「くそっ・・・!」
低くうめき、和希はとっさに大悟のまわしを掴むと強引に体を捻った。
「!?」
要するに苦し紛れにうっちゃりを仕掛けたわけだが、これが大悟の意表を突いたようで、大悟は大きく体勢を乱した。
しかし、それは仕掛けた当の和希も同じことだった。二人はもつれるようにして土俵の外へ倒れ込んだ。
(マズい!)
和希と一緒に倒れ込みながら大悟は内心焦った。うっちゃられた自分は体の側面から地面にぶち当たるが、和希の方は強引にうっちゃった為に体に勢いがつき、完全に顔面から地面にぶち当たることを察したのである。
大相撲や大会の土俵と違って高さはないが、それでも踏み固められた土である。和希くらいの体格で顔面からまともにぶつかれば、まず間違いなく前歯は折れるし、下手をすれば鼻や顎を折る可能性すらあった。
(ちぃっ!)
大悟は手を伸ばし、和希の顔を自分の掌でかばった。
どっ!
鈍い音が響く。
次の瞬間、二人は土俵の外に倒れていた。
「大丈夫か?」
自分の手を下敷にした大悟が和希に尋ねた。
「・・・ウス」
和希が答える。その声が少しくぐもって聞こえるのは、大悟の掌で覆われているからだろう。
「悪ぃが・・・大丈夫なら顔をどけてくれるか?」
大悟に言われて慌てて和希が起き上がった。
自分の顔が大悟の手を下敷にしていることに思い至ったのだ。
「おー痛ぇ」
和希が起き上がったのを見て、大悟は自分も起き上がると、あぐらをかき、具合いを確かめるように手を動かした。
「すんませんした」
和希が頭を下げる。 「手なら大丈夫だから気にすんな。それよりお前は大丈夫か?」
大悟が言った。
「ウス・・・」
和希が答える。
「良かった。再来週インハイの予選だろ。稽古でケガして出場出来ないなんてシャレになんねえし」
大悟がカラカラと笑いながら言った。
普段は九州男児らしい、精悍で彫りの深い男臭い顔がいかにも気難しげに見えるのだが、一度笑顔を浮かべると、何とも優しげな無邪気な子供のような顔になる。しかしそんな大悟とは対照的に和希の表情は冴えない。