それはコールドトーミーの手術を受けることだった。末期の癌患者等に行われる痛覚をなくす手術。健常者には絶対に行われない手術だった。
父はあらゆる手段を使って秘密裏に私に其の手術を受けさせることが出来るようにしたのだ。
 手術を受ける直前、私は高校を自主退学した。手術を受ければ普通の学校生活を送ることは出来なくなるからだ。そうした上で私にコールドトーミーが行われた。
 (本当に痛みを感じなくなったんだ・・・)
 手術後、検査のため腕に注射をされた時、私はそう実感した。

 それからの私は少し厚手の黒い首まであるラバースーツを着用するようになった。痛みを感じなくなった体を守るための処置で入浴の時以外、私はそれを身につけていた。
同時にボディラインが良く分かるこのラバースーツは私がマジックをする時の基本の衣装になった。
 数ヵ月後、私のお披露目のマジックショー行われた。有名マジシャンの娘のお披露目と言うことで、多くのお客さんが入場していた。私が黒のラバースーツを着て笑顔を作りステージに登場すると大きな拍手が沸き起こった。
目鼻口の部分が開いたラバーの全頭マスクを私が被ると拘束衣とチェーンで拘束され、さらに逆さ吊りにされて、大きな透明の水槽の中に浸けられた。水槽に幕がかけられると私は関節を外したり、仕込まれていた針金で錠を開けたりして拘束を解き始めた。
 (これぐらいの拘束は大したことない・・・)
 数分後、水槽の幕が外されると私は水槽の壁に這い上がり、両手を挙げ、脱出をアピールした。大きな拍手が沸きあがり、私は水槽の壁から降りると再び笑顔を作りお客さんに礼をした。
 「良くやった」
 ショーの終了後、父が私を褒めてくれた。しかし、私はそれに対して何の感情も抱かなかった。
 (やるべきことをやっただけ・・・・)
 そのショーから暫くして、父が心筋梗塞で急死してしまった。私は否応なく2代目として父の後を継ぐことになってしまった。幸い、スタッフの人たちが優秀だったので、ショーの準備や運営が滞ることはなかった。
 (脱出マジックをずっとやり続けなければならないんだ・・・)
 そう強く思い込み、私は日々を送った。