トースターのコンセントが抜けているじゃないか
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ジリリリリリリリリリリ…。
まどろみの中から呼び覚まされた僕は、眠い目を擦りながら布団から這い出し、目覚まし時計のスイッチを止めた。
眩しい陽射しが窓から射し込んで、僕の頬を暖めている。
僕は一度、ゆっくりと伸びをしながら大きなあくびをし、ひと息ついてからベッドを下りた。
今日は休日だった。
頭の中がまだはっきりしてなくて、何の休日だったのかは曖昧だが、とにかく今日は家でゆっくりできるはずだった。
パジャマがわりに使用しているTシャツを脱いで、昨日と同じシャツを羽織る。
僕は心地よい陽射しを背中に受けながら、そのまま立ち惚け、シャツのボタンを止めることさえ忘れていた。
世界は春の訪れを感じさせていた。
今日もいい天気になりそうだ。
僕はじっとしたまま、思いにふける。
夢を見ていたような気がした。
何か…長い、長い、夢を…。
なにかとても嫌な夢だったかも知れないし、とてもいい夢だったのかも知れない。
とにかく心に残る夢だったはずなのに、不思議と、その内容を思い出すことはできなかった。
時折、映画のワンカットのような光景が、ポツポツと頭に思い浮かぶ。
そのばらばらの映像を順に繋げても、とても一本のストーリーにはならない。
そんな、夢らしい夢だった。
ただ、そのワンシーンずつが、各々かなりの臨場感と鮮やかなリアリティをおびていたような気がした。 僕はだらしない格好のまま部屋を出て、階段を降りていった。
居間には誰もいなかった。
父さんも母さんもどこへ行ったんだろう。
まてよ。
確か、何かがあって、そのためにどこかへ出かけたはずだ。
なんだったっけ?
どこだったっけ?
まあ、いいや。
寝起きのわりには、妙にお腹がすいていた。
僕はテーブルの上にあった食パンを取って、それをトースターに放り込むと、スイッチを入れた。
ジジジジジジジジジ…。
トースターのタイマーが回り出す。
トーストが焼き上がるまでの時間を持て余し、僕はテレビのスイッチを入れた。
ぷつん。
「…依然まったく原因がつかめていない、ここ、K県E市S町で起きた集団精神病事件ですが、警察側は、何らかのガスが使用された疑いがあると見て、目下、全力の調査を続けています…」
「…今日現在、すでに140名をこえた被害者の容態は、未だ回復の兆しを見せず、被害者の親族の不安は募る一方です。また…」
騒がしく動くテレビの画面。
僕はしばらくぼんやりとそれを眺めていたが、ふとある重大なことに気が付いた。
どうしてこんな大切なことに気が付かなかったんだろう。
僕は自分の愚かさにおかしくなった。
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