>>380
ぬれた地面にそっと足が置かれた
その肌はうすい光をまとっていた
足の指がゆっくりと動き、泥の感触を確かめている
まるでそこに命があるようだった
音はなく、ただその足だけが静かに前へ進む
かかとが沈み、土がふくらむ
それを見るたびに心がざわついた
何かが始まりそうで、でも何も起きない

少し跳ねるような動き
指の間に草がすべり込んでいく
その草さえもうれしそうに見えた
誰かのために道をつくっているようだった

その足が水たまりの上に止まった
水がゆれる
足がすっと持ち上がり、まっすぐ下ろされる
水の中にゆっくり沈んでいく
でもぬれた感じがまったくない

空は明るいのに影がどこにもなかった
足の動きはなめらかで、見ているうちに時間の感覚がなくなる
やがて地面が足のあとを飲み込み始めた

草がしずかに倒れ、土がふくらむ
さっきの場所に戻ろうとしたが、そこに道はなかった
どこにも自分の足あとが残っていない