フェイズ4
『困ったなあ。ここまで騒ぎが大きくなったら隠し通せない。ヨハンにどう説明したらいいのか…』
無線の向こうで榊博士は頭をかいた。ちなみにヨハンとはフェンリル支部長ヨハネスの事だ。
「誤射、と伝えて下さい」
「カノン?」
「壁にはアラガミと同じ偏食因子を練り込んであるんですよね?それをアラガミと誤認した可能性があります」
『なかなか鋭い洞察力だね。しかしそれだと君達の神機が襲われなかったという矛盾が生じる』
「…雪風が錯乱してない可能性もあります。明確にアラガミそのものを狙った、とか」
「どうしたんだ、カノン?さっきから変だぞ」
「…だとしたら、すでに居住区内にアラガミが浸入してる可能性もあります」
なぜカノンがここまで神機兵を庇うのか、レンカには疑問だった。
「いい加減にしろ。……ソーマも黙ってないで注意してくれ」
だが、ソーマは真顔で、
「まさか、シオを…」と何やら意味不明な事を呟いた。
「ソーマさんもそう思……え?お塩がどうかしましたか?」
「いや、何でもない。俺に構うな」ソーマは背を向けた。
「とにかくだ、俺達には守秘義務がある。他言無用だ。目の前で起きた事実は博士だけに報告しろ。
ただし、自分の思ったこと感じたことなどは、博士からの指示があるまで口には出すな」
「了解。上出来だ、リーダー」ソーマは了承した。
「ちょ、ソーマさんまで⁉おかしいですよ‼」
箝口令はともかく、貴重な経験則を榊博士に報告できなくするのは確かにおかしい。
「…これは、命令だ」
「リーダー特権濫用ですか?これだから新兵のスピード出世は…」
そのカノンの台詞は途中で阻害された。ソーマがカノンの鼻先に剣先をつきつけたからだ。
「お喋りはそこまでだ。上官命令不服従、指揮妨害、加えて上官侮辱罪で処刑されたいか?」
カノンは思考は凍り付いた。訳が解らない。
カノンにとっては、二人の判断こそが異様だった。明らかに普段と対応が違う。
レンカは普段の新兵特有の奥ゆかしさが消え、ここにきて珍しくリーダー風を吹かせている。
ソーマは普段から命令違反の常習者なのに、今はまるで人が変わったかのように厳格だ。
思い返せば全てが異様だった。神機兵の存在。それを極秘に研究。
その戦闘テストで榊自らオペレーターを代行。その榊が、
『やめたまえ、カノン君。実験は失敗だ。神機兵の運用は見送ることにするよ』と、早々に諦めている。
あの負けず嫌いの榊ペイラーが、だ。
本オペレーターのヒバリを外した程の極秘任務。カノンにまで秘密にしている事が、まだ有るのだろう。
創造主の榊でさえ研究を放棄してでも秘密にしたがる『何か』が。