「ちょっとパパ!今日は父の日だから予定空けといてって言ったでしょ!?」
「すまん……すっかり忘れてたんだ……」
父の日。
父親への感謝を表し仕事の疲れを労うため、父親を父親と言う役割から解放する日……
手っ取り早く言えば、一年のうち今日この日だけは、父親と子供がその立場を交換して過ごす日なのである。
俺も多忙な日常に追われて忘れていたが、今日がまさにその父の日だったのだ。
寝る前の俺は妻と娘を持つサラリーマンだったのに、目が覚めると自分の娘の立場になっていた。
そして、すぐに今日の予定を思い出して、俺の立場になっている娘に対して抗議したのだ。
「パパが良くっても、迷惑するのはあたしなのっ!もうっ、本当にカンベンしてよー」
「すまん。しかし、今日はお前が俺の娘なんだ。頼むよ」
「わかったわよ。そのかわり、今度何か埋め合わせしてよね!」
すっかり俺の立場になりきって、申し訳なさそうにしている娘に頼み込まれてしまい、
俺は……いや、あたしは断り切れずに身支度を始めた。
まったく。父の日を忘れて、彼氏とデートの約束してるなんて一体どういう神経してるのよ。
実際にデートしなきゃいけないのは、娘の立場になってるあたしの方なのに。
せっかくあたしが残業してまで日曜を休みにしたっていうのに、これじゃあ意味ないじゃない。
……なんてコトを考えてたはずなのに、あたしの頭の中もだんだん娘の立場に馴染んできたみたいで、
服を決めてメイクを始めた時になると、鏡の中の自分の顔がずいぶんとニコニコしていることに気付いた。
四十代のオヤジの癖に、これからのデートのことを考えて、胸をドキドキさせてる。
なんだかあたし、本当に女の子になっちゃったみたい。
ショーツの中で大きくなってるおちんちんのことを除けば、だけどね。
「どうだタカヒコ。そろそろ出ないと待ち合わせに……おっ、なかなかいいじゃないか」
なかなか準備が整わないのを心配して様子を見に来たパパが、あたしのことを褒めてくれた。
本来は女の子であるはずのパパから褒めてもらえて、なんだかあたしも自信が湧いてきちゃった。
「ありがとパパ。それじゃあいってくるね」
いってきますと元気に声をかけて、あたしは待ち合わせ場所に向かう。
足取りが軽くスキップ気味になっている自分に気付いて、あたしは苦笑すると、少し歩調を落とした。
(続かない)