葉鍵的 SS コンペスレ 19
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葉鍵的 SS コンペスレ 18
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1186409866 「さて、お次の話題はこれっっ!ジャジャーーン!『口だけ頭』!」
(ドッッ(笑))
くだらない朝のワイドショーがやっていた。
雨戸も締め切った部屋の中で栞はそれを茫と眺めていた。
ベッドの上で全裸で体育座りをしながら。
少し寒いと感じていはいたが、これから祐一に会い、昨日一日かかって
作りあげた手作りチョコを渡せると考えただけで、栞はなにか暖かい
気持ちになっていた。
「…実はですね、こちらのおばあちゃんが目撃したと…」
「…非科学的ですよー、そんな生物ありえませんってば…」
CMに入ったので、栞はケホケホと軽く咳き込みながら着替え、
テレビを付けっぱなしにしたまま、手作りのミルクチョコを手に、
祐一と待ち合わせの商店街へと出かけた。
その日は2月14日、楽しい楽しいバレンタイン。
しかし天気は曇っていた。 「よぉ、栞」
祐一はたいやきをほお張りながら、ベンチの上にふんぞり返っていた。
「こんにちわ、祐一さん」
栞と祐一は手をつなぎ商店街へと繰り出した。
栞の奇跡の回復から2年。祐一は相変わらずであった。
高校卒業後、進学もせず、予備校にもいかず、水瀬家に寄生しながらのフリーター生活。
具体的にはブラックな調査会社の雑用係、あゆの家庭教師、コンビニのバイトなどを
転々としていた。
一方、栞は高校に通い、普通の、どこにでもいる少女の生活を営んでいた。
なんの、変哲もない暮らしを。
「ってなわけで、本当にあゆはダメなんだよなあ。あれじゃあ高校いけないぜ」
栞と祐一はファミリーレストランで早い昼食をとっていた。
「祐一さんの教え方が悪いんですよ、きっと」
栞は「苦瓜のサラダ」、祐一は「柿グラタン」。
「そんなこという人嫌いですぅ」
「うふふ、似てないですよ、今日も」
「うぐぅ」 二人の座るテーブルは表に面した窓ガラスの側で、曇り空の下、
北川がティッシュ配りをしているのが見えていたが、二人は気がつかずに昼食を終えた。
北川は、というと、彼は前年の夏に父親が母親を殺害してからというもの、全くツいていなかった。
心無いマスコミとその報道にもみくちゃにされ、北川は心の均衡を崩した。
大学も秋には自主退学し、酒と賭け事に溺れ、年明けからやっと、バイトをしはじめたのである。
しかし、それもティッシュ配りのような単純なものであり、もっぱら、
彼は彼の最も憎むべき存在である父親の残したわずかばかりの金を食いつぶすという、
お先真っ暗の生活を送っていた。
そう、バレンタインの日も、ティッシュ配り。
彼にチョコを渡す人間など誰一人としていない。
しかし、寒い曇り空の下、北川の目は輝いていた。
北川は笑っていた。
なぜなら、彼は去年みたあのドラマをつい先日再放送でみてしまったからだ。
そして、あのドラマのヒロインの台詞を心の礎とし、頑張ろうと決心したからである。
「そろそろ、いくか」
「そうですね…ケホッ、ケホッ」
伝票を持って立ち上がる祐一の側で栞は咳き込んだが、祐一はなにも
なかったかのようにレジのほうへと向かい、栞はストールをひっつかんで
その後を追った。 「ファイ、オー!」
(ザッザッ、ザッザッ)
「ファイ、オーー!」
(ザッザッ、ザッザッ)
栞と祐一が商店街のはずれのはずれにある小さなラブホテルで一戦交えている同時刻、
名雪は大学のグラウンドで早い午後の部活練習に精を出していた。
高校卒業後、名雪は地元の三流私立大学の
「人類コミュニケーション情報文化学部」に通うこととなった。
あからさまなくらいに人集めのためだけのいい加減な学部であることは間違いなかったが、
名雪はそこで学ぶことに決めた。
ただ単に実家から徒歩20分という地理的好条件だけがその理由であった。
実際、名雪は講義にはろくに出席せず、もっぱら他人のノートを写したりカンペ作りに
励んで勉学生活を乗り切っていた。
「勉強するくらいなら、私は走ってるほうがいいんだよ〜」
成績について祐一にバカにされるといつもそのように答え、大学生になってからの好物である
あんまんをぱくつく名雪であった。
そして、あんまんをほお張るときの名雪の笑顔は輝いていた。
とてつもないくらいに、まるで、命の源を与えられたあわれな下僕の浮かべる表情のように。 「ゴホッゴホッッ!!」
「おい、風邪か?インフルエンザじゃないのかあ?」
さすがに、栞が透明な湯船につかりながら咳き込むと祐一も一応心配そうに訪ねた。
(うつされちゃあ、かなわんぜ…)
「多分風邪だとおもいます。早めの風邪にはパブロンです」
「なんだよ、それ。ははっ」
(ワシャワシャ)
栞が湯船につかっている側で、祐一は陰毛をもじょもじょとかきむしるように
股間を洗っていた。
そして、チュルン!と、泡でぬるった指先を股間の前面から尻穴のほうへと滑らせ、
陰嚢、尻穴とその周辺に生い茂るケツ毛や陰毛を洗っていた。
が。
「おうっっ!?」
勢いあまり、指先が尻穴につぷぷと突き刺さり、鋭い痛みに襲われるのであった。
栞は先ほどの咳と共に喉の奥に絡まった何かをごくりと飲み込みながら、そんな
祐一の痴態を楽しげに眺めていた。
午後4時。
ラブホテルからでて喫茶店で一服している最中、栞は祐一に手作りチョコを渡した。
「ありがとうな、栞。俺、てっきりもらえないんじゃないかって…」
「そんなことないですよー」
「ああ」
栞も祐一も、とても幸せそうな笑みをうかべ、その日別れるまでの短い時間を楽しんだ。
「きーーーーっ!この泥棒ネコッッ!大地様から離れなさい!!」
「やーだね、だーれが離れるもんか、なーー、大地ぃ〜」
「だーーっ、くっつくなよアエコ!」
「まーたリョウカお姉さまたちやってるよ〜」
雨戸も締め切り、電気もついていない栞の部屋の中で、煌々と光を漏らすテレビの中では
栞の大好きなドラマが流れていた。
二人のメインヒロインに、その他多数のサブヒロインたち。
彼女たちが、本人の気持ちは無視しながら男を奪い合うというドラマだ。
サブヒロインの一人はメインヒロイン以上に人気が高く、
彼女を主人公にしたメディアミックス作品(全26話)まででた、有名なドラマ。
いずれにせよ、先月からCSで再放送がはじまり、栞はそれを楽しみにしていた。 祐一と別れ、遅い夕食をとった後、部屋にこもった栞はそれを半分眠りながら眺めていたが、
突如、激しい痛みに襲われた。
「ゲホッ!ガハッゲォッッ!ゴッゴッ!!」
そして、激しい咳と嘔吐。
ベッドのうえで四つんばいになりながら痛みに堪える栞。
膿、痰、唾液、胃の内容物、そして血液のまじった汁がシーツのうえに広がった。
「ぎぎぎ……」
ドチャッ!とその吐しゃ物の水溜りに顔から斃れこんだ栞。
鼻の穴から胃酸臭い汁が入り込んできた。
(私…やっぱり、もう…)
そう、栞は昨年の秋から例の病を再発していた。
2年前の回復が医学的・科学的に原因不明ならば、再発も同様であった。
日に日にやせ衰える身体。
アイスクリームやジャンボピザなどを無理して摂取し、必死になってそれを隠そうとした栞。
実際、祐一は再発のことは気が付いていなかったし、栞も再発について祐一に知らせようとはしなかった。
何故ならば。
認めたくなかったからである。例の病が再発し、自分を死が蝕んでいることを。
しかし、もはやそれも限界であった。
2月に入ってから、毎晩のように栞は激痛と吐き気、そして吐血に苦しんでいた。
両親の入院の薦めも断った。
これもまた、現実逃避の一環であった。
しかし、しかし。 (痛いよ…お姉ちゃん…。楽になりたいよ…)
顔に血と膿のまじったゲロをこびりつかせながら、栞は香里の遺影に顔を向けた。
ベッドの上で全裸で、うつ伏せになりながら。
(お姉ちゃん…私、来年も再来年も祐一さんにチョコ渡したいよ…)
美坂香里は昨年の8月20日、海水浴中に謎の水死を遂げていた。
(でも、こんなんじゃだめだよ、もうだめだよ…)
栞はズダッ!とベッドの上から転がり落ち、ずるずると香里の遺影のほうへと這った。
吐瀉物でぬめった手で遺影を掴み、バダッとカーペットのうえに斃れこんだ。
そして、めそめそと泣き始めた。もちろん全裸で。
(お姉ちゃん、お姉ちゃん…)
「…が私に…」
(…え)
ヒロインの台詞がテレビから流れてきた。 「笑顔が私に元気をくれる!」
(!!)
そう、2年前。
リストカットを思いとどまらせた祐一とあゆの笑顔。
ヒロインの台詞。
それが、再放送で流れていた。CATVの日本ドラマ専門チャンネルで。
(……)
ふと、抱きしめていた香里の遺影を眺めた栞。
香里は笑っていた。笑顔でいた。
2年前の、祐一とあゆの笑顔のように。
(そうだね…私、なにしてるんだろうね…祐一さんの笑顔、もっと、見ていたいよね)
その控えめな胸をぷるぷると震わせながらよろよろと起き上がり、栞はとりあえず
痛みが引いたことを確認し、のろのろと服を着た。
(だから…うん、だから…)
そして、明日からさっそく入院と本格的な治療の手続きをしよう、と親の伝えに部屋をでた。
(手遅れかもしれないけど…最後まで笑顔で頑張りたいよね…)
階段を下りる栞の顔は真っ青であったが、同時に強烈なまでの笑みに彩られていた。
そう、生きる覚悟を決めた戦士の笑顔に。
本来、牙を剥くという攻撃的な行為である笑顔に! 同時刻―
「今日は遅かったですね、祐一さん」
「ええ、栞と遊んだんで…」
「そうだったんですか。それはよかったですね」
秋子は祐一の股間をシャワーで流しながら微笑んだ。
祐一も、射精したばかりの感覚をむず痒いと感じながらも微笑み返した。
「ということは、チョコをもらったんですね、栞ちゃんから」
「ええ、手作りのミルクチョコらしいんですよ」
「まあ。名雪もミルクチョコだったんですよね?」
「ええ、今朝もらったんですけど、なんか流行ってるんですかね、ミルクチョコ。
なんか、舞やあゆや佐佑理さんからもらったチョコもみんなミルク系なんですよ」
「あらあら、祐一さん相変わらずモテモテですね。いいんですか?こんなところに来て」
「へへっ、やっぱりテクニックは本職の秋子さんじゃないとダメですよ」
「うふふ、でも、お小遣い足りてるんですか?」
「まあ、それはなんとかー。『赤なまこ』通いは俺のライフワークということで」
身体を流してもらい終えた祐一は、ぶるんっ!と自慢のイチモツを振るわせながら、
ソープランドの個室の鏡に映る自分の顔をみた。
それは、まぎれもなく、幸せにほころぶ笑顔であった。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています