「い、いや、、」

俺は無意識のうちにアゴ髭の手首をつかんで制止してしまっていた。
少し前から竿のピリピリ感が先端に向かって登っていくのを感じていたのだが、もう限界に近かったのだ。

だが少しだけ遅かった。
下腹の奥深くに少しずつ溜まっていった透明な潤滑油は容易に溢れてしまい、パンツにシミを作った。
自分でも驚くほど、丸く大きな先走りのシミだった。

さすがにこれは恥ずかしい。
俺は眉をしかめながら、大変申し訳なさそうな表情を作りつつアゴ髭に目だけで詫びた。

「すみません。施術着が少し小さかったですね」

アゴ髭は笑顔でそういうと、そっとパンツの上下に指を差し入れて引っ張り、股間に隙間を作ってくれた。
そして両手で俺の手を取り、手のひらをほぐしにかかる。
アゴ髭の太くごつい指が、俺の手のひらをギュッギュッと押していく。
全身を体験したことのない快感が貫く。
なぜなら、その手のひらマッサージは俺の股間のテントを押しつぶすようにして行われていたからだ。

筋張ったアゴ髭の手の甲が、ちょうど亀頭の付け根あたりに容赦のない刺激を与える。
パンツのシミは際限なく広がって行き、整体師の手は大量の潤滑油で湿っていった。

俺は息を止めて耐えた。息をすれば声が出てしまう。
そんな時に男の喉から出る音を、薄いカーテンの外にいる電話番の女に聞かせるわけにはいかない。
彼女自身は、ただ電話番をしているだけのつもりかもしれない。
しかしその存在は、絶頂ギリギリの時間を耐えながら息を殺す客の興奮を増幅させ、
一方で、アゴ髭がまともな整体院でしてはならない行為に及ぶリスクに歯止めをかけているのだった。

俺は全身を走り回る電気のようなピリピリとした快感と、すいぶん長い間戦っていた。
そして頭が真っ白になってしまう直前、小さく首を振り、泣きそうな目でアゴ髭に合図を送った。
もう、限界です。その辺で勘弁してください、と。