ガンダムヒロインズMARK ]Y [無断転載禁止]©bbspink.com
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語るも良し!エロパロ書くも良し!
ガンダムの娘ッ子どもで妄想が膨らむ奴は集え!
ガンダム以外の富野作品やGジェネ、ガンダムの世界観を使った二次創作もとりあえず可!
で、SSは随時絶賛募集中!
■前スレ
ガンダムヒロインズ MARK ]X
http://nasu.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1385961055/
■関連スレ
ガンダムビルドファイターズでエロパロ
http://nasu.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1381888018/ 国民よ立て!妄想を執筆力に変えて、立てよ国民!
このスレは諸君等の力を欲しているのだ。
ジーク・ジオン!! ずっと書き続けられる根気に敬服します
77 :
名無しさん@ピンキー
2016/06/06(月) 22:45:34.87 ID:o0GF9OET
ルールカの髪コキssください!
78 :
名無しさん@ピンキー
2016/06/06(月) 22:49:24.95 ID:o0GF9OET
ノーベルガンダムかルイスかポケットの中の戦争のクリスのどちらかによる髪コキご奉仕ssください 感想は無いがクレクレだけは立派
書き手に薦められるスレッドでは無い罠 誰も書いてくれないからさ……!じゃあ髪の毛で尿道攻めされるのでいいよ! ISAPとゴミクズ信者がスレ占拠してた時から
ここにはクレクレしかいなかったゾ ISAPがVoice of 髪コキを書けばすべて解決 あきらめろ
誰も書いてくれんよ
今季の萌えアニメとかの方がまだ可能性がありそうだ
おねだりするならそんなスレ探せ 正直ここのSSより髪コキ基地の方がずっとか面白いからもっとやれ ルー・ルカとルイス・ハレヴィの髪オナホ髪コキご奉仕がみたいんじゃ…集団でおかされる時に髪コキを少しいれるのじゃなくて1から十まで髪コキでおかされたい!!!! そういうことにしていいからさっさと髪コキSS書いてください 三ヶ月ぶりですが、投下します。
二万文字を超えてしまいました。10レス以上になると思います。
一回で投下しきれるか分かりませんが、行けるところまで行ってみます。
申し訳ありませんが、今回も直接的なエロはありません。
第二章はようやく今回で完結となります。 ――もしビーム・スプレーガンを構えた旧式のジムが、L1の暗礁宙域に現れたら。
決して見るな、寄るな、戦うな。
その影はルウムの悪霊。ジオンの核に焼かれた二十億の怨念の権化。
触れてはならない。
触れたが最後、地獄の底まで引きずり込まれる。
挑んではならない。
冥府の使いに生者の剣など通りはしない。
奴を倒せるとすれば、それは、おそらく―― 暗礁の宇宙に二条の光がもつれ合う。絡まる度に火花が爆ぜる。
推進の噴焔を曳いてビームサーベルとナギナタの光刃を打ち合い、メガ粒子の干渉波を撒き散らしていくのは二機のMS。
RGM-79GSR《ゲシュレイ》とMS-14A《ゲルググ》は、暗礁宙域に鮮烈な軌跡を曳きながら互いに激しく絡み合う。彼我の斬撃で飛び散るメガ粒子とともに、オープン回線から男の心底楽しげな哄笑が弾けていた。
『ハアァッハハハァァァアアアッッ!! いいねェ! やるねぇ! 楽しいじゃねぇかッ、坊さんよォ!!』
『否、拙者は居士。僧籍に非ず――凡俗たる不浄の身より、宇宙に仏道を求める者』
『こまけぇこたァいいんだよ!』
残された唯一の武装であるビームナギナタを縦横に駆使して、片腕を失ったゲルググは執拗にゲシュレイへ絡みつく。隻腕のゲルググはむしろ軽くなったとでも言わんばかりに高機動を見せつけており、傍目にその攻防は互角に見える。
だが二刀構えで躍るゲンナーはその実、懐にまだビームガンを残していた。ゲシュレイは連邦系MSの定番兵装たる頭部バルカン砲を廃した機体ではあるが、それでも距離を開かれればその瞬間に勝負は決する。
食らいつくゲルググを前に、あくまで主導権はゲシュレイの側が握っていた。
『最高だなオイ! オープン回線で垂れ流してたさっきの説教、良かったぜぇ。感動した! やっぱりジオンの残党ってのは、アンタみたいな風でなくっちゃいけねぇ!』
アジテータに魅せられた狂信者の熱量で、剣戟の隙間からゲンナーは吠える。殺戮への最短距離を走る無駄のない光刃とともに。
『てめぇんとこ以外のスペースノイドはサクッと五十億殺してのけて、ドンとでっかく胸を張る! そう男前に割り切れてこそ、ジオンの武人様って奴だ!』
『南無阿弥陀仏。ジオンの核は清浄再生の聖火。宇宙衆生たるべき道を外した五十億の連邦亡者を現世の妄執から解き放ち、新たな人の世の礎を宇宙に築いたが我らの功徳』
『そうそう、それそれ。それだよ、それ――それが聞きたかったんだよォ!』
互いの肉体を締め上げ続ける超10G級の加速度ごと、ゲンナーはひどく楽しげに笑い飛ばした。純粋な歓喜と賛意とともに、清廉な殺意が二条の光刃に宿って迫る。それをナギナタの両刃で同時に捌きながら、ゲオルグはただ平静なまま反撃の糸口を探していた。
『――なのに最近の残党どもと来たら、コロッと急に言うこと変えてよ。全スペースノイド解放の大義がどうのこうのとほざきやがる。ガッカリだぜ。
違うだろと。そうじゃねえだろと。お前んとこが救うのは、ジオンの選民様だけだったろぉ? せっかく成し遂げた皆殺しのデッカイ偉業を、そんなに忘れちまいたいのかねぇ』
『我らは忘れぬ』
『――ホ?』
『ジオン勝利に不可欠の礎となった、ルウム二十億柱の無縁仏。その完全成仏を祈りつつ――その入寂を無駄ならしめぬ、宇宙浄土の新たな礎を築かんがため。我ら、大ジオン仏道はここに在る』
『いいね』
にい、とゲンナーは心底嬉しそうに笑う。
『いいね、アンタ。本当に、いい……アンタみたいな奴と戦りたい、ってな。俺ァ、ずーっと思ってたんだ……だから――もっと来いよ! 前に来て戯れろよ。楽しいお遊戯タイムにしようぜェ!』
『!』
だがそのとき、後方宙域を閃光の束が押し貫いた。
デブリを焼き尽くして走る、メガ粒子の奔流――それは巡洋艦の艦砲斉射だ。呑まれたリック・ドム二機が爆光を広げる。
その猛火力を放ちながら現れた新手のサラミス改級巡洋艦は、MS甲板から次々とカタパルトでジムUを発艦させてくる。先陣を切った機体は一際目立つ加速で、交戦中の友軍駆逐艦を目指す最短経路を驀進してきた。
戦闘宙域へと接近しつつあったルスラン・フリートの増援MS隊第二波から、MS-18E《ケンプファー》がそこへ急加速で突出する。その重武装をもって新たな連邦軍増援部隊の出足を叩かんと、スラスターも焼けよと言わんばかりの超10G級高加速を維持しながら迫っていく。
『……修羅道!』
だがゲオルグは元ジオン特務部隊員による迎撃の結果を見るまでもなく、光刃越しにゲシュレイへ強烈な当たりを掛けた。高速機動する二人の隙間へ大型デブリが割り込むや、ゲオルグは全出力で弾けるように離脱していく。
『ああ!? なんだよオイ、お前もマコトが気になんのか!? ――畜生、袖にされちまったか。しゃあねぇ――』
そして敵機に見捨てられたゲンナーは、もはや逆上してその背を追いすがるでも、強敵たちに狙われた旧友を助けようとするでもなく、ただ前進経路上の獲物を睨んだ。唇を嘗める。
依然として後退中の偽装貨物船《ケンドー丸》。壮絶な高機動戦闘を展開しながら、ゲンナーはその艦尾を捉えられる間合いにまで迫っていたのだ。 「じゃ、気ィ取り直してこっち喰うか」
ビームサーベルを腰のラックに戻し、ゲシュレイの標準射撃兵装であるBG-M79Rビームガンに持ち替える。
それはマコトの愛用するビームスプレーガン改同様、一年戦争時の旧式ビーム兵器の改良型だ。
BR-S85のような中距離戦闘には対応し切れていないが、ビームの長時間照射――ギロチン・バーストと呼ぶ者もいる――が可能という特性を有している。つまり『撃ち抜く』のではなく『切り裂く』運用が可能だった。
BG-M79は《P-04》でゲシュレイとともに近代化改修を受ける前の一年戦争モデルでさえ、MA-05《ビグロ》の重厚堅牢な巨体を一射で爆散させるだけの破壊力を実証している。
ましてゲンナーの手に掛かれば、コロンブス級輸送艦などひとたまりもない。
ビームガンが狙うその甲板が光ったと思う間もなく、巡洋艦の主砲クラスの火線がゲシュレイの影を薙ぎ消す。
コロンブス艦上で密かに射点を変えていたビーム・バズーカから、不意急襲で放たれた数秒の照射。巧みな照準と絶好のタイミングで照準点近傍を薙ぎ払った死の光線は、肉薄する敵機を確実に蒸発させるはずだった。
「惜しい」
だがゲンナーは己の勘に従うまま見透かしたような機動で、あっさりとビーム狙撃を外していた。
ビーム・バズーカほどの大出力火器、それも長時間照射のあとで第二射はすぐに出せない。火点も知れた。その前に撃沈できる。
レティクルの中へと見る間に大きく迫る敵艦に向けて、ゲンナーは唇を舐める。だがビームガンのトリガーを引こうとした瞬間、その眼前へ曳光弾の火線が走った。
『ニュータイプを守れッ!!』
MS-09R《リック・ドム》を輸送してきた後、離脱するケンドー丸の後衛に付いていた《コムサイ改》級哨戒艇だった。
二隻。数門の機銃からあらん限りの火線を放ち、体当たりも辞さずの勢いでゲシュレイの行く手を阻まんと肉薄してくる。
『落ちろォッ!!』
艇首部のミサイル・ランチャーが火を噴く。ゲシュレイの軌跡へ覆い被さるように、盛大な火箭の雨が降り注ぐ。
コムサイ改二隻分の全弾斉射が巨大な爆炎の連鎖を広げ、二隻はそれを掠めるような急旋回で離脱に入った。 『や、やった――ゲブ!』
ゲシュレイの蹴り足が真上から、コムサイ改の艇首ブリッジ部を踏み潰した。
艇内格納庫にMS二機を呑んで余りある巨体を蹴撃ひとつで沈めつつ、哨戒艇を踏み台にした全力噴射でゲシュレイが跳ねる。
『ひッ――』
迷いのない機動は一瞬にして、後続のもう一隻へ深々と突き刺さっていた。薄い甲板を踏み抜かないよう、艇体構造のもっとも強固な部分を狙って蹴り足を突き入れる。
そして跳び去るゲシュレイから真後ろに二条の光軸が走ると、二隻のコムサイ改は揃って心臓部を貫かれ、巨大な火球と化して爆散した。いずれの艇からも、乗員の脱出は皆無だった。
「はッ。艇でMSを殺ろうってんなら、もっと覚悟が無ェとなァ」
飛び石にした二隻のコムサイ改を一瞬で爆沈させ、ゲンナーはもはや目前に迫った偽装貨物船の後ろ姿へと再び狙いを定める。
「俺がパブリクでザクを狩るときはそうやってた」
プチモビに操作される甲板上のビーム・バズーカは再充填しつつ、なお鎌首をもたげて狙い返してきている。
そして見れば甲板上には、他にもプチモビの群がわらわらと現れていた。不相応に巨大なザクマシンガンやシュツルム・ファウストを構え、必死の防御射撃を仕掛けてくる。
だがゲンナーには、そんな急拵えの対空砲もどきなど眼中にもない。ろくに定まりもしない120ミリの弾道が軽妙な機動の間近を掠めていっても、冷たい瞳でつまらなさそうに、ふん、と鼻を鳴らすだけだ。
「ダメだ。不味ィ。さっきのゲルググ坊主は良かったのに、ジオンの残党も『天然』モンはめっきり味が落ちちまった。やっぱここは真面目に本腰入れて、俺が『養殖』してやらねェとダメか――ほッ!」
だからゲシュレイの鼻先へと曳光弾が降り注いできたとき、その正確な火線を紙一重で回避したゲンナーは心底嬉しげな表情を浮かべたのだった。
逆落としに迫りくるのはMS-06FZ《ザク改》の二機編隊。ルスラン・フリート増援第二波の一翼だった。
片やMMP-80型ザクマシンガンから高初速の90ミリ弾を放ち、その精確な射線でゲンナーの高機動にも追従して巧みに牽制。そして片や長柄のヒートホークを振りかぶり、デブリの合間から絶妙の死角を縫いながら切りかかってくる。
迷いのない操縦にはいずれも手練の気迫がある。先ほど突出して無謀にも単機でマコト・ハヤカワ准尉機へ挑み、それでも半壊しただけで生き残るという凄腕を見せつけたケンプファーの僚機と見えた。
「なんだよオイ――今度はお前らが遊んでくれんのか? ククッ――世の中、まだまだ捨てたモンじゃねぇなァ」
口角を釣り上げ、ゲンナーは蕩けるような至福の笑みを浮かべた。シールドを向けるや裏面懸架の《クラブ》が噴炎を曳いて飛翔し、牽制の初弾が敵機前方のデブリを砕く。
広がる巨大な爆煙を抜いたゲシュレイは立ちふさがるザク改と激突、光刃と熱刃が激しい火花を撒き散らした。 ジムUとゲルググ、両機の眼前でビーム刃が飛沫を散らす。突撃したゲルググが機体ごと叩きつけた巨大な慣性のままに二機は流れて、二隻のサラミス改級をつなぐ線上から外れていく。
ゲルググは鍔競り合いの逆刃でジムUを斬ろうと、ジムUは頭部バルカン砲と左手のスプレーガンでゲルググを打ち砕かんと、光刃の接点を支点にしながら互いに激しく格闘する。
最初にそのジムUへの迎撃を試みたのは、フローラ・イアハート信女だった。
だが彼女が必殺を確信して放った狙撃のすべては、突出したジムU先頭機を一弾として捉えることなく、すべて理不尽に回避された。あまつさえビームスプレーガンの応射でビームライフルを爆破されている。
瞬時に間合いを詰められて今度は自身の機体そのものを撃墜される寸前、光刃ひとつの突貫で彼女の危地を救ったのがゲオルグだった。揉み合うように転げる二機が遠ざかっていく。
『ゲオルグ居士ッ!!』
葉型シールドの裏側に残されたビーム・ナギナタを抜き、フローラはそれでも加勢せんと急行する。だがさらなる高速で後方から迫ったエレイン機が、彼女にビームライフルを投げ渡しながら抜き去っていった。
『フローラ、あなたがこれを使いなさい!』
『姉様!?』
言うや同時にビーム・ナガマキを構え、ライフル・モードでエレインは撃った。
ナガマキは多目的ビーム兵器だ。本来のビームライフルほどの精度や威力は期待できないが、それでも敵機の周辺を光軸が掠めていけば、こちらの存在は見せつけられる。
だが狙われたジムUはゲオルグと繰り広げる格闘戦の中から文字通りの片手間に、エレインへスプレーガンの曲撃ちを返してのけた。三連射。
『ぐうっ――!』
鋭敏な回避機動で二発はかろうじて外したが、一発が直撃してエレイン機から肩部装甲を弾き飛ばす。
致命傷ではなかった。しかしあの状況から当ててくるなど、もはや人間業ではあり得ない。
それでもエレインは沸騰する感情のまま、怯むことなく突進を継続した。
『連邦の雌がっ、汚らわしい手で居士様に触れるなあああっ!!』
絶叫しながらナガマキを白兵戦モードに戻し、長大なビーム刃を発生させて斬りかかる。
絡み合うゲルググとジムUがようやく離れた。ジムUが抜け目なく放ったバルカン砲の射弾がゲオルグ機に絡み、数発が装甲を穿つ。
だが、今なら――この二機が同時に挑みかかれば、相手がこのジムUだろうと斬り伏せられる!
『ぐっ!』
しかしエレインが挑む直前、その上方から射弾の雨が降り注いだ。ビームライフルと榴霰弾による制圧射撃。単機でフローラを翻弄してのけた手練のジム・キャノンに率いられて迫り来る、ジムU小隊の後続部隊だ。
『姉様に触れるなッ!!』
フローラが猛然とビームライフルで応射するが、一対四、これほどまでの火力差はいかんともしがたい。あっさりと撃ち負け、ただ回避一辺倒へと押しこまれてしまう。
だが多勢に無勢で渡り合おうとした彼女が完全に突き崩される直前、連邦後続部隊の脇腹へと増援第二派の残余が切りかかっていた。
MS-21C《ドラッツェ》三機が、右腕部固定式の40ミリ機関砲を乱射しながら挑みかかる。
高速機動のまま左腕補助ジェネレータが唸ってビームサーベルを展開、迎撃の光刃を広げるジムUと切り結んでは一撃離脱に転じていく。
『い、今の爆発……コムサイの――みんなのいる、方向――』
『よそ見してんな! 目の前の敵と戦えバカッ!!』
そしてエレインがいきなり抜けた駆逐艦正面では、残されたザクUとリック・ドムがなお必死の防御戦闘を展開していた。二丁のザクマシンガンが展開する必死の弾幕が、なお執拗に追撃してくる二機のジムUをかろうじて遠ざけている。
だがエレイン機が勝手に転進した今、自分たちだけでこの二機と一隻は止められない。サラミス改のメガ粒子砲からも狙撃されている。とうに限界は超えていた。
ミリアム・バーレット少尉は新兵らしき少女パイロットが操る最後のリック・ドムを従えながら、一気に後退を決断した。
『後ろの味方と合流する! 下がるよッ!!』
『はっ、はいいッ!!』
ミリアム機が敵機へ向けてハンド・グレネードを投擲するや、彼我の中間で巨大な閃光が広げる。照明弾。ティアーナ能力解放戦闘に備えた、非致死性兵装の残弾だった。
『離脱ッ!!』
二機はそのまま転げるように距離を開いた。加速維持時間に勝るリック・ドムが、ファドランの前方を先行していく。 「……ルウムの、亡霊――」
ミリアムは震えるほどにきつく歯噛みしつつ、大ジオン仏道のゲルググ三機と連携出来る位置まで下がった。
周囲を見れば無謀にも『奴』へ挑戦し、半壊しながらもかろうじて生き残ったケンプファーも、ようやく長経旋回を終えていた。こちらへ合流の動きを見せている。
「いやぁ。凄いよ、アンタ――奴とやり合って生き残れるなんて、大したモンだ」
かつて彼の所属したジオン特務部隊とは、ニュータイプ部隊もかくやの凄腕集団だったというのは事実らしい――強ばる表情でミリアムは笑った。
迫る敵MS隊の後続に対してフローラ機が散発的な射撃戦を展開しつつ、もはや格闘戦能力のみとなったゲオルグとエレインの二機が突撃の機会を窺う。
そして三機のドラッツェと半壊したケンプファーが一撃離脱の機会を探る中へと、ミリアムたちのザクUとリック・ドムも合流した。
これでジオン側は、ほぼ全戦力の集結を完了した。
だが、それは敵も同じことだ。
前方からは血に飢えた二機のジムと駆逐艦が迫り、後方からは『奴』を含む五機のジムと巡洋艦が押してくる。
数の優位はもはや無く、そして今や勢いすらも呑まれようとしている。
「――帰れない、か……?」
ミリアムはヘルメットの内側で一人ごちる。遙かな彼方を睨めば、やはり異常な戦技を見せつけたジム・コマンドに追撃された母艦の後方で、ザク改と思しき二機の機影が果敢に応戦する火線と光条が見えた。
あの連中も特務の凄腕らしいと聞いている。あちらは何とかなるだろう――最悪でも、次の増援が到着するまで持ちこたえてくれればそれでいい。
だが、こちらはもう分からない。
このまま敵MS隊を突破できなければ、戦闘艦二隻に支援された圧倒的に優勢な火力のもと、一方的ななぶり殺しに遭うだけだ。
何よりも――敵にはあの『亡霊』がいるのだから。
『助かったよ、マコト』
『リン、ネイサンのことは残念でした』
執拗に食い下がる三機のゲルググを火力で押し退け、ついに合流を果たした二機のジムUが背中を合わせた。スプレーガンとジムライフルが互いの死角を補い、隙を狙って突撃を試みる敵MS隊を威圧する。頭部を失ったままのシエル機が脇を固めた。
『敵さん、ずいぶんいい感じにまとまってきてくれたねぇ――あと一揉みで、跡形もなくせる』
『いいえ。リン、十二時の鐘が鳴りました。シンデレラは帰る時間です』
マコトが口にした瞬間。互いに逆方を向いたビームスプレーガンとジムライフルの間に、見えない殺気が走り抜けた。
『……あっはっは。どしたのマコト? ずいぶん変わったこと言うねぇ……これだけ大歓迎してくれてる敵さん放っぽって、このままスタコラ帰ろうっての? 私ね。両親から、客人への返礼は倍返しにして差し上げろ、って教わったの』
『リン。連中はあれだけバカスカ照明弾をバラ撒きました。あの異常な閃光の連鎖が今、そこいらじゅうから敵をうようよと引き寄せています。ここはもう、敵さんのお城の中――客人は私たちの方です。長く留まれば留まるほど、私たちの不利になるだけです』
今や指呼の間にまで迫った僚艦トラキアが、アルマーズとの合流を目前にして旋回機動へ入った。
なお猛攻するケンプファーとドラッツェ編隊を、自艦の対空砲火とサブリナ率いる直掩MS隊で巧みに押し退けている。
そしてトラキアは減速から反転へ、元来た経路の撤退を目指していく。すでに撤退軌道に乗っていた、アルマーズを先導するように。
『カボチャの馬車も到着です。舞踏会はお終いですよ』
『……ふぅん、そっか。でもね、マコト――王子様と意地悪姉妹は、まだ帰したくないってさ!』
『!』 『降魔!』
『調伏ッ!!』
再び編隊を整えた三機のゲルググが突入してくる。ビームナギナタと何か槍状のビーム兵器をかざした二機が突撃、そして後方から一機がライフルで狙撃。研ぎ澄まされた連携攻撃が二機のジムUを狙う。
それは連邦軍が完全に合流し、相互支援の防御火網が完成する直前を狙った賭けだった。
果断ではある。だが一歩間違えれば連邦軍に完全に包囲され、一方的に撃滅されかねない。大ジオン仏道はそれだけの気迫をもって、マコト・ハヤカワを狙っていた。
彼らは見抜いたのだ。今この瞬間を逃しては、もはや彼女を倒せる機会は永遠に失われると。
「大ジオン仏道、――あいつらなら、ひょっとして――」
そして一瞬の逡巡の後、ミリアム・バーレットも意を決する。
『ついてきな!』
『バーレット少尉!?』
『坊主どもを掩護するよッ!』
傷ついた機体を虚空に跳躍させるや、ミリアムはザクマシンガンを構えて突進した。
ジムライフルと首なしのジムUは、猛攻するイアハート姉妹がかろうじて抑え込んでいる。もう一機、スプレーガンを構えたジムUにゲオルグが挑んでいた。
そしてミリアムは大ジオン仏道とは別方向からスプレーガンのジムUを狙い、銃口から迸る火線の雨を被せた。わけも分からぬまま、リック・ドムの少女もそれに続く。
己の内から沸き上がる、出所の知れぬ確信とともにミリアムは叫んだ。
『スプレーガンのジムを撃てッ! 今この機を逃せば、もう永遠に奴は討てないッ!!』
「少尉、――何を言って……!?」
二門のザクマシンガンがマコトを狙う。応射しながら回避運動するジムUのシールドに、120ミリ弾が火花と跳ねた。同時に二方向三機から執拗に狙われ、さしもの『スプレーガン持ち』も動きが乱れた――そう見えた。
突撃するザクとリック・ドムの行く手に光軸が走り、二機に回避機動を強要する。だが直撃は出来ず、その行き足は止まらない。
『うおおおおおっ!? なんかマコッちゃんがヤベェぞオイ!』
『ハヤカワ准尉!!』
『ちいいっ――あいつら、捨て身かっ!』
連邦軍による包囲殲滅のリスクを完全に無視した、ジオン残党軍五機の強引な突撃はトラキアMS隊主力からも見えていた。
だがサブリナがR4ライフルで牽制の長距離狙撃を放つ他に、有意な支援はまったく出来ていない。執拗に波状攻撃を仕掛けるドラッツェとケンプファーが、彼らの行く手を阻んでいるのだ。
『こんちくしょう――このハエどもがあっ!!』
次々に一撃離脱を仕掛けてくるドラッツェの三機編隊へビームライフルの短連射を放ちながら、ロブ・サントス伍長は絶叫した。
脚部を大型プロペラントタンク兼推進器に改造したドラッツェは、AMBAC能力と射撃時の安定性こそ低いが、直線加速と継戦性では群を抜く。
不安定な40ミリ機銃も近距離戦では馬鹿には出来ない。ロブとアイネが放つビーム、シュンが撃ち放つ榴霰弾も抜いて必死に食らいつくドラッツェは、彼らの陣容を喰い破れずとも大いに掻き乱していた。
そして生じた綻びに、稲妻にも似た機影が迫る。
『うっ――うおわあああぁっっ!!』
群青隻腕の一角鬼――ケンプファーだった。
火力はすでに本来の数分の一まで低下し、残る兵装は背部ジャイアント・バズ一門とビームサーベルのみ。
だが武装の大半と片腕を捨てた身軽な機体は、パイロットをすり潰すような超高加速からその光刃を閃かせた。
『ひあ!?』
『サントス伍長が抜かれたっ!? ミケリヤ少尉!!』
ロブ機のシールドを半分に寸断しながら、ケンプファーは一気に前衛を突破する。頭部60ミリの射線に追われながらも、背部ジャイアント・バズを後衛のジム・キャノンへ放った。
至近で爆ぜた榴弾片がR4ライフルを穿ち、ジム・キャノンの機体を揺るがす。猪突するケンプファーがそのまま重武装の機体へとどめの斬撃を振り下ろすと、火花の雨が宇宙に弾けた。 『ッ!?』
『――惜しい』
ハイザック用の小型シールドを装備した左前腕部から、ジム・キャノンは光刃を展開していた。
ボックス型ビームサーベル。かつてRGM-79SC《ジム・スナイパーカスタム》が前腕に固定装備していたそれを、サブリナ機は近接防御用に移植していた。
そして至近で膠着した二機が、互いの頭部60ミリバルカン砲を開いたのは同時。
足を止めながら撃ち合うなら、軽装甲のケンプファーがジム・キャノンに勝てる道理などない。ケンプファーは機体のそこかしこを貫通されながら、不自由な機体に残る推力を振り絞って必死に離脱していく。
『やるじゃないのよ、特務さん――』
だが笑うサブリナのジム・キャノンもまた、火器の過半を打撃されていた。
R4ライフルにはジャイアント・バズからの弾片が食い込み、肩部固定式キャノン砲もバルカン砲に砲身を抉られた。バルカン砲とビームサーベルを除き、もはや中距離火力のバルザック式バズーカしか残っていない。
彼我入り乱れる格闘戦への精密狙撃は、事実上これで封じられた。ケンプファーは作戦目的を達成したのだ。
『墜ちろッ、化け物ォォォ!!』
そしてサーベルとナギナタがメガ粒子の干渉波を散らす中心へ、ミリアムは銃身も焼けよと連射しながら突進していく。
ゲオルグともみ合う敵機からビームスプレーガンがぱっと煌めき、後続する少女のリック・ドムがザクマシンガンを吹き飛ばされた。弾倉の残弾が誘爆して機体を揺らす。
『きゃあああっ!?』
『構うなッ、サーベル抜けぇッ! あたしが奴に組み付いて動きを止める、いいか、確実にあたしごと奴を叩き斬れッ!! ゲルググ坊主も巻き添えにして構わん!!』
『ひっ――りょ、了解っ……』
自機にもヒートホークの柄に手を掛けさせながら、ミリアムは喚いた。気迫に少女が色を失う。
たとえ三機がかりでも、奴と斬り合ってまともに勝てるとは思えなかった。だが体当たりを仕掛け、動きを止めることぐらいは出来るはずだ。
敵は超絶の神業さえも鼻であざ笑う幽鬼の女王。生身の人間が打ち勝つ術など、捨て身以外にはあり得なかった。
ファドランがヒートホークを、リック・ドムがヒートサーベルを抜く。ミリアムは右肩部シールドを前面に出してスプレーガンからの狙撃に備えながら、渾身の斬撃へ向けて流体パルスに溜めを作った。
ゲオルグはなお互角の攻防を展開している。イアハート姉妹も駆逐艦のMS隊を抑えていた。
神機天佑。
神仏を信じないミリアムがそう思った。今なら奴と、差し違えられる――ミリアムの表情に、涙混じりの奇妙な笑みが浮かぶ。
『大ジオン仏道ッ! 私のことを、覚えているかぁっ!!』
そのときオープン回線に、少女の頓狂な叫びが響いた。
ドラッツェ隊がなお激しく斬りかかる乱戦を抜いた、ジムUの一機からだ。
なお濃厚なミノフスキー粒子に遮られて、その絶叫は決して遠くまで届かない。それでも戦場に生じた一瞬の空白を抜いたその機体は、まっすぐにゲルググの一機を――指揮官用通信ブレードを頭部に立てた隻腕の機体を目指して突進してくる。
ジムUが続けざまに数発放ったビームライフルの光弾は、ミリアムたちの突撃を妨害した。格闘兵装の二機はただ旋回を強要され、そして開いた空間へとそのジムUは突撃してくる。
『この、声は――』
今まで決して鈍ることの無かったゲオルグの動きが、そのとき初めて俄に揺らいだ。
『――クライネ伍長?』
マコトが解けるようにゲオルグからの距離を開き、彼女の背を突くように迫ろうとしていたザクとリック・ドムに真正面から向き直る。
アイネはそのままビームサーベルを抜き放って突撃、ゲルググのナギナタに受け止められた。
『忘れているなら教えてやるっ。私はこの前お前たちが襲って皆殺しにした巡洋艦、《アバリス》隊最後の生き残りだ!』
『な』
そして、ゲオルグも忘れていなかった。 宙域で悪逆非道の限りを尽くした連邦外道艦アバリス。その隙を突いて襲撃した際、最後まで果敢に抵抗し――そして自らビームナギナタでコクピットを貫き、核融合炉爆発の火球とともに完全成仏させたはずの少女パイロットの声を。
『ば、莫迦な――あ、あのとき――あのとき確かに、私は……滅我粒子にてその身を荼毘に付し、即身完全成仏に導いた、――はず……』
『残念だったな、それは単なる記憶違いだ! 私は今、ここで確かに生きているぞッ!!』
ゲルググの巨体もろとも、狼狽したゲオルグを圧し斬るようにアイネは叫んだ。ジムUがスラスターの出力を全開する。
『何が完全成仏だ! 何が宇宙浄土だ! お前らジオンの亡霊どもにそんな権利も、そんな力もありはしないんだ! いま、私は確かに生きている――私は生きて、お前らジオンの理想なんかに壊されない、私たちの新しい世界を作るんだっ!!』
「そうだ。今、生きている――」
二人が戦う背後で、リック・ドムがヒートサーベルを握り拳ごとスプレーガンに打ち砕かれた。あくまでマコトへの突撃姿勢を崩さなかったザクUも、正面からスプレーガンに乱打されて立ちすくむ。
ようやく突撃が無謀と知れたか、リック・ドムは胸部ビーム砲を発射しながらザクとともに離脱していく。その二機に射弾を応酬しつつ見送りながら、心底楽しげにマコトは笑った。
「幽霊なんかじゃない――君も私も、な」
そしてアイネ機の剣閃が、ゲルググを一気に押し切る。
それまでの人間離れした獅子奮迅が嘘のように、ゲルググは機位を崩して圧し流される。アイネは突き構えでそこへ猛進した。
『さあ成仏しろ、大ジオン仏道ッ!!』
『おおおっ――おおおおおおッ!!』
『ゲオルグ居士いっ!!』
その光景に、ジムライフルの機体と交戦していたエレインが絶叫した。もはや後先の算段も何もなく、ただ激情のままに彼女のゲルググは跳ねる。
エレインは横合いからナガマキを構え、咄嗟の射撃を放って二機の合間に割り込もうとした。ナガマキの光弾はエレインが自分で信じられないほどの精確さで二機の中間を抜け、少女のジムUは咄嗟に退いて狙撃から逃れる。
だがエレインが次弾を放つ寸前、榴霰弾が眼前でぱっと弾けた。弾幕がエレイン機を横殴りに乱打する。
「あぐっ!?」
『彼女はやらせない!』
ハイパー・バズーカを構えたジムUからの掩護だった。
『小癪なあああっ!!』
狙撃の機会を封じられたエレインは、即座に突撃を決意する。自らの機体でその開いた隙間へ滑り込もうと、ナガマキから光刃を伸ばすと全力で突進した。
「ゲオルグ居士、いま参ります――」
「地獄へか?」
何か不吉な意志の力を、エレインは感知する。背後から。
コマ送りのように緩んだ時間の中で、全天周モニターの正面にカットインが開く。
ロックオン警報。
エレインとフローラが二機がかりで抑えていた、アルマーズMS隊の片割れ――首なしのジムUが肩部サブセンサーの視野と、ビームライフルの射線上にエレイン機を捉えていた。
銃口が丸く見える。急機動したエレイン機の動きを読み、待ち伏せていたのかもしれない。
決してあり得ないはずの、ゲオルグの危地という異常事態。それを目の当たりにした衝撃がエレインを狂わせ、もっとも危険な目前の敵を忘れさせたのだ。 「しまっ――」
『――地獄に落ちろ、ジオンの屑』
冷たく呟き、シエル・カディスは静かにトリガーを引き絞る。
BR-S85の銃口から迸ったメガ粒子は、敵機の中心核を狙って迸り――そして過たずコクピット・ブロックを撃ち貫いた。
直前に射線上へ割り込んでいた、フローラ・イアハート信女機の。
『――フローラ?』
『ねえさま。庵(いおり)の皆に、』
閃光に焼かれる直前、妹は姉へ優しく微笑んでいた。八年前までの無垢な少女のように。
「南無阿弥陀仏――」
ゲルググのコクピットは一瞬でメガ粒子の奔流に焼き尽くされ、内包した美少女の意識とともに蒸発した。
重厚な機影はその中心部から歪んで崩れ、貫通された融合炉からプラズマの奔流が溢れ出す。
フローラ機は巨大な光球と化して一瞬で消滅。その強烈な照り返しは周囲のMSを押しやり、シエル機の装甲までもを叩いて激震させた。
「ぐっ、ううう! 邪魔立てをっ――まだだっ。アイネの仇――貴様も――貴様も、墜ちろォ!」
シエルはその機体を盾に生き残った、もう一機のゲルググを執拗に狙う。
そして通信索敵機能の要を担う頭部ユニットを失っていたシエル機は、その警報に気づけなかった。
――逃げて
「えっ?」
戦闘宙域を、強大なメガ粒子の集中豪雨が薙ぎ払った。
すべてを光熱の中に押し流す、圧倒的な艦砲射撃――それはサラミス級が出せる火力ではない。そしてトラキア隊の面々はその鮮烈なビーム光の威力を、忘れようもなく覚えていた。
『この火力、あのときの!?』
『まさか、また――!』
高エネルギー警報の元を辿れば宙域の彼方に、鋭角の艨艟が巨体を現していた。サラミス、マゼランの連邦系航宙戦闘艦の系譜に連なりながら、同時にMS戦へ高度に対応した意匠。前方へ複数展開されたカタパルト甲板から、次々にMSが発進してくる。
同時に宙域全体を覆うほどの高出力で、ミノフスキー粒子に妨害されながらも通信波が一方的に放送された。
『こちらは地球連邦宇宙軍、環月方面軍戦艦《ジャカルタ》。これより正面宙域で戦闘中の『友軍』を支援する』
『――《エゥーゴ》!』
『きっ、来たぁ! ほれ見ろ! いつまでもモタモタウロウロしてっから、案の定、あの連中がまた来やがったああああああ!!』
有無も言わさず矢継ぎ早にカタパルト射出されて展開してくるMS隊は、リック・ドム擬きの新型を先鋒にして早くも十機近く。
無線放送で堂々と宣言された、彼らが支援しようとしている『友軍』とやらが地球連邦正規軍ではないことぐらい、誰もが言われなくとも理解できた。
激戦の末に疲弊しきった両軍をまとめて、容易に一掃しうる新戦力の出現。巡洋艦トラキアから即座に信号弾が放たれ、戦場の宇宙に大きく弾ける。
「全軍、即時撤退――」
『さあさあ、エゥーゴさんのお出ましだ。いよいよここで店じまいだ! とっとと帰るぞ、早よ乗れやリン!』
この場での最上位者である、昔馴染みの僚艦艦長が通信小窓に顔を出す。とうとう直接に釘を差されて、崩れたゲルググ二機を狩ろうとしていたリンも諦めたように首を振った。迫る新型戦艦へ目を眇める。
『リドリー、……了解。あれが、エゥーゴ――そこのあなた、そのままシエルをお願い』
『はっ、了解です少尉殿! ――え? ……シエル??』
シエル機は今や頭部に加え、機動の要たる両脚部までも失っていた。高エネルギー警報と艦砲射撃からの退避が遅れたためだ。
それでも彼女が機体ごと蒸発せずに済んだのは、トラキア隊の少女パイロットが操る一機が、体当たりを掛けてまで離脱を支援してくれたからに過ぎない。
そのトラキア隊機に曳かれるように誘導されて、シエル機は艦隊への帰投コースへ入っていく。 そして、あれほど執拗だったジオン残党軍も、連邦軍への攻撃を止めていた。警戒態勢は崩すことなく、しかし次第に距離を取りながら離脱していく。トラキア艦長リドリー・フランクス大尉は、その光景にひとり艦橋で訝しんだ。
「――ふん。エゥーゴの連中、未だルスラン・フリートとの連携は出来ておらんと見えるな――」
ケンプファーが大破し、ゲルググも一機撃墜された今、ルスラン・フリートにこれ以上の戦闘を継続する力はないはずだった。
そしてエゥーゴが到来しても攻勢に出てこないということは、彼らもまたエゥーゴを警戒しているということに他ならない。
「よし。今ならまだエゥーゴに完全に捕捉される前に、全MS隊を収容して離脱できる――って、マコト!? 何やってんだおまえ! 退くんだよ。後退! 全軍後退、って言ってんだろうが!!」
『21。22は推進材と残弾に余裕大。これより単機で友軍の撤退を支援する。宙域内の全MS隊は22より先に母艦へ帰投せよ』
『りょ、了解!』
『准尉、お先に――』
連邦軍の全MS隊が一斉に母艦へ帰投していく中、マコトのジムU22だけが最後尾でエゥーゴMS隊を睨む格好になった。
『いいよリドリー、マコトがケツを持ってくれるんなら安心ってもんだ――こっちは残弾がない! マコト、先に下がるよ!』
『ええサブリナ、皆をよろしく……リドリー、ご心配なく。お茶だけ用意しておいてください』
『馬鹿野郎! マコトお前、絶対帰って来いよ!!』
ジムU22の背部スラスターが噴焔を吐いた。シエル機の狙撃で散ったゲルググの残骸が漂う空間を飛び抜けながら、マコト機は旋回を繰り返しつつエゥーゴの接近を威嚇する。
「ハヤカワ准尉の、あの動き――何だろう。――何かを、探している……?」
トラキアのMSカタパルト甲板へロブ機と同時に着艦しながら、シュン・カーペンター伍長は遠い隊長機の奇妙な動きに目を凝らした。大破したアルマーズ隊機とともにアイネ機も着艦し、弾薬と推進材の艦外補給に整備兵たちが彼らを取り巻く。
そしてエゥーゴMS隊が、戦闘宙域へ侵入してきた。
弾丸じみた速さでデブリを縫って先陣を切るのは、つい先日にも見たリック・ドム擬き。その背後には以前にも見られたジム擬きと、ハイザックに似たブレードアンテナ付きのMSが従っている。
すべてが新型機と見えた。後退するジオン残党軍MS隊には目もくれることなく、連邦軍へ――その後衛たるマコト機めがけて突進してくる。
落ち着き払った男の声で、ノイズ混じりの通信が入った。マコトはその声を覚えている。
『――宙域のミノフスキー粒子濃度、きわめて高。我がMS隊の新型センサーに不具合を確認――友軍誤射の恐れあり。繰り返す、友軍誤射の恐れあり。現戦域は我が方が引き継ぐ。サイド4駐留艦隊は、現在地より早急に退避されたい』
リック・ドム擬きの頭部に据わる、旋回軌条を持たない異形の大型モノアイ。その眼光が戦闘宙域を不気味に睨む。
連邦軍在来機を圧倒する新型メインセンサーのすぐ背後に位置する頭部コクピット内で、全天周モニターとコンソール上へ正確に描き出されていく戦況表示を見渡しながら、その男――ジャカルタMS隊長ベリヤ・ロストフ大尉は笑った。
『この過酷な暗礁宙域では我が方の、月面育ちの軟弱なセンサーなどはものの役にも立たないようだ』
そしてトラキア艦橋では、リドリーが艦長席のアームレストを叩く。
「――ふっ、ざ、けんな――エゥーゴのクソ野郎ども! 今度はそれで味方討ちを正当化しようってのか!? 後部単装砲、行けるな!?」
『いつでも!』
『リドリーさん。マコトの加勢、ウチの連中も混ぜてください』
「当たり前だジャック! 野郎、新型だろうがブチ墜とすッ!!」
トラキアとアルマーズ、サラミス二隻の後部で単装砲群が蠢く。
だが最前線に立つマコトは、いつも通りにしごく平板、事務的な声色で応じるだけだった。 『ご親切にどうも、ロストフ大尉』
『やあハヤカワ准尉、奇遇にもまたお会いしましたね。いま退避されないのなら、生命の保証はいたしかねますが?』
あのとき感じたままのざらついた気配をよそに、マコトも冷たい笑いをベリヤへ返した。
『ご自由にどうぞ。どうかご心配なく――こちらも好きにさせていただきますので』
『了解――』
それまでフラフラと、どこか当て所ないようにも見える動きで旋回していたマコト機。エゥーゴ機との接触直前、彼女はようやく求めるものを見つけだした。
「――あった」
宙域に浮かぶ、一点の微かな燐光。
MSなどよりずっと小さく、新旧のデブリに紛れて漂うそれをマコトはかろうじて捕捉し――瞬間、彼女はそこへ全速でジムUを突進させていた。
同時にリック・ドム擬きも虚空を蹴る。随伴する二機を置き捨てるような急加速だ。
理由はひとつ――その新型モノアイも、同じ存在を捕捉したのだ。求めていたものを。
巨体の繰り出す挙動は軽く、推進の火は力強く、そして何より確かに速い。
その機動性能がジムUはおろかケンプファーやゲシュレイさえも上回ることなど、もはや素人目にも明らかだった。
宙域の同じ一点を目指して二機は猛進し、そして最初のビームがマコトへ走った。
リック・ドム擬きからではない。その後方へ離されながらも追従する、ブレードアンテナ付きのハイザック擬き――それが構える長銃身ビームライフルが長距離から、正確無比にマコト機の中心を狙ったのだ。
そしてマコトも同時に応射していた。ハイザック擬きが放った狙撃の光軸はジムU22を掠めて消えたが、その応酬が口火となってリック・ドム擬きが火線を開く。
鋭角的なシルエットの長砲身バズーカが火を噴き、迎え撃つマコト機の前方に爆炎を散らした。両機は互いに譲らず直進し、散りゆく火球を蹴破るように飛び込んでいく。
リック・ドム擬きは初弾ひとつで右手のバズーカを下げた。続けざま、左手に握った小型ビーム銃から速射が迸らせる。
スプレーガンに劣らぬ連射速度、なおかつ倍近い高出力で注いだ射弾の雨。応射しながら掻き分けるように進むマコトは一発の直撃も受けることなく、そのすべてを真正面から突き破っていた。
二機が激突する瞬間にぱっと火花が、そして爆光がふたつ閃く。
飛び抜けるリック・ドム擬きは、掌中のビーム短銃を。そして駆け抜けていくマコト機も、その右手からビームスプレーガンを失っていた。
相打ち。
だがリック・ドム擬きの背で、一対のバインダーが閃く。重厚な巨体が独楽のような迅さで廻り、スプレーガンを失ったジムUを眼下に見下ろした。新型バズーカの砲口が背後の死角からマコトを捉える。
炸裂した。
榴霰弾が装甲を叩く。近傍を掠めていくビームの射弾から、急旋回でリック・ドム擬きは機敏に逃れた。
一度は巡洋艦まで後退したジムU三機が再出撃して、猛烈な射撃を降らせてきたのだ。
『掩護します、准尉ッ!!』
『早く戻ってきてください!』
『隊長―ッ! はやくきてくれーーーっ!!』
「ほう。雑兵風情が、その旧式でリック・ディアスに挑むのか――」
急激な回避機動で生じた加速度の底から、凄絶にベリヤは笑う。
しかしその時にはもう、マコトのジムU22はシールド裏から予備スプレーガンを手にしていた。ベリヤ機との間で、猛烈な銃砲撃が飛び交う。
『大尉、離脱をッ!』
ハイザック擬きが再びビームで狙撃し、追いついてきたジム擬きが新型バズーカから発砲する。弾ける榴霰弾がマコト目掛けて投網を開いた。斜め構えのマコト機シールドに弾片が弾け、そしてある弾片は腕部装甲まで貫き通す。
そしてマコトと敵機が離れたのなら、リドリーがそれ以上我慢を続ける理由などはもう何一つ存在しなかった。
『撃てェッ!!』
トラキアとアルマーズの二隻が、そのとき使えるすべての火力を開放した。サラミス級二隻が放つ後方火力、さらに三機のジムUがBR-S85とハイパーバズーカの火力を加えて、エゥーゴの新型MS隊をも圧倒していく。
『22より21。21、帰投する』
『おかえりなさい、准尉――!』
その火力がこじ開けた局所優勢の穴を辿って、マコトのジムUは母艦へと全速力で合流した。出迎えの三機とともに、巡洋艦と並進しながら戦場を離脱していく。
そしてゲシュレイを載せたパブリク改級哨戒艇が矢庭に四機を追い抜き、その艦列に加わった。
そのまま暗礁宙域の彼方へ、連邦軍の三隻は見る間に遠のいていく。 一転して静寂に帰った宙域で見送るRMS-099《リック・ディアス》に、一機のMSA-003《ネモ》が寄り添った。静かな女の声が問いかける。
『――大尉。追わなくてよろしいのですか?』
『うん。今はこれでいい。確信が持てたからね。やはりここは宝の山だよ。いま随分と散らかっている中にも、まだ『福』が残っているかもしれない』
『艦と主力はルスランを追いますが。ここの捜索に人を割きますか?』
『必要ない。これから、いくらでも機会はある――』
彼らの後方ではRGM-79R《ヌーベル・ジムU》の編隊が、軍使の白旗を掲げながら進行していく。なお警戒の布陣を崩さそうとしないまま後退行動を続けるジオン残党軍MS隊、そして偽装貨物船へと向かって。
『――そうだろう、ルチア?』
『はい、大尉』
RX-107《ロゼット》のコクピットに座る女性パイロットは、全天周モニターに呼び出した録画映像をじっと見つめている。
「……相変わらずね。マコト・ハヤカワ――」
長距離から狙撃する彼女へと、ビームスプレーガンを向けるジムU。
雌獅子の傲慢さでその機影を睨みつけながら、金髪の美女は唇を舐めた。 「連邦の新型戦艦は《エゥーゴ》だと名乗ったそうです!」
「助けてくれるのか……? 敵の敵は、味方ってことなのか?」
「今、行方不明だったタールネン少佐からも通信が入ったらしいです――あっちに収容されてたってことなんでしょうか?」
戦艦ジャカルタに後方へ付かれながら並走する、偽装貨物船ケンドー丸。
大ジオン仏道のゲルググ二機をはじめ、今なお戦闘能力を保つ数機のMSが今なお艦外へ展開してはいる。しかし彼らはジム系MSを主力として迫るエゥーゴ部隊相手に、露骨な交戦の意志を見せてはいなかった。
そしてケンドー丸のMS格納庫は激戦から帰投した満身創痍のMS隊を収容して、整備兵たちが怒号とともに飛び交う修羅場と化している。
大破したザクUファドランの一機がその一角で機体を強制冷却され、さらにコクピットハッチを破断開口された状態で固縛されていた。その内部から救出された少女は、パイロットスーツ越しに豊かな胸へ抱かれている。
「ティアーナ、……疲れたのね。いいのよ……ゆっくり……ゆっくり、休んで……」
栗色の長いツインテールを無重力に泳がせたまま、少女は静かに眠っている。すべての痛みと苦しみから解き放たれたように、安らかな表情でただ静かな寝息を立てている。
もはや物言わぬティアーナ・エイリス上等兵を救出したきり抱きしめたまま、イオタ・ファーガスン大尉はそこから一歩も動かなかった。
「……ウソ、だよね。ティア……」
ノーラ・ジャンセン伍長は掛ける言葉の一つも持てないまま、それ以上二人に近づくことすら出来ずに立ち尽くす。ミリアム・バーレット少尉は自機のコクピットから、遠くその光景を見つめている。
その格納庫全体を覆う混乱と喧噪の中を、パイロットスーツ姿の一団がかき分けるように進んできた。プチモビを動員してファドランの予備兵装を持ち出し、対空砲火を展開していた船客――ギュンター・グロスマン大尉以下の一団だった。
胸にティアーナを抱いたきり、俯いたまま動こうとしないイオタを取り囲む。
「ファーガスン大尉! エイリス上等兵の妙なる槍働きに、我ら一同心底より感服いたしました!」
「――グロスマン大尉……?」
眼鏡の下から虚ろな瞳を向けるイオタに構わず、男たちはその腕の中のティアーナを覗き込む。寝息を立てるその姿に安堵するや、興奮さめやらぬ勢いで次々にまくし立てた。
「いかなファドラン仕様といえど、ザクUを以て連邦のハイザックとガルバルディβをああも痛快に撃ち砕くなど、まさに彼女こそジオン武人の鑑!」
「ジオン十字勲章の名だたる勇士にも劣らぬ働きでしたぞ!」
「あのニュータイプもかくやの狙撃、まったく脱帽いたしました! 彼女さえいれば、もはやアムロ・レイごとき恐るるにも足らず!」
「ニタ研の強化人間が何するものぞ!!」
「…………」
男たちの歓喜と賞賛に包まれながら、イオタは微動だにしない。紙のような顔色のままで少女を抱きしめ続ける彼女の瞳に、光る滴が溢れ出す。
「いやあ、ともかく彼女が無事でよかった! ジオン再興の日は近い! ジーク・ジオ――ぶフッ!」
感極まった一人が拳を振り上げ、一同の唱和を導き出すより早く、あらぬ方向から飛来した工具がその背中を強打していた。
「だっ、誰だこれはァ! 何をするかァ!!」
「――申し訳ありません、先輩方。ウチの連中、上がったばっかでしてね……今、ちょっと疲れてるんです。……少し、静かに……しておいて、いただけませんかね……」
自機から降り立ったミリアムが静かに、しかし確かな殺気を帯びた瞳で睨みつける。戦場帰りの荒んだ眼光が、その意味を知る男たちを圧し下がらせた。 「――あの。その子、……大丈夫、なんですよね?」
そのとき不意に少女の声が、人垣の向こうから呼びかけてきた。
男たちが道を開けると、パイロットスーツの可憐な少女が現れた。ボブカットの柔らかな髪が汗で張り付くのも構わず、彼女はイオタへ歩み寄ってくる。
ただ一機だけ生き残った、リック・ドム搭乗員の少女だった。
「その子、……ニュータイプ、なんですよね。その子さえいてくれれば……連邦がまた新型のガンダムを作って、アムロ・レイや強化人間を乗せてきても……、その子がみんな、やっつけてくれるんですよね……?」
止める者の一人もないまま、幽霊のように少女は歩いた。イオタの眼前に達し、焦点の定まらない瞳で二人を覗き込む。
「みんなが、……私の部隊が……みんな死んでまで守ったこの子は、……また、戦ってくれるんですよね。誰よりも強くて特別な、本当に選ばれた存在だってことを、見せてくれるんですよね……?」
「伍長……」
イオタは答えない。なすすべもなく震える少女の小さな肩を、女の手がぎゅっと後ろから強く掴む。
ミリアムは無言で彼女を抱き寄せた。その途端、少女の瞳から堰を切ったように涙が溢れ出す。少女はミリアムの胸にすがりついて、意味のない大声を上げながら泣きじゃくった。
格納庫の脇から、担架を抱えた衛生隊がようやく姿を現した。人垣をかき分けてティアーナの元までたどり着くと彼女を固定し、イオタを伴って搬送していく。
「――私、なんにも……なんにも、出来なかった……」
そしてノーラはその一部始終を、ただ傍観することしか出来なかった。
もはや打ち捨てられたティアーナ機の、強制開口されたコクピットハッチに腰掛けながら、焼け焦げたその内装を見つめてノーラは呟く。
無重力に漂い出てきた、写真の切れ端をノーラは掴んだ。
ティアーナが勝手にコクピット内へ張り付けていた、何枚もの写真のひとつだ。眠る自分の顔に落書きして、得意げに笑うティアーナがそこにいた。ノーラも少し、笑う。
「……あの、バカ」
そして炭化した写真は、ノーラの指先ひとつで脆く崩れ去った。ティアーナの笑顔が灰燼になって、船内気流に乗って流れていく。
「……強く、なりたい」
誰もいないコクピットの中で、ノーラは一人うずくまって膝を抱えた。涙が零れる。
「強く、……なりたい、よぉ……」
少女の嗚咽は格納庫に渦巻く喧噪に呑まれ、誰にも届かずに消えていった。
ケンドー丸の進路上に、いくつもの光点が浮かび上がる。
近傍の衛星拠点から出撃した、ルスラン・フリートの増援第三波となるMS隊であった。その勢力、ゆうに数十機。
エゥーゴとルスラン・フリート。
のちに地球圏を揺るがすことになる二つの勢力が、この日、邂逅した。 トラキアとアルマーズ、そしてパブリク改級哨戒艇《バチスカーフ》の三隻は戦域を離脱してから、いくらも行かないうちに僚艦と合流できた。
民間貨物船《リバティ115》とそこから展開した、VWASSのRB-79《ボール》編隊に護衛された戦隊旗艦《マカッサル》を加え、五隻は一路《P-04》を目指していく。
トラキアのMS格納庫は完全に修羅場だった。アルマーズ隊のリン機とサブリナ、ゲンナーの機体は損傷も消耗も激しく、優先整備を受けている。マコト以下のトラキア隊機は、艦外補給を受けながら待機中だった。
そして、アルマーズ隊の片割れ――首も、左腕も、両足までもを失ったジムUは艦内格納を許されず、トラキア隊機とともに艦外繋留されている。
『嘘、――アイネ? 本当に、アイネ、……なの……?』
『そうだよ。そうだよシエル、私だよっ! 私、ちゃんと生きてるよ!』
最初にその機体を曳航してきたジムU22をすぐ隣に繋止するや、パイロットの少女はコクピットハッチへ跳んでいた。
宇宙で間近から見つめ合うバイザーの奥に、見る見る涙が溢れていく。とうとうこらえきれなくなって、アイネはその豊かな胸にシエルをヘルメットごと抱きしめた。
『ちょっ! あ、アイネっ……』
『シエル。私、強くなったよ。シエルに負けないぐらい――シエルのことを、守ってあげられるくらい強くなったよ』
『――アイネ、……バカ。……アイネのくせに……十年、早いよ』
抵抗を試みたシエルの腕から力が抜けて、二人の少女はそのままノーマルスーツ越しに互いの肉体を確かめ合った。
コクピットハッチで人目もはばからず抱き合う二人に、居合わせた二人の男性パイロットは目を白黒させ、マコトは吹っ切れたように大きく溜息を吐いた。
シールドの裏に隠した、自機の左手をそっと見下ろす。
「やれやれ。まさか『二人目』とはな。どうやらまた、頭痛の種が増えそうだ――」
その掌中で真空に揺れる長い銀髪、そして横たわる美少女の豊満な肉体。
「さて。今度はどうしたものかな」
淡い燐光に包まれたその安らかな寝顔を周囲の僚機から隠しながら、マコトは遙かな進路上に遠く浮かぶ、迫り来るP-04の巨体を見つめた。 第二章、これにて終了です。次回より第三章となります。
例によってハーメルンとpixivに、挿絵を投稿しております。
そちらの方もご覧いただければと思います。
以前に受領したリクエストも、少しずつ進んでおります。
非常に不定期にはなってしまっておりますが、またこちらも投稿させていただければと思います。
それでは、ご感想お待ちしております。 フェニックステイル三次創作
シュン☓アイネ
エロ
※この話はフェニックステイル作者さんより
設定をお借りして書いたモノであり
本編とは関係のない完全IF話です。
だがここまで来たら、もうそんな少女とでもいい。肉棒の切っ先が、
ついに少女の膣口に触れた。あと一押しで、すべてが終わる。
「いやッ!や、やめてえ!」
僕は懇願に構わず、濡れそぼった秘裂にペニスを突き入れた。
「あッ!い、痛ッ!や、やああッ!」
「あ…あッ…あ…キ、キツイ…」
ペニスの先端と粘膜が触れ、狭い膣道の締めつけに僅かに被っていた
包皮が一気に剥かれる。少女の体内の熱い感触に僕は圧倒された。
気持ちよすぎる……自慰などと比べ物にならないほど気持ちいい!
兵士が戦場で女を犯すわけだ。死ぬまでにもう1回などと考えられない。
死ぬまで何回も、何十、何百回味わっても足りない。
「痛い!やだああ!やめていやぁ!お願いだからやめて下さい!」
眼下の少女は涙を浮かべながら拒絶の言葉を発する。
自分から誘っておいてそれはないだろう?
精液を飲み下しセックスを求めたのはお前だろう?
と言ってやりたいがこちらも余裕がない。
もう一度出しておかないともちそうにない。
「ン!ン!ンンッ!と、溶ける!ペニス溶け!あッお…おおッ!」
奥に突き入れるほどキツく絡みついてくる。深く突くと拒み、
抜こうとすると未練がましくねっとりと絡みついてくる。
これが女の人…気持ちすぎる。 整備長も、隊長もこの少女のような秘裂を持っているんだ。
突く度に呻きとも鳴きともつかな声を上げ、熟した果実のような香りを振りまく。
「はッはッはッ!さ、最高だよ!君!君の中気持ちよすぎる!」
「やッ!わたし!違ッ…こんなのわたしじゃ!本当のわたしは――」
本当の私?男の剣を受け入れる鞘だろ?これで童貞卒業だ。
もう同期生にバカにされないですむ。
貧相な身体の同期生とヤッたあいつも、娼婦で卒業したあいつも、
どいつもこいつも見返す事ができる。こんな美少女で卒業した奴はいない。
「や…もう…もうやめて!うッううッ…何で…どうして…こんなのいやぁ!」
少女はすすり泣き始めた。これも演技なのか?まぁいい。
突き上げる度に上下に振れる乳房。
こんな乳の持ち主で未だかつて見たことがない。
隊長もかなりの巨乳だかこれはもう別格だ。
「痛い」「やめて」「いや」などと花びらのような唇から発せられたら逆に興奮する。
僕はその爆乳に顔を埋め、射精時に逃れられないように密着した。
ああッ…の、昇ってきた!自慰は射精した精液の処理に困るが、今回は違う。
中で出す。妊娠とかそんなことはどうでもいい。どうせ避妊薬をのんでいるだろうし
構いやしない。グググッとペニスを駆け上ってくる射精の前兆がいつもの倍だ。
「おッ…うッ!で、出ッ!ふ…う!」
僕の呻きに目を見開いた美女は絶叫した。 「ダメッ!中に出さないで!に、妊娠しちゃう!お、お願いだからやめてえええ!」
半狂乱になって僕を引き剥がそうとするが、もう止まらなかった。
最奥まで埋め込んだペニスの先端がグワッと膨らみ、熱い体内で爆発した。
「あ、ああッ…ああ!いやああああッ!」
少女はビクンビクンと背を震わせ、張り裂けるような声をあげた。
「おッ…おおッ!…うおッ!」
鈴口を引き裂くような射精に僕は歯を食いしばりながら、少女の柔らかくて
盛り上がった丸い尻肉に指を食い込ませて二度、三度の射精のタイミングに合わせて
ペニスを突き入れる。少女の乳の谷間に顔を埋めて、その甘美な芳香を胸いっぱいに
吸いながら残りを全て吐き出すまで腰を振り、密着し続けた。
「うッ…ううッ…出さないで…て…妊娠…って…言ったのに…」
注がれる度に打ち震える少女の体温を感じながら僕は果てた。
END
設定をお借りした作者さんありがとうございました。 ISAPとゴミクズファンネルどもー!
帰ってきてくれー! 新年あけましておめでとうございます。本年も懲りずにフェニックステイルを投下して参りますので、引き続きよろしくお願いいたします。
今回から新章突入ですが、相変わらずエロはありません。悪しからずご了承ください。 『長々距離レーザー通信、接続状況最終確認――導通及び感明良し』
地球を取り巻く広大な宇宙空間に、幾重もの中継を経たレーザー通信の回線が繋がる。月の傍らから地球の反対側へ、ラグランジュ点からラグランジュ点へと遠い、遠い距離を隔てて、電気信号が走り抜けていく。
ノイズ混じりに画面が開いた。高級士官用執務室が映し出される。画面の下端に小さく"Side 7 : Green Noir 2"の表示。
中央の席に略式軍帽を被った赤い眼鏡の男、そして傍らに髭の参謀将校が立っているのを確かめると、若い女の声が議事を淡々と告げはじめた。
『グリーンノア2の皆様、おはようございます。それではこれより新サイド4宙域における過去一週間の状況に関して、サイド4駐留軍《P-04》基地より、最新の連絡を実施いたします』
画面が切り替わる。最初に像を結んだのは、宇宙を行く艨艟の静止画像。暗礁宙域を背にしたサラミス改級巡洋艦だ。周囲には地球連邦軍の量産型MS、RGM-79R《ジムU》が数機。画面の片隅に小窓が開いて航路図を示す。
『2月25日。新サイド4駐留艦隊第441戦隊所属の巡洋艦《アバリス》は、同暗礁宙域外縁部を平常通りに哨戒任務中のところ、
同宙域深部を拠点に活動する大規模ジオン残党組織《ルスラン・フリート》配下と思われるMS小隊に襲撃されました』
同時に『参考資料』と題された数枚の静止画像が展開する。旧ジオン公国軍の量産型重MS、MS-14A《ゲルググ》三機。それぞれの両肩にはそれぞれ独特のチャイニーズ・キャラクターが一字ずつ。
『奇襲を受けて展開したジムU四機のMS隊を殲滅され、アバリスも轟沈しました。
同じく近傍宙域で哨戒任務に当たっていた第223戦隊所属の同級巡洋艦《トラキア》がMS隊を緊急発進させながら駆けつけたものの、敵MS隊は捕捉出来ず追撃を断念。
周辺宙域を捜索し生存者一名を救助した後、トラキアは哨戒任務に復帰しました』
いくつもの中継点を経たレーザー通信の彼方、オーディエンスの男たちから含み笑いが漏れた。
『ふん。たかがゲルググ三機相手に、MS四機とサラミス一隻が手も足も出ずに丸ごとか。ずいぶんと脆いものだな』
『まあまあ大佐。一般部隊の雑兵など、所詮こんなものでありましょう』
ブリーフィングを受ける男たちが尊大に声を震わせて鼻で笑う。だがブリーファーの傍らに控える二人の将官は、まったく意に介していない。若い女性士官はプレゼンテーションをただ淡々と進めていく。
『続きまして翌2月26日。《P-04》への航路を取っていた民間貨物船《リバティ115》が、ジオン残党勢力MS隊の襲撃を受けました。このMS隊は25日にアバリスを襲撃したものとは別の部隊です』
同じく記録映像が展開する。今度はMS-06F《ザクU》、MS-09R《リック・ドム》、MS-21C《ドラッツェ》が各一機ずつ画面に躍る。
しかしよく見てみれば、どの機体も一年戦争やデラーズ紛争の当時そのままの機体ではないと分かる。肩部サブカメラやスラスター類に、増設強化などの改修部分が確認できた。
それら改良型のジオンMS群に続いて、こちらは一年戦争当時そのまま――いや、むしろ当時よりも武装を弱体化させたと見える、RGM-79A《ジム》やRB-79《ボール》が姿を現す。
両者のアイコンが宙域モデル図の中を泳ぎ、接触して交戦を開始した。
『リバティ115からは、同乗の民間警備会社MS隊が展開し応戦開始。同時に救難信号が発信されました』
『民間警備会社? ――ああ。ヴィック・ウェリントンの系列か』
『近傍宙域を航行中の巡洋艦トラキアがこれを傍受し、再び即応。現場へ急行するとともにMS隊を緊急発進させ、リバティ115へ取り付かれる前に交戦開始。
ジオン残党MS隊を撃破し無力化し、さらに全機の鹵獲に成功しました。が――』
サラミス改級巡洋艦のアイコンから伸びたジムU四機が、ザクUとリック・ドム、ドラッツェの三機編隊と交戦し、撃破する。だが、そこへ横合いから艦砲射撃の閃光が走った。
『ここで介入してきたのが、環月方面軍所属を名乗る新型戦艦《ジャカルタ》です』
今までの画像と異なり、不自然なほどに画素の粗い写真が写し出される。
主推進器を艦体後部両舷で左右に分離させながら搭載した、地球連邦軍系の直線が目立つ意匠の新型宇宙戦艦。
その左右に伸びた長大なMSカタパルトから出撃してくるのは、RGM-79C《ジム改》に似た、緑色に塗装された胴体部をはじめとする機体全体を重厚化させているジム系MSだった。
量感を除けばRGM-79CR《ジム改高機動型》のように見えなくもないが、画像が今までのジオン系MSを写したそれと異なり細部が粗いため、厳密な判定は難しい。 そしてそんな低画質の画像でも、参加者たちの意識を一気に引きつけるには十分だった。
『これが、――《エゥーゴ》めらの新型機か』
そのとき初めて地球を挟んだ反対側から、低い唸りと忌々しげな重い吐息が漏れた。ブリーファーはそれも無視して、なお淡々と続けていく。
『ジャカルタ艦長はミノフスキー粒子散布と電子戦を並行し、宙域内の無線通信を封鎖。そのうえでジオン残党組織による月でのテロ計画対処を理由に、トラキア隊が鹵獲したMS隊の即時引き渡しを要求してきました。
しかしトラキア艦長はこれを拒否し、鹵獲機を収容しての離脱を企図。一触即発の緊張が続く中、突如『機体トラブル』を理由にジャカルタMS隊の一部がトラキアMS隊を襲撃しました』
連邦軍のジムUとエゥーゴの新型ジム、両者が激しく入り乱れる。それでもエゥーゴ機はビームライフルなどの武装は使わず、あくまで体当たりやシールドの打突のみを武器に執拗に絡んでくる。
その機体のパワーは明らかにジムUを圧倒していた。
『小競り合いとなってトラキア隊は一機が小破するも、反撃でジャカルタ隊の一機を撃墜。
しかしジャカルタ隊はこの混乱の隙を突いて、鹵獲されたジオン残党MSをパイロットごとすべて奪取することに成功。この段階で両者は離脱し、ジャカルタは暗礁宙域内へ姿を消しました』
『はっ。なんと無様な……!』
髭をたくわえた中年の参謀少佐が、地球の向こうで低く罵る。やはりそこにも今までにない強い感情が滲んでいた。
『エゥーゴの尻尾を掴む機会を、よくもむざむざと――しかしさっきからたびたび名前の出てくる、このトラキアとかいう艦は何だ?
ジオン残党ともエゥーゴともろくに戦いもせず、すぐに引き下がってばかりではないか! 敢闘精神がまったく足りておらん――まったく、これだから一般部隊は!』
『続いて日を改め2月28日』
傍らに座る女性将官に顎で示され、ブリーファーは何か絡もうとしてきた彼を強引に無視して続けた。
『第223戦隊旗艦を務める巡洋艦《マカッサル》と駆逐艦《アルマーズ》が暗礁宙域を哨戒中のところ、民間払い下げのコロンブス級輸送艦らしき不審船を発見』
画面が切り替わる。新たにサラミス改級駆逐艦に追われるコロンブス級輸送艦、そしてその前方に潜んで待ちかまえていたサラミス改級巡洋艦が現れた。
『不審船は追跡するアルマーズからの停船命令に従わず強行突破を試みたため、戦隊は前方に待ち構えるかたちで布陣したマカッサルからMS隊を展開。これに対し不審船もMS隊を出撃させ、MS戦となりました』
巡洋艦からRMS-117《ガルバルディβ》二機とRMS-106《ハイザック》四機が出撃し、不審船から来るザクU三機と激突する。
機体は旧式で数も劣勢のザクU隊は、しかし正面に展開するガルバルディβとハイザックのMS隊を次々に狙撃し、ついには一方的にすべてを撃破してのけた。
『たかがザク相手に……なんと不甲斐ない』
『はっ。新サイド4のMS隊はデブリ掃除のし過ぎで、肝心の戦い方を忘れたのではないのか?』
冒頭のアバリス隊に続き、またしても旧型機を操るジオン残党軍に手玉に取られる連邦軍部隊に、男たちが呆れきった声を上げる。だが画面に映し出された実機の戦闘記録映像と女の挟んだ解説が、彼らを再び緊張に引き戻す。
『敵MS隊はMSの通常の有効射程を遙かに越える超長距離から、精密狙撃を仕掛けてきました。ここで観測された狙撃距離と命中精度及び射撃速度は、一年戦争時に記録されたアムロ・レイ大尉の数値を大きく上回ります』
『なっ』
『――強力なニュータイプ、だと言うのか……? いや、しかし。よく見ればこのザクの狙撃は機体の手足を掠めるばかりで、まるで直撃出来ておらんではないか。アムロ・レイなら、すべて一撃で仕留めておる』
『た、確かに』
彼が言うとおり、なぜか映像の中で次々と狙撃を受けても爆散した機体は一つもない。ブリーファーは特にその件について説明しなかった。
接近戦で六機のMS隊をやはり一機も爆発させずに蹴散らすと、ザクのアイコン群が画面上をサラミス改目掛けて接近していく。
MS隊すべてを失った巡洋艦がそのまま突破されるかと見えたとき、なんと巡洋艦マカッサルは勇敢にも自ら敵前に立ちふさがって反撃する。
その対空砲火がザクU隊を阻止し、あまつさえ超長距離狙撃を連発していた一機を中破させてしまった。
『おお……なんと果敢な』
『ほう、なかなかやるではないか。ふん、しかしこんなもので落とされるようでは、大したニュータイプではなかったようだな』 巡洋艦はそのまま不審船――敵輸送艦と交戦しながら脇から抜けて離脱するが、そこでジオン残党艦へ追いついた後続の駆逐艦から三機のジムUが肉薄する。
MS戦が発生したが、ニュータイプと思しきパイロットのザクを失った不審船MS隊に、先ほど見せた神通力じみた戦闘力はもはや無かった。ザクUがまた一機中破する。
『敵MS隊はこの戦闘において、不可解なほど多量の照明弾を発射していました。これは救援要請の信号でもあったらしく、暗礁宙域深部からは多数のジオン残党増援部隊が次々と出現してきます』
ブリーファーが言うが早いか、画面の端から三機のゲルググが出現し、交戦中のジムUと生き残りのハイザックを一機ずつ撃墜する。さらにコムサイ改級揚陸艇二隻に搭載されて、リック・ドム六機が戦場に到着。
形勢は逆転した。ジオン残党軍はそのまま圧倒的な戦力差で、戦場に残った駆逐艦一隻と二機のジムUを殲滅していくかに見えた。
『これに対し、我が軍も近傍宙域を航行中の巡洋艦トラキアが照明弾と戦闘光を確認、直ちに反応していました。
まずトラキアに同行していたP-04駐留部隊所属のMS隊が、パブリク改級哨戒艇で先行し接敵。次いで本隊も到着します』
RGM-79GS《ジム・コマンド》――いやRGM-79GSR《ゲシュレイ》と表示された機体がもはやMAじみた高速で、ジオンMS隊の脇腹へ横槍を入れるかたちで突きかかる。
さらにRGC-80SR《ジム・キャノン改》が、ゲシュレイの突撃と巧みに連携した砲撃戦を展開。瞬く間にリック・ドム二機を撃墜し、連邦軍残存戦力は反撃に転じる。
そして到着したトラキアが混戦のさなかへ艦砲斉射を放つと、リック・ドム隊は一機を残して全滅した。トラキアMS隊のジムU四機が戦線に参加したことで、戦勢は再び逆転したかに見える。
だがジオン側もさらにMS-18E《ケンプファー》とMS-06FZ《ザク改》、ドラッツェから成る六機編隊が戦闘加入。
増援第三波でジオン側が盛り返して互角の戦闘が展開されるも、連邦軍はなおもじりじりと押し込み、コムサイ改二隻とゲルググ一機を撃墜する。
『ジオン側も増援部隊の第三波を投入し、戦闘は再び膠着――そしてここで再び、戦艦ジャカルタは現れました』
戦闘宙域へ侵入してきた戦艦ジャカルタは、露骨に連邦軍部隊を狙う艦砲射撃を放った。続いて多数のMS隊を発進させる。最初の接触で出てきたジム改もどきだけではない。
今度はどこかリック・ドムに似た――しかし、全く異なる印象を持った重MSが先頭に立って突進してくる。戦場の均衡は一気に崩れた。
『――これもエゥーゴの新型か……? ええい、なぜここだけ画素がこうも粗い……』
『戦艦ジャカルタの介入を受け、この時点で戦闘宙域の残存部隊指揮官となっていたトラキア艦長は、全軍に離脱を下命。ジオン残党軍も同時に離脱を開始しました』
トラキア隊のジムUとエゥーゴのリック・ドムもどきが急接近し、激突して一対一で火花を散らす。両者はそのまま母艦へ帰投し、その戦闘を最後に二つの艦隊は離れていった。
『最終段階においてトラキアMS隊とジャカルタMS隊による偶発的交戦こそ発生したものの、双方に大きな損害は無し。両者はそのまま接触を断って離脱しました。
以降、第223戦隊は部隊を再編し、P-04への前進を再開――現時点までの状況報告は以上です』
『ふん、田舎部隊のジムUと互角か』
『しょせんは民兵。このリック・ドムもどきの新型も、大したことはなさそうですな』
ジオン残党軍MS隊へ守られながら宙域深部へ後退する輸送艦へと、エゥーゴ部隊はまっすぐに接近していく。
プレゼンテーションはそこで終了した。画面が閉じる。
代わって大型モニターは再び、映像会議の参加者たちを映し出す。
地球と月の狭間に浮かぶ、新サイド4のL1暗礁宙域。
地球を挟んだ月の反対側、サイド7のL3宙域。
L1――新サイド4復興再開発拠点《P-04》からの参加者は、ブリーファーを除いて二人。
一人はP-04駐留部隊司令の男性准将。壮年のアジア系で、穏やかな微笑みを浮かべている。
そこに異質な点があるとするなら、それは異常なまでに筋骨を隆起させた屈強な体格と、その顔面を非人間的なまでに歪める深く大きな傷跡だった。殊に右目の周辺からは肉が大きく抉れ、眼球がほぼ露出していた。
そしてもう一人はすでに相当な高齢に達した白髪の、ヨーロッパ系の女性准将。肩書きは新サイド4駐留艦隊副司令。姿勢と眼光は確かだが、少なくとも容姿を見る限り、生半可な年齢ではない。
もはや軍人としての現役など、何十年も前に勇退していて然るべきと見えた。 そして、L3――サイド7《グリーン・オアシス2》に築かれた地球連邦軍の新たな軍事拠点から参加するのは、禿頭に独特の赤い眼鏡を掛けた大柄な大佐と、傍らに立つ髭の少佐の二人。
片や准将二人、片や佐官二人。両者の階級差は明らかだったが、それでもL3の佐官二人は鷹揚な構えを崩すことはない。
理由は彼らの制服にあった。
地球連邦軍制服に独自の意匠を加えた濃紺の制服は、ジオン残党組織の掃討を目的として独自の予算と強権を与えられた、地球連邦軍特殊部隊《ティターンズ》のものであった。
そしてティターンズ所属将兵はその他の地球連邦軍一般部隊の将兵に対し、一から二階級上の扱いを受ける権限を有する。
つまり、この赤眼鏡を掛けた禿頭の大佐は、その二階級上――准将を超えた少将としての格を有することになるのだ。
まして彼がそのティターンズにあって、実働部隊における事実上の最高指揮官の地位にあるのであれば、本来の上官たちを歯牙にも掛けないその傲慢さも、実にもっともなことではあった。
「ふん、なるほど。ユン准将、ウォレン准将。貴官らからの情報提供には感謝しよう。
エゥーゴ艦ジャカルタの追撃部隊には、すでに一個戦隊を手配した。間もなくコンペイトウから出撃する――彼らへの拠点の提供と、道案内をよろしく頼む」
バスク・オム大佐が鷹揚に呟くと傍らの参謀、ジャマイカン・ダニンガン少佐が端末を操作し、派遣部隊の編成表を表示した。
旗艦としてティターンズ自慢の新鋭重巡洋艦アレキサンドリア級一隻に、護衛のサラミス改級巡洋艦が二隻と、艦載MSが合計二十四機。ティターンズにおける標準的な戦闘単位である。
だがそれを見て、凶相のP-04駐留部隊司令――ユン・ソギル准将はほんの少し、困ったように眉を顰めた。
『なあ、バスク君。ティターンズから援軍を寄越してくれる、というのはありがたい。ありがたいが――ちと、数が少なすぎはせんかね?』
『……少ない、とは?』
バスクの傲慢さなど最初から意にも介していなかったかのように、ソギルは淡々と語りはじめる。
『ふむ。サイド7にあるバスク君のその快適なオフィスからでは、なかなか理解しづらいのかもしれんが。我々の任地である新サイド4は実に混沌としたところでね。
先ほどの流れでも見てもらったように、この辺りにはジオンの残党がずいぶんと多い。しかも最近その動きはどんどん活発化していて、実は一年戦争の頃より増えているんじゃないかと思うぐらいだよ』
はっはっは、と愉快そうにソギルは笑った。顔面が表情筋ごと抉り取られている、その右目だけを除いて。
『このジオン残党、ルスラン・フリートとエゥーゴが連携したのなら、その戦力は生半可なものではない。そこへ本格的に攻撃を仕掛けようというのなら、せめて、この十倍――三十隻は寄越していただきたいな?』
『な、何をバカなっ! 三十隻だと!? 新サイド4駐留艦隊の、全戦力の何倍だと思っているのだ!!』
そこでバスクに代わり、傍らのジャマイカンが口角泡を飛ばして割り込んできた。
二百機以上のMSを抱える三十隻もの大艦隊となれば、昨今拡大著しいティターンズといえど、おいそれと出せるようなものではないのだ。
それほどの大戦力を一方面に抽出してしまえば、それこそ各地のエゥーゴとその予備軍を抑えられなくなるだろう。
やれやれとソギルは溜息混じりに、出来の悪い教え子を相手にするかのように優しく諭す。
『君。暗礁宙域は攻めるに難く、守るに易いのだよ。基本中の基本だ――士官学校で習わなかったのかね?』
『そんなことを言ってはおらん! どんなふざけた丼勘定をすれば、この頭のおかしい戦力要求が出てくるのかと言っている! 山よりでかい猪などおらん。
何がルスラン・フリートだ、過大評価が過ぎる! ギレン親衛隊を基盤とした最大勢力デラーズ・フリートが潰えた今、地球圏のジオン残党などはもはや風前の灯火よ!』
『そう言われてもな。現に我々の正面には、多数の残党軍が出没しておるのだよ。
どう少なく見積もっても百機以上もの、大MS部隊を抱えた連中がな――それと新鋭装備のエゥーゴ戦艦が手を結んだというのなら、こちらも相応の勢力で挑まねば、かえって無用の損害を重ねるばかりではないかね』
『そもそも貴様等が自分の作戦区域にジオン残党どもの跳梁を許しておるから、そこをエゥーゴにつけ込まれたのだろう!
いかなる犠牲を払ってでも、まず貴様等がジオン残党を殲滅して膳立てを整え、そのうえで我らがエゥーゴを叩くのが筋であろうが!!』 『はて? 私の記憶が確かなら、ティターンズはジオン残党の掃討を目的として設立された組織のはず……。
誇り高き地球連邦軍のエリートたる貴官らが、ジオン残党の巣窟たるサイド4を我らのごとき一般部隊に長年預けっぱなしにしたまま、今度はジオン残党ではなくエゥーゴとかいう新参者だけを相手にさせよと主張する……。
何だかこれはずいぶん不思議な話ですな、ウォレン准将?』
ソギルが飄々と水を向けたのは自身の傍らで、不機嫌そうに座ったままの老婆だった。
彼女――ヨランダ・ウォレン准将はすべてを馬鹿にしきったような表情のまま、冷たい瞳でモニターの向こうのティターンズ将校二人を一瞥する。薄く乾いた唇を開いた。
『そうじゃな。三十隻など、とうてい話にならん』
『当然だ。我らティターンズは地球連邦軍最高の精鋭、一般部隊などとは格が違う! 厳しい選抜試験を潜り抜けてきたその精鋭部隊の三隻は、一般部隊の三十隻をも凌駕すると知れ!』
ソギルの非常識な提案が新サイド4側の身内からも却下されたと見て、調子づいたジャマイカンが勢いに乗って畳みかける。
だが、老婆は眉ひとつ動かさずに言葉を継いだ。
『全軍じゃ』
『――は?』
言われた意味がまったく理解できず、ジャマイカン・ダニンガンはただその場で瞳を瞬かせた。
『いま地球圏にあるティターンズの宇宙艦隊、一隻残らず全軍寄越せ。もっとも中身がお前らんところの案山子じゃ百隻あっても正直足らんが、まあそこまでの贅沢は言わん。
弾除けぐらいには使ってやる。ほれ、そこの眼鏡小僧。四の五の言わずにさっさと集めろ。もちろん、お前ら自前の補給艦隊と兵站も込みでな』
『……ティターンズを愚弄するか、……貴様……』
真正面から罵倒されて、バスクは瞬間的に沸騰した。隣に立つジャマイカンが、あまりの殺気に思わずひっと呻いて立ちすくむ。
バスク・オムは『暴力』の本質を知り、そして自在に使いこなす男であった。一年戦争以来の地球連邦軍を飲み込んできた混沌の渦中にあって、この男はその才によって身を立て、這い上がってきたと言っていい。
必要とあらば、バスクはいかに凶悪で非道な暴力の行使にも躊躇しなかった。彼にはそれらを可能とする、人と組織を思うがままに動かす豪腕が備わっている。
その人並みはずれた野生の嗅覚と行動力に導かれて、今日の彼はいまティターンズ実働部隊の事実上の頂点に登り詰めたのだ。
そしてP-04の二人は、そんなバスクの怒りをまったく相手にしていなかった。
ソギルは相変わらずの穏やかな微笑みを浮かべたまま、ヨランダはティターンズの二人を小馬鹿にしきった呆れ顔のまま。
『なにが精鋭じゃ、この阿呆』
そして救いようのない馬鹿者を見下ろす表情で、ヨランダが冷たく言い捨てた。
「お前んとこの案山子、まとめてあいつらに沈められとろうが」
『――何……?』
『ほれ、お前らが月軌道の哨戒に出しとった117戦隊じゃ』
ヨランダが目配せするや、モニターが再び切り替わった。月を背にしたアレキサンドリア級重巡洋艦とサラミス改級巡洋艦を映し出す。ティターンズ艦二隻と、一般部隊のサラミス改が一隻の混成だ。日付は2月22日。
『――まさか、あれは』
はっと息を呑んだジャマイカンをよそに、再び映像が切り替わる。 望遠で捉えられた粗い映像。今度は暗礁宙域で、先ほどのアレキサンドリア級とサラミス改級の戦隊が何者かと交戦している。今度の日付は2月25日――巡洋艦アバリスの撃沈と同日。
冒頭の資料映像でも見えた、ジム改もどきのエゥーゴ機が編隊を組んで迫る。
その編隊が構えた銃口から弾幕じみた圧倒的なビーム連射が放たれるや、棒立ちで反撃を試みた前衛のRMS-106《ハイザック》があっさりと撃ち負けて次々に被弾、無数の光軸に貫かれてひとたまりもなく爆散した。
ティターンズMS隊の戦列が、一方的に蹂躙されながら突き崩されていく。
BR-S85ビームライフルから連射を放って必死に抵抗するRGM-79CR《ジム改高機動型》が、速すぎる敵機の機動へまったく対応できず、コクピットを背後からビームサーベルで串刺しにされた。
リック・ドムもどきの新型に貫かれ、痙攣したように硬直する。その仇を取ろうとするかのように僚機が駆けつけるが、次の瞬間にはまた別のジム系新型と思しき敵からビームライフルを叩き込まれて爆散した。
と、暗礁宙域の奥から光芒が煌めく。艦砲射撃の太く力強い光軸の束が、数本まとめてアレキサンドリア級の艦体中央に吸い込まれた。それだけでティターンズが誇る新鋭重巡は、暗闇に膨れ上がる光熱の泡となって消えた。
瞬く間に旗艦とMS隊のほとんどを失った残りのサラミス改は、必死に急速反転して離脱を試みる。
だが、エゥーゴは逃さない。
多数のジム改高機動型やハイザックを縦横無尽に斬り捨てていたリック・ドム擬きの新型機が、足並みの揃わない弾幕の下をあっさり掻い潜って敵艦へ迫る。
二隻の艦橋を瞬く間にバズーカで爆砕して行き足を止めると、四方八方からエゥーゴのジム隊が放つビームライフルの一斉射撃と艦砲の第二斉射が、サラミス改の二隻をも火球に変えた。
時間にして、わずか三分足らず。
たったそれだけの時間で、ティターンズ第117戦隊は完全に消滅した。そして二十機以上のMSと三隻の巡洋艦を沈めていながら、エゥーゴMS隊はほとんど損害を受けていない。
それは、あまりにも一方的な虐殺だった。
鮮やかすぎる完勝を収めたエゥーゴMS隊は、次々に母艦へ帰投していく――自らの艦砲でも二隻の敵艦を屠った、戦艦ジャカルタへ向けて。
記録映像は、そこで終わった。
『お前らが言う《精鋭》とやらの一個戦隊ごとき、ダミー風船より役に立たんわ』
『そ、そんな……117戦隊が……ま、まさか……しかし、……そんな……』
『ん? まさかお前ら、こいつらがジャカルタ一隻に食われとったことすら知らんかったのか? いやぁ、さすがは精鋭ティターンズ。上が有能だと、部下どももマメに報告する優秀なのが揃っていて羨ましいのう』
数日前に消息を絶った配下の精鋭と自負する戦隊の末路を、予想外の経路から予想外の場所で知らされてジャマイカンは狼狽する。
邪悪に笑うヨランダの傍らで、ほほう、と大きく唸りながら、どうでもいい世間話のように軽い調子でソギルが訊いた。
『フム。ウォレン准将、この映像はどうやって入手されました? 暗礁宙域の全天をカバーする監視網など、貴方の部隊にもまだ無いはずですが――』
『なあに。ま……蛇の道は蛇よ』
――人的諜報網か。
ヨランダ・ウォレン准将。三十年近く前に地球連邦軍を退役し、そして数年前、齢九十を前にしながら准将の階級で現役復帰した老将。
もはや連邦軍にも再任前の彼女を知る者は少ないが、当時の噂の片鱗ぐらいはバスクも耳にしていた。
特殊戦の女帝。
地球圏の各地でくすぶる反地球連邦の火種を、火種のうちに情け容赦なく探り出しては蹂躙し、跡形もなく踏み潰してきた死の部隊を率いた女。
情報戦と諜報戦を自在に操り、ジオン公国台頭前夜まで地球圏の『平和』をほの暗い闇の底から支え続けた、地球連邦暗黒面の生ける伝説。
おそらく彼女は現役復帰後に再建したその情報網で、117戦隊とジャカルタ双方の動向を掴んだ。そこで両者交戦の気配を知るや、配下のMS隊を向かわせたのだ。そして密かに一部始終を撮影させた。
友軍を救援するためではなく、ただ情報を掴ませるためだけに。 ひらり、とヨランダが記憶媒体をその手にかざす。
『この映像、なあ。なんなら儂の伝手で、宇宙軍の全部隊に回覧させてやってもええのだぞ? 何せ貴重な、エゥーゴの脅威と暴虐を伝える資料じゃからなあ。
ククク。これを全軍で共有してやれば、さぞ反エゥーゴ感情が盛り上がろうて』
『ぐう、う……っ!』
きつく歯噛みするバスクを、ヨランダは鼻でせせら笑った。
地球連邦宇宙軍将兵の大半は、地球至上主義を掲げる現政権とティターンズを快く思ってはいない。
地球復興に偏重した政策を取る地球連邦政府によって、大半の宇宙軍部隊は十分な予算を供給されていない。今や将兵への給与遅配すら常態化しつつあるのだ。
そして対照的に優先的な予算配当を受けながら、その特権を享受し濫用するティターンズ将兵は、一般部隊から強烈な反感を集めている。
そんな状況の中、数で勝ったティターンズ部隊がこれほど無惨にエゥーゴによって殲滅される映像などが公開されようものなら、どうなるか。
ティターンズの名誉と威信は完全に失墜し、エゥーゴと連邦軍内部の反ティターンズ分子はいよいよもって勢いづくだろう。
『ティターンズ恐るるに足らず』と見れば、今まで様子見していた部隊までもが雪崩を打って一斉にエゥーゴへ参加してくるかもしれない。
まだ早すぎる。バスクが時間を惜しんで精力的に押し進めてきた数々の施策が実を結び、ティターンズが本当に圧倒的な軍事力を獲得して盤石の支配態勢を確立するまでには、まだもう少しの時間が必要だ。
今の時点でそうなってしまえば、ティターンズは――そして今度こそ地球圏は、壊れる。
『とはいえ、まあ儂も鬼ではない。お前らもいま抱え込んどる案山子どもを、今の布陣のまま雑魚の水準まで鍛え直す時間が欲しいじゃろう。
儂らの方も、いちいち案山子のオムツをせっせと換えて回っていられるほど暇でもないしな。それで、じゃ』
ヨランダの瞳が、不意に昏い光を帯びてバスクを嘗めた。
『お前らが丸め込んどる、《コンペイトウ》のニュータイプ研究所な。あそこの部隊で手を打ってやろう。ずいぶん出来のいい強化人間が二人と、――あるんじゃろ? そこにも新型の《ガンダム》が』
『……《ヘイズル》はガンダムではない』
『似たようなもんじゃろうが。ええから、四の五の言わずにさっさと寄越せ――出し惜しみは為にならんぞ』
厳重に秘匿していたはずの研究機関の存在と、ティターンズによる取り込み交渉の進捗、そしてその内実を当然のように言い当てられて、もはやバスクはじりじりと後ずさる以外になかった。
完全に圧倒されたバスクを、嘗めきった強者の圧力でヨランダが押し切る。
『しかしお前ら、本当にそこいらじゅうで余計な墓穴ばっかり掘ってくれとるのう。
ああ、そうそう。ジャミトフ・ハイマン。あいつな、この前ちょっと茶飲み相手に映像会議で呼び出してやったら、お前が宇宙でやらかしとるポカはロクに知らんかったぞ?』
『――ジャミトフ、大将……?』
ティターンズ総帥、ジャミトフ・ハイマン大将。
四年前のデラーズ紛争とコロニー落下『事故』に際し、連邦軍内部でその権力を劇的に拡大してティターンズを築き上げた男。
自ら地球連邦議会にも議席を持つジャミトフは、今や軍と政府の両面を席巻するほどの絶大な政治力を縦横に振るって、地球からその権勢を支え続けている。
ジャミトフからティターンズの実働部隊を宇宙で預かるバスクは、今まで数々の『独断専行』を繰り返してきた。中には大きな成果を挙げたものも、露見すれば政治的に致命傷となりかねないものも含まれている。
そして上官たるジャミトフが必ずしもそれらの行いを肯定していないことは、誰よりもバスク自身が知悉している。
バスク・オムとジャミトフ・ハイマン――互いの存在を不可欠とする両者は、しかし同時に微妙な緊張状態にあった。 『あの鷲鼻のクソガキ。多少出世したぐらいで今はずいぶん偉そうにしとるが、士官学校の営庭で儂に蹴飛ばされてゲロと鼻水垂れ流しとった頃から何も変わっとらんなアイツ。
ロクに部下の面倒も見きれんくせに、青臭いガキの屁理屈ばっかり捏ねくりまわしおって。五十年経って未だにアレでは、やれやれ、地球連邦軍の行く末も暗いわ』
『ウォレン准将。いくら昔の教え子でも、今は大将閣下であられますよ。そのような物言いは、いかがなものかと』
『クソガキは大将閣下でもクソガキじゃ。大体あの鷲鼻小僧、いつになったら菓子折提げて儂のところへ挨拶に来るんじゃ? おい、そこのポンコツ眼鏡。
いつまでも大恩師様に不義理な真似をさらしとると、キリマンジャロの万年雪に鼻から突き刺して逆さに埋めるぞ――あと仕事はきっちりやれ、とジャミトフの小僧に伝えろ。それからチョビ髭』
『はっ!?』
ティターンズとバスクを愚弄するどころか、総帥ジャミトフ・ハイマン大将までもをクソガキ呼ばわりし、そのうえ直接のパイプを示唆してのけた老将から、いきなり話を振られてジャマイカンはびくりと背筋を震わせた。
もはや連邦宇宙軍の全一般部隊に情報がどうの、という話だけでは済まない。この老婆の前で下手をすれば、すべての情報が直接ジャミトフの耳へ入れられてしまうのだ。
『コンペイトウからのニタ研部隊派遣の話は、今後お前が取り仕切って進めろ。部隊は今週じゅうにP-04へ寄越せ。到着が少しでも遅れるようなら、……分かっとるな?』
『そ、そこは、み、見積もりを……見積もりを、出させていただけませんと……』
『儂はお前の意見なぞ聞いておらん。儂が出来ると言うたら、出来るのじゃ。今の仕事が向いておらんようなら……そうじゃな。
静かで涼しいアステロイドベルトで、石ころの数を数える仕事を手配してやってもええのだぞ? 分かったら、やれ。……分かったな?』
『はっ、……ははぁっ!!』
完全に傍らのバスクの頭越しで命じられながら、絶大な圧力に耐えきれずにジャマイカンは腰を折った。もはやバスクもそれを制止しようとしない。
『ほほう、噂の人工ニュータイプ部隊ですか? それは心強い援軍ですな』
きつく歯噛みしながらもヨランダに抑え込まれたままのバスクをよそに、微笑みをまったく崩していないソギルが話を継いだ。
『おう。各地のニタ研はかなりの失敗続きらしいが、コンペイトウの奴はなかなかの仕上がりだと聞いておるぞ。のう、ソギル――これはお前のところの子飼いどもも、うかうかしてはおられんかもしれんなぁ?』
『ははは。新世代の精鋭諸君の足を引っ張ることがないよう、今後とも指導に全力を尽くしましょう』
傍らのソギルを見るヨランダの瞳にそのとき一瞬、剣呑な殺気が宿った。だがソギルは穏やかに微笑んだまま、モニターの向こうでぎりぎりときつく歯噛みするバスクへと視線を戻す。
『バスク君。先ほどはウォレン准将がいろいろと厳しい言葉も使われたが、どうか気を悪くしないでほしい。
ティターンズの諸君と我々は、ともに地球連邦の旗の下で、地球圏の安定と平和を願う同志だ。私とて、バスク君の置かれた難しい立場は理解しているつもりなのだよ』
傲岸不遜の極みからバスクらティターンズを嘲弄してのけた、ヨランダに対する憤怒の情に満ち満ちたバスクの意図を、勝手に読み替えながらソギルが続ける。
『そして君が戦場へ直接率いたわけではないとはいえ、数百人もの部下を失った君の今の気持ちもよく分かるつもりだ。心中を察しよう。彼らの霊の安らかならんことを』
不意に微笑みを消し、代わってソギルは神妙な表情を浮かべた。
だが今のバスクは多くの部下を失った悲しみではなく、自分の立場を危うくしかねない脅迫材料をヨランダに握らせてしまった無能な部下たちへの怒りと屈辱に震えている。
そんなバスクの内心を知ってか知らずか、ソギルは淡々と言葉を継いで尋ねた。
『だが最終的に指揮官たるものが、志半ばで倒れた兵たちに報いる術はひとつだ。……分かるかね?』
『……最終的に敵を完全に打ち破って抵抗の意志を奪い、決定的な不動の勝利を掴み取ることだろう』
『ふうむ。それもある。それもあるが……私の答えは、もっと単純だ』 『何……?』
戸惑うバスクを前に、ソギルはふっと破顔した。
『敵を殺し尽くすこと。皆殺しにすること。根絶やしにすること』
にい、と口角を釣り上げてソギルは笑う。
バスクはそれだけで、背中にナイフの刃を押し当てられたように硬直する。
それは間違いようのない、本物の悪魔の笑顔だった。
『戦いの本質とは、これに尽きる。一年戦争の最初の半月で、私はそれを身を以て学んだ。バスク君……私はね、君を本当に高く評価しているのだよ。ほら。サイド1の30バンチ――』
それは一昨年、『伝染病の蔓延』によって住民全員が死滅したコロニーだ。公式にはそう発表されている。
そしてティターンズとバスクにとっては、その背後に潜む真実を決して知られてはならない忌み名でもあった。
その名をたやすく口に出しながら、ソギルは至福の笑みを浮かべている。
『私はああいう、思い切りのいい仕事が出来る指揮官を探していたんだよ。ただ……君にはまだ、迷いが見える。
慎重になりすぎて、腰が引けてしまっている。せっかくいい素質を持っているのに、勿体ない――それでは、まだ、ダメだ』
苦笑しながら、すう、とソギルは片手を上げた。
『ダメだよ、君。もっと大勢、殺さなくては』
『…………ひっ……』
カメラとモニターと七十五万キロメートルの距離を超えて、その手がまっすぐ伸びてくる。
冷たい手だ。
生者の温もりを持たない、そして一人のものではあり得ない、信じられないほど大勢の冷たい手。
それら無数の気配が自らの喉頸に掛けられる感触を、はっきりとバスクは感じた。
ガタン、と不意にバスクの背後で椅子が音を立てる。無意識のうちにバスクは椅子を引いて数十センチの距離を逃れ、その背を壁に押しつけていたのだ。
その音が響いたときには、モニターに映るソギルの手は元の位置まで戻っていた。表情も元通りの穏やかな微笑みを浮かべている。
『――バスク君。ティターンズの居心地が悪くなったら、いつでも私のところに来なさい。座り心地のいい椅子を用意して、君をもっと、もっと強くなれるように鍛えてあげよう』
『……か、……考えて、おこう……』
バスクを誘う悪魔の手招き。ヨランダと女性士官は冷たく乾いた瞳で、それを横から見つめている。
『それとな、バスク君――身辺に気をつけたまえ』
『身辺……?』
訝しがるバスクに、うむ、とソギルは力強く頷いた。
『エゥーゴはついに戦力を整え、本格的に動きはじめた。新サイド4のジャカルタは陽動、という可能性もある。私がエゥーゴの立場なら――まず最初に君の本拠、グリーンノアを狙う』
『何を馬鹿なッ!!』
呪いのようだった何ものかが解けたことを確かめるかのように、バスクは力強く立ち上がって猛然と叫んだ。
『グリーンノアの守りは鉄壁だ! ネズミ一匹入り込ませはせん。エゥーゴがどれほどの艦隊を押し立ててこようが、すべて返り討ちにしてくれるわ!』
『ほう、それは頼もしいことだ。私の杞憂であることを祈ろう。しかし、エゥーゴは――案外もう、すぐ近くにまで来ているかもしれんよ』
にい、とソギルが笑った。
その凶相の迫力にティターンズの二人が気圧される中、ヨランダが退屈そうに時計を眺めて呟いた。
『さて、……いい時間じゃな。おいチョビ髭。コンペイトウの件、しっかり働けよ』
『は……は、ははっ!!』
『それでは、今回の映像会議を終了いたします。ありがとうございました』
ヨランダがジャマイカンを睨みつけると、すべてを無言で見守っていたブリーファーの女性士官の言葉を最後に、通信画面は閉じた。 モニターが消えたグリーンノア2の執務室には、奇妙な静寂だけが残った。静かに震えるバスクの背中に、ジャマイカンが何か声を掛けようとして果たせず狼狽する。
「た、大佐――ひいっ!」
「ぬううっ!!」
ジャマイカンの前で唐突に、執務机の天板が陥没した。振り上げられたバスクの豪腕が破壊したのだ。
バスク・オムの内心はなお、それだけでは収まりきらない激情の渦に満ち満ちていた。
「ルウムの、……亡霊どもがぁ……っ!!」
これほどまでの屈辱と憤怒は四年前、デラーズ紛争の最終局面でソーラ・レイUの照射を阻止され、北米大陸へのコロニー落着を許した時以来だ。
あのときの彼は怒りの感情に任せたソーラ・レイUの第二射で、その原因となった敵巨大MAと敵対派閥のMAを、自らの艦隊ごと薙ぎ払った。
だが、今の彼に同じことは出来ない。屈辱と憤怒の他にもう一つ別の強烈な感情を、彼は深々と刻みつけられている。
――恐怖。
まったく別々の手段で彼に今回の激情をもたらした新サイド4の准将二人は、あまりにも強大すぎた。
バスク・オムは、暴力を知る男である。
暴力で他者を屈服させる術に長けていたからこそ、彼は今のこの地位まで登り詰めることが出来た。そして同時にそれゆえ、彼は暴力の臭いに人一倍敏感である。
あの異常者たちには、いま仕掛けても勝てない――彼に残された野生の本能がそう看破し、彼の軽挙を必死に制止したのだ。
だが、とバスクは思う。それも長くは続かない。いや、続かせない。
今後すべての連邦軍MSの新基準となる、RX-178《ガンダムMkU》計画も完成間近。最新技術の最先端として研究成果を挙げ続ける、各地のニタ研も傘下に入りつつある。ジオン共和国との協力態勢も好調だ。
そしてルナツーとグリプス、ア・バオア・クーを一カ所に集中させて難攻不落の宇宙拠点とする『ゼダンの門』構想も動き始めた。その中核となるべき、グリーンノア2それ自体を用いた最終兵器の建設準備も――。
あと少し。
あと少しの時を稼ぐことができれば、ティターンズは地球圏に盤石の安定を築くことが出来るのだ。たかが旧式兵器で武装した辺境部隊など、その時になればどうにでも出来る。
そして同時に彼らは今の連邦宇宙軍では数少ない、決してエゥーゴには付かないと明言できる勢力の一つでもある。
そう――あの連中がエゥーゴに付くことだけは、ない。それだけは信用できた。そして現状では、それだけで十分なのだった。
まずはエゥーゴを潰し、連邦軍全体を呑み込む。ジャミトフも、いずれ――。
その時までは、ひたすら前に進み続ける。久々に味わわせられたこの怒りは、そのための力とすることにしよう。
「……ビダン大尉を呼べ。グリーンノア1の、ガンダムMkUの現況を知りたい」
「はっ!」
この激情を忘れるためには、また再び膨大な仕事量の中へと自らを埋没させていくしかない。
上官が落ち着きを取り戻したのを見るや、ジャマイカンは安堵とともに慌てて執務室を立ち去った。
血の巡りが止まって白くなるほど、きつく握りしめていた拳をバスクは開く。掌へ食い込んだ爪痕から、赤い血がゆっくりと溢れ出てくる。
「くそがぁっ!!」
バスクの振り上げた渾身の鉄拳が、今度こそ彼の執務机を完全に破壊した。 閉鎖型コロニー、グリーンノア2と開放型のグリーンノア1、そして宇宙要塞ルナツーが形成するサイド7。
その防空圏内に今、一隻の白い戦闘艦が侵入している。
かつて一年戦争で活躍した伝説の強襲揚陸艦《ホワイトベース》を思わせつつ、さらに洗練されたシルエットを持つ白亜の新造艦。
その艦体左右へ張り出したMSカタパルトで前傾姿勢を取っている赤い重MSが、新サイド4からティターンズへと粗い画像で提供された機体と同一のものであることを、まだこの時点で知る者はない。
『クワトロ・バジーナ。リック・ディアス、出る!』
電磁カタパルトが叩き出す強烈な加速とともに、重厚な巨体に似合わぬ軽快さでその機体は舞い上がった。後方へ付く黒い塗装の同型機二機を従え、彼らの三機編隊はグリーンノア2を目指して無尽の宇宙を進行していく。
時にU.C.0087、3月2日。
宇宙世紀の歴史は、この日をグリプス戦役開戦の日として記録している。 今回はここまでです。
昨年は>>129で三次創作まで書いていただき、本当にありがとうございました!
こちらも次回こそエロ場面をお届けいたします。
それでは本年も、引き続きよろしくお願いいたします。 フェニックステイル26話の冒頭部分を投下します。
久方ぶりにエロ入りますが、いかんせん内容がだいぶアレなので、許せる方は笑って許してください。 「キャアアアアアアーーーッ!!」
反地球連邦組織エゥーゴが誇る最新鋭の航宙戦闘艦、アイリッシュ級戦艦《ジャカルタ》。その艦内通路の一角に今、絹を裂くような娘の悲鳴が響きわたっていた。
「い、イヤーッ! け、ケダモノーッ!! ああ、誰か! 犯されてしまいますわ! ひとたまりもなく孕ませられてしまいますわ!! 誰か、誰か助けてくださいましいいい〜〜〜ッ!」
「やかましいわ!! さっきから延々と、エロい雌の身体なんぞ見せつけおって! 戦場で雄を誘う喜びを知りおって!!」
リフトグリップを頼りに無重力の艦内通路を必死に逃げ惑うのは、柔らかな栗色の髪をポニーテールにまとめた小柄な童顔の美少女が一人。若くみずみずしい四肢を、袖のないエゥーゴ制服でほぼ剥き出しにしている。
その体躯はまるでジュニアハイかエレメンタリーの学生かと見間違うほどに小さい。しかし同時にその胸元や腰つきは、豊かに成熟した女の肉感を伴っている。
ノースリーブの脇からちらつく白いブラジャーや、同じく白のサイハイソックスとミニスカートのかすかな隙間から覗く太腿の眩しさが、アンバランスで背徳的な魅力を醸し出していた。
そして必死に逃げる彼女へと通路内を追いすがるのは、濃緑色の影――ジオン公国軍の一般的なパイロットスーツ。髭をたくわえた禿頭の巨漢が、もはや狂獣じみた異様な光をその双眸に宿らせながら迫っていた。
速い。
通路内の壁や天井、リフトグリップまでをも自在に蹴飛ばして三角跳びの要領で迫る巨漢の動きは、まさに彗星がごとし。もはや人間離れした通常の三倍以上の速度で巨漢は迫り、逃げる美少女の背中へと距離を詰めて肉薄する。
「ハッ!?」
少女が振り向いて背後を確認しようとしたとき、そこに男の姿はない。その瞬間にはもう、男は少女の眼前へ瞬間移動したかのように回り込んでいたのだ。
敵戦艦のブリッジ前へ迫ったザクのモノアイのごとく、巨漢の眼光が異様に輝く。
「はッ、速いッ!?」
「なんじゃそのエロ制服はっ!? 軍艦の中でパンチラブラチラ見せつけとるような痴女はなぁ!! こうじゃッ!!」
「イヤーーーッ!!」
禿頭の巨漢がその豪腕を振り上げ、そして不可視の速度で振り下ろした。
それだけで童顔の美少女がみずみずしい肢体を包んでいた、ノースリーブのエゥーゴ制服は破り裂かれて消し飛ぶ。
ブラジャーまでもが制服もろとも千切れ飛び、幼い顔立ちや小柄さと不釣り合いにたっぷりと実った乳房が二つ暴れて弾け飛ぶ。少女の肌に残ったエゥーゴ制服と下着の切れ端も、濡れ紙のように素手でことごとく破り捨てられた。
だが白く柔らかな餅のごとき二つの乳房の頂に、桜色の可憐な乳輪を曝させられても、少女に隠すすべはない。
「ああ……! いやぁ、お願い、離してぇ……!」
巨漢は制服の切れ端を少女の両手首へ巻き付け、さらに壁面構造物に巻き付けて拘束したのだ。さらに自らの巨体で彼女の両足を押し開きながら、そのまま床へ押しつけた。
そして裸身に剥かれた少女の眼前に、血管浮き立つグロテスクな黒の肉棒が天突くようにボロンッとそびえ立つ。
「あ、ああ! く、黒い、大きいぃっ――そんなの、入らなっ」
「連邦雌の運命(さだめ)はひとつ……ワシのチンポの、専用鞘じゃあっ!!」
「んほおーーーッ!?」
あまつさえ何の前戯もなく、ぶぢゅううっ! と男は剛棒直入した。
特筆すべきはその注挿速度。巨漢は最初からトップギアだった。
犯されることを覚悟した瞬間、自身の膣を保護すべく本能的に愛液が溢れてはいたが、男が叩き込んだ剛棒の威力はさらに大きく許容量を遙かに超える。
結合部から激しく鮮血が飛び散るが、少女は最初から単なる苦痛ではなく謎の快楽に導かれていく。 「ああ、あああああ……ッ!? な、なにこれ……っ、しゅぅ……っ、しゅごっ、いいぃ……っッ……」
少女がこれまでに知るいかなる性の悦びとも異なる、生命の躍動に溢れた壮絶な交合。それはまさしく身食らう蛇のごとき、人が知るべきでない禁じられた果実の味わいだった。
「どや! 身食らう蛇のように、抉りこむ突きッ! これがジオン幻の漢体決戦性器、ヨガルンチンポじゃッ!!」
「そ、そんなぁ……っ、ぜ、前戯もなしで、こんなぁ……ッ……こんなのぉッ……!」
少女の膣内をその動きは拡張しながら確実に最深部まで抉りこみ、しかも毎回必ず最奥のGスポットを微妙に異なる角度と強さで狙撃していく。性の大量破壊兵器を無差別投入する電撃戦は、まさに一週間戦争のジオン軍のごとし。
少女の肉体は何の対応も出来ないまま、ただ快楽の波に蹂躙されていくしかない。
「やかましい! 射撃諸元なんぞ送られてくるの待っとったら、会戦なんぞ終わっしまうわ!! 男は黙って直接照準、直接射撃! これで決まりやッ!!」
言いながら男はさらに加速し、その腰の回転速度を高めていく。パイロットスーツを脱ぎ捨てた男の裸身からは大量の汗が放散され、空気中に一瞬留まっては消えていく。
巨漢の形を伴った男汗の霧は、あたかも質量を持った残像のように見えた。
「ッ!? こ、腰使いがぁっ、アムゥッ、激し、すぎてぇ……ああんッ! おじさまがぁっ、三人にぃっ、見え、るぅ……ッ!?」
「どうや!! 見たか!! これがワシの三位一体! 一本のチンポで女を三倍ヨガらせる、黒いチンポの三連性! 夜のジェットストリームアタックじゃあああ〜〜〜ッ!!」
「あああああああッ、いいいいい〜〜〜ッ!!」
回転はさらに高まる。ついにはザクマシンガンの最大連射速度にも匹敵しようかという高回転で、巨漢は少女を犯し続けた。
「フンフンフンフンフンフンッ!!」
「アッ! アッ! アッ!! アアア〜〜〜っっ!!」
二人の結合部から溢れ出る雌の愛液と雄の先走り汁が溶け合うように混じり合い、膣奥から子宮口へと突き抜けていく熱い衝撃波が少女の性感を、そしてその意志までもをぐずぐずに溶け崩させていく。
「こっ、こわれりゅっ……こわれりゅぅっ、わらくひのおまんこ、おまんここわれりゅううう〜〜〜ッ!」
「なに言うとるっ!! もうお前のオメコはぐっちょんぐっちょんじゃろがぁっ!!」
「身体が……身体が熱い……すごい……嘘、こんな……無理矢理ですのに、どうしてぇ……っ……」
「やかましいわっ!! オーストラリアは今は夏やぞ!! ここがお前のシドニー湾ッ!! これがホンマのコロニー落とし……乾坤一擲、プリ乳ッシュ作戦じゃあ〜〜〜ッッ!!」
「クッ、アウウゥッ、すっ、しゅごっ、いいい〜〜〜ッ――!」
コロニー落とし。史上最大の大量破壊兵器になぞらえた自称にも決して恥じることのない威力で男が腰を落とせば、宇宙移民の怒りを乗せた極太コロニーが恥丘を超えて子宮を突く。
そして八年前に地球へ落とされたコロニーが数千万の人間を育んでいたように、いま少女の恥丘へ落とされ続けている肉コロニー棒も、雄から雌への植民者たる数億の精子を送り込む威力を秘めているのだ。 「チンポはこのまま! 雌パイロットの膣内で出さしてもらうッ!!」
「あ、ああ! だめぇ、だめですのぉっ! なかで、膣内で射精されたらっ! わらくひっ、はらんでぇ、こどもがぁぁあ――っ」
「ソロモンの、白き子種汁! 白漏、出るゥッ!!」
「いやあああァ〜〜〜ッッッ!!」
最後の突きを膣奥で受け止めたその瞬間、少女の脳裏で閃光の嵐が溢れた。
リズミカルに突き続けるどびゅうううっ、と女の腹の奥から異音が轟く。
消化用ホースの尖端を押し込んで最大出力で放水したかのような圧力が、少女の下腹で一気に弾けた。
ジオン伝説のエースパイロットの熟練技に突かれ続けていた子宮口から、ゆうに五十億を超える精子が狩るべき獲物を目掛けてなだれ込んでいく。
そして極太のペニスに押し開かれた合体部からその周囲へと、大量の白濁液が溢れて飛び散る。その激しい精液の漏れ具合は、まさに魔法王に仕える白き狼が射精したがごとしであった。
「どうや……! ワシの特濃ジオン優良子種汁は、ティッシュの屑になど成らん! 雌の腹で成就するのや!!」
「…………あ、……あ、……う、……あ……っ……」
最後の一滴までの濃厚な膣内射精を終えた、深い満足感の中で巨漢は叫ぶ。そして犯された少女は、その意識を未知の快楽の中で真っ白に宇宙へ飛ばしたまま、放心とともに見開いた瞳から、つう、と二筋の涙を流している。
コロニー落としの衝撃は地球の地軸を歪め、自転速度という地球のリズムまでをも狂わせたと言われている。それと同様に巨漢が叩きつけた巨根と性技も少女から生理のリズムを狂わしめて、子宮からその排卵を強制していたのだ。
「…………、あぁ……っ……」
そして少女はその見開いた虚ろな瞳の奥底で、子宮口を抜いた精子の群れが通常の三倍以上の速度で迫り来て、そして無防備な卵子に次々と結合――受精する瞬間を、確かに『見た』。
それを認識した瞬間、少女の乳房に急激な変化が生じはじめる。
可憐な桜色だった乳首に色素が急激に沈着し、どす黒いほどに染まっていく。同時に乳輪に浮かぶ乳腺のひとつひとつから白い液体が染み出していた。
男のごつく大きな掌が左右の乳房を乱暴に握りつぶすように搾ると、黒い乳輪からは新鮮な母乳が無数の飛沫となって放出された。
ただ数分の交わりと一度の膣内射精だけで、ジオン残党兵の巨漢がもたらした超絶の交わりは無垢な巨乳美少女の肉体を、一瞬にして妊娠と出産を待つだけの妊婦に作り替えてしまったのだった。
「フム、……ええ乳になったやないか……!」
巨漢は強引な性交の渇きを癒すように両方の乳首を口に含むと、凄まじい勢いで蓄えられた母乳をあらかた吸い尽くした。乳
首から唇を離すとその尖端を軽く舌で突つき、さらに大きく勃起してきた乳首から、ぴゅっと母乳が一筋跳ねるのを満足げに見下ろす。
「これでお前はワシのもんや……産めよ、国民! 元気な赤ん坊、産んでもらうでぇ……!」
「……しゅごっ、……いい……ぃ……っ」
これが一年戦争緒戦からその後の掃討戦までを力強く生き延びてきた、真のジオン残党兵の生命力。
地球連邦の三十分の一とも言われた国力で五十億人を焼き滅ぼした、地球人類のより良く支配してその再生を導くべき「優良種」。自分は今、その優良種を宿す母となったのだ。
「ジーク、……ジオン……」
力なく震える唇でそれだけようやく呟くと、少女の意識はどこまでも深い闇の底へと墜ちていった。 区切りが今一つですが、あまり先延ばしするのもなんなので投下します。 「…………」
禿頭にびっしりと浮かぶ脂汗が、薄暗い照明の下で鈍く光る。
巨漢の眼前には少女趣味の手書き文字で綴られた、可愛らしい意匠の日記帳。
震える指でページを繰る端から浮かび上がる、猥雑奇怪な性妄想――その文面の一語一語から漂う言い知れぬ迫力を前に、ジオン残党兵ドッツィ・タールネン少佐は打ちのめされ、ついにその禿頭を抱え込んだ。
「なんや、……これ……」
ドッツィが巨体を丸めてうなだれているこの場所は、エゥーゴ戦艦《ジャカルタ》居住区の士官個室である。
つい数時間前、連邦軍巡洋艦《トラキア》MS隊と交戦の末に撃破されたドッツィ率いる三機のMS小隊は、あわや連邦軍による鹵獲寸前のところでジャカルタ隊の介入に助けられた。
小隊の機体はいずれも手ひどく大破し、反地球連邦組織《エゥーゴ》の擁する新型戦艦ジャカルタへと収容された。
部下も戦闘で一人が気絶したまま覚醒せず、ドッツィはやむなく残る一人に機体を託し、戦艦ジャカルタ艦長デミトリ・スワロフ中佐との会見に臨んだのだ。
そこで要求されたのは、ドッツィがいま所属するジオン残党組織《ルスラン・フリート》と彼らエゥーゴの、反ティターンズ闘争における同盟。そしてドッツィに、その交渉のパイプ役だった。
今や地球圏を席巻する巨大勢力と化した、地球連邦軍特殊部隊《ティターンズ》。ドッツィたちも今までその一部と交戦する機会は何度かあった。
しかし本格開戦ということになれば今までのように、新サイド4などという見捨てられた辺境暗礁宙域とその周辺ばかりで行動しているものとは違ってくる。
だが急激に変化していく地球圏の情勢の中、スペースノイドの大勢を基盤として台頭するエゥーゴと結ぶことで得られるだろう、外界とのパイプと新技術は間違いなく魅力だ。
うまくすれば地球圏の大勢に影響を与え、巨大な権利を手にすることすら出来るかもしれない。
その判断は無論、組織全体の運命を左右しかねない重大局面である。ドッツィは即答を保留したが、課せられた判断はあまりに重かった。
スワロフ中佐は返答の保留を受け入れるとともに、ジャカルタにおいてドッツィらに個室を貸し与え、彼ら三人を客分として遇することを約束した。
そしてドッツィはその個室まで、連邦軍との戦場で彼の機体を確保・曳航した女性パイロット、リアンナ・シェンノート少尉に案内されたのだ。
案内されたのだ、が。
「ふんふん、ふふ〜ん……」
「…………」
奥の磨り硝子の向こうに、湯煙を帯びた影が見える。未成熟なローティーン以前の少女のように小柄ながらも、その身長とは裏腹に要所要所へと豊かな量感をたっぷりと蓄えた、トランジスタ・グラマーを感じさせる女体の影。
そして響く流水音に絡み合いながら、甘く鼻にかかった少女の歌声が届いてくる。
「うふふ。おじさま、本当にいいお湯ですわよ。ご一緒いたしませんこと?」
「ファッ!?」
彼女が目の前で脱ぎ捨てていったEカップのブラジャーを握りしめながら、ドッツィはビクンとその場に跳ね上がった。
股間の息子も一緒に跳ね上がっているが、応じられるわけがない。今の彼は組織間の重大交渉を控えた身だ。 「や、やめとく……遠慮さしてもらうわ……。あのな、少尉……それより、ここから、出し……」
「あら、ご一緒しませんの? ふふ。でも、そうですわね……おじさまは汗をかかれたままの方が、残党狩りの七年間を生き抜いてこられた獣の野性を、これから存分に味わえますものね。
……うふふ……今夜は思いきり内から外から私を汚して、いちばん奥まで濃厚な、おじさま色に染め上げてくださいましね……」
「…………。……アカン……」
まったく要領を得ない受け答えに、ドッツィは頭を抱えてふらつく。この境遇で、あの幼さと豊満さを具備した背徳的な美少女と同じシャワー室に入るなど、どう考えても社会的自殺行為以外の何者でもない。
そしてエゥーゴは間違いなく、その行為の一部始終を録画するだろう。外部組織の女性と肉体関係を持った男など、誰が信用するだろう?
そうなってしまえばこのあと組織へ戻った後も、ドッツィはエゥーゴの便利な傀儡として動かざるを得なくなる。
「あ、アカン! アカン!! ワシが! ワシとしたことがっ!! 男をハメさせる罠にっ、ハメられてしもうたっ!!」
気づいたときには遅かった。リアンナはドッツィを部屋へ導き入れるや、即座に内鍵を掛けて閉じこめ、そのままノースリーブの大胆なエゥーゴ制服を一気に脱ぎ捨てたのだ。
その流れるような一連の動きは、ただ見事な早業と言うほかなかった。
美少女の汗と体温の気配を残したブラジャーとショーツが無重力の空間を泳いでドッツィの顔面へ掛かると、リアンナは惜しげもなくその美しい裸身を晒してシャワー室へ消えた。
全裸のリアンナをシャワー室から腕ずくで連れ出してドアを開けさせることも出来ず、ドッツィはただ美少女の下着を握りしめたまま震えるだけである。
傍目にはもはや単なる変態親父なのだが、その内心には組織と直属の部下たちを憂うるジオン公国軍将校としての高潔な精神と、そして本能には勝てずに勃起する股間のジャイアント・バズがせめぎ合っていた。
と、ガラスの向こうで流水音が止まった。無重力下のシャワールーム用のマスクを壁に掛け、バスタオルで髪や体を拭きはじめている。間もなくここまで戻ってくるだろう。
「あ、あああああ……! ワシは! ワシはっ……どないすればええのやぁぁぁあああ!!」
頭を抱えたドッツィは、ついにゴロゴロと床へ転がりはじめた。ブラジャーはまだ握っている。
このままリアンナの妄想日記に描かれた変態絶倫親父のごとく、開き直って彼女を犯せば良いのだろうか?
股間のタールネンJr.はその方針を熱烈支持しているが、しかしドッツィには自分を『兄貴』『兄ィ』と慕う二人の部下がいるのだ。己の欲望のために彼らを裏切る真似は出来ない。
それに、妄想日記に描かれた怪人並みの超人絶倫種付けテクニックで、あの頭のネジが外れた妄想日記を書き上げた彼女を満足させられる自信も、ない。
「うッ……うおおおおおおーーーッ!! イーデン! デティ!! マイ・サン!! ワシは、……ワシは、どないすればええのんやァーーーッ!!」
みっともなく喚き散らしながら、ドッツィは美少女士官の個室内で激しく上下左右にのたうち回る。ブラジャーとショーツを握りしめたまま。
巨漢変態中年男性が暴れ狂う、もはや動物園の檻にも等しい魔境と化した室内へと、シャワー室からドアが開く。
「ホアッ!?」
「うふふ……お待たせいたしましたわ、お・じ・さ・ま。さあ、……私を食べてくださいまし……」
溢れる湯気の中、上気した肌にバスタオル一枚だけを帯びた美少女は、獲物を狙う雌獣の表情で舌をなめずった。 『――兄ィが危ない』
『お、おう……なんや、デティ。いきなりどうした』
戦艦ジャカルタ、MS格納庫。
ドッツィからMSの見張りに残されていたデティ・コイヤー軍曹は、自らの愛機MS-21C《ドラッツェ》のコクピット内で慄然と呟いた。
連邦軍との戦闘で敵機にコクピット・ハッチを強打されたきり気絶していた相棒、MS-09R《リック・ドム》パイロットのイーデン・モタルドゥが目覚めて間もない。
彼に対する通信越しの状況説明もそこそこに、デティは顔を上げるやそう不意に呟いたのだ。苛立たしげに続ける。
『イーデン、お前には……! お前には、なんも感じられへんかったんか!? 兄ィがいま腹ン底から振り絞った、助けを求める静かな声(サイレント・ヴォイス)が……お前には、なんも聞こえへんかったんか!!』
『いや、……特に、なんも……』
イーデンは若干引き気味に答えたが、デティはひとり思い詰めた表情のまま、その妄想を加速していく。
『――アイツや……。最初に出てきたエゥーゴの、あのチビのくせに乳と尻だけデカいメスジャリや……兄ィにふざけた色目使いよってからに……!
アイツは最初から、兄ィの肉体を狙うとったんや! アイツはいま兄ィを暗がりに連れ込んで、身体を貪っとるんや……!!』
『お、おう……さ、さよか……』
ぶるぶると拳を震わせて力説するデティの瞳は、MS格納庫の外壁を射貫かんばかりに睨みつけ、遙かその先を見通している。彼が人の話を聞きそうな気配は、無い。
『星屑帰りの辻斬りドラッツェ』ことデティ・コイヤー軍曹は細面の、女性――それも美少女と見間違わんばかりの、端整な顔立ちの美少年である。
色黒で髭面強面のイーデンとはまったく対照的な容貌だったが、しかしデティはどこか独特の『スイッチ』を有しており、それが入ったときの押しの強さは圧倒的だった。こうなるともう誰の言うことも聞かない。
三人の出会いは三年前、デラーズ・フリートによる連邦軍観艦式への襲撃時に遡る。
宇宙要塞コンペイトウ周辺の戦闘で被弾損傷し、ドラッツェで漂流していたデティを、宙域周辺で火事場泥棒に勤しんでいたドッツィとイーデンが救助したのだ。
その後すぐ作戦第二段階へ向けて転進したデラーズ・フリート本隊にデティは復帰できず、以来三年、行き場のない三人は《キャリホルニヤの悪夢》として行動している。
決して楽な日々ではなかった。草創期のティターンズが主導した残党組織への激しい掃討戦で、三人は幾度となく死線を潜った。そして力を合わせて乗り越える度、戦友の絆を深めていったのだ。
だがイーデンとドッツィはその三年間で、デティのある特徴に気づいていた。
ドッツィがたまに女がらみの下卑た冗談を言うと、デティは赤面しながら露骨に機嫌を悪くした。
またデティは決して人前で肌を見せず、個室以外では共用シャワーも浴びず、不自然なほど薄着になろうともしなかった。
逆にドッツィやイーデンが鍛えられた肉体を露わに晒していると、彼はひどく居心地悪そうに意味ありげに視線を動かし、やはり赤面しながら席を外してしまうのだ。
それらの繊細な仕草は戦いの時に彼が見せる、狂獣じみた猛加速でドラッツェを操る戦闘技術とはひどくかけ離れたものだった。
ともに数々の苦闘を乗り越え、戦友としての絆が日々深まっていく中でもデティのそうした反応は続き、イーデンはある日とうとうドッツィへ疑念とともに問いかけた。 『あのな、兄貴……ワシ思うんやねんけど、……デティな、あいつは、……実は……』
『ええ。ええのや、イーデン』
重い口調で口を開いたイーデンを、ドッツィはすうっと片手で制した。すべて分かっている、みなまで言うな――そんな調子を言外に強く宿した言葉に、イーデンは静かに震える。
『兄貴は、……兄貴は最初から、分かっとったんか』
『……デラーズ・フリートは男所帯や。ガラハウ中佐みたいな指揮官級はともかく、あそこは昔の公国軍ともまた違う、徹底的な男社会や。
――そこでデティが一兵卒として生き残るために、どんだけ自分を殺さなあかんかったか――ワシはそれを思うだけで、胸が詰まる』
『兄貴……!』
同質的かつ戦闘的な環境に放り込まれた少数者が受ける、異端者としての境遇。
遠く地球のアフリカに生まれ、地球連邦からの民族独立を求めて一年戦争前に単身ジオン公国へ留学したイーデンは、そうした少数者の辛さを身に染みて理解していた。
『イーデン、ワシはデティのすべてを受け入れるで。ワシらは戦友や。戦争が終わって祖国はワシらを裏切ったが、ワシは戦友を決して裏切らん。あるがままのアイツを、ワシは戦友として尊重する』
『兄ィ、……そこまで……!!』
ドッツィの吐露した熱い想いに押され、イーデンはこみ上げるものをこらえてきつく拳を握りしめる。ドッツィはフッとニヒルに笑い、そして遠い目で呟いた。
『まあ、……アイツがどうしてもワシを掘りたい、と言うてきたら、……そん時は、……そん時、やな――』
『……お、おう……。せ、せやな……』
信じて戦場で背中を預ける美少年に寝室で組み敷かれ、半裸で背後から己を貫かれる光景を想像し、二人はぶるり、と背中を震わせた。
イーデンとしてはドッツィがエゥーゴの女とよろしくやろうが、この状況では特に問題は感じない。むしろ相手から求めてくるのなら、応じてやればよいとも思う。
エゥーゴの仕掛けたハニートラップという線は捨てきれないにせよ、自分たちが支えるドッツィの度量なら、それも巧みに巻き取り乗り越えていってくれるとイーデンは信じているのだ。
だからこそ、今のデティが示す反応は過剰に思えて、そして遠い日にドッツィと交わした会話を思い出させもしたのだった。
『イーデン……ワシは行くで。エゥーゴのクソ女の毒牙から、兄ィを守りにな! お前はここでワシらのMSを、しっかり見張っとってくれや』
そこまで思っていながらも、モニター越しに爛々と光るデティの目は獲物を狙う野獣のそれで、イーデンはきゅっと尻に力を入れて巨躯を縮こまらせてしまうのだった。
(すまん、デティ……やっぱりワシはまだ、お前に掘られる覚悟は出来とらん……!!)
『お、おう……デティ、気ィ付けて行けよ……』
『お前もな。頼むで!』
言うやドラッツェのコクピットハッチを開き、素早くジャカルタ艦内へ消えていくデティを見送りながら、イーデンは戦友を信じる覚悟を固めきれない己の浅はかさを一人呪った。
「行ってしもたか。……せやけど、兄貴……修羅場になってまうんとちゃうか、……これ……」 今回は以上です。
これよりpixivとハーメルンに26話の挿絵を多数掲載します。
そちらも合わせてお楽しみいただければと思います。 このスレを私物化してコロニー落としばりに荒廃させた
ISAPのクソ信者どもが全身から血を吹き出して死にますように… >>159
よくわからんが、このスレって荒廃してるの?
とりあえず定期的な投下はあるようだが 現状は投下してくれるのが>>158さんだけの過疎スレ
最近はほぼないけど以前はもっと昔に投下してくれてた
ISAPさんて人を引き合いに出して>>158さんを腐す奴がいただけ 『兄貴! このドラッツェの奴、まだ生きとるでっ!』
『ほんまかイーデン!』
闇の戦場。戦死者たちの呼び声が今もさざめく古戦場、かつて宇宙要塞ソロモンと呼ばれた宙域の片隅に光が瞬く。
外部操作。コクピットハッチ強制開放。
傷ついた機体でひとり漂流していた自分に差し伸べられた、ジオン軍パイロットスーツの逞しい大きな手。バイザー越しに霞んで見えた、髭をたくわえた力強い笑顔。
『み、味方か……。助けて、くれたんか……?』
『坊主、もう大丈夫やで。機体の方も――、まあ、すぐに誘爆はせえへんやろ。……動けるか?』
応急手当と応急修理。
かろうじて動けるようになったMS-21C《ドラッツェ》がMS-06F《ザクU》とMS-09R《リック・ドム》に導かれながら動き出したとき、彼らは遠く離れたソロモンに広がる巨大な核爆発の閃光を見た。
『なんや、あの光!?』
『あ、ああ……! ガトー少佐……さ、作戦の第一段階が……あかん。もう艦隊が、転進してまう……! 今なら……いま行けば……いま行けばまだ、『星の屑』に間に合う!
フリートの皆と一緒に、連邦に一太刀浴びせられる……! おっちゃん、おおきに! ワシは行くで!!』
『このアホッ!!』
『ぐっ!?』
急加速しようとした瞬間、鈍い衝撃が傷ついた体にまで突き抜ける。ザクUがドラッツェへ組み付くようにして止めていた。
『お前みたいな死にかけ坊主がっ、そないボロボロな機体と身体で何するつもりや! デラーズの旦那がこのうえ何するつもりか知らんけどなっ、こんだけ派手にやらかしてもうた後や、連邦軍はここから本気で殺しに来るで!
そないな鉄火場へ、坊主みたいなくたばり損ないが今から行っても、ただ犬死にに行くだけやぞ!!』
『せ、せやけどっ。今……今戦わな、もう連邦は倒せへん! ここで……ここで戦わんかったら……死なへんかったら……ワシは、……ワシは今まで、何のために――』
『覚えとけ坊主ッ!』
ザクUの両手がドラッツェの両肩を握って止める。モノアイの光がモニター越しに真正面から瞳を射貫いた。
『ええか。死ぬことが戦いなんとちゃう! どんなキツうてもな、苦しゅうてもな――生きることが、最後の瞬間まで生き抜くことが戦いやねん!!
その戦いの意味が、今の坊主にはまだ分からちゅうんなら……坊主のその命、……ワシが預かるっ!!』
『兄貴! それは!?』
『ええのや! イーデン、ええのや!!』
言を半ばで制止しようとしたリック・ドムのパイロットを振り切り、ザクUのパイロットは思いをそのまま吐き出していく。
『もうな、ワシは……ワシはもう、沢山やねん。こんな坊主が、わざわざ好んで死にに行くような……そんなんはな、もう、ええねん。三年前に、終わっとるねん……死ぬための戦争は……もう、終まいや』
「――おっちゃん……?」
自機の両肩を握りしめたザクUのマニピュレーター越しに、接触回線とモノアイカメラに映る装甲板の向こうで、微かに震える嗚咽の影を、そのとき確かに感じた。
同時に警報が鳴り響く。レーダーが迫る多数の機影を捉える。コンペイトウ方面から、怒濤のごとく押し寄せるMS隊――艦隊を焼き払われ、復讐の怒りに燃える連邦軍MS隊だ。まともに戦えるような数ではない。
「…………」
今あそこに飛び込めば、確実に死ねるだろう。うまくやれば、一機や二機は道連れに出来るかもしれない。
その方向へメインスラスターのスロットルを開こうとしたとき、再び衝撃がドラッツェの機体を揺らした。
ドラッツェに右手はない。整備所要が大きい脚部とともに右前腕部は省略され、40ミリ固定機関砲に置き換えられている。原型機であるザクUF2型同様に残っているのは左手だけで、ザクUがその左手を掴んでいた。力強く。 『来い! ワシらと! 戦え! 生きるために!! イーデン!!』
『応!!』
リック・ドムが二門のジャイアント・バズを両肩に構える。迫り来るジム改の編隊を目掛けて、矢継ぎ早に380ミリ砲弾を叩き込んだ。
すべてを呑むほどの巨大な閃光が爆ぜた。つい今し方、核の炎が要塞外縁と受閲艦隊を焼いたばかりだ。すわ第二の核攻撃か、と連邦軍MS隊が怯んで編隊を乱す。
『やかましいわおんどりゃあ!!』
先陣を切って突撃したRGM-79N《ジム・カスタム》が、照明弾の閃光の中から頭部を蹴り潰されて吹っ飛んだ。
『今や! 撃ちまくれ!! 退けや雑魚どもおおお!!』
『いでもうたるどごるぁぁぁ!!』
文字通りにジム・カスタムを蹴散らしながら、ザクUに続いた二機は薄れゆく閃光の中で無茶苦茶に乱射した。
ジム・カスタムは頭部を潰されながらも、それでも盾でザクUの胴を殴りつけた。だが半端な打突は撃力が足りず、盾の爪部も装甲を破れない。逆にザクU左肩のスパイクアーマーを食らって、機体ごと跳ね飛ばされた。
隊長機の頭部を潰されて混乱する連邦軍のRGM-79C《ジム改》が90ミリのジム・マシンガンで、これまたデタラメに応射してくる。
だが三機は一気に敵陣へ突き刺さっていた。連邦軍の応射は数発がジオン機を掠めてその装甲板を穿ったが、それとほぼ同じ弾数が取り囲む友軍機へと突き刺さっていた。それだけで数機が損傷し、後方へ沈んで戦列を離れる。
『アホが見るぅぅぅ、豚のケツぅぅぅぅぅッ!!』
指揮系統の混乱と同士討ちに怯んだ連邦軍MS隊のただ中を突き抜けて、三機は暗礁宙域を全速力で突破していく。
編隊にスナイパータイプのジムがいたらしく、数発のビームが機体の真横を追い抜いて掠めた。回避が一瞬遅れれば爆散していただろう。
ビームの追撃もやがて途切れ、追いすがる熱源も消えた。助かったのか――誰もがそう思いかけたとき、ザクUが不意にガクンと速度を落とした。編隊から脱落していく。
「なっ!?」
『あ、兄貴!?』
『――アカンな、これは。どうも、さっきの打たれ所がアカンかったらしいわ』
連邦軍が乱戦の中で叩き込んできた、90ミリ弾幕。その一弾が超硬スチールの装甲を破り、機体内部の流体パルス構造を傷つけていたのだ。
『ああ。これは、もう――アカンかもわからんのう』
コクピットであらゆる緊急対処手段を試しながら言ったその声は、ひどく平板なものに聞こえた。 そして同時にザクUから、機銃弾の破孔が火を噴いた。脚部推進材タンク付近。ザクUはそこからパイロットの操縦を無視して最大出力を全開、軌道を大きく捻って明後日の方向へ飛び去っていく。
『兄貴! 脱出してくれ!!』
『いや、これもアカンな……さっき盾でブン殴られたとき、ハッチの装甲が歪んでしもうたんやの』
「そんな――」
『まあ、ええわ。最後の最後に、坊主を一人拾えたしな――ま、こんなもんやろ。ほな、達者でな』
ドラッツェは、その瞬間にスラスターを開いていた。
簡易MA級とも言われる巨大な加速力を全開し、制御を失ってネズミ花火のように暴走するザクUへ一気に食らいつく。同時に左腕部の小型ジェネレータが唸り、固定式のビームサーベルを発現させた。
一撃離脱、光刃一閃。
ドラッツェのビームサーベルは一刀にして、正確にザクUの胸部装甲を焼き切っていた。そのまま飛び去っていくドラッツェの後ろへ追従し、リック・ドムがその手を開く。
『兄貴、今やッ!!』
『――!』
ボルト爆砕、座席射出。
サーベルが切り裂いたギリギリの隙間を縫って、射出座席が吹き飛んだ。相対速度を合わせたリック・ドムがその掌中に収めるや、機体を回してザクUに背中を向ける。
ついに機体中枢まで火が回ったザクUが爆散したのは、まさにその瞬間だった。
破片と爆熱がリック・ドムの装甲を叩き、跳ね返っては冷たい宇宙へ拡散していく。
『兄貴……?』
リック・ドムの十字レールを動いたモノアイが、恐る恐るに自らの掌中を覗き込む。
『――やれやれ、イーデン。どうやらワシは、また死に損ねてしもうたらしいのう』
『兄貴!!』
『いやあ、助かったわ。九死に一生得てしもうた。坊主――いや、もう坊主とは呼ばれへんな。やるやないか。名前、なんちゅうのや』
「……デティ。……デティ・コイヤー軍曹や……」
『そうか、デティ。ようやってくれたの。ワシはドッツィ。ドッツィ・タールネン少佐。人呼んで《キャリホルニヤの悪夢》や。せやけど、階級はええねん。もう、ええねん』
ドラッツェがリック・ドムと機体を並べる。リック・ドムの誘導に従って彼らの母船を目指しながら、今まで感じたことのない不思議な安らぎを覚えていた。
『デティ。ワシら、もう兄弟やで。桃の畑はあらへんけど、今日からお前も義兄弟言うやつや。イーデン、ええな?』
『おう。なんも異論ないで』
「――兄弟……?」
『せや。これからは、兄弟のために生きる。デラーズ・フリートのデティ・コイヤー軍曹は、今日で戦死や。今日からお前は、キャリホルニヤの悪夢の末弟、デティ・コイヤー軍曹なんやで』
「兄弟、か……」
次第に爆光と火線の勢いも静まって遠のいていくソロモンと、未だ青い光をたたえる地球を交互に見ながら、デティは解き放たれたようにふっと優しく微笑んでいた。
「……おう。分かったわ、……兄ィ」 デティ・コイヤー軍曹のヘルメットは、あの日からずっと同じものを使い続けている。膝の上でバイザーに映りこむ自分の姿も、三年前と同じに見える。
だが、違うのだ。
三年前の自分に無く、今の自分にあるもの。
自分は今から、それを守りに行く。
「イーデン……ワシは行くで。エゥーゴのクソ女の毒牙から、兄ィを守りにな! お前はここでワシらのMSを、しっかり見張っとってくれや」
『お、おう……』
勢いよく啖呵を切りながら、デティは自身の足下を見下ろした。行動方針は決定した。勢いに任せた激情から、冷静さを取り戻しながら呟く。
「さて、……どうするか、やな」
連邦軍との戦闘に敗れてから収容されるまでの間に、デティは戦艦ジャカルタの威容をその目に留めていた。ジャカルタはマゼラン級をも上回るであろう大型艦である。極端な省人化が進んだ形跡もない。
つまり全体の乗員は相当数に達しており、なおかつ誰もが互いに顔見知りというわけではないということになる。
「こいつの出番やな……」
愛機のリニアシート下からデティが取り出したのは、地球連邦軍の制服一式だった。少し嫌そうな顔でデティはそれを見る。
万一の潜入工作用に常備していたものだ。ジオン出身者も少なくないとはいえ、それでもやはりエゥーゴは連邦軍系の組織らしい。格納庫内にも連邦軍の制服姿がちらほら見える。これで紛れ込むのは容易だろう。
艦内へ潜入さえ出来れば勝機はある。
だが当然ながら、ジオン残党軍のMSパイロットとして損傷機に残された自分たちは注目の的だ。監視も付いているだろう。まさか連邦軍制服のままここから飛び出し、そのまま監視を誤魔化して潜入するわけにも行くまい。
どこかコクピットの外で着替えて、しかも監視を誤魔化しきれるほどに印象を大きく変える必要がある。
「…………」
思案の末、デティが次にごそごそとシート下から取り出したのは、長い赤毛のかつら――女性用ウィッグだった。
先ほど連邦軍制服を取り出したときよりも、さらに嫌そうな顔をしながら、それでもデティは意を決したように顔を上げた。 湯煙の中を熱いシャワーが、白い女体のみずみずしい肌に弾け散っては流れ去る。
湯浴みするのは金髪の美しい娘だ。均整の取れた長身はよく鍛えられて引き締まり、それでいて女体の要所要所には、余りあるほどに豊かな雌の甘みを蓄えている。
殊にひときわ目を引くのが、胸元でたわわに実る巨大な乳房だ。文字通り男の手にすら余るその巨乳に、いま彼女自身が自らの手を掛けていた。
女性としては長身である彼女の掌であっても、乳房はさらに大きく重く、とうてい包みきれず両手に余る。
その白い柔肌の巨大な乳房に、彼女自身の十指が重く沈み込んでいく。
「……んっ、……」
張りのあるたっぷりの乳肉が歪み、わずかに甘い痛みが乳房の芯から彼女を刺した。だが彼女は構わず、己が双球を握りしめていく。
彼女の乳房をその見事な大きさよりも際立たせているのは、白肌と鮮烈なコントラストを成す黒褐色の乳輪だった。
ほんの昨日までみずみずしい桜色をたたえていた左右の頂は、今や黒々とした褐色に染まっていた。あまつさえその全体にぶつぶつと浮き上がった腺の数々が、わずか一夜の情事が彼女にもたらした決定的な肉体の変化を何より雄弁に物語っている。
それはあたかも胎内に子を宿した、妊婦の乳首のそれだった。
握力を強めるに従い、黒い乳輪の中にぷつぷつと何か、白い汁が滲み出てくる。
「……んっ、……」
彼女がさらに掌へ力を込めると、ついには張りつめた果実を握りつぶしたかのように、黒い乳輪から白い母乳が噴き出した。
堰を切ったように溢れる母乳が、乳輪から迸ってはシャワーに洗い流されていく。自らの乳房を強弱を付けながら何度も握り、尽きることなく溢れる母乳をただひたすらに搾り出しながら、金髪の美女はひとり呟く。
「……ちくしょう」
彼女の脳裏に蘇るのは、魂にまで焼き付いた二つの光景。
憎き地球連邦軍の標準的量産MS、RGM-79R《ジムU》。その一機とビームサーベルを抜き払っての格闘戦の最中、彼女をコクピットもろとも貫いたメガ粒子の奔流。
灼熱の中で塵も残さず蒸発したはずの彼女は、無傷で目覚めた。そしていけ好かない男と思っていたMS隊長と、自ら望んで男女の交わりを果たしたのだ。
それは彼女にとって鮮烈な恐怖と、そして何よりも屈辱の記憶だった。それ以外の何者であるはずもない。
だがそれらの瞬間を思うとき、彼女の股間で女陰が甘く疼いて啜り泣くのだ。
本来であればその圧倒的な物理力で、彼女の肉体と生命を宇宙の塵に還していたはずのメガ粒子の暴威。
確かに彼女のパイロットスーツを瞬時にすべて焼き尽くした閃光の中で、そして処女を奪われながら膣内で爆ぜるように放たれた大量射精の中で、彼女は確かに絶頂を迎えた。
倒錯した、究極の快楽。
あまりに鮮烈なその残滓が、今も彼女の雌を疼かせるのだ。
対流のない無重力空間でシャワーを循環させる風圧の中で、青い瞳の眦に光る滴も流れ去っていった。魂の奥底から、彼女の搾り出す言葉とともに。
「ちくしょう――」 中途半端な位置での停止、申し訳ありません。
しばらく投稿しない間にまた連投規制が強化されたようで、現状ではお手上げです。
そろそろ2chでのSS投下も潮時なのかもしれません。 マイン・ハフナーが目覚めた場所は、戦艦《ジャカルタ》に複数存在する医務室の一つらしかった。戦闘後に艦内へ収容され、そして隊長との情事の後、再び気絶した自分はここへ搬送されたようだ。
彼女が気づいたとき、すでに室内は無人だった。体調も悪くはないように思えた。どす黒く変色して母乳を滲み出させる乳輪と、飲ませる赤子のあてもない母乳をひたすら作り出しては溜め込むように変わり果ててしまった乳房以外は。
備え付けのシャワー室で母乳の処理を済ませたマインは、誰かが室内へ用意してくれたらしい衣服を身に付けた。
下着にはご丁寧にブラジャーもあった。ただしMSパイロットである彼女が常用するスポーツタイプのものではない。妙にパッドの分厚いそれは授乳期の母親向けのそれだったが、あらかじめ測っていたかのようなジャストサイズでマインの乳房を包み込んだ。
ただし上着として用意されていたのは、意匠が気に食わず、彼女が今まで決して着ようとしなかったノースリーブの女子エゥーゴ制服だ。
少し嫌そうな顔をした後、他に選択肢がないことを確認してから、やむなく袖を通す。とにかく人前に出られる格好になったマインは部屋から出ようとした。
医務室のドアを開けた瞬間、目の前に若い女が立っていた。
「おはよう、ハフナー少尉。意外と早いお目覚めね」
「――シャノン……っ」
視界へいきなり飛び込んできた女の顔を、マインはきっと睨みつけた。
額できれいに切り揃えた黒い前髪と眼鏡の下の、冷たい知性を宿した青い瞳は鉢合わせに驚いたような様子も見せない。ただ、どこか突き放すような距離感を持ってマインを見つめている。
単純に上の視点から人を見下すだのといったものともまた違う。マインにとって彼女のそれは、実験動物を見る研究者の無感情な視線に思えた。
シャノン・ヒュバート少尉は、リアンナ・シェンノート少尉率いる戦艦ジャカルタ第二MS小隊所属の女性パイロットである。そして彼女はMSパイロット資格と同時に医師資格を持ち、戦艦ジャカルタの軍医を兼務するという異色の才媛であった。
年はマインとそう大きく離れていないはずだ。しかしその感情を他者に感じさせないほどに抑えた仕草が、マインをしてシャノンをいけ好かない女に思わせていた。
そしてビームサーベルにコクピットごと貫かれながら生還したマインを診断したのも、彼女だった。マインの肩越しに室内の机上を見やり、シャノンはそこに置かれたままの診断書に大げさなため息を吐いてのける。
「『2月26日から三日間は面会謝絶で絶対安静』……私はそう診断書を出しておいたはずだけど?」
「はっ。三日だぁ? おいおい勘弁してくれ、あたしはそんなに寝てたのかよ。道理で体が鈍ってるわけだ。先生どいてくんな、リハビリにちょっくら一汗流してくるよ」
そう軽口を叩きながら脇を抜けようとしたマインの前を、無言のままでシャノンが塞いだ。面倒くさそうにマインが睨む。
「ハフナー少尉。今日はまだ2月26日よ」
「あたしの三日は早いんだよ」
二人はそのまま温度の噛み合わない視線で睨み合う。痺れを切らしたマインが次の動きへと移る手前で、シャノンが腕組みしながら身を引いた。
「止めないのか?」
「止めて聞きそうな気配がないもの。私もここで病院送りにされたくはないからね」
「――そうかよ」
道を開けたまま肩を竦め、くすり、と微笑むシャノンを、マインはいっそう強く睨みつけた。勢いよく床を蹴り、リフトグリップを掴んで身を委ねる。 無重力の通路を泳いで流れ去りながら、しかしマインは次に行くべき場所を決めかねていた。
指揮系統上の上官であるMS隊長、ベリヤ・ロストフ大尉への報告は必要ないだろう。彼とはつい先ほど最低の形で言葉と、そして肉体と欲望を交わしたばかりだ。
自身の膣奥深くに放たれた、白く粘ついた熱い欲望。それを子宮で受け止めながら達した、精神を狂わせるほどの快楽の極致。その片鱗を思い出してマインは震える。
――少なくとも今はまだ、あの男と会いたくない。
会えば自分がどうなってしまうのか、マインはそのときの自分の姿がまったく想像できなかった。それは彼女に芽生えた、また新たな恐怖だった。
といって、ティターンズと連邦軍の攻撃で壊滅した故郷の資源衛星から一緒にエゥーゴへ参加した、彼女を『姉御』と慕う二人の舎弟のところへ行くのもはばかられた。
マインら三人は同じく復讐を誓う同郷の同胞として団結し、ベリヤ率いるジャカルタMS隊主力に対抗心を燃やしていた。
だが連邦軍ジムUとの一対一の戦いで無様に敗れたうえ、自ら望んでベリヤに犯され、あまつさえ昨日まで処女であった自分が乳房から母乳を噴き出す体にされてしまっているのだ。
合わせる顔がない。
今の自分にはどこにも行くべき場所がないことに気づきながら、しかし一カ所に留まることも出来ず、マインはただ人の気配を避けるようにジャカルタの艦内を漂っていく。
そんな彼女のくすんだ視野に、見慣れない女性士官の姿が不意に飛び込んできたのはそのときだった。
長い赤髪を泳がせる、地球連邦軍制服の可憐な美少女だ。程良く膨らんで制服の上衣を押し上げる胸元といい、しなやかに伸びた健康的な四肢といい、男たちの視線を集めるには十分以上の魅力を発揮している。
だが何より強く男たちを魅了するであろうものは、その可憐な仕草だった。
いかにも自信なさげに伏し目がちな表情、震える睫毛、弱い自らをなんとか守ろうと抱きしめるような腕の動き。
それらは強い男たちの庇護を必要とする、か弱い女のアイコンをひどく直接的に表現しており、それゆえ目ざとい男たちを惹きつけずにはおかない。
それらすべてが、現状に直結していた。
「君さ、ホントに可愛いねー。この艦にまだ君みたいな美少女がいるのを見落としてたなんて、俺らもほんとチェック不足だったって言うか、申し訳ないねー」
「あ、あの……っ、こ……困り、ますっ……わ、わたし……今から、行かなきゃ……いけない、ところが――」
「へー、どこ行きたいの? 俺らが連れてったげるよぉ」
「…………」
マインの視線の先で、その美少女士官に二人の男が絡んでいる。彼らも連邦軍士官制服だが、こちらも見慣れない顔だ。少なくともMS隊の所属ではない。
二人は彼女の退路を塞ぎながらパーソナルスペースを潰して大きく押し込み、少しでも顔を背けて逃れようとする彼女に、耳元へ息のかかる距離から話しかけている。
「じゃあさ――ちょっと俺らの部屋、寄っていこっか」
「――えっ」
笑顔のまま、男たちが切り出した言葉。その裏に潜む意味を悟って、少女がさっと青ざめる。咄嗟に逃げようとした彼女の退路を、一人が即座にさっと塞いだ。
「俺らの部屋、すぐそこだから。熱くてクセになるドリンク出してあげるよ。ちょっとだけ、ちょっとだけ休憩していこうよ」
「やっ、やめっ――」
一人が手首を掴んで拘束し、一人が手際よく部屋のドアを開ける。彼女が恐怖と絶望に涙を浮かべたとき、マインは一歩を踏み出していた。
「おう。お前ら、ドコの者だ?」
「――何?」
「あっ――」
長身の金髪美女から凄みを乗せて話しかけられ、男たちは明らかに鼻白んだ。目を瞬かせた後、一人が相方に耳打ちする。
「マイン、……マイン・ハフナーだ。第三MS小隊長の」
「じゅ、『十人殺しのマイン』か!? さっきの戦闘で、死にかけてたんじゃ――」
編成間もないジャカルタ隊にあっても、マインたちの無鉄砲なまでの喧嘩っ早さは広く知れ渡っていたらしい。二人が怯んだところへ間髪入れずに畳みかけた。
「あっ!?」
マインはぐい、と少女の腕を掴み取るや、自分の方へと奪うように引き寄せる。彼女を抱き寄せながら、ドスの利いた声とともに男たちを睨んだ。
「ウチの者に訳の分からんちょっかいかけてんじゃねぇよ。失せろ」 「い、嫌だなハフナー少尉、……MS隊の子だったんですか……早く言ってくださいよ」
「知るかよ、阿呆。おい、行くぞ」
「あ、――は、はいっ」
あっさりとマインの眼光に押し負けて、男たちが道を譲る。少女の手を強引に引きながら角を曲がるとき、彼らの悔しげな舌打ちが遠く聞こえた。
「クソッ。なんだよ、見ない子だなと思ったらMS隊かよ」
「でも、だったら逆に良かったな。だってMS隊の女って、全員『大尉のお手つき』なんだろ。そんなのへうかつに手出しせずに済んで、命拾いだぜ」
「…………」
「……あ、あの――っ」
「――ん?」
その声も遠ざかって聞こえなくなった頃、少女が上目遣いに見つめているのにマインは気づいた。たどたどしく話しかけてくる。
「た、……助けてくださって、ありがとうございます。は、ハフナー少尉? が、助けてくださらへんかったら、……私、今頃――」
「もう普通に喋っていいぞ。あたしは別にジオンなんざ何とも思ってないからな。そのジオン訛り、無理に消そうとしなくていい」
「あうっ……!」
必死の演技もマインにたやすく見破られて、少女は涙を浮かべたままきゅっとその場に縮こまる。
「お脳とチンポが直結してる猿でもなけりゃ普通に分かる。お前、さっき収容したジオン残党のパイロットだろ。なんで連邦の制服なんか着て、こんなところをうろついてる?」
「あ、あの、……その、こ、これは――」
「ハッキリ喋れや!!」
「はううぅっ!!」
はっきりしない仕草で、我慢の限界へたやすく達したマインの拳が壁を叩く。少女は自分が殴られたように縮こまった。
「あたしはなぁ! お前みたいな、いちいちハッキリしない女が一番嫌いなんだよ!!」
「う、うう……堪忍、……堪忍や、お姉さん……ぶたんといて……ぶたんといて……」
「分かったよ。殴らねえから、さっさと言えって。……言えっつってんだろうが!!」
「ひっ――ひいいっ!! あ、あんな……う、うち、実は――」 「――なるほどな。長年世話になった隊長のオッサンが、ジャカルタの艦内でどうも危ない。そういう虫の知らせがあったと。んで、チビのくせに乳だけデカい栗毛の女が怪しいから、まずはとにかくそいつのところに行きたい。
それでわざわざ連邦軍に変装したうえ、さらに女装してまでやってきた、と」
「……せ、せや……」
「そうか。……まったく、義理堅いこったな」
マインが受けた説明をまとめたところ、デティ・コイヤー軍曹と名乗った連邦軍女性士官の正体は、ジオン残党軍の男性パイロットらしい。連邦軍装も女装も、艦内への潜入工作のための偽装だそうだ。
ただ連邦軍装の方はともかく女装の方は、顔立ちも体格もすべてがあまりに自然すぎて、まったく変装に見えないのだが、本人がここまで必死に言うのだから女装なのだろう。
とりあえずそういうことにしておける度量の広さがマインにはあった。
「よし。とにかく分かったぜデティ。お前が言ってるのその女ってのは、ジオン残党のむさいおっさんに興味津々な変態マニアのエロ女なんだろ? そんな救えねえ奴、ジャカルタ広しといえど一人しかいねえ。案内してやるよ」
「え、ええの……?」
「おう。任しとけ」
どうせ他に行くところもないしな。
言葉の後半を飲み込みながら、マインは目的へ向かって身を翻した。
「こっちだ。来いよ」
「おおきに、……おおきに、姉さん!」
「いいってことよ。気にすんな」
涙混じりに微笑むデティへさっぱり笑って手を振りながら、ところで今、マインが気にしていることが一つある。
涙を拭きながら可憐な希望の笑顔を浮かべる、女装美少年コイヤー軍曹の顔面から、マインはそっと視線の高さを下げる。
「…………」
連邦軍制服上衣の胸元でたゆんと揺れる、二つの膨らみがそこにある。
上官をしてジャカルタ最大級とまで言わしめた、マインの巨乳に比べれば二周りは小さい。それでも一般的な尺度にすれば、男の掌に包んでもたやすく溢れるだろうその大きさは、見事な実りであるに違いなかった。
こんな余計な主張をするものさえ胸にぶら下げていなければ、先刻の男二人に捕まることもなかったのでは、とも思えるほどだ。
――だが女装ってことは、これも作り物なんだよな。パットか?
「あ、姉さん? ――ひあうぅっ!?」
だからマインはデティが通路の交差点で止まったとき、背後からその二つの膨らみを両手に大きく握りしめていた。
「…………」
生っぽい。柔らかい。もちもちの弾力がぎっしり詰まったたっぷりの肉感が、人肌の温もりを添えながら食い込む指を跳ね返してくる。
制服の下にはブラジャーのたぐいまで身につけているらしい。本格的だなと感心しながら、マインは手を休めることなく二つの膨らみをさらに揉みしだいていく。
つい先ほど、マインが自らの巨乳から母乳を搾り出していた時の手つきで揉み搾る。本物の乳房なら乳首があるはずの位置を探ると、確かにそこには小指の先ほどの突起を捉えた。
マインはそこを指先の腹で擦りあげ、摘みあげるようにして指で左右とも責めたてる。耐えかねたように切なげな声を上げながらデティが左右に身をよじった。
「あッ――あ、ああ……っ、あああああ……っ! あ、ふぅ……ッ。あ、あかん……お姉さん、あかん……こ、こんなん……っ、うち、うち、もうあかん……! 堪忍や……堪忍してぇな、……いやぁ、やめてぇ……!」
「ん、……んん? おう、悪い悪い。でもな、これパットだろ? なんでお前が変な声出してんだよ――あ」
言いながらマインは、自分の巨乳もデティの背中で大きく潰れていたことを思い出す。
今はこんな見た目でも、彼は男――なるほど、こっちか。
「悪かったな。その偽乳がどういう風になってんのか、ちょっと気になっちまったもんでな。しかしそれ、ずいぶん本格的な質感と感触だな」
さっと身を離したマインの前で、半ば膝から崩れながらデティは喘いだ。焦点の合わない瞳にいっぱいの涙を溜めて、怯えきったように説明する。
「……せっ、せ、せやろ……? あ、あんな。うちもな、変装用にな、……よそのサイドでそこらじゅう探してやっと、この偽乳パッド見つけてきたんやねんで……?」
「へえ、そんなにか。すげえ情熱だな」 真っ赤に赤面して少し涙目になりながら、それでも必死の早口でデティはまくし立てた。だが、デティの胸の膨らみを貪り尽くしたマインは素直に納得してただ頷く。
「そうか、最新技術はすげえな。それ、あたしの本物の乳と大して変わらねえぞ」
あたしの乳を背中から押しつけただけでここまで興奮するような童貞じみた反応をするようでは、その偽乳も普段はさぞ良からぬ別目的で使っていたのではないかともマインは思ったが、わざわざ口には出さないことにした。黙って認識を書き換える。
デティ・コイヤーとかいうこのジオン兵は、相当重度の女装マニア(童貞)なのだな。
世の中にはいろんな人間がいるのだ。そしてこちらに害がない限り、マニアと変態は放置するに限る。
しかし、となれば事は変態対変態である。こいつならあのリアンナとも、案外いい勝負が出来るのでは無かろうか。残念ながら、自分はそんな戦いには到底ついて行けそうにないが。
それにしても。
「最近の女装道具ってのは、ずいぶん出来が良いんだなあ」
どうでもいいことに感心しながら掌をにぎにぎと動かすマインは、きゅっと肩を縮めて胸元と股間を守ろうとするデティを連れて、リアンナの私室方向へと流れていった。 カールルイスで髪コきって物理的に出来るの?
かなり短髪だったような気がするんだが ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています