競泳用水着の彼女は、長かった。その時は特に長かった。それまでの潜水と同じように、
友達が浮上した後、膝を抱えて底に座ったままうつむき気持ちよさそうに集中していた。
水面で呼吸して30秒後くらいか、水に顔をつけて底を見てみると、まだ彼女は動かずに
底に体育座りしたまま、息を吐くこともなく泡ひとつ出さないまま、じっと沈んでいた。
さすがに、ちょっと長すぎる、大丈夫かな、と思ったその時、彼女は素早く底を蹴って
かなりのスピードで浮上してきた。たぶん限界だったんだろう。水面に飛び出すように
浮上した直後、思いっきり息を吸って吐いてから、しばらく荒々しく深呼吸していた。
完全酸欠状態から身体の隅々に酸素が行き渡る感覚が、なんとなくわかる気がした。

その日が、最後のダイビングプール体験になってしまった。
もう開放されないんだろうな、と思うと、非常に残念だけど仕方ないかも知れない。
見知らぬ故人のご冥福をお祈りします。