「なにもなかった、と仰いましたか?」
「はい、そうですけど……?」
「……念のために伺いますが、この村に他にアミリアという名の少女は?」
「い、いません。私だけです」
周囲の大人達も硬直している。。
自分が悪いわけでは無いと思うのだが、何故か非常に居たたまれない。
だが司祭の前で嘘をゆくわけにもいかず正直に答えるアミリア。
「ほ、本当に何も起きませんでしたか?」縋るような目になる司祭「朝、起きたら
気付いた筈です。体に異変がありましたよね?」
「そ、そう言われても本当に何も…………あっ!?」
「やはりありましたね! みなさん、この方の御体には、既に勇者の証である聖なる
印が顕現してしました! 人の子であることを超え、神の力を行使する存在足ることを
示す証拠が与えられていたのです!」
『おおおお!』と、を気を取り直したらしい村人達に希望が戻る。
そしてアミリアの手を握りながら立ち上がった司祭の顔にも、先ほどまでの自信と
神々しさが復活していた。
なかなかに逞しいというか、立ち直りが早い。
「では勇者アミリア様、みなさんに……」
「大変なんです司祭様! 私じゃないですけど、妹のユーに今朝、おちんちんが
生えてたんですっ!!」
ぴしり、とトドメの一言で空気にヒビが入った。
「……え?」
「どうか司祭様、ユーを!」
母の足にしがみついていた妹を司祭の前に立たせるアミリア。
「は……?」
「これも神様のお導きなんですね! どうか司祭様、私の大切な妹を元に戻して
あげてください!!」
「妹さん? 今朝、生えていた?」
「私に出来ることがあるならなんでもします! 司祭様のお世話でもお手伝いでも
仰るとおりに頑張ります! だから……」
「あなたではなく……妹さんに……まさか……」
「妹のユーナです。ほら、ユーも司祭様にご挨拶して!」
「ユーナといいます。ことしでじゅっさいです」
「ユーナさんと仰るのですか。そう……そう、ですか……これは……とにかく鳩を
出して一刻でも早く陛下に……いえ、こうなってしまった以上、むしろ今すぐにでも
二人まとめて……」」
姉に言われたとおり愛らしく自己紹介するユーナ。
事態が飲み込めず、ただただ立ち尽す村人達。
ぎこちない笑顔を貼り付けたまま、口の中で何やら呟く司祭。
王国歴にして四百二十三年。
後にユーナ戦役とも呼ばれることになる、魔物と人間の三度目にして最後の戦争。
その開戦五年前の辺境の村での、歴史から抹消された勇者誕生の秘話である。