妹のストレートな正論の前で、親父の搦め手も限界があったようだ。
今度は家長の強権発動してきた。
「命令だ、と言ったら?」
妹は親父を見上げる。親父は冷たい顔をしている。
「この件で、そもそもおまえと議論するつもりはない。
 俺が行けと言ったらおまえは嫁に行く、それだけだ」
冷たく言い放つ親父。乾いた低い声。この声の時の親父は本気で怖い。
俺の手を握ってる妹の手が一瞬大きく震えた。
「・・命令でしたら従います、"お父さん"」
従順な言葉を吐きながら親父にまっすぐ向き直る。
「でも・・もし」
妹、次の言葉で反撃する。
「もしも、Tさんのほうから断わってきたら、
その時はさすがにTさんにむりやり私を押し付けるわけにはいかないから
・・・その時は、仕方ありませんよね?」
その言葉に親父の顔が険しくなる。
妹は余裕然とした笑顔を親父に向けた。
妹はTさんに親父との関係を話すと言っている。
が、その態度とは裏腹に、妹の手は震えている。
「俺を脅す気か?」
鋭く乾いた声で、妹を見据える親父。
ピリピリした空気に俺も手に汗かいてくるのが分かった。
妹の手は震えながらも、表面は平然とした態度を崩さない。
「とんでもない、自分の夫になる人に筋を通すだけです。
 恋愛結婚じゃないんだから、信頼関係なくて夫婦なんて無理でしょ?」
「馬鹿を言うな。この家の問題だけじゃ済まなくなる」
「そう思われるのなら、そもそもこの結婚自体に無理があるって事です」