「かもね」
普段迷宮で全裸で生活していたからだろうか? 首から下の肌の露出を隠す、忍び装束もどきに違和感を感じてしまうのかモゾモゾしている。
背中の翼が外部に出るように改造された、忍び装束もどきを着ているサキュバスも同じように、皮膚を覆う布地に慣れてなさげだ。
「僕が分身の術が使えるなら、ビューティの代わりに出てもいいけど、こればっかりはどうにもならないからね」
「そんな事したら、店主様がカンカンになりますわ」
「お客もそうだろうね」
「……時間になりましたわ。それでは行きましょう」
『いつもの』開催時間となり、忍び装束を着た僕、彼女、後輩と、忍び装束もどきを着たサキュバス、ビューティが舞台へと歩き出した。
投影装置が店中の空間に多数、僕達を様々な角度から映した幻を投影し始める。
僕達は所定の位置について、各自観客の視線を惹き付けるように、忍び装束あるいはもどきを焦らす様に脱ぎながら踊りだした。
ビューティも観客達の前に立つと意を決し、忍び装束もどきをゆっくりと客の視線を誘導するかのように脱ぎだす。
その間も僕の顔を見る事はなかった。
むしろ、その顔を見られまいとしているようでもあった。
そして、ビューティは舞台で舞う。
どよめく声、数えきれない視線。
様々な色に染め上げる照明の光と、気分を高揚させるような音楽。
ビューティは踊り始めた。
それまでの緊張していた様子など、今のビューティには微塵もなかった。
堂々としていて、恥ずかしがる事もない。
いつも見ているビューティより、女神のような上位な存在に見えたりする。
ときおり激しく舞っては、彼女の金色の長い髪と、吸いつきたくなるような胸がそれにあわせて揺れる。
穏やかに舞えば、しなやかな肢体がその美しさを誇示するように、その全てを曝け出していく。
そんなショーを、僕は共に踊りながら見守っていた。

「ビューティ、堂々としてきたね」
僕の隣で踊りながらビューティを見守っていた彼女が、僕に話しかけて来た。

「そうだね……」
「もしかして、助けた相手がこんな事になって複雑な心境だったりする?」
「え?」
「そういう顔してる」
「そう……」
「これもあの娘が決めた事だから、私達はそれを見守ってあげましょう。このままハマってくれた方が私としても負担が減って嬉しいけど」
「………………」
「…って、そんな怖い顔しないでよ。まったくもう、過保護だこと」
「ほっといてよ」
そんなやり取りをしながらステージで踊るビューティを密かに気にしていた。
今もビューティーはその魅惑の裸体を艶めかしくくねらせ、観客の視線を全身に浴びている。
ビューティはときおり、陶酔したような顔になる。
それは、大勢の人の前で、本当の意味で全てを晒した事への悦びなのかもしれない。

「にこっ……」
「え?」
――――そうではなかった。ビューティは僕の方を見ると、微笑んで来た。
何故かその顔が、『自分を見て』と僕に促しているように見えた。
ビューティは明らかに僕を意識して踊っている。
今の舞いが、僕一人の為に捧げられているような、そんな感覚さえある。

「聞いてみたら、ビューティむくれそうだなあ」
踊りつつ、そんな事を独りごちながら微笑み返してあげると、ビューティもそれに反応して笑い返してきた。
目を合わせると、ビューティがうなずいてくる。
声は聞こえずとも、僕はビューティと視線を交わしあい、僕とビューティの間にコミュニケーションが成立していた。
奇妙な関係だが、今はそれでいいのかもしれない。



ビューティからサキュバスに視線を移すと、その筆舌に尽くし難い魅力によって、凄い事になっていた。
赤と茶の間の色の長い髪で背中に翼を生やした全裸の美少女は、この場所にいる人々の注目を集めている。
見られる事に快感を覚え、よりその気持ちを高めたいと欲していた。