「おばば、早く、早く。鬼太郎が来ちゃうよ〜」

「そう急くでない。お前さんがもう少しじっとしててくれれば、早く終るんじゃが…」
砂掛けのアパートの一室で、ねこ娘は浴衣を着せてもらっていた。
以前、鬼太郎に渡した手作りの浴衣と一緒に、着付けも教わっていたのだが、結局「今日」と言う日に間に合わなかったのだ。
「ホレ、これで良し。あと、帯の結び方さえ覚えれば、一人でも着られるな。」

「ありがとう、おばば。じゃ、行って来るね。」

「あまり遅くならんようにするんじゃゾ。妖怪とは言え、今時は人間界の方が物騒じゃから…」

「大丈夫よ。鬼太郎と一緒だもん。」

「ホホホ…わしも若い頃は…」
砂掛けが、若かりし頃にトリップした隙に、ねこ娘はそそくさと逃げだし、鬼太郎と待ち合わせた場所へ急ぐ。

「もーおばばったら、昔の話し始めると長いんだもん…」

待ち合わせたのは、ゲゲゲの森出口付近。
そこには既に鬼太郎の姿が有った。

「ご・ごめん…鬼太郎…待った?」

「いや、僕も今来た所だから…」

「あ、その浴衣…」

「うん。せっかくねこ娘が僕のために作ってくれたから…」

「…鬼太郎、自分で着たの?」

「そうだよ。父さんに何でも頼れないしね。自分で出来る事ぐらいは…」
鬼太郎が着ていた浴衣はあの晩―――ねこ娘が、汚した服の代わりにと渡したもの
その浴衣姿を見て、思い出してしまったのだ。あの晩の情事を―――
襟元もきちんとしているのに、色っぽく感じられて、あの晩の乱れた姿を思い出してしまい、ねこ娘はかぁ…と頬を染めた。
「どうしたの?顔…赤いよ。」

「…う・ウウン…なんでも、何でもないよ。」

浴衣姿の鬼太郎を見て、ドキドキしてしまった理由を言える訳がなかった。

「は・早く行こう。お祭り…終っちゃうよ?」

先に歩き出したねこ娘の手を、クイ…と引き寄せ
「今日のねこ娘…凄く可愛いよ。」
耳元で囁かれ、ねこ娘は耳まで紅く染あげた。
手を繋ぎ、ただの男の子と女の子として人間界に降りる。
何時も事件がらみだったので、プライベートで遊びに出かけたのは本当に久しぶりで
お祭りの熱気に、先ほどまでギクシャクしていたねこ娘も、いつもの明るさを取り戻していた。
「ねぇ、何時も疑問に思ってたんだけど、ねこ娘…お金はどうしてるの?」

「あれ〜あたし言ってなかったっけ?アルバイトしてるの。」

「アルバイトって…?」

「―――猫探しの。今ペットブームでしょ?そぉいう依頼が多いんだって。」

「ふーん」
出店の中を、歩きながら他愛もない話をする。
人通りをかき分けるようにして、橋の袂についた。