途中、母さんが「腹立つくらい、何もかもおいしい」と呟く。
「今日はお兄ちゃんに手伝ってもらって本枯(節)でダシ取って、
ちょっと贅沢したの」と妹。
母さんの好物の茶碗蒸しが出ると、母さんはまた少し涙ぐんでいた。
食後、俺と親父はリビングで呑み始め、母さんと妹は2人でテラスにいた。
母さん「少なくとも私は、嫌いな男と"そういう事"をしたことはないから・・」
母さん「悔しい。できるならあの男、つき出してやりたい。
藍はまだ高校生だったのに。しかも親族なのに。
しかも避妊もせず、無理矢理あんな事・・」
妹「誘い受けしたのは私です。むしろあちらは被害者かも」
母さん「60過ぎの爺さんが被害者になるわけないでしょ!
本当に虫唾が走る・・なんであんな男と?」
妹「保険、ですかね」
妹が嘘をついているのは、俺も親父も知っている。
妹は自分が身籠ったことがわかると、即行動を起こして
母さんに本気で反旗を翻す準備を始めていた。
7月に本家に帰る前日に4人で話した後、母さんが1人で1階にいる時に
妹が証拠の物や、親父曰く「危険なおもちゃ」を提出し、親父と俺に全て告白していた。
ただ、母さんが親父の意向を受け入れた今となっては、妹に母さんと対立する理由がない。
結果として、妹が母さんと戦うために用意していた武器の一つは、
母さんと自分の子供を守るための盾として使うことになった。