その電話は母の訃報で、母は七十を越えていたが、つい先月までは元気だった。
電話口で淡々と事実を告げる兄の声も落胆が隠せなかった
俺は急いで車を走らせて実家に向かった、助手席には妻の恵美(40歳)、後部座席には七歳になる一人息子。
実家に着き、実家の駐車場に車を止め実家の玄関をくぐると、線香の匂いが鼻を突いた。
奥の居間には親戚たちが集まっていて、しめやかな空気に包まれている。
仏壇の前に座る兄が俺を見ると「……来たか」と言葉少なく挨拶をした
兄は四十三歳、俺より二つ年上だ。
離婚して数年、実家で母と二人で暮らしていた兄は、疲れた顔で「東京から大変だったろ」と俺を労ってくれた。
俺の隣に立つ恵美にも「お世話になります」と挨拶する。そのとき兄の視線が一瞬、恵美の豊かな胸の膨らみに止まったのを、俺は見逃さなかった。
翌日、滞りなく葬儀が終わり、親戚が皆帰るころには、すっかり夜の帳が降りていた。広すぎる農家の居間に残ったのは、俺と恵美、そして兄の三人だけだった。