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【 5−1 】
「ホコリっぽい!」――と鼻息も荒くリッコが最初にやりたいと申し出たのは、屋敷の掃除であった。
その申し出にキトラも素直に頷く。
思えばエドナが亡くなってからというもの、家事らしい家事など何ひとつしてはいなかった。否、『していない』というよりは、
『出来なかった』という方が正しい。
いかにしっかり者とはいえ、そこは貴族――使用人達がするような家事のノウハウなど、キトラは微塵として持ち合わせてはいなかった。
ゆえに、リッコの申し出は大変うれしいものだった。
とりあえずはキッチンの裏――庭の隅にある納屋から掃除道具一式を取り出してリッコに与えた。
「じゃ、お願いしたいけど――大丈夫?」
しきりに羽ボウキの生え際に見入っているリッコへとキトラは尋ねる。
「ん? あぁ、大丈夫だって。楽勝ラクショー!」
その問いかけに、そこから顔を上げて元気に応えるリッコ。
「この屋敷ぜーんぶピカピカにしてやるから、キトラはそこらで寝ててよ」
「う、うん。じゃあ、二階の書斎で仕事してるね。なんかあったら呼んでね」
「おう。まっかせといて♪」
満面の笑顔を返すリッコに一抹の不安を覚えながらも階段を上がっていくキトラ。
「………」
「大丈夫だって。そんな不安な顔しないでよ」
その途中、やっぱり不安になって振りかえるキトラに、これまたやっぱりリッコは笑顔をひとつ。
「ほ、本当にムチャしなくていいからねっ」
それだけ言って、ようやくキトラは二階の書斎に落ち着いた。
「本当に大丈夫かなぁ? なんか、取り返しのつかないことを僕はお願いしてしまったんじゃあ……」
しかしながら任せてしまった以上、いつまで悩んでいても詮方ない。
キトラもまた、自分には大きすぎる事務机の背もたれに座り、自分の仕事を始めていく。
キトラの仕事は、いつも書簡のチェックから始まる。