世界や常識がエロくなる話 part9
「正直、検事になる前、AV女優になろうかと本気で悩んだ時期があったの」
氷乃の告白は、まるで罪を吐露するよう。
「あの経験で、身体が…その、快楽に慣れすぎてた。自分でも、異常だって分かってたけど」
彼女は眉根を寄せ、グラスを弄ぶ。
「今、検事として性犯罪の事件を扱うけど…正直、被害者の女性より、
加害者の男性に感情移入しちゃって、量刑を軽くしがちで困るの」
彼女の声には、深い困惑が滲む。
「こんな自分、ほんと、ダメだよね」
恭也はグラスを置き、愛しそうに、だがどこか意地悪く笑った。
「氷乃、お前、ほんとビッチだな」
その言葉に、氷乃は一瞬、目を細める。
だが、すぐにニヤリと笑い、恭也を挑むように見つめた。
「そう、こんなビッチが、来月には貴方の妻になるんでーす」
彼女の声は、軽やかで、どこか誇らしげ。
「成瀬君、こんな私を娶ってくれるなんて、ほんと、信じられないよ。心から、感謝してる」
メガネの奥の目は、涙を湛え、恭也を真っ直ぐに見つめる。
そこには、十年前の少女と、今の女の愛が溶け合っていた。
恭也は、氷乃の手をそっと握った。
「氷乃、俺はお前の全部が欲しい。あの時の傷も、淫乱な部分も、全部愛してる」
彼の声は、熱く、切実だった。
公有実習の狂気じみた日々??バニーガールで校庭を歩く氷乃、
ソープランドで奉仕する彼女の姿は、恭也の心に永遠の刻印を残した。
彼女の傷も、欲望も、全てが彼を捕らえて離さなかった。
氷乃は微笑み、恭也の手を握り返す。
「成瀬君、あの時、私は社会の理念に身を捧げてた。でも、今は…あなたにだけ、捧げたい」
その言葉は、まるで新たな誓い。
十年前、彼女は社会に肉体と好意を差し出した。
だが、今、彼女は恭也だけを選んだ。
その選択に、恭也の胸は熱く震える。
レストランの窓から、夜の街の灯りが漏れる。
婚約指輪が、キャンドルの炎に揺れる。
公有実習の過酷な過去は、遠い記憶の彼方。
だが、あの傷と情熱が、二人を結びつけた。
氷乃の過去も、恭也の愛も、全てを受け入れ、
二人は新たな一歩を踏み出す。
来月の結婚式は、彼らの永遠を約束する儀式になるだろう。
夜の静寂の中、二人の愛は、傷痕さえも抱きしめていた。