11.
「着装っー!」
千香子の透き通った高い声が静寂を打ち破る。
いよいよ面をつけるときがきた。
千香子は赤い髪ゴムでしっかり髪が縛ってあるのを確認すると、
面の上にかけてある桜模様のピンク色の手ぬぐいをとり、
頭にかぶり始めた。
彼女の面の乳革も赤系で、突き垂にも赤色をあしらってあり、
エンジ色の曙光とのコーディネイトを考えているあたりは、
一見凛々しさを前面に出している彼女であるが、
女の子らしいこだわりを感じさせる一面でもある。
手ぬぐいが顔の前にかかると、
あらためて自分の汗の匂いを感じずにはいられなかった。
左右にほどよく力を加え、頭の形にあわせて固定するのを確かめると
両手で手ぬぐいを顔から頭上に引きあげた。
引き上げた瞬間に顔の両端の皮膚が髪と一緒に
すこし引っ張り上げられた気がした。
手ぬぐいがしっかりかぶれたのを手で触れながらで確かめると、
千香子は大きく息を吐く。「ふーー」
そして、おもむろに前にかがんで重い面を両手で丁寧に持ち上げた。
胴と垂がわずかに擦れあって、ギシギシっという音を立てた。