*アニメ第8話
   警官が駆けつけ逃亡後


 願いは二度と叶わなくなった。
 顔に醜い傷がつき、業界に居場所もなくなり、蒼井晶はもうモデルとして活動できない。
 自分にあったはずの撮影の予定も立ち消えになっており、もはや復帰は望めなかった。
 冗談じゃない。
 これでは誰も破滅できない。
 浦添伊緒奈を敗北させられないのだったら、こうなったらもうヤケだ。せめて腹いせに、あの二人の顔を自分と同じにしてやろうと思って呼び出した。
 連中だけでも目茶苦茶にしてやれれば、この腹の立った気分と顔に傷のついた惨めさを少しは晴らせるような気がしたのだ。
 だが、それも邪魔が入って未遂に終わった。どこの誰が通報なんてしたのか。それとも、たまたまパトロールしていたのかは知らないが、途中で警官が駆けつけてきたせいで、晶はやむなくその場を逃げ出す。
 小湊るう子も、紅林遊月も、どちらも傷つけられなかった。
 そして、伊緒奈も……。
 このやり場のない怒りはどうすればいいのだろう。
「畜生!」
 落ちていた空き缶を蹴飛ばす。
「どいつもこいつも調子こきやがって! いいよなぁ! あのモサい眼鏡は友達できねーだけだし、るう子はバトルゾッコンで遊月は禁断ラブラブチュ〜でよォ!」
 転がる小石を見つけ、また蹴飛ばす。
「笑いたきゃ笑えってんだよ畜生が!」
 行き場もなく彷徨っていた晶は、そこに廃墟の壁を見つけて蹴り始める。意味はない。ただ、何もかもに対する八つ当たりで蹴り続けた。
「糞が! 糞が!」
 晴れない恨めしさを晴らすために、足裏で執拗に蹴りつけ、晶自身の脚が消耗するほど八つ当たりを繰り返す。コンクリート製の壁はそれを淡々と受け止め、いくら蹴っても心のモヤはむなしく漂い続けた。
 そんな時である。
「お? なんか声がすると思ったら」
「女はっけーん!」
 ガラの悪い、いかにも素行不良といった男の群れがゾロゾロとやって来て、晶の周囲を取り囲む。一人喚き散らしていた女の声を聞きつけ、不良グループが興味本位で寄ってきたのだ。
「あぁ? なんだテメェら」
 晶は醜く顔を歪ませ、彼らを睨んで威嚇した。男達に囲まれた事実に対する恐怖はない。本来なら感じるべき恐怖より、自暴自棄になって誰かを傷つけたい思いの方が先行している。
 自分によからぬ暴力を企む男達を前に、恐れるよりもまず先に敵意や苛立ちのような荒い感情が剥き出しになっていた。
「おぉ、怖い怖い」
「なーに? この女」
「顔に傷あるんだけど」
 せせ笑うようにして、一人の男が傷を笑う。
 プチンときた。