欲情の熱を秘めて、ジリジリとにじり寄りつつある二人にひるみながらも、僕は必死に二人を押しとどめながらリルガミンに来た理由を尋ねる。
僕の背後の彼女は「またなのね…」的な視線で僕をジト目で見つめ、後輩は新たな同志を得たとばかりにエルフの長い耳をピコピコ動かす…。
そしてカウンターの向こうのお姉ちゃんはいいぞ!もっとやれ!とばかりにニヤニヤしている。この人はホントに……。
痛い視線の中、なんとかサキュバスとビューティを落ち着かせると、二人の口からは世知辛いモンスター事情が語られるのだった。

「迷宮って昔からモンスターの縄張り争いが激しくて…。中にはお金で強いモンスターを雇って襲わせてくるのもいたの……」
「サキュバスさんは住処を立ち退かされ、途方に暮れていた所をわたくしが助けて一緒に暮らすようになったのが、二人の切っ掛けですわ」
「でもビューティの住んでた所も、居住環境が良かったせいか、あたしの時と同じように狙われて……」
「使役しているビースト達の全滅と引き換えに、わたくし達はなんとか逃げおおせました」
「それから新しい住処を求めて迷宮内を転々としたんだけどね……」
「貴方様と初めて出会った時に一緒にいた、デーモンロードに目をつけられまして……」
「あたし達みたいに見た目に自信があるのは、強いモンスターの庇護を代償に肉体関係を要求されるのも珍しくなかったのよ」
「あのデーモンロードは、わたくし達の安全を保障する代わりに、性奴隷になる事を要求してきましたわ…」
「確かにあたし達の仲間の中には、その容姿を生かして異性を誘惑するのもいるわ。でも……」
「好みでもない殿方に身体を委ね、ましてや性奴隷になれなど、お断りですわ!!」
「と、抵抗したけど力で強引に組み敷かれたら…どうにもならなかった……」
「あとは無理矢理犯されるだけ……と絶望していた所に…貴方様が駆けつけて来てくれたのです」
「デーモンロードをいとも容易く倒したのに、驕る事なくモンスターのあたし達も心配する優しい言葉をかけてくれた」
「その言葉がわたくし達にとってどんなに嬉しかったか……」
「だから……君は、あたしのご主人様に相応しい、この人になら仕えたいって思ったの…」
「貴方様に助けられた後、わたくし達は迷宮内の安全な領域を求めて彷徨ったのですが……どこにも安住の地は見つからなかったのです」
「もう迷宮内じゃやっていけないって確信したあたし達は、思い切って外で生きていこうって決めたわ」
「サキュバスさんの仲間には、人の世俗に慣れてしまい、人と同じように暮らしている方々もいると聞きましたから」
「天職とも言える、娼婦宿を経営している同族の伝手で、ご主人様がこのギルガメッシュの酒場に住んでいるって聞いたのよ」
「そして店主様に頼み込み、ここに住み込みで、貴方様達が時々披露している『いつもの』を舞うのも含め働かせてもらう事になったのです…」

僕と彼女と後輩は、サキュバスとビューティの過酷な過去に絶句するしかなかった。
そしてサキュバス達が迷宮の外で娼婦宿を経営している話は、都市伝説レベルの噂話で聞いた事はあるけど、まさか本当だったなんて……。
事情を知らない人から見れば高レベルの裸忍者に見えるビューティならまだ誤魔化せるだろう。
だけど背中に翼を生やしているサキュバスを人間と誤魔化すのは難しい。なのにリルガミン市街を出歩けてギルガメッシュの酒場にいられる。
つまり人と共に暮らすサキュバス達のコミュニティは、リルガミンの行政にもそれなりの影響力や発言力を持っている、という事なんだろう。
そんな所と伝手を持っているって……お姉ちゃんあなた本当に何者なんですか!?

「ねえ……こんな話聞かされたら放っておけないよ……」
「私も先輩に賛成です。強姦されそうになったのは私と重なりますし……」
彼女も後輩も種族は違えど女性の苦難の話を聞かされて同情的だ。
そして助けられた事もあってかサキュバスとビューティは僕に好意を抱いている。
人々を傷つけなければ、人に混じって生活しているモンスターもいる事も知ってしまった以上、僕に断わる余地はどこにも残っていなかった。



「ビューティ、準備はいい?」
「いつでもいけますわ」
ショーの控室にて、僕はお客さんの前で脱ぐための、忍び装束もどきを着ているビューティに声を掛けていた。
ビューティは緊張しており、僕の顔ですら見ようとしない。
「でも、こういうのって慣れないものですわ」