「・・・あの、お客さま」

 「狩りに出かけてくる」
→「カリが…うずくんだ…」

「カリ、と申しますと・・・」
状況と言葉を結びつけられないのだろう、さすがに首をかしげる。
 俺は双眼鏡をしまった。
彼女はまだ不思議顔をしていた。
 そんな彼女の顔を見ながら、俺はなんとなく投げやりになった自分の感情に驚いていた。いくらなんでも唐突すぎやしないか?
 相手はシオマネキ。こちらにはちっぽけな銃一挺。チャンスは一度。失敗すれば、後はないだろう。
 もちろん、これまでだって、こんな窮地に陥ることは珍しくなかった。だが、俺はいつも生きることをあきらめなかった。一人で、いつ終わるとも知れない、巨大な砂の城を作り続けてきた。
 俺を支えていたものは、何だったのだろうか。意地か、それとも孤独な矜持か。…できあがった砂の城を見てくれる人もいないのに。
(なんだったんだろうな…)
 …とにかく、あの日以来、俺はすべての危機を切り抜けてきた。いつも、一人で。
 何が変わったんだ? 何が今までとは違う?
 ――彼女と、二人。
 ただそれだけ。
 俺以外の、存在。
 それが、こんなにも俺を脆くさせたのだ。
(…簡単なことだ)
 だからこそ、取り返しはつかない。
 一度崩れてしまった砂の城は、もう元には戻らないのである。
 …頭を軽く振り、淀んだ思考を振り払う。絶望的な状況に活路を見出すには、俺の思考回路はもはや疲弊しきっていた。
 不思議顔で俺の答えを待つ彼女に目を向ける。
 …彼女となら。
 彼女とならば、俺は安心して休める気がする。
 柔らかそうな彼女の紅唇に、目が引き寄せられる。
 あれで奉仕してもらえたら、どれだけ気持ちいいのだろうか。
 生唾を飲み込む。
 …初めて彼女を見たときから、俺は堕落し始めていたのかもしれないな。
 そんな考えが頭をよぎるが、俺の意識は、もう下腹部に向くこと以外の方向性を失っていた。