便秘に浣腸すると、クセになる?
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20170306-OYTET50042/

 あれは今からもう20年前のことです。当時、青年医師だった私の目の前に小学校高学年の
少女が現れました。お母さんの訴えによると、お腹(なか)が異様に張っていると言います。そ
う、たしかにお腹が大きい。診察台に横になってもらうと、ちょっとした妊婦さんのように
お腹が盛り上がっています。こんな病気は二つしかありません。小児がんか便秘です。早速、
超音波検査をおこなってみると、お腹の中のかたまりはすべて便でした。本人の承諾を得て
お尻を見せてもらうと、硬い粘土のような便が肛門からはみ出していました。私はこの子を
入院させました。

 最初にやるべきことは、腸の中にたまった便を外に出すことです。しかしここまで高度の
便秘になると、 浣腸(かんちょう)などではまったく対応できないことは明らかです。便を取
り出すためにはどうしたらいいか? 私は手術室へ行って、 鈍匙(どんぴ)という器具を探し
ました。スプーンのことですが、縁が丸みを帯びている道具です。普通のスプーンは縁が
シャープですよね。これを 鋭匙(えいひ)と言います。鈍匙を選んだのは、直腸内の便を
掻(か)き出す時に、腸の粘膜を傷つけないようにするためです。

 さらに私は麻酔科の先生にお願いして、レントゲン室に麻酔装置を持ち込んで、その少女に
全身麻酔をかけてもらいました。私は鈍匙を使い、便を少しずつ取り出していきました。およ
そ1時間はかかったでしょう。摘出した便は3kgに及びました。トイレに流しましたが、
排水管が詰まってしまいました。