次の日俺は、登校直後から大人数の視線に晒される破目になった。
とはいえ、恐れていたような敵意の視線じゃない。多くの視線が物語るのは、嫉妬と驚愕だ。
「お早う、葛西くん」
元凶となったのが、史織のこの一言だ。
普段通り大和撫子然とした顔で、にこやかに俺に挨拶なんぞをしてくる。
高嶺の花どころか、エベレストの山頂に咲く花のような扱いを受けている鞘本史織がそんな事をすれば、嫌でも目立つ。
「ああ、おはよう……」
そう言い捨てて逃げるように教室内へ入ると、ここでもまた同じ事が起きた。
「おはよう、葛西くん」
自分の席へ向かう途中で、そう声が掛けられる。
無口で無表情、ロボットか人形かと言われている舟形桜が、自分から男子に声を掛けるなど、こちらも世紀の珍事件だ。
ざわめきが教室の内外に広がっている。
まさか平々凡々な俺が、人の噂の中心になろうとは。いい迷惑だし望んでもいないが、逃げ出す訳にはいかない。
俺は男として約束したんだ。桜を満足させてやると。


「…………痛いか?」
俺は組み敷いた桜に問いかける。
「平気」
桜は目尻からつうっと涙を流しながら、小さく首を振った。
いつもはガラス玉を思わせる瞳が、やけに生々しく濡れている。
陶器のような肌は頬を中心に赤らみ、汗に塗れている。
ショートヘアも汗で萎びて、部分部分が首筋や頬にくっついている。
ついに表れた『舟形桜』の人間的な表情は、ゾクッとくるほど可愛いかった。
おまけに桜の締め付けは、史織以上に強い。きゅうきゅうと吸い付いてくるで堪らない。
今思えば膣奥が複雑にうねる史織の中も良かったが、桜はまたタイプの違う名器に思える。
「じゃ、動くぞ」
俺は一言断りを入れ、ゆっくりと腰を使い始めた。ぱんっ、ぱんっ、と乾いた音がする。
「んっ……あ、ああ…………あ」
桜はすぐに甘い声を上げ始めた。つい先ほど破瓜を経験したばかりなのに、感じているようにしか見えない。
焦らしに焦らされて、すっかり快感を得る準備が出来ていたせいだろうか。
俺は少し安心して、約束通り桜を『滅茶苦茶にする』準備に入った。
昨日史織にしたように、膝立ちでしっかりと腰を掴む。そして引きつけながら、こっちも強く腰を叩きつける。
「ぃひっ!!」
悲鳴が上がり、どこを見ても華奢な身体が弓反りになる。でもその顔は、苦しみながらも笑っていた。
そして俺が獣のような突き込みを繰り返すにつれ、その笑みはますます蕩けるように変わっていく。

「ねぇ、ちょっとぉ。いつまで桜としてるわけ? いい加減、こっちも焦れてるんだけど。
 あたしを待たせるとか、他の男子が知ったら大ブーイングだよ?」
ソファの方から声がする。見れば史織が、ソファの背もたれに肘を乗せてふて腐れていた。
そもそも呼んですらいないんだが、俺と桜の約束を看破したらしく、勝手に下校ルートを付いてきたパターンだ。
「お預けだよ。たまにはいいだろ、なぁ桜?」
「うん……焦らされた後の方が、普通にするより気持ちいいよ」
「はんっ、それって完全にイヌの発想なんだけど。…………ったく、じゃ待っててあげるから、さっさと交尾済ませなよ」
俺と桜の言葉に、史織は刺々しく返す。ただ、緩んだその瞳と頬には、満更でもないという色が窺えた。

桜をイカせるだけイカせたら、次はまた史織を足腰が立たなくなるまで責め抜いてやる。
史織が終わったら、また桜だ。
そうしてお互いがお互いのセックスを見て焦れている様は、さぞ可愛い事だろう。
問題があるとすれば、この色魔さながらの表情を見せ始めた二人を相手に、俺自身がどこまでもつかだが…………
そこは何とか、辛抱するとしよう。



                          終わり