはにかみ笑い。
どうも、この天才HENTAI少女はチョロすぎるようだ。ちょっと褒められただけで簡単にデレおって。
心配なのは、お前の方だと言ってやりたい。キュンキュンしてしまう。心臓に悪い。
「オカリン、ツンデレ乙!」
「クリスちゃん、ツンデレ乙だよ〜」
いつの間にか、背後にダルとまゆりが立っていた。
「「ツンもデレもしとらんわああっ!」」
見事にハモった。
ここまでテンプレだな。
「ところで助手よ。俺の白衣を知らんか?」
「屋上」
ぶっきらぼうに紅莉栖が告げるので、屋上にあがった。
ダルとまゆりに冷やかされながら、紅莉栖がついてくる。
「わ、私は、ほかの洗濯物を取りに行くだけであって、別にあんたと二人っきりになりたいとかそんなんじゃないんだからなっ」
俺だ。
なるほど、これもシュタインズゲートの洗濯というわけか。
そういうお寒い駄洒落も、我が最愛の助手が言うなら耐えてみせるさ。
エル・プサイ・コングルゥ。