小学生の時、外見は普通に装っているけど近づくと異様な匂いのする女子がいた。
立ち居振る舞いはごく普通、でも臭い。
見た目も別にブスでもデブでもない、でも臭い。
成績も中の上らしい、でも臭い。
匂いの原因は毎日同じ服を着ているからだと気がついた。
人当たりもよく、親切で正義感の強い子だった。
ある日、彼女と1年生から同じクラスだった男子が
「あいつの父ちゃん屋台のラーメン屋 なんだぜ!」と言いふらし始めた。
なんでも、たまたまそいつの家の近くを通ったときに小腹が空いた
そいつの母さんが買いに行って挨拶されたのがきっかけらしい。
それからというもの、彼女をバカにする奴や、それでなくてもやんわりと敬遠する空気が
流れ、そのまま卒業式を迎えた。
月日が経って専門学校に通い始めた頃、バイトの帰りにラーメン屋の屋台があった。
「とりあえず何か食べたい」と思ってその屋台に 近づくと、彼女がいた。親父さんの手伝いをしているのだという。
聞けば親父さんの屋台は副業で、日中は工場勤めをしているらしい。なんでも
彼女が幼いうちに離婚し、彼女を自分が引き取ると主張したところ、毎月結構な生活費を
払わされているとのことだった。彼女も物心ついた時に親戚か誰かからその話を
聞いて知っていたらしいが、「父」と「母」どちらかを選べと言われても選べないほど
両親に感謝し愛していたので今は親父さんの手助けをしようと、屋台のラーメン屋を手伝って
いるのだと言った。
あれから10余年、今では駅前の名物となったその屋台。僕もしょっちゅうご馳走に
なりに行く。彼女は数年前に嫁ぎ、前の奥さんも再婚されたそうで、もう自分の生活費だけで
十分だという。頭髪も真っ白になりながら屋台を引っ張る親父さんに
「もうそろそろ引退してもいいんじゃないですか?」
と、失礼な質問をしたら、親父さんはこういった。
「人並みに結婚して、子供まで持てて、ご丁寧に離婚まで経験しちゃったからな〜。
あとワシに残された役目は離れちゃいても家族の、嫁と娘を支えてやることだけさ。
それに、ここのラーメン楽しみにしてるお客も多いしな!」
親父さんは満面の笑みを浮かべて笑い飛ばした。