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0001名無しさん@ピンキー2016/02/13(土) 12:36:34.15ID:P5MOE7O9
語るも良し!エロパロ書くも良し!
ガンダムの娘ッ子どもで妄想が膨らむ奴は集え!

ガンダム以外の富野作品やGジェネ、ガンダムの世界観を使った二次創作もとりあえず可!
で、SSは随時絶賛募集中!

■前スレ
ガンダムヒロインズ MARK ]X
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■関連スレ
ガンダムビルドファイターズでエロパロ
http://nasu.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1381888018/
0047フェニックステイル第22話2016/04/10(日) 12:32:21.38ID:up+1PuGD
『シエルッ!!』
『ぬう!!』
 だが、そこを横合いから90ミリ弾の猛射が襲った。ゲルググはスカート下からメインスラスターを噴き、敏捷にロールを打って離脱する。
 それを掩護する二機のゲルググがジム・ライフルの連射と銃火を交わすと、両者の距離は弾けるように大きく開いた。
 激突直前の二機の隙間を強引にこじ開けて割り込んだリンは、部下の少女を守れる位置を取りながら構えを直す。
「シエル! 大丈夫? 生きてる!?」
『行けます! やれます! 嬉しいっ、私はツいてます――アイネの仇、大ジオン仏道! 今ここで、貴様らを、殺すッ!!』
 シエルは機位を立て直すや、離れていくゲルググ編隊の背中を追おうとした。そのコクピットに唐突なロックオン警報が鳴り響く。
「まあ、少し落ち着こう」
『!?』
 リン機が眼前で彼女に、ジム・ライフルの銃口を向けていた。
「一緒に行こうよ。とりあえず私の後ろに付いて、さ」
 動きを止めたシエル機を従えてリンは滑らかに、そして穏やかに加速を再開する。母艦が対空砲火を放てばその弾道となるであろう線上を避けつつ、二機はゲルググの接近を牽制する進路を取った。
「ねえ、シエル。あんたの敵討ち、ってさ――たかだかあいつら三匹狩ったぐらいで、終われるようなもんなの?」
『隊長――』
「私は違うけどなあ」
 奇妙なほどに平板な声で、淡々とリンは続けた。
「他人様のスペース・コロニーに核をぶち込んで、サイド丸ごと皆殺しにしといて――ザビ家さえ追い出せば無罪放免。自分の本国は南極条約と連邦の戦後政策に守られて無傷。
 それでスペースノイドの解放者、なんか気取ってくれてさ。ねえ、シエル。……あいつら、許せる?」
『…………』
「私は、ここじゃ終われない。死んでいった連中の分まで――私は必ず、奴らへ本物の復讐をする。そのために、生きる」
『……その通りです』
 少女の声色が変わったのを確かめると、リンはふっと笑った。顔を上げて敵機を睨む。
「《アルマーズ》を守る。艦の後衛を張りながら、戦域を離脱するよ!」
『……了解――!』
 そして彼女たちの眼前で、三機のゲルググも反転しながら再び編隊を整えていく。
『ゲオルグ居士! ご無事で!?』
『大事無し。未だ我らに利有り。南無阿弥陀仏。エレイン信女、この機に新たな功徳積むべし』
 右腕を失った機体へ寄り添うようにしながら損傷状況を確認するゲルググの傍らで、もう一機が油断なくビームライフルの銃口を二機のジムUへ向けている。敵方を警戒しながら機内の少女が叫んだ。
『姉様! 今の連邦亡者、『大ジオン仏道』と!』
『聞こえていました、フローラ。我らの宗名が知られているとは――そのうえよもや、ゲオルグ居士の機体に傷を付けるなど。やはりこの者たち、今までの餓鬼道、畜生道とは違います。油断してはなりません!』
 絹糸のごとき銀色の髪をヘルメットの下で結い上げた美しい娘が、幼さを残した妹からの声に凛々しく答える。
 戦場の中心となる偽装貨物船の側を航過していく彼女たちの足下で、一機のザク・ファドランがヒートホークを自らコクピットハッチへ押し当てていた。
 緩慢な割腹自殺を決行しようとしていたその機体に、別のファドランが組み付く。傷ついた機体で自機のヒートホークを振り上げ、自殺目的の熱斧をその腕部ごと切り落とした。
 そしてどろどろに溶けたコクピットハッチへ、必死に冷却剤の噴射を始める。
 ジオン公国軍制式パイロットスーツの胸元に並外れて豊満な乳房を包んだ銀髪の美少女は、幼くも穏やかな目元からその光景を哀れむように見下ろしていた。
「あの方々、ご苦労なこと。もう中身は『空っぽ』ですのに」
『彼女たちが望むなら、後で『完全成仏』を手伝って差し上げましょう。ですがフローラ、今はこの者たちが先です』
 ゲルググ編隊は旋回を終えつつあった。なお前進してくるサラミス改級駆逐艦、そしてその艦と彼女たちとの間へ再び割り込もうとするジムU編隊の間で、次の標的を定めようと頃合いを探っている。
「いいえ姉様、それよりも私はあれを!」
『フローラ!?』
 エレインが驚きの声を上げる中、フローラ機がビームライフルをもたげる。ゲルググのモノアイがレール上を動き、戦場後方へと望遠を掛けていた。
 胴体部に頭部だけを残して大破したハイザック。
 ファーガスン隊との戦闘で四肢を破壊されながらも、残存したセンサーでなお戦場を遠巻きに観測し、すでに後方へ退いた母艦マカッサルへと情報を中継し続けようとしていた機体だった。
0048フェニックステイル第22話2016/04/10(日) 12:34:24.92ID:up+1PuGD
『フローラ! 奇襲もなしにこの距離から単機で射掛けても、当てられたところで完全成仏は――』
「いいえ姉様、やります!」
 姉の制止を振り切り、少女は遠い敵機を照準する。だがロックオンしない。センサー有効範囲外。火器管制系でも修正しきれない微妙な計算を照準へ加味して、そしてフローラは念仏とともにトリガーを引く。
「南無阿弥陀仏ッ!!」
 そして放たれたメガ粒子は十数キロを渡って狙い過たず、ただ一撃でハイザックの中心核を貫いた。
 一瞬でコクピットハッチを撃ち抜いてパイロットの肉体と生命を蒸発させ、次いで暴走した核融合炉が巨大な火球となって弾け飛ぶ。
 ハイザックのパイロットは苦痛を覚える間もなく、原子に分解されて光輪とともに消滅した。フローラはその瞬間、何かを感じたようにはっと目を見開きながら呟く。
「――完全成仏」
『完全成仏……!?』
『完・全・成・仏! 見事、フローラ信女!』
 ゲオルグ機が親指だけでビーム・ナギナタを保持したまま、四指を伸ばして祈りを捧げた。エレイン、フローラもそれに倣う。
『南ァ無・ジオン。今日二人目の完全成仏。フローラ信女、見事』
『ジーク・阿弥陀仏。ありがとうございます、ゲオルグ居士。ただ、今日はまだこれから――もっと多くの連邦亡者を、完全成仏させねばなりません!』
『然り。励めよ、両信女! まずは大勢から安らがせん!』
『御意!』
 右腕を失ったままのゲオルグ機に先導されて、三機はサラミス改級駆逐艦を襲撃するコースで侵入していく。
 戦闘艦が持つ火力と索敵は、MSのそれを遙かに上回る。ゲルググの有効射程外から彼らを早々に捕捉するや、多数のメガ粒子砲塔が甲板上で蠢く。
 強烈な光軸の束を放ってきた。大ジオン仏道はケンドー丸が残した、もはや完全に拡散しつつあるビーム攪乱膜の残滓に拠りつつ、精確な射撃へ回避運動を交えつつ肉薄する。
 だが、90ミリ対空機銃群はまだ撃たない。頃合いを待っている。有効射程へ入る絶好の瞬間に統制射撃を開始し、一気に敵MS隊を撃砕するつもりなのだ。
 ゲオルグはその敵艦の落ち着きぶりを高く評価する。戦い慣れている――そうであるがゆえ、この機を逃さず成仏させねばならぬ、とも。
 そしてゲオルグも、このまま直接この艦と交戦するつもりなどない。
 斜め後方から追いすがるように走ったビームと90ミリ弾の火線を、ゲルググ三機編隊は背越しに見ていたように回避した。ロールを打って駆逐艦から離れながら、艦砲の射程外へと敵MSを誘い出していく。
 リン・リンリーはジム・ライフルの射線を蛇のようにうならせ、ビームサーベル抜刀のとともに突進した。追従するシエル機とともに、ゲルググ編隊へ背中から切りかかる。
 片腕のゲオルグ機がビーム・ナギナタを、そしてエレイン機がシールド裏にマウントしていた、MSの丈ほどもある長柄の格闘用ビーム兵器――ビーム・ナガマキを抜き払って迎え撃つ。
 激突した。
 三機編隊を脇腹から食い破らんとする強烈な勢いを乗せたまま、リンとシエルがそれぞれ叩きつけたビームの光刃がメガ粒子の飛沫を激しく散らす。
「いやぁ、本当っ――イイ趣味してるよ、あんたらっ!!」
 襲撃時から木魚と念仏を流し続けたまま、今なお開きっぱなしのオープン回線にリンが喚いた。斬り結びながら楽しげに。逆境でこそ笑ってみせるのが彼女の人生哲学だ。
「敵は殺す、戦えなくなった相手も殺す。目に付く相手は全員殺す! あんたら戦闘に勝った後でご丁寧に一人ずつ、ビームで焼いて回るんだってね。ねえ、一体ナニが楽しくってやってるわけ?」
『否。利己の楽しみに非ず。ただ宇宙(そら)の仏道に叶えばこそ、我らは為せり』
「何を――!!」
 ゲオルグと切り結ぶリンの剣撃は変幻自在。言葉の中でも片手でビームサーベルを操りつつ、頭部の60ミリバルカン砲をお留守にするようなことはない。
 敵機が光刃の鍔迫り合いに甘えて足を止めれば、その瞬間にバルカン砲が頭部を砕く。
 だが彼女を相手取るゲオルグの老獪さは、まったく射撃の機会を許さない。
 ビーム・ナギナタが基部両端から放つ二条の光刃、そのビームサーベルとの接点を軸に機体が廻る。
 その両側から同時に出る刃の扱いはあまりに至難で、それは熟練パイロットが不足した一年戦争末期における、ゲルググというMSの戦績不振に輪を掛けた。
 ビーム・ナギナタは以降、ゲルググ系後継機の武装から姿を消す。
 しかし一度パイロットが使いこなせば、その威力は通常型のビームサーベルを圧倒する。
 リン機を相手に片腕ひとつでビーム・ナギナタを操るゲオルグは、リンの想像を遙かに越える力でその真価を引き出し、彼女を完全に封じ込んでいた。
0049フェニックステイル第22話2016/04/10(日) 12:37:15.54ID:up+1PuGD
 そしてエレインが振り上げるビーム・ナガマキの光刃もまた、十分以上の間合いと剣速をもってシエルと巧みに切り結ぶ。
『殺す――! 大ジオン仏道! 貴様らこの場で、私と死ねぇっ!!』
『それほど千々に乱れた心で、何が為せるというのです』
 リン機と異なり頭部を失っているシエル機は、もはや頭部バルカン砲を頼れない。怒りに研ぎ澄まされたシエルの迷いない剣閃も、エレインが巧みに操るナガマキの間合いを抜くことが出来ずにいる。
 そして残弾の乏しいライフルを使うには、互いに距離が近すぎた。
 ビームサーベルを両手構えにして猛然と襲いかかる首なしジムUの斬撃を、ゲルググは巧みに打ち払い続ける。銀髪の美女は玲瓏たる声を発して少女へ説いた。
『我らはただ、ジオニズムの理想と仏法の調和せる、宇宙衆生(スペースノイド)の独立せる楽園――真なる浄土を、この地球圏に拓かんとするのみ』
『スペースノイドの、楽園――?』
 頭部メインセンサー群を失い、肩部サブセンサーから得られる限られた視野。
 メガ粒子の飛沫を撒き散らしながらビーム・ナガマキの光刃を操り、全力の押し込みを仕掛けてシエルを弾き飛ばそうと動き続けるゲルググの背後に、シエルはスペースコロニーの巨大な残骸を見た。
 あの日。U.C.0079、1月15日。
 ルウム戦役でジオン公国軍は、サイド5ルウムのコロニー群を核攻撃で焼き砕いた。少女の家族も、友人も、故郷も――二十億を超す人命もろとも、世界のすべてが塵となって消え去った。
 シエル・カディスの世界は、あの日、滅んだ。
『何がっ、――何がスペースノイドの楽園だ! お前らジオンがその何十億人を殺し尽くした結果が、このL1の有様だろうがッ!!』
『違います。ジオンはスペースノイド独立の真の守護者。無為の殺戮など為してはいません』
『ならば、この光景は何だッ!!』
『ジオンが引導を渡したのは、悪しき地球の重力に魂を惹かれ、真のスペースノイドに徒なすばかりの連邦亡者。
 ジオンは連邦に呪われた邪悪な生からの、速やかな解放――成仏という、魂の救済を与えたに過ぎないのです』
「ッ!!」
 側面から殺気。
 シエルは脚部と肩部スラスターを全開に噴かした。さらに敵機のシールドへ蹴りを叩きつけて間合いを開く。半瞬のうちに飛び退いた隙間を光軸が撃ち抜いた。
 ノーマークで残った最後の一機――フローラ機が矢継ぎ早の狙撃で、わずかに足を緩めたシエルを襲ったのだ。
『悪しき地球連邦の重力に魂を捕らわれた餓鬼畜生の救いは、メガ粒子と核爆発による一瞬の業火即身完全成仏にしかないのだとっ!
 五十億の亡者を救ったジオンの功徳への報恩として成仏するのが、あるべき人の自然な生き方なのだと! そんな簡単なことが、どうして分からないのですっ!!』
「喋るなッ!!」
 有効射程が開けた瞬間、シエルは限られた視界からビームライフルを応射した。だが二対一。火力で圧倒されたシエル機が左肩に被弾、肩口から断ち切られた左腕がサーベルを保持したまま流れていく。
 残る武装はライフルのみ。E-CAPの残量も乏しい。リンは敵隊長機らしきゲルググと切り結んだまま動けずにいる。
 シエルの口元に不気味な笑みが浮かんだ。
『偉大なるジオンの功徳で地球連邦の呪縛から解き放たれ、仏と成った五十六億七千万の連邦餓鬼畜生――その安らかに満たされた魂の呼び声が聞こえないのですか?
 さあ! あなたも今こそ成仏し、その一柱となるのです!!』
「お前らを先に殺してからなッ!!」
 横から割り込んできた射撃支援を受けて、正面の敵機が長柄の光刃を振り上げた。火線に圧されて崩れるように下がったシエルへ、一気に突進してくる。
 だが唐突に降り注いだ強烈な火線の嵐が、その迫るゲルググを強引に押し下がらせた。
『なにっ!?』
「アルマーズっ――」
 息を呑んでシエルは呻く。艨艟が迫っていた。
 彼女たちの母艦である駆逐艦アルマーズは退避するどころか、自らのMS隊とゲルググがぶつかり合う戦場めがけて割り込むように突進してきたのだ。そして自艦から敵機へ、あらゆる火力を叩きつけていく。
『リン、シエル! 下がるぞ、来いッ!!』
『ヘイズ!?』
『艦長――』
 アルマーズはシエルと距離の開けた二機を弾幕で押し流すと、リンと絡み合う敵機にそのまま体当たりを掛けるような勢いで迫った。
 リンは後方から迫る母艦の軌道とその対空射撃の弾道まで読んだかのような動きで、絡み合っていた敵機との間合いを開くや一気に射撃で押し返す。
 そのままシエル機とともに母艦の内懐で直掩の位置に付けると、リンのジムUは対空砲火と一体になりながら、弾倉交換したジム・ライフルから射撃を放った。
0050フェニックステイル第22話2016/04/10(日) 12:40:22.51ID:up+1PuGD
『ヘイズ。ネイサンが――』
『分かっている。だが、ここは下がる! リン、一年戦争を思い出せ――俺たちずっと、そうやってきただろう?』
 一年戦争。
 敵だけが持つMSの猛威。もはや物量すらも圧倒的なジオン宇宙艦隊。限られた拠点。硬直した及び腰な友軍。
 そんな劣勢の中でおびただしい犠牲を耐え忍びながら、彼らは――トラキア隊は何度となく好機を捉えては、貪欲にジオン軍へ襲いかかった。そして、生き抜いた。
 敵と味方の返り血の中で学んだのだ。泥水を啜っても生きてさえいれば、敵を殺す機会は、また必ず巡ってくると。
 だがそのとき、アルマーズの索敵手が報告した。
『一時方向より、高速で接近する熱源体二――分かれた、合計六……いや、八! 一時方向よりMS六機、高速で接近中!』
『敵の援軍……ッ!』
《コムサイ改》級哨戒艇。
 ジオン公国軍の主力戦闘艦、《ムサイ》級軽巡洋艦の艦首部に装備されていた多目的大型艇《コムサイ》を、単体での作戦行動を前提として改修した戦闘艇だ。
 艇内には二機のMSを格納して簡易な補給整備機能を有し、自衛火力として対空機銃他の火器類も装備している。
 すでにアルマーズの有効射程から離脱したルスラン・フリートの偽装貨物船が待ちわびていた、そしてアルマーズが予測していた援軍がデブリを縫って、ついにこの戦場へ到達したのだ。
 その平板な艇体へ跪くようにしながら上下対称に搭載されていたMSが、コムサイの甲板を次々と蹴飛ばすようにして舞い上がっていた。格納庫からも。
 MS-09R《リック・ドム》――おそらくは独自仕様の近代化改修機。それが六機。
 コムサイ改の背と腹で今まで温存してきた推進材をぶち撒けるかのように、その強力なスラスターがスカート下で咆哮した。暗色の重装甲で微細なデブリを跳ね飛ばしてくる。速い。
 二機のジムUはこのまま友軍のゲルググが抑えきれると判断したか、リック・ドム編隊は二個小隊に分散しながら、サラミス改級駆逐艦への対艦攻撃を狙う軌道を取った。
 アルマーズの対空砲火はゲルググとの交戦に分散しきっており、もはや全力をリック・ドムへ集中させることが出来ない。その操艦がいかに巧みであろうと、ここからMSの機動性を振り切れるはずもない。
 捕捉される。
 90ミリ機銃の数門が素早く対ゲルググ戦から振り分けられて、リック・ドムへとその照準を変更した。だが単艦の駆逐艦にとって、同時に迫る九機もの敵は多すぎる。
 十字レールを走る六基のモノアイが、ジャイアント・バズ六門の暗い砲口が、サラミス改級駆逐艦を見下ろす。
 迎撃の火線の中で回避機動を躍りながら敵艦を狙い、先頭の一機がジャイアント・バズのトリガーに指を掛けた。
 ここで六機から同時攻撃を叩き込めば、対空射撃に妨害されながらでも一発は当てられると彼らは踏んだ。
『なりませんッ!!』
『!?』
 だが初弾を放とうとしたリック・ドムは、予期せぬ方向からのビームに射撃動作を阻止された。
 二個小隊はそのまま咄嗟の回避機動に入り、敵艦への攻撃侵入軌道から離脱していく。先頭機のパイロットが見たのは自機へビームライフルの銃口を向けてくる、友軍機のはずのゲルググだった。
『な、何をするッ!?』
『あなたがたの武装では、そんな及び腰の射撃では、連邦亡者を完全成仏に至らせられません! 半端な攻撃で肉体に無用の苦痛を与えれば、悔い無き完全成仏を妨げます。
 それでは新たなる怨念の輪廻を生むだけということが、なぜ分からないのです!!』
『大ジオン仏道か……っ!』
 そのゲルググを駆る少女、フローラの強烈かつ理不尽な神懸かった気迫が、増援のリック・ドム部隊を凍らせた。そして友軍相撃すらも辞さないその断固たる気迫は、他の二機からも同様。
 このまま対艦攻撃を継続しようとすれば、連邦軍と戦う前に背中から撃たれて彼らが先に『完全成仏』させられてしまうかもしれなかった。
 二機のゲルググが彼らと敵艦の間に割って入る。
『悪人正機――悪しき連邦亡者とて、いや連邦亡者だからこそ、苦悶の中で地獄に堕としてはならぬのだ。慈悲の心から放つメガ粒子と融合炉核爆発の業火で、その肉体を原子レベルで荼毘に付す。
 そうして重力の呪縛より解き放ち、こころ安らかに極楽往生させねばならぬ』
『対艦攻撃は我ら大ジオン仏道が主導します。サラミスの乗員すべてを苦痛なく一瞬にして蒸発成仏させる術、我らが心得ておりますゆえ。本隊の方々は支援と牽制を願います。南ァ無・ジオン』
『……ジーク・阿弥陀仏――』
 ゲオルグの説教をエレインがまとめて有無も言わさず一方的に指示を与えると、リック・ドムのパイロットは信仰心のない平板な声で応じた。
0051フェニックステイル第22話2016/04/10(日) 12:42:16.52ID:up+1PuGD
 サラミス改の射程から離脱した九機のMSは、素早く編隊を組み直しながら、再度の攻撃軌道に入っていく。
「ふうん――まず足並みを揃えてくるかあ。敵さん、手堅いなあ」
 遠方を巻いて攻撃編隊を整えていく九機もの敵MS隊に、アルマーズの前方でたった二機の阻止線を展開しながらリンは笑った。
 敵の足並みが揃わなければ、多少は艦に被弾を受けてでも乱戦に巻き込んで数機を落とし、強引に突破して離脱するつもりだった。
 だが敵は一挙に全力を集中して、自軍の損害に構わずあくまで撃沈しに来るらしい。
 増援の到着で均衡は完全に崩れ、戦力比は圧倒的不利。次の突撃を阻止できる公算は薄い。
 どうすれば生き残れるかではなく、どうすれば一機でも多く道連れに出来るか、を考えるべき状況なのだとリンは知った。
『隊長、なんだか楽しくなってきました』
「いやあ、戦争ってやつはこうでないとねえ」
 シエルは笑っていた。リンも笑っていた。美しい少女と娘の二人が浮かべるそれは、ひどく邪悪な笑顔だった。
 アルマーズは今、再びその火力を沈黙させている。機銃に次弾を装填し、メガ粒子砲にエネルギーを充填し、砲身を冷却しながら艦長からの射撃号令を待っている。
『南無阿弥陀仏』
『ジーク・ジオン!』
 ルスラン・フリートのMS隊は、そこを目掛けて突撃した。
 三個小隊同時攻撃。
 迎撃に来るであろう敵MSにはリック・ドムが応戦し、同時に駆逐艦への陽動攻撃を仕掛けて対空砲火を分散させる。大ジオン仏道のゲルググはあくまで対艦攻撃に徹する構えだ。
 そして、大ジオン仏道は真正面から敵艦に迫る。
 まずはビームで艦首から艦尾へ、そして艦橋から艦底へと貫通し、艦体の主要隔壁すべてに風穴を開けてダメージ・コントロールを無力化する。
 動きが止まったところで融合炉をビームで破壊し核爆発させ、その爆圧を艦体すべてに隈無く通す。同時にジャイアント・バズの集中砲火を叩き込めば、敵乗員は一瞬ですべて苦痛なく蒸発させられるのだ。
『姉様。あの者たちからは、並みならぬ怨念を感じます』
『やはり通常の連邦亡者とは違うようです。ジオンへの強い怨念を抱いた連邦亡者、成仏させれば特に大きな功徳となりましょう――フローラ?』
『――姉様、何か……、直上ッ!!』
『!!』
 かっと目を見開いたフローラの警告が、エレインに紙一重でフットペダルを踏み込ませる。
 ゲルググの重厚な機体が横へ滑った。一瞬前まで彼女の機体のあった空間を、火を曳く何かが逆落としに飛び過ぎていく。
 実体弾、360ミリ級。高初速――MS用バズーカ・タイプ火器からの砲撃ではない。
『姉様っ!!』
 そしてエレインが回避する先を読んでいたかのように、やや低速の第二射が来襲した。咄嗟に構えたシールドへまともに着弾し爆裂、本体の身代わりとなった装甲板をまっぷたつに叩き割る。
 エレイン機は編隊から一気に沈んだ。
0052フェニックステイル第22話2016/04/10(日) 12:42:40.85ID:up+1PuGD
『新手ッ!!』
 不意急襲の長距離砲撃。大ジオン仏道がもっとも得意とする戦術を逆に返され、フローラはビームライフルの銃口を上空目掛けて跳ね上げた。彼方の敵影を捉えて狙撃しようとする。
 RGM-79GS《ジム・コマンド》は忽然とその横腹に出現した。
『な』
 いつ、どこから現れたのかも分からなかった。
 フローラの研ぎ澄まされた六感を簡単にすり抜け、認識の内懐に突如降って沸いた敵機は、巨大な相対速度を帯びていた。
 完全な死角から現れて超高速で突撃しながら、両手に構えた光刃の剣閃二条でフローラ機へと斬りつける。
 回避も迎撃も不可能だった。
 ゲルググの胴をビームサーベルが一気に斬り裂き、装甲を蒸発させて全天周モニターを食い破る。少女の豊かな肢体をメガ粒子の閃光が照らし出す。
「南無阿弥陀仏――」
 死の閃光を至近に浴びながら、フローラは穏やかな瞳でただ安らかに念仏を唱えた。
 だが業火は少女の肉体を呑み込む寸前で停止する。
 強引に割り込んだゲオルグ機がビームナギナタの長突を放ち、敵機のサーベルを紙一重で食い止めたのだ。
 そして、交錯は一瞬。
『きはッ!』
 ゲオルグ機との間に光熱の飛沫を跳ね散らすと、ジム・コマンド――その近代化改修機は楽しげな声ひとつ接触回線に残したきり、弾丸のように突き抜けていった。単機。
『なんだこいつは! どこから沸いたッ!?』
『大ジオン仏道めっ、伏兵の奇襲を許すとは口ほどにもない――優先目標変更、中隊全力で奴を潰す!』
 紅白の機影が慣性を殺すことなく走り抜けてくる軌道の先で、リック・ドム隊が突撃と砲撃の標的を正面のジムUから、彼らへ迫るジム・コマンドへ変更する。
 二個小隊、六門のジャイアント・バズが集中して一機を狙った。
 だが上方からその編隊をめがけて、再び高初速弾が撃ち下ろしに降り注ぐ。
『あぐっ!?』
 初弾が一機を直撃して左腕を消し飛ばし、ほぼ同時に来た次弾は編隊直上で爆ぜた。霰弾の雨を叩きつけられ、三機の動きがわずかに鈍る。
『この距離から、実体弾で狙撃!? バズーカじゃない、キャノン系――あっ』
 そしてジム・コマンドの剣閃は、その隊長機を袈裟懸けに斬り捨てる。
 コクピットを消滅させジェネレータを大破させられたリック・ドムが、航過するジム・コマンドの背後で盛大な火球へ変わった。
『隊長!』
『そんな、一撃で――!?』
 それでもリック・ドム隊が五機がかりで放った砲撃を、ジム・コマンドは平然と縫って抜き去る。機体を立て直したエレイン機がビームの狙撃を放っても、背越しに見ていたようなロールで軽やかに避けた。
 二機を斬り裂きながら突破した敵射程外で急旋回しつつ、ジム・コマンドのパイロットはオープン回線で戦場へ吠える。
『完全成仏、ナンマンダブゥ〜! ってかぁ? 俺ァ学が無ェから、神様仏様のことァよう分からんがよ――こいつぁ春から縁起がいいぜ』
 紅白の機体は輝く月を傲慢に背負った。ゴーグル・カバー越しのモノアイ・センサーが、三機のゲルググと五機のリック・ドムをあざ笑うように見下ろす。
 ゲンナー・ウェズリー少尉は八機の敵影を眼下に、その満面に狂獣の笑みをたたえて唇を嘗めた。
『食い放題ってのは最高だなァ、オイ』
0053フェニックステイル第22話投下おわり2016/04/10(日) 13:06:58.52ID:up+1PuGD
今回はここまでです。次回、決着予定。エロはその次に出したいなと思っています。

>>39
ユキちゃん百合ん子だった……! いいぞ。
引き続き、戦闘にもエロにも期待します。
0056名無しさん@ピンキー2016/04/29(金) 20:34:37.76ID:UYDxfW5z
夜な夜なバナージの部屋に忍び込むミネバ様ありますか?
0058ななし2016/05/04(水) 22:11:30.29ID:ODW5rikR
「あ、あの。ミコットさん。ちょっと、相談があるのですが……」
『は?え?私?』
「はい、ミコットさんにです。」
『な、なんでジオンのお姫様であるあなたが、一民間人の私に相談があるの?
回りに言うこと聞いてくれる人いっぱいいるでしょ?』
「相談できたマリーダは、もういなくなってしまいました…」
『あー。船内生活上の問題?だったら、私よりミヒロ少尉に…』
「そうじゃありません。その、ミコットさんだからこそ相談したいのです。」
『え?まさかバナージとのこと?』
「(コクリ)」
『天然なの?それともわざと言っているの?』
「その、ミコットさんはバナージと同じ学校だったとお聞きしましたので、
私より彼のこと良く知っていますよね?」
『(天然だった。このクソジオン女!)』
「ダメですか?」
『……何?内容によるわ。話してみて。』
「はい!えと、あの、実は、バナージと無いんです、、」
『??? 何が?端的に話してくれます?』
「ですから、バナージとの関係の進展が無いんです。これからどうすれば良いでしょう?」
『(イライラ)それ、私に聞くの?!』
「だって、ミコットさんバナージと仲が良かったんでしょ?彼の好みとかご存知ですよね?」
『あいつ、散々合図送ってたけどぜんぜん乗ってこなかったのよ!(怒)』
「え?」
『(…ん、ここでダメなアドバイスをすれば、ひょっとして真面目なバナージが
この子にドン引きするかも…)』
「ミコットさんでもダメでしたか…」
『まって、まって!任せて。アドバイスするわ』
「はい!ありがとうございます」
『まずは、二人っきりになる状況を作って。そうね、まずは夜にバナージ部屋にこっそり押しかける』
「え!いきなりですか?」
『あいつ鈍感だから、それぐらいしないとダメね』
「そ、そうですね。」
『そして、ゴムを咥えて胸元を開いて、押し倒す。』
「はっ?えっ?えっ?」
「はい、これあげるから。箱ごと1ダースあげるから」
『ミコットさん、なんでこんなに持っているんですか?』
0059名無しさん@ピンキー2016/05/04(水) 22:34:11.23ID:aZHu8bZ6
「あ、あの……一人じゃ不安なので、一緒に来てくれませんか?」
0060ななし2016/05/06(金) 10:25:11.59ID:r79j4Y+0
バナージ編
「リディ少尉、あの、ご相談があるんですが。」
『何だいバナージ?ミネバと喧嘩でもしたのか?』
「いえ、そうじゃなくて。リディ少尉は社交的ですし、女性と付き合った事もありますよね?」
『まあ、何人かとは付き合ったことはあるが。どうした?』
「その、オードリーとどういう風に付き合って良いかわからなくて、、、」
『ははっ、キスぐらいはしたんだろ?』
「ええ、まあ、しかし、その後自然に運べる方法が分からないんです。」
『(ムカ)ほ、ほう。じゃあ、彼女も君のことを思っているし、そのままの雰囲気
で行けるんじゃないか?(なんでこんなアドバイスしてるんだ俺?)』
「すいません、本当に経験が無くて、どういう風に振る舞えばいいのでしょうか?
教えてください!お願いします」
『(……ここで強引な方法を教えてやれば、固いミネバから愛想をつかれる可能性があるな)
わかった、力になろう』
「ありがとうございます」
『そうだな、まずは、どこか二人っきりになれる部屋に呼び出す。』
「はい」
『そして、いつものように何気ない言葉を掛けてやる。』
「はい」
もし言葉に詰まって気の利いたことが言えなくなったら、、』
「言えなくなったら、、」
『肩に手をかけて押し倒す!(そして張り倒される)』
「え?い、いきなりですか?強引じゃないですか?」
『男は少し強引なくらいがいいんだよ。』
「しかし、基本的にいつも凛としている彼女にそんなことしたら、引かれませんかね?」
『冷静?君と話している時は浮かれているように見えるよ?気がつかなかったのかい?』
「そうなんですか?」
『そう、だから、彼女の方が待っている可能性がある』
「分かりました。大変ためになりました。ありがとうございます」
『おう、頑張れよ。そうだ。餞別にいいものをやろう。男としてのエチケットだ』
「これ、いつも持ち歩いているんですか?」
0064フェニックステイル第23話前編2016/05/14(土) 02:25:02.94ID:7Md9VALw
「アホとなんとかは高いところがお好き、っと」
 冷たく呆れた口調で呟きながら、サブリナ・ミケリヤ少尉は眼下に――遠い地球を背にして散らばる敵MS編隊を次々と照準していた。右肩の固定式360ミリロケット砲、そして左肩に構えたバルザック式380ミリロケット・バズーカが交互に火を噴く。
 RGC-80SR《ジム・キャノン空間突撃仕様改》はデブリに紛れ、月を頭上に二門の砲を撃ち下ろしていく。
 機体名の由来でもある右肩固定装備のロケット・アシスト砲は、精度も初速もMS用バズーカ砲に勝る。一方で手持ち武装のバルザック式ロケット・バズーカは取り回しに優れる。
 交戦領域の異なる二門の火器は相互補完の関係にあるが、サブリナはそれのみならず両者の弾速差すらも利用して、彼女独特の中距離火力戦闘を展開していた。
 時間差で弾ける榴霰弾の火網と榴弾の火球が、もはや編隊を崩して必死の回避機動で逃げまどう群れとなった敵機を照らす。全天周モニターからバイザー越しに照り返す爆光を浴びながら、サブリナは邪(よこしま)に笑った。
「鴨撃ちってのは、楽でいいよねぇ――リン。そっちの首無し、ネイサンじゃないね。新入り?」
『まぁ、ね――やられたよ、サブリナ』
 撃ち下ろしながら指向したゴーグル・アイ越しに、サブリナはレーザー通信でリン・リンリー少尉を呼んだ。彼女はそのまま砲撃と索敵、まったく異なる作業を一人で同時に並行しつつ、掴んだ情報を旧友へ送る。
「敵後方から熱源、スラスター光が新たに六。機動特性からたぶんMS-21。増援の第二波が来るよ」
『へぇ、私らはすっかり敵さんの蜂の巣を突ついたってわけだ。――それ、いいねぇ』
 都合三個部隊を向こうに回した死闘を繰り広げながら、リンのRGM-79R《ジムU》は今なお五体満足を保っている。
 二人の奇襲で生じた一瞬の隙にサラミス改級駆逐艦《アルマーズ》のプチモビから予備弾倉を受け取り、半壊した僚機を従えながらジム・ライフルへ再装填して構えなおした。
 そして大ジオン仏道との戦闘で頭部と左腕部を失った僚機、シエル・カディス伍長機もまた整備班からビームライフルとビームサーベルの予備を受領している。
『リン。正面の奴らを叩いて、混乱の合間を抜けるぞ』
 通信小窓にアジア系の青年将校が顔を出した。アルマーズ艦長ジャクソン・ヘイズ大尉は自らのMS隊長に呼びかける。
「つまり潰していいってことですね、ジャック?」
『好きにしろ』
「了解――」
 武装は回復し、推進材にもまだ一戦の余裕はある。リンは笑った。
「ねえ、シエル。さっき生き延びておいて、よかったでしょ?」
『最高です。皆殺しにしましょう、隊長』
 単機の友軍にいいように掻き回されている敵陣めがけて、シエルは笑顔でスラスターを開く。
 RGM-79GSR《ゲシュレイ》で先行したまま突撃したゲンナー・ウェズリー少尉に第一撃で隊長機を切り捨てられ、残ったMS-09R《リック・ドム》五機はサブリナからの砲撃に曝されながら、あからさまに混乱していた。
『しょっ、小隊長っ――囲まれた!? 今度は私たちが逆に囲まれたのっ!?』
『狙われてる! 畜生あいつ、デブリの陰から!』
『さっきのジム・コマンド、来ますッ!!』
『落ち着け、数はまだこちらが倍だ! 一小隊、ジム・コマンドへ逆襲対処を――ぐっ!?』
「いやあ、させんでしょ」
 はるか上空から指揮官機の所在を見破り、サブリナのジム・キャノンはリズミカルに発砲する。照準の先へ砲弾を次々と導くように『置いて』いく。
 実体弾の飛翔速度はビームよりずっと遅い。この長距離からでは着弾まで数秒を要し、目視してから反応出来るほどだ。
 狙われたリック・ドムの小隊長機は即座に加速する。迫る弾道を全力で回避し、爆炎とともに開いた霰弾の傘から逃れた。
「ビンゴ」
 だが動きを読んでいたかのように、その眼前で爆光が閃く。榴弾の至近爆発が機体を激震させ、たまらず制御を失ったその中心部を光軸が貫いた。
『アッ――』
 熱線に切り裂かれた融合炉がひとたまりもなく暴走し、超高熱のプラズマをぶち撒ける。リック・ドムがまた一機、巨大な火球と化して消滅した。ジム・キャノンが右手にもう一門構えた長銃身火器、R4型ビームライフルからの狙撃だった。
『しょ、小隊長まで――』
『畜生ッ!!』
 それでも辛うじて体勢を立て直した数機が、サブリナ機からの射線を辿ってジャイアント・バズの応射を放つ。だが反撃の砲弾は敵機に届くことなく、手前でデブリに阻まれむなしく爆散した。
 それどころか、また別座標からの砲弾が彼らを叩く。ジム・キャノンはデブリ間を素早く小移動して、新たな狙点に陣取ったのだ。
0065フェニックステイル第23話前編2016/05/14(土) 02:26:26.71ID:7Md9VALw
『あっ、くぅっ――ああっ!?』
 時間差で飛来する砲撃の雨に打ちのめされ、編隊を大きく散らして孤立した一機の眼前へ、流星のようにジム・コマンドが迫っていた。
『いやああああああっっ!!』
 狙われたリック・ドムの少女パイロットが絶叫し、ジャイアント・バズを投げ捨てながら背中のヒート・サーベルを抜き放つ。だが胸部ビーム砲から放たれた光軸の速射をあざ笑うように掻い潜り、ジム・コマンドは突撃機動のまま光刃を振るった。
『あ、』
 ――死ぬ
 だが彼女の肉体を蒸発させんと迫ったメガ粒子は、その眼前で阻止された。
『ほおぉ? またアンタかっ!』
 楽しげに笑うゲンナーは速度を殺さず、そのまま一撃離脱していく。片腕のMS-14A《ゲルググ》が二機の間に割り込みながら、ビーム・ナギナタの光刃とともに立ち塞がったのだ。
『ゲオルグ居士ッ!』
『畜生、墜ちろッ!!』
 盾を失ったエレイン機がビームライフルを放ち、砲撃に曝されながらもリック・ドム編隊がジャイアント・バズとザクマシンガンで追い撃つ。しかし追撃の弾雨はジム・コマンドが曳くスラスター炎の軌跡をなぞるばかりで掠りもしない。
 あまりにも速すぎた。リック・ドムのパイロットたちが罵る。
『なんて加速だ、バケモノめ……ッ!』
 宇宙世紀史におけるMSの単純な瞬間加速性能はその最初期、一年戦争末期の段階ですでに飽和していた。
 熱核ロケット技術は人間の耐えうる限界以上の加速度をMSが発揮するに十分以上の性能を達成していたし、有人機であるMSは根本的に『Gの壁』を超えられない。そのためこの後の百年以上に渡って、MSの限界加速性能が根本的に進化することはなかったからだ。
 実際のところ一年戦争以降の『MSの機動性の進化』とは単に機体を軽量化し、推進材の搭載量と燃焼効率、推進器の持続性能を増すことで、総加速時間を延長していただけに過ぎない。もっとも実運用上ではそれこそが非常に重要なのだが。
『遅ェよ、オメーラ。欠伸が出るぜ』
 そしてゲンナーは人間の限界を振り切るほどの超加速を平然と使いこなし、あっさりと残党軍の有効射程限界付近を離脱していた。最大推力を発揮して一気に高熱を溜め込んだスラスター群を冷却しながら、ゲシュレイはあざ笑うように次の襲撃へ向けた緩旋回を掛けていく。
 間断なく降り注ぐジム・キャノンの砲弾が炸裂する中、エレインが叫んだ。
『くっ――ゲオルグ居士! 先ほどの連邦亡者がまた!』
『修羅道め、世にはばかるか――』
 そしてジム・コマンドが一撃離脱しても、ジム・キャノンはなお砲撃を続行しており、そして前方からは元いたジムU二機がサラミス改もろとも肉薄してくる。強力な援軍を得た機と衝撃効果を逃さず、ここで逆襲へ転じるつもりなのか。
 バイザーの下、ゲオルグはくわっと目を見開いた。
『本隊の方々! 聞かれいッ!!』
 指揮官全滅、二機被撃墜一機中破。一個中隊六機もの戦力へ一瞬にして半壊以上の大損害を受け、もはや半ば烏合と化したリック・ドム隊を、ゲオルグが腹の底から放つ大音声が貫いた。
『修羅道のジム・コマンドは自分がこの手で成仏させよう。エレイン信女! そこな二機を率い、ジムUとサラミス改を迎え撃て。フローラ信女! そこな二機を率いて向かい、ジム・キャノンを叩け!』
『御意! 方々、続かれませい!』
『りょ、了解っ――』
 そして大ジオン仏道が有無も言わせず指揮系統を掌握すれば、もはや指揮官を失ったルスラン・フリートのMS隊はただ従うより他になかった。戦場の主導権を連邦軍から奪回すべく、反撃の糸口を付けにかかる。
「おっ。やっとこ敵さんこっち来たか」
 コクピット・ハッチ側面を全天周モニターもろともゲンナーのサーベルに焼き切られていながら、ゲルググの一機が盾でデブリを凌いでサブリナ機へと肉薄してきた。
 追従する二機のリック・ドムとともに、ビームライフルとジャイアント・バズで火蓋を切る。
 即座にサブリナは標的を正面の敵へ切り替え、猛然と応射を開始した。360ミリ級実体弾とビームが飛び交い、デブリの海に爆光が乱れ咲く。
 一対三。だが配置を掌握した無数のデブリを射撃陣地にしながら三門の重火器を構えるジム・キャノンは、決して撃ち負けることなく互角に戦い、容易に接近を許さない。
「おおっと!」
 サブリナが飛び退いた瞬間、彼女の陣取っていたコロニー壁面の残骸が赤熱し沸騰、背後へ光軸が突き抜けた。ゲルググが放つビームは薄い防壁など容易に貫く。その狙いはどこまでも精確。
「ハハッ、いいねぇ――気に入ったよ、アンタ!」
 目潰しの榴弾を見舞い返して予備陣地まで下がりながら、サブリナは楽の出来ない相手だと冷たく笑った。
0066フェニックステイル第23話前編2016/05/14(土) 02:27:43.65ID:7Md9VALw
 そして熾烈な火力戦が渦巻く眼下で、彼我のMS隊主力も中距離を割って激突する。
 MS数では連邦二機にジオン三機。だが執念と殺意を漲らせながら躍り掛かるジムUに対し、大ジオン仏道に引きずられて戦うリック・ドム二機の動きは精彩を欠いた。
『あ、あと少し待てば、友軍の増援第二波が来ます! 何も今、無理に仕掛けなくとも――』
「それでは戦機を逸します! 悪逆非道なる連邦修羅道亡者は、今この場にて成仏させねばならぬのです!!」
『もうやだ……っ、やっぱり頭変だよ、この人たち……!』
 ゲオルグは言葉通りに単機のままで、凶悪な加速で躍り狂うジム・コマンドに食らいつきながら抑えこんでいた。エレイン以下の三機はビームライフルとジャイアント・バズを放ちながら、サラミス改からの掩護を背にして迫るジムU二機を迎え撃つ。
 アルマーズが放つメガ粒子砲の火線を潜り、360ミリ榴弾が次々に咲かせる爆光を蹴破りながらジムUは迫った。艦砲の圧倒的な支援火力を前に、三機のジオンMSはじりじりと押されて下がる。
「修羅道亡者め、なんたる気迫か……っ!」
 大盾を失ってビーム・ナガマキを左手に持ち、ビームライフルを右手で構えながら、エレインはきつく敵機を睨みつける。
 最初の狙撃で一機を葬り、絶対の優位を確立してから決定的な接近戦を仕掛けたはずだった。彼女たち大ジオン仏道は今までも地球圏の各地でそうやって、もっと装備の充実した連邦軍やティターンズの部隊を、跡形もなく完全成仏させてきたのだから。
 にもかかわらず、眼前の敵部隊はそれを凌いだ。あまつさえゲオルグの機体が片腕を奪われるなど、今まで一度も無かったことだ。
 この敵は明らかに、今までの連邦亡者と格が違う。
 今この場で殲滅することが出来なければ、必ず強力な禍根となる。
「逃しはしません――南ァ無・ジオン!」
『じっ、――ジーク・ジオン!!』
 裂帛の気合いとともにエレインが叫び、破れかぶれでリック・ドムの二人も続いた。
 首無し片腕のジムUが応じたように火線を開く。かつて一年戦争時代には『戦艦の主砲並みの威力』とも称された、1.9MW級のビームが降り注いだ。
 そして駆逐艦の強烈な火力支援に撃ち負けて、エレインら三機は精確な照準を取ることが出来ない。その間に距離を詰めて、近接火力の充実した敵は容易に劣勢を覆した。
『ちくしょおおおおっっ!!』
 ジム・キャノンからの狙撃で片腕とジャイアント・バズを失っていたリック・ドムの片割れが、予備兵装のザクマシンガンで懸命に弾幕を張る。胸部ビーム砲も光軸を放った。
 だがジム・ライフルを構えたジムUは迷いのない軌道で迎撃の射線を振り切る。
 90ミリ高初速弾の射線が蛇のようにうねって絡みつき、次々と火花を散らしてリック・ドムの装甲を穿つ。
 チタン・セラミック系新素材を組み込まれた重装甲は耐えきるかに見えたが、無数の破孔から煙がたなびく。僚機の少女がジムUを引き離そうとジャイアント・バズを放ちながら絶叫した。
『もうその機体はダメ! ケニー、逃げて!!』
『そ、ソニア――ごめん、俺、もう』
 だが躍るジムUは射線を絶やさず、動きの鈍った機体へさらに頭部バルカン砲の火力を加えた。
 コクピット・ハッチへピンポイントで殺到した60ミリと90ミリ弾の集中射は、リック・ドムの中心部を完全に貫通。次々と機体の背後に抜けて飛び出していく。
『がぶっ。ソニア、お、俺はずっと、君を――』
 隻腕のリック・ドムはそこで起爆した。重厚な機体が内側から爆ぜた光熱に負けて跡形もなく消し飛び、巨大な光輪となって消滅していく。
『ケニイイイィィィッッ!!』
 蒸発した僚友の名を絶叫する少女の眼前へ、彼の溶け消えた爆炎を突き破りながら敵が出現する。
 首と左腕のないジムUがリック・ドムの爆発を目くらましにして、交戦していたエレイン機を振り切ったのだ。
 慟哭する彼女へ、ジムUはまっすぐビームライフルを向けていた。涙の向こうに銃口が丸く見える。
 死神そのものの姿だった。
『あっ――』
 それでも少女は反射的に、半壊したジムUへジャイアント・バズの砲口を向け返していく。だがテンポがわずかに遅れている。
 間に合わない。
 自分も、ここで――
0067フェニックステイル第23話前編2016/05/14(土) 02:28:49.13ID:7Md9VALw
『脇がお留守ッ!!』
 女の叫びとともに突如として迸った120ミリ弾の連射が、首のない死神の姿をかき消すように離脱させていた。
 MS-06F3《ザク・ファドラン》、単機。ルスラン・フリート偽装貨物船《ケンドー丸》所属MS隊の機体だ。
『はっ、エレイン。天下の大ジオン仏道が、ずいぶん苦戦してるじゃないのッ!』
『バーレット少尉――』
 加勢のザクとゲルググの二機がかりで火力を応酬し、三機はかろうじてジムUからの間合いを開く。サラミス改の有効射程から大きく後退しながらエレインがうめいた。
 事実上すでに壊滅していたファーガスン隊の、最後の可動機だった。ミリアム・バーレット少尉は大破した二機の僚機をパイロットごと母艦に送り届けて預け、ザクマシンガンの予備弾倉だけを受け取って即座に戦場へ復帰したのだ。
 機体はすでに90ミリ弾数発を被弾し、完調にはほど遠い。それでもミリアムは友軍の支援に駆けつけた。
『あっ、あ、ああ。け、ケニー。隊長。小隊長、……みんな――ぐっ!?』
「アンタもシャキッとしなッ!!」
 ザクの掌底が生き残ったリック・ドムの脇腹を小突く。ミリアムはなお彼女らを狙って蠢く二機のジムUを、三機相手に互角以上に渡り合うジム・キャノンを、常軌を逸した速度のままで隻腕のゲルググと楽しげにもつれ合うジム・コマンドを睨みすえた。
「こいつらは『ルウムの亡霊』! 一年戦争でMSも無しにジオンの艦隊をゲリラ戦で襲っちゃあ、跡形もなく殲滅してた筋金入りの『悪霊』ども――文字通りに大物喰い(ジャイアント・キリング)の常習犯だ。
 下手にやり合えば取り殺されるよ!」
『『ルウムの亡霊』――なるほど。これが噂に聞くルウム難民兵部隊、ソギル戦闘団のなれの果てというわけですか』
 緊張とともに得心するエレインをよそに、ミリアムはひとり唇の中だけで呟いていた。
「――でも、大丈夫。行ける。こいつらの中に『アイツ』はいない――それならまだ、勝ち目は十分ある」
 機体性能から計りえないほどの戦力を示す四機の連邦軍MSの中から、彼女は決して忘れ得ない悪夢の影を探していた。そして今、それが見あたらないことに安堵している。
 かつて旧式のありふれた汎用量産機に乗り、時代遅れのくたびれた骨董品を構え――そして人智を超えた未知の恐怖と絶望を彼女の魂に刻みつけた、記憶の中の悪魔の姿を。
 ――大丈夫。今ここにアイツはいない――アイツさえいなければ、戦える。いくら強敵だろうと切り抜けられる。
「何とかしなよ、エレイン。悪霊どもを成仏させるのが、あんたらの本業でしょうが」
『言われずとも……ッ!』
 きつく歯噛みし、エレインは戦況を一瞥する。
 なお熾烈な高機動戦闘を展開するゲオルグは均衡を破れず、ジム・コマンドを封じ込むのに精一杯。フローラたちもジム・キャノンからの猛烈な砲撃を抜けず、容易に距離を詰められないばかりか、少しずつ損害を受けてすらいる。
 すでに三機もの友軍機を撃墜され、自分たち大ジオン仏道の手の内までも知られてしまった。
 だからサラミスだけは絶対に沈めなければならない。母艦さえ撃沈することが出来れば『宇宙船』としては推進系に大きな制約を抱えた存在であるMSは、もう拠点まで帰れなくなる。あとはゆっくり始末すればいいだけだ。
 そこまで考えたとき、ふとエレインの脳裏に疑念が過ぎった。
 出し惜しみがなさ過ぎる。
 推進材を搾りきるかのように豪快な殺人加速で、多勢の敵陣を翻弄するジム・コマンド。携行弾薬を一気に使い切る勢いで火力戦闘を展開するジム・キャノン。
 なお戦力比では劣勢の中で後先を考えないように戦う、この連中の『勝ち目』とは何だ?
0068フェニックステイル第23話前編2016/05/14(土) 02:29:38.79ID:7Md9VALw
 そのときエレインのはるか頭上でジム・キャノンが、不意に正面の三機相手の砲撃頻度を緩めて後方へ下がった。
 言うまでもなく、360ミリ級の大型実体弾はそう多数を携行することなど出来ない。贅沢に撃ちすぎて早々に弾薬切れを起こしたか、そうでなくとも残弾数が切迫して火力を落とさざるを得なかったのか。
『いずれにせよ勝機――ここで距離を詰めさせてもらうッ!!』
『――お待ちなさい、何か――』
 対峙していた二機のリック・ドムが勢いづいて前面に出る。違和感を覚えたフローラは呼び止めようとしたが、正規の指揮系統下にあるわけではない彼らは耳を貸さなかった。
『隊長たちの仇、取らせてもらうッ!!』
 長物を抱えたまま火力を切らせた中距離支援機など、接近してしまえばただの鈍重な獲物でしかない。リック・ドムは強力なスラスターを噴かし、一挙に肉薄を試みる。
 ジム・キャノンが慌てて食い止めようとするかのようにバズーカで榴霰弾を放ってきが、もはや気休め程度の足止めにしかならなかった。
『行けるッ』
 彼らは最後まで気づかなかった。
 ジム・キャノンが砲撃の手を緩めながら、その高度な通信機能で、ある座標の情報をレーザーで送信していたことを。
 漂流するデブリの配置と彼我の位置関係を利用し、彼らの取り得る機動経路が絞り込まれていたことを。
『高エネルギー反応――』
 そして閃光がすべてを呑んだ。
 MS用ビームライフルなど比較にもならないメガ粒子の奔流が、リック・ドムの重厚な機体を蝋細工のように容易く捻じ切り押し流す。瞬時に全壊した融合炉が核の火球を広げるまでもなく、二機のMSは濃密なビームの嵐の中で蒸発していた。
 サラミス改級『巡洋艦』一隻がそのメガ粒子砲火力を集中発揮した一斉射は、サブリナの指定した座標を余すことなく網羅し蹂躙。その死の空間へ誘い込まれた敵機を跡形もなく消滅させたのだった。
 戦慄に震える唇で、フローラが念仏を唱える。
『……南無阿弥、陀仏――』
「ン……。いい加速、いい操艦、いい斉射だ。リドリー、また腕上げたねぇ」
 唯一生き残ったゲルググにバズーカから榴霰弾を放ち、後退させながらサブリナは微笑んだ。艦砲斉射の来た方向をちらりと見やる。
 遙かデブリ群を通した距離の彼方から、サラミス改級巡洋艦が急速に接近していた。
 宙域に漂う暗礁をものともせずに突き進むその船足は、アルマーズのそれに勝るとも劣らない。熟練の操舵は無骨な艦体を繊細に操り、大型デブリを確実に縫って戦闘宙域へと突入させていく。
 MS甲板上に立つ四機のジムU。旧式の短銃型兵装、ビーム・スプレーガンを構えた機体が、カタパルト上で前傾した。
0069フェニックステイル第23話前編投下終わり2016/05/14(土) 02:33:03.88ID:7Md9VALw
今回は以上です。後少し、第23話でこの長い戦闘も終えて、第24話では久方ぶりの情事に入りたいと思います。

pixivにファーガスン隊のフルカラー画を投稿しました。お楽しみいただけますと幸いです。

>>60
乙です。いっそリディとミコットで……
0071フェニックステイル第23話後編投下準備2016/05/28(土) 22:01:34.95ID:kcCFR1Uc
少々半端ですが、第23話を途中で切りましたので投下します。
当初の予定は破綻し、戦闘決着は次回(第24話)まで続くことになってしまいました。申し訳ありません。
前半についても一部修正のうえ、pixivとハーメルンに挿絵付きで掲載いたします。
0072フェニックステイル第23話後編2016/05/28(土) 22:03:04.96ID:kcCFR1Uc
「ン……。いい加速、いい操艦、いい斉射だ。リドリー、また腕上げたねぇ」
 唯一生き残ったゲルググにバズーカから榴霰弾を放ち、後退させながらサブリナは微笑んだ。艦砲斉射の来た方向をちらりと見やる。
 遙かにデブリ群を貫き通した距離の彼方から、一隻のサラミス改級巡洋艦が急速に接近していた。
 宙域に漂う暗礁群をものともせず、時に外板で跳ね返しながら突き進む無骨な艨艟。その船足はアルマーズのそれに勝るとも劣らない。熟練の操舵は無骨な艦体を繊細に操り、大型デブリを確実に縫って戦闘宙域へと突入させていく。
 ゲルググと砲火を交わしながら、そのMS甲板上に立つ四機のジムUへサブリナは微笑んだ。
「マコト、下拵えはやっといたよ――そんじゃあと、ヨロシク」
 旧式の短銃型兵装ビーム・スプレーガンを構えた機体が、カタパルト上で前傾する。その背へ艦橋から艦長が呼びかけた。
『二機撃墜か――砲術、よくやった! 肝は冷えたが、飛ばしてきた甲斐があったな。マコト、頼むぞ!』
『ええ、いい操艦でしたリドリー。22より各機。我が隊はこれより前方戦場を引き継ぎ、僚艦アルマーズの離脱を掩護する。すでに敵支配宙域深部へ侵入しつつある。敵増援を警戒し、深追いは厳に避けよ』
『了解!』
 MS隊長の若い女が凛と命じれば、その後方でビームライフルを構えた二機と、ハイパーバズーカを構えた一機が唱和を返す。
『前方進路アンクリアド――22は先行するが、無理に追いつこうとはするな。後続は24の指揮で確実に三機編隊を保ち、適宜22を支援せよ。22、出る!』
 言うが早いか、サラミス改級巡洋艦の電磁カタパルトが火花を散らす。ジムUの機体を全力で前方宙域へ投射した。カタパルトで得られた初速にスラスターの噴射を加え、ジムUは漂流物の隙間を鮮やかにくぐり抜けていく。
『すごいっ……』
『よ、よぉしっ。シュン、クライネ伍長! お前らは俺に続けっ!!』
 後続を任されたパイロットが、緊張を殺しきれない調子で声を張り上げた。跳ね返るようにMS甲板を滑り戻ってきたカタパルトの下駄を履き、彼の機体も前傾する。
『戦闘宙域後方より、高速接近する熱源体六! ……いや、先頭の一機が速い? これは――』
 だが同時に艦橋から索敵手が叫んだ。隙なく敷かれた巡洋艦の対空監視 が敵影を捉えたのだ。
 ルスラン・フリートの増援第二波、六機。その先頭を切る機体が不意に編隊から突出した。そのまま凄まじい急加速を掛けて、上方から肉薄してくる。望遠を掛け、索敵手が息を呑んで叫んだ。
『機種照合完了、突出する先頭はMS-18E《ケンプファー》!』
『うげっ――特務機かよ!?』
 随伴するMS五機を置き去りにするように加速し、その重武装機は先のゲンナーにも劣らぬ高速で発艦した先頭機を狙った。
 MS-18E《ケンプファー》は一年戦争中に開発されたジオン公国軍MSの中では、破格の性能を有するMSだ。その基本スペックは今日の第一線機と比べてまったく遜色ないばかりか、いくつかの項目では勝ってすらいる。
 特に重要なのが推力だった。
 材料工学の面で決定的に地球連邦に劣ったジオン公国にとって、容積を制約されるMS用高出力ジェネレーターの開発は鬼門であった。それでも地球降下作戦によって得られた希少資源は、技術水準の底上げに大きく貢献した。
 その成果であり精華の一つが、ケンプファーに搭載された1550KW級主機である。この出力値は現在の連邦軍主力MSのほとんどを上回る。
 さらに同機で特筆されるのはその高出力の大半が、推力向上のために注がれていることだ。
 ビームサーベルを除き、ケンプファーはその武装にビーム兵器を採用していない。ビーム兵器の駆動時に生じる出力低下を嫌い、その全力をスラスター系の高出力運用に集中するためだ。
 代わりに過剰なまでの実体弾兵装が搭載されている。戦闘でそれらを消耗するほどに機体は身軽になり、ビームサーベルを使う頃には出力低下など問題にもならなくなっている。
 だからその機動力はゲンナーの駆る、ジムU規格で改良されたゲシュレイをも上回るのだ。
0073フェニックステイル第23話後編2016/05/28(土) 22:04:53.19ID:kcCFR1Uc
 ケンプファーは多くが練達のパイロットともに特務部隊へ配備され、少数機での浸透と後方強襲任務で活躍した。戦後混乱期の紆余曲折を経てルスラン・フリートへ流れ着いたこの機体とパイロットもまた、そんな元ジオン特務部隊の一員だった。
 実戦で磨き抜かれたその直感が、強者の気配を嗅ぎ分ける。彼はいま最優先で殲滅すべき目標を狙い、愛機に人体を擦り潰さんばかりの最大加速を維持させたまま突進させていく。必中の狙点で彼は叫んだ。
「もらったッ!!」
 背負い式のジャイアント・バズ二門、脚部のシュツルム・ファウスト二基が次々火を噴き、そして手中のショットガンがルナ・チタニウムコーティングの散弾を放った。
 標的はただ一機。
「遅い――」
 十分以上の機速に乗せて斉射された重爆撃は狙い過たず、単機で突出するジムUへ集中した。敵機はスプレーガンを構えて迎撃するような素振りを見せたが、その前に爆発の巨大な火球が連鎖して機影を呑み込む。
 少なくとも至近弾多数、そして間違いなく直撃の手応えもあった。もはや影すら残っていまい。
 ジム一機を葬り去るには明らかな過剰火力だったが、出し惜しむ選択など彼にはなかった。その戦闘嗅覚と思い切りの良さが、彼を今日まで生き残らせてきたのだから。
 だが敵機の反応は予想外に鈍かった。彼が感じた強者のプレッシャーは、何か別のものだったのだろうか。
 己の勘も鈍ったか――失望混じりに苦笑しながら、ケンプファーは広がる火球群の上を駆け抜けていく。続けざまにサラミス改から発進してくる後続のジムU隊を叩こうとしたとき、不意の衝撃が機体を揺らした。
「!?」
 薄れゆく爆炎を突き破って、ビーム・スプレーガンの短銃身が覗いていた。
 閃光の連射が煌めく。
 初弾でケンプファーの右腕が根本から吹き飛ぶ。胴体中心部への次弾は避けても、左のジャイアント・バズが融解する。
 咄嗟にパージした次の瞬間、バズーカは後方至近で爆ぜた。破片が薄い背面装甲を撃ち抜き、機体を激震させながら吹き飛ばす。残りの武装に誘爆しなかったのは恐ろしいほどの幸運だった。
「うッ――うおおおおおおッ!?」
 状況を理解できないまま離脱しながら、彼はその姿を目撃する。
 弾片に穿たれ炎熱に炙られた長六角形のシールドを構え、何事もなかったかのように平然と前進していくジムUを。
 その右腕だけをぐるりと回して、背越しに彼へ向けられていたビーム・スプレーガンの銃口を。
「バカなッ!!」
『各機、撃て』
 一気に変化した重量バランスを修正しながら、ケンプファーは後方から来るスプレーガンの連射を必死に回避する。だが、そこへ前方からも火線が来た。強力なビームと榴弾の炸裂が片腕の特務機へ集中、紙一重の射弾が装甲を削りフレームを焦がす。
 正面からジムU三機。サラミス改級巡洋艦から発艦した後続部隊だ。そうして前後から狙い撃ちにされれば、彼は半壊した機体を必死に立て直しながら再び全速を発揮して、今度はただ離脱していくよりなかった。
 スプレーガンはおろかビームライフルの有効射程からも迅速に離脱してのけた敵機に、四機編隊を率いるその女性隊長が舌打ちした。
『フム。まともに挟み込んでも落とせんとはな――奴はエースだ! 手強いぞ、各機警戒しろ!』
『りょ、了解っ』
『ハヤカワ准尉! すごい――何がどうしてこうなったのか全然分かりませんけど、さすがですっ!』
『いや、じゃあそのエースを手玉に取ってのけるアンタは一体何なんだよ……』
 ジムU三機が口々に答えながら、ビームスプレーガンを構えて先頭を行く隊長機の後方に付けた。そして編隊の上方からもジム・キャノンが隊長機に接近する。
『いやぁ、マコト。あんた相変わらずイヤラシイ『後の先』を取るねぇ』
『敵が焦って勝手に外しただけです。サブリナ、私は前に出ます。後ろの面倒を見ててください』
 そっけなく答えながら前衛に出るジムU一機と、合流したジム・キャノンに率いられる四機編隊。
 それら五機の後方にはサラミス改級巡洋艦が続いている。そうしてたちまち連邦軍の最大戦力と化しながら、サラミス改級駆逐艦との合流を目指してくるのだ。その部隊の圧力は絶大に過ぎた。
0074フェニックステイル第23話後編2016/05/28(土) 22:06:16.04ID:kcCFR1Uc
 それら五機と一隻の行く手で駆逐艦の部隊と交戦していた、ルスラン・フリートと大ジオン仏道の三機からも、その状況は確認できていた。
『そんな、嘘っ――マグリット曹長のケンプファーが、強襲斉射を外した!?』
『返り討ちに遭うなど、無様な――あれで特務などとよく言えるッ!』
 ケンプファーのパイロットを知るリック・ドムの少女が愕然と呟き、強力な機体を操っていながら不甲斐なく退けられた味方にゲルググのエレインが怒気を吐く。
『――ビーム、……スプレーガン……?』
 そしてザク・ファドランのミリアムは、ひとりその目を見開いていた。
 新たな敵MS編隊の先頭を悠然と来る一機に、その機体が手にした旧式武装に、彼女はモノアイから最大望遠を掛けたまま硬直している。
 記憶の奥底に潜んでいた、決して消えない影が蠢く。
 ミリアムは震える声で賢明に、何かを搾り出そうとするかのように呻いた。
『あ、……あいつ、は……あいつは……っ……!!』
『妖怪変化ッ!!』
 そのとき少女の絶叫とともに、ミリアムの前方で機影が走った。
 ゲルググ。合流目指して後退途中だったフローラ・イアハート信女の機体が、再び加速していた。そのジムUの進路を阻むように躍り掛かっていく。
『下がりなさいフローラ! ここは増援第二波とともに戦力を結集し、再び一丸となって当たるのです!』
『いいえ姉様! あれは――あの敵は、尋常ではありません! 私には分かります、あの邪悪こそ仏敵天魔……この世から、必ず除かねばならぬものです!!』
 絶叫しながらフローラ機がビームライフルの照準を合わせた。漂流するデブリの隙間から射線を選び、絶叫とともにトリガーを引き絞る。
『悪霊退散、――南無阿弥陀仏ッ!!』
 センサー有効範囲外への長距離精密狙撃すら当ててのけるのがフローラだ。そして狙われたジムUはまともな回避機動すら取ろうとしていない。
 必中の確信とともにビームを放ちながら、彼女はなお駄目押しの第二射、第三射を重ねた。微細なデブリが幾重もの光軸に焼かれ、戦闘空域に閃光が煌めく。
 彼女が狙いすまして撃ち放ったビームのすべてに、間違えようのない確かな直撃の手応えがあった。
 ジムUは何事もなかったかのように光弾の隙間を抜けた。
 一発の被弾もなく、ただ緩やかに加速してくる。その短銃身が不気味に揺れた。
 スプレーガンが射弾を放つ。連射。中距離を超えて飛んだ低出力の低収束ビームは、ゲルググに命中してもシールド表面に弾けるだけだ。
 しかし続けざまにゲルググの機体表面で拡散したビームの飛沫は、シールドの脇から出ていたビームライフルの銃身を次々に蝕む。
 まさにフローラが発砲しようとしていた次弾のメガ粒子が、加速途中で銃身とそのIフィールドを破られて溢れた。
 暴発。
『アウッ!?』
 ビームライフルの爆発がゲルググの機体を叩き、激震させる。風穴が開いたままのコクピット内へはそれでも破片を入れずに済んだ。
 だが肩を蹴飛ばされたように崩れたゲルググの真っ白になった視界が回復したとき、ジムUは今までの動きが嘘のような急加速で肉薄していた。近距離からビームスプレーガンが指向される。
 有効射程内。
 ジムUの無表情なゴーグル・アイが、スプレーガンの丸い銃口が、フローラの魂を射貫く。念仏を唱える間はない。
 だが発砲直前、二機の間に影が走った。先のケンプファーをも超える高速で割り込む。
 戦闘空域を縦横無尽に機動しながら、ジム・コマンドとの巴戦を繰り広げていたゲルググだった。ジム・コマンドの背中を狙った増援第二波の掩護を受けて、格闘戦から離脱しながら進路上へと勢いのまま、出力最大のビーム・ナギナタを構えて突入してきたのだ。
 その猛烈な突撃をジムUはサーベルひとつで受けきった。ビームの飛沫と火花が飛び散る。それでも激突の勢いは殺しきれず、絡んだ二機は鍔迫り合いのまま転げるように流れ去っていく。接触回路を言葉が伝った。
『これは居士殿、お初にお目に。聞けば先日、部下がずいぶんお世話になったようで』
『先日の修羅道……そのおぞましき力、もはや人の業ではあるまい。人を捨てながら化生し、悪鬼羅刹と成り果てたか!』
『さあて。なんのことやら――』
 女の唇が笑みに歪む。
 ゲオルグ・ラインダース居士とマコト・ハヤカワ准尉は互いの光刃を切り結びながら、ゲルググのモノアイとジムUのゴーグル越しに睨み合った。
0077名無しさん@ピンキー2016/06/06(月) 22:45:34.87ID:o0GF9OET
ルールカの髪コキssください!
0078名無しさん@ピンキー2016/06/06(月) 22:49:24.95ID:o0GF9OET
ノーベルガンダムかルイスかポケットの中の戦争のクリスのどちらかによる髪コキご奉仕ssください
0080名無しさん@ピンキー2016/06/06(月) 23:38:13.43ID:o0GF9OET
うるせぇ、書いてくれねぇんだよ
0083名無しさん@ピンキー2016/06/08(水) 06:56:49.53ID:UKYHqKlZ
国民よ立て!妄想を執筆力に変えて、立てよ国民!
このスレは諸君等の力を欲しているのだ。
ジーク・ジオン!!
0087名無しさん@ピンキー2016/06/08(水) 13:08:38.04ID:6Iza8oGE
ずっと書き続けられる根気に敬服します


77 :

名無しさん@ピンキー

2016/06/06(月) 22:45:34.87 ID:o0GF9OET

ルールカの髪コキssください!


78 :

名無しさん@ピンキー

2016/06/06(月) 22:49:24.95 ID:o0GF9OET

ノーベルガンダムかルイスかポケットの中の戦争のクリスのどちらかによる髪コキご奉仕ssください
0088名無しさん@ピンキー2016/06/08(水) 21:45:56.12ID:4hK/znqQ
感想は無いがクレクレだけは立派
書き手に薦められるスレッドでは無い罠
0090名無しさん@ピンキー2016/06/09(木) 02:00:32.61ID:ZOe4799U
ルールカの髪コキで……
0092名無しさん@ピンキー2016/06/09(木) 04:30:05.86ID:ZOe4799U
誰も書いてくれないからさ……!じゃあ髪の毛で尿道攻めされるのでいいよ!
0094名無しさん@ピンキー2016/06/09(木) 07:29:12.94ID:ZOe4799U
自分のかいたやつで抜けるか?無理だわ
0096名無しさん@ピンキー2016/06/09(木) 18:04:35.28ID:zAUjphfd
髪コキSS
0097名無しさん@ピンキー2016/06/13(月) 01:08:26.13ID:dCkeeXiq
ISAPとゴミクズ信者がスレ占拠してた時から
ここにはクレクレしかいなかったゾ
0098名無しさん@ピンキー2016/06/13(月) 02:22:56.34ID:wyRjSbKq
髪コキルールカ
0100名無しさん@ピンキー2016/06/17(金) 21:00:00.94ID:CODCfN+O
あきらめろ
誰も書いてくれんよ
今季の萌えアニメとかの方がまだ可能性がありそうだ
おねだりするならそんなスレ探せ
0101名無しさん@ピンキー2016/06/18(土) 09:43:02.20ID:JRcWGJn9
正直ここのSSより髪コキ基地の方がずっとか面白いからもっとやれ
0102名無しさん@ピンキー2016/06/21(火) 09:17:18.68ID:CRlDJlo7
ルー・ルカとルイス・ハレヴィの髪オナホ髪コキご奉仕がみたいんじゃ…集団でおかされる時に髪コキを少しいれるのじゃなくて1から十まで髪コキでおかされたい!!!!
0104名無しさん@ピンキー2016/08/02(火) 03:55:14.55ID:jw+iC6Wg
そういうことにしていいからさっさと髪コキSS書いてください
0105フェニックステイル第24話投下準備2016/08/19(金) 17:53:39.02ID:7Y/xRrpy
三ヶ月ぶりですが、投下します。
二万文字を超えてしまいました。10レス以上になると思います。
一回で投下しきれるか分かりませんが、行けるところまで行ってみます。

申し訳ありませんが、今回も直接的なエロはありません。
第二章はようやく今回で完結となります。
0106フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 17:54:12.96ID:7Y/xRrpy
 ――もしビーム・スプレーガンを構えた旧式のジムが、L1の暗礁宙域に現れたら。
 決して見るな、寄るな、戦うな。
 その影はルウムの悪霊。ジオンの核に焼かれた二十億の怨念の権化。
 触れてはならない。
 触れたが最後、地獄の底まで引きずり込まれる。
 挑んではならない。
 冥府の使いに生者の剣など通りはしない。
 奴を倒せるとすれば、それは、おそらく――
0107フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 17:55:48.97ID:TUHK44fz
 暗礁の宇宙に二条の光がもつれ合う。絡まる度に火花が爆ぜる。
 推進の噴焔を曳いてビームサーベルとナギナタの光刃を打ち合い、メガ粒子の干渉波を撒き散らしていくのは二機のMS。
 RGM-79GSR《ゲシュレイ》とMS-14A《ゲルググ》は、暗礁宙域に鮮烈な軌跡を曳きながら互いに激しく絡み合う。彼我の斬撃で飛び散るメガ粒子とともに、オープン回線から男の心底楽しげな哄笑が弾けていた。
『ハアァッハハハァァァアアアッッ!! いいねェ! やるねぇ! 楽しいじゃねぇかッ、坊さんよォ!!』
『否、拙者は居士。僧籍に非ず――凡俗たる不浄の身より、宇宙に仏道を求める者』
『こまけぇこたァいいんだよ!』
 残された唯一の武装であるビームナギナタを縦横に駆使して、片腕を失ったゲルググは執拗にゲシュレイへ絡みつく。隻腕のゲルググはむしろ軽くなったとでも言わんばかりに高機動を見せつけており、傍目にその攻防は互角に見える。
 だが二刀構えで躍るゲンナーはその実、懐にまだビームガンを残していた。ゲシュレイは連邦系MSの定番兵装たる頭部バルカン砲を廃した機体ではあるが、それでも距離を開かれればその瞬間に勝負は決する。
 食らいつくゲルググを前に、あくまで主導権はゲシュレイの側が握っていた。
『最高だなオイ! オープン回線で垂れ流してたさっきの説教、良かったぜぇ。感動した! やっぱりジオンの残党ってのは、アンタみたいな風でなくっちゃいけねぇ!』
 アジテータに魅せられた狂信者の熱量で、剣戟の隙間からゲンナーは吠える。殺戮への最短距離を走る無駄のない光刃とともに。
『てめぇんとこ以外のスペースノイドはサクッと五十億殺してのけて、ドンとでっかく胸を張る! そう男前に割り切れてこそ、ジオンの武人様って奴だ!』
『南無阿弥陀仏。ジオンの核は清浄再生の聖火。宇宙衆生たるべき道を外した五十億の連邦亡者を現世の妄執から解き放ち、新たな人の世の礎を宇宙に築いたが我らの功徳』
『そうそう、それそれ。それだよ、それ――それが聞きたかったんだよォ!』
 互いの肉体を締め上げ続ける超10G級の加速度ごと、ゲンナーはひどく楽しげに笑い飛ばした。純粋な歓喜と賛意とともに、清廉な殺意が二条の光刃に宿って迫る。それをナギナタの両刃で同時に捌きながら、ゲオルグはただ平静なまま反撃の糸口を探していた。
『――なのに最近の残党どもと来たら、コロッと急に言うこと変えてよ。全スペースノイド解放の大義がどうのこうのとほざきやがる。ガッカリだぜ。
 違うだろと。そうじゃねえだろと。お前んとこが救うのは、ジオンの選民様だけだったろぉ? せっかく成し遂げた皆殺しのデッカイ偉業を、そんなに忘れちまいたいのかねぇ』
『我らは忘れぬ』
『――ホ?』
『ジオン勝利に不可欠の礎となった、ルウム二十億柱の無縁仏。その完全成仏を祈りつつ――その入寂を無駄ならしめぬ、宇宙浄土の新たな礎を築かんがため。我ら、大ジオン仏道はここに在る』
『いいね』
 にい、とゲンナーは心底嬉しそうに笑う。
『いいね、アンタ。本当に、いい……アンタみたいな奴と戦りたい、ってな。俺ァ、ずーっと思ってたんだ……だから――もっと来いよ! 前に来て戯れろよ。楽しいお遊戯タイムにしようぜェ!』
『!』
 だがそのとき、後方宙域を閃光の束が押し貫いた。
 デブリを焼き尽くして走る、メガ粒子の奔流――それは巡洋艦の艦砲斉射だ。呑まれたリック・ドム二機が爆光を広げる。
 その猛火力を放ちながら現れた新手のサラミス改級巡洋艦は、MS甲板から次々とカタパルトでジムUを発艦させてくる。先陣を切った機体は一際目立つ加速で、交戦中の友軍駆逐艦を目指す最短経路を驀進してきた。
 戦闘宙域へと接近しつつあったルスラン・フリートの増援MS隊第二波から、MS-18E《ケンプファー》がそこへ急加速で突出する。その重武装をもって新たな連邦軍増援部隊の出足を叩かんと、スラスターも焼けよと言わんばかりの超10G級高加速を維持しながら迫っていく。
『……修羅道!』
 だがゲオルグは元ジオン特務部隊員による迎撃の結果を見るまでもなく、光刃越しにゲシュレイへ強烈な当たりを掛けた。高速機動する二人の隙間へ大型デブリが割り込むや、ゲオルグは全出力で弾けるように離脱していく。
『ああ!? なんだよオイ、お前もマコトが気になんのか!? ――畜生、袖にされちまったか。しゃあねぇ――』
 そして敵機に見捨てられたゲンナーは、もはや逆上してその背を追いすがるでも、強敵たちに狙われた旧友を助けようとするでもなく、ただ前進経路上の獲物を睨んだ。唇を嘗める。
 依然として後退中の偽装貨物船《ケンドー丸》。壮絶な高機動戦闘を展開しながら、ゲンナーはその艦尾を捉えられる間合いにまで迫っていたのだ。
0108フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 17:57:18.90ID:VAm8hTU+
「じゃ、気ィ取り直してこっち喰うか」
 ビームサーベルを腰のラックに戻し、ゲシュレイの標準射撃兵装であるBG-M79Rビームガンに持ち替える。
 それはマコトの愛用するビームスプレーガン改同様、一年戦争時の旧式ビーム兵器の改良型だ。
 BR-S85のような中距離戦闘には対応し切れていないが、ビームの長時間照射――ギロチン・バーストと呼ぶ者もいる――が可能という特性を有している。つまり『撃ち抜く』のではなく『切り裂く』運用が可能だった。
 BG-M79は《P-04》でゲシュレイとともに近代化改修を受ける前の一年戦争モデルでさえ、MA-05《ビグロ》の重厚堅牢な巨体を一射で爆散させるだけの破壊力を実証している。
 ましてゲンナーの手に掛かれば、コロンブス級輸送艦などひとたまりもない。
 ビームガンが狙うその甲板が光ったと思う間もなく、巡洋艦の主砲クラスの火線がゲシュレイの影を薙ぎ消す。
 コロンブス艦上で密かに射点を変えていたビーム・バズーカから、不意急襲で放たれた数秒の照射。巧みな照準と絶好のタイミングで照準点近傍を薙ぎ払った死の光線は、肉薄する敵機を確実に蒸発させるはずだった。
「惜しい」
 だがゲンナーは己の勘に従うまま見透かしたような機動で、あっさりとビーム狙撃を外していた。
 ビーム・バズーカほどの大出力火器、それも長時間照射のあとで第二射はすぐに出せない。火点も知れた。その前に撃沈できる。
 レティクルの中へと見る間に大きく迫る敵艦に向けて、ゲンナーは唇を舐める。だがビームガンのトリガーを引こうとした瞬間、その眼前へ曳光弾の火線が走った。
『ニュータイプを守れッ!!』
 MS-09R《リック・ドム》を輸送してきた後、離脱するケンドー丸の後衛に付いていた《コムサイ改》級哨戒艇だった。
 二隻。数門の機銃からあらん限りの火線を放ち、体当たりも辞さずの勢いでゲシュレイの行く手を阻まんと肉薄してくる。
『落ちろォッ!!』
 艇首部のミサイル・ランチャーが火を噴く。ゲシュレイの軌跡へ覆い被さるように、盛大な火箭の雨が降り注ぐ。
 コムサイ改二隻分の全弾斉射が巨大な爆炎の連鎖を広げ、二隻はそれを掠めるような急旋回で離脱に入った。
0109フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 17:57:31.69ID:n/2EeV3O
『や、やった――ゲブ!』
 ゲシュレイの蹴り足が真上から、コムサイ改の艇首ブリッジ部を踏み潰した。
 艇内格納庫にMS二機を呑んで余りある巨体を蹴撃ひとつで沈めつつ、哨戒艇を踏み台にした全力噴射でゲシュレイが跳ねる。
『ひッ――』
 迷いのない機動は一瞬にして、後続のもう一隻へ深々と突き刺さっていた。薄い甲板を踏み抜かないよう、艇体構造のもっとも強固な部分を狙って蹴り足を突き入れる。
 そして跳び去るゲシュレイから真後ろに二条の光軸が走ると、二隻のコムサイ改は揃って心臓部を貫かれ、巨大な火球と化して爆散した。いずれの艇からも、乗員の脱出は皆無だった。
「はッ。艇でMSを殺ろうってんなら、もっと覚悟が無ェとなァ」
 飛び石にした二隻のコムサイ改を一瞬で爆沈させ、ゲンナーはもはや目前に迫った偽装貨物船の後ろ姿へと再び狙いを定める。
「俺がパブリクでザクを狩るときはそうやってた」
 プチモビに操作される甲板上のビーム・バズーカは再充填しつつ、なお鎌首をもたげて狙い返してきている。
 そして見れば甲板上には、他にもプチモビの群がわらわらと現れていた。不相応に巨大なザクマシンガンやシュツルム・ファウストを構え、必死の防御射撃を仕掛けてくる。
 だがゲンナーには、そんな急拵えの対空砲もどきなど眼中にもない。ろくに定まりもしない120ミリの弾道が軽妙な機動の間近を掠めていっても、冷たい瞳でつまらなさそうに、ふん、と鼻を鳴らすだけだ。
「ダメだ。不味ィ。さっきのゲルググ坊主は良かったのに、ジオンの残党も『天然』モンはめっきり味が落ちちまった。やっぱここは真面目に本腰入れて、俺が『養殖』してやらねェとダメか――ほッ!」
 だからゲシュレイの鼻先へと曳光弾が降り注いできたとき、その正確な火線を紙一重で回避したゲンナーは心底嬉しげな表情を浮かべたのだった。
 逆落としに迫りくるのはMS-06FZ《ザク改》の二機編隊。ルスラン・フリート増援第二波の一翼だった。
 片やMMP-80型ザクマシンガンから高初速の90ミリ弾を放ち、その精確な射線でゲンナーの高機動にも追従して巧みに牽制。そして片や長柄のヒートホークを振りかぶり、デブリの合間から絶妙の死角を縫いながら切りかかってくる。
 迷いのない操縦にはいずれも手練の気迫がある。先ほど突出して無謀にも単機でマコト・ハヤカワ准尉機へ挑み、それでも半壊しただけで生き残るという凄腕を見せつけたケンプファーの僚機と見えた。
「なんだよオイ――今度はお前らが遊んでくれんのか? ククッ――世の中、まだまだ捨てたモンじゃねぇなァ」
 口角を釣り上げ、ゲンナーは蕩けるような至福の笑みを浮かべた。シールドを向けるや裏面懸架の《クラブ》が噴炎を曳いて飛翔し、牽制の初弾が敵機前方のデブリを砕く。
 広がる巨大な爆煙を抜いたゲシュレイは立ちふさがるザク改と激突、光刃と熱刃が激しい火花を撒き散らした。
0110フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 17:59:13.46ID:l07QpwzP
 ジムUとゲルググ、両機の眼前でビーム刃が飛沫を散らす。突撃したゲルググが機体ごと叩きつけた巨大な慣性のままに二機は流れて、二隻のサラミス改級をつなぐ線上から外れていく。
 ゲルググは鍔競り合いの逆刃でジムUを斬ろうと、ジムUは頭部バルカン砲と左手のスプレーガンでゲルググを打ち砕かんと、光刃の接点を支点にしながら互いに激しく格闘する。
 最初にそのジムUへの迎撃を試みたのは、フローラ・イアハート信女だった。
 だが彼女が必殺を確信して放った狙撃のすべては、突出したジムU先頭機を一弾として捉えることなく、すべて理不尽に回避された。あまつさえビームスプレーガンの応射でビームライフルを爆破されている。
 瞬時に間合いを詰められて今度は自身の機体そのものを撃墜される寸前、光刃ひとつの突貫で彼女の危地を救ったのがゲオルグだった。揉み合うように転げる二機が遠ざかっていく。
『ゲオルグ居士ッ!!』
 葉型シールドの裏側に残されたビーム・ナギナタを抜き、フローラはそれでも加勢せんと急行する。だがさらなる高速で後方から迫ったエレイン機が、彼女にビームライフルを投げ渡しながら抜き去っていった。
『フローラ、あなたがこれを使いなさい!』
『姉様!?』
 言うや同時にビーム・ナガマキを構え、ライフル・モードでエレインは撃った。
 ナガマキは多目的ビーム兵器だ。本来のビームライフルほどの精度や威力は期待できないが、それでも敵機の周辺を光軸が掠めていけば、こちらの存在は見せつけられる。
 だが狙われたジムUはゲオルグと繰り広げる格闘戦の中から文字通りの片手間に、エレインへスプレーガンの曲撃ちを返してのけた。三連射。
『ぐうっ――!』
 鋭敏な回避機動で二発はかろうじて外したが、一発が直撃してエレイン機から肩部装甲を弾き飛ばす。
 致命傷ではなかった。しかしあの状況から当ててくるなど、もはや人間業ではあり得ない。
 それでもエレインは沸騰する感情のまま、怯むことなく突進を継続した。
『連邦の雌がっ、汚らわしい手で居士様に触れるなあああっ!!』
 絶叫しながらナガマキを白兵戦モードに戻し、長大なビーム刃を発生させて斬りかかる。
 絡み合うゲルググとジムUがようやく離れた。ジムUが抜け目なく放ったバルカン砲の射弾がゲオルグ機に絡み、数発が装甲を穿つ。
 だが、今なら――この二機が同時に挑みかかれば、相手がこのジムUだろうと斬り伏せられる!
『ぐっ!』
 しかしエレインが挑む直前、その上方から射弾の雨が降り注いだ。ビームライフルと榴霰弾による制圧射撃。単機でフローラを翻弄してのけた手練のジム・キャノンに率いられて迫り来る、ジムU小隊の後続部隊だ。
『姉様に触れるなッ!!』
 フローラが猛然とビームライフルで応射するが、一対四、これほどまでの火力差はいかんともしがたい。あっさりと撃ち負け、ただ回避一辺倒へと押しこまれてしまう。
 だが多勢に無勢で渡り合おうとした彼女が完全に突き崩される直前、連邦後続部隊の脇腹へと増援第二派の残余が切りかかっていた。
 MS-21C《ドラッツェ》三機が、右腕部固定式の40ミリ機関砲を乱射しながら挑みかかる。
 高速機動のまま左腕補助ジェネレータが唸ってビームサーベルを展開、迎撃の光刃を広げるジムUと切り結んでは一撃離脱に転じていく。
『い、今の爆発……コムサイの――みんなのいる、方向――』
『よそ見してんな! 目の前の敵と戦えバカッ!!』
 そしてエレインがいきなり抜けた駆逐艦正面では、残されたザクUとリック・ドムがなお必死の防御戦闘を展開していた。二丁のザクマシンガンが展開する必死の弾幕が、なお執拗に追撃してくる二機のジムUをかろうじて遠ざけている。
 だがエレイン機が勝手に転進した今、自分たちだけでこの二機と一隻は止められない。サラミス改のメガ粒子砲からも狙撃されている。とうに限界は超えていた。
 ミリアム・バーレット少尉は新兵らしき少女パイロットが操る最後のリック・ドムを従えながら、一気に後退を決断した。
『後ろの味方と合流する! 下がるよッ!!』
『はっ、はいいッ!!』
 ミリアム機が敵機へ向けてハンド・グレネードを投擲するや、彼我の中間で巨大な閃光が広げる。照明弾。ティアーナ能力解放戦闘に備えた、非致死性兵装の残弾だった。
『離脱ッ!!』
 二機はそのまま転げるように距離を開いた。加速維持時間に勝るリック・ドムが、ファドランの前方を先行していく。
0111フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 18:00:16.94ID:W7dWymBk
「……ルウムの、亡霊――」
 ミリアムは震えるほどにきつく歯噛みしつつ、大ジオン仏道のゲルググ三機と連携出来る位置まで下がった。
 周囲を見れば無謀にも『奴』へ挑戦し、半壊しながらもかろうじて生き残ったケンプファーも、ようやく長経旋回を終えていた。こちらへ合流の動きを見せている。
「いやぁ。凄いよ、アンタ――奴とやり合って生き残れるなんて、大したモンだ」
 かつて彼の所属したジオン特務部隊とは、ニュータイプ部隊もかくやの凄腕集団だったというのは事実らしい――強ばる表情でミリアムは笑った。
 迫る敵MS隊の後続に対してフローラ機が散発的な射撃戦を展開しつつ、もはや格闘戦能力のみとなったゲオルグとエレインの二機が突撃の機会を窺う。
 そして三機のドラッツェと半壊したケンプファーが一撃離脱の機会を探る中へと、ミリアムたちのザクUとリック・ドムも合流した。
 これでジオン側は、ほぼ全戦力の集結を完了した。
 だが、それは敵も同じことだ。
 前方からは血に飢えた二機のジムと駆逐艦が迫り、後方からは『奴』を含む五機のジムと巡洋艦が押してくる。
 数の優位はもはや無く、そして今や勢いすらも呑まれようとしている。
「――帰れない、か……?」
 ミリアムはヘルメットの内側で一人ごちる。遙かな彼方を睨めば、やはり異常な戦技を見せつけたジム・コマンドに追撃された母艦の後方で、ザク改と思しき二機の機影が果敢に応戦する火線と光条が見えた。
 あの連中も特務の凄腕らしいと聞いている。あちらは何とかなるだろう――最悪でも、次の増援が到着するまで持ちこたえてくれればそれでいい。
 だが、こちらはもう分からない。
 このまま敵MS隊を突破できなければ、戦闘艦二隻に支援された圧倒的に優勢な火力のもと、一方的ななぶり殺しに遭うだけだ。
 何よりも――敵にはあの『亡霊』がいるのだから。
『助かったよ、マコト』
『リン、ネイサンのことは残念でした』
 執拗に食い下がる三機のゲルググを火力で押し退け、ついに合流を果たした二機のジムUが背中を合わせた。スプレーガンとジムライフルが互いの死角を補い、隙を狙って突撃を試みる敵MS隊を威圧する。頭部を失ったままのシエル機が脇を固めた。
『敵さん、ずいぶんいい感じにまとまってきてくれたねぇ――あと一揉みで、跡形もなくせる』
『いいえ。リン、十二時の鐘が鳴りました。シンデレラは帰る時間です』
 マコトが口にした瞬間。互いに逆方を向いたビームスプレーガンとジムライフルの間に、見えない殺気が走り抜けた。
『……あっはっは。どしたのマコト? ずいぶん変わったこと言うねぇ……これだけ大歓迎してくれてる敵さん放っぽって、このままスタコラ帰ろうっての? 私ね。両親から、客人への返礼は倍返しにして差し上げろ、って教わったの』
『リン。連中はあれだけバカスカ照明弾をバラ撒きました。あの異常な閃光の連鎖が今、そこいらじゅうから敵をうようよと引き寄せています。ここはもう、敵さんのお城の中――客人は私たちの方です。長く留まれば留まるほど、私たちの不利になるだけです』
 今や指呼の間にまで迫った僚艦トラキアが、アルマーズとの合流を目前にして旋回機動へ入った。
 なお猛攻するケンプファーとドラッツェ編隊を、自艦の対空砲火とサブリナ率いる直掩MS隊で巧みに押し退けている。
 そしてトラキアは減速から反転へ、元来た経路の撤退を目指していく。すでに撤退軌道に乗っていた、アルマーズを先導するように。
『カボチャの馬車も到着です。舞踏会はお終いですよ』
『……ふぅん、そっか。でもね、マコト――王子様と意地悪姉妹は、まだ帰したくないってさ!』
『!』
0112フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 18:00:54.02ID:QgB+2Ywk
『降魔!』
『調伏ッ!!』
 再び編隊を整えた三機のゲルググが突入してくる。ビームナギナタと何か槍状のビーム兵器をかざした二機が突撃、そして後方から一機がライフルで狙撃。研ぎ澄まされた連携攻撃が二機のジムUを狙う。
 それは連邦軍が完全に合流し、相互支援の防御火網が完成する直前を狙った賭けだった。
 果断ではある。だが一歩間違えれば連邦軍に完全に包囲され、一方的に撃滅されかねない。大ジオン仏道はそれだけの気迫をもって、マコト・ハヤカワを狙っていた。
 彼らは見抜いたのだ。今この瞬間を逃しては、もはや彼女を倒せる機会は永遠に失われると。
「大ジオン仏道、――あいつらなら、ひょっとして――」
 そして一瞬の逡巡の後、ミリアム・バーレットも意を決する。
『ついてきな!』
『バーレット少尉!?』
『坊主どもを掩護するよッ!』
 傷ついた機体を虚空に跳躍させるや、ミリアムはザクマシンガンを構えて突進した。
 ジムライフルと首なしのジムUは、猛攻するイアハート姉妹がかろうじて抑え込んでいる。もう一機、スプレーガンを構えたジムUにゲオルグが挑んでいた。
 そしてミリアムは大ジオン仏道とは別方向からスプレーガンのジムUを狙い、銃口から迸る火線の雨を被せた。わけも分からぬまま、リック・ドムの少女もそれに続く。
 己の内から沸き上がる、出所の知れぬ確信とともにミリアムは叫んだ。
『スプレーガンのジムを撃てッ! 今この機を逃せば、もう永遠に奴は討てないッ!!』
「少尉、――何を言って……!?」
 二門のザクマシンガンがマコトを狙う。応射しながら回避運動するジムUのシールドに、120ミリ弾が火花と跳ねた。同時に二方向三機から執拗に狙われ、さしもの『スプレーガン持ち』も動きが乱れた――そう見えた。
 突撃するザクとリック・ドムの行く手に光軸が走り、二機に回避機動を強要する。だが直撃は出来ず、その行き足は止まらない。
『うおおおおおっ!? なんかマコッちゃんがヤベェぞオイ!』
『ハヤカワ准尉!!』
『ちいいっ――あいつら、捨て身かっ!』
 連邦軍による包囲殲滅のリスクを完全に無視した、ジオン残党軍五機の強引な突撃はトラキアMS隊主力からも見えていた。
 だがサブリナがR4ライフルで牽制の長距離狙撃を放つ他に、有意な支援はまったく出来ていない。執拗に波状攻撃を仕掛けるドラッツェとケンプファーが、彼らの行く手を阻んでいるのだ。
『こんちくしょう――このハエどもがあっ!!』
 次々に一撃離脱を仕掛けてくるドラッツェの三機編隊へビームライフルの短連射を放ちながら、ロブ・サントス伍長は絶叫した。
 脚部を大型プロペラントタンク兼推進器に改造したドラッツェは、AMBAC能力と射撃時の安定性こそ低いが、直線加速と継戦性では群を抜く。
 不安定な40ミリ機銃も近距離戦では馬鹿には出来ない。ロブとアイネが放つビーム、シュンが撃ち放つ榴霰弾も抜いて必死に食らいつくドラッツェは、彼らの陣容を喰い破れずとも大いに掻き乱していた。
 そして生じた綻びに、稲妻にも似た機影が迫る。
『うっ――うおわあああぁっっ!!』
 群青隻腕の一角鬼――ケンプファーだった。
 火力はすでに本来の数分の一まで低下し、残る兵装は背部ジャイアント・バズ一門とビームサーベルのみ。
 だが武装の大半と片腕を捨てた身軽な機体は、パイロットをすり潰すような超高加速からその光刃を閃かせた。
『ひあ!?』
『サントス伍長が抜かれたっ!? ミケリヤ少尉!!』
 ロブ機のシールドを半分に寸断しながら、ケンプファーは一気に前衛を突破する。頭部60ミリの射線に追われながらも、背部ジャイアント・バズを後衛のジム・キャノンへ放った。
 至近で爆ぜた榴弾片がR4ライフルを穿ち、ジム・キャノンの機体を揺るがす。猪突するケンプファーがそのまま重武装の機体へとどめの斬撃を振り下ろすと、火花の雨が宇宙に弾けた。
0113フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 18:01:44.93ID:QgB+2Ywk
『ッ!?』
『――惜しい』
 ハイザック用の小型シールドを装備した左前腕部から、ジム・キャノンは光刃を展開していた。
 ボックス型ビームサーベル。かつてRGM-79SC《ジム・スナイパーカスタム》が前腕に固定装備していたそれを、サブリナ機は近接防御用に移植していた。
 そして至近で膠着した二機が、互いの頭部60ミリバルカン砲を開いたのは同時。
 足を止めながら撃ち合うなら、軽装甲のケンプファーがジム・キャノンに勝てる道理などない。ケンプファーは機体のそこかしこを貫通されながら、不自由な機体に残る推力を振り絞って必死に離脱していく。
『やるじゃないのよ、特務さん――』
 だが笑うサブリナのジム・キャノンもまた、火器の過半を打撃されていた。
 R4ライフルにはジャイアント・バズからの弾片が食い込み、肩部固定式キャノン砲もバルカン砲に砲身を抉られた。バルカン砲とビームサーベルを除き、もはや中距離火力のバルザック式バズーカしか残っていない。
 彼我入り乱れる格闘戦への精密狙撃は、事実上これで封じられた。ケンプファーは作戦目的を達成したのだ。
『墜ちろッ、化け物ォォォ!!』
 そしてサーベルとナギナタがメガ粒子の干渉波を散らす中心へ、ミリアムは銃身も焼けよと連射しながら突進していく。
 ゲオルグともみ合う敵機からビームスプレーガンがぱっと煌めき、後続する少女のリック・ドムがザクマシンガンを吹き飛ばされた。弾倉の残弾が誘爆して機体を揺らす。
『きゃあああっ!?』
『構うなッ、サーベル抜けぇッ! あたしが奴に組み付いて動きを止める、いいか、確実にあたしごと奴を叩き斬れッ!! ゲルググ坊主も巻き添えにして構わん!!』
『ひっ――りょ、了解っ……』
 自機にもヒートホークの柄に手を掛けさせながら、ミリアムは喚いた。気迫に少女が色を失う。
 たとえ三機がかりでも、奴と斬り合ってまともに勝てるとは思えなかった。だが体当たりを仕掛け、動きを止めることぐらいは出来るはずだ。
 敵は超絶の神業さえも鼻であざ笑う幽鬼の女王。生身の人間が打ち勝つ術など、捨て身以外にはあり得なかった。
 ファドランがヒートホークを、リック・ドムがヒートサーベルを抜く。ミリアムは右肩部シールドを前面に出してスプレーガンからの狙撃に備えながら、渾身の斬撃へ向けて流体パルスに溜めを作った。
 ゲオルグはなお互角の攻防を展開している。イアハート姉妹も駆逐艦のMS隊を抑えていた。
 神機天佑。
 神仏を信じないミリアムがそう思った。今なら奴と、差し違えられる――ミリアムの表情に、涙混じりの奇妙な笑みが浮かぶ。
『大ジオン仏道ッ! 私のことを、覚えているかぁっ!!』
 そのときオープン回線に、少女の頓狂な叫びが響いた。
 ドラッツェ隊がなお激しく斬りかかる乱戦を抜いた、ジムUの一機からだ。
 なお濃厚なミノフスキー粒子に遮られて、その絶叫は決して遠くまで届かない。それでも戦場に生じた一瞬の空白を抜いたその機体は、まっすぐにゲルググの一機を――指揮官用通信ブレードを頭部に立てた隻腕の機体を目指して突進してくる。
 ジムUが続けざまに数発放ったビームライフルの光弾は、ミリアムたちの突撃を妨害した。格闘兵装の二機はただ旋回を強要され、そして開いた空間へとそのジムUは突撃してくる。
『この、声は――』
 今まで決して鈍ることの無かったゲオルグの動きが、そのとき初めて俄に揺らいだ。
『――クライネ伍長?』
 マコトが解けるようにゲオルグからの距離を開き、彼女の背を突くように迫ろうとしていたザクとリック・ドムに真正面から向き直る。
 アイネはそのままビームサーベルを抜き放って突撃、ゲルググのナギナタに受け止められた。
『忘れているなら教えてやるっ。私はこの前お前たちが襲って皆殺しにした巡洋艦、《アバリス》隊最後の生き残りだ!』
『な』
 そして、ゲオルグも忘れていなかった。
0114フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 18:02:25.55ID:wpM8RZ6c
 宙域で悪逆非道の限りを尽くした連邦外道艦アバリス。その隙を突いて襲撃した際、最後まで果敢に抵抗し――そして自らビームナギナタでコクピットを貫き、核融合炉爆発の火球とともに完全成仏させたはずの少女パイロットの声を。
『ば、莫迦な――あ、あのとき――あのとき確かに、私は……滅我粒子にてその身を荼毘に付し、即身完全成仏に導いた、――はず……』
『残念だったな、それは単なる記憶違いだ! 私は今、ここで確かに生きているぞッ!!』
 ゲルググの巨体もろとも、狼狽したゲオルグを圧し斬るようにアイネは叫んだ。ジムUがスラスターの出力を全開する。
『何が完全成仏だ! 何が宇宙浄土だ! お前らジオンの亡霊どもにそんな権利も、そんな力もありはしないんだ! いま、私は確かに生きている――私は生きて、お前らジオンの理想なんかに壊されない、私たちの新しい世界を作るんだっ!!』
「そうだ。今、生きている――」
 二人が戦う背後で、リック・ドムがヒートサーベルを握り拳ごとスプレーガンに打ち砕かれた。あくまでマコトへの突撃姿勢を崩さなかったザクUも、正面からスプレーガンに乱打されて立ちすくむ。
 ようやく突撃が無謀と知れたか、リック・ドムは胸部ビーム砲を発射しながらザクとともに離脱していく。その二機に射弾を応酬しつつ見送りながら、心底楽しげにマコトは笑った。
「幽霊なんかじゃない――君も私も、な」
 そしてアイネ機の剣閃が、ゲルググを一気に押し切る。
 それまでの人間離れした獅子奮迅が嘘のように、ゲルググは機位を崩して圧し流される。アイネは突き構えでそこへ猛進した。
『さあ成仏しろ、大ジオン仏道ッ!!』
『おおおっ――おおおおおおッ!!』
『ゲオルグ居士いっ!!』
 その光景に、ジムライフルの機体と交戦していたエレインが絶叫した。もはや後先の算段も何もなく、ただ激情のままに彼女のゲルググは跳ねる。
 エレインは横合いからナガマキを構え、咄嗟の射撃を放って二機の合間に割り込もうとした。ナガマキの光弾はエレインが自分で信じられないほどの精確さで二機の中間を抜け、少女のジムUは咄嗟に退いて狙撃から逃れる。
 だがエレインが次弾を放つ寸前、榴霰弾が眼前でぱっと弾けた。弾幕がエレイン機を横殴りに乱打する。
「あぐっ!?」
『彼女はやらせない!』
 ハイパー・バズーカを構えたジムUからの掩護だった。
『小癪なあああっ!!』
 狙撃の機会を封じられたエレインは、即座に突撃を決意する。自らの機体でその開いた隙間へ滑り込もうと、ナガマキから光刃を伸ばすと全力で突進した。
「ゲオルグ居士、いま参ります――」
「地獄へか?」
 何か不吉な意志の力を、エレインは感知する。背後から。
 コマ送りのように緩んだ時間の中で、全天周モニターの正面にカットインが開く。
 ロックオン警報。
 エレインとフローラが二機がかりで抑えていた、アルマーズMS隊の片割れ――首なしのジムUが肩部サブセンサーの視野と、ビームライフルの射線上にエレイン機を捉えていた。
 銃口が丸く見える。急機動したエレイン機の動きを読み、待ち伏せていたのかもしれない。
 決してあり得ないはずの、ゲオルグの危地という異常事態。それを目の当たりにした衝撃がエレインを狂わせ、もっとも危険な目前の敵を忘れさせたのだ。
0115フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 18:03:11.27ID:yDVGeZRX
「しまっ――」
『――地獄に落ちろ、ジオンの屑』
 冷たく呟き、シエル・カディスは静かにトリガーを引き絞る。
 BR-S85の銃口から迸ったメガ粒子は、敵機の中心核を狙って迸り――そして過たずコクピット・ブロックを撃ち貫いた。
 直前に射線上へ割り込んでいた、フローラ・イアハート信女機の。
『――フローラ?』
『ねえさま。庵(いおり)の皆に、』
 閃光に焼かれる直前、妹は姉へ優しく微笑んでいた。八年前までの無垢な少女のように。
「南無阿弥陀仏――」
 ゲルググのコクピットは一瞬でメガ粒子の奔流に焼き尽くされ、内包した美少女の意識とともに蒸発した。
 重厚な機影はその中心部から歪んで崩れ、貫通された融合炉からプラズマの奔流が溢れ出す。
 フローラ機は巨大な光球と化して一瞬で消滅。その強烈な照り返しは周囲のMSを押しやり、シエル機の装甲までもを叩いて激震させた。
「ぐっ、ううう! 邪魔立てをっ――まだだっ。アイネの仇――貴様も――貴様も、墜ちろォ!」
 シエルはその機体を盾に生き残った、もう一機のゲルググを執拗に狙う。
 そして通信索敵機能の要を担う頭部ユニットを失っていたシエル機は、その警報に気づけなかった。
 ――逃げて
「えっ?」
 戦闘宙域を、強大なメガ粒子の集中豪雨が薙ぎ払った。
 すべてを光熱の中に押し流す、圧倒的な艦砲射撃――それはサラミス級が出せる火力ではない。そしてトラキア隊の面々はその鮮烈なビーム光の威力を、忘れようもなく覚えていた。
『この火力、あのときの!?』
『まさか、また――!』
 高エネルギー警報の元を辿れば宙域の彼方に、鋭角の艨艟が巨体を現していた。サラミス、マゼランの連邦系航宙戦闘艦の系譜に連なりながら、同時にMS戦へ高度に対応した意匠。前方へ複数展開されたカタパルト甲板から、次々にMSが発進してくる。
 同時に宙域全体を覆うほどの高出力で、ミノフスキー粒子に妨害されながらも通信波が一方的に放送された。
『こちらは地球連邦宇宙軍、環月方面軍戦艦《ジャカルタ》。これより正面宙域で戦闘中の『友軍』を支援する』
『――《エゥーゴ》!』
『きっ、来たぁ! ほれ見ろ! いつまでもモタモタウロウロしてっから、案の定、あの連中がまた来やがったああああああ!!』
 有無も言わさず矢継ぎ早にカタパルト射出されて展開してくるMS隊は、リック・ドム擬きの新型を先鋒にして早くも十機近く。
 無線放送で堂々と宣言された、彼らが支援しようとしている『友軍』とやらが地球連邦正規軍ではないことぐらい、誰もが言われなくとも理解できた。
 激戦の末に疲弊しきった両軍をまとめて、容易に一掃しうる新戦力の出現。巡洋艦トラキアから即座に信号弾が放たれ、戦場の宇宙に大きく弾ける。
「全軍、即時撤退――」
『さあさあ、エゥーゴさんのお出ましだ。いよいよここで店じまいだ! とっとと帰るぞ、早よ乗れやリン!』
 この場での最上位者である、昔馴染みの僚艦艦長が通信小窓に顔を出す。とうとう直接に釘を差されて、崩れたゲルググ二機を狩ろうとしていたリンも諦めたように首を振った。迫る新型戦艦へ目を眇める。
『リドリー、……了解。あれが、エゥーゴ――そこのあなた、そのままシエルをお願い』
『はっ、了解です少尉殿! ――え? ……シエル??』
 シエル機は今や頭部に加え、機動の要たる両脚部までも失っていた。高エネルギー警報と艦砲射撃からの退避が遅れたためだ。
 それでも彼女が機体ごと蒸発せずに済んだのは、トラキア隊の少女パイロットが操る一機が、体当たりを掛けてまで離脱を支援してくれたからに過ぎない。
 そのトラキア隊機に曳かれるように誘導されて、シエル機は艦隊への帰投コースへ入っていく。
0116フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 18:03:54.22ID:yDVGeZRX
 そして、あれほど執拗だったジオン残党軍も、連邦軍への攻撃を止めていた。警戒態勢は崩すことなく、しかし次第に距離を取りながら離脱していく。トラキア艦長リドリー・フランクス大尉は、その光景にひとり艦橋で訝しんだ。
「――ふん。エゥーゴの連中、未だルスラン・フリートとの連携は出来ておらんと見えるな――」
 ケンプファーが大破し、ゲルググも一機撃墜された今、ルスラン・フリートにこれ以上の戦闘を継続する力はないはずだった。
 そしてエゥーゴが到来しても攻勢に出てこないということは、彼らもまたエゥーゴを警戒しているということに他ならない。
「よし。今ならまだエゥーゴに完全に捕捉される前に、全MS隊を収容して離脱できる――って、マコト!? 何やってんだおまえ! 退くんだよ。後退! 全軍後退、って言ってんだろうが!!」
『21。22は推進材と残弾に余裕大。これより単機で友軍の撤退を支援する。宙域内の全MS隊は22より先に母艦へ帰投せよ』
『りょ、了解!』
『准尉、お先に――』
 連邦軍の全MS隊が一斉に母艦へ帰投していく中、マコトのジムU22だけが最後尾でエゥーゴMS隊を睨む格好になった。
『いいよリドリー、マコトがケツを持ってくれるんなら安心ってもんだ――こっちは残弾がない! マコト、先に下がるよ!』
『ええサブリナ、皆をよろしく……リドリー、ご心配なく。お茶だけ用意しておいてください』
『馬鹿野郎! マコトお前、絶対帰って来いよ!!』
 ジムU22の背部スラスターが噴焔を吐いた。シエル機の狙撃で散ったゲルググの残骸が漂う空間を飛び抜けながら、マコト機は旋回を繰り返しつつエゥーゴの接近を威嚇する。
「ハヤカワ准尉の、あの動き――何だろう。――何かを、探している……?」
 トラキアのMSカタパルト甲板へロブ機と同時に着艦しながら、シュン・カーペンター伍長は遠い隊長機の奇妙な動きに目を凝らした。大破したアルマーズ隊機とともにアイネ機も着艦し、弾薬と推進材の艦外補給に整備兵たちが彼らを取り巻く。
 そしてエゥーゴMS隊が、戦闘宙域へ侵入してきた。
 弾丸じみた速さでデブリを縫って先陣を切るのは、つい先日にも見たリック・ドム擬き。その背後には以前にも見られたジム擬きと、ハイザックに似たブレードアンテナ付きのMSが従っている。
 すべてが新型機と見えた。後退するジオン残党軍MS隊には目もくれることなく、連邦軍へ――その後衛たるマコト機めがけて突進してくる。
 落ち着き払った男の声で、ノイズ混じりの通信が入った。マコトはその声を覚えている。
『――宙域のミノフスキー粒子濃度、きわめて高。我がMS隊の新型センサーに不具合を確認――友軍誤射の恐れあり。繰り返す、友軍誤射の恐れあり。現戦域は我が方が引き継ぐ。サイド4駐留艦隊は、現在地より早急に退避されたい』
 リック・ドム擬きの頭部に据わる、旋回軌条を持たない異形の大型モノアイ。その眼光が戦闘宙域を不気味に睨む。
 連邦軍在来機を圧倒する新型メインセンサーのすぐ背後に位置する頭部コクピット内で、全天周モニターとコンソール上へ正確に描き出されていく戦況表示を見渡しながら、その男――ジャカルタMS隊長ベリヤ・ロストフ大尉は笑った。
『この過酷な暗礁宙域では我が方の、月面育ちの軟弱なセンサーなどはものの役にも立たないようだ』
 そしてトラキア艦橋では、リドリーが艦長席のアームレストを叩く。
「――ふっ、ざ、けんな――エゥーゴのクソ野郎ども! 今度はそれで味方討ちを正当化しようってのか!? 後部単装砲、行けるな!?」
『いつでも!』
『リドリーさん。マコトの加勢、ウチの連中も混ぜてください』
「当たり前だジャック! 野郎、新型だろうがブチ墜とすッ!!」
 トラキアとアルマーズ、サラミス二隻の後部で単装砲群が蠢く。
 だが最前線に立つマコトは、いつも通りにしごく平板、事務的な声色で応じるだけだった。
0117フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 18:04:44.24ID:Bt7EKgM1
『ご親切にどうも、ロストフ大尉』
『やあハヤカワ准尉、奇遇にもまたお会いしましたね。いま退避されないのなら、生命の保証はいたしかねますが?』
 あのとき感じたままのざらついた気配をよそに、マコトも冷たい笑いをベリヤへ返した。
『ご自由にどうぞ。どうかご心配なく――こちらも好きにさせていただきますので』
『了解――』
 それまでフラフラと、どこか当て所ないようにも見える動きで旋回していたマコト機。エゥーゴ機との接触直前、彼女はようやく求めるものを見つけだした。
「――あった」
 宙域に浮かぶ、一点の微かな燐光。
 MSなどよりずっと小さく、新旧のデブリに紛れて漂うそれをマコトはかろうじて捕捉し――瞬間、彼女はそこへ全速でジムUを突進させていた。
 同時にリック・ドム擬きも虚空を蹴る。随伴する二機を置き捨てるような急加速だ。
 理由はひとつ――その新型モノアイも、同じ存在を捕捉したのだ。求めていたものを。
 巨体の繰り出す挙動は軽く、推進の火は力強く、そして何より確かに速い。
 その機動性能がジムUはおろかケンプファーやゲシュレイさえも上回ることなど、もはや素人目にも明らかだった。
 宙域の同じ一点を目指して二機は猛進し、そして最初のビームがマコトへ走った。
 リック・ドム擬きからではない。その後方へ離されながらも追従する、ブレードアンテナ付きのハイザック擬き――それが構える長銃身ビームライフルが長距離から、正確無比にマコト機の中心を狙ったのだ。
 そしてマコトも同時に応射していた。ハイザック擬きが放った狙撃の光軸はジムU22を掠めて消えたが、その応酬が口火となってリック・ドム擬きが火線を開く。
 鋭角的なシルエットの長砲身バズーカが火を噴き、迎え撃つマコト機の前方に爆炎を散らした。両機は互いに譲らず直進し、散りゆく火球を蹴破るように飛び込んでいく。
 リック・ドム擬きは初弾ひとつで右手のバズーカを下げた。続けざま、左手に握った小型ビーム銃から速射が迸らせる。
 スプレーガンに劣らぬ連射速度、なおかつ倍近い高出力で注いだ射弾の雨。応射しながら掻き分けるように進むマコトは一発の直撃も受けることなく、そのすべてを真正面から突き破っていた。
 二機が激突する瞬間にぱっと火花が、そして爆光がふたつ閃く。
 飛び抜けるリック・ドム擬きは、掌中のビーム短銃を。そして駆け抜けていくマコト機も、その右手からビームスプレーガンを失っていた。
 相打ち。
 だがリック・ドム擬きの背で、一対のバインダーが閃く。重厚な巨体が独楽のような迅さで廻り、スプレーガンを失ったジムUを眼下に見下ろした。新型バズーカの砲口が背後の死角からマコトを捉える。
 炸裂した。
 榴霰弾が装甲を叩く。近傍を掠めていくビームの射弾から、急旋回でリック・ドム擬きは機敏に逃れた。
 一度は巡洋艦まで後退したジムU三機が再出撃して、猛烈な射撃を降らせてきたのだ。
『掩護します、准尉ッ!!』
『早く戻ってきてください!』
『隊長―ッ! はやくきてくれーーーっ!!』
「ほう。雑兵風情が、その旧式でリック・ディアスに挑むのか――」
 急激な回避機動で生じた加速度の底から、凄絶にベリヤは笑う。
 しかしその時にはもう、マコトのジムU22はシールド裏から予備スプレーガンを手にしていた。ベリヤ機との間で、猛烈な銃砲撃が飛び交う。
『大尉、離脱をッ!』
 ハイザック擬きが再びビームで狙撃し、追いついてきたジム擬きが新型バズーカから発砲する。弾ける榴霰弾がマコト目掛けて投網を開いた。斜め構えのマコト機シールドに弾片が弾け、そしてある弾片は腕部装甲まで貫き通す。
 そしてマコトと敵機が離れたのなら、リドリーがそれ以上我慢を続ける理由などはもう何一つ存在しなかった。
『撃てェッ!!』
 トラキアとアルマーズの二隻が、そのとき使えるすべての火力を開放した。サラミス級二隻が放つ後方火力、さらに三機のジムUがBR-S85とハイパーバズーカの火力を加えて、エゥーゴの新型MS隊をも圧倒していく。
『22より21。21、帰投する』
『おかえりなさい、准尉――!』
 その火力がこじ開けた局所優勢の穴を辿って、マコトのジムUは母艦へと全速力で合流した。出迎えの三機とともに、巡洋艦と並進しながら戦場を離脱していく。
 そしてゲシュレイを載せたパブリク改級哨戒艇が矢庭に四機を追い抜き、その艦列に加わった。
 そのまま暗礁宙域の彼方へ、連邦軍の三隻は見る間に遠のいていく。
0118フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 18:05:08.83ID:Bt7EKgM1
 一転して静寂に帰った宙域で見送るRMS-099《リック・ディアス》に、一機のMSA-003《ネモ》が寄り添った。静かな女の声が問いかける。
『――大尉。追わなくてよろしいのですか?』
『うん。今はこれでいい。確信が持てたからね。やはりここは宝の山だよ。いま随分と散らかっている中にも、まだ『福』が残っているかもしれない』
『艦と主力はルスランを追いますが。ここの捜索に人を割きますか?』
『必要ない。これから、いくらでも機会はある――』
 彼らの後方ではRGM-79R《ヌーベル・ジムU》の編隊が、軍使の白旗を掲げながら進行していく。なお警戒の布陣を崩さそうとしないまま後退行動を続けるジオン残党軍MS隊、そして偽装貨物船へと向かって。
『――そうだろう、ルチア?』
『はい、大尉』
 RX-107《ロゼット》のコクピットに座る女性パイロットは、全天周モニターに呼び出した録画映像をじっと見つめている。
「……相変わらずね。マコト・ハヤカワ――」
 長距離から狙撃する彼女へと、ビームスプレーガンを向けるジムU。
 雌獅子の傲慢さでその機影を睨みつけながら、金髪の美女は唇を舐めた。
0119フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 18:05:39.66ID:dUrD1uY6
「連邦の新型戦艦は《エゥーゴ》だと名乗ったそうです!」
「助けてくれるのか……? 敵の敵は、味方ってことなのか?」
「今、行方不明だったタールネン少佐からも通信が入ったらしいです――あっちに収容されてたってことなんでしょうか?」
 戦艦ジャカルタに後方へ付かれながら並走する、偽装貨物船ケンドー丸。
 大ジオン仏道のゲルググ二機をはじめ、今なお戦闘能力を保つ数機のMSが今なお艦外へ展開してはいる。しかし彼らはジム系MSを主力として迫るエゥーゴ部隊相手に、露骨な交戦の意志を見せてはいなかった。
 そしてケンドー丸のMS格納庫は激戦から帰投した満身創痍のMS隊を収容して、整備兵たちが怒号とともに飛び交う修羅場と化している。
 大破したザクUファドランの一機がその一角で機体を強制冷却され、さらにコクピットハッチを破断開口された状態で固縛されていた。その内部から救出された少女は、パイロットスーツ越しに豊かな胸へ抱かれている。
「ティアーナ、……疲れたのね。いいのよ……ゆっくり……ゆっくり、休んで……」
 栗色の長いツインテールを無重力に泳がせたまま、少女は静かに眠っている。すべての痛みと苦しみから解き放たれたように、安らかな表情でただ静かな寝息を立てている。
 もはや物言わぬティアーナ・エイリス上等兵を救出したきり抱きしめたまま、イオタ・ファーガスン大尉はそこから一歩も動かなかった。
「……ウソ、だよね。ティア……」
 ノーラ・ジャンセン伍長は掛ける言葉の一つも持てないまま、それ以上二人に近づくことすら出来ずに立ち尽くす。ミリアム・バーレット少尉は自機のコクピットから、遠くその光景を見つめている。
 その格納庫全体を覆う混乱と喧噪の中を、パイロットスーツ姿の一団がかき分けるように進んできた。プチモビを動員してファドランの予備兵装を持ち出し、対空砲火を展開していた船客――ギュンター・グロスマン大尉以下の一団だった。
 胸にティアーナを抱いたきり、俯いたまま動こうとしないイオタを取り囲む。
「ファーガスン大尉! エイリス上等兵の妙なる槍働きに、我ら一同心底より感服いたしました!」
「――グロスマン大尉……?」
 眼鏡の下から虚ろな瞳を向けるイオタに構わず、男たちはその腕の中のティアーナを覗き込む。寝息を立てるその姿に安堵するや、興奮さめやらぬ勢いで次々にまくし立てた。
「いかなファドラン仕様といえど、ザクUを以て連邦のハイザックとガルバルディβをああも痛快に撃ち砕くなど、まさに彼女こそジオン武人の鑑!」
「ジオン十字勲章の名だたる勇士にも劣らぬ働きでしたぞ!」
「あのニュータイプもかくやの狙撃、まったく脱帽いたしました! 彼女さえいれば、もはやアムロ・レイごとき恐るるにも足らず!」
「ニタ研の強化人間が何するものぞ!!」
「…………」
 男たちの歓喜と賞賛に包まれながら、イオタは微動だにしない。紙のような顔色のままで少女を抱きしめ続ける彼女の瞳に、光る滴が溢れ出す。
「いやあ、ともかく彼女が無事でよかった! ジオン再興の日は近い! ジーク・ジオ――ぶフッ!」
 感極まった一人が拳を振り上げ、一同の唱和を導き出すより早く、あらぬ方向から飛来した工具がその背中を強打していた。
「だっ、誰だこれはァ! 何をするかァ!!」
「――申し訳ありません、先輩方。ウチの連中、上がったばっかでしてね……今、ちょっと疲れてるんです。……少し、静かに……しておいて、いただけませんかね……」
 自機から降り立ったミリアムが静かに、しかし確かな殺気を帯びた瞳で睨みつける。戦場帰りの荒んだ眼光が、その意味を知る男たちを圧し下がらせた。
0120フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 18:06:04.00ID:dUrD1uY6
「――あの。その子、……大丈夫、なんですよね?」
 そのとき不意に少女の声が、人垣の向こうから呼びかけてきた。
 男たちが道を開けると、パイロットスーツの可憐な少女が現れた。ボブカットの柔らかな髪が汗で張り付くのも構わず、彼女はイオタへ歩み寄ってくる。
 ただ一機だけ生き残った、リック・ドム搭乗員の少女だった。
「その子、……ニュータイプ、なんですよね。その子さえいてくれれば……連邦がまた新型のガンダムを作って、アムロ・レイや強化人間を乗せてきても……、その子がみんな、やっつけてくれるんですよね……?」
 止める者の一人もないまま、幽霊のように少女は歩いた。イオタの眼前に達し、焦点の定まらない瞳で二人を覗き込む。
「みんなが、……私の部隊が……みんな死んでまで守ったこの子は、……また、戦ってくれるんですよね。誰よりも強くて特別な、本当に選ばれた存在だってことを、見せてくれるんですよね……?」
「伍長……」
 イオタは答えない。なすすべもなく震える少女の小さな肩を、女の手がぎゅっと後ろから強く掴む。
 ミリアムは無言で彼女を抱き寄せた。その途端、少女の瞳から堰を切ったように涙が溢れ出す。少女はミリアムの胸にすがりついて、意味のない大声を上げながら泣きじゃくった。
 格納庫の脇から、担架を抱えた衛生隊がようやく姿を現した。人垣をかき分けてティアーナの元までたどり着くと彼女を固定し、イオタを伴って搬送していく。
「――私、なんにも……なんにも、出来なかった……」
 そしてノーラはその一部始終を、ただ傍観することしか出来なかった。
 もはや打ち捨てられたティアーナ機の、強制開口されたコクピットハッチに腰掛けながら、焼け焦げたその内装を見つめてノーラは呟く。
 無重力に漂い出てきた、写真の切れ端をノーラは掴んだ。
 ティアーナが勝手にコクピット内へ張り付けていた、何枚もの写真のひとつだ。眠る自分の顔に落書きして、得意げに笑うティアーナがそこにいた。ノーラも少し、笑う。
「……あの、バカ」
 そして炭化した写真は、ノーラの指先ひとつで脆く崩れ去った。ティアーナの笑顔が灰燼になって、船内気流に乗って流れていく。
「……強く、なりたい」
 誰もいないコクピットの中で、ノーラは一人うずくまって膝を抱えた。涙が零れる。
「強く、……なりたい、よぉ……」
 少女の嗚咽は格納庫に渦巻く喧噪に呑まれ、誰にも届かずに消えていった。



 ケンドー丸の進路上に、いくつもの光点が浮かび上がる。
 近傍の衛星拠点から出撃した、ルスラン・フリートの増援第三波となるMS隊であった。その勢力、ゆうに数十機。
 エゥーゴとルスラン・フリート。
 のちに地球圏を揺るがすことになる二つの勢力が、この日、邂逅した。
0121フェニックステイル第24話2016/08/19(金) 18:06:51.45ID:L1gy1wB0
 トラキアとアルマーズ、そしてパブリク改級哨戒艇《バチスカーフ》の三隻は戦域を離脱してから、いくらも行かないうちに僚艦と合流できた。
 民間貨物船《リバティ115》とそこから展開した、VWASSのRB-79《ボール》編隊に護衛された戦隊旗艦《マカッサル》を加え、五隻は一路《P-04》を目指していく。
 トラキアのMS格納庫は完全に修羅場だった。アルマーズ隊のリン機とサブリナ、ゲンナーの機体は損傷も消耗も激しく、優先整備を受けている。マコト以下のトラキア隊機は、艦外補給を受けながら待機中だった。
 そして、アルマーズ隊の片割れ――首も、左腕も、両足までもを失ったジムUは艦内格納を許されず、トラキア隊機とともに艦外繋留されている。
『嘘、――アイネ? 本当に、アイネ、……なの……?』
『そうだよ。そうだよシエル、私だよっ! 私、ちゃんと生きてるよ!』
 最初にその機体を曳航してきたジムU22をすぐ隣に繋止するや、パイロットの少女はコクピットハッチへ跳んでいた。
 宇宙で間近から見つめ合うバイザーの奥に、見る見る涙が溢れていく。とうとうこらえきれなくなって、アイネはその豊かな胸にシエルをヘルメットごと抱きしめた。
『ちょっ! あ、アイネっ……』
『シエル。私、強くなったよ。シエルに負けないぐらい――シエルのことを、守ってあげられるくらい強くなったよ』
『――アイネ、……バカ。……アイネのくせに……十年、早いよ』
 抵抗を試みたシエルの腕から力が抜けて、二人の少女はそのままノーマルスーツ越しに互いの肉体を確かめ合った。
 コクピットハッチで人目もはばからず抱き合う二人に、居合わせた二人の男性パイロットは目を白黒させ、マコトは吹っ切れたように大きく溜息を吐いた。
 シールドの裏に隠した、自機の左手をそっと見下ろす。
「やれやれ。まさか『二人目』とはな。どうやらまた、頭痛の種が増えそうだ――」
 その掌中で真空に揺れる長い銀髪、そして横たわる美少女の豊満な肉体。
「さて。今度はどうしたものかな」
 淡い燐光に包まれたその安らかな寝顔を周囲の僚機から隠しながら、マコトは遙かな進路上に遠く浮かぶ、迫り来るP-04の巨体を見つめた。
0122フェニックステイル第24話投下終わり2016/08/19(金) 18:09:21.94ID:WrKPAFIV
第二章、これにて終了です。次回より第三章となります。

例によってハーメルンとpixivに、挿絵を投稿しております。
そちらの方もご覧いただければと思います。

以前に受領したリクエストも、少しずつ進んでおります。
非常に不定期にはなってしまっておりますが、またこちらも投稿させていただければと思います。

それでは、ご感想お待ちしております。
0124名無しさん@ピンキー2016/08/19(金) 22:29:14.03ID:2WUYj7hq
髪コキ!
0127名無しさん@ピンキー2016/11/04(金) 17:22:58.59ID:Byc23kb+
フェニックステイル三次創作

シュン☓アイネ
エロ

※この話はフェニックステイル作者さんより
設定をお借りして書いたモノであり
本編とは関係のない完全IF話です。

だがここまで来たら、もうそんな少女とでもいい。肉棒の切っ先が、

ついに少女の膣口に触れた。あと一押しで、すべてが終わる。

「いやッ!や、やめてえ!」

僕は懇願に構わず、濡れそぼった秘裂にペニスを突き入れた。

「あッ!い、痛ッ!や、やああッ!」

「あ…あッ…あ…キ、キツイ…」

ペニスの先端と粘膜が触れ、狭い膣道の締めつけに僅かに被っていた

包皮が一気に剥かれる。少女の体内の熱い感触に僕は圧倒された。

気持ちよすぎる……自慰などと比べ物にならないほど気持ちいい!

兵士が戦場で女を犯すわけだ。死ぬまでにもう1回などと考えられない。

死ぬまで何回も、何十、何百回味わっても足りない。

「痛い!やだああ!やめていやぁ!お願いだからやめて下さい!」

眼下の少女は涙を浮かべながら拒絶の言葉を発する。

自分から誘っておいてそれはないだろう?

精液を飲み下しセックスを求めたのはお前だろう?

と言ってやりたいがこちらも余裕がない。

もう一度出しておかないともちそうにない。

「ン!ン!ンンッ!と、溶ける!ペニス溶け!あッお…おおッ!」

奥に突き入れるほどキツく絡みついてくる。深く突くと拒み、

抜こうとすると未練がましくねっとりと絡みついてくる。

これが女の人…気持ちすぎる。
0128名無しさん@ピンキー2016/11/04(金) 17:23:45.12ID:Byc23kb+
整備長も、隊長もこの少女のような秘裂を持っているんだ。

突く度に呻きとも鳴きともつかな声を上げ、熟した果実のような香りを振りまく。

「はッはッはッ!さ、最高だよ!君!君の中気持ちよすぎる!」

「やッ!わたし!違ッ…こんなのわたしじゃ!本当のわたしは――」

本当の私?男の剣を受け入れる鞘だろ?これで童貞卒業だ。

もう同期生にバカにされないですむ。

貧相な身体の同期生とヤッたあいつも、娼婦で卒業したあいつも、

どいつもこいつも見返す事ができる。こんな美少女で卒業した奴はいない。

「や…もう…もうやめて!うッううッ…何で…どうして…こんなのいやぁ!」

少女はすすり泣き始めた。これも演技なのか?まぁいい。

突き上げる度に上下に振れる乳房。

こんな乳の持ち主で未だかつて見たことがない。

隊長もかなりの巨乳だかこれはもう別格だ。

「痛い」「やめて」「いや」などと花びらのような唇から発せられたら逆に興奮する。

僕はその爆乳に顔を埋め、射精時に逃れられないように密着した。

ああッ…の、昇ってきた!自慰は射精した精液の処理に困るが、今回は違う。

中で出す。妊娠とかそんなことはどうでもいい。どうせ避妊薬をのんでいるだろうし

構いやしない。グググッとペニスを駆け上ってくる射精の前兆がいつもの倍だ。

「おッ…うッ!で、出ッ!ふ…う!」

僕の呻きに目を見開いた美女は絶叫した。
0129名無しさん@ピンキー2016/11/04(金) 17:24:02.37ID:Byc23kb+
「ダメッ!中に出さないで!に、妊娠しちゃう!お、お願いだからやめてえええ!」

半狂乱になって僕を引き剥がそうとするが、もう止まらなかった。

最奥まで埋め込んだペニスの先端がグワッと膨らみ、熱い体内で爆発した。

「あ、ああッ…ああ!いやああああッ!」

少女はビクンビクンと背を震わせ、張り裂けるような声をあげた。

「おッ…おおッ!…うおッ!」

鈴口を引き裂くような射精に僕は歯を食いしばりながら、少女の柔らかくて

盛り上がった丸い尻肉に指を食い込ませて二度、三度の射精のタイミングに合わせて

ペニスを突き入れる。少女の乳の谷間に顔を埋めて、その甘美な芳香を胸いっぱいに

吸いながら残りを全て吐き出すまで腰を振り、密着し続けた。

「うッ…ううッ…出さないで…て…妊娠…って…言ったのに…」

注がれる度に打ち震える少女の体温を感じながら僕は果てた。


END

設定をお借りした作者さんありがとうございました。
0130名無しさん@ピンキー2016/12/26(月) 08:34:55.15ID:HKywqCvF
ルールカの髪コキかルイスの髪コキSSみたいです!
0132フェニックステイル第25話投下準備2017/01/03(火) 03:57:32.25ID:LBOcotKf
新年あけましておめでとうございます。本年も懲りずにフェニックステイルを投下して参りますので、引き続きよろしくお願いいたします。

今回から新章突入ですが、相変わらずエロはありません。悪しからずご了承ください。
0133フェニックステイル第25話2017/01/03(火) 04:01:08.56ID:6cnyIs3r
『長々距離レーザー通信、接続状況最終確認――導通及び感明良し』
 地球を取り巻く広大な宇宙空間に、幾重もの中継を経たレーザー通信の回線が繋がる。月の傍らから地球の反対側へ、ラグランジュ点からラグランジュ点へと遠い、遠い距離を隔てて、電気信号が走り抜けていく。
 ノイズ混じりに画面が開いた。高級士官用執務室が映し出される。画面の下端に小さく"Side 7 : Green Noir 2"の表示。
 中央の席に略式軍帽を被った赤い眼鏡の男、そして傍らに髭の参謀将校が立っているのを確かめると、若い女の声が議事を淡々と告げはじめた。
『グリーンノア2の皆様、おはようございます。それではこれより新サイド4宙域における過去一週間の状況に関して、サイド4駐留軍《P-04》基地より、最新の連絡を実施いたします』
 画面が切り替わる。最初に像を結んだのは、宇宙を行く艨艟の静止画像。暗礁宙域を背にしたサラミス改級巡洋艦だ。周囲には地球連邦軍の量産型MS、RGM-79R《ジムU》が数機。画面の片隅に小窓が開いて航路図を示す。
『2月25日。新サイド4駐留艦隊第441戦隊所属の巡洋艦《アバリス》は、同暗礁宙域外縁部を平常通りに哨戒任務中のところ、
 同宙域深部を拠点に活動する大規模ジオン残党組織《ルスラン・フリート》配下と思われるMS小隊に襲撃されました』
 同時に『参考資料』と題された数枚の静止画像が展開する。旧ジオン公国軍の量産型重MS、MS-14A《ゲルググ》三機。それぞれの両肩にはそれぞれ独特のチャイニーズ・キャラクターが一字ずつ。
『奇襲を受けて展開したジムU四機のMS隊を殲滅され、アバリスも轟沈しました。
 同じく近傍宙域で哨戒任務に当たっていた第223戦隊所属の同級巡洋艦《トラキア》がMS隊を緊急発進させながら駆けつけたものの、敵MS隊は捕捉出来ず追撃を断念。
 周辺宙域を捜索し生存者一名を救助した後、トラキアは哨戒任務に復帰しました』
 いくつもの中継点を経たレーザー通信の彼方、オーディエンスの男たちから含み笑いが漏れた。
『ふん。たかがゲルググ三機相手に、MS四機とサラミス一隻が手も足も出ずに丸ごとか。ずいぶんと脆いものだな』
『まあまあ大佐。一般部隊の雑兵など、所詮こんなものでありましょう』
 ブリーフィングを受ける男たちが尊大に声を震わせて鼻で笑う。だがブリーファーの傍らに控える二人の将官は、まったく意に介していない。若い女性士官はプレゼンテーションをただ淡々と進めていく。
『続きまして翌2月26日。《P-04》への航路を取っていた民間貨物船《リバティ115》が、ジオン残党勢力MS隊の襲撃を受けました。このMS隊は25日にアバリスを襲撃したものとは別の部隊です』
 同じく記録映像が展開する。今度はMS-06F《ザクU》、MS-09R《リック・ドム》、MS-21C《ドラッツェ》が各一機ずつ画面に躍る。
 しかしよく見てみれば、どの機体も一年戦争やデラーズ紛争の当時そのままの機体ではないと分かる。肩部サブカメラやスラスター類に、増設強化などの改修部分が確認できた。
 それら改良型のジオンMS群に続いて、こちらは一年戦争当時そのまま――いや、むしろ当時よりも武装を弱体化させたと見える、RGM-79A《ジム》やRB-79《ボール》が姿を現す。
 両者のアイコンが宙域モデル図の中を泳ぎ、接触して交戦を開始した。
『リバティ115からは、同乗の民間警備会社MS隊が展開し応戦開始。同時に救難信号が発信されました』
『民間警備会社? ――ああ。ヴィック・ウェリントンの系列か』
『近傍宙域を航行中の巡洋艦トラキアがこれを傍受し、再び即応。現場へ急行するとともにMS隊を緊急発進させ、リバティ115へ取り付かれる前に交戦開始。
 ジオン残党MS隊を撃破し無力化し、さらに全機の鹵獲に成功しました。が――』
 サラミス改級巡洋艦のアイコンから伸びたジムU四機が、ザクUとリック・ドム、ドラッツェの三機編隊と交戦し、撃破する。だが、そこへ横合いから艦砲射撃の閃光が走った。
『ここで介入してきたのが、環月方面軍所属を名乗る新型戦艦《ジャカルタ》です』
 今までの画像と異なり、不自然なほどに画素の粗い写真が写し出される。
 主推進器を艦体後部両舷で左右に分離させながら搭載した、地球連邦軍系の直線が目立つ意匠の新型宇宙戦艦。
 その左右に伸びた長大なMSカタパルトから出撃してくるのは、RGM-79C《ジム改》に似た、緑色に塗装された胴体部をはじめとする機体全体を重厚化させているジム系MSだった。
 量感を除けばRGM-79CR《ジム改高機動型》のように見えなくもないが、画像が今までのジオン系MSを写したそれと異なり細部が粗いため、厳密な判定は難しい。
0134フェニックステイル第25話2017/01/03(火) 04:03:38.32ID:a21J8/VC
 そしてそんな低画質の画像でも、参加者たちの意識を一気に引きつけるには十分だった。
『これが、――《エゥーゴ》めらの新型機か』
 そのとき初めて地球を挟んだ反対側から、低い唸りと忌々しげな重い吐息が漏れた。ブリーファーはそれも無視して、なお淡々と続けていく。
『ジャカルタ艦長はミノフスキー粒子散布と電子戦を並行し、宙域内の無線通信を封鎖。そのうえでジオン残党組織による月でのテロ計画対処を理由に、トラキア隊が鹵獲したMS隊の即時引き渡しを要求してきました。
 しかしトラキア艦長はこれを拒否し、鹵獲機を収容しての離脱を企図。一触即発の緊張が続く中、突如『機体トラブル』を理由にジャカルタMS隊の一部がトラキアMS隊を襲撃しました』
 連邦軍のジムUとエゥーゴの新型ジム、両者が激しく入り乱れる。それでもエゥーゴ機はビームライフルなどの武装は使わず、あくまで体当たりやシールドの打突のみを武器に執拗に絡んでくる。
 その機体のパワーは明らかにジムUを圧倒していた。
『小競り合いとなってトラキア隊は一機が小破するも、反撃でジャカルタ隊の一機を撃墜。
 しかしジャカルタ隊はこの混乱の隙を突いて、鹵獲されたジオン残党MSをパイロットごとすべて奪取することに成功。この段階で両者は離脱し、ジャカルタは暗礁宙域内へ姿を消しました』
『はっ。なんと無様な……!』
 髭をたくわえた中年の参謀少佐が、地球の向こうで低く罵る。やはりそこにも今までにない強い感情が滲んでいた。
『エゥーゴの尻尾を掴む機会を、よくもむざむざと――しかしさっきからたびたび名前の出てくる、このトラキアとかいう艦は何だ?
 ジオン残党ともエゥーゴともろくに戦いもせず、すぐに引き下がってばかりではないか! 敢闘精神がまったく足りておらん――まったく、これだから一般部隊は!』
『続いて日を改め2月28日』
 傍らに座る女性将官に顎で示され、ブリーファーは何か絡もうとしてきた彼を強引に無視して続けた。
『第223戦隊旗艦を務める巡洋艦《マカッサル》と駆逐艦《アルマーズ》が暗礁宙域を哨戒中のところ、民間払い下げのコロンブス級輸送艦らしき不審船を発見』
 画面が切り替わる。新たにサラミス改級駆逐艦に追われるコロンブス級輸送艦、そしてその前方に潜んで待ちかまえていたサラミス改級巡洋艦が現れた。
『不審船は追跡するアルマーズからの停船命令に従わず強行突破を試みたため、戦隊は前方に待ち構えるかたちで布陣したマカッサルからMS隊を展開。これに対し不審船もMS隊を出撃させ、MS戦となりました』
 巡洋艦からRMS-117《ガルバルディβ》二機とRMS-106《ハイザック》四機が出撃し、不審船から来るザクU三機と激突する。
 機体は旧式で数も劣勢のザクU隊は、しかし正面に展開するガルバルディβとハイザックのMS隊を次々に狙撃し、ついには一方的にすべてを撃破してのけた。
『たかがザク相手に……なんと不甲斐ない』
『はっ。新サイド4のMS隊はデブリ掃除のし過ぎで、肝心の戦い方を忘れたのではないのか?』
 冒頭のアバリス隊に続き、またしても旧型機を操るジオン残党軍に手玉に取られる連邦軍部隊に、男たちが呆れきった声を上げる。だが画面に映し出された実機の戦闘記録映像と女の挟んだ解説が、彼らを再び緊張に引き戻す。
『敵MS隊はMSの通常の有効射程を遙かに越える超長距離から、精密狙撃を仕掛けてきました。ここで観測された狙撃距離と命中精度及び射撃速度は、一年戦争時に記録されたアムロ・レイ大尉の数値を大きく上回ります』
『なっ』
『――強力なニュータイプ、だと言うのか……? いや、しかし。よく見ればこのザクの狙撃は機体の手足を掠めるばかりで、まるで直撃出来ておらんではないか。アムロ・レイなら、すべて一撃で仕留めておる』
『た、確かに』
 彼が言うとおり、なぜか映像の中で次々と狙撃を受けても爆散した機体は一つもない。ブリーファーは特にその件について説明しなかった。
 接近戦で六機のMS隊をやはり一機も爆発させずに蹴散らすと、ザクのアイコン群が画面上をサラミス改目掛けて接近していく。
 MS隊すべてを失った巡洋艦がそのまま突破されるかと見えたとき、なんと巡洋艦マカッサルは勇敢にも自ら敵前に立ちふさがって反撃する。
 その対空砲火がザクU隊を阻止し、あまつさえ超長距離狙撃を連発していた一機を中破させてしまった。
『おお……なんと果敢な』
『ほう、なかなかやるではないか。ふん、しかしこんなもので落とされるようでは、大したニュータイプではなかったようだな』
0135フェニックステイル第25話2017/01/03(火) 04:04:57.93ID:wABJ/bK8
 巡洋艦はそのまま不審船――敵輸送艦と交戦しながら脇から抜けて離脱するが、そこでジオン残党艦へ追いついた後続の駆逐艦から三機のジムUが肉薄する。
 MS戦が発生したが、ニュータイプと思しきパイロットのザクを失った不審船MS隊に、先ほど見せた神通力じみた戦闘力はもはや無かった。ザクUがまた一機中破する。
『敵MS隊はこの戦闘において、不可解なほど多量の照明弾を発射していました。これは救援要請の信号でもあったらしく、暗礁宙域深部からは多数のジオン残党増援部隊が次々と出現してきます』
 ブリーファーが言うが早いか、画面の端から三機のゲルググが出現し、交戦中のジムUと生き残りのハイザックを一機ずつ撃墜する。さらにコムサイ改級揚陸艇二隻に搭載されて、リック・ドム六機が戦場に到着。
 形勢は逆転した。ジオン残党軍はそのまま圧倒的な戦力差で、戦場に残った駆逐艦一隻と二機のジムUを殲滅していくかに見えた。
『これに対し、我が軍も近傍宙域を航行中の巡洋艦トラキアが照明弾と戦闘光を確認、直ちに反応していました。
 まずトラキアに同行していたP-04駐留部隊所属のMS隊が、パブリク改級哨戒艇で先行し接敵。次いで本隊も到着します』
 RGM-79GS《ジム・コマンド》――いやRGM-79GSR《ゲシュレイ》と表示された機体がもはやMAじみた高速で、ジオンMS隊の脇腹へ横槍を入れるかたちで突きかかる。
 さらにRGC-80SR《ジム・キャノン改》が、ゲシュレイの突撃と巧みに連携した砲撃戦を展開。瞬く間にリック・ドム二機を撃墜し、連邦軍残存戦力は反撃に転じる。
 そして到着したトラキアが混戦のさなかへ艦砲斉射を放つと、リック・ドム隊は一機を残して全滅した。トラキアMS隊のジムU四機が戦線に参加したことで、戦勢は再び逆転したかに見える。
 だがジオン側もさらにMS-18E《ケンプファー》とMS-06FZ《ザク改》、ドラッツェから成る六機編隊が戦闘加入。
 増援第三波でジオン側が盛り返して互角の戦闘が展開されるも、連邦軍はなおもじりじりと押し込み、コムサイ改二隻とゲルググ一機を撃墜する。
『ジオン側も増援部隊の第三波を投入し、戦闘は再び膠着――そしてここで再び、戦艦ジャカルタは現れました』
 戦闘宙域へ侵入してきた戦艦ジャカルタは、露骨に連邦軍部隊を狙う艦砲射撃を放った。続いて多数のMS隊を発進させる。最初の接触で出てきたジム改もどきだけではない。
 今度はどこかリック・ドムに似た――しかし、全く異なる印象を持った重MSが先頭に立って突進してくる。戦場の均衡は一気に崩れた。
『――これもエゥーゴの新型か……? ええい、なぜここだけ画素がこうも粗い……』
『戦艦ジャカルタの介入を受け、この時点で戦闘宙域の残存部隊指揮官となっていたトラキア艦長は、全軍に離脱を下命。ジオン残党軍も同時に離脱を開始しました』
 トラキア隊のジムUとエゥーゴのリック・ドムもどきが急接近し、激突して一対一で火花を散らす。両者はそのまま母艦へ帰投し、その戦闘を最後に二つの艦隊は離れていった。
『最終段階においてトラキアMS隊とジャカルタMS隊による偶発的交戦こそ発生したものの、双方に大きな損害は無し。両者はそのまま接触を断って離脱しました。
 以降、第223戦隊は部隊を再編し、P-04への前進を再開――現時点までの状況報告は以上です』
『ふん、田舎部隊のジムUと互角か』
『しょせんは民兵。このリック・ドムもどきの新型も、大したことはなさそうですな』
 ジオン残党軍MS隊へ守られながら宙域深部へ後退する輸送艦へと、エゥーゴ部隊はまっすぐに接近していく。
 プレゼンテーションはそこで終了した。画面が閉じる。
 代わって大型モニターは再び、映像会議の参加者たちを映し出す。
 地球と月の狭間に浮かぶ、新サイド4のL1暗礁宙域。
 地球を挟んだ月の反対側、サイド7のL3宙域。
 L1――新サイド4復興再開発拠点《P-04》からの参加者は、ブリーファーを除いて二人。
 一人はP-04駐留部隊司令の男性准将。壮年のアジア系で、穏やかな微笑みを浮かべている。
 そこに異質な点があるとするなら、それは異常なまでに筋骨を隆起させた屈強な体格と、その顔面を非人間的なまでに歪める深く大きな傷跡だった。殊に右目の周辺からは肉が大きく抉れ、眼球がほぼ露出していた。
 そしてもう一人はすでに相当な高齢に達した白髪の、ヨーロッパ系の女性准将。肩書きは新サイド4駐留艦隊副司令。姿勢と眼光は確かだが、少なくとも容姿を見る限り、生半可な年齢ではない。
 もはや軍人としての現役など、何十年も前に勇退していて然るべきと見えた。
0136フェニックステイル第25話2017/01/03(火) 04:07:06.07ID:w5Du1ADY
 そして、L3――サイド7《グリーン・オアシス2》に築かれた地球連邦軍の新たな軍事拠点から参加するのは、禿頭に独特の赤い眼鏡を掛けた大柄な大佐と、傍らに立つ髭の少佐の二人。
 片や准将二人、片や佐官二人。両者の階級差は明らかだったが、それでもL3の佐官二人は鷹揚な構えを崩すことはない。
 理由は彼らの制服にあった。
 地球連邦軍制服に独自の意匠を加えた濃紺の制服は、ジオン残党組織の掃討を目的として独自の予算と強権を与えられた、地球連邦軍特殊部隊《ティターンズ》のものであった。
 そしてティターンズ所属将兵はその他の地球連邦軍一般部隊の将兵に対し、一から二階級上の扱いを受ける権限を有する。
 つまり、この赤眼鏡を掛けた禿頭の大佐は、その二階級上――准将を超えた少将としての格を有することになるのだ。
 まして彼がそのティターンズにあって、実働部隊における事実上の最高指揮官の地位にあるのであれば、本来の上官たちを歯牙にも掛けないその傲慢さも、実にもっともなことではあった。
「ふん、なるほど。ユン准将、ウォレン准将。貴官らからの情報提供には感謝しよう。
 エゥーゴ艦ジャカルタの追撃部隊には、すでに一個戦隊を手配した。間もなくコンペイトウから出撃する――彼らへの拠点の提供と、道案内をよろしく頼む」
 バスク・オム大佐が鷹揚に呟くと傍らの参謀、ジャマイカン・ダニンガン少佐が端末を操作し、派遣部隊の編成表を表示した。
 旗艦としてティターンズ自慢の新鋭重巡洋艦アレキサンドリア級一隻に、護衛のサラミス改級巡洋艦が二隻と、艦載MSが合計二十四機。ティターンズにおける標準的な戦闘単位である。
 だがそれを見て、凶相のP-04駐留部隊司令――ユン・ソギル准将はほんの少し、困ったように眉を顰めた。
『なあ、バスク君。ティターンズから援軍を寄越してくれる、というのはありがたい。ありがたいが――ちと、数が少なすぎはせんかね?』
『……少ない、とは?』
 バスクの傲慢さなど最初から意にも介していなかったかのように、ソギルは淡々と語りはじめる。
『ふむ。サイド7にあるバスク君のその快適なオフィスからでは、なかなか理解しづらいのかもしれんが。我々の任地である新サイド4は実に混沌としたところでね。
 先ほどの流れでも見てもらったように、この辺りにはジオンの残党がずいぶんと多い。しかも最近その動きはどんどん活発化していて、実は一年戦争の頃より増えているんじゃないかと思うぐらいだよ』
 はっはっは、と愉快そうにソギルは笑った。顔面が表情筋ごと抉り取られている、その右目だけを除いて。
『このジオン残党、ルスラン・フリートとエゥーゴが連携したのなら、その戦力は生半可なものではない。そこへ本格的に攻撃を仕掛けようというのなら、せめて、この十倍――三十隻は寄越していただきたいな?』
『な、何をバカなっ! 三十隻だと!? 新サイド4駐留艦隊の、全戦力の何倍だと思っているのだ!!』
 そこでバスクに代わり、傍らのジャマイカンが口角泡を飛ばして割り込んできた。
 二百機以上のMSを抱える三十隻もの大艦隊となれば、昨今拡大著しいティターンズといえど、おいそれと出せるようなものではないのだ。
 それほどの大戦力を一方面に抽出してしまえば、それこそ各地のエゥーゴとその予備軍を抑えられなくなるだろう。
 やれやれとソギルは溜息混じりに、出来の悪い教え子を相手にするかのように優しく諭す。
『君。暗礁宙域は攻めるに難く、守るに易いのだよ。基本中の基本だ――士官学校で習わなかったのかね?』
『そんなことを言ってはおらん! どんなふざけた丼勘定をすれば、この頭のおかしい戦力要求が出てくるのかと言っている! 山よりでかい猪などおらん。
 何がルスラン・フリートだ、過大評価が過ぎる! ギレン親衛隊を基盤とした最大勢力デラーズ・フリートが潰えた今、地球圏のジオン残党などはもはや風前の灯火よ!』
『そう言われてもな。現に我々の正面には、多数の残党軍が出没しておるのだよ。
 どう少なく見積もっても百機以上もの、大MS部隊を抱えた連中がな――それと新鋭装備のエゥーゴ戦艦が手を結んだというのなら、こちらも相応の勢力で挑まねば、かえって無用の損害を重ねるばかりではないかね』
『そもそも貴様等が自分の作戦区域にジオン残党どもの跳梁を許しておるから、そこをエゥーゴにつけ込まれたのだろう!
 いかなる犠牲を払ってでも、まず貴様等がジオン残党を殲滅して膳立てを整え、そのうえで我らがエゥーゴを叩くのが筋であろうが!!』
0137フェニックステイル第25話2017/01/03(火) 04:08:10.01ID:EeU7Yauz
『はて? 私の記憶が確かなら、ティターンズはジオン残党の掃討を目的として設立された組織のはず……。
 誇り高き地球連邦軍のエリートたる貴官らが、ジオン残党の巣窟たるサイド4を我らのごとき一般部隊に長年預けっぱなしにしたまま、今度はジオン残党ではなくエゥーゴとかいう新参者だけを相手にさせよと主張する……。
 何だかこれはずいぶん不思議な話ですな、ウォレン准将?』
 ソギルが飄々と水を向けたのは自身の傍らで、不機嫌そうに座ったままの老婆だった。
 彼女――ヨランダ・ウォレン准将はすべてを馬鹿にしきったような表情のまま、冷たい瞳でモニターの向こうのティターンズ将校二人を一瞥する。薄く乾いた唇を開いた。
『そうじゃな。三十隻など、とうてい話にならん』
『当然だ。我らティターンズは地球連邦軍最高の精鋭、一般部隊などとは格が違う! 厳しい選抜試験を潜り抜けてきたその精鋭部隊の三隻は、一般部隊の三十隻をも凌駕すると知れ!』
 ソギルの非常識な提案が新サイド4側の身内からも却下されたと見て、調子づいたジャマイカンが勢いに乗って畳みかける。
 だが、老婆は眉ひとつ動かさずに言葉を継いだ。
『全軍じゃ』
『――は?』
 言われた意味がまったく理解できず、ジャマイカン・ダニンガンはただその場で瞳を瞬かせた。
『いま地球圏にあるティターンズの宇宙艦隊、一隻残らず全軍寄越せ。もっとも中身がお前らんところの案山子じゃ百隻あっても正直足らんが、まあそこまでの贅沢は言わん。
 弾除けぐらいには使ってやる。ほれ、そこの眼鏡小僧。四の五の言わずにさっさと集めろ。もちろん、お前ら自前の補給艦隊と兵站も込みでな』
『……ティターンズを愚弄するか、……貴様……』
 真正面から罵倒されて、バスクは瞬間的に沸騰した。隣に立つジャマイカンが、あまりの殺気に思わずひっと呻いて立ちすくむ。
 バスク・オムは『暴力』の本質を知り、そして自在に使いこなす男であった。一年戦争以来の地球連邦軍を飲み込んできた混沌の渦中にあって、この男はその才によって身を立て、這い上がってきたと言っていい。
 必要とあらば、バスクはいかに凶悪で非道な暴力の行使にも躊躇しなかった。彼にはそれらを可能とする、人と組織を思うがままに動かす豪腕が備わっている。
 その人並みはずれた野生の嗅覚と行動力に導かれて、今日の彼はいまティターンズ実働部隊の事実上の頂点に登り詰めたのだ。
 そしてP-04の二人は、そんなバスクの怒りをまったく相手にしていなかった。
 ソギルは相変わらずの穏やかな微笑みを浮かべたまま、ヨランダはティターンズの二人を小馬鹿にしきった呆れ顔のまま。
『なにが精鋭じゃ、この阿呆』
 そして救いようのない馬鹿者を見下ろす表情で、ヨランダが冷たく言い捨てた。
「お前んとこの案山子、まとめてあいつらに沈められとろうが」
『――何……?』
『ほれ、お前らが月軌道の哨戒に出しとった117戦隊じゃ』
 ヨランダが目配せするや、モニターが再び切り替わった。月を背にしたアレキサンドリア級重巡洋艦とサラミス改級巡洋艦を映し出す。ティターンズ艦二隻と、一般部隊のサラミス改が一隻の混成だ。日付は2月22日。
『――まさか、あれは』
 はっと息を呑んだジャマイカンをよそに、再び映像が切り替わる。
0138フェニックステイル第25話2017/01/03(火) 04:09:46.03ID:qX7fZYuo
 望遠で捉えられた粗い映像。今度は暗礁宙域で、先ほどのアレキサンドリア級とサラミス改級の戦隊が何者かと交戦している。今度の日付は2月25日――巡洋艦アバリスの撃沈と同日。
 冒頭の資料映像でも見えた、ジム改もどきのエゥーゴ機が編隊を組んで迫る。
 その編隊が構えた銃口から弾幕じみた圧倒的なビーム連射が放たれるや、棒立ちで反撃を試みた前衛のRMS-106《ハイザック》があっさりと撃ち負けて次々に被弾、無数の光軸に貫かれてひとたまりもなく爆散した。
 ティターンズMS隊の戦列が、一方的に蹂躙されながら突き崩されていく。
 BR-S85ビームライフルから連射を放って必死に抵抗するRGM-79CR《ジム改高機動型》が、速すぎる敵機の機動へまったく対応できず、コクピットを背後からビームサーベルで串刺しにされた。
 リック・ドムもどきの新型に貫かれ、痙攣したように硬直する。その仇を取ろうとするかのように僚機が駆けつけるが、次の瞬間にはまた別のジム系新型と思しき敵からビームライフルを叩き込まれて爆散した。
 と、暗礁宙域の奥から光芒が煌めく。艦砲射撃の太く力強い光軸の束が、数本まとめてアレキサンドリア級の艦体中央に吸い込まれた。それだけでティターンズが誇る新鋭重巡は、暗闇に膨れ上がる光熱の泡となって消えた。
 瞬く間に旗艦とMS隊のほとんどを失った残りのサラミス改は、必死に急速反転して離脱を試みる。
 だが、エゥーゴは逃さない。
 多数のジム改高機動型やハイザックを縦横無尽に斬り捨てていたリック・ドム擬きの新型機が、足並みの揃わない弾幕の下をあっさり掻い潜って敵艦へ迫る。
 二隻の艦橋を瞬く間にバズーカで爆砕して行き足を止めると、四方八方からエゥーゴのジム隊が放つビームライフルの一斉射撃と艦砲の第二斉射が、サラミス改の二隻をも火球に変えた。
 時間にして、わずか三分足らず。
 たったそれだけの時間で、ティターンズ第117戦隊は完全に消滅した。そして二十機以上のMSと三隻の巡洋艦を沈めていながら、エゥーゴMS隊はほとんど損害を受けていない。
 それは、あまりにも一方的な虐殺だった。
 鮮やかすぎる完勝を収めたエゥーゴMS隊は、次々に母艦へ帰投していく――自らの艦砲でも二隻の敵艦を屠った、戦艦ジャカルタへ向けて。
 記録映像は、そこで終わった。
『お前らが言う《精鋭》とやらの一個戦隊ごとき、ダミー風船より役に立たんわ』
『そ、そんな……117戦隊が……ま、まさか……しかし、……そんな……』
『ん? まさかお前ら、こいつらがジャカルタ一隻に食われとったことすら知らんかったのか? いやぁ、さすがは精鋭ティターンズ。上が有能だと、部下どももマメに報告する優秀なのが揃っていて羨ましいのう』
 数日前に消息を絶った配下の精鋭と自負する戦隊の末路を、予想外の経路から予想外の場所で知らされてジャマイカンは狼狽する。
 邪悪に笑うヨランダの傍らで、ほほう、と大きく唸りながら、どうでもいい世間話のように軽い調子でソギルが訊いた。
『フム。ウォレン准将、この映像はどうやって入手されました? 暗礁宙域の全天をカバーする監視網など、貴方の部隊にもまだ無いはずですが――』
『なあに。ま……蛇の道は蛇よ』
 ――人的諜報網か。
 ヨランダ・ウォレン准将。三十年近く前に地球連邦軍を退役し、そして数年前、齢九十を前にしながら准将の階級で現役復帰した老将。
 もはや連邦軍にも再任前の彼女を知る者は少ないが、当時の噂の片鱗ぐらいはバスクも耳にしていた。
 特殊戦の女帝。
 地球圏の各地でくすぶる反地球連邦の火種を、火種のうちに情け容赦なく探り出しては蹂躙し、跡形もなく踏み潰してきた死の部隊を率いた女。
 情報戦と諜報戦を自在に操り、ジオン公国台頭前夜まで地球圏の『平和』をほの暗い闇の底から支え続けた、地球連邦暗黒面の生ける伝説。
 おそらく彼女は現役復帰後に再建したその情報網で、117戦隊とジャカルタ双方の動向を掴んだ。そこで両者交戦の気配を知るや、配下のMS隊を向かわせたのだ。そして密かに一部始終を撮影させた。
 友軍を救援するためではなく、ただ情報を掴ませるためだけに。
0139フェニックステイル第25話2017/01/03(火) 04:10:58.81ID:8nJ5ly6n
 ひらり、とヨランダが記憶媒体をその手にかざす。
『この映像、なあ。なんなら儂の伝手で、宇宙軍の全部隊に回覧させてやってもええのだぞ? 何せ貴重な、エゥーゴの脅威と暴虐を伝える資料じゃからなあ。
 ククク。これを全軍で共有してやれば、さぞ反エゥーゴ感情が盛り上がろうて』
『ぐう、う……っ!』
 きつく歯噛みするバスクを、ヨランダは鼻でせせら笑った。
 地球連邦宇宙軍将兵の大半は、地球至上主義を掲げる現政権とティターンズを快く思ってはいない。
 地球復興に偏重した政策を取る地球連邦政府によって、大半の宇宙軍部隊は十分な予算を供給されていない。今や将兵への給与遅配すら常態化しつつあるのだ。
 そして対照的に優先的な予算配当を受けながら、その特権を享受し濫用するティターンズ将兵は、一般部隊から強烈な反感を集めている。
 そんな状況の中、数で勝ったティターンズ部隊がこれほど無惨にエゥーゴによって殲滅される映像などが公開されようものなら、どうなるか。
 ティターンズの名誉と威信は完全に失墜し、エゥーゴと連邦軍内部の反ティターンズ分子はいよいよもって勢いづくだろう。
『ティターンズ恐るるに足らず』と見れば、今まで様子見していた部隊までもが雪崩を打って一斉にエゥーゴへ参加してくるかもしれない。
 まだ早すぎる。バスクが時間を惜しんで精力的に押し進めてきた数々の施策が実を結び、ティターンズが本当に圧倒的な軍事力を獲得して盤石の支配態勢を確立するまでには、まだもう少しの時間が必要だ。
 今の時点でそうなってしまえば、ティターンズは――そして今度こそ地球圏は、壊れる。
『とはいえ、まあ儂も鬼ではない。お前らもいま抱え込んどる案山子どもを、今の布陣のまま雑魚の水準まで鍛え直す時間が欲しいじゃろう。
 儂らの方も、いちいち案山子のオムツをせっせと換えて回っていられるほど暇でもないしな。それで、じゃ』
 ヨランダの瞳が、不意に昏い光を帯びてバスクを嘗めた。
『お前らが丸め込んどる、《コンペイトウ》のニュータイプ研究所な。あそこの部隊で手を打ってやろう。ずいぶん出来のいい強化人間が二人と、――あるんじゃろ? そこにも新型の《ガンダム》が』
『……《ヘイズル》はガンダムではない』
『似たようなもんじゃろうが。ええから、四の五の言わずにさっさと寄越せ――出し惜しみは為にならんぞ』
 厳重に秘匿していたはずの研究機関の存在と、ティターンズによる取り込み交渉の進捗、そしてその内実を当然のように言い当てられて、もはやバスクはじりじりと後ずさる以外になかった。
 完全に圧倒されたバスクを、嘗めきった強者の圧力でヨランダが押し切る。
『しかしお前ら、本当にそこいらじゅうで余計な墓穴ばっかり掘ってくれとるのう。
 ああ、そうそう。ジャミトフ・ハイマン。あいつな、この前ちょっと茶飲み相手に映像会議で呼び出してやったら、お前が宇宙でやらかしとるポカはロクに知らんかったぞ?』
『――ジャミトフ、大将……?』
 ティターンズ総帥、ジャミトフ・ハイマン大将。
 四年前のデラーズ紛争とコロニー落下『事故』に際し、連邦軍内部でその権力を劇的に拡大してティターンズを築き上げた男。
 自ら地球連邦議会にも議席を持つジャミトフは、今や軍と政府の両面を席巻するほどの絶大な政治力を縦横に振るって、地球からその権勢を支え続けている。
 ジャミトフからティターンズの実働部隊を宇宙で預かるバスクは、今まで数々の『独断専行』を繰り返してきた。中には大きな成果を挙げたものも、露見すれば政治的に致命傷となりかねないものも含まれている。
 そして上官たるジャミトフが必ずしもそれらの行いを肯定していないことは、誰よりもバスク自身が知悉している。
 バスク・オムとジャミトフ・ハイマン――互いの存在を不可欠とする両者は、しかし同時に微妙な緊張状態にあった。
0140フェニックステイル第25話2017/01/03(火) 04:13:01.83ID:lv+WHhtU
『あの鷲鼻のクソガキ。多少出世したぐらいで今はずいぶん偉そうにしとるが、士官学校の営庭で儂に蹴飛ばされてゲロと鼻水垂れ流しとった頃から何も変わっとらんなアイツ。
 ロクに部下の面倒も見きれんくせに、青臭いガキの屁理屈ばっかり捏ねくりまわしおって。五十年経って未だにアレでは、やれやれ、地球連邦軍の行く末も暗いわ』
『ウォレン准将。いくら昔の教え子でも、今は大将閣下であられますよ。そのような物言いは、いかがなものかと』
『クソガキは大将閣下でもクソガキじゃ。大体あの鷲鼻小僧、いつになったら菓子折提げて儂のところへ挨拶に来るんじゃ? おい、そこのポンコツ眼鏡。
 いつまでも大恩師様に不義理な真似をさらしとると、キリマンジャロの万年雪に鼻から突き刺して逆さに埋めるぞ――あと仕事はきっちりやれ、とジャミトフの小僧に伝えろ。それからチョビ髭』
『はっ!?』
 ティターンズとバスクを愚弄するどころか、総帥ジャミトフ・ハイマン大将までもをクソガキ呼ばわりし、そのうえ直接のパイプを示唆してのけた老将から、いきなり話を振られてジャマイカンはびくりと背筋を震わせた。
 もはや連邦宇宙軍の全一般部隊に情報がどうの、という話だけでは済まない。この老婆の前で下手をすれば、すべての情報が直接ジャミトフの耳へ入れられてしまうのだ。
『コンペイトウからのニタ研部隊派遣の話は、今後お前が取り仕切って進めろ。部隊は今週じゅうにP-04へ寄越せ。到着が少しでも遅れるようなら、……分かっとるな?』
『そ、そこは、み、見積もりを……見積もりを、出させていただけませんと……』
『儂はお前の意見なぞ聞いておらん。儂が出来ると言うたら、出来るのじゃ。今の仕事が向いておらんようなら……そうじゃな。
 静かで涼しいアステロイドベルトで、石ころの数を数える仕事を手配してやってもええのだぞ? 分かったら、やれ。……分かったな?』
『はっ、……ははぁっ!!』
 完全に傍らのバスクの頭越しで命じられながら、絶大な圧力に耐えきれずにジャマイカンは腰を折った。もはやバスクもそれを制止しようとしない。
『ほほう、噂の人工ニュータイプ部隊ですか? それは心強い援軍ですな』
 きつく歯噛みしながらもヨランダに抑え込まれたままのバスクをよそに、微笑みをまったく崩していないソギルが話を継いだ。
『おう。各地のニタ研はかなりの失敗続きらしいが、コンペイトウの奴はなかなかの仕上がりだと聞いておるぞ。のう、ソギル――これはお前のところの子飼いどもも、うかうかしてはおられんかもしれんなぁ?』
『ははは。新世代の精鋭諸君の足を引っ張ることがないよう、今後とも指導に全力を尽くしましょう』
 傍らのソギルを見るヨランダの瞳にそのとき一瞬、剣呑な殺気が宿った。だがソギルは穏やかに微笑んだまま、モニターの向こうでぎりぎりときつく歯噛みするバスクへと視線を戻す。
『バスク君。先ほどはウォレン准将がいろいろと厳しい言葉も使われたが、どうか気を悪くしないでほしい。
 ティターンズの諸君と我々は、ともに地球連邦の旗の下で、地球圏の安定と平和を願う同志だ。私とて、バスク君の置かれた難しい立場は理解しているつもりなのだよ』
 傲岸不遜の極みからバスクらティターンズを嘲弄してのけた、ヨランダに対する憤怒の情に満ち満ちたバスクの意図を、勝手に読み替えながらソギルが続ける。
『そして君が戦場へ直接率いたわけではないとはいえ、数百人もの部下を失った君の今の気持ちもよく分かるつもりだ。心中を察しよう。彼らの霊の安らかならんことを』
 不意に微笑みを消し、代わってソギルは神妙な表情を浮かべた。
 だが今のバスクは多くの部下を失った悲しみではなく、自分の立場を危うくしかねない脅迫材料をヨランダに握らせてしまった無能な部下たちへの怒りと屈辱に震えている。
 そんなバスクの内心を知ってか知らずか、ソギルは淡々と言葉を継いで尋ねた。
『だが最終的に指揮官たるものが、志半ばで倒れた兵たちに報いる術はひとつだ。……分かるかね?』
『……最終的に敵を完全に打ち破って抵抗の意志を奪い、決定的な不動の勝利を掴み取ることだろう』
『ふうむ。それもある。それもあるが……私の答えは、もっと単純だ』
0141フェニックステイル第25話2017/01/03(火) 04:16:00.01ID:l4SvEeUf
『何……?』
 戸惑うバスクを前に、ソギルはふっと破顔した。
『敵を殺し尽くすこと。皆殺しにすること。根絶やしにすること』
 にい、と口角を釣り上げてソギルは笑う。
 バスクはそれだけで、背中にナイフの刃を押し当てられたように硬直する。
 それは間違いようのない、本物の悪魔の笑顔だった。
『戦いの本質とは、これに尽きる。一年戦争の最初の半月で、私はそれを身を以て学んだ。バスク君……私はね、君を本当に高く評価しているのだよ。ほら。サイド1の30バンチ――』
 それは一昨年、『伝染病の蔓延』によって住民全員が死滅したコロニーだ。公式にはそう発表されている。
 そしてティターンズとバスクにとっては、その背後に潜む真実を決して知られてはならない忌み名でもあった。
 その名をたやすく口に出しながら、ソギルは至福の笑みを浮かべている。
『私はああいう、思い切りのいい仕事が出来る指揮官を探していたんだよ。ただ……君にはまだ、迷いが見える。
 慎重になりすぎて、腰が引けてしまっている。せっかくいい素質を持っているのに、勿体ない――それでは、まだ、ダメだ』
 苦笑しながら、すう、とソギルは片手を上げた。
『ダメだよ、君。もっと大勢、殺さなくては』
『…………ひっ……』
 カメラとモニターと七十五万キロメートルの距離を超えて、その手がまっすぐ伸びてくる。
 冷たい手だ。
 生者の温もりを持たない、そして一人のものではあり得ない、信じられないほど大勢の冷たい手。
 それら無数の気配が自らの喉頸に掛けられる感触を、はっきりとバスクは感じた。
 ガタン、と不意にバスクの背後で椅子が音を立てる。無意識のうちにバスクは椅子を引いて数十センチの距離を逃れ、その背を壁に押しつけていたのだ。
 その音が響いたときには、モニターに映るソギルの手は元の位置まで戻っていた。表情も元通りの穏やかな微笑みを浮かべている。
『――バスク君。ティターンズの居心地が悪くなったら、いつでも私のところに来なさい。座り心地のいい椅子を用意して、君をもっと、もっと強くなれるように鍛えてあげよう』
『……か、……考えて、おこう……』
 バスクを誘う悪魔の手招き。ヨランダと女性士官は冷たく乾いた瞳で、それを横から見つめている。
『それとな、バスク君――身辺に気をつけたまえ』
『身辺……?』
 訝しがるバスクに、うむ、とソギルは力強く頷いた。
『エゥーゴはついに戦力を整え、本格的に動きはじめた。新サイド4のジャカルタは陽動、という可能性もある。私がエゥーゴの立場なら――まず最初に君の本拠、グリーンノアを狙う』
『何を馬鹿なッ!!』
 呪いのようだった何ものかが解けたことを確かめるかのように、バスクは力強く立ち上がって猛然と叫んだ。
『グリーンノアの守りは鉄壁だ! ネズミ一匹入り込ませはせん。エゥーゴがどれほどの艦隊を押し立ててこようが、すべて返り討ちにしてくれるわ!』
『ほう、それは頼もしいことだ。私の杞憂であることを祈ろう。しかし、エゥーゴは――案外もう、すぐ近くにまで来ているかもしれんよ』
 にい、とソギルが笑った。
 その凶相の迫力にティターンズの二人が気圧される中、ヨランダが退屈そうに時計を眺めて呟いた。
『さて、……いい時間じゃな。おいチョビ髭。コンペイトウの件、しっかり働けよ』
『は……は、ははっ!!』
『それでは、今回の映像会議を終了いたします。ありがとうございました』
 ヨランダがジャマイカンを睨みつけると、すべてを無言で見守っていたブリーファーの女性士官の言葉を最後に、通信画面は閉じた。
0142フェニックステイル第25話2017/01/03(火) 04:17:10.96ID:ijZjWS0z
 モニターが消えたグリーンノア2の執務室には、奇妙な静寂だけが残った。静かに震えるバスクの背中に、ジャマイカンが何か声を掛けようとして果たせず狼狽する。
「た、大佐――ひいっ!」
「ぬううっ!!」
 ジャマイカンの前で唐突に、執務机の天板が陥没した。振り上げられたバスクの豪腕が破壊したのだ。
 バスク・オムの内心はなお、それだけでは収まりきらない激情の渦に満ち満ちていた。
「ルウムの、……亡霊どもがぁ……っ!!」
 これほどまでの屈辱と憤怒は四年前、デラーズ紛争の最終局面でソーラ・レイUの照射を阻止され、北米大陸へのコロニー落着を許した時以来だ。
 あのときの彼は怒りの感情に任せたソーラ・レイUの第二射で、その原因となった敵巨大MAと敵対派閥のMAを、自らの艦隊ごと薙ぎ払った。
 だが、今の彼に同じことは出来ない。屈辱と憤怒の他にもう一つ別の強烈な感情を、彼は深々と刻みつけられている。
 ――恐怖。
 まったく別々の手段で彼に今回の激情をもたらした新サイド4の准将二人は、あまりにも強大すぎた。
 バスク・オムは、暴力を知る男である。
 暴力で他者を屈服させる術に長けていたからこそ、彼は今のこの地位まで登り詰めることが出来た。そして同時にそれゆえ、彼は暴力の臭いに人一倍敏感である。
 あの異常者たちには、いま仕掛けても勝てない――彼に残された野生の本能がそう看破し、彼の軽挙を必死に制止したのだ。
 だが、とバスクは思う。それも長くは続かない。いや、続かせない。
 今後すべての連邦軍MSの新基準となる、RX-178《ガンダムMkU》計画も完成間近。最新技術の最先端として研究成果を挙げ続ける、各地のニタ研も傘下に入りつつある。ジオン共和国との協力態勢も好調だ。
 そしてルナツーとグリプス、ア・バオア・クーを一カ所に集中させて難攻不落の宇宙拠点とする『ゼダンの門』構想も動き始めた。その中核となるべき、グリーンノア2それ自体を用いた最終兵器の建設準備も――。
 あと少し。
 あと少しの時を稼ぐことができれば、ティターンズは地球圏に盤石の安定を築くことが出来るのだ。たかが旧式兵器で武装した辺境部隊など、その時になればどうにでも出来る。
 そして同時に彼らは今の連邦宇宙軍では数少ない、決してエゥーゴには付かないと明言できる勢力の一つでもある。
 そう――あの連中がエゥーゴに付くことだけは、ない。それだけは信用できた。そして現状では、それだけで十分なのだった。
 まずはエゥーゴを潰し、連邦軍全体を呑み込む。ジャミトフも、いずれ――。
 その時までは、ひたすら前に進み続ける。久々に味わわせられたこの怒りは、そのための力とすることにしよう。
「……ビダン大尉を呼べ。グリーンノア1の、ガンダムMkUの現況を知りたい」
「はっ!」
 この激情を忘れるためには、また再び膨大な仕事量の中へと自らを埋没させていくしかない。
 上官が落ち着きを取り戻したのを見るや、ジャマイカンは安堵とともに慌てて執務室を立ち去った。
 血の巡りが止まって白くなるほど、きつく握りしめていた拳をバスクは開く。掌へ食い込んだ爪痕から、赤い血がゆっくりと溢れ出てくる。
「くそがぁっ!!」
 バスクの振り上げた渾身の鉄拳が、今度こそ彼の執務机を完全に破壊した。
0143フェニックステイル第25話2017/01/03(火) 04:19:28.76ID:X8UK6lvn
 閉鎖型コロニー、グリーンノア2と開放型のグリーンノア1、そして宇宙要塞ルナツーが形成するサイド7。
 その防空圏内に今、一隻の白い戦闘艦が侵入している。
 かつて一年戦争で活躍した伝説の強襲揚陸艦《ホワイトベース》を思わせつつ、さらに洗練されたシルエットを持つ白亜の新造艦。
 その艦体左右へ張り出したMSカタパルトで前傾姿勢を取っている赤い重MSが、新サイド4からティターンズへと粗い画像で提供された機体と同一のものであることを、まだこの時点で知る者はない。
『クワトロ・バジーナ。リック・ディアス、出る!』
 電磁カタパルトが叩き出す強烈な加速とともに、重厚な巨体に似合わぬ軽快さでその機体は舞い上がった。後方へ付く黒い塗装の同型機二機を従え、彼らの三機編隊はグリーンノア2を目指して無尽の宇宙を進行していく。
 時にU.C.0087、3月2日。
 宇宙世紀の歴史は、この日をグリプス戦役開戦の日として記録している。
0144フェニックステイル第25話投下終了2017/01/03(火) 04:25:51.92ID:5O443ogg
今回はここまでです。
昨年は>>129で三次創作まで書いていただき、本当にありがとうございました!
こちらも次回こそエロ場面をお届けいたします。

それでは本年も、引き続きよろしくお願いいたします。
0147フェニックステイル第26話投下準備2017/01/29(日) 11:47:26.77ID:qcBib1Lw
フェニックステイル26話の冒頭部分を投下します。
久方ぶりにエロ入りますが、いかんせん内容がだいぶアレなので、許せる方は笑って許してください。
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