「誠くん、そんなに私の髪をいじって楽しいの……?」
「えっ……? まぁ、楽しいっていうより嬉しいっていうのかな」

腕枕をしながら何気なく手櫛で響子さんの髪を梳いていたら徐に尋ねられた。
今まで暗黙の了解のようにその行為に耽っていたけど、ピタリと止めて彼女をまじまじと見つめる。

「実はこれ、嫌だった……って言いたかったりする?」
「そうじゃなくて……。毎回、私の髪を触っては恍惚な表情を浮かべているんですもの。麻薬成分でも入っているのかと心配するくらいに」
「そんなにあぶない顔をしてたの、僕?」
「……冗談よ、すごく幸せな表情を浮かべてた」
「もう、からかわないでよ響子さん……!」

からかったオシオキとして両手で彼女の頭をワシワシと掻き回す。
響子さんはくすぐったそうにしながらも抵抗せずにいたが、やがてクスクスと微笑み僕も釣られて微笑んでしまう。
そして今度はさっきよりも深く慈しむように髪を梳いていく。

「響子さん専用の、もっといいシャンプーとか買ってもいいんだよ……?」
「でも、私は出費を抑えることが出来ればそれに越したことはないし、あなたと同じ香りを纏うことは結構気に入っているわ」
「そっか……。響子さんがそれで十分だって言うなら、僕は何も言わないよ」

そう言うと今度は響子さんが僕の背に回した腕を伸ばして、襟足の部分を触ってきた。

「私の場合、この手のせいで誠くんの気持ちを共有することは難しいけれど……」
「その、ごめん……。響子さん」
「誠くんが謝る必要は一つもないわ。それに、あなたに髪を梳かれることで心が落ち着くし、たとえ仕事でクタクタになっても疲れが吹き飛ぶような気分になるの」
「それじゃあ今日はこのま……んんっ!?」

ちゅぷ、ぬる、にゅる――。ちゅく、ちゅ、ちゅぷ――。
掛け布団を敷こうとする僕の動きを妨げるように響子さんが唇に吸い付き、舌を伸ばし絡ませてくる。
そんな不意打ちに驚いたけれど、すぐに僕もその口戯に浸る。

「んふぅっ、んっ、んんっ……。本当に私たち、カラダが温まったって言えるのかしら……?」
「……確かに。決め付けるのはまだ早いかも。もう一度確かめてみたほうがいいね……!」

響子さんの潤んだ瞳をトロンと蕩けさせながら僕らは再び濃厚に唇を重ね合う。
火照った身体をさらに自分たちのぬくもりで上塗りするかのように――。


――響子さんとカラダの芯まで温まった。


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