後どれほどだろうか。
1分1秒命を削るように万年筆をすべらす。朝も夜もなく仕事をし、倒れるようにソファーに転がった。眠る前、瞼に浮かぶのはいつもあさの顔だ。

近く遠いあさの体を抱きしめたあの日。悲しみと身体に走る熱に涙は止まる事が無かった。どれほどの女性を抱いてもあの熱に勝ることは無かった。
カチャリとドアが開く音がした。
「朝か?三坂もう少し寝かせてくれ」
「…へぇ、あさだす。五代様」
ゆっくりと目を開ける。積み上げた本の間、暗闇に白く浮かぶのはあさの姿だ。
「…あさ、さん?」
ランプの暖かい光があさを包んでいる。これは夢なのだろうか?
きっと手を伸ばすと消えてしまう。あの熱を求めて伸ばした手はいつも空を切る。はずだったのだ、いつもは。
「五代様…伍代様…」
縋るようにあさの白い手が伸ばされて、握り締める。あさは消える事なく、胸に顔を埋めた。
「五代様、まだ側にいてください。まだまだ、私の側に」
自分の胸であさが泣いている。間違いない。これは夢だ。
「ははっ」
「な、なんで笑うんですか?!」
「…あの時と今日は逆ですね。あの時は私が貴女に縋って泣いた」
ゆっくり体を起こしてあさを抱きしめた。
「ご!五代様!」
「静かに…」
すっとあさの香りをかいだ。甘い香り。そうこの香りがずっと残っていたのだ。
顔を包み涙を指で撫でた、その指を唇にすべらす。
「ずっと。ずっと…触れたかった」
ゆっくりと唇を重ねる。身体にかっと熱くなり、重ねた唇が震える。まるで初めて女性に触れた時のようだ。
「ん!んっ、んー」
「あささん!あささん!」
触れるだけの口づけでは収まらず、舌を差し込む。逃げる舌を追いかけ絡ませた。
クチュりと音を立てる、あさの舌を捉え自然と動く。甘く柔らかい唇に、息をするのも忘れてしまいそうだ。ドクドクと心臓が高鳴る。
「この手に貴女を抱けるなら、今死んでも後悔はしない。愛してます。ずっと、ずっと、ずっと…」
あさの零れ落ちるような瞳に自分が写っている。唾液に濡れた赤い唇は重ねれば重ねるほど馴染み、どちらの唾液だろうか甘く喉に落ちる。

ソファーに横たわるあさは見たともないほど艶やかで、女を感じさせる。はだけられた着物に手を潜り込ます。吸い付く様な肌に眩暈がするようだ。