「待ちなさい!!」鋭い怒声が聞こえた気がしたが、由美子は立ち止まらなかった。
周りの人の目線が全て自分に集まってる気がした。
「見ないで。みんな私を見ないでよ!何も知らないくせに。
私は見せ物じゃない・・・」

由美子はそんな事を考えながら新宿の奥へ奥へと走り続けた。

どれくらいの時間が経ったのだろうか。
気がついたら人もまばらで、店員が追ってくる気配もない。恐らく人の多さと
由美子の足の速さに諦めたのだろう。

由美子は走り続けたせいと、父と俊介の秘密を知ったことで体力の限界に達しつつあった。
とても1日の出来事とは思えなかった。
十数年も一緒に過ごしてきて、あれだけ仲が良かった家族なのに1日にして
全てが壊れた。由美子は家族なんて儚い関係なんだな・・・と思った。

「これからどうすれば良いんだろ・・・お金もないし、住むとこもない」
由美子は途方に暮れた。
かと言って新宿の入り口で見た、派手な服で着飾りオジサンに気持ちよく
なってもらうHなお店では働けそうもない。初体験をそんな形で終わらすのも
嫌だった。

由美子はガラガラとキャリーケースを引きずりながら小さな公園に入った。
ベンチを見つけ腰をかけた。雨が降ったせいか少しジーパンが濡れたが、
そんなことは気にしてられない。
中から毛布を取り出し由美子は、ベンチをベッドのようにして横たわった。
ゴツゴツした感触が顔にあたり痛い、由美子は何度も何度も寝返りをうった。

「すみません・・・」太く逞しい声がした。